東京高等裁判所 平成22年(行コ)69号 判決 2011年2月03日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 鶴見税務署長が控訴人に対して平成 20 年3月 26日付けでした,控訴人の平成 18年4月1日から平成 19 年3月 31日までの事業年度の法人税に係る更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2事案の概要
1(1) 控訴人(原告)は,自動車部品及び電子機器用部品の製作加工,労働者派遣事業等を目的とする会社である。
(2) 控訴人は,平成 18 年8月 31日当時,a社の株式 132株を保有していたところ,同日,a社に対し,上記株式のうち 32株(本件株式)を代金5億 9520万円で売却し(本件売買),a社から同額の金銭(本件交付金)の交付を受けた。本件売買の直前におけるa社の資本金等の額は零円であるから,本件交付金は,法人税法(平成 19 年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)24 条1項4号により,その全額がみなし配当(本件みなし配当)となる。
控訴人は,同日,本件交付金のうち5億 8123万 3120円を有価証券売却益として計上した。
(3)ア 控訴人は,平成 18 年4月1日から平成 19年3月 31 日までの事業年度(本件事業年度)の法人税について,鶴見税務署長に対し,原判決別表<省略>の「確定申告」欄記載のとおり,確定申告(本件確定申告)をした。
イ 本件確定申告に係る確定申告書(本件確定申告書)の別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の「受取配当等の益金不算入額 14」の欄及び別表八「受取配当等の益金不算入に関する明細書」の「受取配当等の益金不算入額 12」の欄には,いずれも 1124万 2700円と記載されていたが,ここには本件みなし配当に係るものは含まれていなかった。すなわち,本件確定申告書には,本件みなし配当について,益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細の記載(法人税法23 条6項)がなかった(本件不記載)。
(4) a社は,平成 19 年9月 12日,蒲田税務署による税務調査を受け,本件交付金が法人税法24条1項4号に規定するみなし配当に該当する旨指摘され,同年 12 月 17 日,本件みなし配当の源泉徴収に係る所得税(源泉所得税)として1億 1904 万円を納付した。
(5) 控訴人は,鶴見税務署長に対し,原判決別表<省略>の「更正の請求」欄記載のとおり,更正の請求(本件更正の請求)をした。本件更正の請求は,本件みなし配当の 100 分の 50 に相当する金額である2億 9760万円について,受取配当等の益金不算入制度の適用を求めるというものであり,納付すべき法人税額を,本件確定申告におけるそれよりも 7557万 7000円減額させるものであった。
(6)ア 鶴見税務署長は,原判決別表<省略>の「通知処分」欄記載のとおり,本件更正の請求に対し,その更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をした。
イ 控訴人は,本件通知処分を不服として,国税不服審判所長に対して審査請求をした。同審査請求及びこれに対する裁決については,原判決別表<省略>の「審査請求」及び「同上裁決」の各欄記載のとおりである。
2 本件は,控訴人が,被控訴人(被告)に対し,本件通知処分を不服として,国税通則法23条1項1号及び法人税法23 条7項に基づき,その取消しを求める事案である。
3 原審は,(1) 本件不記載は,控訴人の法の不知又は失念によるものであり,本件みなし配当について受取配当等の益金不算入制度の適用が可能であるという認識そのものがなかったのであるから,同制度の適用を受けることを前提に確定申告をしながら益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細の記載を忘れてしまったという単純な記載忘れとの間には,本質的な差異があることは明らかであり,計算間違いと同視することもできないとした上,そもそも,法人税法23 条6項は,納税者である法人に対し,同条1項に規定する受取配当等の益金不算入制度の適用を受けるための要件として,同不算入額及びその計算に関する明細を確定申告書に記載することを求め,更に,益金不算入となる受取配当等の金額が確定申告後に増加することが明らかになっても,その確定申告書に記載した金額を超えて益金不算入とすることはない旨を定めたものであり,納税者である法人において自ら正確に益金不算入額を計算した上で,それを確定申告書に記載することにより,受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求するものということができるところ,本件確定申告書には,本件みなし配当につき,益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細の記載がなかったし,本件確定申告書の記載上,本件みなし配当について受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を控訴人が有していると見て取れる状態にあったと認めることはできないから,本件確定申告において,本件確定申告書の記載に従い,本件みなし配当について受取配当等の益金不算入制度の適用がないとすることは,ごく当然の帰結というほかなく,このことについて,課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった,又は当該計算に誤りがあったということはできない,(2) 法人税法23 条7項の「やむを得ない事情」とは,納税者である法人が確定申告書に記載することができなかったことにつき,その記載を妨げる外部的事実があり,同法人自身の力では同記載をすることができないような場合をいい,不注意等によって生じた事情はこれに含まれないと解するのが相当であるところ,本件不記載は法の不知又は失念によるものであり,これは控訴人の不注意等によって生じた事情というほかないから,本件不記載に同項の「やむを得ない事情」があったということはできない,(3)控訴人は,a社が納付した本件みなし配当に係る源泉所得税の金額と同額である1億 1904万円をa社に支払い,平成 19年4月1日から平成 20年3月 31 日までの事業年度に係る法人税の確定申告において,上記金額の全額について,法人税法68条1項に規定する所得税額の控除(ただし,控除しきれなかった金額については還付)を受けており,本件みなし配当は,上記のとおり所得税額の控除の対象となっているのであるから,二重課税の状態が生じているということはできないし,同法23条6項により,益金不算入額及びその計算に関する明細を確定申告書に記載することが,同制度の適用を受けるための要件とされているのであって,その場合に,本件みなし配当について,a社及び控訴人の両者に法人税が課税されるという意味での二重課税の状態が発生することは,法人税法上もともと予定されているものであるから,本件更正の請求を認めないことが徴税権の濫用に当たるということはできないなどとし,本件通知処分は,適法であると判示して,控訴人の請求を棄却した。
これに対して,控訴人が控訴した。
4 関係法令の定めの概要,前提事実,争点及び当事者の主張の要旨は,後記5のとおり当審における控訴人の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1~4に記載のとおりである。
5 当審における控訴人の主張
(1) 法人税法23条1項1号及び同条6項は,受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求するものではなく,同項を根拠に本件更正の請求の適用を否定することはできない。その理由は,次のとおりである。
ア 国税通則法23 条1項1号に該当するか否かは,法人税法23 条6項が更正の請求を排除する趣旨を含むか否かで判断されるが,同項の趣旨は,更正の期間内において広く納税者の救済を図るという同号の趣旨を没却しないように解釈する必要がある。
(ア) すなわち,国税通則法23 条1項1号は,「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律に従っていなかったこと」又は「当該計算に誤りがあったこと」により,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合には,申告期限から1年以内については,期限内申告の適正化,法律関係の早期安定,税務行政の能率的運用などといった要請よりも,納税者の権利保護を基本的に優先して,更正の請求をすることができることを認めたものであり,更正の請求の要件として,納付すべき税額が各税法の定める以上に過大となった原因及び態様を限定していない。
(イ) 国税通則法23条2項は,「その申告・・・に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決・・・により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」(同項1号)など,納税申告書を提出した時には瑕疵ないしは減額更正をすべき事由は内在せず,後日,そのような事由が発生する場合に限って,更正の請求を認めているが,これは,同条1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由がある場合に限ってこれを認めるという趣旨であり,同項の更正の請求の期間の例外である。逆にいえば,本則である同項は,このようなやむを得ない理由の有無を問題としていないというべきであって,更正の請求の期間内であれば,やむを得ない理由の有無や,納税者の特殊な事情の有無を問題とすることなく,更正の請求を認めるべきである。
イ 各個別税法が更正の請求を排除する趣旨を含む場合には,例外的に更正の請求は否定されるが,その範囲は制限的に解すべきである。
(ア) 損金算入の要件として損金経理が求められる減価償却費の計上(法人税法31条)や貸倒引当金の繰越(同法52条)は,決算において調整すべき事項であるから,確定申告の後に,損金経理をしていなかった部分について更正の請求を行うことは許されないし,複数の選択肢がある中で,事前の届出あるいは確定申告時において納税者がいったん選択した事項につき,他方を選択した方が有利であったとしても,更正の請求を行うことは認められない(最高裁昭和 62 年 11 月 10 日第三小法廷判決・訟務月報 34 巻4号861頁)。
同法23条6項が,そのような趣旨を含むかどうかを判断するに当たっても,国税通則法23条1項が,法定申告期限から1年を経過するまで,その誤りを訂正する機会を納税者に権利として保障している制度であることを踏まえて解釈すべきである(福岡高裁平成 19年5月9日判決。以下「福岡高裁平成 19 年判決」という。)。
(イ) 法人税法23条1項は,法人間の二重課税を調整する趣旨により設けられた規定であり,同項が「益金の額に算入しない。」と規定しており,「益金の額に算入しないことができる。」などとしていないことからも,受取配当等は当然益金不算入とされるべき性質のものである。同条6項が,これを「確定申告書に益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細の記載がある場合に限り,適用する。」と定め,確定申告書提出時において,その計算に関する明細書の添付を要求しているのは,申告上の便宜から,納税者に対し,明細書の添付を求めているものにすぎない。
(ウ) 法人税法23条6項は,益金の額に算入されない金額は,当該金額として記載された金額を限度とする旨を定めるが,最高裁平成 21年7月 10 日第二小法廷判決・民集 63 巻6号 1092 頁(以下「最高裁平成 21年判決」という。)は,所得税額控除(同法68条)について,同条1項は,「内国法人が支払を受ける利子及び配当等に対し法人税を賦課した場合,当該利子及び配当等につき源泉徴収される所得税との関係で同一課税主体による二重課税が生ずることから,これを排除する趣旨で,当該利子及び配当等に係る所得税の額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定している。もっとも,同条3項は,同条1項の規定は確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がある場合に限り適用するものとし,この場合において,同項の規定による控除をされるべき金額は,当該金額として記載された金額を限度とする旨規定している。・・・これらの規定に照らすと,同条3項は,納税者である法人が,確定申告において,当該事業年度中に支払を受けた配当等に係る所得税額の全部又は一部につき,所得税額控除制度の適用を受けることを選択しなかった以上,後になってこれを覆し,同制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨で更正の請求をすることを許さないこととしたものと解される。」と判示する。この判示は,納税者に複数の選択肢が設けられていることを前提としている。
これに対し,受取配当等については,同法23条において,益金不算入となる旨が定められているが,それ以外,例えば,税額控除等の選択肢は一切存在していない。したがって,同条6項については,最高裁平成 21 年判決が判示するように,「確定申告において,受取配当等の益金不算入の適用を受けることを選択しなかった以上,後になってこれを覆し,同制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨で更正の請求をすることを許さない」とする趣旨の条文であると説明することはできず,同条1項の規定の適用を受けるために,明細書の記載によって制度適用の意思を示すという必要性は,必ずしもない。したがって,受取配当等の額があれば,原則として全額が益金不算入とされるべきであり,最高裁平成 21年判決も,当該事案につき納税者の救済を図っている。
ウ 以上によれば,法人税法23条6項は,確定申告において課税庁が把握し得たところを超える益金不算入を求める更正の請求を許さない規定と解すべきである。本件確定申告書の添付書類には,a社に対する本件株式の売却益及びその帳簿価額が記載されているから,売却代金額を算出することができるものであった。したがって,課税庁は,本件確定申告書及びその添付書類から,本件確定申告によって,本件事業年度中に控訴人が受領した益金不算入となるべき配当等の原因たる取引の存在及びその内容を把握でき,かつ,本件で控訴人はその課税庁が把握した取引金額内での更正を求めるにすぎないのであるから,本件更正の請求は同項により制限されるものではない。本件は,簿外にした受取配当等が当局に発覚したことを契機に,これを益金不算入とするように求めるような事案とは全く異なり,また,確定申告書及びその添付書類の情報から,課税庁が把握可能な取引金額の限度内でのみその益金不算入を認めるというものである以上,簿外の受取配当等の益金不算入を求めるがごとき悪質な事案は,完全に遮断できるから,本件更正の請求を認めても,何らの弊害も生じない。
(2) 法人税法23条1項1号及び同条6項について,受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求した規定と解したとしても,本件確定申告を全体として考察すれば,控訴人が当該意思を有していたことは明白であり,本件更正請求は認められるべきである。その理由は次のとおりである。
原審は,同項は,「納税者である法人において自ら正確に益金不算入額を計算した上で,それを確定申告書に記載することにより,受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求するもの」として,制度の適用を受ける意思の有無を,確定申告書の記載のみから判断すると解釈している。しかし,原審は,最高裁平成 21 年判決を誤読したものであり,失当である。同項が,納税者に受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求する規定だとしても,その意思の有無は,確定申告書及びその添付の計算書によって構成された「確定申告」全体を考察して判断すべきである。そうすると,本件確定申告書には,a社からの普通配当に係る益金不算入額の記載がある上,本件確定申告書に添付した計算書類には,本件売買に関する記載があるから,本件確定申告全体を合理的に考察すれば,本件不記載は,控訴人の単純な申告書作成過程での誤りであると容易に判断可能であり,控訴人が,本件確定申告において,本件みなし配当について益金不算入制度の適用を受ける意思を有していたことが容易に見てとれるというべきである。
(3) 控訴人には本件不記載について法人税法23条7項の「やむを得ない事情」があった。その理由は次のとおりである。
法人税法施行令23 条4項は,自己株式を取得した法人に対し,みなし配当額を株主に通知することを求めているところ,a社は,自己株式取得に伴う本件交付金がみなし配当に当たるとの認識が欠けていたことから,同通知を行わなかった。したがって,本件では,a社が控訴人に対し,本件みなし配当に係る同項に基づく通知をしなかったという「外部的事実」が存在し,そのために控訴人は,控訴人自身の力で,本件みなし配当額を計算することができず,これを確定申告書における明細書に記載することが不可能な状態にあった。本件不通知は,あくまでa社の過失であり,これと完全に別個独立した法人である控訴人の過失と同視することはできないし,同項の趣旨からして,みなし配当に当たり得る金銭その他の資産を受け取った株主が,当該法人に対して,みなし配当が発生した事実,及び生じたみなし配当等の額ないしその資本金等の額を照会するなどして,当該自己株式取得の代価のうち,益金不算入となるべきみなし配当に該当する金額等を確認すべき義務を負っていると解することは,甚だしく不合理である。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,【判示事項1,2】原判決 13 頁 21 行目の「1億 1904 円」を「1億 1904万円」と改め,後記2のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人の控訴理由にかんがみ,理由を付加する。
(1) 原審は,法人税法23 条1項1号及び同条6項は,受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求するものではなく,同項を根拠に本件更正の請求の適用を否定することはできないなどと主張し,上記第2の5(1)ア~ウのとおり,その根拠を挙げる。
しかし,同項は,同条1項に規定する受取配当等の益金不算入制度の適用を受けるための要件として,同不算入額及びその計算に関する明細を確定申告書に記載することを求めるとともに,この場合において,同項の規定により益金の額に算入されない金額は,当該金額として記載された金額を限度とする旨規定しているところ,控訴人は,そもそも,本件みなし配当について受取配当等の益金不算入制度の適用が可能であるという認識そのものがなく,本件確定申告書には,本件みなし配当について,益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細について記載がなかったというのであるから,本件みなし配当について,受取配当等の益金不算入制度が適用される余地はないというべきである。そして,控訴人が挙げる根拠については,次のとおり,理由がない。
ア 控訴人は,国税通則法23 条1項1号に該当するか否かは,法人税法23 条6項が更正の請求を排除する趣旨を含むか否かで判断されるが,同項の趣旨は,更正の期間内において広く納税者の救済を図るという同号の趣旨を没却しないように解釈する必要があるなどと主張する。
しかし,本件において,法人税法23条6項の要件がないことは,引用に係る原判決が判示するとおりである。そうすると,本件確定申告書の記載が「法律の規定に従っていなかった」とも「計算に誤りがあった」ともいえないから,国税通則法23条1項1号の要件がないことが明らかである。
イ(ア) 控訴人は,各個別税法が更正の請求を排除する趣旨を含む場合には例外的に更正の請求は否定されるが,その範囲は制限的に解すべきであるとして,法人税法23条6項が,そのような趣旨を含むかどうかを判断するに当たっても,国税通則法23条1項が,法定申告期限から1年を経過するまで,その誤りを訂正する機会を納税者に権利として保障している制度であることを踏まえて解釈すべきであるとして,そのような判決として,福岡高裁平成 19 年判決を挙げる。
しかし,同判決は,当該法人が,確定申告書において外国税額控除制度の適用を受けることを選択した事案において,外国税額控除額を計算するに当たって,同計算の基礎とすることのできる非課税対象部分も受取配当額に含めて行うべきであるのに,誤って課税対象部分のみを受取配当額としたという場合について,確定申告書の添付書類中に配当金の合計額及び源泉徴収額の記載があったことを前提として,国税通則法23 条1項1号に基づき,更正の請求を認めたものであって,a社からの普通配当については受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を表示しているが,本件みなし配当については同制度の適用を受ける意思を表示しているとはみられない本件とは事案を異にするものである。そして,法人税法23条6項が,単に,申告上の便宜から,納税者に対し,明細書の添付を求めていると解する合理的根拠はない。
(イ) 控訴人は,法人税法23条1項は法人間の二重課税を調整する趣旨により設けられた規定であり,受取配当等は当然益金不算入とされるべき性質のものであると主張する。控訴人は,同項が「益金の額に参入しないことができる。」などとしておらず,「益金の額に参入しない。」としていることを挙げ,益金不算入が当然であると解する根拠としている。
しかし,控訴人も更正の請求を認めないことに異論のない同法68条1項の所得税額控除(最高裁平成 21年判決の事例における根拠条項)についても,同項は,「法人税の額から控除する。」と定めており,「法人税の額から控除することができる。」などとはしていない。控訴人のような読み方をするならば,同項も「当然控除」を定めたものと解さなければならなくなるのであり,上記のような規定の仕方を根拠とする解釈には理由がないことが明らかである。そして,同項も二重課税の排除を目的とする制度であるが,確定申告書に同条3項による記載がある場合に限り控除を認め,後に更正の請求によって控除を求めることを許さない趣旨に解されるのであり,同法23 条1項が二重課税の調整規定であることも,控訴人の主張する解釈の根拠にはなり得ない。
(ウ) 控訴人は,受取配当等については,法人税法23条において,益金不算入となる旨が定められているが,税額控除等の選択肢は一切存在していないから,同条6項については,最高裁平成 21年判決が判示するように,「確定申告において,受取配当等の益金不算入の適用を受けることを選択しなかった以上,後になってこれを覆し,同制度の適用を受ける範囲を追加的に拡張する趣旨で更正の請求をすることを許さない」とする趣旨の条文であると説明することはできず,同条1項の規定の適用を受けるために,明細書の記載によって制度適用の意思を示すという必要性は,必ずしもないなどと主張する。
しかし,最高裁平成 21年判決は,法人税の確定申告について,法人税法68 条1項に基づき配当等に係る所得税額を控除する意思を表示しつつ,確定申告書に添付した所得税額の控除に関する明細書中には,その所有する株式の全銘柄を記載し,配当等として受け取った収入金額及びこれに対して課された所得税額を各銘柄別にすべて記載したものの,「利子配当等の計算期末の所有元本数等」欄及び「利子配当等の計算期首の所有元本数等」欄には,本来ならば配当等の計算の根拠となった期間の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載すべきところ,誤って当該事業年度の期末及び期首の各時点における所有株式数を記載したため,一部の銘柄につき銘柄別簡便法の計算を誤り,その結果,控除を受ける所得税額を過少に記載したという事案において,当該法人が,同確定申告書において,その所有する株式の全銘柄に係る所得税額の全部を対象として,法令に基づき正当に計算される金額につき,「所得税額控除制度の適用を受けることを選択する意思」であったことが,同確定申告書の記載から見て取れる旨判示したものであり,同条3項の要件を満たしていると判断しているのであって,控訴人の主張を基礎付けるものではない。
ウ 控訴人は,課税庁は,本件確定申告書及びその添付書類から,本件確定申告によって,本件事業年度中に控訴人が受領した益金不算入となるべき配当等の原因たる取引の存在及びその内容を把握でき,かつ,本件で控訴人はその課税庁が把握した取引金額内での更正を求めるにすぎず,簿外の受取配当等の益金不算入を求めるような悪質な事案は,完全に遮断できるから,本件更正の請求を認めても,何らの弊害も生じないなどと主張する。
しかし,控訴人の主張は,法人税法23 条6項に規定する確定申告書の記載を要しないという趣旨であるなら,以上に述べたところにより失当である。また,本件においてその記載があるということができるという趣旨であるとしても,本件確定申告書に添付された「有価証券の内訳書」(証拠<省略>)及び「雑益,雑損失等の内訳書」(証拠<省略>)の記載からみなし配当となる可能性のある株式の売却代金の存在及び内容を把握することができるというものであるところ,上記各内訳書に何の脈絡もなく別々に記載されたa社株式 32 株の帳簿価額の数字とa社株式の売却益の数字とから,控訴人がこれについて受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を有することが読み取れるとは到底いえない。そうすると,上記各記載をもって同項に規定する記載があったということはできない。控訴人の主張は,失当である。
(2) 控訴人は,法人税法23条1項1号及び同条6項について,受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を示すことを要求した規定と解したとしても,本件確定申告書には,a社からの普通配当に係る益金不算入額の記載がある上,本件確定申告書に添付した計算書類には,本件売買に関する記載があるから,本件確定申告を全体として考察すれば,控訴人が当該意思を有していたことは明白であり,本件更正請求は認められるべきであるなどと主張する。
しかし,本件確定申告において,同項の要件を満たしていなかったことは上述のとおりである。そもそも,本件不記載は,控訴人による法の不知又は失念によるものであって(そのことは,控訴人が訴状 12頁において,「本件では,自己株式の譲渡に関して,平成 13 年法改正された「みなし配当」規定を看過して,確定申告書の益金の額に算入されない配当等の額及びその計算に関する明細の記載を失念して申告した」として自認している。),控訴人が受取配当等の益金不算入制度の適用を受ける意思を有していなかったことは明らかであるから,本件確定申告を添付書類を含めて全体として考察しても,控訴人が当該意思を有していたことが明白であるということはできない。
控訴人は,原審は,最高裁平成 21 年判決を誤読したものであるなどと主張する。しかし,同判決の事案は,上記のとおりであって,控訴人の主張を基礎付けるものではない。
控訴人の理由は,理由がない。
(3) 控訴人は,本件では,a社が控訴人に対し,本件みなし配当に係る同項に基づく通知をしなかったという「外部的事実」が存在し,そのため,控訴人自身の力で,本件みなし配当額を計算することができなかったなどとして,控訴人には,本件不記載について,「やむを得ない事情」があったなどと主張する。
しかし,本件不記載は控訴人による法の不知又は失念によるものである。これは控訴人の不注意等によって生じた事情というほかなく,法人税法23条7項の「やむを得ない事情」に当たらないことは,引用に係る原判決が判示するとおりである。控訴人は,本件不通知は,あくまでa社の過失であり,これと完全に別個独立した法人である控訴人の過失と同視することはできないと主張するが,この点を考慮しても,上記判断は左右されるものではない。
控訴人の主張は,理由がない。
(4) 控訴人のその他の主張も,上記結論を左右するものではない。
3 以上によれば,原判決は正当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 大橋寛明 裁判官 佐久間政和 裁判官 見米正)