大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成23年(行コ)3号 判決 2012年4月18日

控訴人

スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合大阪支部連合会モービル大阪支店

支部

被控訴人

処分行政庁

中央労働委員会

被控訴人補助参加人

エクソンモービル有限会社

主文

1  原判決を取り消す。

2  本件訴訟は, 平成21年10月1日控訴人が消滅したことによって終了した。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  中央労働委員会が中労委平成6年(不再)第49号事件について平成20年10月15日付けでした再審査申立てを棄却する旨の命令を取り消す。

3 中央労働委員会は, 被控訴人補助参加人及びその大阪第一支店に対し, 原判決別紙 1「請求する救済の内容」に記載の命令を発せよ。

第2事案の概要等

控訴人は, 被控訴人補助参加人(補助参加人)及びその大阪支店(現在の大阪第一支店。大阪支店)を被申立人として, 補助参加人ないしその大阪支店が行った原判決別紙2記載の各行為が不当労働行為に当たると主張して平成元年7月1日及び同年8月19日に大阪府地方労働委員会(大阪府地労委)に対して救済の申立てをしたが, 大阪府地労委は,大阪支店に対する申立てを却下し, 補助参加人に対する申立てを一部却下し, その余を棄却する旨の命令(本件初審命令)を発し, 控訴人は, さらに, 本件初審命令を不服として中央労働委員会(中労委)に再審査を申し立てたが, 中労委は, 再審査申立てを棄却する旨の命令(本件命令)を発した。本件は, 控訴人が本件命令の取消し等を求める事案である。

第3当裁判所の判断

1(1)  控訴人の規約(本件規約)によると, 「モービル石油株式会社の従業員は,この組合の組合員になることができる。」(第3条の(1))と定められている。

控訴人は, 本件初審命令に係る不当労働行為救済命令申立当時において, モービル石油株式会社大阪支店に勤務する従業員で組織された組合であったが, モービル石油株式会社は平成12年2月1日に組織変更をしてモービル石油有限会社となり, 平成14年6月1日に補助参加人となったことが認められる(以下, 上記組織変更や合併前の会社についても「補助参加人」という。)。

このような組織変更や合併の経過からすると, 本件規約にいうモービル石油株式会社は, 補助参加人を意味するもので, 本件規約は, 控訴人の組合員資格を, 補助参加人の従業員と定めたものと解される。

(2) 控訴人には, 平成元年7月当時, X 1, X 2, X 3及び X 4の4名の組合員がいたが, X 4は平成12年3月に, X 1は平成14年3月に, X 2は平成16年7月にそれぞれ補助参加人を退職し, X 3も平成21年9月30日に定年を迎えた(当事者間に争いがない。)。

(3) そうすると, 控訴人の組合員は, 平成21年9月30日までにいずれも補助参加人の従業員としての地位を失っており, 控訴人は, 遅くとも X 3が定年を迎えた前記の日の翌日に組合員が存在しない状態となって消滅したものと認めるのが相当である。

2(1) 控訴人は, ① X 1及び X 4については, 補助参加人が, スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(ス労自主)がその導入に同意していない「早期退職/セカンドキャリア支援制度」による両名の退職届を承認して, 両名を退職させたこと, これに伴って両名に控訴人からの脱退表明をするに至らせたことが不当労働行為(支配介入)に当たるとして, ス労自主が両名の早期退職届の承認の撤回等の救済命令の申立てを行っていること, ② X 3については, 補助参加人の継続雇用制度による再雇用を申し入れたにもかかわらず, 補助参加人から再雇用を拒否されたため, 補助参加人を被告として労働契約上の地位にあることの確認を求める訴訟を提起していること等の事情を主張し, 補助参加人の従業員としての地位について法的紛争が継続している X 1,X 4及び X 3の3名については, 未だ組合員であると主張する。

(2) しかし, X 1及び X 4が補助参加人に対して通職承認の撤回を求めているわけではないし, 両名の退職(ないしその届)自体を撤回したわけでもないから, ス労自主が上記①のような不当労働行為救済命令の申立てをしていることは, X 1及び X 4が補助参加人の従業員及び控訴人の組合員の地位を有していることの根拠となるものではない。なお, X 1及び X 4は, ス労自主の上記不当労働行為救済命令の申立てには関与しておらず, 上記両名が補助参加人への復職あるいはス労自主ないし控訴人への復帰を望んでいるものとも認められない。

(3)  X 3の再雇用について

ア X3の再雇用に関しては, 以下の事実が認められる。

(ア) 補助参加人は, 定年制度(満60歳に達した月の末日を退職とするもの)を設けるとともに(争いがない。), 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)に基づいて, 定年退職する従業員が別に定める基準を満たす場合で, 当人が希望し, かつ会社の提案する契約内容に同意して再雇用にかかる契約を締結した場合は,同基準に従いその定年退職後契約社員として再雇用することを就業規則に定め(69条。), 就業規則の付属規定(12)「定年退職者を再雇用する際の基準等に関する規定」(再雇用基準規定)において再雇用の基準(再雇用基準)を定めている(以下, この制度を「本件再雇用制度」という。)。なお,本件再雇用制度は, 平成21年2月16日, 補助参加人の労働者の過半数を代表する者との間で交わされた書面による協定によって定められたものであることがうかがわれる。

再雇用基準規定は, 定年退職する従業員が, 下記①~③の基準を全て満たす場合で,当人が希望し, かつ会社の提案する契約内容に同意して定年退職日の 1 か月前までに再雇用にかかる契約を締結した場合, 契約期間を 1 年間とする契約社員として再雇用し, 当該従業員が満65歳に到達した日を含む月の末日を限度として原則として 1 年単位で契約が更新されることを定めている(2条)。

① 契約期間中において労働の意欲と能力を有する者(業務に必要な知識・技能を取得する意欲を有することを含む)

② 心身ともに健康で契約期間中正常な労務を提供できる者

③ 管理職, 専門職, 事務・技能職それぞれの従業員について, 当人の過去3年間の業績評価の平均が標準以上の者

③の業績評価については, 別に業績評価の算出方法(業績評価基準)が定められている(3条)。

(イ) X 3は, 補助参加人に対し, 定年退職日の1か月前までに再雇用制度に基づいて再雇用の申請をしたが, 補助参加人は, X 3が補助参加人の就業規則で定める再雇用基準の「業績評価の平均が標準以上」に達しないとして, X3を再雇用しなかった。

そこで, X 3は, 平成21年12月, 補助参加人を被告として,X 3が補助参加人との間の労働契約上の地位を有することの確認等を求める訴訟(別件訴訟)を提起し(大阪地方裁判所平成21年(ワ)第19907号。), 同訴訟は現在も係属中である。

イ 控訴人は, 高年齢者雇用安定法9条1項が定める継続雇用制度は, 「現に雇用している高年齢者が希望するときは, 当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」であるから希望者全員を対象とするのが原則であり, 継続雇用の対象者を選別して継続雇用の希望があるのにこれを雇用しないことは例外的にのみ許容されるものであると主張し, 高年齢者雇用安定法に適合する基準に基づいて欠格事由があると判断されない限り, 継続雇用を拒否された労働者は, 解雇権濫用の法理などに基づいて労働契約上の地位を有するものと解すべきであると主張する。

また, 証拠によると,控訴人は, ①補助参加人の再雇用基準, 特に業績評価基準及びその適用には, 客観性や明確性はなく, 極めて恣意的なものであるから無効であるが, 本件再雇用制度のうち, 再雇用制度の導入に係る部分は効力を有するから, 補助参加人が本件再雇用制度を通知した時点で再雇用する旨の意思表示をしたことになり, 定年退職する従業員は再雇用の申請をすれば, 就労の始期を定年退職の日の翌日とする再雇用契約が成立する, ②仮に本件再雇用制度そのものが無効であるとすれば, 補助参加人は高年齢者雇用安定法9条1項が定めるいずれの措置も講じていないこととなるから, 60 歳定年制は無効となり, 定年は65歳とされたものとみなされるべきであるから,X 3に対する再雇用の拒否は解雇であり, 当該解雇は解雇権の濫用であって無効であると主張するものと理解できる。

ウ 高年齢者雇用安定法は, 高年齢者の安定した雇用の確保の促進等を図るため, 労働者の定年を定める場合には, 当該定年は60歳を下回ることができないとし(8条),65歳未満の定年の定めをしている事業主は, ①当該定年の引上げ, ②現に雇用している高年齢者が希望するときは, 当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度(継続雇用制度)の導入, ③当該定年の廃止のいずれかの措置を講じなければならず(9条1項), 労働者の過半数で組織する労働組合, 又はそのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定によって, 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め, 当該基準に定める制度を導入したときは, 前記②の措置(継続雇用制度)を講じたものとみなすものとしている(9条2項)。

しかし, 同法は, 継続雇用制度の内容については何らの規定を設けておらず,継続雇用制度の内容をどのようなものとするかについては, 当該事業所の実情や労働者の状況に応じた多様な対応ができるものとしていると解されるから, 本件再雇用制度のように,労働者の意欲,能力,実績を勘案して再雇用対象者を選別し, また, 再雇用後の労働条件についても労使の合意に基づいて定める制度も同法が予定する継続雇用制度に当たると解することができる。そして, 控訴人が問題とする「過去3年間の業績評価の平均が標準以上のもの」とする再雇用の要件が, 直ちに客観性を欠き, あるいは恣意的なものであるということはできない。のみならず, 補助参加人は, 再雇用基準規定において更に細かな業績評価基準を定め(3条)、内部的にその評価手順についても公平性が保たれるような配慮をしていることをうかがうことができるのであるから, 本件再雇用制度における業績評価基準あるいは再雇用基準が高年齢者雇用安定法9条, 労働組合法その他の関係法令に違反して無効であるということはできない。したがって, 再雇用基準ないし業績評価基準が違法, 無効であることを前提とする, 控訴人の前記主張は失当というべきであり, X 3が再雇用の希望を提出したというだけで, 同人が定年退職後も補助参加人の従業員の地位にあると解することはできない。

3 また, 労働組合は団体であるから, 組合員が 1 人もいなくなった場合はもとより,組合員が 1 名だけになった場合についても, その後組合員が増加する可能性がない場合は, 自然消滅に至ると解される。

これを本件についてみると, 控訴人の組合員は, 平成元年7月当時は4名いたが, 平成16年7月以後の組合員は X 3だけとなり, X 3も平成21年9月30日に定年を迎えたことは前記のとおりであって, 平成元年以後 X 3が定年を迎えるまで新たな組合員の加入がない状態が20年にわたって続いていたのであるから(その状態は現在に至つても変化がない。), 遅くとも X 3が定年を迎えた時点では新たに組合員が加入する可能性もなくなり, 控訴人は団体性を失って消滅に至ったものと認めるのが相当である。

4  以上のとおり, 控訴人の組合員であった者はいずれも組合員資格を失い, 組合員のない状態になって消滅したと認められ, その消滅に伴って控訴人の訴訟上の地位を承継する者があるともいえないから, 本件訴訟は, 原審係属中である平成21年10月1日(X3が定年に達した日の翌日)に終了したものといわざるを得ない。

よって, 原判決を取り消し, 主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第1民事部

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例