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東京高等裁判所 平成25年(ネ)3408号 判決 2013年10月31日

控訴人(原告)

X信用金庫

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

鈴木祐一

栗原正晴

渡部夕雨子

中村香

平山有希子

被控訴人(被告)

東京信用保証協会

同代表者理事

同訴訟代理人弁護士

田中等

上松正明

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  主位的請求

被控訴人は、控訴人に対し、1億1260万1745円を支払え。

3  予備的請求

被控訴人は、控訴人に対し、1億0756万4380円及びこれに対する平成24年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人が、a株式会社(旧商号有限会社a1、以下「a社」という。)及び株式会社b(旧商号株式会社b1、以下「b社」という。)に貸し付けた金銭債権について信用保証をした被控訴人に対し、主位的請求として保証契約に基づき、貸金残元金、未払利息及び未払遅延損害金の合計1億1260万1745円の支払を求め、予備的請求として、仮にa社及びb社が反社会的勢力であることにより、保証契約が無効となったり、被控訴人が約定により免責されるとしても、被控訴人において反社会的勢力を主債務者とする保証契約を締結しないよう注意すべき義務を怠って信用保証をした結果、控訴人は保証契約により代位弁済を受けられるものと信頼して貸付けを行い、被控訴人の義務違反によって回収不能となった貸金相当額の損害を受けたと主張して、不法行為に基づく損害賠償として、貸金元金から弁済額を控除した残額1億0756万4380円及びこれに対する不法行為後の日(予備的請求を追加した平成24年11月13日付け準備書面送達の日の翌日)である平成24年11月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  原審は、保証契約においては主債務者であるa社及びb社が反社会的勢力でないことが契約の要素となっていて、この点について被控訴人に錯誤があったから保証契約は無効であり、また、被控訴人には保証契約を締結したことについて控訴人に対する注意義務違反はないなどとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

3  本件の前提事実、争点及び争点に関する当事者双方の主張は、以下のとおり当審における主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の1ないし5に記載されたとおりであるから、これを引用する。

4  当審における主張

(1)  控訴人の主張

ア 犯罪対策閣僚会議幹事会申合せとして平成19年6月に公表された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(乙9)や、金融庁及び中小企業庁が平成20年6月に策定した「信用保証協会向けの総合的な監督指針」(乙10)、金融庁が平成24年4月に策定した「主要行等向けの総合的な監督指針」(乙11)及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(乙12)において、企業が反社会的勢力との取引を含めた一切の関係を遮断することが強く要請されていたものの、これは、反社会的勢力と知りながら新たな関係を築くことを禁止する点に主眼があるのであって、反社会的勢力である相手方について、通常必要と思われる注意を払ってもなお反社会的勢力であることが判明しないような場合にまで当該相手方との一切の関係遮断を要求することは、企業に対して不可能を強いる結果となるから、そのような場合には当該相手方との間で関係を持つこと自体は禁止されていないといえる。

したがって、本件各保証の時点で、仮にa社及びb社が反社会的勢力関連企業であったとしても、通常必要と思われる注意を払ってもなお、a社及びb社が反社会的勢力関連企業であることが判明しないような場合には、被控訴人がa社及びb社との間で保証委託契約を締結し、その上で控訴人との間で本件各保証をすることは、上記各指針との関係においても何ら禁止されていない。そして、本件各保証については、控訴人ないし被控訴人において、正に通常必要と思われる注意を払ってもなお、a社及びb社が反社会的勢力関連企業であることが判明しなかった場合に該当するのである。

また、上記各指針は、反社会的勢力を社会から排除すべく、反社会的勢力との関係遮断を目的としているのであって、反社会的勢力と無関係の第三者の信頼を害したり、第三者に不意打ちとなるような結果を招来する場合にまで、第三者との関係を遮断するような行動をとることを正当化する根拠として持ち出すことを全く想定していない。しかも、本件各保証自体はa社やb社とは直接関係のない控訴人と被控訴人との間の契約であるから、本件において本件各保証の錯誤無効を認めたとしても、反社会的勢力との関係遮断に何ら資するものでないことは明白である。

さらに、被控訴人が公的性格を有することと、本件において本件各保証について錯誤無効の主張を認めることとの間には、何の関連性もないばかりか、保証契約締結後に主債務者が反社会的勢力関連企業であることが判明した場合に、保証契約の錯誤無効の主張が認められるとすると、金融機関にとって安心して信用保証協会制度を利用することができなくなってしまい、むしろ中小企業者等に対する金融の円滑化という信用保証協会の存在意義そのものに悖る結果となる。

イ 法律行為が民法95条に定める錯誤として無効になるためには、意思表示の内容における要素に錯誤が存しなければならないところ、保証契約は、主債務者や金額、返済条件等によって特定される主たる債務について、これが履行されなかった場合に補充的に債務を履行することを約する契約であるから、主債務者や主債務の同一性といった点のみが意思表示の内容における要素に当たり、主債務者が反社会的勢力関連企業であるか否かは、主債務者の資力等と同様に主債務者の属性にすぎず、それ自体が当然に意思表示の内容における要素になるものではない。

本件についてみれば、被控訴人は、保証の対象となる主たる債務が、a社又はb社を主債務者とし、これらの主債務者の控訴人に対する本件各消費貸借に係る貸金債務であることを正確に認識した上で、本件各保証に係る契約を締結したことが明らかであるから、本件各保証について、被控訴人の意思表示の内容における要素には何らの錯誤も存しない。

主債務者の属性に関する事情についての錯誤は、いわゆる動機の錯誤として、そのような動機が相手方に表示されていることを前提として、意思表示の内容となった場合には問題となり得るところ、主債務者が反社会的勢力関連企業であるか否かが問題とされるのは、企業に対して反社会的勢力との関係遮断を要請する上記各指針に由来する。しかし、上記各指針が定める反社会的勢力との関係遮断の趣旨は、通常必要と思われる注意を払い、相手方が反社会的勢力であることが判明した場合には当該相手方と関係を持つことを禁止するというにとどまるのであって、本件各保証の契約締結時点における客観的真実として主債務者が反社会的勢力関連企業であるか否かが問題となるのではない。そうすると、本件においては、a社又はb社が反社会的勢力関連企業であるか否かといった主債務者の属性が動機の錯誤の問題となり得るとしても、被控訴人において、通常必要と思われる注意を払ってもなお両社について反社会的勢力関連企業とは判明しなかったことが明白であるから、被控訴人の意思や認識と現実との間には何らの錯誤も存在しない。

また、控訴人と被控訴人との間で交わされた約定書や信用保証書中に、「主債務者が反社会的勢力関連企業でないこと」等の記載は全く存在せず、本件各保証に際して、被控訴人から控訴人に対し「主債務者が反社会的勢力関連企業でないこと」という動機が表示されたことは一切ないし、本件以外に、主債務者が反社会的勢力関連企業であることを理由として、被控訴人から保証契約の錯誤無効の主張や解除、代位弁済の拒絶といった対応をとられたこともない。

したがって、いずれの意味においても、被控訴人に何らの錯誤も存しないことが明らかであるから、錯誤無効の主張が認められる余地はない。

ウ 平成20年11月に全銀協が取りまとめた暴力団排除条項の参考例において、債務者が暴力団等でないことの表明・確約に違反した場合、銀行の請求により、債務者の銀行に対する一切の債務の期限の利益が喪失する旨の条項が設けられたことについて、同年12月以降に全銀協と連合会側との間で行われた折衝において、連合会側は、保証契約締結後に主債務者が反社会的勢力関連企業であることが判明した場合に保証契約は錯誤により無効になるとの主張を一切していないばかりか、銀行側の都合による暴力団排除条項に基づく期限の利益喪失が生じた場合であっても、信用保証協会として、直ちに保証免責とすることはしないとの姿勢を表明している。このことからすれば、信用保証協会が主債務者について反社会的勢力関連企業であることを認識せずに保証契約を締結した後、反社会的勢力関連企業であることが判明した場合には、信用保証協会は錯誤無効の主張をすることができず、代位弁済に応じるべきであると連合会側が認識していたことは明白である。

また、平成21年に改訂された被控訴人を含む信用保証協会で用いられている信用保証委託契約書は、3条で主債務者に対して暴力団員でないこと等の表明を求めた上で、5条で、委託者又は保証人が事後的に暴力団員等であることが判明したときには、求償権の事前行使ができる旨、すなわち、金融機関との保証契約が有効に存在し、金融機関に対して代位弁済を行うことを前提として、主債務者に求償権を行使することを明示している。この点からすると、信用保証協会は、主債務者が反社会的勢力関連企業であることを認識せずに金融機関との間で保証契約を締結した後、主債務者が反社会的勢力関連企業であることが判明した場合には、保証契約の錯誤無効を主張しないことがこれらの条項の前提となっていることになる。

エ 以上のとおり、本件において、被控訴人には本件各保証に当たって何らの錯誤も存していないことが明らかであるから、錯誤無効の主張を採用する余地はない。

なお、a社について、警視庁によって暴力団員等が実質的に経営している会社であると認定されたのは、本件各保証後の平成22年12月8日であるから、本件各保証の時点においてa社が反社会的勢力関連企業であったと安易に認定されるべきではないし、b社についてみれば、未だに警視庁からも暴力団員等が実質的に経営している会社であるとの認定を受けていないのである。

オ 被控訴人において上記各指針の要請を忠実に実行しようとしたならば、a社やb社が反社会的勢力関連企業であることを認識した時点で、速やかに両社との間の保証委託契約を解除するなどして、両社との関係解消に努めるべきであったといえるところ、被控訴人は、実際にはこのような対応をとることは一切なく、a社及びb社の借入金返済が滞り、控訴人から保証債務の履行を求められるに至って初めて錯誤無効の主張を持ち出したのであって、被控訴人の対応は、上記各指針を尊重しようとする姿勢に基づくものではなく、自らの保証債務履行義務を免れようとしているにすぎないのであり、このような被控訴人が、上記各指針が規定する反社会的勢力との関係遮断という要請を根拠として、本件各保証の錯誤無効を主張することは、信義則に反する。

(2)  被控訴人の主張

ア 被控訴人を始めとする信用保証協会は、公的資金を扱う公的機関であり、信用保証に関し公正かつ公明性を求められる機関であることから、信用保証の利用者は、弁済能力や信用力に問題がなければ誰でもよいというわけではなく、公的な資金を利用するに足りる健全な中小企業者に厳しく限定されている。そのため、上記各指針が出される以前から、暴力団組員などの反社会的勢力が信用保証協会の信用保証を利用することはできず、反社会的勢力に対する融資が信用保証の対象とならないことは、信用保証の当然の前提ないし保証条件として、控訴人を始めとする金融機関に広く認識されていた。加えて、上記各指針により、反社会的勢力との取引は一切行ってはならないとされたのであるから、上記各指針が公表されて以降は、控訴人を始めとする金融機関も反社会的勢力に対して融資を行うこと自体が禁止され、また、反社会的勢力が信用保証協会の信用保証を利用することができず、反社会的勢力に対する融資が信用保証の対象とならないこと及びこのことが信用保証の当然の前提ないし条件となっていることが、控訴人を始めとする金融機関に広く認識されていたことも明らかである。

イ 以上のとおり、信用保証協会の存在目的である中小企業の健全な育成という目的を完遂するために、信用保証の利用者が反社会的勢力関連企業であったことを理由とする錯誤無効の主張が認められるべきである。

また、控訴人は、主債務者について通常必要と思われる注意を払ってもなお反社会的勢力関連企業であるとは判明しないことという限度においては、主債務者が反社会的勢力関連企業でないことが被控訴人の意思表示の内容となり得ず、本件各保証には錯誤がないと主張するが、上記各指針の公表以降は、被控訴人を始めとする信用保証協会が信用保証を行うに当たって主債務者が反社会的勢力関連企業でないことが当然の前提となっていて、主債務者が反社会的勢力関連企業であれば、相当な注意を払えばその事実が判明した場合であるか否かにかかわらず、信用保証協会は信用保証をしなかったはずであって、仮に主債務者が反社会的勢力関連企業でないことが動機であったとしても、本件各保証においては、主債務者であるa社及びb社が反社会的勢力関連企業でないことを内容とする動機が控訴人に表示されていたといえるから、両社が反社会的勢力関連企業でないことについての錯誤が被控訴人にあったことは明らかである。

ウ 上記のとおり、信用保証の利用者が公的な資金を利用するに足りる健全な中小企業者に厳しく限定されていることは、控訴人を始めとする金融機関も熟知しているところであるから、金融機関が信用保証を依頼するに当たっては、融資対象者が信用保証の対象者であるか否かを十分に判断して信用保証を依頼しているはずであって、融資対象者が信用保証の対象者でなければ、保証債務の履行を受けられない結果となることは自明の理である。そして、控訴人自身も、本件各消費貸借当時、a社及びb社が反社会的勢力関連企業であることを知っていれば、本件の各貸付けを行わなかったはずであり、被控訴人の信用保証を依頼しようとは考えなかったはずである。したがって、控訴人については、a社及びb社に対して貸付けを行ったこと自体に錯誤が生じているほか、被控訴人から本件各保証を受けたことについても錯誤があり、本件各保証は双方に錯誤があることになる。

エ 控訴人は、a社及びb社の借入返済が滞り、控訴人から保証債務の履行を求められるに至って初めて被控訴人が錯誤無効の主張を持ち出したと主張するが、これは全く事実に反している。被控訴人は、平成22年12月8日付けでa社が暴力団員等によって実質的に経営されていることを警視庁が公表して初めて、a社及びb社が反社会的勢力関連企業である可能性のあることを認識するに至ったが、その後すぐに、控訴人に対し、本件各保証が有効かどうか問題があり、保証債務の履行ができるかどうか分からない旨を回答していて、検討の結果、a社及びb社は本件各保証の当時から反社会的勢力関連企業であり、本件各保証は錯誤により無効又は保証条件違反により免責され、a社及びb社との信用保証委託契約も錯誤により無効になると判断するに至ったのであり、両社との関係を解消するために行うべき措置はなかったのである。

第3当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないから、これらを棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第3 判断」に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  原判決14頁17行目の「(甲26、甲27、甲28)」を「また、a社は、そのころ、公共工事の指名業者として、その受注を徐々に増加させていた。(甲26ないし28、41の1ないし5)」に改める。

2  原判決16頁6行目の「公表した。」の次に「本件指針では、反社会的勢力とは取引関係を含めて一切の関係を持たず、反社会的勢力への資金提供は絶対に行わないこと、反社会的勢力と一切の関係を持たないために、相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に通常必要と思われる注意を払うとともに、反社会的勢力とは知らずに何らかの関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点や反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消することなどが謳われている。」を、同9行目の「検証に当たり、」の次に「反社会的勢力とは一切の関係を持たず、反社会的勢力であることを知らずに関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点で、可能な限り速やかに関係を解消できるように、」をそれぞれ加える。

3  原判決16頁25行目の「公表した。」の次に「その内容は、債務者又は保証人において、暴力団、暴力団関係企業等に現在該当しないことを表明し、将来にわたっても該当しないことを確約するとともに、債務者や保証人がこれらに該当したり、上記の表明や確約に関して虚偽の申告をしたことが判明したりした場合には、金融機関からの請求があり次第、一切の債務の期限の利益を失うこととなっていた。」を加える。

4  原判決18頁10行目の「法人である。」の次に「そして、被控訴人は、信用保証協会制度を利用しようとする者向けに平成19年度に発行した手引きにおいて、暴力団等が介在する申込みについては信用保証を利用することができないことを既に明示していたところであり、また、平成21年に作成したパンフレットにも、同様の事項を記載していたものである。」を加える。

5  原判決19頁18行目末尾の次に「しかも、要素の錯誤により契約が無効になるか否かは、個別具体的な事案に則し法的な評価を加えた上で決せられる事柄であるから、契約条項として掲げることが適当であるとはいい難い面があり、反社会的勢力排除条項が設けられている保証委託契約において、委託者(主債務者)が暴力団等の反社会的勢力に当たる場合には、信用保証協会側は、要素の錯誤による契約の無効を主張することもできるし、契約条項に従って求償権の事前行使をすることもできると解される。以上要するに、委託者が反社会的勢力でないことが契約の要素となる旨の条項が設けられていないからといって、被控訴人において、それを理由とする要素の錯誤を主張することができないということにはならない。」を加える。

6  原判決20頁2行目の「その事務所の賃貸人となっている」を「代表取締役はa社の元従業員で、役員にはCの実母も就任していて、事務所をa社から借りている」に改める。

7  原判決20頁9行目の次に以下を加える。

「 なお、控訴人は、本件指針等について、企業ないし金融機関において、相手方が反社会的勢力と知りながら関係を築くことを禁止する点に主眼があり、通常必要と思われる注意を払っても相手方が反社会的勢力であることが判明しない場合にまで、当該相手方との関係を持つことを禁止していないし、反社会的勢力と無関係の第三者の信頼を害したり、第三者に不意打ちとなるような結果を招来することを想定していないと主張する。

しかし、本件指針等は、反社会的勢力と一切の関係を持たず、反社会的勢力への資金提供を絶対に行わないことを強く求めていて、その前提に立った上で、相手方が反社会的勢力であるかどうかを見極めるための手段として、常に通常必要と思われる注意を払うことを併せて要請していると解されるのであり、通常必要と思われる注意を払えば、結果的に反社会的勢力と関係を持つこと自体を許容しているという趣旨をそこから読み取ることはできない。

もっとも、控訴人が強調するように、通常必要と思われる注意を払っても、相手方が反社会的勢力であることが判明しないような場合にまで当該相手方との関係遮断を要求するのは、企業にとって酷な結果となることがあり、本件に即していえば、保証契約締結後に主債務者のa社等が反社会的勢力関連企業であることが判明した場合に保証契約の錯誤無効の主張を認めるとすると、経済取引一般において、控訴人を含む金融機関にとって安心して信用保証協会制度を利用することができなくなる懸念が生ずることは否定できない。しかし、企業活動からの反社会的勢力排除の要請は、現代における国民生活上の社会的な課題といってよく、特に反社会的勢力に対する資金支援を封ずるため、金融機関については反社会的勢力との関係遮断が強く求められる一般的な状況が存している。そして、公的資金を利用して信用保証を行う信用保証協会についても、その存在目的が中小企業の健全な育成を図ることにあることからしても、反社会的勢力との関係遮断が強く求められていることはいうまでもなく、仮に結果的にせよ反社会的勢力が信用保証協会制度を利用することができるとすると、その資金需要を公的資金でもって担保することに繋がり、社会正義の理念に悖る結果を招来するということもできることになる。そこで、被控訴人は、前記認定のとおり、従前から暴力団等が介在する申込みについて信用保証を利用することができないことを明示した手引きを発行するなどの対処をしていたのであり、本件指針等の発出も踏まえれば、信用保証協会制度の利用に当たっては、融資や信用保証を申し込む者が反社会的勢力でないことが当然の前提になっていて、そのこと自体は金融機関である控訴人にとって十分に認識していた事柄であるというべきである。

したがって、控訴人の主張をしん酌しても、本件各保証が要素の錯誤により無効であるとの結論を左右しない。」

第4結論

よって、控訴人の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官 三輪和雄 裁判官 内藤正之 裁判官齋藤紀子は、差し支えのため署名押印することができない。裁判長裁判官 三輪和雄)

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