東京高等裁判所 平成24年(う)40号 判決 2012年5月14日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人山本美希の控訴趣意は,公訴受理の不法,訴訟手続の法令違反,事実誤認,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
1 公訴受理の不法,訴訟手続の法令違反,事実誤認の主張について
論旨は,原判示確定裁判の余罪である本件犯行について,捜査機関は,同裁判で有罪とされた住居侵入,強盗強姦,窃盗,強姦事件(以下「別件」という。)と同時期に捜査することが容易に可能で,被告人もそれを希望していたのに,長期間放置した挙げ句,公訴時効間近に捜査を実施して,服役中の被告人から更生意欲や仮釈放の機会を奪っており,捜査に重大な違法があるから,本件公訴の提起は,検察官の裁量を逸脱した違法かつ無効なものであるという主張を前提に,公訴受理の不法,訴訟手続の法令違反,事実誤認があるというのである。
しかし,本件において公訴提起を無効ならしめるような検察官の裁量逸脱がなかったことは明らかであると認定し,所論と同旨の原審弁護人の主張を排斥した原判決の判断は,当裁判所も正当として是認することができる。
論旨は前提を欠き,理由がない。
2 法令適用の誤りの主張について
論旨は,被告人が別件で懲役16年に処せられたにもかかわらず,別件と併合罪関係に立つ本件について被告人を懲役8年に処した原判決は,本件と別件を同時に裁判した場合には有期懲役刑の上限が20年であるのにこれを超えて処断した点で,刑法50条の適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。
しかし,併合罪について2個以上の裁判があった場合,刑法51条による執行段階での調整が予定されている上,2個以上の有期懲役刑を執行するときには,併合罪の趣旨に鑑み,所論のような有期懲役を加重する場合の制限を受けると解されることからすると,刑法50条の解釈としては,更に処断するに当たり,上記のような制限は受けないと解するのが相当であるから,原判決に所論のような違法はない。
論旨は理由がない。
3 量刑不当の主張について
論旨は,検察官の求刑どおり被告人を懲役8年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるというのである。
そこで検討すると,本件は,原判示のとおりの強盗強姦の事案である。
原判決は,本件の犯行態様が非常に卑劣で悪質であること,被害者の肉体的,精神的苦痛が大きく,その処罰感情も厳しいこと,常習的犯行の一環であることを具体的に指摘した上で,被告人の刑事責任は相当に重いと判断したものであって,当裁判所もこれを是認することができる。
これに対し所論は,別件で真面目に服役していた被告人が,本件で起訴され,仮釈放の希望が失われ,長期服役の可能性が生じたこと,犯行に至る経緯や犯行時の精神状態について被告人に酌むべき事情があること,被告人が別件での服役を通じて更生するための努力を続けていることなどについて,原判決が考慮していないと主張する。
しかし,これらの事情は,原審における被告人質問の結果や,原審において取り調べられた別件判決書の記載内容からうかがうことができる。そして,原判決は,本件が別件と併合罪の関係にあり,当時発覚していれば併せて処断されていた可能性が高いことや,被告人が別件の刑について真面目に服役していることなどを考慮しても,法定刑の最下限で処断すべき事案ではないとして,被告人を前示の刑に処しており,所論のような事情を踏まえた量刑判断をしていることが明らかである。
なお,既に説明したように,本件と別件で合計20年を超えて刑を執行されることはない。原審検察官も論告でこの点を説明しており,原判決の量刑判断もこれを前提とするものである。
そうすると,当審において,被告人の母親が被告人の更生を願う上申書を提出し,被告人が改めて反省の態度を示したことなどの事情を考慮しても,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。
論旨は理由がない。
4 よって,刑訴法396条,181条1項ただし書により,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木正一 裁判官 川本清巌 裁判官 柴田寿宏)