東京高等裁判所 平成23年(ネ)7789号 判決 2012年11月29日
控訴人兼被控訴人
X(以下「第1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士
船尾徹
同
山口泉
同
堀浩介
同
早瀬薫
同
長尾詩子
同
今村幸次郎
同
小川英郎
被控訴人兼控訴人
Y1株式会社(以下「第1審被告会社」という。)
同代表者代表取締役
A
被控訴人兼控訴人
Y2(以下「第1審被告Y2」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士
山中健児
同
吉野公浩
同
土屋真也
同
星野菜蕗子
同
橘大樹
同
塚越賢一郎
主文
1 第1審原告の本件控訴を棄却する。
2 第1審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。
3 控訴費用は,これを10分し,その1を第1審被告らの負担とし,その余は第1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
(第1審原告の控訴)
1 第1審原告
(1) 原判決中第1審原告の敗訴部分を取り消す。
(2) 第1審原告が,第1審被告会社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(3) 第1審被告会社は,第1審原告に対し,平成22年6月以降,毎月25日限り,1か月22万0848円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4) 第1審被告会社は,第1審原告に対し,40万円及びうち20万円に対する平成23年4月1日から,うち20万円に対する平成23年7月6日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(5) 第1審被告らは,第1審原告に対し,各自,480万円及びこれに対する平成22年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第1審被告ら
主文第1項同旨
(第1審被告らの控訴)
1 第1審被告ら
(1) 原判決中第1審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2) 第1審原告の請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告
主文第2項同旨
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,第1審被告会社と雇用契約を締結した第1審原告が,(1) 第1審被告会社から雇用期間1年の満了により同契約が終了したとして,雇止め(更新拒絶)を通告をされたが,この雇止めは無効であると主張して,第1審被告会社に対し,ア 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認,イ 平成22年6月以降,毎月25日限り,1か月22万0848円の賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払,ウ 40万円の賃金(一時金)及びうち20万円に対する履行期の翌日である平成23年4月1日から,うち20万円に対する履行期の翌日である平成23年7月6日から各支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,(2) 第1審被告会社における第1審原告の上司であった第1審被告Y2が,第1審原告に対して,第1審被告会社からの退職を強要するなどして,第1審原告の人格権を侵害したと主張して,第1審被告Y2に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づいて,第1審被告会社に対しては不法行為(使用者責任)及び債務不履行(職場環境調整義務違反等)による損害賠償請求権に基づいて,慰謝料500万円及びこれに対する本件雇用期間満了の日である平成22年4月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,第1審原告の請求について,第1審原告の第1審被告らに対する損害賠償請求のうち各自に20万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余をいずれも棄却した。これに対し,第1審原告と第1審被告らの双方が控訴した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,後記3のとおり当事者双方の追加主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2ないし4(原判決3頁7行目から22頁22行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決15頁3行目の「正社員登用にける」を「正社員登用における」と,同20頁23行目の「ないようにに」を「ないように」と改める。
3 当事者双方の当審における主張
(第1審原告の主張)
(1) 本件雇止めに解雇権濫用法理の類推適用があるのは,原判決判示のとおりであるが,問題は,その場合の判断基準である。
本件の契約制客室乗務員制度は,1年間の有期限雇用の契約社員として第1審被告会社に入社し,3年間経過後に正社員へ移行するというものであるが,その趣旨・目的は,雇用形態が異なることを理由として,契約社員の賃金を従来の正社員よりも切り下げ,人件費の削減を図ることにあり,それ自体に積極的ないし合理的意味はまったくない。
そして,第1審被告会社の契約制客室乗務員は,職務内容や勤務条件が正社員客室乗務員と同一で,労働組合との団体交渉において,使用者側が「よほどのことがない限り,契約更新するのは当たり前です。」と発言するなど,雇用継続を期待させる第1審被告会社の言動があり,更新手続が形骸化しており,3年未満で雇止めされる例や3年経過後に正社員への切替えがなされない例はほとんどなく,従来正社員として採用していた客室乗務員について全面的に契約社員として採用することに切り替えられたものであるという事情が存在するのであるから,本件雇用契約は,期間の定めのある雇用契約ではあるが,期間の定めのないものと実質的に異ならない。
仮にそうでないとしても,第1審被告会社の契約社員制度は,従来,正社員として採用してきた客室乗務員につき,そのすべてを契約社員として採用し,3年経過後に切り替えるというものであること,社員の募集要項にも「1年間の有期雇用,但し,契約の更新は2回を限度とし,3年経過後は,本人の希望・適性・勤務実績を踏まえて正社員への切替えを行います。」「長期勤続によるキャリア形成を図る」と明記していること,労働組合との団体交渉においても上記のとおりの言動があったこと,3年未満で雇止めされる例や3年経過後に正社員への切替えがなされない例はほとんど存在しないこと,以上の事実に照らせば,第1審原告が2年目から3年目への契約更新について期待を持つのは当然である。第1審原告は,募集条件(大学卒業,TOEIC600点以上等)を満たし,厳しい採用試験(一次面接,二次面接,筆記試験,三次英会話面接,体力測定,身体検査)に合格して,平成20年5月13日に第1審被告会社に入社し,2か月の初期訓練を受けて資格審査に合格し,客室乗務員に任用され,その後平成22年4月30日に雇止めされるまで,正社員(雇用期間の定めのない)客室乗務員と同内容の業務を行ってきたもので,その間平成21年6月頃には全客室乗務員に年1回義務付けられている定期救難訓練を受け,その筆記試験及び実技審査にも合格した。このような厳格な審査を経て,法令上の資格を保持しながら,客室乗務員としての業務に従事してきた第1審原告が,客室乗務員として長期に勤務すること,すなわち,3年間を契約社員として勤務し,3年経過後は正社員として勤務し続けることについて強い期待を持つのは当然であり,かつ,その期待は客観的に見て高度の合理性がある。
また,第1審原告の勤務実態は,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の定める要件を満たしているので,第1審被告会社は,解雇規制を含むあらゆる労働条件を正社員と均等に待遇することが要請される。仮に,同条の直接適用がないとしても,第1審原告の就業の実態は正社員と同様なのであるから,労働契約法3条2項の適用により,正社員に対する解雇規制の在り方との間に均衡が保たれなければならない。
以上のとおりであるから,本件雇止めの効力を判断するにあたっては,正社員に対する解雇法理と同等の判断基準が用いられなければならない。
正社員に対する成績不良解雇については,それが単なる成績不良ではなく,企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害が生じる恐れがあり,企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し,かつ,その他,是正のため注意し反省を促したにもかかわらず,改善されないなど今後の改善の見込みもないこと,使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと,配転や降格できない企業事情があることなども考慮して解雇権濫用の有無を判断すべきである。また,正社員に対する労働能力や適格性の欠如を理由とする解雇が有効とされるのは,平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込がないときでなければならない。
すなわち,本件で雇止めが有効とされるのは,能力・適性の欠如の程度が著しく,企業から排除せざるを得ない程度に及んでおり,適正な教育・指導を受けたにもかかわらず改善・向上の見込がないという場合に限られるというべきである。
(2) 第1審被告会社は,第1審原告が業務適性を欠くということに関する極めて多数の事実関係を主張する。
しかし,これらの事実関係の中には,旅客機の運行に支障を生じさせたもの,第1審被告会社の経営や運営に支障を生じさせたもの,第1審被告会社又は乗客に損害を与えたもの,あるいは,第1審原告自身の不正行為は一つも含まれていない。また,不安全事象として社内に周知されたものも,乗客からコメントカードで指摘されたものや乗客から第1審被告会社の苦情窓口(CS推進室,お客様サポート室)に申し出のあった事象もまったくない。
第1審被告会社の主張する事実関係なるものは,そのほとんどすべてが,第1審被告Y2が,第1審原告の性格や人間性に対する主観的な否定的評価に基づいて,第1審原告の適性欠如を示す事由であると決め付けて評価したものばかりである。このような評価については,他の管理職による複数チェックも,客観的妥当性の検証も行われていない。これらの事実関係は,他の客室従業員から見れば,そもそも業務適性欠如の根拠にならないものばかりなのである。
第1審原告は,入社後約2か月を経過して,試用期間が終了し本採用されるとともに,客室乗務員に任用された。したがって,その当時,第1審原告に客室乗務員としての労働能力や適格性に欠けるところはなかったのである。第1審原告に適性が真に欠如していたというのであれば,第1審被告会社としては,この段階で,本採用拒否も可能であったはずであるが,そのような措置は取られていない。第1審原告は,その後も,平成22年4月に雇止めとなるまで,一貫して,客室乗務員の職務を遂行してきた。その間,一度も乗務からはずされて日勤教育を受けるなどしたことはなかった。したがって,第1審原告には,客観的に見て,客室乗務員としての業務適性に欠けるところはないのである。
以上のとおり,第1審原告には,そもそも,労働能力・業務適性の欠如は存在せず,本件雇止めは無効である。
(3) 退職をしないと何度も意思表明をしている第1審原告に対し,退職を決断させる目的・動機のもとに,平成21年3月,4月頃から同年9月19日に至るまで,その決断を迫るために執拗にかつ繰り返し行われた第1審被告Y2の一連の感情的・侮蔑的言動は,その目的,内容,方法,程度等に照らして,第1審原告の人格,人間としての尊厳を著しく侵害するいわゆるパワーハラスメントとして,違法な不法行為とされるべきものである。
第1審被告会社は,第1審被告Y2が1回目の雇用契約更新前後から,第1審原告に退職を繰り返し迫っていた事実を知悉しており,第1審原告の人格を侵害し,退職を強要した第1審被告Y2の行為について,使用者として第1審被告Y2を指導・監督すべき立場にあったのであるから,その使用者責任は重大である。
第1審被告らの不法行為の目的・動機,内容,態様,期間等を総合的に検討すると,第1審原告の蒙った精神的損害は甚大であり,慰謝料額としては500万円が相当である。
(第1審被告らの主張)
(1) 第1審被告会社を含む多数の航空会社では,客室業務に就く従業員は,当初期間の定めのある契約社員として採用され,一定期間の経験を経た上正社員としての業務適性があると認められた場合に初めて,正社員として登用されることが前提となっている。契約社員は,正社員登用の可否が判断されるまでの3年間,1年間の期間を区切って毎年の期間満了時に更新の可否を判断されつつ,育成プログラムに沿った教育指導を受けて正社員として勤務するに足る能力を習得する。このように,契約社員の地位は,正社員としての業務適性を判断するための経験の過程と位置付けられており,権限の範囲については,客室における一般サービス業務に限定され,客室全体の責任者である先任業務及びクラス毎の責任者であるクラスインチャージ業務(国際線のみ)に就くことができないなど正社員とは明確に区別されている。かかる契約制客室乗務員制度は,合理的なものである。
そして,本件雇用契約の更新の際には,期間満了毎に業務適性を審査の上で更新の可否を判断するとの厳格な更新手続が取られていること,上記のとおり,契約社員の地位が正社員としての業務適性を判断するための経験の過程と位置付けられており,そのため業務・権限の範囲が正社員とは明確に区分され客室業務のうち一部に限定されていること,平成6年に採用された102名の契約社員のうち正社員となったのは89名であり,その余の社員は退職等により,正社員としての採用には至っておらず,当然に契約更新がなされるものではないこと,第1審被告会社の契約社員の労働契約においては,1年間という期間が明記されており,契約の更新に関しては,勤務実績が一定水準に達しない場合は雇止めとなる旨,会社が必要とし本人が希望する場合のみ契約を更新することがある旨が定められ,契約の自動更新についての記載が何ら存在しないこと,契約社員との最初の契約締結時においても,第1審被告会社は,契約社員となる者に対し,新入社員の入社教育初日の冒頭において就業規則19条(雇用期間)の読み合わせを行うなど契約社員は1年間の有期雇用であることを通知していること,契約社員の募集・採用にあたって,雇用継続を約束する言動はなされていないこと,以上の事情に照らせば,本件において雇用継続の期待の程度が高いと評価する根拠はなく,むしろ雇用継続の合理的期待は存在しなかったというべきである。
また,本件雇用契約の更新の際には,期間満了毎に業務適性を審査の上で更新の可否を判断するという厳格な更新手続が取られているため,期間の定めのない労働契約と同視することが相当な状況にはなく,契約社員の業務・権限の範囲は正社員とは明確に区分され客室業務のうちの一部に限定されているので職務の内容が同一とはいえず,本件雇用契約に短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の適用はない。
以上のとおりであるから,本件雇止めの効力を判断するにあたっては,正社員と同様の基準で判断すべき旨の第1審原告の主張は,当を得ないものである。
(2) 客室乗務員としての乗務にあたっては,乗務中における不適切な行為により重大な事故に繋がる可能性がある。第1審原告は,ストッパーをかけ忘れる,乗客より機内で預かった杖を固定せずに通路に放置する,機内ギャレーのコンパートメントドアを開けたままにするなど機内の事故に繋がりかねない行為を行っている。そして,他の客室乗務員のフォロー等により,実際にはクレーム等に至っていない事例が存在するものの,通常運航にあたっては,一定の人員配置で運航を行うために,一定範囲の客席・ドア,ギャレー毎に担当を決め,担当となっている範囲の業務については,基本的に担当者一人で処理する体制をとっており,ある客室授業員の業務について,他の客室授業員が常にフォローをすることは想定されておらず,また実際にフォローすることには限界がある。第1審原告について,雇用の継続が問題となるような安全に関係するトラブルはなかったなどと評価できるものではない。
また,第1審被告会社の事業における客室乗務員のサービスの水準は高いものが乗客からは求められており,第1審被告会社の事業を継続するためには,かかる乗客から求められるサービスの水準を維持することが必要となる。しかるに,第1審原告は,離陸前に食事中の団体旅客に対し,離陸までまだ時間があるにもかかわらず,次々と旅客の両手に弁当と飲み物を持たせて,一帯のテーブルを強制収納した事例を始めとして,客室乗務員として求められる水準の接客対応ができておらず,その結果,乗客のクレームに至ることもあった。かかるサービスに関する業務が十分にできていなかったことも,本件雇止めの一因となるものである。
(3) 原判決においては,平成21年9月14日及び同月15日における第1審被告Y2の言動について,第1審原告が同月5日付け書面で自主退職しない意思を示していることを前提に,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であると評価し,不法行為に該当するものとしている。
しかし,第1審原告作成の第1審被告Y2に宛てた同日付け手紙は,第1審被告Y2らが第1審原告に繰り返し注意指導を行う都度,何度も繰り返し作成してきた「努力いたします」「危機感を持って行動するよう心がけます」「猛省しております」などと記載した文書やメール等と同様の内容を「努力」「危機感」「猛省」の用語を織り込んで作成したものに過ぎず,特に退職しない意思表示を行ったものではない。
また,第1審原告は,職務上の過誤・懈怠・問題行動について注意を受ける都度,「反省」「猛省」と繰り返し表明しながら,結局改善せず,勤務中の過誤,懈怠,問題のある行動を繰り返すという状況にあった。同年8月31日から9月3日にかけて,第1審原告が休暇を取得した直後にも,「猛省いたしました」などと表明しながら,その直後の9月11日,12日と続けて,勤務中の過誤,問題のある行動を繰り返した。このように,第1審原告には勤務中の行動につき何らの改善が見られないことから,このままであれば,顧客,会社に重大な損害を発生せしめ,第1審原告本人についても,重大な過失,失敗等を引き起こし,懲戒処分等何らかのペナルティの対象とされかねないことが懸念される状態であった。そのため,第1審被告Y2は,懲戒免職等強い言葉をもって,第1審原告を叱責するとともに,これ以上改善できないのであれば,自主退職も考える状況にあることをやむを得ず告げたものである。これらの発言は,いずれもこれまでの第1審原告の勤務態様,とりわけ航空機の安全運行やサービスに影響を及ぼしかねない状況を真剣に憂慮してなされたものであり,相当な範囲内のものである。かかる面談において一定の時間がかかることは当然に想定できることであり,面談に約2時間かかったとしても,そのことをもって社会通念上相当と認められる範囲を逸脱していると評価する根拠になり得るものではない。加えて,第1審被告Y2の口調は淡々としたものであり,感情的に声を荒げたり,殊更に恫喝や威嚇をしたりするものではなかった。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,第1審原告の請求については,第1審原告の第1審被告らに対する不法行為を理由とする損害賠償請求のうち各自に20万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余はいずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり補正し,後記2のとおり当事者双方の当審における主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし4(原判決22頁24行目から68頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決26頁26行目の「いれても」を「入れても」と改める。
(2) 原判決28頁19行目の「雇用契約が」を「雇用契約の」と改める。
(3) 原判決37頁7行目の「同年5月17日ころ」を「同年6月17日ころ」と改める。
(4) 原判決38頁4行目の「ATして」を「ATとして」と改める。
(5) 原判決40頁3行目の「いってしまって」を「行ってしまって」と改める。
(6) 原判決40頁18行目の「お掛けしてしまし,」を「お掛けしてしまい,」と改める。
(7) 原判決44頁26行目の「ほっとしてします」を「ほっとしてしまう」と改める。
(8) 原判決45頁21行目,46頁22行目及び47頁24行目の各「報告書」題する」をいずれも「報告書」と題する」と改める。
(9) 原判決46頁4行目の「証拠<省略>」を「証拠<省略>」と改める。
(10) 原判決51頁19行目の「AいしE]を「AないしE」と改める。
(11) 原判決59頁21行目の「ことをことを」を「ことを」と改める。
(12) 原判決61頁20行目の「(2)」を「2」と改める。
(13) 原判決62頁9行目の「ATして」を「ATとして」と改める。
(14) 原判決67頁5行目の「めるられない」を「められない」と改める。
2 当事者双方の当審における主張について
(1) 本件雇止めに解雇権濫用法理を類推適用するにあたっての判断基準について
ア 本件雇止めに解雇権濫用法理の類推適用があることについては,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1(2)イ(原判決27頁5行目から28頁13行目まで)に説示のとおりである。
第1審原告は,本件雇止めの効力を判断するにあたっては,正社員(期間の定めのない労働契約に基づく労働者)に対する解雇権濫用法理と同等の判断基準が用いられなければならない,すなわち,本件雇止めが有効とされるのは,能力・適性の欠如の程度が著しく,企業から排除せざるを得ない程度に及んでおり,適正な教育・指導を受けたにもかかわらず改善・向上の見込みがないという場合に限られると主張する。
イ そこで検討するに,証拠(証拠・人証<省略>)によれば,次の事実が認められる。
第1審被告会社は,人件費関連施策の一環として,平成6年8月2日付け「国内線客室乗務員への新運営形態の導入について」と題する提案文書を,a組合及びb労働組合に提示した。その内容は,子会社であるc株式会社で1年間の有期限雇用(更新を2回とし,最大契約期間を通算3年までとする。)の契約社員を採用し,出向形態で第1審被告会社の国内線に乗務させるというもので,賃金について,1時間当たり1000円,乗務時に300円を付加する時給制とした。これに対し,a組合は,専門職である客室乗務員を契約制で採用し3年間の雇止めという雇用形態は,正社員の雇用を契約制客室乗務員に総入れ替えすることを狙うものであること,しかも別会社からの出向社員を第1審被告会社で乗務させることは自主運行の原則にも反し,安全上もサービス上も問題であるとして,正社員での採用を求め,強く反対した。第1審被告会社は,運輸省(当時)の行政指導も踏まえ,同年9月20日,上記案を見直し,雇用形態は1年間の有期限雇用とする,3年経過後,本人の希望,適性,勤務実績を踏まえて一般の正社員への切替えを行うこととする,賃金水準について,夏冬精勤手当てを新たに新設し,次年度については更なる検討を行うとすることと変更し,運輸省の了承を得た。同年11月15日には,c株式会社において,契約制客室乗務員104名の採用を決定した。これを契機に,当時の日本エアシステム株式会社,全日本空輸株式会社等も契約社員の採用を開始し,以後,日本の主な航空会社では客室乗務員の採用はすべて契約制となった。第1審被告会社は,平成7年2月14日に,同年4月以降契約制客室乗務員の雇用主体をc株式会社から第1審被告会社へ切り替える,今後は第1審被告会社が直接採用するとの方針を発表した。同年12月6日,第1審被告会社は,同社の賃金が国際的に見て極めて高い水準に達しており,一般世間水準にも十分に配慮する必要があるとの認識のもと,一定の適正化を図ることとしたとして,人事賃金制度の見直しの方針を労働組合に提示した。この制度見直しは,第1期の契約制客室乗務員が正社員に切り替わる前の平成8年10月から実施され,基本賃金に関わる1職級から2職級への昇格については,従来同様1職級経験3年で2職級に標準昇格とされた。その結果,契約制客室乗務員出身の正社員は,契約制客室乗務員の3年間は1職級の基本賃金以下に,正社員に雇用身分が切り替わった後にも3年間は1職級の基本賃金に据え置かれることとなった。契約制客室乗務員制度導入当時,a組合は,1年目の正社員の客室乗務員の賃金は450万円から500万円であるのに対し,1年目から2年目の契約制客室乗務員の賃金は210万円から220万円であるという試算をしている。
以上によれば,契約制客室乗務員制度が,第1審被告会社において,人件費削減のための施策の一貫として導入され,正社員を含む客室乗務員全体の給与水準を引き下げる役割をも果たしたことは否定できないところである。
しかし,他方で,証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
客室乗務員は,緊急時の保安要員として乗客の安全に重大な責任を負う立場にあり,さらには,一般に,航空機の乗客は,客室乗務員に対しては高い水準のサービスを求め,客室乗務員はこれに応じるべき立場にある。そのため,第1審被告会社においては,採用した契約社員に対する3年間の育成プログラムを設けて,様々な教育,研修を施し,実際に機内業務及び地上業務に就けて,FI,CDI等が指導教育し,正社員として勤務するに足る知識,技能等を習得させることとしている。第1審被告会社は,契約制客室乗務員制度について,契約社員は,その雇用期間中,その勤務状況等に基づき正社員としての知識,技能の習得度についてSU,CDI等の評価を受け,1年間の期間を区切った毎年の期間満了時に更新の可否を判断されつつ,合計3年間の経験を経た上で正社員として業務適性があると認められたときに初めて長期の雇用継続が保障されうる正社員の地位に登用されるものとして運用している。そして,第1審被告会社は,同制度の導入に際しても,広報誌に「正社員への切り替えにあたっては,本人の希望・適性・勤務成績を踏まえ3年後に決定する考えです。」と記載し,ホームページの採用情報欄に「3年経過後は,本人の希望・適性・勤務実績を踏まえて,正社員への切り替えを行います」と登載し,契約社員雇用契約書の定型書式に「本件契約は,契約期間満了に際し,乙の業務適性,勤務実績,健康状態等を勘案し,甲が業務上必要とし,乙が希望する場合には,本契約を更新することがある。」と記載し,1年間の期間満了時に,契約社員の客室乗務員としての業務適性を審査評価し,客室業務員としての業務適性があると判断したときに初めて契約を更新し,3年経過後は正社員として雇用する旨を明らかにしている。
以上のとおりであり,客室乗務員が,緊急時の保安要員として乗客の安全に重大な責任を負う立場にあり,高い水準のサービスに応じるべき立場にあることからすれば,上記のとおり,契約制客室乗務員制度が人件費削減のための施策の一貫として導入されたという経緯があったとしても,第1審被告会社が,同制度を上記のとおり位置付けて運用していることを不合理なものということはできない。
契約制客室乗務員制度の趣旨・目的が,上記のとおり,第1審被告会社において,契約社員について,育成プログラムに沿った教育指導を行うとともに,正社員登用の可否を最終判断するまでの3年間,1年間の期間を区切って毎年の期間満了時に更新の可否を判断し,客室乗務員としての適性を評価・判断するというところにあるのであるから,契約社員の雇止めについては,期間の定めのない労働契約についての解雇とまったく同視することはできず,使用者に一定の合理的な範囲内の裁量を認めるのが相当というべきである。本件雇止めの効力を判断するにあたっては,正社員(期間の定めのない労働契約)に対する解雇権濫用法理と同等の判断基準が用いられなければならないという第1審原告の主張は採用できない。
ウ 第1審原告が,前記「第2 事案の概要」の3(第1審原告の主張)(1)において,本件雇用契約は期間の定めのないものと実質的に異ならないとして主張する事情や,期間満了後も使用者が雇用を継続し,正社員に登用すべきものと期待することに合理性が認められる場合であるとして主張する事情は,本件雇止めに解雇権濫用法理の類推適用があると解するのが相当であることを根拠付けるものではあるものの,かかる事情があるからといって,雇用期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立していると解するのが相当であり,期限の定めのある雇用契約という制度を採用したことが不合理とはいえない本件においては,上記イの判断を左右するものではない。
また,第1審原告は,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条及び労働契約法3条2項の適用を主張するが,本件雇用契約が,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条2項にいう「反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約」に該当しないこと,第1審原告の就業の実態が正社員と同様であるととを前提に労働契約法3条2項の適用をいう第1審原告の主張が理由のないことは,上記イの判示に照らし明らかである。
(2) 本件雇止めの効力について
ア 第1審原告は,第1審被告会社が第1審原告は客室乗務員として求められる一定水準以上の業務上の知識を有せず,接客態度についても必要な水準に達することはなく,残りの1年で正社員として登用可能な水準に達する見込みはないと最終的に評価・判断したことに不合理な点は認められず,本件雇止めは相当なもので無効となることはないとした,原判決の認定判断を批難して,第1審原告には,そもそも,労働能力・業務適性の欠如は存在せず,本件雇止めは無効であると主張する。
イ しかし,第1審原告は,上記(1)アのとおりの判断基準をもって,本件雇止めに解雇権濫用法理を類推適用すべきであるとの前提に立って,原判決の認定判断を批難するものであり,かかる前提自体採用できないことは,上記(1)イ,ウのとおりである。
また,第1審原告は,第1審原告の客室業務員としての適性について何ら問題がないとして,当審において,他社に勤務する者も含む多数の客室乗務員らの陳述書(証拠<省略>)や同じく多数の機長らの陳述書(証拠<省略>)を提出し,これらには,第1審被告会社作成の平成22年4月29日付け「契約社員雇用契約終了の説明」と題する文書において,注意指導の対象として指摘された51項目の事項など第1審被告会社が主張する第1審原告の過誤事例については,そのほとんどの内容は誰もが日常的に経験する些細なものであり,その場で指導注意すれば済む事象である等の趣旨の記載があり,また,証人Bも当審において同旨の証言をする。しかし,これらの関係者は,いずれも第1審原告と一緒に機内乗務をしたことはなく,もっぱら第1審原告の弁解をすべて受容した上,直接の体験に基づず,個別の断片的な事象について一般的な意見を述べるものにすぎず,原判決判示のとおり,直接日々指導育成に当たった第1審原告の複数の上司らが,第1審原告はその勤務期間中第1審被告会社に明らかな損害を与えるような過誤を生じさせたわけではなく,一つ一つの過誤を取り上げてみれば,他の客室乗務員においても起こり得ることではあるものの,第1審原告の場合には,それが極めて多数回に及びまた繰り返されているというところに問題があり,これが第1審原告が客室乗務員としての業務適性を欠く大きな理由であるという見解で一致しているのであるから,以上の各陳述書や証言をもってしても,原判決の認定判断を左右するものではない。なお,第1審原告は,第1審被告Y2を始めとする第1審原告の上司らが第1審原告を個人的に嫌悪し,ことさらに悪く評価し続けたと主張するが,第1審被告Y2にとって第1審原告は約50名に及ぶ部下の一人であり,あえて第1審原告を職場から積極的に排除するまでの動機は窺われず,第1審原告について,公正性・客観性を欠如した評価がなされたとは認められない。
(3) 退職強要による不法行為について
当事者双方は,第1審被告Y2が,平成21年9月14日及び15日,第1審原告との面談において退職勧奨のために行った言動は,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であるが,その他の第1審被告Y2の第1審原告に対する言動は社会的相当性を逸脱するものとまではいえず違法性はなく,上記違法行為による慰謝料額は20万円が相当であるとした,原判決の認定判断を批難して,上記「第2 事案の概要」の3(第1審原告の主張)(3)及び(第1審被告らの主張)(3)のとおり,るる主張するが,原判決の認定はその挙示の証拠に照らし是認することができ,同認定に基づくその判断にも誤りは認められない。
なお,第1審原告が当審において提出した証拠<省略>(第1審原告が同月19日に第1審被告Y2との面談の際の会話内容を録音したものの反訳書)によれば,同日の面談も相当長時間に及んでいること,第1審被告Y2は,同日の面談の中で,第1審原告に対し,「1年を過ぎて,OJTと同じようなレベルしか仕事ができない人が,もう会社はそこまでチャンス与えられないって言ってるの。違うところで,あなたの得意なね,何か生かせるところでやっていただきたい」「Xさんと同じように,最初の1年目に標準に満たなかった方もいる。そこはクリアして,次に行った人もいる。Xさんにはもうそれがない。これから先も。」「もう十分見極めたから。」「懲戒になると,会社辞めさせられたことになるから,それをしたくないから言っている。」「この仕事には,もう無理です。記憶障害であるとか,若年性認知症みたいな」などと申し述べていることが認められ,かかる第1審被告Y2の言動も,同月14日及び同月15日の言動と相俟って,違法な退職勧奨というべきであるが,同月19日の会談においては,第1審原告は,他に相談している人の助言を受けたとして,始末書の提出を拒絶し,決意書に職を辞すると書くことを求められ,退職強要になるのではないかと拒絶していること(第1審原告は,同年10月2日にd労働組合からeユニオンへ移籍している(証拠<省略>),同年9月19日を最後に第1審被告Y2と第1審原告との長時間の面談,退職勧奨は行われていないことに照らすと,慰謝料額の算定には影響を及ぼさないというべきである。
3 よって,原判決は相当であり,第1審原告及び第1審被告らの本件各控訴は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 生島弘康 裁判官 氏本厚司 裁判長裁判官青栁馨は退官につき署名捺印することができない。裁判官 生島弘康)