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東京高等裁判所 平成21年(行タ)5号 決定 2009年2月06日

本案・当庁 平成21年(行ノ)第6号

主文

東京都新宿区建築主事がA株式会社及び株式会社Bに対して平成18年7月31日付けでした建築確認処分(新都建(確)第×号)の効力は,本案上告受理申立て事件の裁判があるまで,これを停止する。

理由

1  申立ての趣旨及び理由

申立人らの申立ての趣旨及び理由は別紙1記載のとおりである(なお,建築確認において処分の執行は観念できないから,申立人らは建築確認処分の効力の停止を求めるものと理解される。)。要するに,申立人らは,当裁判所で東京都新宿区建築主事がA株式会社及び株式会社Bに対して平成18年7月31日付けでした別紙1の物件目録記載の建築物(以下「本件建築物」という。)に係る建築確認処分(以下「本件処分」という。)を取り消すとの判決が言い渡されたが,本件建築物が完成すると本件処分の取消しを求める訴えの利益がなくなるから,本件処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるというものである。

2  相手方の意見

相手方の意見は別紙2記載のとおりであり,本件処分により申立人らが重大な損害を被るおそれはないというものである。

3  当裁判所の判断

(1)  申立人らは,平成19年5月26日,本件処分等の取消しを求める訴えを東京地方裁判所に提起したところ,平成20年4月18日,同裁判所は申立人らの請求を棄却する旨の判決をした。これに対し,申立人らが控訴し,平成21年1月14日,当裁判所は,原判決を取り消すとともに,本件処分を取り消す旨の判決をした。これに対し,相手方は同月27日に上告受理の申立てをしたが,訴訟記録はなお当裁判所に存する。

(2)  一件記録によれば,以下の事実が一応認められる。

ア  本件建築物と申立人らの居住地及び申立人C所有に係る「α」との位置関係は別紙図面のとおりである。したがって,申立人らは,火災その他の災害時に,本件建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される。

イ  本件建築物の建築工事は,平成19年4月ころ着工され,現在は仕上工事がされており,平成21年4月末に完了検査,同年5月末に引渡しが予定され,完了間近の段階にある。

(3)ア  上記(2)アによると,申立人らは,本件処分の取消しを求める原告適格を有するから,本件処分の効力の停止を求める申立人適格を有するというべきである。

イ(ア)  上記(2)アによると,このまま建築工事が続行され,本件建築物が完成すると,本件建築物の倒壊,炎上等により,申立人らはその生命又は財産等に重大な損害を被るおそれがあるということができる。

しかも,上記(2)イによれば,本件建築物の建築等の工事は完了間近であるところ,本件建築物の建築等の工事が完了すると,本件処分の取消しを求める訴えの利益は失われるのである(最高裁昭和59年10月26日第二小法廷判決・民集38巻10号1169頁参照)。そうすると,上告審において本件処分の取消しを求める訴えは不適法なものとして却下されることになって,申立人らにおいて建築確認に係る本件建築物の倒壊,炎上等により損害を被ることを防止することができなくなる(他の手段,例えば民事訴訟により建築続行禁止の仮処分を求めることなども考えられないではないが,認容されるための要件が異なるのであり,建築確認取消訴訟と同じように損害の防止を図ることが可能であるとは必ずしもいえないものである。)。このような事態は,法が,申立人らに対し,建築確認取消訴訟の原告適格を認め,同人らが当該建築確認に係る建築物により損害を被ることを防止する手段を与えていることと実質的に適合しない結果をもたらすものである。

(イ)  このような点を斟酌すると,申立人らは,本件処分により生ずる重大な損害(本件処分に係る本件建築物の倒壊,炎上等による自己の生命,財産等の侵害)を避けるため,本件処分の効力を停止する緊急の必要があると解するのが相当である。

ウ  上記(1)によると,本件申立てが本案について理由がないとみえるときに該当しないことは明らかである。

4  結論

以上によれば,本件申立ては理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大坪丘 裁判官 宇田川基 裁判官 足立哲)

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