東京高等裁判所 平成22年(ネ)5176号 判決 2011年12月20日
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別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原判決主文第3,第4項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,被控訴人に対し,397万5087円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,12万9130円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人の付加金に関するその余の請求を棄却する。
2 控訴人のその余の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決の第1項(1)及び(2)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 前項の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人は,控訴人に対し,2943万8725円及びこれに対する平成20年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,本訴において,控訴人(第1審被告・反訴原告)の従業員であった被控訴人(第1審原告・反訴被告)が,控訴人に対し,① 平成17年6月から平成19年1月までの1年8か月の期間(以下「本件期間」という。)の割増賃金合計1401万7060円及びこれに対する平成19年1月27日(解雇の日の翌日)から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律に基づく年14.6パーセントの割合による遅延損害金,② 解雇予告手当52万5419円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金,③ 前記割増賃金額と同額の労働基準法114条1項の付加金1401万7060円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセント割合による遅延損害金,④ 前記解雇予告手当額と同額の労働基準法114条1項の付加金52万5419円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払を求め,反訴において,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人が就業規則に定められた機密情報遵守義務等に違反して,控訴人の顧問先18名との顧問契約を破棄させて,顧問先を奪ったなどと主張して,年間顧問料合計740万6045円の5年分に相当する損害3703万0225円及びこれに対する平成20年11月12日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,本訴について,① 本件期間の割増賃金合計1325万0293円及び平成17年6月分から平成18年12月分までの割増賃金1249万5088円に対する平成19年1月27日(解雇の日の翌日)から,平成19年1月分の割増賃金75万5205円に対する同年2月16日から各支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律に基づく年14.6パーセントの割合による遅延損害金,② 解雇予告手当43万0435円及びこれに対する同年1月27日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金,③ 前記割増賃金額と同額の労働基準法114条1項の付加金1325万0293円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセント割合による遅延損害金,④ 前記解雇予告手当額と同額の労働基準法114条1項の付加金43万0435円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払を求める限度で被控訴人の請求を認容し,反訴について,控訴人の請求を棄却した。
そこで,控訴人は,原判決中控訴人敗訴部分を不服として控訴した。なお,控訴人は,当審において,反訴請求を,顧問先15名に係る年間顧問料合計588万7745円の5年分に相当する損害2943万8725円及びこれに対する遅延損害金の支払請求に減縮した。
2 前提事実並びに争点及び当事者の主張の要旨
前提事実並びに争点及び当事者の主張の要旨は,次に付加訂正するほか,原判決の「第2 事案の概要」の2ないし4(4頁6行目から25頁1行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 5頁7・8行目の「51件」を「47件,同年8月には62件,同年12月には69件」に,8行目の「増加した。」を「増加し,その後,同年4月に82件,同年7月に74件,同年9月に72件,同年10月に76件と推移した証拠<省略>。」にそれぞれ改め,9行目の「比して,」の次に「件数にして」を加え,21行目の「240件」を「237件」に改める。
(2) 6頁8行目の「同じく,」の次に「肩書のついた」を,8・9行目の「用いていた。」の次に「被控訴人のほか,色つきの名刺を用いていた従業員はいない。」をそれぞれ加える。
(3) 6頁11行目の「また,」を削り,同行目の「従業員は,」の次に「これに打刻するとともに,」を加え,16行目の「記載」を「打刻や手書き」に改める。
(4) 6頁21行目,7頁8行目の各「別紙」を「原判決別紙」に,5行目の「1万円」を「1万」に,14行目の「一部」を「基本給が34万5263円に」にそれぞれ改める。
(5) 8頁9行目の「付け」を「付」に改め,9頁11行目の「社員」の次に「など」を加え,17行目の「」」を,25・26行目の「1時間当たりの算定の基礎額について」をそれぞれ削り,10頁3行目の「法定休日」の次に「出勤」を加え,16行目の「各号に」を「各号の」に改め,19行目の「手当」を削り,12頁10行目の「私的な」を「私的に」に改める。
(6) 12頁14行目の「別紙」を「原判決別紙」に改める。
(7) 12頁18行目の「行為」の次に「等」を,19行目,13頁8行目の各「税理士」の次に「事務所」をそれぞれ加え,4・5行目の「代理」を「代行」に改め,24行目の「同税理士が,」を削り,26行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「エ A代表とB税理士との間において,平成22年5月7日,要旨下記のとおりの内容の調停が成立した。
記
(ア) B税理士は,平成19年に被控訴人が控訴人を退職後,被控訴人が控訴人において担当していた顧客のその後の税務申告等の代行を依頼され,法人(12社)及び個人(3名)について申告代行をしたことを認め,当該行為が東京税理士会紀律規則取扱細則14条4項をはじめとする諸規則に抵触していたことを認め,控訴人に謝罪する。
(イ) B税理士は控訴人に対し本事案に関する和解金として234万1500円を平成22年5月末日限り控訴人代理人名義の普通預金口座に払い込む。」
(8) 15頁16行目の「別表」を「原判決別表」に,15頁21行目の「ある」を「されている」に,16頁5行目の「場合」を「とき」にそれぞれ改め,17頁10行目の「主張」の次に「する時間外労働」を,18頁2行目の「部下で」の次に「あった」をそれぞれ加え,15行目の「とある」を「にある」に改め,22行目の「しない」の次に「。」を,19頁6行目の「ほとんど」の次に「で」をそれぞれ加え,15行目の「出張」を「訪問」に,20頁25行目,26行目,21頁1行目,2行目の各「被告代表社員」を「A代表」に,22頁5行目の「担当数」を「担当件数」に,9行目の「量的な著しく加重労働」を「量的に著しく過重な労働」にそれぞれ改める。
(9) 23頁7・8行目の「合計),」を「合計)」に改める。
(10) 23頁17行目,24行目の各「別紙」を「原判決別紙」に,25行目の「(少なくとも」を「のうち」に,24頁1行目の「3年分の1766万3235円」を「5年分の2943万8725円」にそれぞれ改め,同行目の「)」を,19行目の「ものに」をそれぞれ削る。
第3当裁判所の判断
1 本訴について
当裁判所も,被控訴人の本訴請求は,割増賃金及び解雇予告手当については原判決の認容した限度で,割増賃金に係る付加金については397万5087円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める限度で,解雇予告手当に係る付加金については12万9130円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は,以下に付加訂正するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」の「【本訴について】」(25頁4行目から42頁23行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 25頁16行目の「27条は」から18行目の「できる。」までを「57条は,懲戒解雇の場合は,即時解雇し,所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは予告手当を支給しないと述べているにとどまり,所轄労働基準監督署長の除外認定を受けていないときの解雇予告手当の支給の有無については触れていない。」に,19行目の「解雇の」から26頁3行目の「なる。」までを「懲戒解雇の場合に,所轄労働基準監督署長の除外認定を受けたときは解雇予告手当を支給しない旨を定めているものであり,所轄労働基準監督署長の除外認定を受けていないときに解雇予告手当を支給する旨を定めているとまではいうことができないが,労働基準法20条3項,19条2項によれば,懲戒解雇の場合に,所轄労働基準監督署長の除外認定を受けない限り,同法20条1項ただし書の適用がなく,解雇予告手当を支給する必要があり,本件就業規則も,懲戒解雇の場合で,所轄労働基準監督署長の除外認定を受けていないときに,解雇予告手当を支給することを排除しているものとは解されない。」にそれぞれ改め,11行目の「持っていた」の次に「(平成20年1月7日付準備書面(1)4頁参照)」を,16行目の「予告手当」の次に「の支給」をそれぞれ加える。
(2) 27頁16行目の「被告」から19行目末尾までを「被控訴人の本件期間中の出退勤時刻に関しては,使用者が設置した機器によって打刻されたタイムカード(証拠<省略>)が存在するところ,証拠(証拠<省略>)によれば,上記のタイムカードは,被控訴人の提案を受けて,A代表が設置したものであり,これによりパート従業員の労働時間の管理をしていること,A代表は,タイムカード利用の対象者をパート従業員に限定していなかったことが,それぞれ認められ,本件においては,控訴人からも,上記のタイムカード以上に被控訴人の本件期間中の出退勤時刻を正確に記録した客観的な資料は提出されていない。」に,28頁4行目の「したがって」から5行目の「原告は」までを「また,被控訴人は,本件において」に,9行目の「祭日」を「祝日」にそれぞれ改め,11行目の「ものであって」から12行目の「である」までを削り,同行目末尾の次に行を改めて「これらのことを併せ考えると,被控訴人の本件期間中の時間外労働の事実は,上記のタイムカードの記載に従って出退勤時刻を認定するのが相当であるというべきである。」を加え,13行目の「期間において」の次に「最大」をそれぞれ加え,14・15行目の「当事者間に争いがなく」を「前記前提事実のとおりであり」に改め,16行目の「おいても,」の次に「「特に,平成13年4月からは,それまでの一人当たりの受忍件数の基準として通常時間内で処理しうると判断していた20件を超えて27件を原告に担当してもらうという状況になったところで,給与の水準を上げた。」,」を,18行目の「準備書面(1)」の次に「3頁」をそれぞれ加え,29頁16行目の「も指摘できる」を「がある」に,30頁3行目の「つけて」を「付けて」に,7行目の「探して」を「探がして」に,31頁11行目の「当法廷で」を「原審における代表者尋問において」に,16行目の「当」を「原審」にそれぞれ改め,19行目の「否めない」の次に「し,A代表は,原審における代表者尋問(17頁)において,職員執務日誌を見てすべて判断して,オペレーティングしている旨供述していることからすれば,A代表は,被控訴人の職員執務日誌により,被控訴人の休日労働や深夜労働について把握しており,これらを容認していたものと認めるのが相当である」を,33頁5行目の「原告は,」の次に「本件期間中,」をそれぞれ加え,8行目の「本件期間中」を削り,12行目の「比較的小規模な会計事務所である被告において」を「控訴人の従業員は,平成17年9月で正社員11名,パート従業員6名であり(証拠<省略>)」に,20行目の「別表」を「原判決別表」にそれぞれ改め,22行目の「説明する。」の次に「なお,控訴人は,時間外労働は各労働日ごとの実労働時間を基礎に算定されるもので,被控訴人のように不規則な働き方をする者について,労働時間に争いがあれば,各労働日ごとに逐一実態等により実労働時間を認定すべきであり,包括的な認定は許されないと主張するが,先に判示したとおり,タイムカードは機械によって打刻されるものであって,客観的なものということができるから,本件期間中の各労働日における労働時間については,特段の事情の存在が窺われない限り,タイムカードによって確定するのが相当であって,これをもって包括的な認定であるということはできない。」を加え,34頁12行目の「ものと」を削り,20行目,35頁24行目,36頁10行目,15行目,23行目の各「別表」を「原判決別表」にそれぞれ改める。
(3) 37頁18行目の「証拠・人証<省略>」の次に「原審における」を加え,19行目,20行目,38頁3行目の各「管理部長」を「監査部長」に,37頁21・22行目の「被告へへ」を「控訴人へ」に,38頁11行目の「被告」を「A代表」にそれぞれ改め,17行目の「証拠<省略>」の次に「原審における」を加え,18行目,19行目の「各別紙」を「原判決別紙」に,21・22行目の「関係をを」を「関係を」に,23行目の「よるものであって」を「よると考えるのが相当であって,被控訴人が管理監督者になったこと,すなわち,」に,24行目の「ではあと」を「であると」にそれぞれ改める。
(4) 40頁14・15行目,16行目,26行目(2か所),41頁3行目,25行目の各「別表」を「原判決別表」に,22行目,24行目の各「祭日」を「祝日」にそれぞれ改める。
(5) 42頁5行目の「あって,」の次に「労働基準法20条の規定に違反するものであるが,」を加え,同行目の「照らしても」を「加えて,後記反訴について判示した事情を考えると」に,6行目の「の支払いを免れることはできないと解する」を「として,被控訴人の解雇予告手当43万0435円の3割に相当する12万9130円(円未満切捨て)の支払を命ずる」にそれぞれ改め,8行目を削り,13行目の「則した」を「従った」に改め,15行目の「申請の」の次に「原審」を加え,18行目の「このように」から19行目の「こと等の」を「他方,被控訴人は,日々の職務処理のための勤務時間については,A代表から具体的な指示を受けることなく,専ら自らの判断で処理していたものであること,本件期間中,前記認定の時間外労働に従事してきたにもかかわらず,A代表に苦情を述べたり,時間外労働に対する割増賃金の支払を求めたことはなく,本件訴えにおいて初めてこれを請求したこと,控訴人は,前記の前提事実のとおり,平成16年3月,4月,11月,平成17年1月及び平成18年8月には,時間外労働が予想されたことから,自ら時間外手当を支払っていたこと,控訴人は,平成12年10月から,被控訴人に対し,管理者手当の名目で毎月2万ないし4万円を支払っていたこと等の事実が認められる。これらの」に改め,20・21行目の「の支払いを免れることはできないと解する」を「として,被控訴人の時間外労働に対する割増賃金1325万0293円の3割に相当する397万5087円(円未満切捨て)の支払を命ずる」に改め,22・23行目を削る。
2 反訴について
当裁判所も,控訴人の反訴請求は理由がないと判断する。その理由は,以下に付加訂正するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」の「【反訴について】」(42頁25行目から44頁7行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,43頁3行目の「当法廷」を「原審」に改め,11行目の「証拠<省略>」の次に「,31ないし34」を,44頁4行目の「原告が」の次に「控訴人の顧問先に働きかけて控訴人との契約を解約させるなど,」を,5行目の「帰する」の次に「(なお,控訴人は,被控訴人が控訴人の顧問先の引抜きを図ったとして,証拠<省略>を提出する。これによると,控訴人の顧問先であったa建築測量の経理を担当しているCは,被控訴人が控訴人を辞めて2,3日経った後に,控訴人から,「会計に関することはこれからすべて自分がやるので,自分の生活のためにも自分を使ってくれないか。毎日はこられないので,週3日で18万円くらいでどうか」という話を受けたというのであるが,被控訴人は,これを否定する陳述をしているし(証拠<省略>,当審における供述),仮に被控訴人が上記のような話をしたものであるとしても,これは被控訴人が自分を雇用するよう申し入れたにとどまるものであって,これをもって控訴人との契約の解約を働きかけたとの事実を認めることはできない。)」をそれぞれ加える。
3 以上によれば,被控訴人の本訴請求は,本件期間の割増賃金合計1325万0293円及びうち平成17年6月分から平成18年12月分までの割増賃金1249万5088円に対する平成19年1月27日(解雇の日の翌日)から,平成19年1月分の割増賃金75万5205円に対する同年2月16日から各支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律に基づく年14.6パーセントの割合による遅延損害金,解雇予告手当43万0435円及びこれに対する同年1月27日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金,前記割増賃金額の3割に相当する労働基準法114条1項の付加金397万5087円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金並びに前記解雇予告手当額の3割に相当する労働基準法114条1項の付加金12万9130円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,控訴人の反訴請求は理由がない。
4 よって,原判決は上記と異なる限度で失当であるから,原判決主文第3,第4項を主文第1項のとおり変更し,控訴人のその余の控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 髙野輝久 裁判官 齊木利夫)
(別紙)
当事者目録
控訴人 税理士法人Y会計事務所
同代表者代表社員 A
同訴訟代理人弁護士 渡邉彰悟
同 外井浩志
同 新弘江
同 藤原宇基
被控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 大治右