東京高等裁判所 平成25年(行コ)431号 判決 2014年10月09日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 厚生労働大臣が控訴人に対して平成23年7月25日付けでした行政文書開示決定処分(ただし,平成24年2月15日付けでした行政文書開示決定変更処分による一部取消し後のもの)のうち,原判決別紙3不開示事由整理票「情報の概要等」欄記載の部分(ただし,「本件添付ファイル2」欄及び「本件添付ファイル4」欄記載の部分を除く。)を不開示とした部分を取り消す。
3 厚生労働大臣が控訴人に対して平成24年9月6日付けでした行政文書開示決定処分のうち,添付ファイル2(G患者の会の見解)及び添付ファイル4(H法人の見解)を不開示とした部分を取り消す。
第2事案の概要(以下における略称は,新たに定めるもののほか,原判決の例による。)
1 原審第1事件(控訴の趣旨2)は,控訴人が,厚生労働大臣に対し,平成23年6月24日付けで,情報公開法(以下「法」という。)に基づき,厚生労働大臣の指示によりa訴訟問題検証チーム(検証チーム)が作成した本件調査報告書に関連する行政文書のうち,関係者からの聴取記録や事実認定のために確認した資料などについて開示を請求したところ,厚生労働大臣が,同年7月25日付けで,請求対象文書の一部を開示したが,その余の部分については,①法5条1号に該当し,同号ただし書イないしハのいずれにも該当しない,②同条2号イに該当する,③同条6号柱書きに該当する,④同条6号ロに該当するとして,不開示とする旨の決定をした(なお,厚生労働大臣は,本件訴えの提起後である平成24年2月15日付けで,同決定を変更し,同決定により不開示とした部分の一部を開示する旨の決定をした)ことから,控訴人が,その一部の取消しを求める事案である。
原審第2事件(控訴の趣旨3)は,控訴人が,厚生労働大臣に対し,平成24年8月22日付けで,法に基づき,本件調査報告書に関連する行政文書のうち,上記開示請求において請求対象文書として扱われなかったもの(原判決別紙3不開示事由整理票において「本件添付ファイル2」及び「本件添付ファイル4」とされる文書)などについて開示を請求したところ,厚生労働大臣が,同年9月6日付けで,請求対象文書の一部を開示し,その余の部分については,①法5条2号イに該当する,②同条5号に該当する,③同条6号ロに該当するなどとして,不開示とする旨の決定をしたことから,控訴人が,その一部の取消しを求める事案である。
原審は控訴人の請求をいずれも棄却し,控訴人が,これを不服として,控訴した。
2 本件における前提事実は,原判決「事実及び理由」欄第2の2に記載されたとおりであるから,これを引用する(ただし,「原告」を「控訴人」に読み替える。)
3 本件における争点は,原判決「事実及び理由」欄第2の3に記載されたとおりであり,争点に関する当事者の主張は,以下のとおり,当審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄第2の4に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(1) 本件聴取記録について
ア 法5条6号柱書き(事務事業情報)該当性
本件事情聴取が被聴取者に対して任意の協力を求めるに際して,その氏名や回答内容を公表しないことを前提としていたことは,何ら立証されていない。学会関係者について,法5条2号(法人等情報)該当性も問題となるところ,同号ロは法人等から任意に提供された情報につき,「行政機関の要請を受けて,公にしないとの条件で任意に提供された」ことに加え「当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状況等に照らして合理的である」ことを不開示情報の要件としていることに留意する必要がある。本件のように,法5条6号(事務事業情報)も問題となる場合に同条2号ロよりも緩やかな要件で不開示とされてしまうことは法の趣旨に反する。非公表の約束の下に任意に提供された情報は,法5条2号ロの要件を満たさない限り,同条6号には該当しないと解すべきである。本件では,そもそも厚生労働省の要請を受け,公にしないとの条件で任意に提供されたことが立証されていないから,同条6号該当性を認めることはできない。また,本件事情聴取が事実の解明を目的とするものであることに照らせば,率直な回答が得られないおそれがあることを強調することは,仮に回答が得られても真実が語られないおそれもあることを考えると,一面的にすぎる。任意の協力を得られないおそれについても,厚生労働省職員については,職務命令が下されれば聴取に応じる職務上の義務を負うし,学会関係者についても,非公表を条件としなければ聴取に応じないような事情は具体的に立証されておらず,かえって,学会やそこに所属する研究者にとって厚生労働省と良好な関係を保つことによるメリットは大きなものがあるから,非公表を条件としなくても任意の協力を得られるであろうことを推測することができる。以上,本件聴取記録に記録された情報は,その開示の必要性の高さに比し,それが公にされても国の事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとはいえず,法5条6号柱書き(事務事業情報)該当性は認められない。さらに,本件聴取記録に記録されている情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報に限れば,なおさら上記の支障が生じるおそれは小さいから,当該部分の部分開示も検討されるべきである。
イ 法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)該当性
本件は,裁判所の和解勧告を批判する見解を公表させることを目的とした学会等への働きかけという極めて特殊な事例であるから,通常の訴訟活動の中心である主張立証活動,和解対応や訴訟準備に対する支障が生じる可能性は低い。将来の同種訴訟を考えてみても,本件事案の特殊性からすれば,国の内部的協議や国と学会関係者等との接触状況に関する情報が直ちに開示されるようになるわけではない。また,本件調査の目的からすれば,本件聴取記録に記録されている情報の中心は,国が学会に働きかけて裁判所の和解勧告を批判する声明を公表させた経緯に関する情報であることが明らかで,仮に国が主張する支障が生じ得るとしても,それは本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)の情報に限られ,①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報は単に本件調査における被聴取者は誰かを示すものにすぎず,それを開示したことにより国の当事者としての地位を害するとはいえない。少なくとも本件聴取記録に記録されている情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報は,法5条6号柱書き及びロに該当しないというべきである。
ウ 法5条5号(意思形成過程情報)該当性
本件聴取記録に記録されている情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報は,法5条5号(意思形成過程情報)に当たらない。また,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)の情報も,極めて特殊な事実関係に関する本件聴取記録が開示されたからといって,将来の同種訴訟における争訟事務に関する内部協議の具体的,詳細な情報が開示されることになると考える職員はほとんどいないであろうから,萎縮的効果が生じる可能性は極めて低く,将来の同種事務における率直な意見交換が不当に損なわれるおそれがあるとはいえず,法5条5号(意思形成過程情報)に該当しない。
エ 法5条1号(個人識別情報)該当性
本件聴取記録に記録されている情報のうち,学会関係者が所属し又は過去に所属した学会名や国立大学法人名及び役職は,それら自体から特定の個人を識別することはできないから,法5条1号(個人識別情報)に該当しない。本件聴取記録に記録された情報のうち⑦(回答内容)の情報も,本件聴取記録に記録されている情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報と一体となって特定の個人を識別することができる情報を構成するということはできない。
また,本件聴取記録に記録されている情報のうち,被聴取者や本件担当職員の氏名及び役職は,公刊物又はホームページにおいて公表されているから,法5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当するし,本件担当職員の押印のように公文書に押捺された印影も,情報としては氏名と異ならないから,上記と同様である。これら情報が,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)の情報と一体となって,本件事情聴取の対象となったという属性を帯びているなどとして法5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当しないと解釈することは,同条項の機能する余地を実際上なくしてしまうもので法の趣旨に反する。本件聴取記録に記録されている情報のうち⑧の情報(本件担当職員の氏名)や⑨の情報(本件担当者の押印)もまた同様である。
さらに,学会等に対する働きかけは厚生労働省職員の職務としてされたものであるから,被聴取者が厚生労働省職員である場合の回答内容(⑦)の情報は,法5条1号ただし書ハ(公務員の職務遂行情報)に当たるし,本件聴取記録に記録されている情報のうち②及び⑤(本件被聴取者である厚生労働省職員の役職等)の情報もまた同様である。
以上,本件聴取記録に記録されている情報のうち②及び④から⑦までの情報はそもそも法5条1号本文(個人識別情報)に該当せず,仮に該当するとしても,①から⑥まで,⑧及び⑨の情報は5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当し,②及び⑤並びに⑦の情報は5条1号ただし書ハ(公務員の職務遂行情報)に該当する。結局,本件聴取記録に記録されている情報はいずれも法5条1号(個人識別情報)の不開示情報に該当しない。
オ 法5条2号イ(法人等情報)該当性
本件聴取記録に記録された情報のうち,被聴取者である学会関係者の氏名・押印(③),被聴取者である学会関係者が所属する学会名及び役職(④)及び回答内容(⑦)は,法5条2号イ(法人等情報)の不開示情報に該当しない。情報公開制度によって公となった事実によって国の政策決定等が国民や報道機関の批判の対象となることや,このような国の政策決定等に関与した法人等が批判の対象となることは,法が当然に予定しているところであり,社会的に活動する法人等がその公的活動について批判を受けることは当然であるから,それによる社会的評価の低下を回避することは法人の「正当な」利益ということはできない。よって,上記の各情報は情報公開法5条2号イの不開示情報に該当しない。
(2) 本件見解状況資料について
ア 法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)該当性
本件見解状況資料に記録されている情報は,学会等に対する働きかけの記録ですらなく,国が把握していた学会等の見解公表の状況や公表の予定を列記したものにすぎないから,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)に該当しない。また,本件見解状況資料に記録されている情報は,接触担当者,接触状況,厚生労働省が把握した学会等の見解公表の見込みなどに限られているばかりでなく,一覧性が重視された表による簡潔な記述にすぎない。特に見解状況資料Cは,厚生労働省が把握していた学会等の公表又は公表予定が記載されているにすぎず,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)に該当しない。
イ 法5条1号(個人識別情報)該当性
本件見解状況資料に記録されている情報のうち,学会・患者団体・専門家団体の名称,独立行政法人の名称,行政機関の名称,学会等の団体と関係のある法人名,学会等の団体の名称,メールマガジンの名称は,それら自体から特定の個人を識別することができないから,法5条1号(個人識別情報)に該当しない。また,本件見解状況資料に記録されている情報のうち⑧(①から⑥までの主体に対する厚生労働省関係者の接触状況,①から⑥までの主体の本件和解勧告についての見解公表に係る情報)及び⑱(⑮から⑰までの主体の本件和解勧告についての見解公表に係る情報)が上記各情報と一体となって特定の個人を識別することができる情報を構成するということはできない。さらに,本件見解状況資料Cに記録されている情報のうち,学会等の団体の見解公表に係る情報,すなわち学会等の団体の名称(⑮)やその見解公表に係る情報(⑱)は,およそ個人に関する情報とはいえない。よって,本件見解状況資料に記録されている情報の,①から⑤まで,⑦,⑧,⑬,⑮,⑯,⑱及び⑲の情報のうち,個人の姓及び氏名以外の部分は,法5条1号(個人識別情報)に該当しない。
ウ 法5条2号イ(法人等情報)該当性
本件見解状況資料に記録されている情報のうち,①,⑦,⑧,⑮,⑯,⑱及び⑲の情報は,法5条2号イ(法人等情報)の不開示情報に該当しない。情報公開制度によって公となった事実によって,国の政策決定等が国民や報道機関の批判の対象となることや,このような国の政策決定等に関与した法人等が批判の対象となることは,法が当然に予定しているところであり,社会的に活動する法人等がその公的活動について批判を受けることは当然であるから,それによる社会的評価の低下を回避することは法人の「正当な」利益ということはできない。よって,上記の各情報は法5条2号イ(法人等情報)の不開示情報に該当しない。
(3) 本件要請書について
ア 法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)該当性
本件要請書は,裁判所の和解勧告を批判する見解を公表してもらうために学会に対して提出された要請書にすぎない。このような文書を提出するような行為は,およそ訴訟活動の準備とはいえない。また,本件要請書において不開示とされている情報は,医薬食品局安全対策課長の氏名(①)と二つの学会の名称と役職名(②)のみである。①は慣行として公表されているし,②も容易に推測可能な情報であり,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)に該当しない。
イ 法5条5号(意思形成過程情報)該当性
本件要請書に記録されている情報からは厚生労働省職員が学会関係者のうちの誰と接触したのかを知ることはできず,将来の同種の事務に対する支障が生じるおそれを認めることはできない。
ウ 法5条1号(個人識別情報)該当性
本件要請書に記録されている情報のうち①(医薬食品局安全対策課長の氏名)は慣行として公表されている情報であるし,②(二つの学会の名称と役職名)は学会名と当該学会の代表機関である理事長という役職名であると考えられるところ,これらは法人等に関する情報であると解すべきであって,個人に関する情報に該当しない。また仮に,②の役職名が理事長以外であったとすれば,それにより特定個人を識別することはできないはずである。いずれにしても法5条1号(個人識別情報)に該当しない。
エ 法5条2号イ(法人等情報)該当性
情報公開制度によって公となった事実によって,国の政策決定等が国民や報道機関の批判の対象となることや,このような国の政策決定等に関与した法人等が批判の対象となることは法が当然に予定しているところであり,社会的に活動する法人等がその公的活動について批判を受けることは当然であるから,それによる社会的評価の低下を回避することは法人の「正当な」利益ということはできない。また,本件要請書に記録されている情報のうち②(二つの学会の名称と役職名)については,事実上当該学会はbとcであると特定されているから,新たに社会的評価が低下することはない。よって,上記の各情報は法5条2号イ(法人等情報)の不開示情報に該当しない。
(4) 本件メール及び本件添付ファイル2から4までについて
ア 法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)該当性
前記(1)イのとおり,本件は極めて特殊な事例であるから,通常の訴訟活動の中心である主張立証活動,和解対応や訴訟準備に対する支障が生じる可能性は低いし,将来の同種訴訟を考えてみても,国の内部的協議や国と学会等の関係者等との接触状況に関する情報が直ちに開示されるようになるわけではない。また,本件メールの本文はほぼ全文が開示されていて,不開示となっている情報は,学会等の団体名やそこに所属する個人を事実上特定することができるもののみであって,そのうちのほとんどは事実上特定されているから,開示によって生じる支障は極めて低いといえる。本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報は,法5条6号柱書き及びロに該当しない。
イ 法5条5号(意思形成過程情報)該当性
本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報で不開示となっているのは,本件メールを送信した厚生労働省の室長の氏名や送信先の学会名やそれに所属する個人名程度であり,これらが公になったからといって,将来の同種の事務に対する支障が生じるおそれを認めることはできない。
ウ 法5条1号(個人識別情報)該当性
本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報のうち,①から③まで,⑤,⑥,⑧,⑨,⑩,⑬,⑮及び⑯の情報のうち氏名や役職は,慣行として公表されている公領域情報であり,他の情報と一体として公領域情報性を否定する根拠はないから,いずれにしても法5条1号(個人識別情報)に該当しない。
エ 法5条2号イ(法人等情報)該当性
情報公開制度によって公となった事実によって,国の政策決定等が国民や報道機関の批判の対象となることや,このような国の政策決定等に関与した法人等が批判の対象となることは,法が当然に予定しているところであり,社会的に活動する法人等がその公的活動について批判を受けることは当然であるから,それによる社会的評価の低下を回避することは法人の「正当な」利益ということはできない。また,本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報のうち④(三つの学会の名称)の情報については,そこに記録された学会がb,c,dを指すことは事実上特定されているから,新たに社会的評価が低下することはない。よって,上記の各情報は法5条2号イ(法人等情報)の不開示情報に該当しない。
第3当裁判所の判断
1 本件聴取記録について
(1) 本件聴取記録に係る検討の前提となる認定事実については,原判決「事実及び理由」欄第3の1(1)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(2) 本件聴取記録に係る検討については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄第3の1(2)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決23頁20行目の「上記前提事実(6)ウのとおり,」を「上記前提事実(6)ウに加え乙第7号証によれば,」に,22行目の「公表を前提とせず」から24行目の「しているところ,」までを「公表を前提とせず任意で協力をいただいたものであるとした上で,個別の学会名や回答者等を尋ねる質問に対して繰り返しヒアリングの結果の記録を公表することは差し控えをさせていただきたい旨答弁しているところ,」に,24行目から25行目にかけての「回答者とその回答内容を」を「回答者,その所属学会及びその回答内容を」に,それぞれ改める。
イ 原判決24頁10行目の次に以下を加える。
「 また,控訴人は,学会関係者に関しては同時に法5条2号(法人等情報)も問題となるところ,同号ロは法人等から任意に提供された情報につき,「行政機関の要請を受けて,公にしないとの条件で任意に提供された」ことに加え「当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状況等に照らして合理的である」ことを不開示情報の要件としていることに照らせば,法5条6号(事務事業情報)が問題となる場合に同条2号ロよりも緩やかな要件で不開示とされてしまうことは法の趣旨に反するから,非公表の約束の下に任意に提供された情報は,法5条2号ロの要件を満たさない限り,同条6号には該当しないと解すべきであると主張する。しかしながら,法は,行政文書について開示を原則としつつも,私人の権利利益や公益を保護するために,各種の不開示情報をそれぞれの観点から規定した上で,それら不開示情報が記録されている場合は開示を禁止する仕組み(法7条はこのような禁止の例外を規定しているものである。)を採用しているから,特定の行政文書を開示するには,その要件として法5条各号が規定する各種不開示情報がいずれも記録されていないことが必要である。法5条2号ロ(法人等情報における任意提供情報)と6号(事務事業情報)とは全く観点を異にする不開示情報であるから,2号ロに該当しない限り6号には該当しないと解することはできない。控訴人の主張は,失当であり,採用できない。」
ウ 原判決24頁13行目の「実際上不可能であること」を「実際上不可能であるし,学会やそこに所属する研究者にとっては厚生労働省と良好な関係を保つことによるメリットは大きなものがあるから,非公表を条件としなくても任意の協力を得られたであろうこと」に,17行目の「社会的な関心も高かったこと」を「社会的な関心も高く,a弁護団や各種報道機関等から「産官学の癒着」などとする強い批判が展開されていたこと(乙2ないし6の3,乙17,22ないし26)」に,19行目の「被聴取者」から21行目の「可能性があるということができる。」までを「被聴取者において率直な回答を回避しようとする心情が働くことは見易い道理であって,控訴人の指摘する点を考慮したとしても,このことが的確な事実認定の妨げとなる蓋然性があるということができ,その程度は法的保護に値するものであるということができる。」に,それぞれ改める。
エ 原判決24頁22行目の次に以下を加える。
「 さらに,控訴人は,本件聴取記録に記録されている情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報に限れば,なおさらその支障が生じるおそれは小さいから,当該部分の部分開示も検討されるべきであると主張する。しかしながら,行政文書における不開示情報の具体的な把握については,当該文書の作成名義,趣旨・目的,作成時期,取得原因,当該記述の形状,内容等を総合検討の上,法所定の不開示事由に関する規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきところ,本件聴取記録は,本件調査の一環として検証チームが行った本件被聴取者20名に対する本件事情聴取に係る回答内容を被聴取者ごとに回答記録として書面化し,本件被聴取者の各回答記録をまとめ,冒頭に目次を付した文書であり,その具体的な構成は前記認定事実(1(1)イ及びウ)のとおりであって,それを前提に法5条6号柱書きが規定する不開示情報(事務事業情報)の趣旨に照らせば,本件聴取記録に記録されている情報のうちから被聴取者氏名やその所属学会名に係る記述のみを切り出した上で,その事務事業情報としての不開示事由該当性を検討することは,本件聴取記録の上記性格からして困難かつ不適当であり,本件事情聴取の主体,被聴取者及び回答内容等は一体をなす情報として法5条6号(事務事業情報)の不開示情報該当性の有無を検討するのが相当である。控訴人の主張は失当であり,採用することができない。」
オ 原判決26頁24行目の「和解勧告についての」から26行目の「とおりであるから,」までを「その過程において,裁判所からの和解勧告に対して国の関係機関がいかなる検討をしていたのか,医薬食品局の職員は学会関係者等とどのような接触をしていたのか,接触した学会関係者等は和解勧告に関してどのような意見を有していたのかなどの点に関する具体的な事実関係に係る情報を含むものであることは上記(イ)のとおりであるところ,これら情報は,いずれも訴訟に係る内部的な対処方針や訴訟活動の準備等に関する情報であり,争訟事務情報であるということができるから,」に改める。
カ 原判決27頁11行目から14行目までを以下のとおりに改める。
「 しかしながら,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)は,国が訴訟の当事者となっている場合に,国の機関が訴訟の局面に応じて対処方針を定め,訴訟活動に関する準備等を行うことになるところ,裁判所の面前で実際に行う訴訟活動とは別に,訴訟に係る内部的な対処方針や訴訟活動の準備等に関する情報が公開されて,相手方当事者が利用できることになると,国の一方当事者としての地位が不当に害されることがあり得ることから,上記の情報を公開しないことにしたと解されることは上記(ア)のとおりであり,訴訟活動の中心である主張立証活動は,上記のような内部的な対処方針や訴訟活動の準備を踏まえ,それらに支えられているものであることからすれば,控訴人が主張するように,本件聴取記録に記録されている情報が公にされても,国の訴訟活動の中心である主張立証活動,和解対応及び訴訟準備に対する支障が生じるおそれが低いということはできない。控訴人の主張はその前提において失当である。
また,控訴人は,本件聴取記録に記録されている情報の中心は,国が学会に働きかけて裁判所の和解勧告を批判する声明を公表させた経緯に関する情報であることは疑いないところ,国が主張する支障が生じるおそれがあるのはそのうちの⑦(回答内容)の情報に限られ,①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報は,それを開示したことにより国の当事者としての地位を害するとは到底いえないから,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)に該当しないと主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)の趣旨に照らせば,同号が規定する不開示情報としての争訟事務情報は,裁判所の面前で実際に行う訴訟活動に係る情報のみならず,訴訟に関する内部的な対処方針や訴訟活動の準備等に関する情報を含むと解すべきであり,これら情報には当然のことながら対処方針や訴訟活動の準備をした具体的な担当者を始めとする関係者に関する情報もまた含まれるというべきであって,被聴取者の氏名,役職や所属学会等に係る情報などが国の一方当事者としての地位を不当に害することがないということはできない。控訴人の主張は失当であり,採用することができない。」
キ 原判決29頁4行目から5行目にかけての「本件聴取記録は,「審議,検討又は協議に関する情報」に該当しないと主張する。」を「本件聴取記録は,「審議,検討又は協議に関する情報」に該当しない,また,本件聴取記録に記録された情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報は,そもそも国の機関の内部における審議,検討又は協議に関する情報に該当しないと主張する。」に改める。
ク 原判決29頁6行目から10行目までを以下のとおりに改める。
「 しかしながら,そもそも法5条5号(意思形成過程情報)所定の「率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」には,将来,同種の意見交換や意思決定が行われることが予想され,それが不当に損なわれるおそれがある場合も含むと解すべきことは上記(ア)のとおりであるばかりでなく,上記(イ)のとおり,和解勧告を拒否するという方針を定めた後においても,医薬食品局の職員は,学会関係者等に対する見解の公表要請に関する協議をしていたのであり,訴訟活動の動態的な性格を踏まえれば,率直な意見の交換や事後の方針の修正や変更をも含めた意志決定が不当に損なわれるおそれがあるということができるから,和解勧告を拒否するという方針を定めた後の情報であるからという一事で法5条5号(意思形成過程情報)所定の「審議,検討又は協議に関する情報」に当たらないということはできない。
また,本件聴取記録の文書としての性格やその記載内容等に加え,法5条5号がいわゆる意思形成過程情報を不開示情報として規定した趣旨に照らせば,本件聴取記録に記録されている情報のうち①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の記述のみを切り出した上で,その意思形成過程情報としての不開示情報該当性を検討することは困難かつ不適当であり,本件事情聴取の主体,被聴取者及び回答内容等は一体を成す情報として法5条5号(意思形成過程情報)の不開示情報該当性の有無を検討するのが相当であることは,法5条6号(事務事業情報)について述べたところと同様である。したがって,控訴人の主張は採用することができない。」
ケ 原判決30頁5行目の「というべきであるが,」の次に「極めて特殊な事例に関する本件聴取記録が開示されたからといって,将来の同種訴訟における争訟事務に関する内部協議の具体的,詳細な情報が開示されることになると考える職員はほとんどいないであろうから,萎縮的効果が生じる可能性は極めて低く,」を,9行目の「しかしながら,」の次に「本件聴取記録に記録されている情報には,裁判所からの和解勧告に対し,国の関係機関相互間でどのような協議をしていたのか,医薬食品局の職員は局議でどのような協議をしていたのか,接触すべき学会関係者等やその接触結果についてどのような協議をしていたのかという情報を含むことが認められ,このような情報を含む本件調査報告書に記録された具体的で詳細な情報が開示されることになれば,それ以降,争訟事務を遂行するに当たって国の関係機関内部で本来されるべき率直な意見の交換につき,後に開示されることになることになるかもしれないとの前提や予測の下に萎縮的効果が働く蓋然性が高いといわざるを得ないことは前記(イ)で説示したとおりである。」を,それぞれ加える。
コ 原判決31頁21行目の「また,」から24行目の「ものと認められる。」までを「また,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)は,本件被聴取者ごとにa訴訟問題に関する詳細な事実関係や意見を述べたところを記録したものであり,本件被聴取者の同僚その他の関係者がこれを読めば,記録された行動内容や役割等から,その回答内容を聴取された被聴取者個人を識別することができるということができ,法5条1号(個人識別情報)に該当するというと認められる。」に,32頁4行目の「上記のとおり,」から6行目の「構成しており,」までを「本件聴取記録は,a訴訟問題についての検証チームによる本件事情聴取の結果を記録した行政文書として開示請求されているのであり,本件聴取記録に記録されている情報のうち,①から⑥まで(被聴取者氏名,役職や所属学会名等)の情報も,そのような属性を必然的に伴っていて,」に,20行目の「本件聴取記録の」から22行目の「一体となっている」を「本件聴取記録は,a訴訟問題についての検証チームによる本件事情聴取の結果を記録した行政文書として開示請求されているのであり,本件聴取記録に記録されている情報はそのような属性を必然的に伴っている」に,それぞれ改め,33頁2行目の「これと一体をなす」を削る。
サ 原判決33頁6行目から34頁3行目までを以下のとおりに改める。
「(ウ) これに対し,控訴人は,本件聴取記録に記録されている情報のうち,学会関係者が所属し又は過去に所属した学会名や国立大学法人名及び役職は,それら自体からは特定の個人を識別することはできないから,法5条1号(個人識別情報)に該当しないし,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)の情報が①から⑥まで(被聴取者の氏名,役職や所属学会名等)の情報と一体となって特定の個人を識別することができる情報を構成するとはいえないと主張する。
しかしながら,前記(1)認定事実によれば,被聴取者である学会関係者が所属し又は過去に所属した学会名や国立大学法人名及び役職は,当該被聴取者の肩書として氏名とともにその者を特定する要素として記録されているのであって抽象的な組織の名称等として記録されているのではないから,上記情報のうち学会名等や役職に係る記述のみを切り出した上で,その法5条1号(個人識別情報)の該当性を検討することは失当である。また,前記(イ)のとおり,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)の情報についてのみ着目してみても,法5条1号本文括弧書部分が「他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む」と規定している趣旨に照らせば,法が何人についても情報公開請求権を認めていることからして,一般に容易に入手することができる情報ばかりではなく,当該個人の関係者が入手可能であると通常考えられる情報と照合することによって,特定個人を識別することができる情報であれば,法5条1号(個人識別情報)に該当するというべきであって,これを特定の学会のような集団に所属する個人についてみれば,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)のような情報は個人を識別することができる情報であるということができる。これら情報が法5条1号(個人識別情報)に当たらないとする控訴人の主張は失当であり,採用することができない。
また,控訴人は,本件聴取記録に記録されている情報のうち,被聴取者や本件担当職員の氏名及び役職は公刊物又はホームページにおいて公表されているし,本件担当職員の押印のように公文書に押捺された印影は情報としては氏名と異ならないから,これら情報は,法5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当するとし,これら情報が,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑦(回答内容)の情報と一体となって,本件事情聴取の対象となったという属性を帯びているなどとして,法5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当しないと解釈することは,同条項の機能する余地を実際上なくしてしまうもので法の趣旨に反し,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑧の情報(本件担当職員の氏名)や⑨の情報(本件担当者の押印)もまた同様であると主張する。
しかしながら,前記前提事実及び甲第1号証(行政文書開示請求書)によれば,本件聴取記録は,a訴訟問題についての検証チームによる本件事情聴取の結果を記録した行政文書として開示請求されているのであり,本件聴取記録に記録されている情報のうち,被聴取者や本件担当職員の氏名及び役職は,そのような属性を必然的に伴う情報として本件において問題とされているのであって,これら情報が法5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当して不開示情報から除かれることとなるか否かの判断に当たっては,上記属性を伴う情報として判断すべきであって,このような属性をあえて等閑視した上で公領域情報といえるか否かを判断すべきではないと解するのが相当である。このような属性を勘案すると,本件聴取記録に記録された情報のうち,被聴取者や本件担当職員の氏名及び役職は,慣行として公にされている情報ということはできないし,本件聴取記録に記録されている情報のうち⑧の情報(本件担当職員の氏名)や⑨の情報(本件担当者の押印)もまた同様に,法5条1号ただし書イ(公領域情報)に該当するということはできない。控訴人の主張は採用することができない。
また,控訴人は,学会等に対する働きかけは厚生労働省職員の職務としてされたものであるから,被聴取者が厚生労働省職員である場合の回答内容(⑦)の情報も,法5条1号ただし書ハ(公務員の職務遂行情報)であり,本件聴取記録に記録された情報のうち②及び⑤(本件被聴取者である厚生労働省職員の役職等)の情報も法5条1号ただし書ハ(公務員の職務遂行情報)に該当すると主張する。
しかしながら,前述のとおり,厚生労働省職員を被聴取者とする本件事情聴取は,a訴訟問題に関して職務執行の観点から不適正な行為があったかどうかを判定するためにされたものであって,このような非違行為の有無についての調査を受けることが公務員の職務遂行情報になるとはいい難い。また,前述のとおり,実際にも複数の厚生労働省職員に対する訓告や文書による厳重注意などの処分につながったものであることからすると,これら情報はそれら職員の個人に関する情報に該当すると考えられるから,この観点からも,控訴人の上記主張は失当であり,採用することができない。」
2 本件見解状況資料について
(1) 本件見解状況資料に係る検討の前提となる認定事実については,原判決「事実及び理由」欄第3の2(1)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(2) 本件見解状況資料に係る検討については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄第3の2(2)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決45頁15行目末尾の次に以下を加える。
「控訴人は,本件見解状況資料は,国が把握した学会等の見解公表の状況や公表の予定を列記したものにすぎず,接触担当者,接触状況,厚生労働省が把握した学会等の見解公表の見込みなどが一覧性のある表に簡潔に記録されているだけであり,とりわけ見解状況資料Cは,厚生労働省が把握した学会等の公表又は公表予定が記載されているにすぎず,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)に該当しないと主張する。しかしながら,本件見解状況資料に記録されている情報は,一覧性のある表に簡潔にまとめられているものの,その内容は,前記認定のとおり,医薬食品局の職員が学会,患者団体,専門家等とどのような接触を行い,接触した学会関係者等から和解勧告に対する見解の公表に関してどのような反応を得ていたのかなどの点に関する具体的な事実関係の記載から成り,このような本件調査報告書の概括的な記載を超える具体的かつ詳細な,しかも一覧性のある情報が開示され,相手方当事者がこれを入手し利用できるという状況が生じることになれば,民事訴訟が立脚する対立当事者間の公平を害するおそれがあるといえる。控訴人の主張は採用することができない。」
イ 原判決47頁4行目の「これらの情報は,」から9行目の「認められる。」までを「本件見解状況資料も,a訴訟問題についての検証チームによる本件事情聴取の結果を記録した行政文書として開示請求されているのであり,本件見解状況資料に記録されている情報のうち,上記各情報も,そのような属性を必然的に伴っていて,」に改める。
ウ 原判決48頁22行目の次に以下を加える。
「 また,控訴人は,本件見解状況資料に記録されている情報のうち,学会等の団体の名称やメールマガジンの名称からは特定の個人を識別することはできないし,本件見解状況資料に記録されている情報のうち⑧(①から⑥までの主体に対する厚生労働省関係者の接触状況,①から⑥までの主体の本件和解勧告についての見解公表に係る情報)及び⑱(⑮から⑰までの主体の本件和解勧告についての見解公表に係る情報)が,上記情報等と一体となって個人識別情報を構成するとはいえず,また,本件見解状況資料Cに記録されている情報のうち,学会等の団体の名称(⑮)及びその見解公表に係る情報(⑱)は,およそ個人に関する情報ではないと主張する。
しかしながら,前記(1)認定事実によれば,本件見解状況資料においては,学会等の団体の名称を,そこに所属する個人,接触者,及び接触状況並びに見解公表に係る情報(⑧及び⑱の情報を含む。)などとともにそれぞれ対応する形式でその者を特定する要素として表形式で記録されているのであって抽象的な団体の名称等として記録されているのではないから,上記情報のうち学会名等や役職に係る記述のみを切り出した上で,その法5条1号(個人識別情報)の該当性を検討することは困難かつ不適当である。これら情報が法5条1号(個人識別情報)に当たらないとする控訴人の前記主張は失当であり,採用することができない。」
エ 原判決49頁9行目末尾の次に「控訴人は,法人等がその公的活動について批判を受けることは当然であり,それによる社会的評価の低下を回避することは法人の「正当な」利益ということはできないと主張するが,それが失当であることは,本件聴取記録について前記に検討,判断したとおりである。」を加える。
3 本件要請書について
(1) 本件要請書に係る検討の前提となる認定事実については,原判決「事実及び理由」欄第3の3(1)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(2) 本件要請書に係る検討については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄第3の3(2)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決50頁25行目の次に以下を加える。
「 控訴人は,本件要請書が裁判所の和解勧告を批判する見解を公表してもらうために学会に提出されたものにすぎないなどとして,そこに記録されている情報は,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)に該当しないと主張するが,上記に加え,特に前提事実(4)によれば,本件要請書の作成や発出はa訴訟に関する訴訟活動の準備行為であるということができるし,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)が不開示情報として規定された趣旨や,訴訟活動の中心である主張立証活動が内部的な対処方針や訴訟活動の準備を踏まえそれらに支えられていることからすれば,本件要請書に記録されている情報が公にされると,国の訴訟当事者としての地位を不当に害するおそれがあるということができる。控訴人の主張は失当であり,採用することができない。」
イ 原判決51頁14行目末尾の次に「控訴人は,将来の同種の事務に対する支障が生じるおそれを認めることはできないと主張するが,上記のとおり,本件要請書に記録されている情報は厚生労働省職員がどのような学会関係者と接触したのかという事実関係に関する情報であるから,法5条5号(意思形成過程情報)に当たるといえる。控訴人の主張は失当であり,採用することができない。」を加える。
ウ 原判決52頁6行目の「これらの情報は,」から11行目の「と認められる。」までを「前記前提事実によれば,本件要請書は,a訴訟問題についての検証チームによる本件報告書の関連文書として開示請求され,厚生労働大臣により当該開示請求の対象文書として特定された上で一部開示されているのであり,本件要請書に記録されている情報のうち一部不開示となった①及び②の情報も,そのような属性を必然的に伴っていると認められる。」に改める。
エ 原判決53頁25行目末尾の次に「なお,控訴人は,本件要請書に記録されている情報のうち②については,当該学会はbとcであると事実上特定されているから,新たに社会的評価が低下することはないと主張するが,未だ開示されていない上記情報につき特定の内容であることを前提とした上での主張であり,失当である。」を加える。
4 本件メール及び本件添付ファイル2から4までについて
(1) 本件メール及び本件添付ファイル2から4までに係る検討の前提となる認定事実については,原判決「事実及び理由」欄第3の4(1)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(2) 本件メール及び本件添付ファイル2から4までについては,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄第3の4(2)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決59頁7行目の「これに対し,原告は,」の次に「本件は極めて特殊な事例であるから,通常の訴訟活動の中心である主張立証活動,和解対応や訴訟準備に対する支障が生じる可能性は低く,将来の同種訴訟を考えてみても,国の内部的協議や国と学会等の関係者等との接触状況に関する情報が直ちに開示されるようになるわけではなく,本件メールの本文はほぼ全文が開示されていて,不開示となっている情報は,学会等の団体名やそこに所属する個人を事実上特定することができるから,本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報は,法5条6号柱書き及びロに該当しないと主張し,また,」を加える。
イ 原判決59頁12行目の「しかしながら,」の次に「上記に加え,特に前提事実(4)によれば,本件メール及び本件添付ファイル2から4まではa訴訟に関する訴訟活動の準備行為であるということができるし,法5条6号柱書き及びロ(争訟事務情報)が不開示情報として規定された趣旨や,訴訟活動の中心である主張立証活動が内部的な対処方針や訴訟活動の準備を踏まえそれらに支えられていることからすれば,本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報のうち不開示とされたものが公にされると,国の訴訟当事者としての地位を不当に害するおそれがあるということができる。また,控訴人の主張は,未だ開示されていない情報につき事実上その内容が特定の内容であることを前提とした上での主張であり,この点においても失当である。また,」を加える。
ウ 原判決60頁11行目末尾の次に「控訴人は,本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報で不開示となっているのは,本件メールを送信した厚生労働省の室長の氏名や送信先の学会名やそれに所属する個人名程度であり,これらが公になったからといって,将来の同種の事務に対する支障が生じるおそれを認めることはできないと主張するが,まさにそのような厚生労働省の職員がどのような学会関係者に対してどのような依頼をしたのかという事実関係に関する情報が開示されることにより,一定の支障を生じるおそれがあるといえることは,上記のとおりである。」を加える。
エ 原判決60頁26行目の「これらの情報は,」から61頁3行目から4行目にかけての「と認められる。」までを「前記前提事実によれば,本件メール及び本件添付ファイル2から4までは,a訴訟問題についての検証チームによる本件報告書の関連文書として開示請求され,厚生労働大臣により当該開示請求の対象文書として特定された上で一部開示されているのであり,本件要請書に記録されている情報のうち一部不開示となったうちの,上記各情報も,そのような属性を必然的に伴っていると認められる。」に改める。
オ 原判決62頁26行目の次に以下を加える。
「 控訴人は,本件メール及び本件添付ファイル2から4までに記録されている情報のうち④の情報については,そこに記録された学会がb,c,dを指すことが事実上特定されているから,新たに社会的評価が低下することはないと主張するが,未だ開示されていない上記情報につき特定の内容であることを前提とする主張が失当であることは前記のとおりである。また,控訴人は,法人等がその公的活動について批判を受けることは当然であり,それによる社会的評価の低下を回避することは法人の「正当な」利益ということはできないと主張するが,それが失当であることも前記のとおりである。」
5 小括
以上によれば,本件処分1及び本件処分2はいずれも適法であるから,控訴人の請求はいずれも理由がなく,これらは棄却すべきこととなる。
第4結論
以上の次第で,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 佐久間健吉 裁判官 中村恭)
なお,裁判長裁判官 三輪和雄は,定年退官のため,署名押印することができない。 裁判官 佐久間健吉