大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成22年(行コ)336号 判決 2011年10月20日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  府中市固定資産評価審査委員会が平成21年10月13日付けで控訴人らに対してした審査決定(決定番号第1号)を取り消す。

3  被控訴人は、各控訴人に対し、それぞれ10万円を支払え。

4  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  控訴人らは、控訴人X2所有名義で別紙物件目録記載の専有部分を所有して居住しており、敷地権の目的である土地及び敷地権は同目録記載のとおりである。上記敷地権の目的である土地を構成する別紙課税明細目録記載の各土地(以下「本件審査対象土地」という。)は、都市計画において都市計画法8条1項1号所定の第一種中高層住居専用地域と定められ、指定建ぺい率が60%及び指定容積率が200%の地域内にあるが、都市計画において定められた同法11条1項8号所定の一団地の住宅施設の敷地等であるため、その建ぺい率は20%に、及びその容積率は80%に制限されている。被控訴人は、かねてから、用途地域の上記指定建ぺい率60%及び指定容積率200%を地域要因として取り扱い、本件審査対象土地の固定資産税に係る価格を決定して登録していた。こうして、被控訴人から、控訴人X2に対し、本件審査対象土地について固定資産課税台帳に登録された所在、地番、地目、地積及び平成21年度の固定資産税に係る価格を記載した課税明細書が送付された。控訴人X1は、上記の取り扱いが違法なのではないかと考えるに至り、本件審査対象土地について別紙課税明細目録記載の固定資産課税台帳に登録された基準年度である平成21年度に係る賦課期日における価格について不服があるとして、控訴人X2の代理人の立場において、地方税法432条に基づき、被控訴人代表者兼裁決行政庁である府中市固定資産評価審査委員会(以下「本件委員会」という。)に固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出をした。本件委員会は、平成21年10月13日付けで上記審査の申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。

本件は、控訴人らが、被控訴人に対し、本件決定に不服があるとしてその取消しの訴えを提起するとともに、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料各10万円の支払を求めた事案である。

控訴人X1が控訴人X2の代理人の立場においてした上記の審査の申出の理由は、本件審査対象土地は都市計画において定められた都市計画法11条1項8号所定の「一団地の住宅施設」である共同住宅等の敷地等であり、実際には建ぺい率20%、容積率80%を超える建築物を建てることができないにもかかわらず、府中都市計画が定める用途地域において建ぺい率が60%、容積率が200%とされていることを理由に、固定資産課税台帳に過大な価格が登録されているとして、登録された価格の是正を求めるにあった。本件決定は上記の審査の申出を棄却したので、控訴人らは、これを不服として上記のとおり本件決定の取消しの訴えを提起したが、本件決定の違法事由としては、固定資産課税台帳に登録された価格に関する上記の不服の理由(上記の審査の申出の理由)を明示的、本格的に主張する前に、訴状等では、まず、① 府中市長が提出した弁明書副本以外に必要と認める資料の概要を記載した文書を送付しなかった違法、及び② 審査決定に調査した公文書等が添付されていなかった違法を取り上げて主張した。原審は、固定資産課税台帳に登録された価格に関する上記の不服の理由を争点として顕在化させることがないまま、第2回口頭弁論期日において弁論を終結し、上記①の取消請求に係る訴えのうち控訴人X1に係る部分を却下し、控訴人X2の請求を棄却し、上記②の国家賠償請求については控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らは、これを不服として本件控訴をした。控訴人らは、当審において、本件決定の違法事由として、固定資産課税台帳に登録された価格に関する上記の不服の理由を明示的に主張し、これを理由に、本件審査対象土地について固定資産課税台帳に登録された基準年度である平成21年度に係る賦課期日における価格は客観的な交換価値を上回り違法である旨主張し、その趣旨を明確にした。

2  前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等は、その旨付記した。その余の事実は、当事者間に争いがない。)

(1)  控訴人らは、控訴人X2所有名義で別紙物件目録記載の専有部分を所有して居住しており、敷地権の目的である土地及び敷地権は同目録記載のとおりである。(甲1、14)

(2)  本件審査対象土地を含む一帯の土地は、a団地の敷地等であり、府中都市計画において都市計画法8条1項1号所定の第一種中高層住居専用地域と定められている。この地域の指定建ぺい率は60%、指定容積率は200%である。a団地は、府中都市計画において定められた同法11条1項8号所定の「一団地の住宅施設」である。本件審査対象土地は、上記のとおりa団地の共同住宅等の敷地であり、敷地面積に対する建築密度は、建ぺい率が20%に、容積率が80%に制限されている。(甲6~8、13、乙6、7)

(3)  被控訴人は、平成21年4月1日ころ、控訴人X2に対し、本件審査対象土地について固定資産課税台帳に登録された所在、地番、地目、地積及び平成21年度の固定資産税に係る価格を記載した課税明細書(「固定資産課税明細書(21年度)府中市」と題する文書)を送付した。本件審査対象土地の平成21年度の固定資産税に係る価格は、別紙課税明細目録に記載したとおりであり、16万4560円/m2である。(甲2、弁論の全趣旨)

(4)  控訴人X1は、平成21年7月2日ころ、「審査申出人氏名」欄に「X1(所有名義X2)」と記載するなどした同日付けの審査申出書(以下「本件審査申出書」という。)を提出し、本件委員会に平成21年度の固定資産税の固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出(以下「本件審査申出」という。)をした。(甲3、乙1)

(5)  その余の前提事実は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1の(3)から(5)まで(原判決3頁14行目から4頁3行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(6)  本件決定書(甲5)には、「実際に「容積率60パーセント・建ぺい率20パーセント」の規制を受けているのは都市計画法上の都市施設であるa団地そのものであることが認められます。そうしますと、本件登録価格に係る標準宅地及び本件土地自体には、「容積率60パーセント・建ぺい率20パーセント」の規制は直接関係がないことから、申出人の本件土地が「容積率60パーセント・建ぺい率20パーセント」の建築制限のある土地であるという主張は失当というほかなく、本件登録価格に係る標準宅地の不動産鑑定評価において、容積率及び建ぺい率は、実際の規制のとおり考慮されていると認められます。」との記載がある。

3  争点及びこれについての当事者の主張

(1)  争点1(本件決定の取消しを求める訴えの原告適格)について

この争点に関する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の3の(1)(原判決4頁13行目から19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(当審における控訴人らの主張)

地方税法は、原告適格を「登記簿又は土地補充課税台帳に所有者として登記又は登録され、固定資産税を課されている納税義務者」に限定していない。地方税法432条1項は、「固定資産税の納税者」が固定資産評価審査委員会に審査申出をなし得ると規定するが、同法433条11項、行政不服審査法37条6項によれば、土地を譲り受けた者についても、「審査請求人の地位」を認めている。つまり、地方税法343条1項及び同条2項所定の「登記簿又は土地補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者」以外の者であっても、固定資産評価審査委員会に対する審査請求人の地位を有することがあり得ることを地方税法は認めている。その趣旨は、当該基準年度の登録価格について「法律上の利益」(行政事件訴訟法9条)を有している者に当該基準年度において評価額を争う機会を与えた点にある。そして、本件評価対象土地が控訴人らの婚姻後に取得された財産であり、控訴人X1がその持分を有していることからすれば、同控訴人が本件評価対象土地に係る被控訴人の価格決定について「法律上の利益」を有していることは明らかである。

したがって、被控訴人X1には本件訴えについて原告適格がある。

(2)  争点2(本件決定の違法性)について

ア 控訴人らの主張

(ア) 被控訴人の本件審査対象土地の価格は、地方税法403条1項所定の固定資産評価基準によって決定された価格とはいえない。

地方税法403条1項は、固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないことを市町村長に義務づけている。固定資産評価基準によるとは、主要な街路の選定、標準宅地の選定、標準宅地の適正な時価の評定、主要な街路とその他の街路の各路線価の比準等がいずれも適正に行われることを要請すると解され、これらを適正に行うことなく決定された価格は、そもそも、同条項でいう固定資産評価基準によって決定された価格とはいえない。

本件評価対象土地の価格決定において、被控訴人は、主要な街路とその他の街路の各路線価の比準を誤った。また、本件評価対象土地に係る「被控訴人の価格の根拠とする不動産鑑定士C作成の鑑定評価書(以下「C鑑定」という。)には、標準宅地の適正な時価の評定の誤り(都市計画法上の建ぺい率、容積率の規制の見落とし)、その他の多くの誤りがある。

したがって、本件評価対象土地に対する被控訴人の価格決定は地方税法403条1項でいう固定資産評価基準によって決定された価格とはいえない。

(イ) 固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回る場合には、上記価格の決定は違法となる(最高裁判所平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

本件審査対象土地について平成21年度の固定資産課税台帳に登録された価格(以下「本件登録価格」という。)は、いずれも同年度に係る賦課期日における同各土地の客観的な交換価値を上回っている。その理由は、次のとおりである。

本件審査対象土地は、昭和48年11月20日以降、府中都市計画において建築物の建ぺい率を60%、容積率を200%とされているが、本件審査対象土地に建っている共同住宅等(a団地の建物)は同都市計画において都市計画法11条1項8号所定の「一団地の住宅施設」と定められ、実際には建ぺい率20%、容積率80%を超える建築物を建てることはできない。したがって、本件審査対象土地の固定資産評価は都市計画により制限された建ぺい率20%、容積率80%を前提とする鑑定によりされるべきであるが、本件審査対象土地の固定資産評価のもととなったC鑑定は、本件審査対象土地の建ぺい率を60%、容積率を200%として鑑定し、収益還元法の適用、取引事例比較法における取引事例の選択、公示価格を基準とした価格を求めるに際しての対象土地の選択をそれぞれ誤るなどし、その結果、本来1m2当たり15万1000円とされるべき鑑定価額を30万4000円と鑑定した。

固定資産評価は、更地での正常取引価格によりされる。不動産鑑定評価基準によれば、「更地」とは当該宅地に建築物等の定着物がなく、かつ、賃借権、地上権、地役権等の使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいい、都市計画法や建築基準法等の公法上の規制は評価において当然に考慮される。a団地の建物が「一団地の住宅施設」であることによる建築制限は、都市計画法による公法上の制約であって、a団地の建物を建て替える場合にもなお存続する。

したがって、本件審査対象土地の固定資産評価をするにあたっては、上記制限が当然に考慮されるべきである。

(ウ) 原審における控訴人らの主張

本件決定には、府中市長が提出した弁明書副本以外に必要と認める資料の概要を記載した文書を送付しなかった違法及び審査決定に調査した公文書等が添付されていなかった違法がある。この点に関する控訴人らの主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の3の(2)(原判決4頁21行目から5頁6行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

イ 被控訴人の主張

固定資産税の課税標準である土地の価格は、「適正な時価」(地方税法341条5号)をいい、「適正な時価」とは「更地での正常な取引価格」である(固定資産評価基準第1章第1節三)。「更地評価」とは、その土地の上に建物等がなく、地上権等の諸権利も設定されていない状態で価値を判断するということで、「正常取引」とは、売り急ぎや買い急ぎ等の特別な動機が働かない状態を意味する。固定資産税の評価では、この更地の正常取引価格に影響を与える要素であれば評価の中に含め、影響を与えない要素であれば評価に含めない。現状でどのような建ぺい率、容積率の家が建っているかは更地状態での土地評価には一切影響しないから、建ぺい率、容積率は都市計画上の率(60%、200%)で評価を行うのが正しい。

そもそも、固定資産評価基準は、建ぺい率、容積率そのものについて、市街地宅地評価法、その他の宅地評価法とともに、評価項目として定めていない。また、これまでに国や都道府県から一団地の住宅施設の取扱いに関する通達等が発出された事実もない。特段の取扱いが示されていない以上、原則どおり固定資産評価基準に則り評価を行うことになる。

固定資産税の土地評価においては、標準宅地の適正な時価を評定する段階で建ぺい率と容積率の規制の効果を受ける。用途地域の建ぺい率及び容積率こそが近隣地域一帯に共通する規制であるから、地域要因となる。

いずれにしても、最終的には、土地課税台帳に登録された価格が正常な条件の下で成立する当該土地の取引価格を上回らない限り、当該価格の決定は違法とならない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件決定の取消しを求める訴えの原告適格)について

(1)  前記前提事実によれば、控訴人X2が本件審査対象土地の固定資産税の納税者であるというべきところ、当裁判所も、本件審査申出書による審査の申出は控訴人X1が控訴人X2の代理人としてしたものであり、本件決定は控訴人X2の代理人控訴人X1に対してされたものであると認めることができるから、控訴人X2は本件決定の取消しの訴えの原告適格を有するが、控訴人X1はその原告適格を有さず、控訴人X1の本件決定の取消しを求める訴えは不適法であり却下を免れないと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1(原判決6頁9行目から8頁11行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)  控訴人X1は、当審において、原告適格について前記第2の3の(2)のアの(ウ)のとおり主張するが、採用の限りでない。

2  争点2(本件決定の違法性)について

(1)  地方税法341条5号によれば、固定資産税の課税標準となる固定資産の価格は適正な時価をいうものとされているのであって、同法432条に基づく固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出は、固定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を超えていないかどうかについてされるべきものであるから、同法434条に基づく固定資産評価審査委員会の決定の取消しの訴えにおいても、原則として固定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を超えた違法があるかどうかが審理判断の対象となるべきものであり、例外的に固定資産評価審査委員会の審査決定の手続に固定資産の価格に係る不服審査制度の根幹にかかわり、結論に影響がなくても違法として取り消さなければ制度の趣旨を没却することとなるような重大な手続違反があった場合に限り、これを理由に固定資産評価審査委員会の決定を取り消すこととなると解するのが相当である。

控訴人らは、前記第2の3の(2)のアの(ア)のとおり主張するが、固定資産の価格に係る不服審査制度の根幹にかかわり、違法として取り消さなければ制度の趣旨を没却することとなるような重大な手続違反を主張するものではなく、固定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を超えた違法があると主張するに帰するものであるから、次の(2)において固定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を超えた違法があるかどうかを検討すれば必要かつ十分である。

(2)  証拠(甲2)に弁論の全趣旨を併せれば、固定資産課税台帳に登録された基準年度である平成21年度に係る賦課期日における本件審査対象土地の価格は16万4560円/m2であることが認められる。そこで、この価格が同期日における本件審査対象土地の客観的な交換価値を上回るかどうかについて検討する。

建築基準法第3章の規定は、都市計画区域等における建築物の敷地、構造、建築設備及び用途に関するものであり、建築物とその敷地にも着目して個々の建築物の大きさを規制し、もって、一定の空間を確保することとしている。上記規定による建築物の大きさの規制は、都市計画法に基づき都市計画区域について都市計画において定められた地域地区ごとにその内容が異なる(容積率につき建築基準法52条、建ぺい率につき同法53条等)。これらにより定まる容積率及び建ぺい率は、土地を敷地として建築される建築物の大きさを規制することにより土地の有効利用の限度を画することになるので、土地の取引価格に影響を与える要因となる。固定資産税の課税標準となる土地(宅地)の価格を決定するに当たって、都市計画区域について都市計画法8条1項1号により都市計画に定められる地域に当該宅地が存在する場合には、固定資産評価基準に従って標準宅地が当該地域から選定され、標準宅地の適正な時価が売買実例価額から評定されることになるため、当該地域に関する都市計画において定められる建ぺい率及び容積率が当該地域における売買実例価額に反映し、標準宅地の時価の評定、路線価の付設を通じて当該宅地の価格に投影されることになる。

都市計画区域について同法11条1項8号により都市計画に定められる都市施設である一団地の住宅施設は、上記のとおり都市計画に定められる地域に存在するものであり、一団地の住宅施設を構成する建築物の敷地につき当該地域に関する都市計画において定められる建ぺい率及び容積率よりも制限された建ぺい率及び容積率が定められていても、当該一団地の住宅施設に限って適用されるものであるから、一団地の住宅施設の敷地である宅地の価格を決定する上で、標準宅地の選定、取引事例の調査、収集に当たって一団地の住宅施設について定められる建ぺい率及び容積率を当該地域に関する都市計画において定められる建ぺい率及び容積率と同様に取り扱うことは相当ではなく、実際的でもない。標準宅地の選定、取引事例の調査、収集は、一団地の住宅施設が存在する都市計画に定められる地域に即して行うこととするのが相当である。しかしながら、他方、都市計画において一団地の住宅施設が定められるのは、当該一団地の住宅施設が存在する地域の健全な発展と秩序ある整備を図るためであり、当該地域において当該一団地の住宅施設を中長期的に存続させることとする構想に基づくものであって、建設される一団地の住宅施設は中長期的に存続することになり、一団地の住宅施設を構成する建築物を一部建て替える場合にも、一団地の住宅施設について定められる建ぺい率及び容積率の制限を受けることになるのであるから、上記建ぺい率及び容積率の制限は、一団地の住宅施設の敷地である土地の有効利用の限度を画する機能を果たすことになり、一定程度土地の取引価格に影響を与える要因となることを否定することはできない。このことを考えると、一団地の住宅施設の敷地である宅地の価格を決定する上で、一団地の住宅施設について定められる建ぺい率及び容積率をもって土地の更地状態での評価に影響しない当該土地上に建築されている建物の現況(建ぺい率及び容積率の実際の使用度合い)と同視することは相当とは言い難く、標準宅地を当該一団地の住宅施設内に選定した上で、その適正な時価を評定するに当たっては、当該地域に関する都市計画において定められる建ぺい率及び容積率と当該一団地の住宅施設について定められる建ぺい率及び容積率との関係等を考慮して、収集した取引事例の売買実例価額や公示価格を適切な比率で減価する取り扱いをすることが相当である。

これを本件についてみるに、本件審査対象土地は、都市計画において同法8条1項1号所定の第一種中高層住居専用地域と定められ、指定建ぺい率が60%及び指定容積率が200%の地域内にあるが、都市計画において定められた同法11条1項8号所定の一団地の住宅施設の敷地等であるため、その建ぺい率は20%に、及びその容積率は80%に制限されていること、a団地の住宅施設を構成する建築物を一部建て替える場合にも上記の建ぺい率及び容積率の制限を受けることになること、他方、a団地の住宅施設の建ぺい率及び容積率が上記のとおり制限されていることは、環境改善要因として機能し、a団地の住宅施設の敷地を構成する土地の価格のプラス要因にもなることを考慮すると、本件で取り調べた証拠において収集された取引事例の取引価格及び公示価格について、それぞれ時点修正、個別的要因の標準化等の所要の補正を行った上でその3割を減ずる減価要因として位置付けて標準宅地の適正な時価を算定し、本件審査対象土地の客観的な価格を算定することとするのが相当である。

そこで、上記の方法で基準年度に係る賦課期日における本件審査対象土地の客観的な価格を算定することとする。本件で取り調べた証拠(甲9、乙9)において収集された取引事例の取引価格及び公示価格について、それぞれ時点修正、個別的要因の標準化等の所要の補正を行うと、いずれも24万円/m2~36万/m2の範囲内に収まる数値となり、さらに、各数値につきその3割を減ずるといずれも16万8000円/m2~25万2000円/m2の範囲内に収まる数値となるので、これらの数値と証拠(乙9)により認められるその他の事情を総合考慮して標準宅地の適正な時価を算定し、本件審査対象土地の客観的な価格を算定すると、前記時点における本件審査対象土地の客観的な価格は、固定資産課税台帳に登録された本件審査対象土地の価格である16万4560円/m2を上回るものとなることが認められる。したがって、固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における本件審査対象土地の価格の決定が違法となることはないというべきである。

(3)  控訴人らは、原審において原判決の「事実及び理由」欄中の「第2 事案の概要」の3の(2)のとおり主張していた。これは、固定資産の価格に係る不服審査制度の根幹にかかわり、違法として取り消さなければ制度の趣旨を没却することとなるような重大な手続違反を主張するものではなく、本件決定を取り消すべき違法事由の主張としては失当というべきものではあるが、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の2(原判決8頁12行目から13頁21行目まで)記載の判断を引用する。

(4)  以上によれば、本件決定が違法であるということはできない。

3  争点3(国家賠償法上の違法性の有無)及び争点4(損害の有無及び損害額)について

本件決定が違法であるということができないことは上記2のとおりであり、国家賠償法1条1項の適用上も、被控訴人の公務員が本件決定をするについて故意又は過失によって違法に控訴人らに損害を加えたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人らが損害を受けたかどうか及びその損害額について判断するまでもなく、控訴人らの同項に基づく請求はいずれも理由がない。

4  当審における当事者の主張に対する判断

当審における当事者の主張は前記第2の3に摘示したとおりであるところ、争点に関する当裁判所の判断は上述したとおりであって、上記判断と抵触する主張はいずれも採用することができない。

第4結論

よって、当裁判所の上記判断と結論において符合する原判決は相当であり、控訴人らの控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙世三郎 裁判官 加藤謙一 廣田泰士)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例