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東京高等裁判所 平成23年(く)528号 決定 2011年10月21日

主文

原決定のうち,接見等禁止の期間を第7回公判期日の終了以降とする部分を取り消す。

理由

本件抗告の趣意は,弁護人吉田忍作成の抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。

論旨は,要するに,被告人が暴力団関係者ではないこと及び本件公判審理が進捗したことに照らすと,被告人には刑訴法81条所定の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められないから,被告人に対して接見等を禁止した原決定は不当であり,その取消しを求める,というのである。

そこで,記録を調査して検討する。

本件は,暴力団幹部の元妻である被告人が,同幹部の実弟で暴力団員である共犯者と共謀の上,被害者の1名が同幹部の愛人と肉体関係を持ったなどと因縁を付けて,同被害者とその妻を脅迫し,両名から現金500万円を脅し取った,という恐喝の事案である。

本件犯行の罪質,内容,態様に加え,被告人と共犯者の立場,被告人らと被害者両名との関係,被告人の第1回公判期日(平成23年8月11日)での供述状況等に照らすと,被告人には刑訴法81条所定の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるとして,被告人に対し同日付けで接見等を禁止した原決定の判断については,その期間を「第1審の判決宣告に至るまでの間」とした点の当否を除き,誤りはないといえる。

原決定は,本件接見等禁止の期間につき「第1審の判決宣告に至るまでの間」と包括的な定めをしているところ,接見等禁止の理由となる刑訴法81条所定の罪証隠滅のおそれは公判審理の進捗状況に応じて変化するものであり,接見等禁止決定に対してはその取消しや一部解除を求める法的請求権はないと解されることも併せ考えると,接見等禁止の必要性については,特段の事情のない限り,各公判期日の終了ごとに(あるいは具体的な立証段階ごとに),上記罪証隠滅のおそれの有無を慎重に判断することが望ましく,実務の多くが接見等禁止につき「次回の公判期日終了までの間」と期間を定める運用をしているのは相応の根拠があるというべきである。

そして,本件公判審理の状況をみると,記録によれば,第6回公判期日までに,弁護人が同意ないしは一部同意の意見を述べた甲号各証の取調べのほか,被害者両名及び共犯者に対する証人尋問並びに取調状況に関する被告人質問が終了し,続く第7回公判期日(同年10月17日)には,共犯者の裁判官面前調書謄本が刑訴法321条1項1号後段により取り調べられ,また,被告人の取調状況に関する警察官の証人尋問が行われて,被告人の自白調書(検察官調書)2通が同法322条1項により採用されていることが認められる。そして,次回公判期日(同年11月11日)には,上記自白調書の取調べ及び罪体に関する被告人質問が行われる見込みである。これらの事情に照らすと,第7回公判期日の終了以降は,被告人に対し,勾留に加えて接見等を禁止しなければ防止できないほどの罪証隠滅のおそれがあるとは認められない。抗告審としては,原則として原決定後の事情を参酌すべきではないけれども,上記のような事情に鑑みると,本件については,原決定のうち,同期日の終了以降の部分を取り消すのが相当と解される。

論旨は,上記の限度で理由がある。

よって,刑訴法426条2項により,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小西秀宣 裁判官 林正彦 裁判官 宮本聡)

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