東京高等裁判所 平成21年(行コ)209号 判決 2009年10月29日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 東京入国管理局主任審査官が平成20年10月8日付けでした,控訴人に係る仮放免不許可処分を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,大韓民国(以下「韓国」という。)の国籍を有する外国人の女性であり,収容令書及び退去強制令書の執行を受けて東京入国管理局(以下「東京入管」という。)収容場に収容された控訴人について,その夫が仮放免許可申請をしたところ,東京入管主任審査官から平成20年10月8日付けでこれを不許可とする処分(以下「本件処分」という。)がされたため,これを不服とする控訴人(なお,本件処分後に入国者収容所東日本入国管理センター(以下「東日本センター」という。)に移収された。)が,被控訴人に対し,本件処分の取消しを求める事案である。
原審は,仮放免の請求に対する許否についての主任審査官等の判断が違法とされるのは,主任審査官等がその裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した場合に限られ,控訴人主張に係る各事実は,退去強制令書の発付を受けて収容されている者である控訴人に係る仮放免を許可すべき根拠となり難いものであり,その他控訴人に人道的配慮を要する等の特段の事情があると認めることはできないとして,本件処分に係る東京入管主任審査官の判断に,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるということはできないから,本件処分は適法であるとした。
控訴人はこれを不服として控訴した。なお,控訴人は,当審において,行政事件訴訟法19条,38条に基づき訴えの追加的変更を申し立て,東京入管主任審査官が平成20年10月1日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分が無効であることの確認,東京入管主任審査官が平成20年9月30日付けで控訴人に対してした異議の申出に理由がないとの裁決が無効であることの確認,及び東京入国管理局長が控訴人に対し在留資格を「日本人の配偶者等」とし在留期間を3年とする内容の在留特別許可をすることをそれぞれ求め,これらの関連請求に係る訴えの併合を求めたが,被控訴人がこれに同意しなかったため,控訴人が併合を求めた同訴えの部分は,同法19条1項,16条2項により当審における管轄を欠くに至った。そこで,控訴人は,これらの追加した訴えを東京地方裁判所に移送することを申し立て,同訴えは,同申立てのとおり移送された。
2 前提事実(証拠等により容易に認めることのできる事実であり,括弧内に認定根拠を付記している。)
原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1(同2頁18行目から同5頁6行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,同5頁3行目から同頁4行目にかけての「処分(以下「本件処分」という。)」を「本件処分」に改める。
3 争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
次のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2(同5頁7行目から同6頁3行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
憲法31条の規律は入管法上の収容にも及び,身体の自由の制限は憲法上許容されている限度でのみ可能であって,入管法による身体の自由の制限は必要最小限度にとどめるよう解釈,運用しなければならず,身柄を確保することは,その実質的な必要性がある場合に限定されるべきである。控訴人は,日本人との間で婚姻関係を結び,当該日本人配偶者との間で共同生活の基盤を構築しているのであるから,身柄を確保する実質的な必要性は認められないというべきであり,この趣旨は入管法54条の仮放免の手続にも同様に及ぶものというべきであるから,主任審査官が,入管法54条の仮放免の許可を判断するに際しては,身柄を確保する実質的な必要性を考慮する義務があり,広汎な裁量権は認められないというべきである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり当審における控訴人の補充主張について付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1及び2(同6頁5行目から同9頁9行目まで)において説示するとおりであるから,これを引用する。
控訴人は,当審において,憲法31条の規律が入管法上の収容にも及ぶため,入管法によって身柄を確保するには,その実質的な必要性がある場合に限定されるべきである等と主張する。しかしながら,憲法上,外国人が本邦に入国することについては何ら規定しておらず,国際慣習法上も,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付与するかを,当該国家が自由に決定することができるものとされていることに照らせば,憲法上,外国人は,本邦に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利を保障されているものでもないと解される。
入管法による身柄の確保は,上記のように解される憲法の下で,入管法が外国人の入国及び在留管理の基本となる制度として在留資格制度を採用した上で,外国人の本邦において行う活動が,在留資格に対応して定められる活動のいずれかに該当しない限りは,入国及び在留を認めないこととしていることに基づくものであって,国家が,在留資格に反した活動をし自国にとって好ましくないと認める外国人を,強制力をもって国外に排除する退去強制手続を行うに当たっては,前記判示のとおり身柄を収容して行うことが原則であり,身柄を確保することはその実質的な必要性がある場合に限定されるべきであるとする控訴人の主張は,採用することができない。
また,仮放免制度は,特段の事情が存する場合に,一定の条件を付した上で一時的に身柄の解放を認める例外的な制度であって,入管法の規定上,具体的な判断基準等の定めがないことを考慮すると,仮放免の請求に対する許否の判断が,主任審査官等の広範な裁量にゆだねられていることは前記判示のとおりであって,身柄を確保する実質的な必要性がなければ仮放免を許可する義務が主任審査官等にあるとは認められないというべきである。
よって,控訴人の当審における補充主張は採用することができない。
2 以上によれば,控訴人の本件請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷禎男 裁判官 相澤哲 裁判官 吉村真幸)