東京高等裁判所 平成23年(ネ)3147号 判決 2011年7月28日
控訴人
株式会社Y
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
大谷典孝
被控訴人
X
同訴訟代理人弁護士
福地輝久
同
横山佳純
同
杉村茂
同
山元勇気
主文
本件控訴を棄却する。
訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 前項の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は、控訴人に雇用されていた被控訴人が、控訴人のした解雇が無効であることを確認する判決が確定したとして、控訴人に対し、(1) 平成22年3月31日の時点で38日間の年次有給休暇請求権を有することの確認、(2) 控訴人が年次有給休暇を認めずに欠勤扱いとして控除した賃金及びこれに対する支給日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払、(3) 控訴人が年次有給休暇を認めなかったことが不法行為に当たるとして慰謝料100万円及びこれに対する平成22年4月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は、不法行為による慰謝料100万円とその遅延損害金を求める部分を棄却したほかは、被控訴人の請求を認容した。
そこで、控訴人は、その敗訴部分を不服として控訴した。
したがって、当審における審判の対象は、(1)の年次有給休暇請求権を有することの確認請求及び(2)の未払賃金とその遅延損害金の支払請求の当否である。
2 争いのない事実等並びに争点及びこれに対する当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2及び3(1)、(2)(2頁13行目から6頁13行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 2頁24行目、25行目及び3頁1行目の各「当庁」を「さいたま地方裁判所」に改める。
(2) 3頁3行目の「ある」の次に「ことを確認する」を加える。
(3) 3頁14行目の「総日数」を「總日数に」、「20日」を「20日間」に、15行目の「こと」を「事」に各改める。
(4) 3頁16行目の「年休権」を「年次有給休暇権(以下「年休権」という。)」に改める。
(5) 3頁20行目、4頁1行目の各「有給休暇届」を「有給届」に改める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、年次有給休暇請求権を有することの確認並びに未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の1及び2(7頁5行目から9頁21行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 7頁11行目から26行目までを次のとおり改める。
「 控訴人は、これらの使用者の責に帰すべき事由によって就業できなかった期間については労働基準法39条所定の「労働日」に算入されないと主張するが、控訴人の責に帰すべき事由によって被控訴人が就業できなかったからといって、当該期間が休日となるわけではないから、この期間が同条にいう「労働日」から除外されると解すべき合理的な理由は見出し難い。そして、労働者は、上記の労働日に出勤して同条の要件を満たすことによって年次有給休暇が付与されるという利益を有しているというべきところ、使用者の責に帰すべき事由によって上記労働日の一部又は全部について出勤することができなかった場合、その結果として年次有給休暇の取得に関して生ずる不利益を当該労働者に強いることは不当であるから、同条の要件の充足の有無を判断するに当たっては、この間の労働日については全て当該労働者が出勤したものとして取り扱うのが相当である。」
(2) 8頁9行目、22行目の各「前記「争いのない事実等」」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」の「2 争いのない事実等」」に改める。
(3) 9頁9行目、12行目、14行目(2か所)の各「時効」を「消滅時効」にいずれも改める。
(4) 10行目、10・11行目、12行目の各「有給休暇請求権」を「年休権」にいずれも改める。
2 当審における控訴人の主張に鑑み、必要な限度で付言する。
(1) 控訴人は、年次有給休暇制度は、労働者が安心して休養をとり、心身の疲労を回復させることを目的とするものであるから、現実に就業していないときは、この制度で労働者を保護する必要はなく、本件係争期間は「全労働日」に参入すべきでないと主張する。確かに、被控訴人は、本件係争期間中現実に就業していないが、これは控訴人の責に帰すべき事由によるのであり、このような使用者側の事情で労働者を不利に扱うことは、年休の保障を使用者に義務づける年次有給休暇制度の趣旨にそぐわないといわざるを得ない。
(2) 控訴人は、本件係争期間中就業しないで賃金全額の支払を受けていたから、有休を付与する前提を欠くのであり、この前提のもとで、更に年休権を有するというのは誤りであると主張する。仮に被控訴人が本件係争期間中の賃金全額の支払を受けているとしても、被控訴人は、控訴人の責に帰すべき事由により就業することができなかったのであって、この場合には、前記のとおり、出勤した日として扱うのが相当であるから、有休を付与する前提を欠くとはいえない。
3 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 髙野輝久 裁判官 齊木利夫)