東京高等裁判所 平成23年(行コ)24号 判決 2011年10月25日
主文
1 職権により、原判決主文第1項を、以下のとおり変更する。
原判決別紙3記載のICアクセス道路、尾上・飯積線、既存集落整備、地区関連(地区外)下水道、地区関連(地区内)下水道、雨水排水路整備、町道02―006号線の各工事に関し、平成21年度以降の一切の公金の支出、契約の締結及び債務その他の義務の負担の差止めを求める訴えのうち、平成23年8月25日までの公金の支出、契約の締結及び債務その他の義務の負担の差止めを求める部分を却下する。
2 本件控訴をいずれも棄却する。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、尾上・飯積線の整備について独立行政法人都市再生機構に対し627万円を支払うよう請求せよ。
3 被控訴人は、原判決別紙3記載のICアクセス道路、尾上・飯積線、既存集落整備、地区関連(地区外)下水道、地区関連(地区内)下水道、雨水排水路整備、町道02―006号線の各工事について、平成21年度以降の一切の公金を支出し、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担してはならない。
4 被控訴人は、Y〔町長個人〕に対して、ICアクセス道路(町道、墨、七栄線)の道路用地1万7420m2を購入した当該行為について、金1億0799万6000円の損害賠償を請求せよ。
第2事案の概要(略称については、本判決において付すほかは、原判決の例による。)
1 本件は、○○町の住民である控訴人らが、被控訴人に対し、① 原判決別紙2記載の各道路の整備について、主位的に、地自法242条の2第1項3号に基づき、被控訴人が独立行政法人都市再生機構(以下「都市再生機構」という。)に分担金の賦課徴収をしなかったことが違法であることの確認を、予備的に、同項4号に基づき、被控訴人において、都市再生機構に対し、尾上・飯積線の整備について債務不履行に基づく損害賠償請求をすることを、② 同項1号に基づき、原判決別紙3記載のICアクセス道路、尾上・飯積線、既存集落整備、地区関連(地区外)下水道、地区関連(地区内)下水道、雨水排水路整備、町道02―006号線の各工事(請求の趣旨2対象工事)について、平成21年度以降の一切の公金の支出等の差止めを、③ ICアクセス道路(町道墨・七栄線)用地1万7420m2の購入が違法であるとして、同項4号に基づき、被控訴人において、町長個人に対し、主位的に不当利得返還請求をすること及び予備的に不法行為に基づく損害賠償請求をすることを、それぞれ求めている事案である。
2 原判決は、控訴人らの本件訴えのうち、上記②の公金の支出等の差止めを求める請求に係る訴えの一部(原審口頭弁論終結時である平成22年9月24日までの公金の支出等の差止めを求める部分)を却下し、その余の請求をいずれも棄却したので、控訴人らは、これを不服として控訴した。
なお、控訴人らは、当審において、上記①の主位的請求及び③の主位的請求を取り下げたので、控訴人らの請求は、地自法242条の2第1項4号に基づく請求(①及び③)と同項1号に基づく請求(②)となった。
3 前提事実、争点及び当事者の主張は、以下のとおり改め、後記4のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおり(原判決3頁6行目から12頁11行目まで。なお、「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。以下引用部分について同じ。)であるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁8行目「町の町長である。」を「町の町長であり、町の予算執行権限を有する財務会計職員である。」と改める。
(2) 同6頁9行目及び同頁13行目の「本件墨・飯積線」を、いずれも「本件墨・七栄線」と改める。
(3) 同7頁13行目「のである。)」を「のである。以下「南部開発事業」という。)」と改める。
(4) 同8頁8行目冒頭「請求の趣旨1対象道路」から9行目末尾までを、「本件尾上・飯積線の整備について、町は都市再生機構に対し債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するか。」と改める。
(5) 同頁11行目「あたるか及び」から12行目末尾までを、「あたり、町は町長に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有するか。」と改める。
(6) 同頁24行目冒頭「争点(2)」から最終行末尾までを、「争点(2)(本件尾上・飯積線の整備について、町は都市再生機構に対し債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するか。)について」と改める。
(7) 同9頁2行目から8行目までを削除する。
(8) 同10頁1行目「その理由は」から11行目末尾までを削除する。
(9) 同11頁15行目「あたるか及び」から16行目「損害賠償請求権の有無))」までを、「あたり、町は町長に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有するか。)」と改める。
(10) 同頁21行目「同契約は違法・無効であるから、」から最終行末尾までを、「同契約は違法・無効である。よって、Y町長は、違法な購入行為によって当該売買代金相当額である1億0799万6000円の損害を町に発生させたものであるから、町に対し、同額の損害賠償債務を負担する。」と改める。
4 当審における控訴人らの主張
(1) 平成5年覚書に基づく請求(控訴の趣旨2)について
ア 整備工事負担割合の合意
平成5年覚書では、主な関連公共施設等の事業主体、整備の範囲及び施設設備に要する費用負担は、別表のとおりとするとし、別表によれば、都市計画道路の地区外幹線道路1号について地区の境界から国道296号まで用地を確保し、整備を行うのに要する費用の国庫補助裏の2分の1を町が負担、残りの2分の1を住宅・都市整備公団が負担すると定められている。
上記別表には、表現上の文言として、都市計画道路の地区外幹線道路1号の整備を行うのに要する費用のうち町が負担する国庫補助裏の2分の1の残りの2分の1を誰が負担するかという表現はない。しかし、残りの2分の1を負担する者がいない契約書(覚書)はあり得ず、契約書の勿論解釈の手法等によって、残りの2分の1の部分は契約当事者の一方である住宅・都市整備公団が負担すると定められていることは明らかである。
イ 金銭の支出
町は、請求の趣旨1対象道路(本件尾上・飯積線)整備の工事の一部を施工し、その費用として、平成19年5月29日、金2092万7550円を支出した。この工事に関する国庫補助金は842万7000円である。
ウ 都市再生機構の債務不履行
住宅・都市基盤公団の地位を承継している都市再生機構は、平成5年覚書に基づき、上記町の支出額である金2092万7550円から国庫補助金分金842万7000円を控除した残額金1250万0550円の半額である金627万円を負担しなければならない。ところが、都市再生機構は、上記負担分を町に支払っていないのであり、これは町に対する債務不履行である。
エ 損害の発生
町は、上記都市再生機構の債務不履行により、金627万円の損害を被り、都市再生機構に対し金627万円の損害賠償請求権を有しているのに、被控訴人は、その行使を怠っており、違法である。
オ 請求
よって、町の住民である控訴人らは、被控訴人が都市再生機構に対し町に金627万円を支払うよう請求することを求める。
(2) 南部開発事業の差止請求(控訴の趣旨3)について
ア 地自法212条違反
(ア) 南部開発事業は、都市再生機構の区画整理事業と命運を共にする一つの事業であり、かつその支出が複数年度に亘ることから、地方自治法212条が定める継続費として町の議会の議決を経て執行されなければならない。ところが、町はそのような議決を得ることをせずに、南部開発事業を推進している。
(イ) 町は、南部開発事業をインフラ整備と位置づけ、これを細かく分割し、毎年の予算の中で公金を支出している。しかしながら、南部開発事業は、道路整備事業一つをとってもインフラ整備ではなく、都市再生機構の土地開発事業に伴い同事業と運命を共にする道路整備事業である。
したがって、南部開発事業全体について事業計画書が作成され、総事業費と毎年の支出額等を含めて事業計画書が議会において審議され、事業の合理性、採算性がチェックされなければならない筈である。本件道路整備事業が議会の審議を経ないで、なし崩し的に強行され町民の貴重な税金が垂れ流し的に使われることは、誠に由々しき事態である。
(ウ) 以上のとおり、南部開発事業のうち請求の趣旨2対象工事に対する支出は、地自法212条に違反し、違法である。
イ 地自法2条14項・地方財政法4条1項違反
(ア) 最少の経費と最大の効果の客観的判断基準が不明であること
地自法2条14項は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定め、また、地方財政法4条1項は、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と定めている。
ところが、南部開発事業における被控訴人による公費支出は、そもそもいかなる額が「最少の経費」で何が「最大の効果」であるのか、或いはいかなる額が「目的を達成するための必要且つ最少の限度」の額であるか末だに全く不明である。
(イ) 見通しの立たない本件区画整理事業であること
町が行う南部開発事業は、都市再生機構の本件区画整理事業と命運を共にする一体的な事業であるから、その区画整理事業の成功の合理的な理由がきちんと説明されて初めて費用の支出が許される事業である。
ところが、本件区画整理事業においては、① 平成5年に計画された事業であるにもかかわらず、その15年後である平成20年になってようやく事業認可が下りるという極めて異例に長期に亘って事業が放置されていたこと、② 平成11年と平成21年の二度に亘り区画整理事業の目的が変更された極めて開発事業の目標設定が困難である地区であること、③ 当初の事業主体は都市再生機構であったものが、開発事業の見通しが立たず度々長期間、開発を中止し、次は平成16年9月にc社が進出したが平成19年5月に同社は撤退し、次に平成20年3月にa社が進出したがこれも平成21年12月撤退し、次に平成22年7月b社が進出するという、次々と開発事業者が交代し、客観的にまともな事業の展開が極めて困難である地区であること、④ b社の進出事業面積は19.7haであるところ、前記c社のおよそ半分以下であり、集客動員数の判断となる店舗面積に至っては当初の9分の1の2万m2と大幅に縮小され、とりわけ、開発事業の頼みの綱である「成田空港のハブ化の困難性、LCC(格安航空機)導入の断念による将来展望の相対的低下」に加え、元々、この「辺境のロケーションによる市場性」或いは昨今の「厳しい経済環境」等々に客観的に鑑みて採算が取れるかどうか確証が全くなく、今やb社も二の足を踏みつつある状況であること、⑤ b社が進出しないその余の本件区画整理事業対象地においてどのような事業が計画されるのか全く不明であること、等の事実が認められ、本件区画整理事業は全くの未知数であるだけでなく、もっと厳しい市場環境にあることが次第に明らかとなってきている。
したがって、本件区画整理事業の進捗を前提として一体的に進める南部開発事業は益々経済的、市場的見通しの立たない事業となっているからその非合理性は明らかである。
(ウ) 以上のほか、南部開発事業については、一旦中断された事業が財政的裏付けもなく、町による説明もなく再開されていること、町の年間予算は、僅か59.9億円であるのに対し、今後も南部開発事業に合計26億9100万円を支出することになるから、同事業は、町の財政にとって無駄な事業となる可能性があること、そもそも同事業は、町の財政事情を無視して計画されたものであること、町は、原審から当審に至るまで、同事業の「経済的合理性」及び「費用対効果」を何ら主張しないことなどの問題点も指摘できる。
(エ) 以上のとおり、南部開発事業は、最少の経費で最大の効果を挙げることを定めた地自法2条14項、経費はその目的を達成するために必要な最少限度を超えてはならないことを定めた地方財政法4条1項に違反し、違法である。
ウ 請求
よって、町の住民である控訴人らは、被控訴人が請求の趣旨2対象工事について、平成21年度以降一切の公金を支出し、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担してはならないことを求める。
(3) 不法行為に基づく請求(控訴の趣旨4)について
ア 一団の土地の売買
被控訴人は、町の代表者として、原判決別紙4記載の24筆の土地(合計面積1万7420.14m2、以下「本件用地」という。)を代金合計1億0688万7812円で購入した。本件用地は、町道墨・七栄線(ICアクセス道路)の整備のための道路用地であり、連続する地続きの土地であるから一団の土地であり、かつ目的は同じであるから、本件用地全体で1件となる。道路用地は、1筆でも欠けると道路として使い物にならない、つまり、道路として完成できないことになるから、一団を形成しているといえる。
イ 議会の同意の必要性
本件用地の面積は、上記のとおり5000m2を超え、また、合計価格も700万円を遙かに超えている。したがって、町が本件用地を購入するには、議会の同意が当然必要である。しかしながら、被控訴人は議会の議決による承認を得ずに上記のとおり売買を実行した。
ウ 不法行為
被控訴人が議会の同意なくして本件用地の売買契約を締結した行為は、町に対する不法行為を構成するから、被控訴人は、民法709条に基づき、町に対しその不法行為によって町が被った損害を賠償する責任がある。
エ 損害の発生
町は、本件用地購入により、前記購入代金1億0688万7812円に委託料等を含めて合計金1億0799万6000円を支出し、同額の損害を被った。また、町は、上記不法行為によって、① 被控訴人の独断専行の行政が執行されたこと、② 法律・条例が無視されたこと、③ 議会が無視されたこと等において、多大な精神的苦痛を受けたが、これを慰謝するには金100万円が相当である。さらに、町は、上記不法行為のために、行政が混乱するなど目に見えない損害が発生しているが、損害額の立証が困難なので、民事訴訟法248条に基づき、金50万円を請求する権利を有する。
オ 請求
よって、町の住民である控訴人らは、被控訴人がYに対し、町に対し上記損害額の一部である金1億0799万6000円を支払うよう請求することを求める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、請求の趣旨2対象工事について平成21年度以降の一切の公金の支出等の差止めを求める訴えのうち、平成23年8月25日までの公金の支出等の差止めを求める部分は不適法であって却下すべきであり、控訴人らのその余の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 当審における本案前の判断について(職権判断)
控訴人らは、請求の趣旨2対象工事について、平成21年度以降の公金の支出等の差止めを求めているところ、この訴えのうち、原審口頭弁論終結日である平成22年9月24日までにされた公金の支出等の差止めを求める部分が訴えの利益を欠く不適法なものであることは、原判決が述べるとおり(原判決17頁2行目から6行目まで)であり、さらに、原審口頭弁論終結日の翌日である平成22年9月25日から当審口頭弁論終結日である平成23年8月25日までにされた公金の支出等の差止めを求める部分も、同様に、既に終了した財務会計行為についてその差止めを求めるものであって、訴えの利益を欠いており、不適法である。
3 争点(1)(請求の趣旨2につき監査請求前置の有無)について
原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおり(原判決12頁14行目から21行目まで)であるから、これを引用する。
4 争点(2)(本件尾上・飯積線の整備について、町は都市再生機構に対し債務不履行に基づく損害賠償請求権を有するか。)について
以下のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の2(2)に記載のとおり(原判決13頁25行目から14頁12行目まで)であるから、これを引用する。
(1) 原判決13頁25行目「平成5年覚書に基づき、」を、「町は、平成5年覚書に基づき、都市再生機構に対し、国庫補助裏の2分の1相当額の」と改める。
(2) 同14頁11行目「認められないのであり、」から14行目末尾までを、「認められないから、上記債務の存在を前提とした上で、町が都市再生機構に対し債務不履行に基づく627万円の損害賠償請求権を有するとして、被控訴人に都市再生機構に対して、上記627万円を請求するよう求める控訴人らの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」と改める。
5 争点(3)(請求の趣旨2対象工事についての公金の支出等は違法か。)について
以下のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおり(原判決14頁17行目から17頁1行目まで)であるから、これを引用する。
(1) 原判決15頁4行目「明らかに」を削除する。
(2) 同16頁8行目及び11行目の「被告」を、いずれも「町」に改める。
6 争点(4)(本件用地購入は違法な財務会計行為にあたり、町は町長に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有するか。)について
(1) 本件条例3条は、7000千円以上の不動産(土地については1件5000平方メートル以上のものにかかるものに限る。)の購入につき議会の議決が必要であると定めている(乙2)。
本件用地購入は、原判決別紙4記載の番号1ないし9の各地権者ごとに売買契約が締結されているところ、各売買契約の対象地の地積を合計すれば5000平方メートル以上となるものの、各個別契約における売買対象地の地積はいずれも5000平方メートル未満となるため、町は、本件条例3条に基づく議会の議決が必要とされる不動産の購入には該当しないとの解釈から、本件用地購入に際して、議会の議決を経ることなく、それぞれの売買契約を締結している(弁論の全趣旨)。
(2) 控訴人らは、本件条例3条の「1件5000平方メートル以上」の「1件」とは1事業単位と考えるべきであり、一つの事業のための土地の購入が合計5000平方メートル以上の場合には、これについて議会の議決が必要であると解するべきであると主張し、これを前提にして、本件用地購入は、本件墨・飯積線の整備という一つの事業のための用地取得であるところ、購入に係る土地の地積が合計で5000平方メートル以上であるからには、本件条例3条にいう「1件5000平方メートル以上」の土地の取得に該当するものとして、議会の議決が必要であるのに、Y町長は、議会の議決なくして本件用地購入を行ったので、本件用地購入は違法な財務会計行為にあたる旨主張している。
(3) そこで検討するに、本件条例は、地自法96条1項8号を受けたものであるが、同号の趣旨とするところは、本来、財産の取得、処分は執行機関限りでなし得るものであるところ、一定の価格もしくは規模以上の財産の取得、処分が地方公共団体の財政に影響を及ぼす可能性が大きいことを考慮し、条例で指定する重要な財産については、個々の取得、処分をなすに当たって議会の議決を要するとしたものである。そうすると、本件条例3条の「1件5000平方メートル以上」にいう「1件」とは、当該不動産を取得する際の契約の単位を意味するものと解するのが相当であり、不動産の売買契約は、それぞれの不動産所有者(地権者)との間で個々に契約が締結されるのが通常であるから、個々の売買契約の対象となる土地の地積が5000平方メートル以上の場合に議会の議決が必要となり、5000平方メートル未満の場合には議会の議決は不要であると解される。
控訴人らは、「1件」は1事業を意味するという主張をするが、地自法96条1項8号及びこれを受けた本件条例3条の規定の文言から、これらの規定と地方公共団体の行う公共事業及び同事業のための用地取得との関係を読み取ることはできないのであって、上記控訴人らの主張は、同号の規定や趣旨目的を無視した独自の見解に基づくものであり、採用することはできない。
もっとも、通常であれば、1個の売買契約によって購入すべき不動産を、正当な理由もなく、ことさら細分化して複数の売買契約を締結したような場合には、本件条例3条を潜脱するものとして、違法となる余地はあるといえるが、本件用地購入において、そのような事情があったことを認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上検討したところによれば、本件用地購入については、前記のとおり各地権者との個別の売買契約において、いずれも土地の合計地積が5000平方メートル未満であったから、本件条例3条に基づく議会の議決は不要であることが明らかであり、本件用地全体について1件として議会の議決が必要であるとする控訴人らの主張は失当である。したがって、議会の議決がないことを根拠にして、本件用地購入が違法な財務会計行為にあたるとする控訴人らの主張は理由がない。
よって、本件用地購入が違法な財務会計行為にあたることを前提として、町がY町長に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとする控訴人らの主張はその余の点について判断するまでもなく理由がないし、その他に、Y町長が本件用地購入を行ったことに関して町に対し不法行為責任を負うことを認めるに足りる証拠はない。
7 当審における控訴人らの主張に対する判断
(1) 控訴の趣旨2について
控訴人らは、都市再生機構が町に対して債務を負担していると主張し、その根拠について縷々述べるが、都市再生機構が町に対して債務を負担していると認めるに足りないことは、前記4(訂正を含む原判決引用部分)のとおりである。控訴人らの主張は、原審での主張の繰り返しに過ぎないものであり、失当である。
(2) 控訴の趣旨3について
ア 地方自治法212条違反について
控訴人らは、南部開発事業のうち請求の趣旨2対象工事に対する支出は、地方自治法212条に違反し、違法であると主張するが、この主張が理由のないことは、前記5(訂正を含む原判決引用部分)のとおりである。
イ 地方自治法2条14項・地方財政法4条1項違反について
地方公共団体がその事務を処理するに当たっては、最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならず(地自法2条14項)、また、地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならないとされている(地方財政法4条1項)から、これらの規定に反する公金の支出等が違法と評価されるべきことは、控訴人らが指摘するとおりである。
もっとも、地方公共団体が公金の支出等を行う場合において、目的達成のための最大の効果をもたらすために、何をもって必要かつ最少の限度というべきであるかは、当該事務ないし事業の目的、当該事務ないし事業が必要とされるに至った当該地方公共団体の状況、当該支出される公金の額、経済状況等の諸事情の下において、社会通念に従って判断されるべきものであり、第一次的には、予算の執行権限を有する財務会計職員の社会的、政策的又は経済的見地からする裁量に委ねられていると解するのが相当である。したがって、当該具体的な支出が、当該事務ないし事業の目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量を逸脱してされたものと認められるときに限り、財務会計上違法となるものというべきである。
これを請求の趣旨2対象工事を含む南部開発事業についてみるに、証拠(甲10、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、南部開発事業は、本件区画整理事業に付随する公共施設整備事業であるところ、本件区画整理事業は国の認可を受けて現在も進行中であること、本件区画整理事業を認可した処分に無効もしくは取消原因があることを認めるに足りる証拠はないこと、請求の趣旨2対象工事は、本件土地区画整理事業によって本件土地区画整理事業地区内に産業団地が造成され(本件アウトレットモールの開業も予定されている。)、東関東自動車道のインターチェンジ(○○インターチェンジ)が設置されるという状況を前提にして、本件土地区画整理事業地区及びその周辺地区において、道路の整備、既存集落の整備、下水道の整備、雨水排水路の整備等を行うことを目的とする工事であり、○○町内の大規模なインフラ整備として、それ自体において地方公共団体の責務として行うべき公共事業であると認めることができる。また、当初事業費は合計約42億円(甲10。町道02―006号線の整備費を含めると総合計約45億円)であるところ、平成22年度末までには事業の縮小により合計約33億円(総合計約36億円)に減額されていること(甲10、11、48及び弁論の全趣旨)も併せ考慮すると、上記事業内容に照らして事業費が不当に高額であることを認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。さらに、控訴人らは、当初事業費に対する町の事業費負担額が約25億円(甲10。町道02―006号線の整備費を含めると約27億円)とされており、町の歳入(平成21年度において約55億円)の5割に近い高額なものであることを指摘するが、前記認定のとおり(原判決引用部分)、町の負担する25億円のうち約18億円は地方債で15年間にわたって返済する予定とされているのであるから、事業費と町の歳入額を単年度で比較して比率が高いとすることにはさほど意味があるとはいえない(なお、上記事業費の縮小を考慮すれば、その比率は更に低下することになる。)。そして、上記事業費負担額と比較して将来に見込まれる税増収が低額であるため、便益が得られるまでに15年程度の長期間を要することなどのマイナス要因があることを考慮しても、上記認定の諸事情が認められることからすれば、請求の趣旨2対象工事を含む南部開発事業が、町にとって必要性や経済的合理性を著しく欠き、そのための公金の支出等が事業の目的、効果との間の均衡を著しく欠くとまではいえず、予算の執行権限を有する被控訴人に与えられた裁量を逸脱するものとまでは認めるに足りないものである。控訴人らは、その他にも縷々主張するが、上記認定判断を左右するものとはいえない。
したがって、請求の趣旨2対象工事に対する公金の支出等が違法であるということはできない。
ウ 控訴人らは、以上のほかにも、南部開発事業への公金の支出等が財務会計上違法な行為にあたるとして、縷々主張するが、いずれも原審における主張の繰り返しであるか、独自の見解に基づくものであって、採用することはできない。
(3) 控訴の趣旨4について
控訴人らは、本件用地は、町道墨・七栄線(ICアクセス道路)の整備のための道路用地であり、連続する地続きの土地であるから一団の土地であり、かつ目的は同じであるから、本件用地全体で、本件条例3条にいう「1件」となる旨を主張し、これを前提にして、本件用地購入が違法な財務会計行為にあたるとするが、上記主張が独自の見解に基づくものであり、採用することができないことは、前記6で判断したとおりである。
8 まとめ
(1) 本件尾上・飯積線の整備について、町は都市再生機構に対して債務不履行に基づく損害賠償請求権を有していないので、町が上記損害賠償請求権を有することを前提にして、被控訴人に対し都市再生機構に損害賠償請求するよう求める控訴人らの請求は理由がない。
(2) 請求の趣旨2対象工事についての公金の支出等が違法であると認めるに足りないから、平成23年8月26日以降の公金の支出等の差止めを求める控訴人らの請求は理由がない。また、平成23年8月25日までの公金の支出等の差止めを求める請求に係る控訴人らの訴えは不適法である。
(3) 本件用地購入は違法な財務会計行為にはあたらず、町はY町長に対して不法行為に基づく損害賠償請求を有していないので、町が上記損害賠償請求権を有することを前提にして、被控訴人に対しY町長に損害賠償請求するよう求める控訴人らの請求は理由がない。
第4結論
以上のとおり、本件訴えのうち、公金の支出等の差止めを求める請求に係る訴えの一部(当審口頭弁論終結日である平成23年8月25日までの公金の支出等の差止めを求める部分)は不適法であり、その余の請求はいずれも理由がないから、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がない。
よって、職権により原判決主文第1項を変更し、本件控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 都築民枝 大久保正道)