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東京高等裁判所 平成23年(ネ)4729号 判決 2011年11月09日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人に対し、16万7141円及びうち15万5000円に対する平成21年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを9分し、その8を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

3  この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、181万8644円及びうち141万8996円に対する平成21年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  仮執行宣言

第2事案の概要

1  被控訴人及びリッチ株式会社(その後「株式会社ぷらっと」、「株式会社クオークローン」、「株式会社タンポート」、「株式会社クラヴィス」と順次商号が変更された。以下、時期を問わず「訴外会社」という。)は、いずれも貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号により法律の題名が貸金業法に改められた。貸金業法)3条所定の登録を受けた貸金業者であり、控訴人は、①訴外会社との間で、平成6年4月15日から平成19年9月17日までの間、原判決別紙「利息制限法による計算書」1~266記載の各取引(第1取引)により、②被控訴人との間で、同年11月6日から平成21年2月13日までの間、同別紙267~286記載の各取引(第2取引)により、借入れと弁済を繰り返した。

本件は、控訴人が、①第1取引において控訴人が支払った利息制限法所定の制限利率を超過した利息を元本に充当していくと、過払金が発生した、②被控訴人は、平成19年10月16日、訴外会社との間で、訴外会社の控訴人に対する貸付債権を譲り受ける契約(本件債権譲渡契約1)を締結し、契約上の地位の移転又は信義則違反により、第1取引において生じた訴外会社の過払金返還債務を承継した、③被控訴人及び訴外会社はいずれも民法704条の悪意の受益者であると主張して、被控訴人に対し、過払金及び法定利息の支払を求めた事案である。

2  原審は、本件債権譲渡契約1により訴外会社の貸主としての地位が被控訴人に承継されたとは認め難く、被控訴人が、これを承継しないと主張することが信義則に反するとの控訴人の主張は採用できないから、被控訴人は、第1取引において生じた訴外会社の過払金返還債務を承継しないと判断し、控訴人の請求を棄却した。

控訴人は、当審において、被控訴人が訴外会社の過払金返還債務を承継する根拠として、併存的債務引受けを追加するとともに、被控訴人は第2取引のみでも過払金返還債務を負うと主張している。

当裁判所は、被控訴人は、第1取引において生じた訴外会社の過払金返還債務を承継しないと判断したが、第2取引のみでも過払金が発生しているので、控訴人の請求は、第2取引による過払金と法定利息の返還を求める限度で認容すべきであり、その余を棄却すべきものと判断した。

3  争いのない事実等(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決3頁4行目の「「借入額」欄及び「返済額」欄に記載のとおりである」の次に「(「No.」欄の1の項を除く。)」を加え、争点(1)(本件債権譲渡契約1により訴外会社の貸主としての契約上の地位が被控訴人に移転されたか)に関する当事者の補足的主張を次のとおり加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2及び3(原判決2頁10行目から6頁14行目まで。別紙を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、当審における新たな争点に関する当事者の主張は、後記4のとおりである。

(控訴人)

本件債権譲渡契約1により訴外会社の貸主たる地位が被控訴人に移転したと考えることは、次のとおり、当事者の合理的意思にも合致する。

ア 本件債権譲渡契約1は、訴外会社が消費者ローン事業を廃止するに伴い、100%親会社である被控訴人が顧客を承継するために行われた。訴外会社と被控訴人は、平成19年6月18日に締結した業務提携契約(甲4。本件提携契約)及び同年10月16日に締結した本件債権譲渡契約1(甲7)において、顧客に対する利息返還債務等について併存的債務引受条項を設け(甲4・5条2項、甲7・14条2項)、訴外会社に対して返還請求がされた場合に、被控訴人が「申出窓口の管理者として善良なる注意をもって対応」する旨を合意し(甲4・5条4項、甲7・14条4項)、被控訴人が過払金返還債務を履行することを前提としている(甲4・5条5項、甲7・14条4項)。これによれば、被控訴人は、訴外会社の顧客に過払金が発生していることを十分認識し、これを承継する意思で、貸付債権、貸付義務、過払金返還債務及び過払金充当合意による清算義務を一体として承継したというべきである。そのため、全ての資産を被控訴人に譲渡した訴外会社は、同年12月1日に貸金業を廃業し、債権回収のみを行っている。

イ 被控訴人は、控訴人を含めた訴外会社の顧客に取引の継続を勧誘し(甲4・3条)、契約切替えをしなかった控訴人のような顧客に対して送付した通知書には「現在お手持ちのクオークローンカードは利用ができなくなりますので、今後のお取引は同封のプロミスカードをご利用ください。なお、お借入ご希望の際は、事前にお問合せ下さい。」(本件記載1)、「本件に関する問合せ先、およびクオークローンにおける譲渡日までの取引に係る紛争等の窓口は、プロミスとなりますことを、あわせて連絡します。」(本件記載2)と記載されていた(甲8)。控訴人は、これを見て、訴外会社との取引の窓口が被控訴人の担当となり、被控訴人のカードを利用して融資が受けられることを期待して、平成19年11月6日以降、被控訴人への弁済を続け、平成20年11月2日、被控訴人と新たに消費貸借契約を締結し(乙9)、被控訴人との間で借入れと弁済を繰り返した。

(被控訴人)

上記ア及びイの事情に関する控訴人の主張は、次のとおり理由がない。

ア 事業持株会社である被控訴人が、グループ全体の経営戦略の一環として100%子会社から債権譲渡を受けることは、何ら不当なことではなく、これを契約上の地位の移転と同視する法的根拠はない。本件債権譲渡契約1が契約上の地位の移転であるとすれば、それに完全に内包される併存的債務引受けが、あえて明示的に行われていることからも、本件債権譲渡契約1が契約上の地位の移転でないことが裏付けられる。

イ 本件記載1は、訴外会社の控訴人に対する債権が被控訴人に譲渡され、爾後は新たな借入れが直ちにはできず、弁済についても被控訴人が発行したカードを用いて被控訴人に対して行う必要があること等を通知する内容であることが文言上明らかである。本件記載2は、飽くまで債権譲渡後の紛争等の窓口を告知したにすぎず、この文言により、控訴人が主張するような認識を抱くことはあり得ない。控訴人は、第1取引の期間中は、借入れを1回~数回行い、弁済を1回~数回行うという取引パターンを長年維持していたが(甲2)、本件債権譲渡契約1の後は、平成20年11月2日に被控訴人との間で新たな貸付契約を締結するまで弁済のみを行っており、本件記載1の趣旨を正解していたとみるのが自然である。

4  当審における新たな争点に関する当事者の主張

(1)  被控訴人が併存的債務引受けを理由として第1取引において生じた訴外会社の過払金返還債務を承継するか(争点(5))

(控訴人)

ア 被控訴人は、平成19年6月18日に締結した本件提携契約(甲4・5条2項)及び同年10月16日に締結した本件債権譲渡契約1(甲7・14条2項)において、併存的債務引受条項を設け、併存的債務引受けをした。

イ 併存的債務引受けは、第三者のためにする契約であるが、債権者の受益の意思表示を必ず必要とするものではなく、仮に必要であるとしても、その内容は相当に希薄化させるべきであり、旧債務者の債務を新債務者が負担することが受益者の意思に反していないことを認め得るに足りるだけの意思表示があれば足りる。

本件記載2の「クオークローンにおける譲渡日までの取引に係る紛争等の窓口は、プロミスとなりますことを、あわせて連絡します。」との記載は、訴外会社との取引で発生した過払金返還債務を、被控訴人も負担することを表示したものであり、控訴人は、過払金返還請求が広く行われるようになっていた当時の状況の下、紛争の一つである過払金返還請求も被控訴人に対して行えると考え、これに異議なく同意して弁済を続けた。控訴人は、平成20年11月2日、被控訴人との間で新たに契約を締結したが、それまでの1年2か月間に控訴人と訴外会社との間の紛争が表面化すれば、被控訴人はその紛争解決を善良な管理者の注意をもって行い、過払金を支払ったときは、これを訴外会社に求償することができたのであり(甲7・14条2、4項)、控訴人が被控訴人と取引を行ったのは、控訴人が紛争等の窓口が被控訴人となることを認識していたからである。

したがって、被控訴人との間の借入れ及び弁済は受益の意思表示と評価できる。

(被控訴人)

ア 控訴人は、当審において初めて併存的債務引受けに関する主張をした。これは、控訴人の故意又は重過失によって時機に後れて提出された攻撃防御方法であり、本件の審理の完結を遅滞させるから、民訴法297条、157条1項により却下されるべきである。

イ 弁済は準法律行為であるから、それ自体意思表示を伴うものではないし、控訴人の弁済は、飽くまで、本件債権譲渡契約1により譲渡された債権に対するものであって、併存的債務引受けの存在とは関わりなく行われたものであるから、これを受益の意思表示と解することはできない。

(2)  被控訴人が第2取引のみによる過払金返還債務を負うか(争点(6))

(控訴人)

仮に、被控訴人が第1取引において生じた訴外会社の過払金返還債務を承継しないとしても、控訴人と被控訴人との間の第2取引では、別紙「利息制限法による計算書2」記載のとおり、取引終了時点である平成21年2月13日時点で過払金15万5000円及び確定利息1万2141円が生じているから、被控訴人は、第2取引のみでも過払金返還債務を負う。

(被控訴人)

ア 第2取引による過払金に関する控訴人の請求は、次のとおり不適法である。

(ア) 第2取引による過払金返還請求は、従前の請求と異なる請求原因事実による請求であり、質的にも量的にも従前の請求の一部請求の関係に立つものではないから、訴えの追加的変更に当たる。この訴えの追加的変更は、請求の基礎を変更し、本件訴訟手続を著しく遅滞させるから、被控訴人は、民訴法297条、143条1項、4項により不許を求める。

(イ) 第2取引による過払金請求が、訴えの追加的変更に当たらず、又は追加的変更が許されるとしても、控訴人は、その請求原因事実を当審において初めて主張した。これは、控訴人の故意又は重過失によって時機に後れて提出された攻撃防御方法であり、本件の審理の完結を遅滞させるから、民訴法297条、157条1項により却下されるべきである。

イ 第2取引による過払金に関する控訴人の請求は、次のとおり理由がない。

控訴人は、本件債権譲渡契約1の後、被控訴人に対する弁済を継続し、本件債権譲渡1につき異議を留めない承諾をした。したがって、仮に本件債権譲渡契約1の際、訴外会社の控訴人に対する債権の全部又は一部が消滅していたとしても、これを被控訴人に対抗することはできない(民法468条1項)。

仮に、被控訴人に第2取引による過払金返還債務が生じても、本件債権譲渡契約2(乙1)に伴うネオラインの免責的債務引受けにより被控訴人が返還債務を負わないことは、争点(3)で主張したとおりである。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件債権譲渡契約1により訴外会社の貸主としての契約上の地位が被控訴人に移転されたか)について

(1)  争点(1)に関する当裁判所の判断は、原判決7頁11行目から17行目を削るほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の1(原判決6頁16行目から7頁17行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)  控訴人は、本件債権譲渡契約1は、契約上の地位の譲渡とみるのが当事者の合理的意思に合致すると主張し、本件債権譲渡契約1が訴外会社の消費者ローン事業廃止に伴う顧客の承継のために行われ、併存的債務引受けを伴うことなどから、被控訴人が過払金返還債務も含めて承継する意思であったと主張する。しかし、証拠(甲4、7)及び弁論の全趣旨によれば、本件提携契約及び本件債権譲渡契約1が、被控訴人の消費者金融子会社の再編の一環として、子会社である訴外会社の貸付事業を停止した上、同社の顧客を選別し、選別にかなった顧客を同社から被控訴人に移動させる方針の下で行われたものであることは推認できるが、その際に契約上の地位の譲渡が行われたことを認めるに足りる証拠は何ら存しない。

また、控訴人は、訴外会社及び被控訴人から送付されてきた通知書を見て、被控訴人のカードを利用して融資が受けられることを期待して、被控訴人への弁済を続けたことをもって、契約上の地位が移転したと解することが合理的と主張する。そして、証拠(甲8)によれば、平成19年10月17日ころ、訴外会社及び被控訴人から、控訴人に対し、訴外会社は、訴外会社と控訴人との間の第1取引に基づく訴外会社の控訴人に対する貸付債権を被控訴人に譲渡し、被控訴人は、これを譲り受けた旨記載された通知書(本件債権譲渡通知書)が送付されたこと、同通知書には本件記載1、2の記載もされていたことが認められる(具体的な記載内容は後記3(2)イで認定するとおり。)。しかし、本件債権譲渡通知書が、控訴人に対し、契約上の地位の移転を表示したとみることができないことは、前記引用に係る原判決が説示するとおりである。なお、本件では、控訴人は、第1取引の大半の期間でおおむね月1、2回の借入れを行っていたが(甲2)、本件債権譲渡契約1の後は、平成20年11月2日に被控訴人との間で借入極度額を50万円とするいわゆるリボルビング方式の消費貸借についての基本契約(プロミス契約)を締結するまでの約1年にわたり、被控訴人に対して弁済のみを行っていることも認められ(甲3)、控訴人は、本件債権譲渡通知書によって、第1取引に基づく訴外会社の控訴人に対する貸付債権が存在し、それが訴外会社から被控訴人に譲渡されたものと考え、その弁済を続けたものと推認される。

したがって、契約上の地位の移転に関する控訴人の主張は採用できない。

2  争点(2)(被控訴人が訴外会社の負う過払金返還債務を承継しないと主張することは信義則に反するか)について

争点(2)に関する当裁判所の判断は、原判決8頁11~12行目の「訴外会社が事実上支払不能であることを認めるに足りる証拠はない」の次に「し、本件債権譲渡契約1が行われた時点で、第1取引においては既に過払金が発生し、債権譲渡の対象となった債権は既に消滅していたのであるから、被控訴人が本件債権譲渡契約1によって控訴人に対して債権を取得することはなく、本件債権譲渡契約1によって控訴人が法的な不利益を被るものでもない」を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の2(原判決7頁18行目から8頁16行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人が、本件債権譲渡は被控訴人のグループ全体での構造改革の一環であることを主張していることからすると、控訴人の主張は、過払金返還債務を訴外会社に残し、それによって過払金返還債務の全部又は一部の履行不能をもたらすようなグループ会社の構造改革が信義に反し、親会社である被控訴人は訴外会社が負担している過払金返還債務に関する法的な責任を負うべきであるという趣旨のもののようにも解される。しかし、一般的に親会社が子会社の債務に関して法的な責任を負わなければ信義則に反するとはいえないし、被控訴人が控訴人に対し、訴外会社の負担する過払金返還債務について被控訴人が責任を負うかのような説明を行ったというような事情も認めることはできない。そして、債権譲渡は、債務者の意思にかかわりなく債権者と譲渡を受ける者との契約で自由に行うことができるものであり、譲渡に当たって譲渡契約の当事者から債務者に対して何らかの説明を行う必要があるわけではない。

したがって、控訴人の主張が上記の趣旨であるとしても、その主張は採用できない。

3  争点(5)(被控訴人が併存的債務引受けを理由として第1取引において生じた訴外会社の過払金返還債務を承継するか)について

証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件債権譲渡契約1の締結当時、第1取引における訴外会社の控訴人に対する貸付債権は既に弁済により消滅し、過払金返還債務が生じていたと認められる。控訴人は、当審において、被控訴人が、本件提携契約及び本件債権譲渡契約1において併存的債務引受けをし、これを本件債権譲渡通知書により控訴人に通知し、控訴人が、本件記載2の「紛争」に過払金返還請求が含まれると考えて、被控訴人への弁済を継続することにより受益の意思表示をしたと主張するので、以下、この点について判断する。

(1)  時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて

本件記録によれば、控訴人は、原審においても、被控訴人が訴外会社の過払金返還債務を承継する理由として、併存的債務引受けを主張することが可能であったし、それは困難なことでもなかったと認められるので、これを当審において提出することは時機に後れており、控訴人の過失も否定できないが、控訴人の併存的債務引受けに関する主張は、前記第2の4(1)(控訴人)欄記載のとおりであって、前提とする事実関係を、契約上の地位の移転及び信義則違反に関する控訴人の主張と同じくし、特段、新たな審理を必要とするものではなく、訴訟の完結を遅延させるものであるとはいえないから、これを民訴法297条、157条1項によって却下することはできない。

(2)  併存的債務引受けによる承継の有無について

ア 控訴人は、本件提携契約の契約書(甲4)5条2項を根拠として、併存的債務引受けがされたと主張する。しかし、同項は、訴外会社が「契約顧客」に対して負担する債務を被控訴人が併存的に引き受ける趣旨の規定である。同契約において「契約顧客」とは、被控訴人との間で切替契約を締結した訴外会社の顧客を意味し(2条(4))、控訴人が被控訴人との間で切替契約を締結していないことは、控訴人の主張からも明らかである。したがって、上記主張は理由がない。

イ 控訴人は、本件債権譲渡契約1の契約書(甲7)14条2項を根拠として、併存的債務引受けがされたと主張する。確かに、同項には、併存的債務引受けの規定があるが、被控訴人又は訴外会社が、この併存的債務引受けを控訴人に通知したと認めるに足りる証拠はない。

控訴人は、本件債権譲渡通知書(甲8)の本件記載2が、併存的債務引受けの通知であると主張する。しかし、本件債権譲渡通知書は、表題を「債権譲渡通知兼譲受通知書」とし、「拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。株式会社クオークローン(以下、「クオークローン」といいます。)は、平成19年10月17日をもって、下記の金銭消費貸借契約に係る口座、およびこれに付帯する一切の権利(以下、「本債権」といいます。)をプロミス株式会社(以下、「プロミス」といいます。)に譲渡し、プロミスは本債権を譲り受けました。クオークローンからプロミスへの本債権の譲渡に関して、クオークローンは、民法第467条第1項に従い、本債権の譲渡人として本書面をもって通知します。(本債権の譲渡人であるクオークローンは、この債権譲渡通知の作成、発送事務を譲受人であるプロミスに委託しております。)またあわせて、プロミスは、貸金業の規制等に関する法律第24条第2項、および同第17条第1項に従い、本債権の譲受人として譲り受けた債権の内容について通知します。」と記載した上で、本件記載1及び本件記載2を記載し、「問合先」として被控訴人を、「契約者の氏名および住所、譲渡人の商号、住所および貸金業登録番号、譲受人の商号および住所」として控訴人、訴外会社及び被控訴人を、それぞれ表示し、「債権譲渡後の支払方法および支払場所」、「譲渡債権の内容」を記載したものである。この記載内容は、基本的には、訴外会社において、譲渡債権の債務者に対し、民法467条1項に基づく通知を行い、貸金業者である被控訴人において、貸金業法上、債権譲受時に義務付けられる17条書面を交付するものと理解されるものである。控訴人が主張する本件記載2については、上記通知等に伴い、新たな窓口を通知しようとしたものと理解されるものであり、客観的にみて、「譲渡日までの取引に係る紛争等の窓口」という文言のみから、過払金返還債務に係る債務引受けを通知したものとは認め難い。そして、控訴人の主張によっても、被控訴人及び訴外会社が、本件債権譲渡通知書以上に併存的債務引受けの効果を控訴人に及ぼすための何らかの行為をしたことはうかがわれない。したがって、被控訴人と訴外会社が甲7号証における併存的債務引受けの法的効果を直ちに控訴人に及ばせようとする意思であったか否かは必ずしも明らかではない。

仮に、これが控訴人に効果の及ぶ第三者のためにする契約として行われたものであるとしても、上記認定のとおり、本件債権譲渡通知書は、基本的には債権譲渡の通知(及び債権譲渡に際しての17条書面の交付)であり、債権譲渡の通知を受けた者が、譲受人を新たな債権者と認識することは当然であるから、控訴人が新たな債権者を被控訴人と認識し、被控訴人への弁済を継続したことから、本件債権譲渡通知書により併存的債務引受けを認識し、その利益を享受しようとしたとは認められない。控訴人は、本件記載2にある「紛争」の記載から、紛争の一つである過払金返還請求も被控訴人に対して行えると考え、これに異議なく同意して弁済を続けたと主張するが、控訴人の弁済が本件取引1に基づく貸付債権が存在し、それが被控訴人に譲渡されたものと考えたためと認められることは、前記1(2)で認定したとおりであり、上記主張は採用できない。

なお、控訴人は、本件債権譲渡契約1(甲7)の14条2、4項を根拠として、プロミス契約までの1年2か月間に過払金に関する紛争が表面化すれば、被控訴人が、その紛争解決を善良な管理者の注意をもって行うことになったと主張するが、本件全証拠によっても、当時、控訴人が本件債権譲渡契約1の上記条項を知っていたとは認められないから、控訴人がそのような紛争解決を期待して弁済をしていたとは認められない。そして、本件債権譲渡契約1における併存的債務引受条項が、平成20年12月15日、撤回(合意解約)されたことは、原判決が摘示するとおりであるが、他にそれより前に控訴人が受益の意思表示をしたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、併存的債務引受けに関する控訴人の主張は採用できない。

4  争点(6)(被控訴人が第2取引のみによる過払金返還債務を負うか)について

以上によれば、被控訴人は、第1取引により生じた訴外会社の過払金返還債務を承継しない。しかし、控訴人は、被控訴人との間で、第2取引を行い、既に消滅した貸付債権の弁済を行っているほか、新たに被控訴人との間で基本契約を締結し、借入れと弁済を繰り返しているところ、控訴人は、第2取引のみでも被控訴人は返還債務を負うと主張することから、以下、この点について判断する。

(1)  訴えの追加的変更の不許の申立て及び時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて

本件訴訟は、控訴人が被控訴人に対し、第1取引及び第2取引(原判決別紙「利息制限法による計算書」1~286の取引)による不当利得の返還を求める訴訟である。その請求原因は、第2取引(同別紙267~286)による不当利得返還請求の請求原因を含むから、第2取引のみで被控訴人が不当利得返還債務を負う場合には、当然にその部分を認容すべきものであり、第2取引のみによる過払金を求める控訴人の主張は、訴えの変更又は新たな攻撃防御方法の提出には当たらない。

(2)  被控訴人の過払金返還債務について

ア 本件債権譲渡契約1の締結当時、第1取引による訴外会社の控訴人に対する貸付債権が既に消滅していたことは、前記認定のとおりであるから、原判決別紙「利息制限法による計算書」267~279の弁済(プロミス契約前弁済金)は、既に消滅した貸付債権に関するものであり、被控訴人は、これを不当利得として返還すべき義務を負うというべきである。

そして、前記認定のとおり、本件債権譲渡契約1が、被控訴人の消費者金融子会社の再編の一環として、子会社である訴外会社から親会社である被控訴人に対してなされたものであったことや、第1取引が13年以上の長期にわたって借入れと弁済を繰り返されたものであり、本件債権譲渡通知書(甲8)には「譲渡債権の内容」として、控訴人と訴外会社との消費貸借契約の貸付利率が29.2%で、最終契約日は平成6年4月15日、最終貸付日は平成19年9月17日であることが明記され、過払金の発生が容易に予測できるものであったことなどの事情を考慮すると、被控訴人は、控訴人から受領したプロミス契約前弁済金について悪意の受益者であったと認めるのが相当である。

イ 控訴人は、平成20年11月2日、被控訴人との間でプロミス契約を締結しているところ、証拠(甲3、乙7~9)によれば、同契約は、被控訴人が訴外会社から譲り受けた第1取引による貸付債権のうち31万8031円が同契約締結時においても残存していることを前提として、これを同契約に基づく残存債権とみなし、以後、借入極度額50万円の限度で、追加貸付けと弁済が繰り返されることが合意されたものと認められるから、同契約は、第1取引による貸付債権に対する弁済として被控訴人が受領した弁済金によって過払金が発生していれば、当該過払金をプロミス契約に基づく新たな借入金債務に充当する旨の合意(過払金充当合意)を含むものと解される。被控訴人の譲り受けた第1取引による貸付債権は、前記のとおり、実際には存在しなかったものであるが、それが存在することを前提として控訴人から被控訴人に対する弁済が繰り返されていた(甲3)のであるから、上記貸付債権の不存在は、上記過払金充当合意の効力を左右するものではない。そして、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、プロミス契約後、原判決別紙「利息制限法による計算書」280、281、285及び286の取引により被控訴人から合計22万円を借り入れ、同282~284の取引により被控訴人に対し合計6万円を弁済したことが認められ、これとプロミス契約前弁済金を合計した弁済金総額31万5000円は、上記借入金額を上回るから、被控訴人は、上記プロミス契約後の弁済金についても、不当利得として返還すべきものであり、また、上記アで説示したところによれば、被控訴人は、その受領についても悪意の受益者と認められる。

以上を前提に計算すると、被控訴人が返還すべき不当利得の金額は、別紙「利息制限法による計算書2」記載のとおり、第2取引終了時である平成21年2月13日の時点において、元本15万5000円、確定利息1万2141円と認められる。

ウ 被控訴人は、本件債権譲渡契約1の後、控訴人が被控訴人に対する弁済を継続したことをもって、債権譲渡につき異議を留めない承諾をしたと主張し、民法468条1項により、控訴人は訴外会社の控訴人に対する貸付債権の消滅を被控訴人に対抗することができないと主張する。

しかし、控訴人は、本件債権譲渡通知書により債権譲渡の通知を受け、被控訴人が債権譲渡について債務者に対する対抗要件を備えたから弁済したにすぎず、弁済をしたことが異議を留めない承諾になることはない。なお、仮に控訴人の弁済に異議を留めない承諾と解する余地があるとしても、被控訴人がプロミス契約前弁済金について悪意の受益者であったと認められることは、既に説示したとおりであるから、被控訴人が民法468条1項によって保護されることはない。

エ 以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、16万7141円及びうち15万5000円に対する平成21年2月14日から支払済みまで年5分の法定利息を付して、これを返還する義務を負うことになる。

5  争点(3)(仮に、被控訴人が控訴人に対して過払金返還債務を負うとしても、本件債権譲渡契約2によりネオラインがこの債務を免責的に引き受けたといえるか。)について

被控訴人は、第2取引による過払金返還債務について、本件債権譲渡契約2により、ネオラインが免責的債務引受けをしたと主張するが、ネオラインの免責的債務引受けについて控訴人が承諾した事実は、本件全証拠によっても認められないから、被控訴人の上記主張は理由がない。

第4結論

以上によれば、控訴人の請求は、被控訴人に対し、16万7141円及びうち15万5000円に対する平成21年2月14日から支払済みまで年5分の法定利息の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないので、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田剛久 裁判官 田川直之 東亜由美)

(別紙)利息制限法による計算書2<省略>

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