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東京高等裁判所 平成26年(く)651号 決定 2015年1月13日

〔少年〕A(平成10.11.×生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

1  抗告の趣意

本件抗告の趣意は,要するに,①原決定が認定した第3のぐ犯の事実に関し,少年には少年法3条1項3号イのぐ犯事由が認められるに過ぎないのに,これに加えて同号ロ,ハ,ニの各ぐ犯事由も認めた原決定には重大な事実の誤認がある,②少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である,というのである。

2  事実誤認の論旨について

(1)原決定が認定した第3のぐ犯の事実の要旨は,少年が,保護者である両親の注意を聞き入れず,平成△年×月頃から家出をし,同年×月に万引きをし,その後自宅に戻ったものの夜遊びを繰り返し,同年×月○旬頃,先輩のAという者から特殊詐欺の現金受取役・現金引出役の仲介役に誘われ,同月○日頃,友人のBをAに引き合わせ,同月○日,少年の顔写真が添付された他人名義の社員証や携帯電話機3台を所持し,特殊詐欺に関連するとみられるメモを所持するBと共にいたものであり,保護者の正当な監督に服しない性癖があり,正当な理由がなく家庭に寄り附かず,不道徳な人と交際し,自己及び他人の徳性を害する行為をする性癖があり,このまま放置されれば,その性格及び環境に照らして,将来窃盗,詐欺等の罪を犯すおそれがある,というものである。

(2)少年法3条1項3号ロのぐ犯事由に関し,原決定は,少年は平成△年×月から×月頃に家出をし,その後も夜遊びを続けていたのであるから,正当な理由なく家庭に寄り附かなかったといえる旨説示している。

これに対し,所論は,少年が家出をしていたのは,ぐ犯事件で身柄拘束される約4か月も前のことである上,約1か月間という短期間であり,その間も両親との間で電話連絡をしていたのであるし,自宅に戻った後は,深夜に外出することはあっても,自宅のほかに居所を有していたわけではないのであるから,家庭に寄り附かない状態に至っていたとはいえない旨主張する。

しかし,約1か月間という家出の期間は決して短期間とはいえない上,少年は,自宅に戻った後も引き続き夜遊びを繰り返し,両親とは口も聞かずすれ違いのような生活を送っていたというのであるから,所論の指摘を踏まえても,正当な理由なく家庭に寄り附かない状態にあったと認めた原決定の判断は正当として是認できる。

(3)少年法3条1項3号ハのぐ犯事由に関し,原決定は,少年がAから特殊詐欺の現金受取役・現金引出役の仲介役をする話を持ち掛けられ,それを断ったといいながらも,同人に友人のBを引き合わせ,少なくとも平成△年×月○日から同月○日にかけてA及びBと一緒にいて,その際,Bは特殊詐欺に関連するとみられるメモを所持していたのであるから,少年は,詐欺の話を持ち掛けるような不道徳な人物であるAと交際したといえる旨説示している。

これに対し,所論は,少年は,Aとは平成△年×月まで特に一緒に遊んだりしたことはなく,半年近くも連絡を取らない間柄であったし,AにBを引き合わせた後,Aと行動を共にすることもあったが,それは,Aから恫喝されたためであり,犯罪行為の共謀や準備に関する意思連絡もしていないのであって,「不道徳な人と交際」という事由が広汎な概念であって抑制的に適用すべきであることに照らしても,少年がAと交際したとはいえない旨主張する。

しかし,少年は,Aから特殊詐欺への関与を持ち掛けられたにもかかわらず,Aとの接触を絶とうとしないばかりか,特殊詐欺に関与する者としてBをAに引き合わせた上,少なくとも同月○日から○日にかけてA及び特殊詐欺に関連するとみられるメモを所持するBと行動を共にしていたというのであり,同日に職務質問を受けた際の少年の言動等に照らせば,それらの行動が少年の意思に反していたとは認め難いのであって,所論の指摘を踏まえても,不道徳な人物であるAと交際していたと認めた原決定の判断は正当として是認できる。

(4)少年法3条1項3号ニのぐ犯事由に関し,原決定は,上記(3)で認定した事実から,詐欺の話を持ち掛けるような不道徳な人物であるAと交際して自己の徳性を害する行為をするとともに,そのAにBを引き合わせるなどして同人の徳性を害する行為をしたと認められる旨説示している。

これに対し,所論は,少年は,Aと交際していない上,同人からの特殊詐欺への関与の誘いを断っているから,自己の徳性を害する行為はしていない,また,AにBを引き合わせたのは,同人からの求めによるものであるから,同人の徳性を害する行為もしていないし,AにBを1回引き合わせただけで同人の徳性を害する行為をする「性癖」があるともいえない旨主張する。

しかし,少年は,上記(3)のとおり,Aが特殊詐欺への関与を持ち掛けてくるような不道徳な人物であることを認識しながら,同人と行動を共にするなどして交際していたのであるから,自身が特殊詐欺に関与することは断ったとしても,自己の徳性を害する行為をする性癖があると認められる。また,少年は,Bが特殊詐欺への関与に前向きな意向を示すや,それを押しとどめるのではなく,Aに引き合わせてそれを容易にする行動に出ているのであるから,所論の指摘を踏まえても,他人の徳性を害する行為をする性癖があると認められる。以上と同旨の原決定の判断は正当として是認できる。

(5)以上のとおりであるから,事実誤認の論旨は理由がない。

3  処分不当の論旨について

(1)本件は,①平成△年×月○日,○○市の路上に駐車中のヘルメット2点在中の原動機付自転車1台(時価合計21万5000円相当)を窃取したという窃盗,②同日,○○市の路上において,その原動機付自転車を無免許で運転したという道路交通法違反,③上記2(1)のぐ犯の各事案である。

(2)少年は,中学3年生時の平成△年夏,幼少期から慕っていた母方祖父が死亡したことを一つの契機にして生活態度が乱れるようになり,年長者等との不良交友を深めていった。平成△年×月に中学校を卒業した後も,50万円を家から持ち出して××につぎ込むなど,問題行動は続き,同年×月に□□□高校に進学したものの,同年×月頃に怠学するようになり,家出状態となった。同年×月頃,万引きが発覚したことなどから自宅に戻ったが,年長者と夜遊びをするなどの問題行動を続けた。同年×月には,足代わりにするためなどという安易で身勝手な動機から,路上に駐車中の原動機付自転車を盗み(非行事実第1),自ら直結の方法でエンジンをかけた上,無免許で運転し(同第2),無免許運転を現認した警察官により取締りを受けた。しかし,その後も生活態度を改めることなく,上記2のとおり,同年×月,Aから詐欺の受け子・出し子の仲介役に誘われ,自ら関与することは断ったものの,○○の同級生である不良交友仲間のBをAに引き合わせ,同月○日から○日にかけて同人らと行動を共にするなどしていたものである。

(3)このように,少年は,平成△年○以降急激に生活態度が乱れて問題行動を繰り返すようになり,家庭に寄り附かずに不良交友を深め,非行事実第1の窃盗や同第2の無免許運転が発覚した後も生活態度を改めることなく,不道徳な者と交際するなどしてきているが,これは,鑑別結果にもあるとおり,<ア>精神的に未熟であり,幼稚な自己中心性と万能感を持ち続けている,<イ>自分の思い通りにしたいという気持ちが強く,それが叶わなければ,ふて腐れて意欲を失ったり,身勝手に不満を募らせたりすることが少なくない,<ウ>自分に利益をもたらしてくれる者に取り入ろうとする打算的なところがあり,自分の欲求を充足するためであれば他者をだましたり利用したりするなど,総じて利己的な対人行動が目立つ,<エ>自分を実際以上に大きく見せようとして虚勢を張り,調子に乗りやすく,周囲に同調・追従したり,不良な価値観や行動様式を積極的に取り入れがちである,<オ>問題が生じた際に傷付きを回避する態度が顕著であり,指導されたり失敗を経験したりしても,なかなか内省が深まりにくいといった,少年の性格・資質上の問題によるところが大きいと考えられる。

(4)監護者の状況を見ると,少年と同居する両親は,少年を監護・指導する意向を示してはいる。しかしながら,少年は,幼少期から共働きのため不在がちな両親との愛着の形成が不十分であったこともあり,両親の指導に従おうとする姿勢に乏しく,現時点において両親に十分な指導・監護が期待できる状況にはないといわざるを得ない。

(5)以上のような本件事案の内容,少年の性格・資質上の問題,監護者の状況等に照らせば,少年の要保護性は極めて高く,社会内処遇により健全育成を図ることは困難であって,少年を少年院に収容し,専門的,系統的な矯正教育を施す必要があると認められる。

この点,少年は,抗告申立書において,時間が経ち,心が落ち着いてきて,両親ともコミュニケーションがとれるようになってきたし,就職先も決まっているなどと述べ,付添人は,抗告理由補充書において,少年の両親と少年との親子関係は大きく改善されており,少年の両親は,いずれも平日昼間は働きに出ているため,少年にも平日昼間の仕事に就かせ,夜間と休日は家族で暮らす中で少年を監督する意欲を示していて,少年の就職先の目処も立っていること,Bに対する処分との間で不均衡があることなどを指摘する。

しかし,これらの事情を十分に考慮しても,上述した少年の要保護性の高さに照らせば,少年を中等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえず,処分不当の論旨も理由がない。

もっとも,原審は,その処分に当たり何らの処遇勧告も付していないが,少年に家裁係属歴がないこと,少年が,未だ十分ではないながらも自己の問題性に気付き始め,不良交友を断ち,両親との関係を改善して更生する意欲を示すに至っていること,両親も,不安を抱きつつも,少年を監護・指導する意向を示していることなどの事情にかんがみると,少年については,短期間の集中的な教育の効果が期待できるに至ったと認められるから,一般短期処遇による教育を実施することが相当というべきである。

4  結論

よって,本件抗告は理由がないから,少年法33条1項によりこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村瀬均 裁判官 石井伸興 裁判官 内田曉)

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