東京高等裁判所 平成25年(ラ)2377号 決定 2014年2月28日
抗告人(原審相手方)
Y
同代理人弁護士
河合安喜
相手方(原審申立人)
X株式会社
同代表者代表取締役
A
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は、「① 原決定(不動産引渡命令)を取り消す。② 相手方の原決定別紙物件目録記載の不動産(以下「本件各居室」という。)に関する引渡命令の申立てを却下する。」というものであり、本件抗告の理由は、別紙「準備書面」の写し記載のとおりである。
第2事案の概要等
基本事件において、執行裁判所である東京地方裁判所は、本件各居室を含む不動産の買受人である相手方の申立てにより、平成25年10月28日、本件各居室の占有者である抗告人に対し、不動産引渡命令(原決定)を発した。抗告人が、同決定を不服として抗告した。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、相手方の不動産引渡命令の申立てを認容すべきであると判断する。その理由は、次項以下のとおりである。
2 認定事実
一件記録によると、以下の事実を認めることができる。
(1) 抗告人は、別紙物件目録記載2、3及び9の各不動産の元所有者、抗告人が代表者を務めていた有限会社a(以下、抗告人と併せて「抗告人等」という。)は、同目録記載1及び4から8までの各不動産(以下、同目録記載1から9までの各不動産を「本件土地建物」という。)の元所有者(同目録記載7の土地については共有者)であったところ、抗告人等は、本件土地建物を、基本事件における債務者兼所有者であるB(以下「B」という。)に対し、平成19年5月1日売却した(以下、同売却に関する契約を「本件売買契約」という。)。
(2) 本件売買契約に関する平成19年5月18日作成の公正証書には、次のような条項があり、抗告人等とBはその旨合意した。
ア 売買代金を7300万円とし(第1条1項)、うち4300万円の支払と引換えに抗告人等が本件土地建物について所有権移転登記手続をする(第5条4項)。
イ 残代金の支払担保のために、Bが本件売買契約の資金調達のため金融機関を抵当権者として本件土地建物に抵当権設定登記をした後番に、抗告人等を抵当権者とする抵当権設定登記手続をする(第5条5項)。
ウ Bは、抗告人等に対し、本件各居室等の引渡しをするのと引き換えに残代金3000万円を支払い(第3条3項)、抗告人等は、Bに対し、残代金3000万円を受領したときに、本件各居室等の引渡しを行う(第5条2項)。
(3) 上記公正証書と同日に、抗告人とBとの間で作成された抵当権設定金銭消費貸借契約公正証書には、次のような条項があり、抗告人とBはその旨合意した。
ア Bは、抗告人がa社の本件売買契約における契約者の地位を承継し、本件売買契約の残代金を譲り受けたことを承認する(第1条(1)(2))。
イ 抗告人とBは、上記残代金支払債務を消費貸借の目的とし、弁済期を平成34年5月1日、利息は付さない旨の内容で準消費貸借契約を締結し(第3条)、同契約上の債務を担保するために、本件土地建物に順位2番の抵当権を設定する(第4条)。
ウ Bが他の債務により強制執行又は強制競売の申立てを受けたときを期限の利益喪失事由とする(第3条(3))。
(4) 抗告人等は、Bに対し、本件売買契約及び上記準消費貸借契約に基づき、平成19年5月1日、同日売買を原因として、本件土地建物の所有権移転登記手続及び持分移転登記手続をし、Bは、同日、株式会社b銀行(以下「b銀行」という。)から5000万円を借り入れ、これを担保するため、本件土地につき、極度額を5000万円とする根抵当権設定登記手続をし、さらに、同月21日、上記準消費貸借契約の債務を担保するため、本件土地建物につき、債権額を3000万円とする抵当権設定登記手続をした。
(5) 本件土地建物については、b銀行が申立債権者として、平成25年2月5日、東京地方裁判所により担保不動産競売開始決定がなされ(基本事件)、同年9月3日の売却許可決定及び同年10月15日の代金納付により、相手方が所有権を取得した。
(6) 基本事件においては、平成25年11月21日、配当期日が実施され、b銀行に対して全額の配当が行われたほか、抗告人に対しても届出債権額3000万円について1566万6791円が配当された。
3 上記認定事実によれば、本件売買契約によって、その残代金債権を担保するための留置権が本件土地建物に発生したということができるが、抗告人等とBは、本件売買契約に際し、① Bは、売買代金の資金を調達するため、b銀行から5000万円を借り入れ、その担保として本件土地建物全部に根抵当権を設定すること、② b銀行への根抵当権設定のため、抗告人等は、Bに対し、本件売買契約の代金の一部(4300万円)を受領した段階で本件土地建物全部の所有権移転登記をすること(所有権留保の登記手続はしない)、③ 抗告人は、a社から本件売買契約の残位金債権を譲り受けた上、自らの残代金債権と併せた3000万円の残代金債権につき、Bとの間で準消費貸借契約を締結し、その貸金債務を担保するため、本件土地建物にb銀行の根抵当権に劣後する抵当権を設定することを合意し、そのとおり実行されたのであるから、上記準消費貸借契約の締結により旧債務である本件売買契約の残代金債務は消滅し、留置権も消滅したものと解される(上記③の抵当権設定は、実質的に留置権に代わる代担保の提供ともいえる。)。
したがって、抗告人は、相手方に対して留置権を主張することができず、「買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者」(民事執行法83条1項ただし書)には当たらないから、相手方の不動産引渡命令の申立てには理由がある。
第4結論
よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田村幸一 裁判官 浅見宣義 裁判官 西森政一)
【別紙】準備書面<省略>
物件目録1~9<省略>