東京高等裁判所 平成25年(行コ)395号 判決 2014年3月18日
控訴人(1審原告)
大阪府
同代表者知事
A
同訴訟代理人弁護士
筒井豊
同指定代理人
W1他1名
被控訴人(1審被告)
国
同代表者法務大臣
B
処分行政庁
中央労働委員会
同代表者会長
C
被控訴人指定代理人
W2他3名
被控訴人補助参加人
Z労働組合
同代表者執行委員長
D
同訴訟代理人弁護士
宮里邦雄
同
村上一也
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 中央労働委員会が、中労委平成23年(不再)第52号事件について、平成24年11月30日にした命令の主文第2項、3項及び4項の各命令を取り消す。
3 中央労働委員会が、中労委平成24年(不再)第2号事件について、平成24年12月17日にした命令を取り消す。
第2事案の概要(以下、用語の略称は原判決による。)
1 本件甲事件は、府公立学校の教諭及び常勤講師等で構成される補助参加人が、控訴人に対し、常勤講師等組合員18名の平成22年度の任用の保障(雇用の継続)を交渉事項とする甲事件団交申入れをしたところ、控訴人がこれを拒否したため、府労委に対し救済命令を申し立て、府労委が、平成23年7月22日、補助参加人の申立てを却下ないし棄却した(甲事件初審命令)ので、同年8月2日、中労委に対し、再審査を申し立てたが、中労委は、平成24年10月17日、甲事件初審命令のうち、府労委が非常勤講師又は学力向上支援員である組合員の平成22年度の任用の保障を交渉事項とする団体交渉の申入れに関して、救済命令の申立てを棄却した部分を取り消し、文書の手交を命ずるとともに、その余の申立てを棄却した(甲事件命令)ので、控訴人が、甲事件命令が違法であるとして、その一部取消しを求める事件である。
本件乙事件は、補助参加人が、控訴人に対し、常勤講師等組合員15名の平成23年度の任用の保障(雇用の継続)を交渉事項とする乙事件団交申入れをしたところ、控訴人がこれを拒否したため、府労委に対し救済命令を申し立て、府労委が、平成24年1月11日、補助参加人の申立てを却下ないし棄却した(乙事件初審命令)ので、同月17日、中労委に対し、再審査を申し立てたが、中労委は、同年11月28日、乙事件初審命令のうち、府労委が非常勤講師である組合員の平成23年度の任用の保障を交渉事項とする団体交渉の申入れに関して、救済命令の申立てを棄却した部分を取り消し、文書の手交を命じた(乙事件命令)ので、控訴人が、乙事件命令が違法であるとして、その取消しを求める事件である。
原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人がこれらを不服として控訴した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は、次のとおり補正し、後記3を付加するほか、原判決「事実及び理由」中、第2の2及び3記載のとおりであるから、これらを引用する(ただし、「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、「別表」を「原判決別表」と、それぞれ読み替える。原判決引用部分以下同じ。)。
(1) 原判決4頁23行目の「証拠<省略>」を「証拠<省略>」と改める。
(2) 同頁25行目の「常勤講師」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(3) 同5頁22行目の「非常勤講師」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(4) 同7頁7行目の「支援員」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(5) 同8頁4行目の「登録制度」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(6) 同11頁19行目の「入れた」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(7) 同12頁9行目の「入れ等」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(8) 同14頁15行目の「求めた」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(9) 同頁22行目の「事件)」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(10) 同15頁15行目末尾の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(11) 同頁17行目の「提出した」の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(12) 同16頁6行目末尾の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(13) 同頁13行目末尾の次に「(証拠<省略>)」を加える。
(14) 同頁18行目の「本件文書手交」を「文書の手交」と改める。
3 当審における控訴人の主張
(1) 混合組合は、地公法上の職員団体又は労組法上の労働組合のいずれかの性格を単一的に有するものであり、地公法適用職員と労組法適用職員の量的割合等により、地公法上の職員団体又は労組法上の労働組合のいずれかに一元的に決定されるべきである(単一性格説・一元適用論)。
ア 労組法7条による不当労働行為救済の申立てができるのは、当該労働団体が労組法2条及び5条2項が規定する「労働組合」に該当する場合に限られる。労組法2条の「労働者が主体となって」とは、「労働者」が組合の構成員の主要部分を占めること、並びにそれら労働者が組合の運営・活動を主導することである。一般職の地方公務員は、労組法が適用除外されているため(地公法58条1項)、労組法3条にいう「労働者」に該当しない。
イ 混合組合の構成員の主要部分を一般職の地方公務員が占め、並びに一般職の地方公務員が組合の運営・活動を主導しているような場合には、当該混合組合は、労組法2条及び5条2項が規定する「労働組合」とは認められず、労組法7条による不当労働行為救済の申立てはできない。
ウ 補助参加人は、労組法3条にいう「労働者」に該当しない一般職の地方公務員がその構成員の主要部分を占め、かつ、補助参加人の運営・活動を主導しているから、労組法2条の規定する労働組合とはいえない。
エ また、一般職の地方公務員には労組法7条による不当労働行為救済の申立人適格が認められていないことからすると、地公法上の職員団体に特別職の地方公務員(労組法適用組合員)が加入しても、その加入によって地公法上の職員団体の法的性格・権能に変更が生じない以上、当該職員団体は、当該労組法適用組合員に関しても労組法7条による不当労働行為救済の申立適格を有しないと解するべきである。
したがって、補助参加人は、労組法7条による不当労働行為救済の申立適格を有しない。
オ 混合組合の労働法適用組合員は、自ら労働組合を結成することも、既存の民間の労働組合又は控訴人の企業職員や単純労務職員(地公法57条)が組織する労働組合に加入することも可能だったのに、あえて地公法適用組合員が構成員の主要部分を占め、かつ、その運営・活動を主導する補助参加人に加入することを選択したのであるから、その団結権、団体交渉権に制約を受けることとなることはやむを得ないのである。ILO87号条約は、労働者の労働団体設立、加入の自由を要請するに止まり、それ以上に、労働団体の組織形態いかんにかかわらず、労働者が設立、加入するすべての労働団体に、国内法の創設した特定の労働団体に付与される権利・利益(救済命令の申立人適格)を等しく付与することまで要請するものではない。
(2) 本件における甲乙事件の団体交渉事項は、義務的団交事項に当たらない。
控訴人にとって、府公立学校における教育制度を維持するために常勤講師及び非常勤講師が不可欠の存在であるとしても、個々の講師(常勤講師又は非常勤講師)の会計年度を超えた継続的な任用は、法律上認められていない。
職種(非常勤講師又は常勤講師)、校種(小・中学校、支援学校等)、勤務校等の変更は、任用条件の変更ではなく、常に新たな任用であって、前年度の任用の継続にはならない。
そもそも、非常勤講師や学力向上支援員のような特別職の地方公務員については、報酬等に関する予算の定めに基づきその任期を当該会計年度内に限っていることから、期間の定めのない任命行為を行うことは不可能である。
特別職の地方公務員の任命行為は、任命権者の辞令交付による告知によって効力が生ずるから、当該年度の非常勤講師や学力向上支援員が、従前、会計年度ごとに継続的又は断続的に、非常勤講師としてあるいは常勤講師として任命されてきた事情があっても、その任用に会計年度を超えた法的継続性はあり得ない。そして、「要綱」は「法規」であるから、非常勤講師取扱要綱に任用の更新に関する規定が存在しない以上、任命権者である府教委の裁量による任用の更新が予定されていたと解する余地はない。
したがって、任用の継続・更新を団体交渉事項とする、本件各団交事項は、義務的団交事項に当たらない。
(3) 当該年度における所定の任期の満了により当然退職となる特別職の地方公務員(非常勤講師・学力向上支援員)の翌年度における「継続雇用」を要求することは、翌年度における新たな任用を求めて団体交渉を求めることに他ならないから、地公法55条3項により、当局との交渉の対象とすることができない「管理運営事項」に関する団体交渉の申入れに当たる。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2に付加するほか、原判決「事実及び理由」中の第3の1及び2に記載のとおりであるから、これらを引用する。
(1) 原判決28頁11行目の「代表」を「構成」と改める。
(2) 同33頁11行目の「構成」を「公正」と改める。
(3) 同35頁20行目冒頭から同36頁1行目までを削除する。
(4) 同36頁2行目、同38頁16行目、同39頁3行目及び17行目の「認定」を「前提」とそれぞれ改める。
(5) 同37頁2行目の「本件労組法労働者」を「本件労組法適用組合員」と改める。
(6) 同41頁8行目の「証拠<省略>」を「証拠<省略>」と改める。
2 当審における控訴人の主張について
(1) 控訴人の主張(1)について
控訴人は、混合組合の法的性格について、単一性格説・一元適用論が相当であると主張するが、前記説示(原判決引用部分)のとおり、混合組合については、構成される組合員に対して適用される法律の区別に従い、地公法上の職員団体及び労組法上の労働組合としての複合的な法的性格を有すると解するのが相当であり、その限りにおいて、補助参加人は、労組法2条の規定する労働組合に該当し、労組法7条による不当労働行為救済の申立てができるというべきである。
控訴人は、一般職の地方公務員は、労組法が適用除外されているため(地公法58条1項)、労組法3条にいう「労働者」に該当しないと主張するが、一般職の地方公務員が労組法3条の「労働者」に該当することはその定義上明らかであり、地公法58条は、一般職の地方公務員が労組法3条の労働者であることを前提として、その従事する職務の特殊性から、労働基本権について合理的な範囲で制限をし、他方で、それに応じた範囲内で労働基本権の保護を規定し、その限りにおける労組法の適用排除を規定しているにすぎないと解される。
その他、控訴人は、単一性格説・一元適用論が相当であるとして、またそれを前提として、るる主張するが、これらの主張を考慮しても、原判決の前記認定判断は相当であるから、控訴人の主張は採用できない。
(2) 控訴人の主張(2)について
憲法28条及び労組法7条2項によって労働者に団体交渉権が保障された目的やその趣旨に照らすと、労組法により、使用者が団体交渉を行うことを義務づけられている義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと解されるところ、本件各団交事項は、任用が繰り返されて実質的に勤務が継続されている実態を踏まえて、任用の継続を前提とする勤務条件の変更又は継続を求めるもので、それが控訴人において処分可能なものであるから、義務的団交事項に属すると解するのが相当であることは、上記説示(原判決引用部分)のとおりである。
控訴人は、会計年度を超えた継続的な任用、更新は法律上も認められておらず、常に新たな任用であるなどとして、本件各団交事項が義務的団交事項に当たらない旨主張するが、前記認定(原判決引用部分)のとおり、控訴人においては、常勤講師や非常勤講師等が、公立学校等の教育体制を維持するための不可欠の存在として、恒常的に教育組織に組み込まれており、現に繰り返し任用されて、会計年度を超えて継続して勤務しているという実態を直視すれば、本件各団交事項が義務的団交事項に属すると解するのが相当である。
(3) 控訴人の主張(3)について
控訴人は、本件各団交事項が、翌年度における新たな任用を求めて団体交渉を求めることに他ならないから「管理運営事項」に関する団体交渉の申入れに当たると主張するが、本件各団交事項は、上記(2)のとおり、恒常的に会計年度を超えて継続して勤務している実態を踏まえて、勤務条件の変更又は継続を求めるもので、新たな任用を交渉事項としたものではないから、控訴人の主張は採用できない。
3 以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がない。
第4結論
よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田村幸一 裁判官 髙橋光雄 裁判官 浅見宣義)