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東京高等裁判所 平成23年(ネ)6678号 判決 2013年4月25日

控訴人

Y株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

岩出誠

村林俊行

木原康雄

被控訴人

訴訟代理人弁護士

野澤裕昭

宮坂浩

三枝充

主文

1  原判決主文第2項及び第3項を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも、すべて被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文第1項及び第2項同旨

第2事案の概要

1(1)  海上運送業及び一般区域(限定)貨物自動車運送事業等を営む控訴人は、平成22年6月15日、控訴人の技能職員(トレーラー運転手)であり、労働組合(dユニオン)の執行委員長であった被控訴人に対して、「事業縮小等会社の都合」、「余剰人員削減のために実施した希望退職者募集及び退職勧奨によっては、削減人員の定数に満たなかったための整理解雇」(甲1(書証<省略>)の解雇理由証明書)を理由として、同日付けで解雇するとの意思表示をした(以下「本件解雇」という。原判決7頁22行目参照)。

(2)  本件は、(1)により解雇された被控訴人が、人員整理の必要性はなく、被解雇者として被控訴人を選定したのは、控訴人に対して時間外手当の支払を求める別件訴訟の提起を理由とするものであり、人選の合理性もないから、本件解雇は、整理解雇が有効とされるための要件を欠き、解雇権の濫用として無効なものであり、また、被控訴人が所属する組合であるdユニオンの弱体化を企図した不当労働行為に当たるから無効であると主張して、控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件解雇の日の属する月の翌月である平成22年7月から毎月末日限り月額33万7733円の賃金(直近3か月の平均賃金)及びこれに対する各支払期日(毎月末日)の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(3)  これに対して、控訴人は、本件解雇が、減少せざるを得なくなった保有車両の関係で生じた余剰人員を削減するという企業経営上の必要性に基づくものであったから、整理解雇の必要性があり、また、本件解雇に先立って希望退職者の募集等の整理解雇を回避するための努力も尽くしており、さらに、被解雇者として被控訴人を選定したのは、その非協調的な言動に対する他の従業員の強い反感や不信感が蓄積し、控訴人の業務の適正な遂行に支障が生じていたことを考慮したものであり、選定手続も公正かつ合理的なものであったから、本件解雇は整理解雇が有効とされるための要件をすべて具備していると主張して、本件解雇が解雇権の濫用に当たることを争うとともに、本件解雇が不当労働行為に当たることも否認して、被控訴人の本訴請求を争った。

2  原審は、被控訴人の本件訴えのうち、判決確定の日の翌日以降の賃金及び遅延損害金の支払を求める部分について、将来給付の訴えの利益を欠くものであり不適法であるとして却下した上で、本件解雇の時点において、控訴人には高度の人員削減の必要性があったとはいえず、また、解雇に先立ち十分な解雇回避のための努力が尽くされているともいえず、さらに、人選の合理性についても公正さに欠ける面があったから、本件解雇は整理解雇が有効とされるための要件を欠く無効なものであると判断して、被控訴人が雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、平成22年7月から判決確定の日まで毎月末日限り月額33万7733円の賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の本訴請求を認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴し、敗訴部分の取消しと、同部分についての被控訴人の本訴請求の棄却を求めた。

3  本件における前提となる事実、争点及びこれに対する当事者の主張は、次項において、「当審における控訴人の補充主張」を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2の1及び2に記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決4頁20行目の「被告は、各労働組合に対し、中小企業緊急雇用安定助成金制度を活用することの同意を求めたが」を「控訴人は、技能職在籍者40名のうち就業者を33名、休業者を7名として、中小企業緊急雇用安定助成金制度を活用し、就業及び休業については輪番制とすることなどを骨子とする第2次再生計画についての同意を求めたが」に、同8頁5行目の「平均賃金は、月額33万7733円であった。」を「平均賃金は、通勤手当、時間外手当及び成果給を含めて、月額33万7733円であった。」に、それぞれ改める。)。

4  当審における控訴人の補充主張

通勤手当は実費保障であり、また、時間外手当も時間外勤務を命じられて現実に就労した場合に初めて発生するものである。さらに、成果給も、実際の勤務状況についての控訴人の査定に基づき、控訴人が支給を決定して初めて具体的な請求権として発生するものである。したがって、仮に本件解雇が無効とされ、その後の賃金請求権が認められるとしても、被控訴人は、本件解雇の後には実際に通勤や就労をしていない以上、その平均賃金額の算定に当たっては、通勤手当、時間外手当及び成果給の額を控除するべきである。

第3当裁判所の判断

1  被控訴人は、本件解雇が無効である理由として、①整理解雇の要件を欠き、解雇権の濫用に当たること、②dユニオンに対する不当労働行為(不利益的取扱い、支配介入)に当たることを主張しているので、以下、これらの無効事由について順次検討するところ、当裁判所は、本件解雇が、有効な整理解雇とされるための要件を具備している上、不当労働行為に当たるとも解されないから、解雇権の濫用には当たらず、本件解雇は有効なものというべきであり、被控訴人の本訴請求(判決確定後の賃金等の支払を求める部分を除く。)はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

2  解雇権の濫用について

(1)  本件解雇はいわゆる整理解雇であり、対象とされた従業員に対して、経営上の必要から人員削減を実現するために、従業員にとって生計の途である労働契約関係を解消することの当否が争点となっている事案である。そして、労働契約法によれば、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇権の濫用として無効となる(同法16条)のであり、整理解雇は、従業員の側には責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、使用者による一方的な解雇の意思表示によって雇用関係を解消するというものであるから、整理解雇を巡る事情を総合的に考慮し、使用者の経営上の必要性と、解雇される従業員の利害得失とを比較考量して、その効力を判断する必要があるというべきである。そして、整理解雇の有効性については、具体的には、①整理解雇(人員整理)が経営不振など企業経営上の十分な必要性に基づくものか否か、又はやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、②使用者が人員整理の目的を達成するための整理解雇を行う以前に、労働者の不利益がより小さく、客観的に期待可能な措置を取っているか否か(解雇回避努力義務の履行)、③被解雇者の選定方法が相当かつ合理的なものであるか否か(被解雇者選定の合理性)、④整理解雇の必要性とその時期、規模、方法等について使用者が説明をして、労働者と十分に協議しているか否か(手続の妥当性)などを総合的に勘案した上で、整理解雇についてのやむを得ない客観的かつ合理的な理由の有無という観点からその効力を判断するのが相当である。

(2)  そこでまず、整理解雇の必要性(人員削減の必要性)について検討する。

ア 証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショックによる景気減速の影響を受けて、1か月当たりの売上げが急減し(それ以前の月平均の売上金額に比べて、同年11月は約15%、同年12月は約25%減少した。)、燃料費の高騰等も加わり、その採算性が悪化していたこと、同年12月には、顧客のe社等から代金の繰上げ支払を受け、また、消費税や社会保険料の支払を留保して、ようやく従業員の給与等の支払原資を確保できるほどの厳しい経営状態であったこと、控訴人は、平成13年頃以降、金融機関からの新規融資が受けられず、上記のようなe社等からの支援を得ることができたものの、同社等からは事業規模に合わせた設備や人員の縮小を求められていたこと、そのような経緯を踏まえて、控訴人は、平成21年1月15日付けの本件会社再生計画(書証<省略>。原判決4頁15行目参照)を策定したことが認められる。

この本件会社再生計画は、控訴人の保有車両を51台から33台に減少させ、技能職員56名を33名に、事務職員15名を10名にそれぞれ大幅に削減することや、一律10%の賃金削減等を骨子とするものであるところ、この計画の内容自体は、当時の控訴人の経営状態や経営環境を踏まえると、再建計画として不合理なものであったと認めるに足りる証拠はない。なお、控訴人は、その後、dユニオンを含む労働組合との団体交渉を踏まえて、技能職員の在籍者数を40名とする一方、いわゆるワークシェアリングを導入して、中小企業緊急雇用安定助成金を活用する方針を提案したところ、dユニオンを除く3労働組合(組合員は技能職員50名)はこれに同意したものの、被控訴人が属するdユニオン(組合員は技能職員4名)はこれに同意しなかった(証拠<省略>)。そこで、控訴人は、希望退職者を募集した結果、平成22年4月には、技能職員が40名となり、保有車両も38台にまで減少したものの、さらに、同年6月から導入が予定されていたいわゆる排ガス規制により、保有するトラクター2台の使用が禁止され、廃車にせざるを得なくなった。しかし、新たに代替車を購入することは財政的に困難であり、また、利益率も考慮した上で、控訴人は、傭車を利用する方針でこれに対処することにした。その結果、控訴人の保有車両は36台になる一方、技能職員は40名であったから、4名の余剰人員を抱えることになった(書証<省略>)。なお、保有車両が38台であったときにおいても、控訴人は、ワークシェアリング(平成21年3月から8月まで)、5名に対する自宅待機命令(同月から同年12月まで)及び交代乗車(同月以降)に加え、役員の報酬や従業員の給与等の削減などの措置を講じていた(証拠<省略>)。

以上のような経緯ないし状況を踏まえて、控訴人は、平成22年5月に希望退職者4名を追加募集したものの、応募者が予定数に達しなかったことから、本件解雇に踏み切った(原判決7頁5行目以下参照)のであり、本件解雇時において人員削減の必要性があったものと認めるのが相当である(なお、甲38(書証<省略>)によれば、控訴人は、平成23年8月と平成24年6月にそれぞれ1名の技能職員を新規採用していることが認められるが、いずれも本件解雇後のことであり、平成22年11月、同年12月、平成23年1月、同年3月及び平成24年9月に各1名の技能職員が退職していることに照らすと、上記の新規採用の事実により、上記の結論が左右されるものではない。)。

イ これに対して、控訴人が第51期(平成21年4月1日から平成22年3月31日)には1億円を超える経常利益を計上しており、同期の純利益が約1億1300万円の赤字となっているのは関連会社に対する不良債権の償却を図るために約1億8000万円の引当金を計上したことによるものであるから、本件解雇の時点において、人員削減を要するほど控訴人の経営状況が悪化していたとはいえないと被控訴人は主張する。しかしながら、控訴人は、同期においても、年間の売上高である約10億円を上回る長短期の借入金債務(計10億7000万円)を負担しており、さらに経費の削減を要する状態にあり(書証<省略>)、また、人員の削減以外にその経営を改善させる具体的で有効な対策があったわけでもないことからすると、被控訴人が指摘する上記の点を考慮したとしても、本件解雇時において人員削減の必要性がなかったとは到底解することができない。

また、控訴人は、利益率が高いことを理由に代替車を購入せずに、傭車を利用する方針を採ったことにより余剰人員が生じる結果となったのであるから、整理解雇を要するほどの人員削減の必要性があったとすることは許されないと被控訴人は主張する。しかしながら、経営再建中の控訴人がその方針を決定するに当たって利益率を考慮することはむしろ当然のことというべきである上、代替車を購入するか傭車を利用するかという問題は、基本的には経営陣がその企業経営についての専門的な知見と経験等に基づき、その後の見通しを踏まえた合理的な経営判断という見地から決定すべき事項というべきである。したがって、控訴人が利益率を考慮して傭車の利用を方針として採用したことにより余剰人員が生じる結果になったとしても、整理解雇においてこれによる人員削減の必要性を主張することは何ら妨げられるものではないというべきである。

(3)  次に、解雇を回避するための努力義務の履行について検討する。

本件解雇に至るまでの経緯については(2)のとおりであり、平成22年4月頃の段階において、技能職員4名を削減する必要性があったところ、控訴人は、雇用の維持を優先する方針に基づき、中小企業緊急雇用安定助成金を利用したワークシェアリングの再開を提案したものの、いずれの労働組合からも同意を得ることはできなかった(書証<省略>。原判決6頁20行目以下参照)。そこで、控訴人は、同年5月7日、所定の退職金に一律100万円を加算することとして、希望退職者4名を募集したが、結局、応募者は3名に止まった。そのため、控訴人は、同月28日、被控訴人に対し、所定の退職金に250万円を加算するとして、退職勧奨を行ったものの、被控訴人はこれに応じなかったのである(この加算額の根拠等については、必ずしも明確にはなっていないものの、当時の控訴人の経営状況に加え、100万円の加算という条件でも3名の応募者があったことや、約8か月分の賃金に相当する額であることを考慮すると、250万円の加算は相応の内容のものであったと評価するのが相当である。)。なお、控訴人の従業員は技能職員と事務職員とにより構成されているところ、本件会社再生計画に基づき、既に事務職員も大幅な削減をしていることから、技能職員である被控訴人を事務職員として配置転換することは困難であったものと認められる(原審における控訴人代表者及び弁論の全趣旨)。そして、(2)で認定した控訴人の当時の経営状態に加え、これを打開する適切な改善策が見当たらない状況において、上記のような本件解雇に至る経緯を考慮すると、控訴人は、被控訴人を解雇するに先立って、これを回避するための方策を講じていたものと評価するのが相当である。

この点について、G(以下「G」という。)が希望退職に応募していたにもかかわらず、控訴人がこれを慰留した結果、Gはその後申出を撤回しており、希望退職者の募集は形式的なものであって、控訴人が本件解雇を回避するための努力を尽くしたとはいえないと被控訴人は主張する。しかしながら、Gを含めても希望退職に応じたのは3名に止まり、予定していた4名には達していなかったのであり、また、G以外の応募者であるD及びFは現に退職しているのであるから、被控訴人が指摘する上記の事実をもって、希望退職者の募集が形式的なものにすぎなかったと解することができない。また、控訴人は、平成22年4月19日付けでワークシェアリングの再開を提案し、同年5月7日には希望退職者を募集しているところ、同年4月30日までにa労働組合を含む3労働組合がワークシェアリングの再開に反対していたのであり(書証<省略>)、その後の希望退職者の募集の開始自体はやや性急で拙速との感は否めないものの、2台の保有車両の廃車手続の時期が間近に迫っていたことも考慮すると、上記の希望退職者の募集が本件解雇の実施に向けての形式的なものにすぎなかったとは解することができない。

(4)  次に、人選の合理性について検討する。

ア 控訴人は、希望退職の応募者が募集人数に達しなかったことから、被控訴人を選定して解雇しているところ、選定の理由について、被控訴人の非協調的な言動により、他の従業員に反感ないし不信感が生じており、控訴人の適正な業務運営にも支障が生じる事態に至っていたと主張する。

イ 被控訴人ら6名は、平成19年5月30日、控訴人に対して、同年4月支給分までの時間外手当の支払を求める第1次訴訟(原判決3頁20行目参照)を提起し、また、本件会社再生計画の策定後である平成21年5月28日にも、平成19年5月支給分以降の時間外手当の支払を求める第2次訴訟(原判決4頁4行目参照)を提起している。これらの提訴は、控訴人との関係においてはまさに正当な権利行使として、何ら非難されるべきものでないことは明らかであるが、そのことと、被控訴人と他の従業員との関係、すなわち、企業の存続と従業員の雇用の継続を優先して権利主張を自ら抑制した他の従業員(書証<省略>)が上記のような被控訴人の行動をどのように受け止めていたかということについては、自ずから別の問題というべきである。

被控訴人は、かつてa労働組合の書記長の地位にあったが、平成19年7月20日、その地位を解任された。そして、第1次訴訟の原告であったHがアルコールチェックの数値結果を理由として解雇されたことから、被控訴人及びHを含む6名は、同組合を脱退して、同年9月6日、これと運動方針が基本的に異なるc労働組合に加入したものの、被控訴人ら4名は、和解による早期の職場復帰を望むH及びc労働組合との間で、第1次訴訟の進行方針を巡って意見が対立し、c労働組合を脱退して、平成20年2月27日、dユニオンを結成するに至った。なお、その後、被控訴人は、a労働組合に対して再加入を申請したが、同組合はこれを拒否している。(証拠<省略>、弁論の全趣旨。原判決3頁初行以下参照)

このほか、被控訴人は、控訴人宛の平成21年3月19日付けの回答書(書証<省略>)において、ワークシェアリングに反対する意向を表明するとともに、「会社が主張する33名体制にするならば、あと7名の希望退職者を募るべきである」と主張していたことも考慮すると、再建途上の控訴人において、企業の存続と雇用の継続を第一に考える控訴人の他の従業員らが、被控訴人について自己中心的で協調性に欠ける人物として受け止めるにとどまらず、嫌悪感を抱き、反発するようになったことは必ずしも不自然なこととはいえず、現に多くの従業員が被控訴人の職場復帰を拒絶する意思を表明していることもあながち理解できないわけではないところである(書証<省略>)。

ウ 技能職員を削減する必要がある状況のもとにおいて、勤務成績等に照らし、被控訴人以外に被解雇者として選定されてもやむを得ないといえる職員がいたにもかかわらず、上記の嫌悪感等を主たる理由として被控訴人が選定されたというのであればともかく、そのような職員の存在を認めるに足りる証拠のない本件においては、そもそも労働契約が労使間の信頼関係に基礎を置くものである以上、他の従業員と上記のような関係にあった被控訴人を、業務の円滑な遂行に支障を及ぼしかねないとして、被解雇者に選定した控訴人の判断には企業経営という観点からも一定の合理性が認められるというべきであって、これを不合理、不公正な選定ということはできない。なお、本件においては、控訴人の経営陣も、イで述べた従業員と同様の被控訴人に対する強い嫌悪感を抱いており、そのことが整理解雇の対象者の人選に影響していることは否定できないところであるが、そのような事情があったからといって、被控訴人を対象者に選定したことが直ちに不合理、不公正なものとなるものではないと解するのが相当である。

(5)  以上のような人員削減の必要性や、本件解雇の回避に向けた控訴人の対応及び人選の合理性を総合的に考慮すると、本件解雇は整理解雇が有効とされるための実体的な要件を具備しているものというべきであり、本件解雇が控訴人による解雇権の濫用に当たり違法なものであったとは解することができず、また、控訴人が保有車両の減少を理由に人員を削減する方針を採っていることは被控訴人も承知していたところであり、控訴人は本件解雇に際して、「会社並びに従業員間の協調性に欠けるという点を重視して、選定した」などと解雇理由等について被控訴人に説明しているのであるから、本件解雇に至る手続においても、これを個別に見ると被控訴人の反発や不信感を増幅させるような控訴人の対応もなかったわけではないことはうかがわれるものの、なお解雇の違法性を基礎付けるほどの手続上の事由があったとは認めることができないというべきである。

したがって、本件解雇は、整理解雇が有効とされるための要件を具備しているから、解雇権の濫用に当たらず、有効というべきである。

3  不当労働行為について

被控訴人は、本件解雇が、訴訟を提起するなどにより控訴人の経営方針に異議を唱える被控訴人に対する嫌悪意思に基づく不利益取扱い(労働組合法7条1号)であり、また、dユニオンの弱体化を図る支配介入(同条3号)であるから、本件解雇は無効であると主張する。

しかしながら、被控訴人の第1次訴訟等の提起は、dユニオンの組合活動として行われたものではないことは明らかであるから、本件解雇が同法7条1号所定の事由に当たると解することはできない。そして、被控訴人はdユニオンの執行委員長であるが、2で述べたように、人員削減の必要性や人選の合理性が認められることに加え、控訴人は、本件解雇を通告した日に、a労働組合の執行委員長であったEに対しても同様に解雇を通告していることをも考慮すると、本件解雇がdユニオンに対する支配介入であり、同条3号所定の事由に当たるということもできないと判断するのが相当である。

したがって、本件解雇が不当労働行為に当たるとの被控訴人の主張を採用することもできない。

第4結論

以上によれば、本件解雇は有効なものと判断されるから、被控訴人の本訴請求(判決確定後の賃金等の支払を求める部分を除く。)はいずれも理由がなく、これを棄却すべきところ、これと異なる原判決主文第2項及び第3項はいずれも相当でないから、これを取り消して、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田隆文 裁判官 渡邉弘 裁判官 齊藤顕)

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