大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成23年(ネ)555号 判決 2012年2月22日

控訴人

学校法人Y学園

同代表者理事長

同訴訟代理人弁護士

片桐敏栄

被控訴人

X1

被控訴人

X2

上記両名訴訟代理人弁護士

金子修

磯部亘

田原俊雄

江森民夫

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文同旨

第2事案の概要

1  本件事案の概要は,以下のとおり補正し,後記3及び4のとおり当審における当事者双方の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」に記載のとおりである(書証の枝番の記載は省略することがある。)から,これを引用する。

(1)  原判決2頁末行の「廃止された」の次に「〔なお,以下を含め,「年度」は当年4月から翌年3月までの期間をいう。〕」を加える。

(2)  原判決3頁18行目末尾の次に「Bは,平成21年3月に新潟県立高等学校(以下「県立高校」ともいう。)の校長を退職し,同年4月に控訴人高校の校長に就任し,Cが同月に控訴人高校の副校長に就任した。なお,D副校長は平成20年12月に退職し,E校長は退職後の平成21年8月に死亡した(証拠・人証<省略>)。」を,19行目の「雇用契約」の次に「(以下「本件X1雇用契約」ともいう。)」をそれぞれ加える。

(3)  原判決4頁8行目の「雇用契約」の次に「(以下「本件X2雇用契約」ともいい,本件X1雇用契約と併せて「本件雇用契約」という。)」を加える。

(4)  原判決5頁16行目の「X1雇止め及びX2雇止め」の次に「(以下,併せて「本件雇止め」ともいう。)」を加える。

2  原審は,被控訴人らの控訴人に対する請求(被控訴人らがそれぞれ控訴人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認,未払賃金(平成19年4月から同年12月までの未払賃金)及びこれに対する平成19年12月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払,将来の賃金(平成20年1月から本判決確定の日までの賃金)及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払の請求)を全部認容した。

控訴人は,これを不服として,本件控訴を提起した。

3  当審における控訴人の主張

(1)  本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されないこと

ア 就業規則と本件雇用契約等

本件雇用契約の内容及び効力は,当該雇用契約と就業規則等によって判断されるべきであるところ,非常勤講師に適用される就業規則と本件雇止めに至る経緯等は次のとおりである。

(ア) 控訴人には,昭和37年4月1日施行の「学校法人a高等学校就業規則」(証拠<省略>。以下「昭和37年就業規則」という。),「学校法人a高等学校職員就業規則(昭和40年6月1日)」(証拠<省略>。以下「昭和40年就業規則」という。),平成16年4月1日施行の「a高等学校非常勤講師就業規則」(証拠<省略>。以下「非常勤講師就業規則」という。)及び「a高等学校就業規則」(証拠<省略>。以下「一般就業規則」といい,非常勤講師就業規則と併せて「平成16年就業規則」という。)がある。なお,昭和40年就業規則2条ただし書は,同就業規則が非常勤講師には適用されない旨定める。

(イ) 昭和37年就業規則8条3号は,職員としての身分を失う場合として,期間の定めのある雇用が満了したときを定めている。被控訴人ら非常勤講師は,期間の定めのある職員であり,毎年度における採用又は更新の際は,採用年度の4月1日付け辞令書(発令事項として「a高等学校非常勤講師に採用する。」旨,その年度の報酬月額,採用期間が当該年の4月1日から翌年の3月25日までである旨が記載されている。)が交付された(証拠<省略>)。

また,平成16年就業規則は,労働基準監督署に届け出て平成17年6月24日に発効した(これにより,昭和37年就業規則は改正された。)が,一般就業規則2条2項は,「高校に勤務する前項以外の非常勤の講師及び臨時に勤務する者の就業については,法令の定めによるほか,この規則の主旨を体し,当事者の契約による。」と定め,また,非常勤講師就業規則は,非常勤講師の採用期間を「12月の範囲内で理事長が必要と認める期間とする。」ことなどを定めており,採用期間の終了によって非常勤講師はその身分を失う。

(ウ) 新潟県には,県立学校非常勤講師取扱要領(証拠<省略>。昭和55年4月1日制定,平成6年3月17日最終改正)があり,非常勤講師の採用は辞令を交付して行うものとし,上記取扱要領の趣旨を解説した学校長宛ての通知(証拠<省略>)には,非常勤講師は採用期間満了をもって当然失職するものであるので,辞令交付の際に了知させることが記載されている。控訴人高校は,平成16年より前の非常勤講師の雇入れ及び更新契約の手続にこれを準用しており,被控訴人らも県立高校の非常勤講師を兼職した場合は,上記取扱要領の適用を受けていた。

(エ) 平成15年法律第104号による改正後の労働基準法14条3項に基づく平成15年10月22日付け厚生労働省告示357号「有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準」(証拠<省略>。以下「本件告示」という。)は,1条に契約締結時の明示事項等,2条に雇止めの予告,3条に雇止めの理由の明示を定めており,平成16年から行政指導によって実施された。

(オ) 控訴人は,この行政指導に従い,被控訴人らに対し,平成16年度及び平成17年度には,従来の辞令書に加え,雇入通知書(雇用期間,勤務場所,勤務内容,担当教科,休暇,給与,その他の労働条件が記載されている。)を交付し,また,平成17年12月22日付けの「来年度の雇用に関して(通知)」を郵送して平成18年度の契約更新の見込みと更新契約の締結が確約できないことを告知したが(証拠<省略>),同年度の契約更新の必要が生じたので,平成18年3月24日付け雇入通知書(証拠<省略>)を交付した。

控訴人は,被控訴人らに対し,平成18年12月27日付けの「来年度の雇用に関して(通知)」を郵送して平成19年度の契約更新の見込みと更新契約の締結が確約できないことを告知し(証拠<省略>),同年度の契約更新の必要がなかった(同年度はカリキュラムが変更され,理科及び数学については,専任教員の兼務等により,非常勤講師の必要がなくなった。)ので,E校長は,被控訴人X2に対しては平成19年2月23日に口頭で,被控訴人X1に対しては同月26日付け書面(証拠<省略>)により,それぞれ本件雇止め,すなわち同年度の採用(非常勤講師契約の更新)はされない旨を告知した。なお,控訴人は,被控訴人らの求めにより,同年3月2日付けの労働基準法22条2項所定の解雇理由証明書を被控訴人らにそれぞれ郵送した。

(カ) 以上のとおり,控訴人は,平成19年度は本件雇用契約の更新の必要がなかったので本件雇止めをし,その旨を被控訴人らに告知したものであって,就業規則及び当時の法令に基づいた手続を行っており,被控訴人らに対し,継続雇用の期待を抱かせるような行為を殊更行ったことはない。

イ 非常勤講師について

(ア) 非常勤講師は,① 担当授業の専門科目について教員免許を要する専門職であって,専門科目の授業以外の授業その他の職務は一切担当しない,② 1週間18時間単位以内の授業を担当するために採用され(証拠<省略>),その授業担当単位で雇用契約が締結される,③ 専任教員らが担当する週おおむね17~18時間単位を超える専門科目の授業時間を補うためのパート勤務である,④ 授業担当時間数は,在学生徒数,クラス数,カリキュラム編成・内容変更,生徒の選択及び専任教員の病気・退職等の要因によって,年々大きく変動する,⑤ 兼職が可能である,⑥ 専門職であることから,本人に意思があれば職の確保が可能であり,契約の締結・更新に選択の自由が確保されているなど,専任教員とは異なり,企業の雇用調整のために短期の有期雇用契約を締結した単純臨時工などとも本質的に異なっている。

被控訴人らは,いずれも自らの事情により一貫して非常勤講師を続け,兼職をしていたもので,平成21年度以降,他の学校において,平成18年度の控訴人高校における受け持ち時間数よりも多い時間数の授業の担当(兼職を含む。)をしている(証拠<省略>。別紙1及び別紙4参照)。

控訴人は,被控訴人らについて,平成15年度以前は県立高校の場合と同様の手続によって,また,平成16年度以降は本件告示に定める手続を付加して,非常勤講師として採用・更新していたが,被控訴人らは,その前後を通じていずれも県立高校の非常勤講師を兼務し,新潟県及び控訴人の採用手続に習熟していた。したがって,被控訴人らは,契約が多数回更新され,勤務期間が長期に及んだからといって,控訴人に非常勤講師として継続雇用されるとの期待を抱くことはあり得ず,これを期待していたとしても,昭和37年就業規則の失職規定や本件告示に従った手続が既にされていたことからすれば,その期待は法的保護に値するものではない。また,前記のとおり,平成16年度以降の更新手続はより厳格化されており,それ以前の契約とは連続性を欠いているから,10年ないし20年前の更新手続によって平成18年度及び平成19年度の更新手続を評価することはできない。

非常勤講師は,毎年のカリキュラム編成の結果,専任教員で担当しきれない授業を毎年締結する契約に基づいて担当するものであり,その採用・更新の回数が多く期間が長くなったからといって,不必要な非常勤講師を雇い続けなければならないものではなく,そのように解しなければ,私立高校の経営は成り立たない。

(イ) なお,控訴人高校は,看護科(昭和42年設置,平成14年度入学者から5年制,平成17年度から4年履修)を有しており,その教員の大部分を占める医師及び看護師が教員免許を有していないため,非常勤講師の数が他校に比べて多い(証拠<省略>)。控訴人高校における看護科を除く非常勤講師数の推移等は,別紙1の生徒数・専任教員数・非常勤講師数・原告2名授業時間数推移表に記載のとおりである。

また,非常勤講師の研修参加は,その能力向上に資するが,継続雇用を見越したものではなく,非常勤講師が教材の研究と選定,小テストのプリント等をするのは,専任教員と同一専門科目を担当する以上当然の業務であり,私学共済組合への加入や賞与及び退職金の支給も継続的雇用を前提とするものではなく,いずれも被控訴人らに継続雇用を期待させる事由とはならない。

(2)  本件雇止めが有効であること

本件雇止めについては,解雇権濫用法理の類推適用の余地はなく,整理解雇の要件の充足の有無にかかわらず,有効である。

また,仮に解雇権濫用法理が類推適用されるとしても,本件雇止めが有効であることは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の2(2)(被告の主張)イ(原判決23頁以下)において主張したとおりである。

なお,理科・数学担当の教員・講師数と時間は別紙2のとおりであり,生徒数・授業時間数・専任教員担当時間数減と非常勤の必要性・消費収支は別紙3のとおりである。

(3)  平成20年度以降の雇用継続について

ア 本件雇用契約は,1年の有期雇用契約であり,平成19年度に雇用契約が継続されるとしても,平成20年度以降にそれが継続されることにはならない。被控訴人らの平成20年度以降の非常勤講師としての地位確認請求についての主張立証責任は被控訴人らにあり,控訴人がその主張立証をしていないことを理由に平成20年度以降も雇用契約の効力が継続する旨の判断をすることは許されない。

イ 控訴人は,原判決が平成20年度以降も被控訴人らが雇用契約上の地位を有することを確認したので,これを前提として,被控訴人らに対し,事前の通知をした上で,平成23年3月18日付け「平成23年度・非常勤講師不採用のご通知」を郵送し,同通知は,同月24日に被控訴人X1に,同月20日に被控訴人X2にそれぞれ到達した(証拠<省略>)。

したがって,被控訴人らは,少なくとも平成23年4月1日以降は,上記地位を有しない。

4  当審における被控訴人らの主張

(1)  本件雇止めに解雇権濫用法理が適用又は類推適用されること

ア 有期雇用契約の雇止めにつき解雇に関する法理の適用ないし類推適用を認めるべきことは,最高裁判例(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁〔東芝柳町事件〕,最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決・判タ629号117頁〔日立メディコ事件〕,最高裁昭和62年10月16日第二小法廷判決・労働判例506号13頁〔平安閣事件〕,最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号668頁〔神戸弘陵学園高校事件〕)等における確定した判例法理であり(判例は,一貫して,形式的な契約文言で判断するのではなく,労働の実態を具体的に分析し,有期労働者の雇用の継続に対する合理的な期待を保護しようとしている。),近時の立法の流れにも合致している。

イ 被控訴人らの業務が専任教員と差異がないこと,控訴人の被控訴人らに対する長期の雇用継続を期待させる言動や対応があったことは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の2(1)(原告らの主張)ア(原判決5頁以下)において主張したとおりである。なお,高校教員の仕事の中核は授業活動であるが,被控訴人ら非常勤講師は,翌年度の担当授業を決定する会議に出席し,専任教員と一緒に翌年度の授業の担当・配分を決め,教材の研究・選定をし,専任教員と同様に1人で担当授業時間の実際の授業を行い,専任教員と対等に自らの創意工夫で授業内容を築き上げ,テストの作成や採点,生徒の成績評価,シラバスの作成,補習の実施等を行い,更に生徒指導や生徒の相談相手となるなど,生徒らの人間的・人格的成長のための活動を続けてきたものであって(証拠<省略>),専任教員の場合と同じ状態にあったというべきである。

控訴人は,平成16年度以降は手続が厳格化されたので被控訴人らが当然更新のないことを理解していた旨主張する。しかし,一旦発生した雇用の合理的期待は容易に奪うことができないところ,控訴人は,同年度以降,被控訴人らに対し,意向調査のための通知書を送ったものの,契約更新に当たって校長や理事長等による個別面接といった意思確認手続を行わず,被控訴人らが個別に副校長や教頭に対して契約更新の意思を伝えても,雇止めの方針を的確に認識させ納得を得る努力もしておらず,雇用の継続がないことを期待しないことがむしろ合理的と見られるような事情の変更や,新たに当事者間で雇用の継続がないことが合意されたなどの事情もないから,被控訴人らの雇用継続に対する期待の合理性は遮断・消滅することはなく,上記控訴人の主張は失当である。

ウ 被控訴人ら私立高校の非常勤講師は,長期的・継続的雇用のため専任教員と共同の仕事の分担も多くなり,共に教育を作っていく同僚として協力し合い,人間的つながりを深め,職場を自己実現の場として積極的に守ろうとし,切磋琢磨して教員としての力量を高めていくことになるのであって,これを短期的・不安定な雇用関係で補充的な役割にとどまる公立高校の非常勤講師と同様に扱うのは誤りである。

なお,県立高校と控訴人高校の教員の身分の違いは,別紙5のとおりである。

エ 控訴人高校には,非常勤講師就業規則(平成16年就業規則)が制定されるまでは,非常勤講師の労働条件を規律する就業規則はなかった。仮に昭和37年就業規則が非常勤講師に適用されるとしても,控訴人高校において非常勤講師は継続的雇用が前提となっており,雇用継続を期待することに合理性があったから,同就業規則8条3号における期間の定めのある雇用が満了したときに職員としての身分を失う旨の規定は,非常勤講師には適用されなかった。なお,控訴人の就業規則に関する主張は,変転しており,それ自体失当である。

(2)  本件雇止めが無効であること

本件雇止めが無効であることは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の2(2)(原告らの主張)(原判決17頁以下)において主張したとおりである。

なお,控訴人高校における教員全体中の非常勤講師の割合は,別紙6のとおりである(証拠<省略>の兼務職員欄の数を教員欄全体の数で除して計算したもの。平成10年以降のかっこ内の数字は,証拠<省略>により看護科を除いた場合の人数に基づく割合を示す。)。別紙6のとおり,控訴人高校では,本件雇止め以前の32年間における非常勤講師の割合は最低28.4%,最高52.4%,平均37.5%であり,看護科を除いても30%弱を占めていたのであって,本来専任教員を雇うべき時間数がありながら採用を控え,非常勤講師で補うことによって人件費を抑えるという方針を一貫して採用していたことは明らかである。

(3)  平成20年度以降の雇用継続について

ア 私立学校の非常勤講師は,専任教員の持ち時間を超えた部分を補うとともに,人件費削減のために本来専任教員を充てるべきところを賄うという特色を持っている。したがって,生徒数が減少し,総授業時間数が減少したとしても,持ち時間数の振り分けの結果,専任教員の持ち時数を超える部分は絶えず発生し,また,人件費削減のために専任教員の代用として専任教員の持ち時間数に匹敵する時間を担当することがあり得るのであるから,平成20年度以降の被控訴人らの契約上の地位の確認請求は認められるべきである。

イ 控訴人は,被控訴人らに対し,平成23年度の雇止め通知をしたが,これによる雇止めは,社会通念上相当と認められる客観的合理的理由がないから無効であり(労働契約法16条),信義則及び公序良俗に違反するから無効である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,被控訴人らの控訴人に対する請求は,いずれも理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

2  本件における事実関係は,以下のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1に認定のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決26頁25行目の「本人〕及び」を「本人及び後掲証拠〕並びに」に改める。

(2)  原判決27頁1行目冒頭から18行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 控訴人高校には,昭和37年4月1日に施行された昭和37年就業規則(証拠<省略>)及び同就業規則を廃止して平成16年4月1日に制定され,労働基準法89条に基づき平成17年6月24日に三条労働基準監督署長に就業規則(変更)届(証拠<省略>)がされて効力を有するに至った平成16年就業規則(証拠<省略>,乙14の非常勤講師就業規則及び証拠<省略>の一般就業規則)がある。

昭和37年就業規則8条本文は,「職員が次の各号の一に該当するに至ったときは,その日を退職の日とし,職員としての身分を失う。」と定め,同条3号は,「期間の定めのある雇用が満了したとき」と定める。

一般就業規則2条1項は,同規則において,教職員とは,控訴人高校に常時勤務する専任の教育職員,事務職員,技術職員及び用務職員をいうと定め,同条2項は,控訴人高校に勤務する前項以外の非常勤の講師及び臨時に勤務する者の就業については,法令の定めによるほか,この規則の主旨を体し,当事者の契約によると定める。また,非常勤講師就業規則は,非常勤講師を1週間18単位時間以内の授業を担当するため採用された有資格者をいうとし(第2),非常勤講師の採用は理事長が行い,非常勤講師を採用しようとする場合又はその採用期間を更新して引き続き採用しようとする場合,校長は理事長に内申するものとし(第3),採用期間は12月の範囲内で理事長が必要と認める期間とし(第4),報酬は週担当単位時間数に1単位時間当たりの単価を乗じて得た額を月額により支給する(第5)こと等を定めている。

イ 被控訴人X1は,昭和57年4月から平成19年3月まで(ただし,昭和58年4月から同年8月まで,昭和60年11月から昭和61年1月まで,昭和63年1月から同年3月までの間を除く。),控訴人と各年度ごとの雇用契約を締結し,控訴人校長名又は理事長名の辞令書を受領し(平成16年度分ないし平成18年度分は雇入通知書も受領した。),控訴人高校の非常勤講師として控訴人に採用されて勤務していた(証拠<省略>)。また,控訴人は,被控訴人X1に対し,平成18年度の雇用及び平成19年度の雇用について,それぞれ,確約できる状況ではないが,雇用を希望するときは事前に校長又は副校長に申し出るよう記載した平成17年12月22日付け及び平成18年12月27日付け「来年度の雇用に関して(通知)」と題する書面(証拠<省略>)を送付した。

また,被控訴人X2は,平成元年4月から平成7年3月まで及び平成8年4月から平成19年3月まで,控訴人と各年度ごとの雇用契約を締結し,控訴人校長名又は理事長名の辞令書を受領し(平成16年度分ないし平成18年度分は雇入通知書も受領した。),控訴人高校の非常勤講師として控訴人に採用されて勤務していた(証拠<省略>)が,平成7年度は,控訴人から提示された授業時数が週7時間であり,私立学校共済組合に加入することができなかったため,自らの意思によって契約を更新せず,控訴人高校における勤務をしなかった(被控訴人X2本人)。また,控訴人は,被控訴人X2に対し,平成18年度の雇用及び平成19年度の雇用について,それぞれ,確約できる状況ではないが,雇用を希望するときは事前に校長又は副校長に申し出るよう記載した平成17年12月22日付け及び平成18年12月27日付け「来年度の雇用に関して(通知)」と題する各書面(証拠<省略>)を送付した。

なお,控訴人が被控訴人らに交付した前記各雇入通知書には,雇用期間(雇用期間の定めがあること〔各年度初日の4月1日から翌年3月25日まで〕),勤務場所(a高等学校),勤務の内容(非常勤講師),担当教科及び時間数,休暇,給与(月額,支払日,賞与の有無,通勤手当の支給,退職金の有無),その他の労働条件が記載され(証拠<省略>),平成18年度の各雇入通知書(証拠<省略>)には,契約の更新に関する事項として,「1 契約更新の有無:更新する場合があり得る。有無については,期間満了1ヶ月前までに通知する。2 契約更新をする判断基準 (1)更新する場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数が発生した場合で,余人がなく,健康状態が良好で上記雇用期間勤務できる者 (2)更新しない場合:専任教員の持ち時数を超える授業時数がない場合または勤務成績が良好でない場合」と記載されており,これと前記各「来年度の雇用に関して(通知)」と題する書面は,平成15年法律第104号による改正後の労働基準法14条3項に基づく本件告示1条及び2条の趣旨に合致するものであった(証拠<省略>)。

ウ 控訴人高校の非常勤講師は,クラス担当,教務・生活指導・生徒指導・進路指導等の校務,クラブ活動指導等の任務は負担していない。

また,非常勤講師は兼職が禁止されておらず,被控訴人X1は,控訴人高校に勤務中,新潟県立b高等学校,新潟県立c高等学校,新潟県立d高等学校において非常勤講師として勤務する等し,被控訴人X2は,控訴人高校に勤務中,新潟県立e高等学校において非常勤講師として勤務したことがあった(被控訴人X1本人,被控訴人X2本人)。

エ 控訴人高校の専任教員は,一般就業規則の適用を受け,勤務時間は1週間につき40時間以内であり,兼職は禁止されており,その報酬は,「a高等学校教職員給与規程」によるものとされており,クラス担当,教務・生活指導・生徒指導・進路指導等の校務,クラブ活動指導等の任務を負担している。」

(3)  原判決32頁23行目の「同月26日」を「平成19年2月26日」に改める。

3  本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるか(争点(1))について

(1)  被控訴人らは,本件雇止めに解雇権濫用法理が適用又は類推適用されるから,これが有効であるといえるためには合理的理由があること(整理解雇に準ずる要件を充足していること)が必要である旨主張し,控訴人は,本件雇止めに解雇権濫用法理が適用又は類推適用されず,本件雇止めは有効である旨主張する。

(2)  期間の定めのある雇用契約であっても,期間満了ごとに当然更新され,あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には,期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり,その実質に鑑み,その効力の判断に当たっては,解雇に関する法理を類推適用すべきであり,また,労働者が契約の更新,継続を当然のこととして期待,信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続,維持されてきた場合には,そのような契約当事者間における信義則を媒介として,期間満了後の更新拒絶(雇止め)について,解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁〔東芝柳町事件〕,最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決・判タ629号117頁〔日立メディコ事件〕参照)。

そこで,前記認定事実を前提に,本件雇止めにおいて,解雇に関する法理が適用又は類推適用されるべきであるか否かを以下に検討する。

(3)  前記認定のとおり,被控訴人X1は,昭和57年度から平成18年度まで25年間にわたって,控訴人との間で年度ごとに締結した雇用契約に基づき,控訴人高校において理科の非常勤講師として勤務し(ただし,合計11箇月は実際の勤務はしていない。),また,被控訴人X2は,平成元年度から平成7年度まで及び平成9年度から平成18年度までの17年間にわたって,控訴人との間で年度ごとに締結した雇用契約に基づき,控訴人高校において数学の非常勤講師として勤務していたものであるが,非常勤講師は,クラス担任及び生活指導等は行わず,校務分掌にも入っておらず,兼職も禁止されておらず(現に被控訴人らは,いずれも控訴人高校の非常勤講師在勤中に新潟県立高等学校の非常勤講師を兼務していた。),給与体系や適用される就業規則が専任教員と異なり,勤務時間数も各年度の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によって変動するものであった(これに対し,専任教員は基本的に1週40時間以内と決まっていた。)。

これらの点からすれば,被控訴人らと控訴人との間の雇用契約が,実質において専任教員の場合と同じく期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあったものといえないことは明らかである。なお,被控訴人らは,非常勤講師も翌年度の担当授業を決定する会議に出席し,専任教員と一緒に翌年度の授業の担当・配分を決め,教材の研究・選定をし,専任教員と同様に1人で担当授業時間の実際の授業を行い,専任教員と対等に自らの創意工夫で授業内容を築き上げ,テストの作成や採点,生徒の成績評価,シラバスの作成,補習の実施等を行い,更に生徒指導や生徒の相談相手となるなど,生徒らの人間的・人格的成長のための活動を続けてきたものであって,専任教員の場合と同じ状態にあったというべきであると主張するが,それらの活動は,教員であることに基づくものであり,そのことによって雇用の条件等が異なる非常勤講師と専任教員とを同列に扱うことはできない。

(4)  また,非常勤講師は,専任教員の持ち時数を超える授業時数が発生した場合に採用されるものであり(これは自明のことであり,被控訴人らもこのことを認めている。),非常勤講師に担当させるべき授業時数がないにもかかわらず,これを捻出して非常勤講師を採用しなければならないものではない。そして,非常勤講師が担当する授業時数があるか否か,あるとしてどの程度の時数となるかは,どのようなカリキュラムが編成されるかによって変動するものであることも自明である。実際にも,被控訴人らがそれぞれ控訴人高校の非常勤講師として各年度に担当した授業時数は,別紙1「生徒数・専任教員数・非常勤講師数・原告2名授業時間推移表」の「X1時間数」及び「X2時間数」欄に各記載のとおり異なっており(証拠<省略>),被控訴人X1については,昭和57年度から平成18年度の間に担当した時間は,最大で週16時間,最小で週5時間であり,被控訴人X2については,平成元年度から平成6年度まで及び平成8年度から平成18年度の間に担当した時間は,最大で週15時間,最小で週7時間であった。なお,実際に担当する授業時数が判明した後に,非常勤講師としての雇用契約を締結するか否かは,非常勤講師が自由に選択することができた(被控訴人X2が平成7年度について授業時数が週7時間であることが判明した後に雇用契約を締結しなかったことは前記認定のとおりである。)。

したがって,次の年度のカリキュラム編成がされておらず,非常勤講師に担当させるべき授業時数が生ずるか否かが明らかではないにもかかわらず,被控訴人らが次年度も控訴人高校に非常勤講師として採用されるものと期待したとしても,その期待が合理性のあるものとはいえない(このことは,控訴人高校における非常勤講師の採用が従来から人件費削減のために本来専任教員を充てるべきところを賄うという面があったとしても,同様である。)。

(5)  その他,被控訴人らが挙げる事情も,雇用契約の継続の期待が合理的なものとする根拠とはならない。

ア すなわち,被控訴人らと控訴人との間の非常勤講師としての雇用の更新手続についての事実認定は,引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」中の1(4)に認定のとおりであり,平成15年度分以前の更新手続においては,被控訴人らが口頭で意向を問われて口頭で回答し,辞令書も年度開始後に交付されることがあったが,平成16年度分以降は,辞令書のほかに雇入通知書が交付され,平成18年度分の雇入通知書には契約更新に関する事項が明記され,また,同年度分以降の更新については前年度中(前年の12月頃)に「来年度の雇用に関して(通知)」と題する文書が送付されていた。平成15年度分までの手続は厳格なものではなく,口頭での回答意向に控訴人から何らの連絡がないような場合において,被控訴人らが雇用契約が更新されるものと期待することには一応の合理性があったといえなくもない。

しかし,平成16年度分以降は手続が厳格化され,しかも辞令書及び平成16年度分以降の雇入通知書には,採用期間又は雇用期間は1年である旨が,また,平成18年度分の雇入通知書には,契約は更新する場合があり得るにすぎず,更新の有無については期間満了の1箇月前までに通知する旨が,さらに,平成17年12月22日付け及び平成18年12月27日付けで送付された「来年度の雇用に関して(通知)」と題する文書には,次年度の雇用については学級数や生徒数が不透明であるため確約できる状況ではない旨がそれぞれ明記されていたのであって,それにもかかわらず平成19年度以降にも雇用契約が更新されるものと期待するのは,到底合理的なものとはいえない。なお,この点について,被控訴人らは,一旦発生した合理的期待は容易に奪うことはできない旨主張するが,既に平成18年度の雇用契約を締結する以前の時点において,同年度以降の契約が更新されるか否かが確約できる状況でないことが明示されていたにもかかわらず,雇用継続に対する期待を持ち続けるととは不合理というべきであり,上記主張は失当である。

イ 被控訴人らは,控訴人高校において,非常勤講師が意に反して雇止めされた例は見当たらない旨主張し,被控訴人X1は,更新を希望しながらその意思に反して契約更新がされなかった例を知らない旨供述する。

しかし,被控訴人X1の認識が上記供述のとおりであったとしても,そのことによって現実に非常勤講師の希望にかかわらず更新されなかった例が皆無であったことにはならないし,また,仮に被控訴人X1が控訴人高校の非常勤講師として勤務していた間にそのような例がなかったとしても,そのことによって非常勤講師が希望すれば必ず更新されることになると期待することは合理的なものとは考えられない。

ウ 被控訴人らは,教師としての能力を高める研修に参加したことがあり,その費用は控訴人が負担したが,そのことは,被控訴人らの控訴人高校における非常勤講師としての勤務が永続することを予定するものであったとはいえない。

エ 被控訴人らについては,雇用契約上の雇用期間ではない毎年度3月26日から同月31日の間も,私学共済組合への加入が継続されていた(ただし,被控訴人X1は,平成18年度には私学共済組合に加入していない。)。これは,担当する授業時数など継続加入のための他の要件が充足される場合に,被控訴人ら非常勤講師の利益を保護するために執られた措置であると推測されるが,実際には非常勤講師として雇用されていない期間にも私学共済組合への加入が継続されていたからといって,次年度にも非常勤講師としての雇用契約が必ず締結されるものではなく,そのような契約の締結を期待することに合理性があるとはいえない。

(6)  以上のとおり,被控訴人らが本件雇用契約の継続を期待することに合理性があるとはいえないから,本件雇止めにつき,解雇に関する法理を適用又は類推適用すべき余地はない。

そうすると,控訴人と被控訴人らとの雇用契約は,平成18年度の契約の終期である平成19年3月25日をもって終了し,雇用契約が締結されていない平成19年度以降,被控訴人らが,それぞれ雇用契約上の権利を有する地位にないこと,及び,同年度以降の未払賃金を有しないことは,その余の点について判断するまでもなく明らかである。

4  結論

よって,被控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ,これを認容した原判決は失当であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上繁規 裁判官 笠井勝彦 裁判官 菅野正二朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例