東京高等裁判所 平成22年(ネ)7003号 判決 2011年6月22日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人らが,被控訴人との間で,それぞれ労働契約上の地位を有することを確認する。
3 被控訴人は,控訴人Aに対し,次の金員を支払え。
(1) 47万2512円及びこれに対する平成21年3月21日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 平成21年4月から,毎月20日限り,各23万6256円
4 被控訴人は,控訴人Bに対し,次の金員を支払え。
(1) 64万7534円及びこれに対する平成21年3月21日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 平成21年4月から,毎月20日限り,各32万3767円
5 被控訴人は,控訴人Cに対し,次の金員を支払え。
(1) 24万3430円及びこれに対する平成21年3月21日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 平成21年4月から,毎月20日限り,各24万3430円
6 被控訴人は,控訴人Dに対し,次の金員を支払え。
(1) 28万9300円及びこれに対する平成21年3月21日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 平成21年4月から,毎月20日限り,各28万9300円
第2事案の概要
1 本件は,控訴人らが,トラック等の製造販売会社である被控訴人に期間従業員として雇用されていたところ,平成20年12月から平成21年1月の間に雇用期間満了をもって契約終了とされ,雇用契約が更新されなかったことについて,同雇止めが無効であると主張して,被控訴人に対し,被控訴人との間の雇用関係の確認並びに雇止め以降の各月の給料の支払及びうち平成21年3月分までの給料につき支払期限の後の日である平成21年3月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却し,控訴人らは,これを不服として控訴した。
2 事案の概要の詳細は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の2ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁2行目の「争いのない事実等」を「前提事実(争いのない事実及び文末掲記の証拠により認定できる事実)」と改め,以下,原判決引用部分中の「争いのない事実等」をいずれも「前提事実」と改める。
(2) 同9頁9行目の「「期間従業員雇用契約書」」の次に「(甲6の6,甲9の6,甲12,甲14の2)」を加える。
(3) 同9頁18行目の「(ア)」の次に「被控訴人においては,期間従業員は生産量に応じて変動する要員需給に対応するための従業員であり,」を加える。
(4) 同11頁3行目の「製造」を「生産」と改める。
(5) 同12頁18行目の「これは」を「平成11年度から平成14年度にかけてはトラック需要が低迷した時期であり,上記雇止めは」と改める。
(6) 同13頁10行目の「4640台,5128台」を「7147台から4640台へ,7693台から5128台へ」と改める。
(7) 同13頁17行目の「更なる下方修正を行った。」を「なった。」と改める。
(8) 同14頁20行目の「減産」を「減少」と改める。
第3当裁判所の判断
1 控訴人らと被控訴人の間の期間雇用契約は,実質的に期間の定めのない契約又は雇用期間を2年11か月とする契約であったか
当裁判所も,控訴人らと被控訴人の間の期間雇用契約が実質的に期間の定めのない契約又は雇用期間を2年11か月とする契約であったと認めることはできないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決31頁21行目冒頭から同35頁24行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決32頁8行目の「そのとおりであるが,」の次に「期間従業員は,基本的に,物の生産を行っている部署に配属され,施設管理課,技術課・設備課,品質課など直接的な物の生産でない部署や専門スキルが必要な部署への配属はほとんどなく,生産過程の一部のラインを担当するのに対し,正社員は,担当する課のライン全体について一通りの作業ができ,そこで生産に必要な設備・治具の不具合等が起きたときにこれに対応できる役割を負っていることは前判示のとおりであるから,」を加える。
(2) 同32頁20行目末尾に「上記5年以上採用されていない期間は,前判示の被控訴人の経営状況を理由として期間従業員の雇止め及び採用停止がなされていた期間に対応している。」を加える。
(3) 同33頁26行目から同34頁1行目の「の内容」を「には,「契約更新の可能性あり」と記載した上,括弧書きで,「契約期間満了時の業務量,勤務態度,会社の経営状況等により,更新の有無を判断する。」と契約更新の可能性の内容を説明する記載があること」と,同頁2・3行目の「不況等の事情の変化がない限り」を「不況等による生産計画の変更に伴う要員計画の変更がない限り」とそれぞれ改める。
(4) 同34頁11行目の「(3)」の次に「(被控訴人日野工場における期間従業員の契約形態)」を,同行の「(4)」の次に「(被控訴人日野工場における期間従業員の勤務実態)」をそれぞれ加え,同頁12行目冒頭から同頁16行目末尾までを「被控訴人日野工場の期間従業員における契約更新についての意識は,職務能力や職務態度に問題がないことに加え,不況等による生産計画の変更に伴う要員計画の変更がない場合には,契約更新により2年11か月の雇用が保障されるという内容にとどまるものであったと認められ,職務能力や職務態度に問題がない限りは不況等による生産計画の変更に伴う要員計画の変更があったとしてもなお2年11か月の雇用が保障されるとの意識まで被控訴人日野工場の期間従業員の間に存在したと認めるに足りる証拠はない。」と改める。
(5) 同34頁21行目の「証人E(第1回,第2回)」の次に「,証人F(原審)」を加え,同35頁2行目の「期間従業員の常態となっている」を「被控訴人日野工場の期間従業員が前判示の内容で保障されていると意識していた」と改める。
(6) 同35頁7行目の「答えた」から同頁14行目末尾までを次のとおり改める。
「答えたとし,同発言は,不況等による生産計画の変更に伴う要員計画の変更があったとしてもなお2年11か月の雇用を保障する趣旨の発言であるとして,同発言が控訴人Bに対し通常の期間従業員よりも有利な雇用期間の保障を与える趣旨を含む旨主張するようであり,証人G(原審)の証言中には,これに沿うかのような部分がある。
しかしながら,証人F(原審)は,上記発言につき,被控訴人における期間従業員の雇用期間が仕事があればという前提で更新及び再赴任の手続を経ることにより最長2年11か月になることを説明したにとどまるものであり,控訴人Bについて雇用期間を2年11か月にするとの約束をしたものではない旨証言しているところ,控訴人らの主張する事実は,被控訴人と組合支部にとって重要な事項であるが,被控訴人との間でこの合意内容をうかがわせる記載のある書面が作成されていない上,この交渉を経て締結された控訴人Bらと被控訴人間の契約書には,前判示の期間が記載されており,「契約更新の可能性あり」という記載と,括弧書きで,「契約期間満了時の業務量,勤務態度,会社の経営状況等により,更新の有無を判断する。」とする契約更新の可能性の内容を説明する記載までされていたことに照らすと,被控訴人との間で控訴人らの主張する雇用期間の合意がなされたとするには疑問があるといわざるを得ない。
そして,被控訴人は控訴人Bら以外にも多数の者との間で期間従業員としての契約を締結しており,被控訴人が新たに期間従業員として採用する控訴人Bら組合員に対してのみ他の期間従業員より有利な雇用期間を保障するとは通常考え難い上,証人G(原審)が組合支部の公式見解を示したものと証言する乙第26号証には,「8/24に雇用契約」という表題の下に「希望する派遣社員は,9月1日以降はだれでも,現在の期間工と同一の雇用条件(賃金・労働条件や雇用契約期間など)で日野自動車で働くことができるようになるのです。」という記載があること,控訴人Bらが,派遣社員から期間従業員となり,通常の期間従業員と同じ待遇を受けるだけであっても,大幅な待遇改善となり,組合員にとっても組合支部にとっても得るところが大きかったものと認められる上(証人G(原審),証人E(原審第1回),乙26,弁論の全趣旨),この時点では,その後の急激な経済変動を労使とも予想していたとは認められないことも考え併せると,被控訴人が控訴人Bらに対し通常の期間従業員よりも有利な雇用期間の保障を与えなければ,組合支部が被控訴人の提案を承諾することが考えらないような状況にあったとまでは認められない。
以上判示の各点を総合考慮すると,証人Fの上記証言もあながち不合理なものとは認められず,証人Gの上記証言をもって,控訴人らの主張事実を認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。」
(7) 同35頁18行目の「は含んで」から同頁19行目末尾までを「を約束するにとどまるものと認められ,控訴人らの主張するそれ以上の内容を約束したものとまでは認められない。」と改める。
2 雇止めの理由について
当裁判所も,本件雇止めには客観的で合理的な理由があり,雇止めが行われてもやむを得ないものと認められ,本件雇止めにより控訴人らと被控訴人間の雇用契約は終了したものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決35頁26行目冒頭から同38頁23行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決36頁2行目の「不況等の事情の変化がない場合」を「不況等による生産計画の変更に伴う要員計画の変更がない場合」と改める。
(2) 同36頁8行目の「解雇権濫用に当たる」を「解雇が許されないような」と改める。
(3) 同36頁15行目の「世界同時不況等の存在」を「世界同時不況による被控訴人の経営状況の悪化」と改める。
(4) 同36頁16行目冒頭から同頁19行目末尾までを次のとおり改める。
「本件雇止めは,平成20年秋以降の世界同時不況下にあって,国内外の景気の悪化によるトラック需要の大幅減少及びそれによる被控訴人の経営状況の悪化を理由とするものであるところ,本件雇止め当時,被控訴人日野工場においても,大中型トラック需要の急激かつ大幅な減少に伴う生産計画の下方修正,生産実績の減少,業績の低下があったことは前判示のとおりであって,それに伴う要員を大幅に縮小する要員計画の変更もなされたことが認められ,また,このトラック需要の急激かつ大幅な減少が,世界同時不況に伴うものであることに照らすと,被控訴人において,これがいつまで続くのか,更に悪化しないかを的確に予測することができたことを認めるに足りる証拠はない。そして前判示の事実によれば,被控訴人日野工場の期間従業員における雇用継続期待として合理性が認められるのは,職務能力や職務態度に問題がなく,不況等による生産計画の変更に伴う要員計画の変更がない場合には,契約更新により2年11か月の雇用が保障されるとの期待にとどまるものであることが認められる。
以上判示の各点及び前提事実(5)(6)を総合すれば,本件雇止めには客観的で合理的な理由があり,雇止めが行われてもやむを得ないものと認められる。」
(5) 同36頁20行目の「特段の事情の有無」を「その他の事情」と改める。
(6) 同37頁5行目の「弁論の全趣旨」から同頁7行目末尾までを次のとおり改める。
「前判示のとおり,前提事実(5)判示の急激かつ大幅な受注の落ち込みが世界同時不況に伴うものであることに照らすと,被控訴人が,本件雇止め当時,平成21年8月から再び期間従業員を募集できるような受注状態になることを予見できたことを認めるに足りる証拠はない上,平成20年12月までの大中型トラックの受注の大幅な落ち込みと生産計画の下方修正,生産実績の減少,業績の低下,同業他社の事情など前提事実(5)判示の事実も総合考慮すれば,控訴人らの主張は採用することができない。」
(7) 同37頁8行目の「雇止めの必要性の不存在」を「雇止めの必要性」と改める。
(8) 同37頁15行目冒頭から同頁16行目末尾までを次のとおり改める。
「しかしながら,本件雇止め当時,平成20年12月までの大中型トラックの受注の急激かつ大幅な落ち込みと生産計画の下方修正,生産実績の減少,業績の低下が認められる状況の下,被控訴人においてこのような状況がいつまで継続するのか予測できたことを認めるに足りる証拠はなく,その他同業他社の事情など前提事実(5)判示の事実も総合考慮すれば,控訴人らの主張は採用することができない。」
(9) 同37頁17行目の「雇止め回避努力の不十分」を「雇止め回避努力」と改める。
(10) 同38頁1行目の「しかしながら,」の次に「本件雇止め当時,平成20年12月までの大中型トラックの受注の大幅な落ち込みと生産計画の下方修正,生産実績の減少,業績の低下が認められる状況の下,被控訴人においてこのような状況がいつまで継続するのか予測できたことを認めるに足りる証拠はないこと及び」を加える。
(11) 同38頁10行目冒頭から同頁11行目末尾までを次のとおり改める。
「しかしながら,本件雇止め当時,前判示のように,平成20年12月までの大中型トラックの受注の急激かつ大幅な落ち込みがあり,被控訴人において迅速に対処する経営上緊急の必要性があったこと,生産計画の下方修正や生産実績の減少,業績の低下が著しかったなど前提事実(5)判示の当時の状況,これらの状況の下,被控訴人においてこのような状況が更に悪化するか,いつまで継続するのか,費用削減策をいつまで継続する必要があるかを予測できたことを認めるに足りる証拠はないこと,同(6)判示の被控訴人の採った費用削減策の内容,控訴人らは,期間従業員として短期の雇用契約を締結した者であり,その雇用継続への期待の内容も前判示のものにとどまり,被控訴人も,控訴人らを生産量に応じて変動する要員需給に対応するための従業員として,日野工場で生産する大中型トラックの需要動向から上記契約期間を定めて雇用したのに対し,正社員は,定年までの雇用を期待して雇用契約を締結した者であり,被控訴人も,正社員を原則として定年までの雇用を予定して雇用しており,期間従業員である控訴人らと正社員との間には,契約内容や雇用継続の期待に重要な差異があったことを総合考慮すると,被控訴人が控訴人ら期間従業員を雇止めする前に正社員につき希望退職の募集や配転,出向,転籍などの措置を講じなかったことや人件費の削減,原価低減,固定費削減等の費用削減策の実施時期が本件雇止めの後であったことをもって,控訴人らに対する本件雇止めには客観的で合理的な理由があり,雇止めが行われてもやむを得ないものと認められるとの前記認定判断を覆すには足りない。」
(12) 同38頁20行目の「認められる。」を「認められ,上記のような団体交渉の経緯とその内容をもって,控訴人らに対する本件雇止めには客観的で合理的な理由があり,雇止めが行われてもやむを得ないものと認められるとの前記認定判断を覆すには足りない。」と改める。
3 結論
以上によれば,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大竹たかし 裁判官 山﨑まさよ 裁判官 栗原壯太)