大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成24年(行コ)323号 判決 2012年11月29日

控訴人

スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合

被控訴人

処分行政庁

中央労働委員会

被控訴人補助参加人

EMGマーケティング合同会社

同代表者代表社員

東燃ゼネラル石油株式会社

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  中央労働委員会が,中労委平成17年(不再)第9号事件について,平成22年11月4日付けでした命令を取り消す。

3  中央労働委員会は,被控訴人補助参加人に対し,原判決別紙1記載の命令を発しなければならない。

第2事案の概要

1  被控訴人補助参加人(以下「補助参加人」又は「モービル石油」という。)の従業員等によって結成された労働組合である控訴人は(以下「ス労自主」いうことがある。),補助参加人を被申立人として,原判決別紙2の①ないし③記載の各行為(以下,それぞれ「本件行為1~3」といい,併せて「本件各行為」という。)が労働組合法(以下「労組法」という。)7条3号の労働組合の運営に対する支配介入に該当するとして,大阪府労働委員会(以下「大阪府労委」という。)に対して救済命令を申し立てた(以下,「本件初審事件」という。)。同委員会は,上記各行為はいずれも不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却した(以下「本件初審命令」という。)ところ,控訴人は,これを不服として,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対し再審査の申立てをしたが(以下,「本件再審査事件」という。),同委員会はこれを棄却した(以下「本件命令」という。)。

本件は,控訴人が被控訴人に対し,本件命令の取消しを求めるとともに,中労委に原判決別紙1記載の義務付け(以下,この義務付けに係る訴えを「本件義務付けの訴え」という。)を求めた事案である。

原判決は,本件各行為について,補助参加人の支配介入は認められないとして,本件命令の取消しを求める請求を棄却し,本件義務付けの訴えを本件命令は適法であるから要件を欠き不適法であるとして却下したところ,控訴人は,これを不服として控訴をした。

2  前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2及び3並びに「第3 当事者の主張の要旨」(原判決3頁2行目から22頁14行目まで)のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決3頁21行目の「改称して,現在に至っている。」を「改称し,24年5月21日に現会社に組織変更した。」に改める。)。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も補助参加人がX1らの本件早期退職届を受理して同人らを退職させたこと及びX1らが控訴人からの脱退を表明したことに関し,補助参加人に支配介入は認められず,X1らの申し出を受けてチェック・オフを停止したことは支配介入に当たらないので,本件命令の取消請求についてはこれを棄却し,本件義務付けの訴えについては,行訴法37条の3第1項2号の要件を欠き不適法な訴えとして却下すべきものと判断する。

その理由は,次項のとおり補足説明を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1ないし5(原判決22頁16行目から37頁14行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  補足説明

(1)  控訴人は,補助参加人が本件早期退職支援制度に応募して行ったX1らの本件早期退職届を受理して同人らを退職させたこと及びこれに伴い同人らが控訴人からの脱退表明をしたことに関し補助参加人の支配介入があり,同人らのチェック・オフを停止したことが控訴人に対する支配介入に当たると主張する。

(2)  しかしながら,補助参加人が導入した本件早期退職支援制度に応じて,退職するかどうかは,労働者個人がその意思によって自由に決定することであり,退職の申し出を受けた使用者においてこれを拒否することはできない。本件早期退職届がされた当時,控訴人と補助参加人は,本件早期退職支援制度導入を巡って対立していたが,そのような状況にあるからといって,事前に控訴人と協議し,合意を得た上でないと,補助参加人において本件早期退職届がX1らの自由な意思に基づくものであっても,これを承認することができないとすることが相当でないことは明らかであり,この点に関する控訴人の主張は理由がない。

そして,X1らが補助参加人の不当な誘導等によって意に反して本件早期退職届の提出を余儀なくされたと表明していることは明らかでなく,引用に係る原判決の本件早期退職届をした経緯に関する認定事実によれば,X1らが補助参加人による利益誘導等の不当な干渉により本件早期退職届をしたとの事情は認められないことから,X1らの本件早期退職届に関し補助参加人に支配介入があったということはできない。

控訴人は,Y1課長が本件早期退職届を受け取った平成12年2月22日以前から補助参加人はX1らに対して本件早期退職支援制度を利用するよう誘導し,あるいは,同制度を利用させるために社内同和研修を強要するなど執拗な嫌がらせをし,X1の有給休暇不足を休日出勤に振り替えさせたり,X2にはボランティアで休日出勤をさせたりして,X1らが本件早期退職届をすることを隠蔽するための工作を行ったなどと主張するが,Y1課長が本件早期退職届を受け取る以前から補助参加人がX1らと本件早期退職支援制度の利用に関して交渉を行っていたとしても,そのことのみで補助参加人による不当な誘導があったと認めることはできないし,補助参加人がX1らに対して執った上記措置が隱蔽工作に当たらないことは引用に係る原判決の理由説示のとおりであって,控訴人の主張は採用できない。

(3)  控訴人は,X1らは,「組織外扱い」を受けた経験からその再来を危惧し,また,「在日韓国・朝鮮人問題」をテーマに実施された社内同和研修に関しても,これを利用した補助参加人からの攻撃によって控訴人からの脱退を余儀なくされた旨主張する。しかしながら,「組織外扱い」は,補助参加人が平成9年に経営及び合理化方針に基づいて組織の見直しを行った際,X1らが新組織に加えられなかったことから問題となった事柄であり,控訴人がこれを不当労働行為であるとして救済命令の申立てをしたが,再審査の申立てに対する裁決によって不当労働行為に該当しないとされ,既に決着しており(大阪府労委平成9年(不)第73号,中労委平成14年(不)第20号),補助参加人において,それを利用してX1らに控訴人からの脱退を迫ったなどの事情は認められない。また,社内同和研修は,補助参加人が昭和50年頃に差別図書を購入していたことが発覚したことが契機となって人権擁護の観点から昭和52年以降継続して行われているものであり,そのテーマとして「在日韓国・朝鮮人」が取り上げられたとしても,それをもって直ちにX1らに対する攻撃とみることはできず,加えて,X1ら自身が意に反して控訴人からの脱退を余儀なくされたと認識していると認めるに足りる証拠はないのであって,補助参加人が「組織外扱い」や社内同和研修において上記テーマを取り上げてX1らに対し本件早期退職届を提出し,退職を強要したということはできず,他にX1らが退職するについて,補助参加人がその意思決定に不当に干渉したと認めることはできない。

(4)  チェック・オフは,具体的に発生した労働者の賃金の一部についての処分に関わることであるから,労働組合が使用者とチェック・オフ協定を締結していたとしても,労働者の意思に反してチェック・オフを行うことはできないところ,チェック・オフ協定がある限りその停止はできないと解することはできないから,これを前提とする支配介入の主張はその前提において失当である。

3  よって,控訴人の本件命令の取消請求を棄却し,本件義務付けの訴えを却下した原判決は相当であるから,本件控訴は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第21民事部

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例