東京高等裁判所 平成24年(ネ)3762号 判決 2013年5月22日
控訴人(原告)
X株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
諸永芳春
被控訴人(被告)
株式会社Y1(旧商号 株式会社a、株式会社a1)
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
若槻哲太郎
同
松宮浩典
同
土取義朗
同
荒田龍輔
同
堀場信介
被控訴人(被告)
株式会社Y2
同代表者代表取締役
C
同訴訟代理人弁護士
田宮武文
同
依田修一
同
栁澤泰
同
内橋徹
同
小室大輔
同
舟木健
同
平岡卓朗
同
小西隆文
被控訴人(被告)
株式会社b(旧商号 b1株式会社)破産管財人Y3
同訴訟代理人破産管財人代理弁護士
谷本誠司
同
外崎友隆
同
田中恵祐
同
内田拓志
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人株式会社Y1(旧商号株式会社a)は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載6ないし8の各建物につき、東京法務局北出張所平成18年4月14日受付第13936号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
3 被控訴人株式会社Y1(旧商号株式会社a)は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載4の土地につき、東京法務局北出張所平成18年8月24日受付第27581号の合併による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
4 被控訴人株式会社Y2は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載1ないし3の各土地につき、東京法務局北出張所平成18年9月8日受付第29395号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
5 被控訴人株式会社Y2は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載5の土地につき、東京法務局北出張所平成18年9月8日受付第29396号の所有権一部移転登記の抹消登記手続をせよ。
6 被控訴人株式会社b(旧商号b1株式会社)破産管財人Y3は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載1及び2の各土地につき、東京法務局北出張所平成18年11月13日受付第36353号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
7 被控訴人株式会社b(旧商号b1株式会社)破産管財人Y3は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載5の土地につき、東京法務局北出張所平成18年11月13日受付第36354号の株式会社Y2持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。
8 被控訴人株式会社b(旧商号b1株式会社)破産管財人Y3は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録1記載1及び2の各土地を明け渡せ。
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 控訴人は、一般土木建築の設計施工請負等を業とする株式会社であり、その代表取締役は、平成15年7月当時、D(以下「D」という。)であり、平成16年7月23日以降はA(以下「A」という。)である。控訴人は、不動産の仲介・売買等を目的とするc株式会社(以下「c社」という。)の子会社であり、c社の代表者であるAが、実質的な代表者として控訴人の意思決定を行い、控訴人とc社の2つの会社を、適宜に使い分けながら、不動産開発等の事業を行っていた。
控訴人は、平成15年7月当時、原判決別紙物件目録2記載1ないし7の土地(以下「旧本件各土地」という。)及び8ないし10の建物(旧本件各土地と併せて、以下「旧本件各不動産」又は「第一物件」という。)、原判決別紙物件目録3記載1ないし4の土地(以下「第二物件」という。)及び原判決別紙物件目録4記載1ないし4の土地(以下「第三物件」という。)を含む広範囲の一帯の土地を所有するEから、墓地開発の依頼を受け、一帯の土地のうち一部をマンション建設用地として開発することにより、墓地建設の資金を捻出する計画を立案し、多数の借地権者等の地権者との明渡交渉を行っていた。
c社は、平成15年7月2日、上記開発計画の資金とするため、株式会社d(以下「d社」という。)から、利息年12%、返済期限平成16年2月5日の約定にて4億5000万円を借り受け(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)、控訴人は、同日、Eの承諾のもと、c社の債務を担保するため、Eから控訴人に旧本件各不動産の所有権を移転した上、d社との間で、同不動産に抵当権を設定する旨の契約(以下「本件抵当権設定契約」という。)を締結し、d社を抵当権者とする抵当権設定登記が経由された。
東京地方裁判所は、平成16年4月28日、d社の申立てに基づき、旧本件各不動産につき、担保不動産競売の開始(以下「本件競売手続」という。)を決定した。
被控訴人株式会社Y1(以下「被控訴人Y1社」という。)は、不動産の売買・賃貸・管理及び利用等を目的とする株式会社(平成15年7月当時の旧商号は株式会社a(以下「a社」という。)、平成18年8月8日に株式会社a1、平成19年1月10日に現在のものに変更)であり、平成18年4月13日、本件競売手続による売却により旧本件各不動産を買い受けた。
被控訴人Y1社は、旧本件各不動産の競落後、旧本件各土地を合筆した上、原判決別紙物件目録1記載1ないし5の土地(以下、同目録記載の番号に従って「本件土地1」などという。)に分筆した。原判決別紙物件目録2記載8ないし10の建物は、同目録1記載6ないし8の建物と同じである(以下、特にことわらない限り、旧本件各不動産を区別することなく、「本件各不動産」、「本件各土地」という。)。
被控訴人株式会社Y2(以下「被控訴人Y2社」という。)は、平成18年7月13日に設立された投資業等を目的とする株式会社である。
株式会社b(以下「破産会社」という。)は、不動産の売買、賃貸、斡旋及び仲介業等を目的とする株式会社(平成19年11月29日以前の商号b1株式会社)であり、本件訴訟係属中の平成21年6月2日、破産手続開始決定を受け、被控訴人管財人Y3(以下「被控訴人破産管財人」という。)が破産会社の訴訟手続を受継した。
(2) 本件は、控訴人が、d社の不動産担当部長のF(以下「F」という。)と暴力団関係者であるG(以下「G」という。)が、本件抵当権設定契約の手続に紛れて偽造の控訴人名義の委任状や売買契約書を作成するなどして、本件各土地と一帯としてマンション建設用地とする予定の第二物件の所有権を控訴人から移転して、同土地を控訴人から取り上げ、控訴人が同土地を利用して資金調達が出来ない状態にし、上記d社からの融資を弁済できないようにして、本件各不動産を競売手続に付し、その子会社に競落させてこれを取得するという、マンション建設用地の乗っ取り計画(以下「本件計画」という。)を企てていたものであり、本件抵当権設定契約は、この違法な計画の手段の一つとして締結されたものであるから、公序良俗に反して無効であり、被控訴人Y1社は、この計画を知った上、d社の傀儡として本件不動産を競落したのであるから、本件各不動産の所有権を取得しないし、同社から本件土地1ないし3及び5を買い受けた被控訴人Y2社、さらに同社から本件土地5の共有持分2分の1を買い受けた破産会社は、無権利者から譲り受けたにすぎず、また、事情を知り又は事情を知り得たのにこれを譲り受けたものであるから、本件各不動産について、その権利を取得し得ないと主張して、所有権に基づき、被控訴人らに対し、各被控訴人名義の所有権移転登記等の抹消登記手続を求め、被控訴人破産管財人に対し、本件土地1及び2の明渡しを求める事案である。
(3) 原判決は、被控訴人Y1社が本件計画を知りながら買受申出をしたとは認められず、また被控訴人Y1社とd社が実質的に同一であるとはいえないから、被控訴人Y1社による本件各土地の所有権の取得を否定することはできないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張
前提事実、争点及び争点についての当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 前提事実(当事者間に争いがない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実)」及び「3 争点及び争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。
その理由は、以下のとおり補正し、後記2のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1項に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決12頁21行目から22行目を以下のとおりに改める。
「1 争点1(控訴人は、担保権の実行としての競売手続において本件各不動産を競落した被控訴人Y1社に対して、本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であることを理由に、同被控訴人が本件各不動産を取得していないと主張しうるか。)について」
(2) 原判決16頁7行目から13行目までを以下のとおりに改める。
「 上記各契約は、融資の当日にd社の本社ビルにA、D、控訴人側で依頼したH司法書士、F、Gが同席している場において、これらの者の面前で契約書及び登記手続関係の書類に双方が調印する作業が行われ、その際、Fが『私が押します。』と言って、A及びDから控訴人及びc社の社判及び代表者印を預かり、書類の内容の説明をすることなく複数の書類に押捺した(甲23、24、95、96)。当時、別室にはI、J、抵当権者のe信用金庫のほか地権者たちを待機させており、上記の書類作成後、Fが抱えてきた現金及び預金小切手を、Gが地権者を含めた権利者を一人一人別室から呼び込んで各権利者らに支払をした(甲23、24)。
なお、c社が、後日、d社を被告として、融資金額が4億5000万円であるのに4億0665万円しか交付されていないとして提起した配当異議事件(東京地方裁判所平成18年(ワ)第11552号)において、同裁判所は、金銭消費貸借契約としては4億5000万円で成立しており、交付されていない4335万円については利息の天引と考えるべきであるとした。そして、現実の受領額を元本として平成15年7月2日から平成16年1月5日までの間の利息制限法所定の制限利率による利息額3141万5607円を超過する部分を元本に充当されたものとみなし、平成16年1月6日時点における残元本を4億3806万5607円とし、この金額を元にその後の利息・損害金を再計算の上、配当表記載のd社に対する配当額のうち、損害金については1億9187万2735円を、元本については4億3806万5607円を、合計については6億2993万8342円を超える部分を取り消した(乙2)。」
(3) 原判決16頁15行目の「株式会社f」から22行目末尾までを以下のとおりに改める。
「 株式会社f(以下「f社」という。)の代表取締役K(以下「K」という。)を紹介された(甲95)。Kは、Aに対し、総額8億5000万円を利息年8%で融資をするが、とりあえず融資内入金として3000万円を融資すると言い、資金投下確約書を作成し、融資の担保を要求してきた(甲95)。そこで、Aは、Eの承諾を取り、第二物件のうちの2筆(原判決別紙物件目録3記載3及び4の土地)を控訴人名義に移転した上、f社からの3000万円の融資の担保として提供することとした(甲3の3・4、95)。ところが、f社は、実際にはほとんど融資能力がなく、平成15年11月18日に2000万円は後日貸し付けるとして、1000万円を貸し付けたにとどまった。そして、登記完了後の登記簿謄本には、平成15年11月18日受付、極度額3500万円、債務者f社、債権者Lとの根抵当権設定仮登記がされていたため、AがKを問い質したところ、Kは3000万円を用意できず、急遽、Lから1000万円を借りてきた旨弁解した(甲3の3・4、95)。」
(4) 原判決18頁26行目の「途中で席」から19頁4行目末尾までを以下のとおりに改める。
「途中で、Aを心配する様子のH司法書士の机の前に行き、二、三会話をした後、元のテーブルに戻ったが、この間、Dの面前でGやH司法書士が、書類の内容を説明することなく、Aから預かった印章を複数の書面に押捺していた(甲24、95、96)。」
2(1)ア 以上の認定事実に基づき、争点1(控訴人は、担保権の実行としての競売手続において本件各不動産を競落した被控訴人Y1社に対して、本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であることを理由に、同被控訴人が本件各不動産を取得していないと主張しうるか。)のうち、本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であるかについて検討する。
控訴人は、d社のFと暴力団g会副会長のGが、共謀して、控訴人及びc社がマンション建設用地の開発をしていた本件各土地及びその隣地である第二物件を乗っ取ろうと、まず①開発資金の借入を望んでいたAに対してd社から融資すると持ちかけ、d社とc社との間で本件金銭消費貸借契約を締結し、d社と控訴人との間で本件各土地について本件抵当権設定契約を締結し、②この契約手続ないし抵当権設定登記手続に紛れて控訴人の印章を冒用して控訴人名義の白紙委任状等の書面を作成し、押捺された控訴人の印影から偽造印章を作成した上、Aに対して更に別会社から開発資金の融資をすると持ちかけ、控訴人がEから処分を任されていた第二物件に抵当権を設定するとして印鑑証明書及び権利証の交付を受け、これら偽造書面及び偽造印章を利用して第二物件につき、F及びGの関係者への所有権移転登記を経由し、さらに、③c社の所有する第三物件について、控訴人のc社に対する貸金債権のために設定していた抵当権に係る仮登記につき、同じく偽造印章を利用して債権譲渡を理由に同じく関係者への移転仮登記を経由し、④控訴人及びc社が、第二物件及び第三物件を担保に資金調達できないようにし、c社をして本件金銭消費貸借契約に係る借入金債務の債務不履行に陥らせ、本件各不動産について競売を開始し、競売手続によって子会社に競落させて取得し、本件各不動産及び第二物件というマンション建設用地全体を取得しようという本件計画を遂行したのであり、本件抵当権設定契約は、本件計画のための1つの手段として締結されたものであり、公序良俗に反し無効である旨主張する。
また、引用にかかる原判決20頁の認定事実第3、1(2)イ(ア)のとおり、①第二物件の登記名義を控訴人からMに移す登記手続に用いられた委任状(甲14の1、以下「本件委任状」という。)の委任者欄の代表者印の印影には、「○」の字に欠落がないのに対し、同委任状の左上の捨印部分の代表者印の印影には「○」の字の第四画に欠落があること、②平成16年1月26日付けで、控訴人を売主、h株式会社(以下「h社」という。)を買主として作成された売買契約書(甲82)の控訴人の代表者印の印影には上記捨印の印影と同じ部分に欠落があること、③平成15年8月26日付け催告書(甲131)及び同月29日付け条件付使用貸借契約書(甲132)の控訴人の代表者印の印影には「○」の字に欠落がないのに対し、同年9月12日付け及び同年10月1日付けの控訴人作成書面(甲133、134)に押捺された代表者印の印影には、上記捨印と同じ部分に欠落があることが認められるところ、この点につき、控訴人がMを被告として提起した所有権移転登記抹消登記請求事件の控訴審(平成18年(ネ)第4425号、以下「別件第二物件訴訟」という。)の判決(甲8)において、本件委任状の控訴人代表者印による2つの印影のうち、委任者欄のものは、平成16年2月16日より前にあらかじめ押捺されていたのに対し、捨印として押捺されたものは、同日に押捺されたものと推認されると判断されたことを前提に、控訴人は、平成15年7月2日の本件抵当権設定契約時に控訴人の代表者印が盗用され、本件委任状の委任者欄の印影が押捺されたものであり、これがFが、Gと共謀の上、本件抵当権設定契約をする段階でマンション建設用地を乗っ取るための本件計画をしていた根拠である旨主張する。
イ そこで判断するに、平成15年7月2日に締結された本件消費貸借契約では、現実に金員と預金小切手が交付されており、これに基づく本件抵当権設定契約についても、それ自体は問題のないものであるから、これを公序良俗により無効であるというためには、控訴人の主張する本件計画なるものがあり、d社のFが本件計画を認識し、これに荷担していたことを要する。この点につき、①平成15年9月15日以降、Gの付き人をしていて、GとFの言動を直接見聞きしていたN(以下「N」という。)は、原審の証人尋問における証言、c社とd社外2名との間の損害賠償請求事件(東京地方裁判所平成17年(ワ)第1019号)における証言(甲22)、平成16年7月10日付け陳述書(甲16の1)、平成16年11月8日付け陳述書(甲17の1)及び報告書(甲86)の各記載部分において、GがFとの間で本件計画の話をしていた旨を述べていること、②引用にかかる原判決が認定(原判決19頁、第3、1(2)ア(ソ))するとおり、別件第二物件訴訟を提起後間もない平成16年7月23日から24日にかけて、控訴人の当時の代表者であるDが、G、Fほか複数名に取り囲まれ、同訴訟を取り下げるように要請されており、Fが、本件計画の一部である第二物件の詐取の阻止行動に実際に関わっていること、③引用にかかる原判決が判断するとおり、第二物件及び第三物件の詐欺被害について、Fが関与していたことが推認されること(原判決22頁、第3、1(2)イ(ウ))からすると、d社のFは、本件抵当権設定契約の当初から本件計画を認識し、これに荷担していたものと推認するのが相当である。
ウ そうすると、本件抵当権設定契約は、本件計画のための1つの手段として締結されたものであり、公序良俗に反し無効であると評価すべきこととなる。
(2)ア 次に、争点1のうち、控訴人は、競売手続により本件各不動産を競落した被控訴人Y1社に対して、本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であることを理由に、同被控訴人が本件各不動産を取得していないと主張しうるかについて検討する。
この点については、引用にかかる原判決12頁ないし28頁の第3、1(1)及び(3)に説示するとおりであって、控訴人が本件競売手続において所有者として扱われていたのであるから、控訴人が買受人である被控訴人Y1社に対して、本件各不動産の競落による取得を否定することができるのは、①被控訴人Y1社が、本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であることを了知していながら、買受申し出をした、又は②被控訴人Y1社が、d社と実質的に同一であって、d社自身が買受人となっているとみることができるといった特別の事情が認められる場合に限られると解するのが相当である。
イ そこで判断するに、まずGらが本件計画を遂行するに当たり、被控訴人Y1社の関係者にこれを知らせることは必須の事柄ではない。そして、本件計画は犯罪性があるから、経験則上、必要最小限度の関与者にしか知らせないようにするものと解される。そのような観点から検討するに、控訴人が当審において提出したNの陳述書(甲160)には、第一物件は子会社のa社を使って競落する旨の話をしていた旨の記載があるが、原審に提出されたNの陳述書及び証言には、a社という名前は一切出ていないのに当審において、突然、a社の名が出てくるのは不自然であり、上記陳述書の記載を直ちに信用することはできない。これに加えて、Nの陳述書及び証言は、原判決が説示するとおり、GとFが、本件各不動産をd社の子会社ないし親族の会社といった関連会社に競落させようと謀議していたと述べるにとどまるのであって、この謀議の場に被控訴人Y1社の関係者が同席していたことなど、被控訴人Y1社が本件計画を了知していたことを推認することのできる事情は認められない。そうである以上、上記の観点からしても、被控訴人Y1社が本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であることを了知していながら、買受申出をしたものと評価することは困難というほかない。
また、被控訴人Y1社が、d社と実質的に同一であって、d社自身が買受人となっているとみることができるかについては、確かに、被控訴人Y1社の代表者と、d社の代表者との間に親族関係があるという事情は認められるが、原判決の判断するとおり、控訴人Y1社とd社間に資本関係があることを認めるに足りる証拠はなく、本件抵当権設定契約時から本件各不動産が競落されるまでの間にd社と被控訴人Y1社に取締役として共通する者もいないし、被控訴人Y1の代表者が、原審における証言及び陳述書(乙11)において、本件競売事件が係属された後に本件不動産の紹介を受け、被控訴人Y1社自身が経営判断をしてこれを競落することとした旨述べているところ、その信用性を減殺する反証はされていない。このことに加えて、当審において、控訴人に対し、被控訴人Y1社がd社と実質的に同一であることについて、具体的な主張立証を促したにもかかわらず、この点につき、上記の代表者同士の親族関係以上の具体的な主張立証がされなかった。
以上によれば、本件の関係で被控訴人Y1社が、d社と実質的に同一であると評価することは困難であるというほかない。
なお、d社及びその代表者が取引その他において不正を働いた事件(甲101、102、113の1ないし12)が見られるが、このことを考慮しても、上記判断は維持することができる。
(3) 小括
以上によると、控訴人が、競売手続により本件各不動産を競落した被控訴人Y1に対して、本件抵当権設定契約が公序良俗に反して無効であることを理由に、同被控訴人の本件各不動産の取得を否定できる特別な事情は認められない。そうすると、本件競売事件においては、他に有限会社iが4億5355万6000円で入札している(乙イ1の2)ところ、被控訴人Y1社は、本件競売事件において、最高価格で適法に競落し、代金を納付して所有権を取得しているのであり、その手続をみる限り、これを無効とする理由は見あたらない。
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないことが明らかである。
3 結論
以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する本件請求は、いずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。
よって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤新太郎 裁判官 柴田秀 河田泰常)