東京高等裁判所 平成26年(ネ)1763号 判決 2015年8月27日
控訴人兼被控訴人
X信用金庫
(第1、第2及び第4から第6事件まで原告兼第3事件被告)
(以下「1審原告」という。)
同代表者代表理事
A
同訴訟代理人弁護士
伊藤茂昭
同
南敏文
同
田中秀幸
同
麻生裕介
同
近藤祐史
同
齋藤崇
同
池辺健太
被控訴人兼控訴人
株式会社新銀行東京
(第1、第2及び第4から第6事件まで被告兼第3事件原告)
(以下「1審被告」という。)
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
関沢正彦
同
増田充俊
主文
1 1審原告の控訴に基づき、原判決主文第1ないし第3項を次のとおり変更する。
(1) 1審被告は、1審原告に対し、4億8710万8867円及びうち別紙1-1-1内金額欄記載の各金員に対するそれぞれ同起算日欄記載の各日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 1審原告と別紙1-1-2主債務者欄記載の各主債務者との間の同年月日欄記載の日付けの同借入金額欄記載の各金銭の消費貸借契約に係る同保証残高欄記載の各保証残高について、1審被告が1審原告に対して連帯保証債務を負担することを確認する。
(3) 1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 1審原告のその余の控訴を棄却する。
3 1審被告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、これを10分し、その7を1審被告の負担とし、その余を1審原告の負担とする。
5 この判決は、1項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 1審原告
原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告は、1審原告に対し、5億5082万0181円及びうち別紙2-1-1の内金額欄記載の各金員に対するそれぞれ同起算日欄記載の各日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 1審原告と別紙2-1-2の主債務者欄記載の各主債務者との間の同別紙年月日欄記載の日付けの同別紙借入金額欄記載の各金銭の消費貸借契約に係る同別紙保証残高欄記載の各保証残高について、1審被告が1審原告に対して連帯保証債務を負担することを確認する。
(3) 1審被告の請求を棄却する。
2 1審被告
(1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る1審原告の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 1審原告が別紙2-1-1、同2-1-2及び同2-2の各主債務者欄記載の各主債務者(本件各主債務者)に対して金員の貸付けを行うに当たり、1審被告は、1審原告との間で締結した約定書(本件約定書)(甲A1)に基づき、上記貸付けに係る本件各主債務者の1審原告に対する債務を連帯保証した。
(1) 第1、第2及び第4から第6事件は、1審原告が、1審被告に対して、①別紙2-1-1の主債務者欄記載の各主債務者に関しては、上記各保証契約に基づく保証債務の履行として、同別紙の請求金額欄記載の金額(主債務の借入金残高に本件約定書に基づく保証割合を乗じた金額である同内金額に本件約定書所定の制限内の主債務に係る代位弁済請求日である同起算日記載の日の前日までの約定利息及び遅延損害金を加えた額)及び同別紙の内金額欄記載の金額に対する同別紙の起算日欄記載の各日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め、また、②別紙2-1-2の主債務者欄記載の各主債務者に関しては、同別紙の年月日欄記載の各日付の1審原告と各主債務者との間の同別紙の借入金額欄記載の金銭の消費貸借契約に係る同別紙の保証残高欄記載の金額(主債務の借入金残高に保証割合を乗じた金額)の連帯保証債務を負担することの確認を求めている事案である。1審原告は、原審においては、金員の支払請求については原判決別紙2-1-1のとおり、債務の確認請求については原判決別紙2-1-2のとおり、それぞれ保証債務が存在するとしてその支払や確認の請求をしたが、その後、主債務者から債務の一部の支払がされて保証債務残高が減少したとして、当審において前記のとおりに請求を減縮した。
(2) 第3事件は、1審被告が、錯誤無効、詐欺取消及び本件約定書12条所定の免責条項等により保証債務の全部又は一部の責任を免れるにもかかわらず、当該免責部分に係る保証債務を履行したため、上記支払が1審原告の不当利得であるなどと主張して、1審原告に対し、不当利得返還請求権に基づき、別紙2-2の主債務者欄記載の各主債務者について、同別紙の認容金額欄記載の金額(1審被告の1審原告に対する代位弁済額)及びこれに対する1審被告が1審原告に対して代位弁済をした日の翌日である同別紙の起算日欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めている事案である。
2 本件の争点は、錯誤無効、詐欺取消及び保証債務についての免責事由を定める本件約定書12条各号に基づいて、1審被告が保証債務の全部又は一部の支払を免れることができるかであり、具体的には、複数の主債務者に共通する総論的な争点と、個別の主債務者に特有の各論的な争点とがある。総論的な争点とこれに対する原審の判断は、概ね以下のとおりであり、原審は、個別の貸付けについて、1審被告の主張する錯誤無効及び免責事由が認められる場合があるとして、1審原告の保証債務履行請求や保証債務の確認については一部のみを認容して残部を棄却し、1審被告の不当利得返還請求については全部認容した。そのために、1審原告及び1審被告がいずれも控訴した。
(1) 本件約定書12条2号による免責と損害発生の要否について
本件約定書12条2号(保証契約違反(「保証書記載の各条件に加えて、本約定書の各条項を含む。」とされている。)。以下「2号免責」ともいう。)に基づき免責が認められるためには、1審被告の求償権が侵害されたなど一定の損害が発生したことが要件となるか。
原審は、本件約定書12条3号に基づき免責(以下「3号免責」ともいう。)を主張する場合には、1審原告が保証付貸付の全部又は一部の履行を受けられなくなることが要件であることは明らかであるのに対し、同条2号が単に「1審原告が保証契約・・・に違反したとき」とのみ規定し、特段1審原告が履行を受けられなかったことに言及していないことからすれば、本件約定書を締結した1審原告と1審被告の意思としては、同条3号に基づき免責を主張する場合には1審原告が履行を受けられなかったことを要件とするが、同条2号に基づき免責を主張する場合にはそれを要件としないものであったと解釈するのが合理的であり、本件約定書14条により1審原告と1審被告との合意内容となっている本件約定書14条2項において1審原告がこれに従って保証契約上の手続を行うものとされている「事務取扱の手引き」(本件手引き)(甲A3)の説明内容からも同様に解されるとした。
(2) 資金使途制限違反に関する1審原告の確認義務について
資金使途制限違反に関し、1審原告はどの程度の資金使途確認義務を負っているか、また、本件手引きにより1審被告の保証の対象とならないとされる「旧債借換資金」には、1審原告以外の第三者への借入金の弁済も含まれるか。
原審は、資金使途の確認義務については、提携金融機関において日常業務として主債務者の口座から資金が払い出される都度、支払先や資金の用途を調査、把握するような資金使途管理が義務付けられているとすれば、極めて重大な負担を強いることになるところ、本件約定書や本件手引き上このような重大な負担を課すことがうかがわれる規定は見受けられず、その他1審原告と1審被告との間においてこれが合意内容となっていたことをうかがわせる事情は認められないから、1審原告は、上記のような義務を負っているものとはいえず、これを前提に1審原告の故意、過失等を判断すべきであるとした。
また、原審は、「旧債借換」は、本件約定書4条において禁止される「旧債振替」とでは表現が異なり、本件手引き上も「旧債借換」(20頁)と「旧債振替」(6頁など)が異なる場面で用いられているから、両者は異なる意義のものと解され、「旧債借換」という表現そのものからは、プロパー債権に限らず既存の借入金の弁済に充てる場合も広く含むものと解するのが自然であり、また、1審被告の信用保証において旧債振替を禁止する(本件約定書4条)趣旨は、保証付貸付金がプロパー債権の回収を図るための手段として利用されると、中小企業者等が必要とする事業資金の調達に支障が生じることとなり、中小企業者等の信用力を補完し、その育成振興を図ろうとする信用保証制度の本来の目的に反する事態となることにあるものと解されるところ、主債務者が1審原告以外の第三者からの既存の借入金の弁済に保証付貸付金を充てた場合でも同様に主債務者が必要とする事業資金の調達に支障が生ずることになり、信用保証制度の本来の目的に反することになるから、本件手引きの「旧債借換資金」に係る記載は、保証付貸付金を1審原告以外の第三者からの既存の借入金の弁済に充てる場合も保証の対象とならないことを定めたものと解するのが相当であるとした。
(3) 旧債振替について
本件約定書12条1号により免責(以下「1号免責」ともいう。)事由とされる旧債振替(本件約定書4条により原則として禁止されている。)に関し、1審原告が、1審原告の有する主債務者への既存債権(プロパー債権)の繰上弁済を条件として保証付貸付を実行し、主債務者がそのとおりに繰上弁済を行った場合に、旧債振替に該当するものとして1審被告が免責されるか。
原審は、前記(2)のような旧債振替禁止条項の趣旨に照らせば、債権者である金融機関が、1審被告の保証に係る貸付金をもって、直接、プロパー債権に充当した場合はもちろん、そうでない場合でも、実質的には1審被告の保証付貸付金で既存のプロパー債権の回収がされ、これにより中小企業者等の信用力を補完し、その育成振興を図ろうとする目的が害されたと評価される場合には、この条項が禁止する旧債振替に該当すると解すべきであるとした上、1審原告がプロパー債権の繰上弁済を条件として保証付貸付を実行し、主債務者がそのとおりに繰上弁済を行った事実が認められる場合には、繰上弁済がなくとも保証付貸付実行前にプロパー債権の弁済期が到来する予定であったなど繰上弁済が保証付貸付による主債務者の事業資金の調達に支障を生じさせていないといえる事情のない限り、実質的には保証付貸付金をもってプロパー債権の弁済を行った場合と同視すべきものとして旧債振替に当たり、本件約定書4条、12条1号に基づき1審被告は保証債務を免責され、本件の場合、そもそも旧債振替自体が信用保証制度の目的・趣旨に反する程度が強いことに加え、1審原告については、当初から1審被告の保証付貸付をもって自らのプロパー債権の回収を図ることを意図したものと推認され、このような1審原告の行動は、1審被告の信用保証制度の趣旨・目的に著しく反し、同制度を濫用するものであるといわざるを得ないことからすれば、1審原告がプロパー債権の繰上弁済を条件として保証付貸付を実行し主債務者がそのとおりに繰上弁済を行ったことが旧債振替に当たる場合には、1審被告は保証債務を全部免責されると解するのが相当であるとした。
(4) 同等管理義務違反について
主債務者について債務不履行、取引約定書違反、その他債権保全を必要とする事実が生じている場合に、1審被告の承諾を得ずに債務者の預金の解約や払戻しによる預金相殺を行うことが、同等管理義務違反(本件約定書10条3項)に違反するものとして1審被告は本件約定書12条3号により免責されるか。
原審は、本件手引きの記載からすれば、事故発生後においても、1審原告は、主債務者に対する預金とプロパー債権とを相殺することが許されることは明らかであるから、1審被告が主張するような保証付債権とプロパー債権との按分充当が必要となるような同等管理義務を1審原告が負っているとは認められないとした。
(5) 事故報告書の大幅遅延について
事故報告書の大幅遅延を理由に1審被告は本件約定書12条2号又は3号により免責を受けることができるか。
原審は、1審被告は、事故報告書の大幅遅延については本件約定書12条3号の適用を主張するところ、同号違反の場合には、1審原告が保証付債権の全部又は一部につき履行を受けられなかったことが免責が認められるための要件となるが、1審被告は、事故報告書の大幅遅延を主張する各主債務者につき、この要件を具体的に主張立証しないから、事故報告書の大幅遅延を理由として免責をいう1審被告の主張は採用できないとした(なお、当審において、事故報告書の大幅遅延は本件約定書12条2号に該当すると1審被告が主張を改めたことは、後記6(3)のとおりである。)。
(6) 無断での利息徴収について
1審原告が、1審被告の承諾を得ることなく、各主債務者から利息のみを徴収した行為は、各主債務者との間で、各被保証債権の弁済方法につき、1審被告に無断で利息のみの弁済を行う内容へと変更する合意をした場合に該当し、1審原告が被保証債権の内容を1審被告に無断で変更するものとして本件約定書14条2項違反(手続違反)となり、2号免責事由に該当するか。
原審は、本件において、保証条件に変更があり1審被告の承諾を得る手続を採る必要がある場合に、1審原告がこれを怠ったことが免責事由に該当し得ることに争いはないから、無断での利息徴収が免責事由に該当し得るかは、1審原告が利息のみを徴収するために、1審被告の承諾を得る手続を採る必要があるか否かを検討することが有益であるとした上、本件手引きにおいて、保証方法や約定返済日の変更等につき1審被告の承認を得る手続を要するとされている趣旨は、これらの変更等によって1審被告が保証契約締結時に把握した主債務者の信用リスクに変更が生じ不測の損害を被るおそれがあることを未然に防止することにあると考えられることからすれば、実質的に1審被告が当初把握した信用リスクに重要な変更が生じるような保証付貸付の条件変更がされた場合には、1審原告は、本件手引(39頁以下)の手続に従って、1審被告の承認を得る手続を採ることが必要となるものと解されるところ、1審原告が主債務者に対して1審被告の承認を得ることなく元本の徴収を控え利息のみを徴収し続けるというのは、1審被告の保証の対象となった1審原告と主債務者間の消費貸借契約において合意された返済方法や約定返済日を変更し元本の弁済を猶予することに当たるものであって、これによって当該主債務者の元本の弁済が遅れ、1審被告が当初把握したリスクに重要な変更が生じるのであるから、1審原告が元本の徴収を控え利息のみの徴収を続ける場合であっても、1審原告は1審被告の承認を得る必要があるというべきである、ただし、民法491条1項の規定、及び本件手引き(55頁)上、主債務者の延滞に関して1審原告が1審被告に事故報告書を提出することを要するのは主債務者に延滞が3回以上あった場合に限られていること等からすれば、本件約定書違反が認められるのは少なくとも3か月分以上につき利息のみを徴収した場合に限られると解するのが相当であるとした。そして、この場合、本件手引き(73頁)が、合意と異なる内容の保証付貸付やその内容に変更があった場合の手続違反が12条2号違反になることを示していることなどからすれば、無断で元本の徴収を控え利息のみを徴収した場合についても、これらに準じて同号違反になるというべきであり、利息のみの徴収を続けることが保証付貸付全体について1審被告が把握した主債務者の信用リスクに重要な変更を生じさせるものであり、1審被告の地位に重要な影響を及ぼすものであることからすれば、一律1審被告の保証債務が全部免責されると解するのが相当であるとした。
(7) 無断での期限の利益喪失通知について
1審原告が、1審被告との協議を行わず、1審被告に無断で債務者に対して期限の利益喪失通知を発した場合、事前協議義務(本件約定書10条2項)に違反するものとして本件約定書12条3号に該当するとともに、本件手引き(56頁)の協議規定に違反するものとして本件約定書12条2号に該当するか。
原審は、本件手引きの記載からすれば、1審原告が1審被告に無断で期限の利益喪失を通知した場合に、1審被告が免責され得ることは明らかであり、この場合、本件手引き上、保証付債権の全部又は一部の履行を受けられなくなったなど他の要件を要することなく1審被告が免責される旨が明記されていることに加え、無断の期限の利益喪失通知が免責事由とされる根拠が、無断での利息徴収と同様に、1審被告が当初把握した主債務者の信用リスクに重要な変更を生じさせるものであり、期限の利益喪失通知をするためには本件手引きに従って1審被告の承諾を得なければならないにもかかわらず、1審原告がその必要な手続を採らなかったことにあると考えられることからすれば、無断での期限の利益喪失通知には、本件約定書12条2号が適用されるものと解するのが相当であるとした。
(8) 錯誤無効について
1審被告が各主債務者と保証委託契約を締結した時点において、各主債務者が資金使途制限違反に該当する使途に保証付貸付金を使用する意図であった場合や業種要件等の保証契約上の要件を満たさなかった場合、1審被告がこれを知らなかったことにより保証契約が錯誤による無効となるか。
原審は、主債務者に係る資金使途等に係る事情は、保証契約の要素ではなく保証契約を締結するに至る動機にすぎないが、本件の場合、資金使途に関しては、旧債振替が本件約定書4条により明示的に禁止されていることに加え、本件手引き(20頁)が、保証の対象とならない借入金の資金使途を具体的に明示し、また、1審被告と保証契約を締結するに当たって各提携金融機関において保証対象となる要件が充たされているかを確認すべき旨を規定していること(24頁)、主債務者が借入目的や具体的な資金使途を記入して1審被告に保証委託を申し込む旨の保証委託申込書は、「提携金融機関において借入れおよび保証委託の申込を受け付ける際に、提携金融機関側で確認を行っていただく項目を記載したもの」であり、提携金融機関は、当該保証委託申込書を審査の上で、主債務者の資金使途等に対する提携金融機関の所見を記載した保証依頼書をもって1審被告に保証契約の締結を申し込むものとされていること(同頁)からすれば、1審原告と1審被告との間の保証契約においては、主債務者が保証の対象となる要件や保証委託申込書記載の資金使途に反しない使途に保証付貸付金を用いる意図であることが表示されて合意の内容となっていたと認めるのが相当であり、また、その他業歴要件等についても本件手引きに記載された1審被告の保証の対象となる要件が充たされていることが表示されて1審原告と1審被告との間の合意の内容となっていたと認められる、そして、仮に契約締結時点において当該主債務者が保証の対象となる要件や保証委託申込書記載の資金使途に反する使途に保証付貸付金が用いる意図であった場合や業歴要件等を充たしていなかった場合、1審被告がこれを知っていれば1審原告と保証契約を締結しなかったことは明らかであるから、上記のような場合には、1審被告には要素の錯誤があり、1審原告との保証契約は民法95条により無効となると解するのが相当であるとした。ただし、原審は、1審被告が、本件約定書12条各号に基づき免責が認められる部分を限度として保証契約が無効になる旨主張し、1審原告からこれに対する反論もないことから、本件においては、上記に従って錯誤無効により1審被告が免責される範囲を検討することが相当であるとした。
3 争いのない事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、以下のとおり改め、4から7までに当審における1審原告及び1審被告の主張をそれぞれ付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、当審においても、主債務者に関しては原判決と同じ略称を使用する。
(1) 原判決87頁(別紙3-2)の「1審被告の主張」欄の24行目の「資金使途違反との間に」を削る。
(2) 原判決127頁(別紙4-1-15)の「無断での利息徴収」の「1審被告の主張」欄の1行目の「4か月分」を「7か月分」と改める。
(3) 原判決156頁(別紙4-2-25)の「錯誤」を「錯誤無効」と、「錯誤無効」の「1審被告の主張」欄の1行目の「a1社」を「a2社」とそれぞれ改める。
(4) 原判決164頁(別紙4-2-29)の「延滞中の債務者に対する貸付」の「1審被告の主張」欄の16行目の「延滞注」を「延滞中」と改める。
(5) 原判決176頁(別紙4-3-4)の「争いのない事実等」欄の35行目の「なっっていた」を「なっていた」と改める。
4 当審における1審原告の主張(総論について)
(1) 本件約定書12条2号の免責が認められる範囲について
ア 原審は、本件約定書12条2号の解釈について、同条3号との文言の違いや同条2号に関する本件手引き(73、74頁)の記載を根拠に、同号の免責が認められるためには1審被告にその求償権が侵害されたなどの損害が発生したことを要しないとする。しかし、同条の2号と3号とで文言が異なるのは規定の対象が異なることによるものであり、損害発生の要否に応じて生じたものではない。また、同条3号は債権者である1審原告が被保証債権の全部又は一部の履行を受けられないことを規定しているのみであり、保証人である1審被告に生じた損害の有無について規定しているものではない。原審は、債権者である1審原告の有する被保証債権と、保証人である1審被告の求償権とを混同しているように考えられる。
本件約定書12条の免責は債務不履行責任の表れであり、本件約定書12条2号による免責の上記法的性質からすれば、1審被告に求償権侵害などの損害が生じた範囲で免責が認められるべきことは明らかであり、求償権侵害などの損害が生じていない場合にまで免責を認めるのは当事者の公平を害する。1審被告としては、得るべき求償権が毀損されるなどの損害を受けた範囲で保証債務から解放されれば十分であり、そのような損害が生じていない場合には原則として保証債務からの解放という強力な効果を及ぼすべき合理的根拠はない。1審原告の債務不履行による求償権の毀損が一部にすぎないにもかかわらず保証債務全部を免責しなければ契約の目的を達しないような特別の事情がある場合には全部免責が認められる場合があり得るとしても、それは極めて例外的な場合に限られる。
イ 信用保証協会約定書と本件約定書の免責規定はほぼ同一の文言で構成されているところ、信用保証協会約定書においては、2号免責について、信用保証協会がその求償権が毀損されるなど損害を受けた範囲でのみ免責が認められ、そもそも求償権の毀損がないような場合には免責は認められないと解されている。また、信用保証協会による保証の目的は「中小企業金融の円滑化」にあり、1審被告による保証提供事業の目的も同じく「中小企業金融の円滑化」にあると明示されている(甲A3の1頁)。本件約定書による保証と信用保証協会約定書による保証とは信用保証制度としての趣旨や約定書の文言はほとんど同一であるにもかかわらず、本件約定書について、信用保証協会約定書の免責規定に関する解釈を排斥すべき理由や特別な事情は存在しない。信用保証協会における保証には信用保険制度の適用がある一方、1審被告における保証には同制度の適用がないとしても、保険の有無は1審被告が経営上のリスクをどのようにコントロールするかの問題であり、1審原告には無関係の事情である。また、1審被告が銀行法に基づく銀行であるとしても、その遂行する業務の法的性質に影響するものではなく、むしろ、1審被告は、自らの保証業務の目的について、「当社の保証業務はこの高い信用力を、中小企業等が提携金融機関から貸付等を受けるについて、その債務の保証という形で利用し、もって中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的としています。」(甲A31、2頁)と説明しているところ、これは信用保証協会法1条と同じ趣旨に立脚するものである。信用保証協会による保証制度は長い歴史を有し、信用保証協会約定書についても、裁判例・学説の集積があるのであるから、これらを参考にすることはむしろ自然なことであり、また、信用保証協会約定書をベースとみることが当事者の合理的意思であったとみるべきである。
ウ 原審は、本件手引きにおける本件約定書12条2号に関する説明部分(2号免責説明部分)においては、1審原告が保証付貸付の履行を受けられなくなったか否かにかかわらず1審被告が免責される旨明記され、同条3号に関する説明部分(3号免責説明部分)においては1審被告に損害を与えた場合とする記載があることや、本件手引きの期限の利益喪失通知に関する説明部分(失期通知説明部分)においては求償権侵害等を要件とすることなく1審被告が免責されることが明記されていることを根拠に、2号免責には求償権侵害を要件としないとする。しかし、本件手引きは、本件約定書14条の記載からも明らかなように、1審被告が1審原告の同意なく変更できる事務手続きの定めにすぎないから、本件約定書における免責についての実体的な要件の解釈に当たって、本件手引きの記載、それも細かい表現の違いに依拠することは妥当な手法ではない。しかも、2号免責説明部分や失期通知説明部分には求償権侵害がなくても免責されることが明記されているとはいえず、また、2号免責説明部分及び3号免責説明部分はいずれも例示にすぎず、そのことは、原判決が根拠とした損害発生についての記載があるのは、3号免責説明部分における「A.」から「G.」までのうちの「F.」にすぎないことからも明らかである。
(2) 旧債振替制限条項(本件約定書4条)違反に基づく保証免責について
ア 原審は、先に各主債務者による1審原告の既存のプロパー債権に対する弁済がされ、その後に1審被告の保証付貸付が実行されているものであっても、既存のプロパー債権に対する弁済が保証付貸付の実行の条件となっていた場合には、「実質的な旧債振替」として旧債振替禁止条項に違反するとする。しかし、本件において問題とされている主債務者に対し、指摘されているような条件付けがされたことはない。また、これがあったとしても、本件約定書4条の文言は、貸付実行金を既存のプロパー債権に充当することを規制しているのであって、先にプロパー債権の弁済がされる場合は、文言上、旧債振替には該当しない。本件約定書は、全ての金融機関・取引に画一的に適用される約款であるから、客観的解釈が通常の契約以上に求められ、類推解釈は制限的でなければならない。
イ 1審被告による保証は、信用保証協会のする保証と異なり、融資額の8割相当部分のみを保証するものであるため、2割相当部分については1審原告自らの判断で信用を供与することになり、したがって、元々事業資金として調達していた既存の債権について主債務者の自己資金等で弁済した後に1審被告の保証付融資が実行され、当該弁済に供された自己資金等が当該保証付貸付金によって補填されたとしても、当該保証付貸付金の2割相当額については、形を変えて1審原告が独自の貸付をしているのと同じであり、1審原告の主債務者に対する与信額は変わっていないのであるから、実質的に保証付貸付金で既存の債権が回収されたといった関係に立つものではなく、中小企業者等の信用力を補完して事業資金の調達を図るという信用保証制度の趣旨に反することはない。むしろ、そのようなローンの切り替えによって、中小企業等は、金融機関に対する「枠」を最大限に有効利用しながら、プロパーローンで借りていた金額よりも多くの融資を受けることができるものであって、中小企業等の金融の円滑化に資するものである。
ウ 保証免責が認められる場合のその範囲は、免責事由に該当したことにより影響が生じた範囲での一部免責が原則となるのであり、全部免責は、信用保証制度の趣旨・目的を害するような場合に、いわばペナルティとして例外的に適用されるにすぎず、このことは、信用保証協会保証に関する最高裁判所平成9年10月31日第二小法廷判決・民集51巻9号4004頁(最高裁平成9年判決)でも示されている。
本件においては、仮に旧債振替と評価されるべき事案があったとしても、全部免責とすべきような「特段の事情」が存在しない。すなわち、1審被告の信用保証においては、融資額の2割相当分については1審原告がいわばプロパー債権と同じように自らの与信判断に基づいて当該中小企業者等に対して新たに信用を供与することになる。そのため、例えば、1審原告がプロパー債権を上限まで貸し付けている場合、プロパー債権の返済がなければ1審被告の保証付融資を行うことができないという場面も考えられる。この場合、既存の債権について主債務者の自己資金等で弁済されることがなければ1審被告の保証付融資を行うことができず、かえって中小企業等の金融が阻害される、という1審被告の信用保証に特有の事情がある。また、原審は、繰上弁済に充てられる部分が保証付貸付全体に比して少額であれば、繰上弁済に充てられた部分が保証付貸付によって補填された限度において一部免責を認めれば足りるとし、一部免責は特定の場合に限って例外的に認められるかのごとく説示するが、これは、最高裁平成9年判決の述べる原則と例外を完全に逆転させており、しかも、原審は、個々の融資取引に関して個別の当てはめをせず、さらに、自ら要件とした、「残額部分の貸付金では中小企業者等が融資を受けた目的を達成することができない」との点についても一切の検討をしていない。また、原審は、1審原告がプロパー債権の繰上返済を条件として保証付貸付を実行することを反復的に繰り返しており、1審原告が当初から1審被告の保証付貸付をもって自らのプロパー債権の回収を図ることを意図していたとするが、事実誤認である。
(3) 無断での利息徴収について
ア 原審は、1審被告の承諾を得ることなく元本の徴収を控え利息のみを徴収し続けるのは、無断で主債務者との貸付契約を変更し、元本の弁済を猶予したと解すべきであるとしたが、元本弁済の猶予とは、新たな期限の利益の付与であり、この場合、主債務者は履行遅滞状態が解消され、最終弁済期も変更されることになるから、元本弁済の猶予は、主債務たる貸付債権の内容を変更するものとして、1審被告の承諾が必要となる。これに対し、主債務者が単に元本の支払を怠り、利息分の支払のみをしたというのであれば、それはただの一部弁済にすぎず、当然のことながら貸付契約の内容は変更されず、主債務者は履行を遅滞している状態となり、最終弁済期の変更もない。重要なのは、利息分の支払を受領したことではなく、元本弁済の猶予がされたかである。本件で、「無断での利息徴収」として問題とされている主債務者との関係で、1審原告が元本弁済の猶予をしたことはない。利息分の一部弁済がされていた時期があることは事実であるが、これは、単に主債務者が約定どおりの弁済ができず、利息分のみの一部弁済を行っただけである。当然、この間、当該債務者は履行遅滞に陥っており、そのように1審原告内部でも扱われていた。1審原告は、利息のみの支払がされ、約定の返済がされなかった債務者について、貸付金延滞報告書などで延滞債権として1審被告にも報告していた。
イ 利息のみの支払を行う債務者は、資金繰りが苦しく約定弁済ができない中で、何とか事業継続のために利息分の一部弁済をしているのであるから、一部弁済が信用を変動させるものではなく、信用リスクが顕在化した結果というべきものである。もし、1審原告の債権回収方法が違えば約定どおり元本の弁済も受けられ、回収額が増大できたというのであれば、それは本件約定書12条3号の免責事由の問題とはなり得るが、1審原告が利息のみの支払を受けたことが信用リスクを変動させる1審原告の行為であると認めることは不可能である。
かえって、1審被告の保証付融資では最長150日分の利息についても保証対象となるから、1審原告が利息分の一部弁済を受ければ、150日分を上限として1審被告の保証債務は減少することとなり、利息分の一部弁済が1審被告の利益に資することは明らかである。1審被告の主張を前提とすると、主債務者が約定弁済を行うことができなくなった場合、利息分の回収をし、その分だけ保証人の負担を軽減させた金融機関は1審被告が免責となって不利益を被り、利息分の回収すら得られなかった金融機関は代位弁済を受けることができることになるが、このような結論は衡平性を著しく欠く不当なものである。
ウ 仮に元本弁済の猶予があったとしても、それは単なる返済条件の変更である。原判決はこれを契約の更改と同一視するが不当である。本件手引きも述べるとおり、契約の更改が行われるとその前後で債権の同一性がなくなるという重大な結果が生じ、保証債務は消滅するから、保証契約の変更が必要となるのは当然であるが、元本弁済の猶予がされたとしても、債務の同一性に支障を来すようなことはあり得ない。
(4) 無断での期限の利益喪失通知について
ア 本件手引きの失期通知説明部分(56頁)においては、保証付債権の全部又は一部の履行を受けられなくなったなど他の要件が必要であるとも不要であるとも記載されておらず、本件手引きの記載は、無断での期限の利益喪失通知が免責事由となる理由とはならない。当該記載は、単に免責の可能性を示すことによって期限の利益喪失通知を発送する前に協議をするように注意を喚起するためのものであることが明らかであって、これをもって無断での期限の利益喪失通知には3号免責事由ではなく2号免責事由が適用されるものとすることや、1審被告に生じた損害の有無を問わず常に免責されるものとすることには無理がある。
イ また、原審が指摘する「1審被告が当初把握した主債務者の信用リスク」の変更は、主債務者の信用状況の悪化と条件変更等のこれに対する対応の可能性の有無によって生じ、また、左右されるものであって、期限の利益喪失通知によって生じるものではない。むしろ、主債務者の信用状況が悪化したその先に期限の利益喪失通知があるのである。
本件約定書10条2項において期限の利益喪失通知について事前の協議(原審は、期限の利益喪失通知において1審被告の「承諾」を必要とするが、本件約定書10条2項及び本件手引きの失期通知説明部分においては「協議」としか記載されておらず、「承諾」を要するとする原審の判示は既に理由がない。)が要求される根拠は、主債務者の期限の利益喪失の「時期」が保証債務履行請求の時期、存続期間、履行範囲等に影響を与えるからであるにすぎない。したがって、期限の利益喪失通知について、「主債務者の信用リスク」の変更を根拠として1審被告の承諾を得ることを求められる理由はないし、この点に関して抽象的な1審被告の「重要な地位」や実害にかかわらず未然に防止すべき「不測の損害」を観念することもできない。
ウ 本件約定書12条1号ないし3号の構成に照らすと、3号の免責事由は、債権の管理・回収局面の義務違反を対象とするものと解することが自然であり、本件約定書10条の違反については3号の免責事由で処理されると解すべきである。仮に無断での期限の利益喪失通知が本件約定書12条2号の免責事由とされるとしても、前記(1)のとおり、1審被告の求償権が侵害されるなど1審被告に発生した損害の限度で免責が認められるものと解すべきである。
エ 本件で無断での期限の利益喪失通知を理由として1審被告からの免責の主張がされている各保証債務に係る主債務者については、いずれも期限の利益喪失通知までの間に1審原告及び1審被告との間で、当該主債務者に対する対応につき必要な協議がされている。したがって、そもそも本件では1審被告が免責を主張するいずれの債務者についても「無断で」期限の利益喪失通知がされたものとはいえない。
(5) 錯誤無効について
ア 原審の判断によれば、資金使途違反や保証要件違反が事後的に判明したような場合に、1審原告に、いわば「結果責任」ないし「無過失責任」を負わせるものにほかならず、これがまかり通るようなことがあれば、1審被告の提携金融機関としては、資金使途違反や融資条件違反の可能性が100%存在しないものしか1審被告の保証付融資を利用できないこととなり、あるいは、融資審査を極度に厳格化しなければならないこととなって、いずれにせよ「中小企業者等に対する金融の円滑化」という1審被告の保証付融資の制度がおよそ成り立ち得なくなるのであって、制度の自己否定となる。
イ また、主債務者の資金使途意図や保証要件の充足が1審原告と1審被告との間の合意となっていた事実はない。
すなわち、資金使途に関する主債務者の内心的意図や融資条件に関する客観的事実については、その性質上、1審原告における融資審査及び1審被告における保証審査において客観的真実との完全な一致を確認することはおよそ不可能であって、1審原告又は1審被告の認識が客観的真実に合致しない可能性を排除することはできない。また、1審被告の保証付融資の制度は、中小企業を対象とするものであるところ、資金繰りに窮した中小企業が、何とか資金を調達すべく資金使途や保証条件に関する事実関係を正確に申告しない可能性も当然のものとして存在し、これは1審被告においても当然に認識した上で保証契約を締結していた(このことは、本件手引きにおいて、旧債務振替や資金使途違反、保証条件違反の一種である債務者区分の虚偽申請が、「保証債務の不成立」の類型ではなく、免責事由の一例として記載されていること(甲A3・71頁以下)ことに照らしても明らかである。すなわち、本件手引きは、資金使途違反や保証条件違反が存在することを当然の前提とした上で、それを免責事由になると位置づけている。)。したがって、1審被告が、その保証審査の過程で主債務者の資金使途意図や保証条件の充足に関して、提携金融機関(1審原告)に一定の手続的負担(条件の確認等)を求めたからといって、それが直ちに、これらの点が客観的真実に合致しなかった場合のリスクを全て1審原告に負担させることを意味しない。
ウ そもそも、「保証」は、本来、保証人が債権者から主債務者の信用リスクの全部を引き受けるものであり、保証人は、主債務者について債務不履行や破綻等の信用失墜事由が生じた場合には、原則としてその発生原因や理由を問わずに保証債務を履行しなければならない。1審被告は、このような保証人の責任の本質を理解していたからこそ、①事前に保証審査を行って自らが引き受けることとなるリスクを見極め、②そのリスクに見合った保証料を設定し、③引き受けることのできないリスクについては免責事由に含めることによりリスクのコントロールを図っていたのであり、免責事由に該当する事由については免責事由により処理し(1審原告に故意又は過失がある場合には1審被告は保証債務の全部又は一部を免れる)、免責事由として掲げられた事由以外のリスクは全て1審被告が負担する(錯誤の前提たる「合意」とはしない)というのが、取引の安全と表意者保護を考慮した保証契約当事者の合理的意思というべきである。
5 当審における1審原告の主張(各論について)
(1) a3社(主債務者1-2)について【錯誤無効】
原審は、錯誤により無効であり1審被告が保証債務を負うことはないとするが、主債務者の資金使途意図が1審原告と1審被告との間において合意となっていた事実はなく、保証債務が無効となることはない。また、原審は、錯誤により無効であるとしながら、免責の範囲について、保証付貸付の実行時点から既存借入債務の弁済時点までにa3社の口座に入金された金額等を考慮して(すなわち、保証契約成立後の事情を考慮して)免責額を定めるとしており、錯誤論として破綻している。
仮に、実質的には資金使途制限違反を理由とする2号免責を認めるにしても、1審原告の故意又は重過失を要するが、原審はこの点についての認定判断を欠いている。
(2) a1社(主債務者1-4)について【旧債振替】
原審は、a1社が1審原告から保証付貸付を受けるのに先立ち、1000万円のプロパー債権が繰上弁済され、その翌日に保証付貸付のうち2498万円の入金を受けていることなどをもって、1審原告がプロパー債権の繰上弁済を保証付貸付実行の条件としたものであり、それにより当該金額分は実質的な事業資金に充てられなかったことから、実質的な旧債振替に該当し、本件約定書12条1号に基づき保証債務が全部免責されるとした。
しかし、プロパー債権の繰上返済はa1社が自らの判断でその自己資金からしたものであり、1審原告が1審被告の保証付貸付を利用してプロパー債権の回収を図ったというのではない。a1社は新たな資金を受領し、これを事業資金として利用したもので、実際、a1社が期限の利益を喪失するに至ったのは平成20年6月のことであり、1審被告の保証付貸付の後約2年間経営を継続できたのであるから、保証付貸付の全額(2500万円)が保証業務の目的に沿って事業資金として利用されたことは明らかである。
(3) a4社②(主債務者1-7)について【資金使途、錯誤無効】
原審は、社会保険料のうちの従業員負担部分の支払に充てたことが、本件手引き20頁において資金使途として制限されている「福利厚生資金」に当たるとして錯誤無効を肯定するが、上記の支払は事業主から社会保険事務所に支払うべきものであり、「運転資金」そのものであって、資金使途制限違反はない。また、主債務者の資金使途意図が1審原告と1審被告との間において合意となっていた事実はなく、保証債務が無効となることはないことは前記4(5)のとおりである。
(4) a5社(主債務者1-8)、C(主債務者2-31)について【資金使途、錯誤】
原審は、上記各主債務者につき、保証契約が錯誤により無効であるとしたが、各主債務者の資金使途意図が1審原告と1審被告との間において合意となっていた事実はなく、保証債務が無効となることはないことは前記4(5)のとおりである。
(5) a6社(主債務者1-13)について【詐欺取消】
原審は、a6社が保証付貸付金を用いて180万円の定期預金を作成した事実を認定し、これを前提に1審被告の詐欺取消しの主張を認めている。しかし、180万円の定期預金の原資が、保証付貸付金ではなく、主債務者であるa6社の代表者であったD及びその妻が自宅を売却した代金の一部であったことは明らかであり(甲A9、甲A10の1・2)、原判決の認定は事実に反する。保証付貸付金の一部が定期預金作成の原資に充てられた事実はなく、全てa6社の運転資金に充てられたのであるから、1審被告の誤信も1審原告の欺罔行為もないから、詐欺により取り消される余地はない。
(6) a7社(主債務者1-14)、a8社(主債務者1-15)、a9社(主債務者1-16)、a10社(主債務者2-1)、a11社(主債務者2-2)、E(主債務者2-3)、a12社(主債務者2-4)、a13社(主債務者2-5)、a14社(主債務者2-6)、a15社(主債務者2-7)、a16社①及び②(主債務者2-8、2-9)、a17社①、②(主債務者2-10、2-11)、a18社(主債務者2-13)、a19社①(主債務者2-14)、a20社(主債務者2-16)、a21社(主債務者2-17)、a22社(主債務者2-18)、a23社(主債務者2-19)、a24社②(主債務者2-28)、F(主債務者3-4)、a25社(主債務者4-3)、a26社(主債務者4-4)、a27社(主債務者6-3)及びa28社(主債務者6-8)について【利息のみの徴収】
原審は、上記各主債務者につき、1審原告が利息のみの支払を受けていることをもって、返済条件の変更を行い、利息のみを徴収したものであるとして本件約定書12条2号に基づき1審被告は全部免責されるとしたが、1審原告が上記各主債務者に対して条件変更をしたことはないことは、前記4(3)のとおりである。
(7) a29社(主債務者2-22)について【利息のみの徴収】
1審原告が利息のみの支払を受けたことが無断での条件変更に当たらないことは前記4(3)のとおりである。仮に条件変更に該当し得る余地があるとしても、1審被告は、1審原告がa29社から利息のみの支払を受けた後に、a29社からの条件変更の申込みに対して承諾しており、これによって実質的な「条件変更」も承諾しているといえるから、いずれにしても「無断」での条件変更に該当する余地はない。
(8) a2社①(主債務者2-25)について【旧債振替】
原判決は、a2社が1審原告からa2社①の保証付貸付を受けるのに先立ち450万2000円のプロパー債権の全部を繰上弁済し、その翌日に保証付貸付のうち2678万円の入金を受けていることをもって、1審原告がプロパー債権の繰上弁済を保証付貸付実行の条件としたものであり、プロパー債権の繰上弁済を行ったものと推認されるとし、繰上弁済に充てた450万2000円分については事業資金の調達を果たすことができなかったのであるから、旧債振替が認められ、本件約定書12条1号に基づき保証債務が全部免責されるとした。
しかし、a2社が繰上弁済をしたのは、a2社が金利負担等を考慮して自らの判断でしたものであり、しかも原資は自己資金であると説明されていた。1審原告は、繰上弁済がなくとも保証付貸付を実行することができる状態にあり、繰上弁済を求める必要もなかったものであり、プロパー債権の繰上弁済を強制したり、保証付貸付の実行の条件としたことはない。a2社は、2680万円もの新たな資金を現実に受領し、これを事業資金として利用している。実際、a2社が期限の利益を喪失するに至ったのは平成21年2月のことであり、1審被告の保証付貸付の後約2年10か月以上経営を継続できたのであるから、保証付貸付の全額(2680万円)が保証業務の目的に沿って事業資金として利用されたことは明らかである。したがって、a2社①によるプロパー債権の繰上弁済が1号免責事由に該当することはない。
(9) a30社(主債務者2-30)について【資金使途、錯誤無効】
原判決はa30社を主債務者とする保証契約が錯誤により無効であるとしたが、運転資金としての保証付貸付から約3か月も後にa30社が土地建物の売買契約をしたとの事情をもって、保証付貸付時の意図を推認することは無理がある。また、土地建物の購入資金が「設備資金」であり、「運転資金」ではないとしても、「設備資金」としての使途も本件手引き20頁において許容されているのであるから、仮にa30社が貸付金を土地建物の購入資金に充てる意図を有しており、かつ1審被告がそのことを知っていたとしても、1審被告としては、せいぜい書類の訂正と資料の追加提出等を求めたであろうと推認されるにすぎず、そのことを理由として1審被告が保証契約を締結しなかったということはない(少なくとも、1審被告が、制度上は許容している他の資金使途であれば契約を締結しなかったとの立証はない。)。加えて、主債務者の資金使途意図が1審原告と1審被告との間において合意となっていた事実はない。
(10) a31社(主債務者2-32)について【無断での期限利益喪失通知】
1審原告は、a31社に対し、1審被告の承諾を得ることなく期限の利益喪失通知を送付したが、本件約定書10条2項において期限の利益喪失に当たって事前に必要とされているのは、1審被告に対して事前に通知した上での「協議」であって、「承諾」が必要であるとの記載は本件約定書にはない。そして、本件においては、1審原告は、1審被告に対し、回収困難につき代位弁済請求予定である旨記載した事故報告書を提出し、1審被告は、1審原告に対し、代位弁済の方向で処理すべき旨を連絡している。代位弁済請求をするためには最終弁済期限の到来(期限の利益喪失通知)が必要であるから、代位弁済に係る協議によって期限の利益喪失通知に関して必要な、通知の上での「協議」は尽くされている。また、この間の事情からすれば、1審原告に故意はもちろん過失も存しない。
さらに、a31社については、期限の利益喪失通知発送の直後に1審被告から現に当該通知を発送するよう指示があったものであり、期限の利益を喪失させること自体やその時期も含めて、現実には1審被告の意図通りになっている。1審原告に仮に手続違反があったとしても、これによる実害は全く生じておらず、1審被告に免責は認められない。
(11) a32社(主債務者3-1)について【旧債振替】
原審は、プロパー債権2本の弁済金の原資が保証付貸付金であることは明らかであり、これによりa32社は事業資金の調達を果たすことができなかったのであるから、旧債振替に該当し、また、a32社が、保証付貸付金について他行口座を経由させてプロパー債権の弁済を行ったについては1審原告担当者の指示があったことが推認されるとし、1審原告には故意が認められるとした。
しかしながら、プロパー債権は弁済期限の到来により返済されたものであり、1審原告は、a32社に対し、旧債振替に当たるようなことはしてはならない旨説明し、a32社からは、プロパー債権の返済のために保証貸付を受ける訳ではなく、プロパー債権の原資は入金予定の売上金であるとの説明を受けていた。a32社がその説明資料として1審原告に送付した預金通帳の写し(甲C7)の内容は、当該口座に、保証貸付実行前から1500万円を超える金額があり、そこからプロパー債権の振込がされているように読めるものであり、かつ、保証付貸付金が入っているようには見えないものであった。また、a32社は2500万円もの新たな資金を現実に受領し、事業資金として利用している。実際、a32社が期限の利益を喪失するに至ったのは平成19年3月のことであり、1審被告の保証付貸付の後10か月以上経営を継続できたのであるから、保証付貸付の全額(2500万円)が保証業務の目的に沿って事業資金として利用されたことは明らかである。したがって、a32社によるプロパー債権の繰上弁済が1号免責事由に該当することはない。
(12) a33社(主債務者3-2)、a34社(主債務者3-3)、a35社(主債務者6-4)、a36社(主債務者6-5)及びa37社(主債務者6-7)について【旧債振替】
原審は、上記各主債務者が1審原告から保証付貸付を受けるのに先立ち、a33社は500万円のプロパー債権の全部を繰上弁済し、同日、保証付貸付のうち3998万円の入金を受けていること、a34社は660万円のプロパー債権の全部を繰上弁済し、その翌日に保証付貸付のうち4998万円の入金を受けていること、a35社は720万円のプロパー債権の全部を繰上弁済し、その翌日に保証付貸付のうち2498万円の入金を受けていること、a36社は800万円のプロパー債権を繰上弁済し、その翌日に保証付貸付のうち2498万円の入金を受けていること、a37社は400万円のプロパー債権の全部を繰上弁済し、同日、保証付貸付のうち1998万円の入金を受けていることなどをもって、いずれも1審原告がプロパー債権の繰上弁済を保証付貸付実行の条件としたことから、プロパー債権の繰上弁済を行ったものと推認されるとし、繰上弁済に充てた金額分については事業資金の調達を果たすことができなかったのであるから、旧債振替が認められ、本件約定書12条1号に基づき保証債務が全部免責されるとした。
しかし、上記各主債務者が繰上弁済をしたのは、いずれも金利負担等を考慮して自らの判断でしたものであり、しかも原資は自己資金であると説明されていた。1審原告は、繰上弁済がなくとも保証付貸付を実行することができる状態にあり、繰上弁済を求める必要もなかったものであり、プロパー債権の繰上弁済を強制したり、保証付貸付の実行の条件としたことはない。その後a33社は4000万円、a34社は5000万円、a35社は2500万円、a36社は2500万円、a37社は2000万円もの新たな資金を現実に受領し、これを事業資金として利用している。実際、期限の利益を喪失するに至ったのは、a33社が平成20年10月、a34社は平成21年7月、a35社は平成22年8月、a36社は平成23年3月のことであり、a33社は2年程度、a34社は3年4か月程度、a35社は3年以上1審被告の保証付貸付の後経営を継続できたのであり、a37社は期限の利益を喪失することなく経営を継続しているのであるから、保証付貸付の全額が保証業務の目的に沿って事業資金として利用されたことは明らかである。したがっていずれもプロパー債権の繰上弁済が1号免責事由に該当することはない。
(13) a38社①、②(主債務者4-1、4-2)について【無断での期限利益喪失通知】
1審原告は、a38社に対し、1審被告の承諾を得ることなく期限の利益喪失通知を送付したが、本件約定書10条2項において期限の利益喪失に当たって事前に必要とされているのは、1審被告に対して事前に通知した上での「協議」である。そして、本件においては、1審原告は、1審被告担当者と打ち合わせをし、1審被告担当者は、代位弁済請求をすることに異存はない旨の回答を得ている。代位弁済請求をするためには最終弁済期限の到来(期限の利益喪失通知)が必要であるから、代位弁済に係る協議によって期限の利益喪失通知に関して必要な、通知の上での「協議」は尽くされている。また、この間の事情からすれば、1審原告に故意はもちろん過失も存しない。
さらに、a38社については期限の利益を喪失させる以外方法がない状態であり、その発送の時期も、1審被告に代位弁済請求の方針とすることを協議し確認した時期から間もなく発送しているのであり、1審被告の意思に反することもない。1審原告に仮に手続違反があったとしても、これによる実害は全く生じておらず、1審被告に免責が認められる余地はない。
(14) a39社(主債務者6-6)について【旧債振替】
原審は、プロパー債権2本の弁済金の原資が保証付貸付金であることは明らかであって、これによりa39社は事業資金の調達を果たすことができなかったのであるから、旧債振替に該当し、また、a39社が保証付貸付金について他行口座を経由させてプロパー債権の弁済を行ったについては、1審原告担当者の指示があったことが推認されるとし、1審原告には故意が認められるとした。
しかしながら、プロパー債権の弁済は保証付貸付の後にされているが、これはa39社から返済の強い希望があったためである。1審原告は、a39社に対し、旧債振替に当たるようなことはしてはならない旨説明し、a39社からは、原資は自己資金であるとの説明を受けていた。また、a39社は1900万円もの新たな資金を現実に受領し、事業資金として利用している。実際、a39社が期限の利益を喪失するに至ったのは平成21年7月のことであり、1審被告の保証付貸付の後3年4か月以上経営を継続できたのであるから、保証付貸付の全額(1900万円)が保証業務の目的に沿って事業資金として利用されたことは明らかである。したがって、a39社によるプロパー債権の繰上弁済が1号免責事由に該当することはない。
6 当審における1審被告の主張(総論について)
(1) 資金使途制限違反について
ア 原審は、1審原告は、運転資金の融資実行後において資金トレース表を用いるなどして、主債務者の口座から資金が払い戻される都度、その支払先や資金使途を確認する義務を負っているものとはいえないとしたが、金融実務に著しく反するものである。
昭和40年7月21日に金融制度調査会から答申された「銀行融資に関する共同準則」(以下「共同準則」という。)3項は、「銀行は貸出に当たっては、資金の使途を充分に把握するとともに、資金の性質に応じて、長期資金、短期資金あるいは設備資金、運転資金に区分し、それぞれに応じ適正な条件を附するものとする。このため、たとえば貸出の返済約定期間等については、当該企業の収益力、償還能力等を慎重に審査の上、決定するものとし、また、設備運転資金相互の流用については、厳にこれを禁止する。」としている(乙A336の13頁)。この共同準則は、金融機関にとっての憲法といってもよいほど基本的な事柄を定めたものであって、この準則は現在でも金融機関において遵守されるべきものである。現に、金融機関担当者向けの実務書(乙A337の5頁)においても、「貸出債権の事後管理は資金使途の確認から始まるといえるが、これと並行して、貸出代り金を徹底的にトレースし、資金が自行内に還流するよう努めなくてはならない。資金使途追求の結果、万一、取引先が約定と異なり資金の流用を冒していた場合には、状況によっては、期限の利益の喪失請求(銀行取引約定書5条2項3号)または担保・保証の追加請求(同約定書4条1項)等の措置により債権の保全回収を図らねばならない。」とし、複数の実務書において同趣旨の記載が繰り返し説かれている。
イ 事後的に資金使途の確認を行う義務を提携金融機関に課すことは、実際上は過大な負担をかけるものでもない。
上記アのとおり、金融実務においては、事後的な資金使途の確認(資金トレース)を行うことが行われており、もし資金トレースの結果、資金使途違反の事実が判明したならば、「貸出先の状況によっては、期限の利益の喪失請求、担保・保証の追徴などの保全策を講じ」ている(乙A12の11頁、乙A337の5頁)。金融機関の融資担当者の業務の内容は、融資を実行する前に稟議書を作成して融資を実行するだけでなく、融資実行金が融資を申し込む際に債務者が当該金融機関に伝えていた使途に使われているか否かを確認することまでが含まれる。融資担当者だけでなく、その上席である融資課長、更には副支店長や支店長も、同様の確認をすることが例外なく行われている。このような資金トレースを行う業務を提携金融機関に課すことは、金融機関の担当者が通常のプロパー融資で行っているのと同じ業務を行うことを求めるにすぎず、決して「極めて重大な負担を強いる」ことにはならず、過大な負担を課するものではない。
ウ 資金使途を確認することは、1審被告との関係で、1審原告に課された法的義務である。
資金使途の確認は、共同準則にあるとおり貸出における基本原則であり、金融機関であれば当然に遵守しなければならない事柄であって、本件約定書もそのような前提で作成されている。それが故に、1審原告が1審被告に交付する「信用保証書兼保証料通知書」中に資金使途欄が設けられ、保証契約の条件として、1審原告が遵守すべき事柄として記載してあるものである。また、保証契約違反の中には、信用保証書記載の条件に違反する場合が含まれていることは明らかで、まさに資金使途を確認することが提携金融機関の法的義務とされているものである。現在の金融実務においては、コンプライアンスの観点からも資金使途を確認することが要求されている(乙A332)。加えて、本件約定書14条2項に基づき、本件手引きの記載内容は1審原告と1審被告間の契約内容を構成しているところ、本件手引き(20頁)の「Ⅲ資金使途」の項目で資金使途を確認することが必要である旨規定されているから、資金使途を確認することは、1審被告との関係において、1審原告に課された法的義務というべきである。
(2) 同等管理義務違反について
原審は、相殺する場合にプロパー債権への優先弁済が認められていることを理由に、払戻充当をする場合であっても保証付債権とプロパー債権との按分充当が必要となるような同等管理義務を1審原告が負うとは認められないとするが、原則と例外を取り違えた判断をするものである。
本件約定書10条3項は、「乙(1審原告)は、債務者が被保証債権の履行期限に弁済しない場合には、甲(1審被告)の保証していない債権の取立てと同じ方法をもって、被保証債権の取立てをなすものとします。」と定め、提携金融機関に対し、被保証債権とプロパー債権との同等管理義務を課している。この同等管理義務は、本件約定書10条1項の定めと相まって、事故報告書提出事由(ただし、延滞については1回目から)が生じた後、保証債務の履行を受けるまでの期間に発生する義務であり、取立ての具体的措置としては弁済受領や相殺が含まれ、回収金の充当方法についても、プロパー債権と被保証債権とを公平に取り扱わなくてはならないと解釈される(信用保証協会信用保証「約定書例の解説と解釈指針」(以下「解釈指針」という。9条~11条)乙A14の4~5頁)。信用保証協会の約定書(乙A15の403~405頁)は、弁済受領も相殺も、債務者の信用状態に問題が生じた後は、原則として被保証債権とプロパー債権を按分に扱わなければならない、という原則を定めたものであり、相殺については別の運用基準を設定していることになる。この点、1審被告の本件約定書も同様の解釈が成り立つ。本件手引き(58頁)は、相殺の場合の例外的な扱いを定めているのである。この原則と例外という本件約定書の位置付けを考えれば、払戻充当をするに当たっては按分充当をすべきとする1審被告の主張は約定書解釈の原則に基づくものとして認容されてしかるべきものである。
1審原告が各債務者に関して定期預金等を解約してプロパー債権に充当するために行ったのは「相殺」ではなく、全て「払戻充当」である。適用されるのは相殺に関する民法505条以下ではなく、弁済に関する474条以下である。本件手引きには原判決が指摘した相殺に関する規定がある(58頁)が、これとは別に、本件手引きには「(1) 保証条件になっていない人的保証および物的担保の管理」(56頁)及び「(2) 預金の解約、払戻し」の規定があり、これが適用されるべきものであって、これらの規定並びに本件約定書10条3項が定める同等管理義務に基づき、事故事由が発生した後に、1審原告が定期預金等の解約返戻金について払戻充当を行う場合には、プロパー債権と本件保証付貸付の債権額に応じて按分充当すべきである。それにも関わらず、1審原告がプロパー債権への優先充当を行った場合、1審原告は本件約定書10条3項違反として本件約定書12条3号に該当する。
(3) 事故報告書の大幅遅延について
ア 原審は、1審被告は、事故報告書の大幅遅延の場合、通知義務違反(約定書10条1項違反)として約定書12条3号に該当すると主張し、その場合には、1審原告が保証付債権の全部又は一部につき履行を受けられなかったことが免責の要件となるが、1審被告がこの要件を具体的に主張立証しないから免責は認められないとした。
1審原告が1審被告に無断で各債務者に対して期限の利益喪失通知を発送した場合には、期限の利益喪失手続の事前協議義務違反(約定書10条2項違反)として約定書12条2号に該当するというべきところ、事故報告書の大幅遅延の場合も、重大な手続違反という点で、期限の利益喪失手続の事前協議義務違反(約定書10条2項違反)の場合と共通するものである。したがって、事故報告書の大幅遅延の場合の適用条項につき、1審被告は、その主張を、通知義務違反(約定書10条1項違反)として本件約定書12条2号に該当するものと変更する。
イ この場合の免責の範囲は、事故報告書の提出が大幅に遅延した場合、長い時間が経過することにより主債務者の状況が大幅に変化すると、1審被告が保証契約時に把握した主債務者の信用リスクに変更が生じ、1審被告の地位に重要な影響を及ぼし得るものであるから、1審被告の保証債務は全部免責されるものと解すべきである。
(4) 無断での利息収受について
ア 原判決は、無断での利息収受が本件約定書違反となるのは少なくとも3か月分以上につき利息のみを徴収した場合に限られるとするが、たとえ1回でも利息のみを徴求した場合には本件約定書違反となり免責事由に該当するものと解すべきである。
イ 1審原告は、無断での利息徴求に係る争点を、元本弁済の猶予の有無であるとし、重要なのは「利息分の支払を受領したこと」ではなく、元本返済の猶予がされたか否かであるとするが、誤りである。本件の争点は、毎月の約定返済金は元利金の支払であるのに、1審被告に無断で、1審原告が債務者との間で、利息のみを徴求して元本の返済は据え置く(元本の返済は行わないでおく)ことに合意したことが、実質的には1審原告が債務者との間で利息のみの弁済を行う内容の変更契約を締結したものとして、保証契約違反を構成するか否かである。
ウ 1審原告は、利息分の一部弁済が行われていた時期があるのは、単に主債務者が約定どおりの弁済ができず、利息分のみの一部弁済をしただけであると主張するが、債務者が利息しか支払えないとして実際に利息だけしか払わなかった場合でも、事前に1審原告と債務者が協議し、その月は利息の支払だけを行うことに合意し、1審原告の支店に開設された債務者名義の口座から1審原告が利息相当額の金員を引き落とすという弁済受領行為を行うことによって利息の支払がされる。さらに、債務者名義の口座の残高が不足していて元利金の弁済には足りないが利息の弁済はできるだけの口座残高がある場合にも、債務者との協議なしに1審原告が一方的に利息相当額の金員を引き落とすことは考えられない。
1審原告は、利息のみの支払はされたが約定の弁済がされなかった債務者について、1審被告に対して貸付金延滞報告書などで延滞債権として報告していた旨主張するが、1審原告が利息のみ徴求を行った場合、利息のみの支払をした当該債務者からすれば、1審原告との当面の間は利息のみを支払えばよいという合意が成立したが故に利息を支払ったものであって、このような合意に基づいて利息の支払をしたにもかかわらず原本の延滞を理由に自らが延滞債権扱いになっているとは夢にも思わないはずである。債務者から利息のみの徴求を行っていた当時、1審原告が延滞債権にしないで正常債権として扱うことを企図していたことは、1審原告の業務管理室長のHの発言からも明らかである。1審原告は、問題とされている債務者は履行遅滞に陥って以降は自己査定の時には全て「要注意先」に区分されていたとするが、1審被告は知らない。
エ 1審原告以外の1審被告の提携金融機関において、利息分だけの一部弁済が行われた例はない。通常の金融機関の行動としては、保証会社を含めて条件変更することを検討し、そして、実際に条件変更を行って今後の弁済額を従前のものよりも低額な金額に変更する方法を選択するものである。
オ 1審原告が各債務者との間で締結した金銭消費貸借契約書の「6 返済方法・利息支払い方法」欄には、約定弁済額である元金の金利と利息の金額が記載されている。したがって、各債務者が1審原告に対して毎月返済する約定弁済額は、金銭消費貸借契約書に記載された元金の金額と利息の金額を合計した金額となる。このように、返済方法つまり返済条件とは、元本と利息の弁済額を示すものだから、このうち元本の返済を据え置いて(元本の返済をしないで)利息のみ徴求する旨を1審原告が債務者と合意するのであれば、返済条件の変更手続が必要となるのは当然のことである。
カ 1審原告のような処理には、①債務者は、財務状態が改善するまでの間は、約定弁済期に約定弁済額を支払う約定をしているにもかかわらず、利息のみを支払っていれば、債権者の権利行使はされないという、約定と反する契約内容を履行していてもペナルティを回避し得る契約関係の醸成、②元本部分の支払猶予により、その部分の弁済期の先送りをしたのかしないのか、先送りをしたとなると、その弁済期はどうなるのかという意味で当該部分の弁済期の不明確性、③延滞ならば3回の延滞が事故報告事由に該当するところ(本件手引き(34頁下から5行目))、1審原告は延滞報告をするだけで事故報告書を提出していないことから判るように保証契約の不履行の蔓延、という不合理性がある。提携金融機関が債務者から約定どおりの弁済を受けない場合には、保証金融機関である1審被告の承諾を得て返済条件の変更手続をすることにより、債務者の信用状況と保証付貸付金についての法律関係を明確にすべきであり、変更契約を締結しないのであれば、延滞として事故報告書を提出すべきものである。
キ 1審原告は、利息分の一部弁済は、信用リスクを変動させるものではなく、信用リスクが顕在化した結果であるとか、1審原告が利息のみの支払を受けたことが、信用リスクを変動させる1審原告の行為であると認めることは不可能であるなどと主張する。しかし、1審原告が、1審被告に無断で、元本の弁済を据え置いて利息のみ徴求を行った場合には、その利息のみ徴求を行った月数分だけ債務者からの元本の弁済がされず、そのような時間の経過により、1審被告が保証契約当時に把握した債務者の信用リスクに重要な変更が生じるのであるから、利息のみ徴求により債務者の信用リスクに重要な変更が生じたとみるべきは当然である。このようなリスクの変動は、利息のみの支払により当該利息相当額分の金員が代位弁済金額から減少したとしても変わりがないから、全体として1審被告の利益に資するものということはできない。
(5) 旧債振替制限違反について
ア 1審原告は、1審被告による保証は信用保証協会のする保証と異なり融資額の8割相当部分のみを保証するものであるため、2割相当部分については1審原告自らの判断で信用を供与することになり、したがって、既存の債権について主債務者の自己資金等で弁済した後に1審被告の保証付融資が実行され、当該弁済に供された自己資金等が当該保証付貸付によって補填されたとしても、当該保証付貸付金の2割相当額については、形を変えて1審原告が独自の貸付をしているのと同じであり、実質的に保証付貸付で既存の債権が回収されたといった関係に立つものではなく、中小企業者等の信用力を補完して事業資金の調達を図るという信用保証制度の趣旨に反することはないと主張する。
しかし、保証付貸付は、融資金の全額が債務者によって事業目的として使用される必要があるのであって、形態のいかんを問わず提携金融機関の有するプロパー債権の回収のために保証付貸付金が使用されてはならないし、また、保証付貸付は一本の貸付であって、1審被告の保証のある貸付と保証のない貸付の二つに分かれているのではないから、プロパー貸付を1審被告の非保証部分の貸付に切り替えること自体あり得ず、あえてこれをすればまさに旧債振替そのものに当たり、1審被告の事前の承諾を要するもの(本件約定書4条ただし書)である。しかし、1審原告は1審被告の事前の承諾を得ておらず、保証免責の対象となる。
イ また、免責の範囲について、1審原告は、「金融機関が貸付金の一部について合意条項に違反して旧債振替をした場合には、残額部分の貸付金では中小企業者等が融資を受けた目的を達成することができないなど、信用保証制度の趣旨・目的に照らして保証債務の全部について免責を認めるのを相当とする特段の事情がある場合を除き、当該違反部分について保証債務消滅の効果が生ずる」旨の平成9年最高裁判決に従うべきところ、前記特段の事情は認められない旨主張する。
しかし、1審原告が、前記特段の事情を否定する事情として主張する、「1審被告の信用保証に特有の事情」などは存在せず、その事情は、むしろ、1審原告が、既存のプロパー債権につき繰上弁済がされなければ、1審原告が設定した融資枠の関係で保証付貸付を行えないというもので、1審原告が設定した融資枠による1審原告側の事情にすぎない。
最高裁平成9年判決は、信用保証協会の保証に関するものであるのに対し、本件は株式会社の銀行である1審被告が保証機関となっており、保証機関の存立基盤ないし性質が異なるものであるから、同判決を完全になぞる必要はないものである。また、同判決は、全部免責が認められる場合について「残額部分の貸付金では中小企業者等が融資を受けた目的を達することができない」場合に限ったわけでもない。また、保証付融資の2割の金額分については1審原告が引き続き債権を有していることから1審原告の主債務者に対する与信額がなくなることはないとしても、1審被告の承諾のない旧債振替に当たることは否定できない。さらに、本件に関し、旧債振替がされていたのは10件あるところ、これらは約1年半の間に1審原告の本店を含む7店舗においてされていたものであり、このように継続的、反復的にされたことからすれば、1審原告の本部からの指示により組織的にされていたものと推認され、また、当初から自行の債権を回収する意図で計画的に1審被告の保証付貸付の制度を利用したものといえる。
(6) 無断での期限の利益喪失通知について
無断で期限の利益喪失通知を発する行為は、本件約定書10条2項に明記された期限の利益喪失手続の事前協議義務に違反するものであり、その場合には、保証付債権の全部又は一部の履行を受けられなくなったなど他の要件を要することなく1審被告は免責を受けるものと解すべきである。本件手引きの「保証債務の免責を受ける」との記載からすれば、保証債務の全部の免責を受けると読みとるのが自然である。期限の利益喪失通知が免責事由とされる根拠は、債権回収の局面において期限の利益喪失通知を債務者に発することの重大性にあり、本件手引き(56頁)に記載のとおり、無断での期限の利益喪失通知が免責事由として明記されている以上、その手続違背は重大な保証契約違反を構成するところ(本件約定書12条2項)にある。
(7) 錯誤無効について
1審原告は、原審の判断は、資金使途違反や保証条件違反が事後的に判明した場合に、1審原告にいわば結果責任ないし無過失責任を負わせるものであるとして非難する。しかし、契約締結時点において、当該主債務者が保証委託契約申込書記載の資金使途に反する使途に保証付貸付金を使う意図があった場合には、1審被告の保証契約締結時点においては、資金使途違反行為が既定のものとして実行に移されているのであるから、事後的に無過失責任を負わせるものではない。
また、1審原告は、原審の指摘する事由は、保証契約の当事者間において、主債務者の資金使途意図や保証条件の充足が客観的真実に合致していることまでも合意の内容となっていたことを示すものではなく、1審原告に一定の手続的負担を求めるものにすぎない旨主張する。しかし、1審原告の主張は、本件手引きの記載内容、特に「提携金融機関において借入れおよび保証委託の申込を受け付ける際に、提携金融機関側で確認を行っていただく項目を記載したものです」と記載されている趣旨をことさらに低く評価するものであり、首肯できない。
(8) 本件約定書12条2号の免責が認められる範囲について
ア 本件約定書12条2号の保証契約違反に関し、求償権侵害を要件とすべきでないことは、原審の説示するとおりである。
イ 1審原告は、信用保証協会の信用保証では求償権侵害が要件とされているので、1審被告の信用保証においても同様に求償権侵害を要件とすべきであるとする。
しかし、1審原告がその解釈の論拠として指摘する文献(①「信用保証協会保証 約定書例の解説と解釈指針(第9条~第11条)」(甲A~F共通5、乙A14)、②「金融法務事情1818号の「特集 保証免責条項の新たな解釈指針」掲載の論文)のうち、①は、平成19年8月に制定されたもので、本件約定書が締結された平成17年4月1日から2年以上も経過した後に制定されたものであるし、②は、①の解釈指針を受けてこれを解説する論考として掲載されたものであって、本件約定書が締結された平成17年4月1日の時点では信用保証協会の保証における免責事由の解釈について画一的な基準は存在しなかった。このような状況であったから、1審原告と1審被告の保証契約の運用基準としては、上記解釈指針や「信用保証協会の保証(第4版)」(乙A15)に依拠するのではなく、本件約定書、保証事務取扱手続要領(甲A2)及び本件手引きを原則的な指針として論ずべきであって、保証契約違反により免責される場合に「求償権侵害」は必ずしも要しないと解すべきである。なお、1審被告担当者が、1審原告に対し、1審被告の保証の提供が信用保証協会のものと基本的に同じだとの説明をした事実はない。
ウ 本件約定書14条1項は、この約定による保証契約上の手続及び詳細は、1審被告が別に定める保証事務取扱手続要領及び本件手引きによるものとするものと定め、同条2項は、1審原告は、この契約書、1審被告が別に定める保証事務取扱手続要領及び本件手引きに従って、保証契約上の手続きを行うものとすると定めている以上、本件手引きの記載内容が本件約定書と一体となって1審被告と1審原告との間の保証契約の内容を構成しているとみるべきは当然のことである。本件約定書の条数は全部で16条と少なく、これだけで1審被告と1審原告との間の保証契約の全ての内容を構成するとみるには無理がある。さらに、本件手引きには、本件約定書が全く触れていない重要な事項、例えば事故報告書の提出(55~56頁)や事故発生後の管理(56~59頁)に関する記載があるから、本件手引きに対して、上記「手続上の取扱いは本件手引きの記載に従うという限度で当事者間で合意されたものにすぎない」などと歪曲した過小評価を与えるのは不合理である。
7 当審における1審被告の主張(各論について)
(1) a40社(主債務者1-1)について【資金使途制限違反、業歴要件違反、債権保全義務違反、錯誤無効】
資金使途制限違反について、1審原告には融資実行後に融資金の資金使途を確認する法的義務があり、資金使途制限違反により本件約定書12条2号に該当することは前記6(1)のとおりである。
業歴要件違反について、原審は、a40社という法人を単位として考えているものと思われるが、業歴要件違反を検討するに当たっては、法人を一つの単位として考えるのではなく、a40社の行っている事業を単位として考えるのが合理的であり、岩盤浴事業に融資金を使うのは業歴要件違反に該当する。
債権保全義務違反について、原審は、1審原告に資金使途を逐一確認する義務はないとし、a40社が保証付貸付金のうち300万円を岩盤浴事業に使うことを阻止することができたと認めるのは困難としたが、前記のとおり、1審原告は融資実行後に融資金の資金使途を確認する義務を負うと解すべきであるから、原判決は誤った前提に立つものである。
錯誤無効について、原審は、保証付貸付がされたのが平成18年6月13日であるのに対し、保証付貸付の一部が岩盤浴事業に使用するために口座に振替入金されたのが同年7月25日であることから要素の錯誤を否定したが、本件保証付貸付の融資実行と資金使途違反の結果発生との時間的近接性からすれば、錯誤無効が認められるべきである。
(2) a41社(主債務者1-3)について【債務者区分の虚偽申請、錯誤無効】
原審は、金融検査マニュアルにおいても半期に1回の見直しが望ましいとされているにすぎず、正常先と区分していた場合にどのような調査をすべきかについての記載はないことなどから、1審原告がa41社を本来は「破綻懸念先」と区分すべきであったと認識していたとは認められないし、それを知らなかったことにつき過失も認められないとして債務者区分の虚偽申請による免責を否定し、また、錯誤無効も否定したが、原審の論理によれば、本来ならば「破綻懸念先」と区分すべき主債務者を「正常先」と誤って区分していた1審原告が何らのペナルティを受けずに救済されることになり、不当である。
(3) a42社(主債務者1-5)、a4社①(主債務者1-6)、a43社(主債務者1-11)、a44社(主債務者1-17)、a45社(主債務者6-1)及びa46社(主債務者6-2)について【同等管理義務違反】
原審は、同等管理義務違反による免責を否定するが、事故事由が発生した後に1審原告が定期預金等の解約払戻金について払戻充当を行う場合には、プロパー債権と保証付貸付の債権額に応じて按分充当すべきであることは前記6(2)のとおりである。
(4) a4社②(主債務者1-7)について【債権保全義務違反】
原審は、債権保全義務違反について、1審原告に資金使途を逐一確認する義務はないとし、a4社が保証付貸付金のうち1374万0534円を社会保険料の支払に充てることを阻止できたと認めるに足りる証拠はないとしたが、前記6(1)のとおり、1審原告は融資実行後に融資金の資金使途を確認する義務を負うと解すべきであるから、原審は誤った前提に立つものである。
(5) a47社(主債務者1-9)について【資金使途違反、債権保全義務違反、錯誤無効】
資金使途制限違反について、1審原告には融資実行後に融資金の資金使途を確認する法的義務があり、資金使途制限違反により本件約定書12条2号に該当することは前記6(1)のとおりである。
債権保全義務違反について、原審は、1審原告に資金使途を逐一確認する義務はないとし、a47社が保証付貸付金を保証金や株式購入資金に使うことを阻止できたと認めるのは困難であるとしたが、前記6(1)のとおり、1審原告は融資実行後に融資金の資金使途を確認する義務を負うと解すべきであるから、原判決は誤った前提に立つものである。
錯誤無効について、原審は、保証付貸付金が入金されたのが平成18年5月18日であるのに対し、上記保証金の支払がされたのが1か月半以上が経過した同年7月5日であり、株式購入代金の支払はさらに2か月が経過した同年9月14日であることから要素の錯誤を否定したが、本件保証付貸付の融資実行と資金使途違反の結果発生との時間的近接性からすれば、錯誤無効が認められるべきである。
(6) a48社(主債務者1-10)、a49社(主債務者1-12)及びa44社(主債務者1-17)について【事故報告書の大幅遅延】
1審被告は、当審において、その適用条項を本件約定書12条3号から同条2号に変更した。その場合には全部免責されるべきであることは前記6(3)のとおりである。
(7) a50社(主債務者2-12)、a19社②(主債務者2-15)、a51社(主債務者2-20)、a52社(主債務者2-21)、a53社①②(主債務者2-23、2-24)及びa2社②(主債務者2-26)について【無断での利息徴収】
原審は、1か月や2か月分の利息のみの徴収をした程度では免責は認められないとするが、たとえ1回であっても本件約定書違反となり、免責事由に該当することは前記6(4)のとおりである。
(8) a24社①(主債務者2-27)について【無断での利息徴収、業歴要件違反】
無断での利息徴収について、たとえ1回であっても本件約定書違反となり、免責事由に該当することは前記6(4)のとおりである。業歴要件違反(公序良俗違反)について、原審は、a24社に対する保証付貸付がされた当時、同社の売上のほぼ100%が成人向けゲームソフトの販売によるものであったとは認められず、同社が公序良俗に反する法人とまでは認められないとしたが、同社が開発するゲームソフトは例外なく露骨な性的描写があるものばかりであり、同社は公序良俗に反する法人に該当する。
(9) a54社(主債務者2-29)について【延滞中の債務者に対する貸付け】
原審は、弁済期が7月31日という場合、同日中に弁済を行えば延滞と評価されないことは明らかであるとするが、一般的には弁済期日の前日の営業時間終了までに弁済するために必要となる資金を口座に入金する必要があると解されるから、原審の判断は誤りであり、a54社は、平成18年7月31日に延滞を発生させているというべきである。
(10) a55社(主債務者5-1)について【同等管理義務違反、代位弁済請求手続違反】
同等管理義務違反について、原審は、「1審被告が1審原告から3度にわたり1年間は利払いのみとする条件変更をしたいと求められていたにもかかわらず、a55社の債務残高に占める1審被告の保証付貸付の割合に低いことなどを理由に条件変更に応じることはできないとして1審原告の要求を断っていた」旨認定し、「1審原告が、プロパー債権や東京(信用)保証協会の保証付きの貸付けについてのみ条件変更手続を経て利息を徴収していたとしても、1審原告に同等管理義務違反と評価されるような不履行はない」とした。しかしながら、たとえ原審認定のような事実が存在するとしても、本件約定書10条3項が定める同等管理義務からすれば、1審原告は保証付貸付とプロパー貸付を同等に扱って条件変更手続を行い、保証付貸付とプロパー貸付について債務者から同等の弁済を受けるようにする義務があるというべきであり、1審原告には同等管理義務違反と評価すべき債務不履行があったというべきである。
代位弁済請求手続違反について、原審は、本件手引きが「代位弁済請求時提出書類一覧表」に代位弁済請求書の「原本」などが挙げられている(68頁)ことについて、代位弁済請求時に、1審被告から交付された代位弁済書類一式を用いなければならない旨を定めた規定と解することはできないとしたが、上記の記載は代位弁済請求書の「原本」を提出する必要があると定めるものであるから、1審原告が代位弁済請求をするに当たっては、1審被告から交付された代位弁済書類一式の原本を用いる必要があるというべきである。
第3 総論についての当裁判所の判断
1 資金使途制限違反、旧債振替、同等管理義務違反、事故報告書の大幅遅延、無断での期限の利益喪失通知について
(1) これらについての判断は、原判決を以下のとおり改め、(2)に当審における1審原告の主張に鑑み、(3)に当審における1審被告の主張に鑑み付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 総論に関する当裁判所の判断」の2から5まで及び7に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決11頁21行目の「ので、」から24行目の「こととなる」までを削る。
イ 原判決18頁23行目から24行目にかけての「被告は、事故報告書の大幅遅延については本件約定書12条3号の適用を主張するところ」を「事故報告書の大幅遅延については本件約定書12条3号の適用が問題となるところ」と改める。
ウ 原判決23頁20行目を「場合には、1審被告は本件約定書12条2号により免責されるものと認められる。」と、同21行目から24頁26行目までを次のとおりそれぞれ改める。
「(2) 免責の範囲等について
本件約定書12条2号の解釈、上記(1)の本件手引きの文言、期限の利益を喪失させることが保証付貸付について1審被告の保証債務の発生を現実化させて1審被告が把握した信用リスクに重大な変更を生じさせ、1審被告の地位に重要な影響を及ぼすことになるものであることからすれば、債務の期限の利益を喪失させる行為は、信用保証の根幹に係わるものとして、1審原告が1審被告に無断で期限の利益を喪失させることにつき1審原告に故意又は重大な過失があるときは、1審被告の求償権侵害を要件とせず、保証債務全部が免責されるが、過失があるにすぎないときは、1審被告の求償権が侵害された場合につき、2号免責事由に該当するものと解するのが相当である。
そして、1審原告が金融機関であることや、期限の利益を喪失させることについての1審原告と1審被告との協議が容易であることなどの事情に照らして考えれば、無断での期限の利益喪失行為については、特段の事情のない限り、故意又は少なくとも1審原告の重過失が推認されるというべきである。」
(2) 1審原告の当審における主張について
ア 旧債振替について
1審原告は、本件において問題とされている各主債務者に対し指摘されているような融資の条件付けがされたことはなく、また、これがあったとしても、本件約定書4条は文言上保証付貸付金を既存のプロパー債権に充当することを規制しているにすぎないから、先にプロパー債権の弁済がされる場合は明文上は旧債振替には該当しないところ、本件約定書は、全ての金融機関・取引に画一的に適用される約款であり、客観的解釈が通常の契約以上に求められ、類推解釈は制限的でなければならない旨主張する。
しかしながら、保証付貸付金をもってプロパー債権を弁済することを禁止する旧債振替の信用保証制度上の趣旨、1審原告がプロパー債権の繰上弁済を条件として保証付貸付を実行し、主債務者がそのとおりに繰上弁済を行った場合には、上記信用保証制度上の趣旨に反することとなることは、引用にかかる原判決説示(14頁22行目から16頁11行目まで)のとおりであり、旧債振替禁止が他の保証契約要件と独立して本件約定書4条において明記され、しかもその違反については、本件約定書12条1号で1審被告の免責事由として別個独立に規定されていることからすれば、その違反行為は重大であり、これを潜脱する結果となる行為も本件約定書4条により禁止されていると解釈運用することは、制度の目的趣旨に照らして肯認され、何ら法的安定性を害するものではないというべきであるから、1審原告の上記主張は採用できない。
イ 無断での期限の利益喪失通知について
1審原告は、無断での期限利益喪失通知は、免責事由には該当しないし、免責事由に該当するとしても、免責事由の該当条項のいかんにかかわらず1審被告に生じた損害の程度に応じて免責されるべきであると主張するところ、無断での期限利益喪失通知は2号免責事由に該当し、1審原告に過失があるときは、求償権が侵害されるなど1審被告に発生した損害の限度で免責が認められるものの、1審原告に故意又は重大な過失があるときは、求償権侵害の有無にかかわらず、保証契約全部について免責されると解すべきことは、上記で訂正して引用した原判決説示のとおりである。
1審原告は、本件約定書10条2項において要求される期限の利益喪失通知についての事前の協議に関しては、本件約定書10条2項及び本件手引きの失期通知説明部分においては「協議」としか記載されていないから、「承諾」を要するとする原審の説示は理由がなく、無断での期限の利益喪失通知を理由として1審被告から免責の主張がされている各保証債務に係る主債務者に関しては、いずれも期限の利益喪失通知までの間に、1審原告と1審被告との間でその対応につき必要な協議がされているから、そもそも本件では、1審被告が免責を主張するいずれの債務者についても無断で期限の利益喪失通知がされたものとはいえない旨主張する。
しかしながら、期限の利益を喪失させる行為の重要性に加え、本件手引きにおいては、協議後の対策は、「A.提携金融機関において引き続き管理回収に努める。B.代位弁済に移行する。」に大別されるとした上、ABそれぞれの場合の提携金融機関の手続きを定め、「なお、この際、請求により期限の利益を喪失させることがありますが、この場合には必ず事故報告書に基づいて当社と協議のうえで、期限の利益喪失手続を行うこととさせていただきます」と記載されているのであり、他方、協議が整わない場合の記載はないから、失期通知を行うには1審原告と1審被告との合意、すなわち1審被告の承諾を要するものと解するのが相当である。
したがって、1審原告の上記主張は、いずれも採用できない。
(3) 1審被告の当審における主張について
ア 資金使途の制限違反について
1審被告は、1審原告が保証付貸付を実行するに当たり、主債務者の資金使途を確認すべきことは、共同準則にあるとおり貸出における基本原則であり、金融機関であれば当然に遵守しなければならない事柄であって、本件約定書もそのような前提で作成されており、それ故、1審原告が1審被告に交付する「信用保証書兼保証料通知書」中に資金使途欄が設けられ、保証契約の条件として、1審原告が遵守すべき事柄として記載して、また、保証契約違反の中には、信用保証書記載の条件に違反する場合が含まれていることは明らかであるから、資金使途を確認することは、1審被告との関係において、1審原告に課された法的義務というべきである旨主張する。
たしかに、本件手引き(20頁)の「Ⅲ資金使途」の項目では資金使途を確認することが必要である旨規定され、保証付貸金の融資申込手続において、1審被告は、1審原告に対し、1審被告が規定する資金使途に該当するかの確認を求めていることが認められ、原審も、貸付けの実行に当たり1審原告にそのような資金使途の確認義務があることは認めているものであり、原審が義務として否定しているのは、融資後においても申込時の資金使途どおりに保証付貸付金が使われていることをフォローして確認するまでの法的義務はないというにすぎない。そして、資金管理について詳細に記載した本件手引きにもそのような融資後における使途目的のとおりの使用を確認すべき義務についての記載はないのであり、資金使途違反が本件約定書12条2号に違反するものの、1審原告にはその追跡・確認までは求められておらず、明確な合意なく法的義務ということはできないことは原判決説示のとおりである。
したがって、1審被告の上記主張は採用できない。
イ 同等管理義務違反について
1審被告は、原審は、相殺する場合にプロパー債権への優先弁済が認められていることを理由に、払戻充当をする場合であっても保証付債権とプロパー債権との按分充当が必要となるような同等管理義務を1審原告が負うとは認められないとするが、本件約定書10条3項は、弁済受領も相殺も、債務者の信用状態に問題が生じた後は、原則として被保証債権とプロパー債権を按分に扱わなければならないという原則を定めたものであり、相殺については別の運用基準を設定していることになるところ、1審原告が行ったのは「相殺」ではなく「払戻充当」であるから、本件手引きの「払戻充当」(払戻し、解約)に関する規定を適用すべきである(適用されるのは相殺に関する民法505条以下ではなく、弁済に関する474条以下である)と主張するが、1審原告が各債務者に関して定期預金等を解約してプロパー債権に充当するために行った払戻充当は、実質相殺と同視できるものであり、1審被告自身、原審において「債務者の預金の解約、払戻により預金相殺を行うこと」と主張しているところであって(原判決91頁)、これを弁済受領として同等管理義務を負う旨の主張は採用できないことは、原判決が説示するとおりである。
ウ 事故報告書の大幅遅延について
1審被告は、当審において、1審原告が1審被告に無断で各債務者に対して期限の利益喪失通知を発送した場合には、期限の利益喪失手続の事前協議義務違反(本件約定書10条2項違反)として本件約定書12条2号に該当するというべきところ、事故報告書の大幅遅延の場合も、重大な手続違反という点で、期限の利益喪失手続の事前協議義務違反(約定書10条2項違反)の場合と共通するものであるから、事故報告書の大幅遅延の場合の適用条項につき、1審被告の主張を、通知義務違反(約定書10条1項違反)として約定書12条2号に該当すると変更した。
しかしながら、事故報告書の提出が大幅に遅延した場合については、10条2項に該当するものでなく、免責については本件約定書12条3号に該当することは1審原告が自ら主張していたものであり、条項上の根拠もなく、重大な手続違反という点で共通するというだけで2号免責事由に該当し、かつ、全面的に免責されるとする1審被告の主張は、根拠がないというべきである。
2 本件約定書12条2号の解釈について
(1) 本件約定書12条2号に基づき1審被告の免責が認められるためには、1審被告の求償権が侵害されたなど一定の損害が発生したことが要件となるかについて、1審被告は、本件約定書12条が、「甲(編注:一審被告)は、次の各号に該当するときは、乙(編注:一審原告)に対し保証債務の履行につき、その全部または一部の責を免れるものとします」とした上で、「(1) 乙が第4条に違反したとき」、「(2) 乙が保証契約(保証書記載の各条件に加えて、本約定書の各条項を含む。)に違反したとき」、「(3) 乙が故意もしくは重大な過失により被保証債権の全部または一部の履行を受けることができなかったとき」に1審被告が一定の免責が受けられる旨を定めており、1審被告が本件約定書12条3号に基づき免責を主張する場合には、1審原告が保証付貸付の全部又は一部の履行を受けられなくなることが要件であることは明らかであるのに対し、同条2号は、単に「乙が保証契約・・・に違反したとき」とのみ規定し、特段1審原告が履行を受けられなかったことに言及していないことからすれば、1審被告が同条2号に基づき免責を主張する場合には、1審被告の求償権が侵害されたことは要件とはならない旨主張する。
しかしながら、証拠(甲23、24、乙A14、15)及び弁論の全趣旨によれば、本件約定書は信用保証協会の保証に係る約定書を参考に作成されたものであり、1審被告の本件約定書による保証と信用保証協会による保証とでは免責事由の定めを含む約定書の文言がほとんど同一であること、信用保証協会の保証に関する一般的な解説書において、本件約定書12条2号に相当する免責事由(信用保証協会の保証に係る約定書11条2号)については、契約違反の内容を信用保証協会制度の目的に照らし、あるいは信用保証協会の経済的損失の程度に照らし、免責の運用とその範囲が決められることになるとして、信用保証協会の求償権が侵害されたなど一定の損害の発生が要件とされる旨解説されていることが認められるところである。そして、1審原告と1審被告のいずれもが金融機関であり、信用保証協会の約定書及びその解釈は認識を共通にするところであり、これと同一の体裁及び文言を使用しながら、異なる解釈をとるならば、むしろ違いが明確になる規定文言にするとか、注意書を入れて違いを明確にすべきところ、本件約定書による保証と信用保証協会約定書による保証とは信用保証制度としての趣旨や約定書の文言はほとんど同一であることは上記のとおりであり、本件約定書について、信用保証協会約定書の免責規定に関する解釈を排斥すべき理由や事情も認められない。
(2) また、本件約定書12条2号は、金融機関において保証契約(約定書や手引きを含む。)に定める義務違反があった場合の債務不履行責任を規定したものであり、特段の事情のない限り、損害の発生を要件とすべきものであるところ、他方、本件約定書12条3号は、債務の履行期限後の一定期間における請求・取立、債権の保全・取立義務の実効性を確保することを趣旨としているから、その目的が異なるのであり、本件約定書12条2号と3号の文言の違いは、2号について1審被告の損害の発生を不要とする理由とはならない。のみならず、本件約定書12条3号で問題としているのは、1審原告の損害の発生及び拡大であるのに対し、本件約定書12条2号で問題となるのは1審被告の求償権侵害であり、関連するとはいえ、厳密に一致するものではない。
(3) この点に関し、1審被告は、本件約定書の作成に当たり、1審被告が信用保証協会の保証の約定書例を参考にしたことは否定するところではないが、1審原告が主張する解釈を定めた解釈指針及び「信用保証協会の保証(第4版)」は、いずれも本件約定書が締結されてから1年以上が経過してから策定ないし出版されたものであり、本件約定書が作成された平成17年4月1日時点では信用保証協会の保証においても画一的な基準はなかった旨主張するが、信用保証協会による保証制度は長い歴史を有し、信用保証協会約定書についても、その解釈について、裁判例・学説の集積があるのであるから、これらの解釈指針を参考にし、信用保証協会約定書をベースとして特に異なる規定を加えない以上、解釈についても同一とみることが当事者の合理的意思であったというべきである。
(4) 1審被告は、本件約定書12条2号は、「乙(1審原告)が保証契約(保証書記載の各条件に加えて、本約定書の各条項を含む。)に違反したとき」と規定している一方、信用保証協会の保証に係る約定書11条2号は、「乙が保証契約に違反したとき」と規定しており、1審被告の保証の方が細かい規定ぶりになっている旨主張する。しかしながら、信用保証協会の保証に係る約定書11条2号の「乙が保証契約に違反したとき」の「保証契約」の範囲については、従前から、その指針において、基本約定である約定書と個々の保証案件ごとに具体的保証内容を特定した保証契約を指すものとされていたものであり、上記本件約定書12条2号の括弧内の注記はこれを明確にしただけと認められるのであって、信用保証協会の保証に係る約定書11条2号に係る解釈との相違を基礎付けるものとはいえない。
また、1審被告は、そもそも1審被告は株式会社の銀行であって信用保証協会ではなく、1審被告の場合、信用保証協会のように代位弁済を行った場合に株式会社日本政策金融公庫からの保険金の支払があるわけではなく、代位弁済は全額1審被告の負担となることなどからすれば、信用保証協会の保証に係る約定書の解釈と本件約定書の解釈とが全くの同一のものとなるはずがない旨主張する。しかしながら、1審被告が銀行法に基づく銀行であるとしても、1審被告設立の趣旨及び保証業務の目的は、信用保証協会による保証の目的と同じく「中小企業金融の円滑化」にあり(甲A3の1頁)、その遂行する保証業務の目的については、「当社の保証業務はこの高い信用力を、中小企業等が提携金融機関から貸付等を受けるについて、その債務の保証という形で利用し、もって中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的としています。」(甲A31の2頁)と説明しているところ、これは信用保証協会法1条と同じ趣旨に立脚するものである。信用保証協会における保証には信用保険制度の適用がある一方、1審被告における保証には同制度の適用がないとしても、保険の有無は1審被告が経営上のリスクをどのようにコントロールするかの問題であり、1審被告による保証が信用保証協会のする保証と異なり、融資額の8割相当部分のみを保証するものであることはそのリスク回避の一例と解することもできる。
(5) なお、本件約定書14条により1審原告と1審被告間の合意内容となっている本件手引きには、「事故報告書を提出する前、または当社との協議を経る前に、請求により期限の利益を喪失させた場合、約定書に違反することになり、当社は保証債務の免責を受けることとなります。」(56頁)とか、「C.保証期間を超過した貸付期間を設定して実行したとき」「保証金額と同様に、保証期間も保証契約の重要な要素であり、保証期間を超過した貸付期間を設定して実行した場合は、前項と同様に代位弁済の請求には応じられません。」(73頁)などと、一定の場合に被告の求償権の侵害等を要件とすることなく1審被告が免責されることが明記されている。これらの記載は、2号免責の場合に全て1審被告の求償権侵害を不要とするものではなく、むしろ、上記の場合は、信用保証制度の趣旨目的に抵触する場合の例示として、故意又は重過失がある場合に、求償権侵害を要件とせず、全部免責が認められることを示したものと解釈するのが相当であり、このことは、解釈指針や「信用保証協会の保証(第4版)」によれば、融資を行った金融機関が保証契約に違反した場合には、①求償権侵害があった範囲で保証免責となるが、②保証契約違反の態様が信用保証制度の趣旨・目的に抵触する場合には、求償権侵害がなくても全部免責になるとしていることにも合致するものである。
3 無断での利息徴収について
(1) 1審被告は、1審原告が各主債務者との間で、各被保証債権の弁済方法につき、1審被告に無断で利息のみの弁済を行う内容へと変更する合意をした場合、1審被告が「保証書兼保証料通知書」を交付することにより保証した被保証債権(主債務)の内容を、1審被告に無断で1審原告が各主債務者との間で変更することに当たり、本件約定書14条2項違反(手続違反)として、本件約定書12条2号に該当するものであり、全額免責すべきである旨主張し、本件においては、1審被告主張の多数の主債務者との間で上記の「各被保証債権の弁済方法につき、1審被告に無断で利息のみの弁済を行う内容へと変更する合意」をした旨主張する。
(2) そこで検討すると、本件手引きは、保証契約変更手続を要する場合につき、「融資実行後、保証契約に影響を及ぼすような事由が発生した場合は、保証契約の変更を行うことが必要となります」とし、「当社(編注:1審被告)の承認を要する主な保証条件の変更例は次のとおりです。代表者変更、法人成り(重畳的債務引受)、債務者(被保証人)の死亡による債務引受、連帯保証人の変動、保証期間の延長・短縮、担保の変更、返済方法の変更、約定返済日の変更です。」(39頁)として、具体的に保証契約変更手続が必要となる場合及びその場合に1審被告の承認を要する旨規定している。本件約定書14条は、本件手引きの内容に従って保証契約上の手続を行うべき旨規定し、免責事由を定める本件約定書12条2号は、1審原告が「保証契約(保証書記載の各条件に加えて、本約定書の各条項を含む。)に違反したとき。」と規定しているから、1審原告が、1審被告の承諾なく保証契約の「返済方法の変更」や「約定返済日の変更」など本件手引きが規定する事項について「保証条件を変更」することが免責事由に該当することは1審被告主張のとおりである。
(3) そして、本件手引きが1審被告の承認を要する場合を「保証条件の変更」とし、具体的には「返済方法の変更」や「約定返済日の変更」などとしていることからすれば、その内容は、単なる事実状態を意味するものではなく、1審被告も主張するとおり、「合意」というべきものであり、しかも、「保証条件の変更」を伴うものとして、本件手引きの規定する「返済方法の変更」や「約定返済日の変更」などの法的効果が生じるものをいうものと解される。
(4) この点、1審被告は、1審原告が、利息のみを収受していた主債務者に関し、利息のみを収受することに合意したものであり、実質的に変更契約を締結したものである旨主張する。
しかし、後記認定のとおり、これらの主債務者は、本来の約定額全額の返済が困難な状態となったなかで、一部のみでも支払ったほうが双方に有益であるなどの判断から利息のみの支払をしたものにすぎず、1審原告がこれを収受したからといって、それのみでは、合意があったとも、また、それが「返済方法の変更」や「約定返済日の変更」など、「保証条件の変更」をもたらす法的意味のあるものと評価することもできない。
(5) 1審被告は、利息のみの収受に係る争点について、1審原告は、無断での利息徴求に係る争点を元本弁済の猶予の有無であるとし、重要なのは「利息分の支払を受領したこと」ではなく、元本返済の猶予がされたか否かであるとするが誤りであり、本件の争点は、1審被告に無断で、1審原告が債務者との間で、利息のみを徴求して元本の返済は据え置く(元本の返済は行わないでおく)ことに合意したことが、実質的には1審原告が債務者との間で利息のみの弁済を行う内容の変更契約を締結したものとして、保証契約違反を構成するか否かである旨主張する。
しかし、利息のみを徴求して元本の返済を据え置くことに合意したことが、実質的には1審原告が債務者との間で利息のみの弁済を行う内容の変更契約を締結したものとして、保証契約違反を構成するか否かが争点であるとしても、「変更契約を締結した」と評価し得るためには、単なる事実状態の容認では足りず、これが黙示にされることがあり得るとしても、期限の猶予など、保証条件の変更と評価し得る法的効果を伴う行為が認められることが必要であることは、1審原告主張のとおりであり、1審原告が利息のみ収受したとか、これが主債務者との協議の結果であるとの事情のみでは、このような法的効果のある合意をしたものと認めるには十分ではなく、特に、遅延損害金を計上してこれを徴収したり、延滞債権として1審被告に報告していたなどの事情の下においては、このような法的効果のある合意がされたものと認めること困難である。
(6) また、1審被告は、債務者が利息しか支払えないとして実際に利息だけしか払わなかった場合でも、事前に1審原告と債務者が協議し、その月は利息の支払だけを行うことに合意し、1審原告の支店に開設された債務者名義の口座から1審原告が利息相当額の金員を引き落とすという弁済受領行為を行うことによって利息の支払がされるのが実務であり、合意がされたものというべきである旨主張する。
しかし、利息のみの支払について1審原告と主債務者が協議することがあったとしても、そのことのみによって、前記のような法的効果の伴う合意をしたものと認めるに足りないことは前記のとおりである。また、事前の協議に基づいて債務者名義の口座から1審原告が利息相当額の金員を引き落とすという弁済受領行為を行うことによって利息の支払がされたとの点も、これは債務者が自己の財産中から利息のみ支払に充てることに同意したことを意味するにすぎず、同意しない債務者の財産から債権者が支払に充てることができないのは当然であって、これができないのは1審原告が合意した結果ではないから、1審原告が利息のみの引き落としをしたとの事実から、不払分について何らかの合意をしたとの事実を認めることもできない。
(7) 1審被告は、1審原告以外の1審被告の提携金融機関において、利息分だけの一部弁済が行われた例はなく、通常の金融機関の行動としては、保証会社を含めて条件変更することを検討し、そして、実際に条件変更を行って今後の弁済額を従前のものよりも低額な金額に変更する方法を選択するものである旨、提携金融機関が債務者から約定どおりの弁済を受けない場合には、保証金融機関である1審被告の承諾を得て返済条件の変更手続をすることにより、債務者の信用状況と保証付貸付金についての法律関係を明確にすべきであり、変更契約を締結しないのであれば、延滞として事故報告書を提出すべきものである主張する。
しかし、条件変更手続をすることが望ましいとしても、一方で、1審被告の承認を得られる条件変更が実現しないような場合であっても、現に、支払困難となった主債務者から利息分の支払しか受けられなかったような場合に、1審原告がこれを受領したことや、その支払について主債務者との間でなんらかの協議をしていたとしても、それのみをもって保証条件を変更する合意があったものとは認められないことは前記のとおりである。
(8) 1審被告は、1審原告が、1審被告に無断で、元本の弁済を据え置いて利息のみ徴求を行った場合には、その利息のみ徴求を行った月数分だけ債務者からの元本の弁済がされず、そのような時間の経過により、1審被告が保証契約当時に把握した債務者の信用リスクに重要な変更が生じるのであるから、利息のみ徴求により債務者の信用リスクに重要な変更が生じたとみるべきは当然である旨主張する。
しかし、未払分が増加する結果、相対的に当初の信用判断の前提が崩れることになるから、信用リスクの変動が生ずることは否定できないとしても、それは、1審原告が利息のみを徴収した結果ではなく、この間に履行の強制等をしない結果であって、そのこと自体を問題とすることは格別、保証条件の変更があったことによるものとみることはできない。また、事実上利息のみの支払がされている状態と、保証条件の変更として、弁済期の変更や支払猶予がされたような場合とでは、遅延損害金の発生や強制履行の可否など、法的効果に差異があり、したがってまた、両者の間のリスクの変動にも質的差異があるものであって、これを同一視することはできない。
4 錯誤無効について
(1) 1審被告は、1審被告が1審原告と保証契約を締結するに当たっては、本件約定書及び本件手引きに記載された事柄を保証契約の重要な内容として表示しているのであり、各主債務者と保証委託契約を締結した時点において、各主債務者が資金使途制限に違反する使途に保証付貸付金を使用する意図であること、業歴要件に違反する債務者であること、旧債振替の存在、債務者区分(適否)の虚偽、延滞中の債務者に対する貸付けであることなどは予期しておらず、これを知っていれば1審原告との間で保証契約を締結することはあり得ないから、これを知らないでした保証契約の締結は要素に錯誤があり、民法95条により無効であると主張する。
上記各事情は、保証契約を締結するに至る動機にすぎないから、本件においてこれらに関する契約当事者の認識の不一致が要素の錯誤に当たるというためには、少なくとも、1審被告が1審原告と保証契約を締結するに当たって当該動機を明示又は黙示に意思表示の内容として表示し、1審原告と1審被告間の合意を構成していることが必要であると解されるところ、資金使途に関しては、旧債振替が本件約定書4条により明示的に禁止されていることに加え、1審原告と1審被告との間の合意内容となっている本件手引きが、1審被告が行う保証の対象とならない借入金の資金使途を具体的に明示し(20頁)、保証依頼手続として、各質問事項を明記して、1審被告と保証契約を締結するに当たって各提携金融機関において保証対象となる要件が充たされているかを確認すべき旨を規定していること(24頁)、主債務者が借入目的や具体的な資金使途を記入して1審被告に保証委託を申し込む旨の保証委託申込書にも、提携金融機関が当該保証委託申込書を審査の上で、主債務者の資金使途等に対する提携金融機関の所見を記載した保証依頼書をもって1審被告に保証契約の締結を申し込むものとされていること(24頁)からすれば、1審原告と1審被告との間の保証契約においては、主債務者が保証の対象となる要件や保証委託申込書記載の資金使途に反しない使途に保証付貸付金を用いる意図であることが表示されて合意の内容となっていたと認めるのが相当である。また、その他業歴要件等についても本件手引きに記載された1審被告の保証の対象となる要件が充たされていることが表示されて1審原告と1審被告との間の合意の内容となる場合があると認められる。
(2) しかしながら、これらの合意内容に関する違反(事実との齟齬)については、旧債振替違反については本件約定書12条1号によって、その他の違反については本件保証契約(本件約定書を含む)及びこれと一体となる本件手引きの要件違反として同条2号によって、1審被告の免責が認められる可能性があるものであるところ、1審被告の主張するように、本件手引きに記載された1審被告の保証の対象となる要件等を充たしていなかった場合、1審被告がこれを知っていれば1審原告と保証契約を締結しなかったことは明らかであるとして、1審被告には要素の錯誤があり、1審原告との保証契約自体が民法95条により無効となると解すると、保証契約の成立を前提とする免責の規定の適用の余地はなくなるはずである(なお、1審被告は、原審において、資金使途制限に違反した部分について錯誤により無効となるとの主張を行っているため、錯誤による保証契約の無効の判断に先立ち、保証契約の成立を前提とする全部免責の主張の判断を行うことを求めることとなっている。この場合、1審被告が錯誤による無効と一部免責を選択的に主張することができると解することは、免責の場合には1審原告の主観を問題にするにもかかわらず、錯誤無効の場合には過失を必要としないなど、金融機関や主債務者の立場を著しく不安定にさせるものである。)。
本件保証契約のように、本件手引きにおいて保証付貸付の融資要件を詳細に定め、かつ、その違反に対し、本件約定書12条2号で広範囲に免責事由を定めている契約にあっては、上記免責事由に該当する行為については、原則として免責事由として取り扱うことを合意したものであり、その認識の齟齬は、錯誤には当たらないと解するのが相当である。
第4 各論についての当裁判所の判断
1 a40社(主債務者1-1)について
1審被告は、a40社に係る保証契約について、錯誤による無効並びに資金使途制限違反、業歴要件違反及び債権保全義務違反による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全て理由があることは、原判決28頁11行目の「別紙4-1-1」から17行目の「認めることはできず、」までを「前記第3の4のとおり、資金使途制限違反については、1審被告の免責の可否の問題というべきであり、」と改めるほかは、原判決27頁7行目から29頁3行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
2 a3社(主債務者1-2)について
(1) 錯誤無効について
a3社に対する貸付の経緯及び資金使途制限違反の有無については、原判決29頁6行目から30頁4行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
1審被告は、a3社が保証付貸付金5000万円のうち2367万2081円をa56社へ既存の借入金の弁済に充てたことが、資金使途制限違反に該当する使途であることを根拠として、a3社に係る1審被告と1審原告との保証契約が民法95条により無効であると主張するが、前記第3の4のとおり、このような資金使途制限違反があったことについては、保証契約における1審被告の免責の可否の問題であり、a3社に係る保証契約につき1審被告に要素の錯誤があったとは認められないというべきであるから、錯誤無効をいう1審被告の主張は理由がない。
(2) 資金使途制限違反について
a3社が既存の借入金の弁済に保証付貸付金の一部を用いたことについて、1審原告に故意若しくは重過失があったことについて、又は1審原告の求償権が侵害されたことについての主張立証はないというべきであるから、資金使途制限違反を理由とする2号免責は認められない。
(3) 債権保全義務違反について
1審被告は、a3社が資金使途制限違反の使途に保証付貸付金を用いたことについて、1審原告に債権保全義務違反が認められると主張するが、上記引用にかかる総論に関する原判決第3の2(1)の判断によれば、1審原告にはa3社の資金使途を逐一確認する義務はないと解すべきところ、1審原告においてa3社が保証付貸付金のうち2367万2081円をa56社への既存の借入金の弁済に充てることを阻止できたと認めるに足りる証拠はないから、1審被告の主張は採用できない。
(4) したがって、a3社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
3 a41社(主債務者1-3)について
1審被告は、a41社に係る保証契約について、錯誤による無効、債務者区分の虚偽申請による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決31頁3行目から32頁24行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
4 a1社(主債務者1-4)について
a1社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決32頁26行目から33頁22行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a1社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
5 a42社(主債務者1-5)について
1審被告は、a42社に係る保証契約について、同等管理義務違反による免責を主張するが、上記主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決33頁24行目から34頁7行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
6 a4社①(主債務者1-6)について
1審被告は、a4社に対する貸付①に係る保証契約について、同等管理義務違反による免責を主張するが、上記主張が採用できず、a4社①に係る1審原告の請求は全部理由があることは、原判決34頁9行目から18行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
7 a4社②(主債務者1-7)について
(1) 錯誤無効について
a4社に対する貸付②の経緯及び資金使途制限違反の有無については、原判決34頁21行目から35頁12行目までのとおりであるから、これを引用する。
1審被告は、a4社が保証付貸付金1800万円のうち1374万0534円を文京社会保険事務所への社会保険料の支払に充てたことが、資金使途制限違反に該当する使途であることを根拠として、a4社②に係る1審被告と1審原告との保証契約が民法95条により無効であると主張するが、前記第3の4のとおり、このような資金使途制限違反があったことについては、保証契約における1審被告の免責の可否の問題であり、a4社②に係る保証契約につき被告に要素の錯誤があったとは認められないというべきであるから、錯誤無効をいう1審被告の主張は理由がない。
(2) 資金使途制限違反について
a4社が社会保険料の支払に保証付貸付金の一部を用いたことについて、1審原告の求償権が侵害されたことについての主張立証はないというべきであるから、資金使途制限違反を理由とする本件約定書12条2号の適用は認められない。
(3) 債権保全義務違反について
1審被告は、a4社が資金使途制限違反の使途に保証付貸付金を用いたことについて、1審原告に債権保全義務違反が認められると主張するが、上記引用にかかる総論に関する原判決第3の2(1)の判断によれば、1審原告にはa4社の資金使途を逐一確認する義務はないと解すべきところ、1審原告においてa4社が保証付貸付金のうち1374万0534円を文京社会保険事務所への社会保険料の支払に充てることを阻止できたと認めるに足りる証拠はないから、1審被告の主張は採用できない。
(4) したがって、a4社②に係る1審原告の請求は全部理由がある。
8 a5社(主債務者1-8)について
(1) 錯誤無効について
a5社に対する貸付の経緯及び資金使途制限違反の有無については、原判決36頁15行目から24行目までのとおりであるから、これを引用する。
1審被告は、a5社が保証付貸付金1000万円のうち700万0840円をa57社への既存の借入金の弁済に充てたことが、資金使途制限違反に該当する使途であることを根拠として、a5社に係る1審被告と1審原告との保証契約が民法95条により無効であると主張するが、前記第3の4のとおり、このような資金使途制限違反があったことについては、保証契約における1審被告の免責の可否の問題であり、a5社に係る保証契約につき被告に要素の錯誤があったとは認められないというべきであるから、錯誤無効をいう1審被告の主張は理由がない。
(2) 資金使途制限違反について
a5社がa57社に対する既存債務の支払に保証付貸付金の一部を用いたことについて、1審原告の求償権が侵害されたことについての主張立証はないというべきであるから、資金使途制限違反を理由とする2号免責は認められない。
(3) 債権保全義務違反について
1審被告は、a5社が資金使途制限違反の使途に保証付貸付金を用いたことにつき1審原告に債権保全義務違反が認められると主張するが、上記引用にかかる総論に関する原判決第3の2(1)の判断によれば、1審原告にはa5社の資金使途を逐一確認する義務はないと解すべきところ、1審原告においてa5社が保証付貸付金のうち700万0840円をa57社への既存の借入金の弁済に充てることを阻止できたと認めるに足りる証拠はないから、1審被告の主張は採用できない。
(4) 事故報告書の大幅遅延について
事故報告書の大幅な遅延については、本件約定書12条2号ではなく、同条3号に違反する問題と解すべきことは、前記当審における1審被告の主張に対する判断で説示したとおりであり、a5社に関する事故報告書の報告が遅れたことが、3号免責事由にも該当しないことは、引用にかかる総論に関する原判決第3の5の判断のとおりであるから、1審被告の主張は理由がない。
(5) したがって、a5社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
9 a47社(主債務者1-9)について
1審被告は、a47社に係る保証契約について、錯誤による無効並びに資金使途制限違反及び債権保全義務違反による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決37頁16行目から39頁5行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
10 a48社(主債務者1-10)について
1審被告は、a48社に係る保証契約について、事故報告書の大幅遅延による免責を主張するが、上記主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決39頁7行目から17行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
11 a43社(主債務者1-11)について
1審被告は、a43社に係る保証契約について、同等管理義務違反による免責を主張するが、上記主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決39頁19行目から40頁2行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
12 a49社(主債務者1-12)について
1審被告は、a49社に係る保証契約について、事故報告書の大幅遅延による免責を主張するが、上記主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決40頁4行目から12行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
13 a6社(主債務者1-13)について
a6社に係る保証契約について、詐欺を理由とする保証契約の取消しについての1審被告の抗弁が理由があることは、原判決40頁14行目から41頁22行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a6社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
14 a7社(主債務者1-14)、a8社(主債務者1-15)、a9社(主債務者1-16)、a10社(主債務者2-1)、a11社(主債務者2-2)、E(主債務者2-3)、a12社(主債務者2-4)、a13社(主債務者2-5)、a14社(主債務者2-6)、a15社(主債務者2-7)、a16社①及び②(主債務者2-8、2-9)、a17社①、②(主債務者2-10、2-11)、a50社(主債務者2-12)、a18社(主債務者2-13)、a19社①②(主債務者2-14、2-15)、a20社(主債務者2-16)、a21社(主債務者2-17)、a22社(主債務者2-18)、a23社(主債務者2-19)、a51社(主債務者2-20)、a52社(主債務者2-21)、a29社(主債務者2-22)、a53社①②(主債務者2-23、2-24)、a2社②(主債務者2-26)について
原判決別紙4-1-14~4-1-16、4-2-1~4-2-24、4-2-26の各「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、元本の弁済を受けることなく、上記各主債務者から1か月分から10か月分につき利息(遅延利息を含む。)のみを徴収している。しかし、証拠(甲A~F共通28、甲A43、甲A45、甲A46、甲B68、甲B72~78、甲B80、甲F14、乙A104、乙A107、乙B65、)に拠れば1審原告は、各主債務者の資産状況から元金の弁済が困難であり、元金・利息の遅延がかさむと後日の返済負担が大きくなることを考慮して利息のみ徴収したものであるが、これらは、1審原告が、各主債務者に対し、約定どおりの返済を求めていたものの、当時の経営状況から一部返済も困難な状況下であったため、せめて利息だけでも支払ってほしいと説得した結果、利息のみが支払われるなどしたものにすぎず、いずれも1審原告において、元本分の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたとの事実は認められず、現に、1審原告は、未収分については延滞債権として遅延利息を発生させて回収し、(a50社(2か月分)、a51社(1か月分)、a52社(1か月分)、a53社①②(各1か月分)、a2社②(2か月分)を除いては)1審被告に対しても貸付金延滞報告書を提出していたのであるから、1審原告が、各主債務者から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でない。
1審被告は、1審原告が各主債務者との間で、1審被告に無断で利息のみを徴求して元本の返済は据え置く(元本の返済は行わないでおく)ことに合意し、各主債務者の口座から1審原告が利息相当額の金員を引き落とすという弁済受領行為を行ったことによって利息の支払がされたというべきである旨主張するが、1審原告と各主債務者との間で法的意味のある合意がされたとは認められず、これは弁済が1審原告による口座からの引き落としによってされているとしても変わりがないことは前記のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がなく、1審原告の上記各主債務者に係る請求は全部理由がある。
15 a44社(主債務者1-17)について
1審被告は、同等管理義務違反及び事故報告書の大幅遅延による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決43頁9行目から19行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
16 a2社①(主債務者2-25)について
(1) 錯誤無効について
a2社に対するa2社①貸付の経緯及び旧債振替の有無については、原判決55頁23行目から56頁15行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。
1審被告は、a2社①は1審原告が実質プロパー債権の弁済を貸付けの条件としたものであり、旧債振替に当たるというべきであり、1審被告と1審原告との保証契約が民法95条により無効であると主張するが、前記第3の4のとおり、このような旧債振替違反があったことについては、保証契約における1審被告の免責の可否の問題であり、a2社①に係る保証契約につき1審被告に要素の錯誤があったとは認められないというべきであるから、錯誤無効をいう1審被告の主張は理由がない。
(2) 旧債振替について
a2社①に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決55頁23行目から56頁18行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
(3) したがって、a2社①に係る1審原告の請求は全部理由がない。
17 a24社①(主債務者2-27)について
(1) 錯誤無効について
1審被告は、a24社は1審被告の保証の対象とはならない法人であることは明らかであるところ、1審被告がa24社の業種の実体を知っていれば保証しなかったことは明らかであるから、1審被告のした保証契約には要素の錯誤があり無効である旨主張する。
しかし、a24社が1審被告の保証の対象とならない公序良俗に反する法人であるとまでは認められないことは後記(3)で引用に係る原判決説示のとおりであり、1審被告の主張は前提を異にするものであり、採用できない。
(2) 無断での利息徴収について
原判決別紙4-2-27の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、a24社から、a24社①について、平成20年12月1日及び平成21年1月5日に、平成20年11月30日支払分及び同年12月29日支払分につき利息(遅延利息を含む。)のみを徴収しているが、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めるには足りず、1審原告が、a24社から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは前記(及び甲B73)のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(3) 業歴要件違反(公序良俗違反)について
原判決の「事実及び理由」欄の「第4 各論に関する当裁判所の判断」の44の(2)のとおりであるから、これを引用する。
(4) したがって、1審原告は、1審被告に対して、a24社①に係る借入金残高である84万5000円に保証割合80%を乗じた67万6000円並びにこれに対する平成20年12月30日から平成21年2月27日までの60日間の年2.45%の割合による遅延損害金2722円及び代位弁済請求日の翌日である同年11月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。したがって、a24社①に係る1審原告の請求は上記の限度で理由がある。
18 a24社②(主債務者2-28)について
(1) 錯誤無効について
前記17(1)のとおりであり、1審被告の主張は採用できない。
(2) 無断での利息徴収について
原判決別紙4-2-28の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、a24社から、a24社②につき、平成20年12月1日に同年11月30日支払分の利息(遅延利息を含む。)のみを徴収し、上記支払分の元本が弁済された後も、平成21年1月5日から同年5月8日までに5回にわたり上記支払分からの3か月分につき利息(遅延利息を含む。)のみを徴収しているところ、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めるには足りず、1審原告が、a24社から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは前記17(2)のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(3) 業歴要件違反(公序良俗違反)について
前記17の(3)のとおりである。
(4) したがって、a24社②に係る1審原告の請求は全部理由がある。
19 a54社(主債務者2-29)について
1審被告は、a54社に係る保証契約について、錯誤による無効、延滞中の債権に対する貸付違反による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは原判決59頁8行目の「延滞中であったと主張する。」を「延滞中であるから、本件約定書12条2号に該当するとともに、1審被告のした保証契約には要素の錯誤があり無効である旨主張する。」と改めるほか、原判決59頁7行目から24行目までのとおりあるから、これを引用する。
20 a30社(主債務者2-30)について
(1) 錯誤無効について
a30社に対する貸付の経緯及び資金使途制限違反の有無については、原判決60頁1行目から15行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
1審被告は、a30社が運転資金として借り入れた保証付貸付金5000万円を土地購入の資金として使用したものであり、使途制限違反に該当する使途であるとして、a30社に係る1審被告と1審原告との保証契約が民法95条により無効であると主張するが、前記第3の4のとおり、このような資金使途制限違反があったことについては、保証契約における1審被告の免責の可否の問題であり、a30社に係る保証契約につき被告に要素の錯誤があったとは認められないというべきであるから、錯誤無効をいう1審被告の主張は理由がない。
(2) 資金使途制限違反について
a30社が土地購入に保証付貸付金を用いたことについて、1審被告の求償権が侵害されたことについての主張立証はないというべきであるから、資金使途制限違反を理由とする2号免責の適用は認められない。
(3) 債権保全義務違反について
1審被告は、a30社が資金使途制限違反の使途に保証付貸付金を用いたことについて、1審原告に債権保全義務違反が認められると主張するが、上記引用にかかる総論に関する原判決第3の2(1)の判断によれば、1審原告にはa30社の資金使途を逐一確認する義務はないと解すべきところ、1審原告においてa30社が保証付貸付金を運転資金ではなく土地購入資金として用いたことを阻止できたと認めるに足りる証拠はないから、1審被告の主張は採用できない。
(4) したがって、a30社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
21 C(主債務者2-31)について
(1) 錯誤無効について
Cに対する貸付の経緯及び資金使途制限違反の有無については、原判決61頁1行目から16行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
1審被告は、Cが借り入れた保証付貸付金500万円のうち250万円をGに対する借入金の弁済に充てたことが、旧債借換資金に該当する資金使途であるとして、Cに係る1審被告と1審原告との保証契約が民法95条により無効であると主張するが、前記第3の4のとおり、このような資金使途制限違反があったことについては、保証契約における1審被告の免責の可否の問題であり、Cに係る保証契約につき被告に要素の錯誤があったとは認められないというべきであるから、錯誤無効をいう1審被告の主張は理由がない。
(2) 資金使途制限違反について
Cが土地購入に保証付貸付金を用いたことについて、1審被告の求償権が侵害されたことについての主張立証はないというべきであるから、資金使途制限違反を理由とする本件約定書12条2号の適用は認められない。
(3) 債権保全義務違反について
1審被告は、Cが資金使途制限違反の使途に保証付貸付金を用いたことについて、1審原告に債権保全義務違反が認められると主張するが、上記引用にかかる総論に関する原判決第3の2(1)の判断によれば、1審原告にはCの資金使途を逐一確認する義務はないと解すべきところ、1審原告においてCが保証付貸付金500万円のうち250万円を借換資金として用いたことを阻止できたと認めるに足りる証拠はないから、1審被告の主張は採用できない。
(4) したがって、Cに係る1審原告の請求は全部理由がある。
22 a31社(主債務者2-32)について
a31社に係る保証契約について、1審原告の無断での期限の利益喪失通知により、1審被告の免責の主張が全部理由があることは、原判決62頁2行目から22行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a31社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
23 a32社(主債務者3-1)について
a32社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決62頁25行目から65頁6行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a32社に係る1審被告の請求は全部理由がある。
24 a33社(主債務者3-2)について
a33社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決65頁8行目から66頁8行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a33社に係る1審被告の請求は全部理由がある。
25 a34社(主債務者3-3)について
a34社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決66頁10行目から67頁13行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a34社に係る1審被告の請求は全部理由がある。
26 F(主債務者3-4)について
(1) 利息のみの徴収について
原判決別紙4-3-4の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、Fから、F①及び同②につき、平成19年3月20日から同年5月31日までに4回にわたり同年3月20日支払分からの3か月分につき利息(遅延利息を含む。)のみを徴収しているが、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めるには足りず、1審原告が、a24社から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは前記(及び甲C20)のとおりである。
そうすると、無断の利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(2) 旧債振替
原判決別紙4-3-4の「争いのない事実等」記載のとおり、F①の保証付貸付実行前日の平成17年7月14日、原告に開設されたF名義の口座に現金振込により98万円が入金され、同口座の預金残高が98万0444円となっていたところ、そのうち30万円がプロパー債権①(貸付日同年6月22日、貸付額40万円、最終弁済期同年10月31日、残高40万円)の、68万円がプロパー債権②(貸付額81万円、約定弁済額毎月20日に1万3000円、最終弁済期平成21年8月20日、残高68万円)の繰上弁済に充てられ、また、F②の保証付貸付実行日の4日前の平成18年2月24日、F名義の上記口座の預金残高は822円であったが、プロパー債権③(貸付日同年1月31日、貸付額20万円、最終弁済期同年3月31日、残高20万円)及びプロパー債権④(貸付額20万円、貸付日同年1月31日、最終弁済期同年4月28日、残高20万円)が現金支払いにより全額返済されたところ、いずれもFにとって、最終弁済期よりも前に(特にプロパー債権②は4年以上も前に)ほとんど全部を繰上弁済する必要性は全くないのであるし、Fによる自発的な繰上弁済が偶然保証付貸付金の入金前日や4日前にされるとも考え難く、前記4(a1社)及び後記35(a35社)のように、原告がプロパー債権の繰上弁済を条件として保証付貸付を実行するなどして形式的に旧債振替に当たることを回避しつつ保証付貸付金をもってプロパー債権の回収を図ることを繰り返し行っていることにも鑑みれば、原告がプロパー債権の繰上弁済を条件として保証付貸付を実行したことが推認されるというべきである。Fは、プロパー債権①②の繰上弁済に充てた98万円を繰上弁済の翌日、プロパー債権③④の繰上弁済に充てた40万円を繰上弁済の4日後に直ちに保証付貸付金で補填したのであって、当該138万円分については事業資金の調達を果たすことができなかったのであるから、前記第3の3のとおり、旧債振替が認められるというべきである。
(3) 免責額について
1審原告が繰上弁済を条件として保証付貸付を実行した以上、前記第3の3のとおり、1審被告はFに係る保証債務につき全部免責される。
(4) したがって、1審被告は1審原告に対して代位弁済義務を負わないのであるから、原告が被告から代位弁済を受けた460万2640円は法律上の原因のない被告の損失に基づく利得であり、また、上記(1)からすれば、原告は悪意の受益者であると認められるから、1審被告は、1審原告に対して、不当利得返還請求権に基づき、460万2640円及びこれに対する代位弁済の日の翌日である平成19年11月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めることができる。
27 a38社①(主債務者4-1)について
a38社①に係る保証契約について、1審原告の無断での期限の利益喪失通知により、1審被告の免責の主張が全部理由があることは、原判決68頁7行目から12行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a38社①に係る1審原告の請求は全部理由がない。
28 a38社②(主債務者4-2)について
a38社②に係る保証契約について、1審原告の無断での期限の利益喪失通知により、1審被告の免責の主張が全部理由があることは、原判決68頁14行目から19行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a38社②に係る1審原告の請求は全部理由がない。
29 a25社(主債務者4-3)について
(1) 利息のみの徴収について
原判決別紙4-4-3の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、a25社から、平成20年11月5日頃から平成21年3月5日頃までに複数回にわたり平成20年11月5日支払分からの5か月分につき利息(遅延利息を含む。)のみを徴収しているが、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めるには足りず、1審原告が、a25社から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは前記(及び甲B78)のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(2) 事故報告等の不履行
1審被告は、a25社に係る保証契約に関する事故報告書の提出がなかったことが、本件約定書12条3号の免責事由に該当すると主張するが、上記主張が採用できないことは、引用にかかる総論に関する原判決第3の5の判断のとおりであるから、1審被告の主張は理由がない。
(3) したがって、a25社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
30 a26社(主債務者4-4)について
(1) 利息のみの徴収について
原判決別紙4-4-4の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、a26社から、平成20年5月30日から同年9月30日までに5回にわたり同年5月10日支払分からの5か月分につき利息(遅延利息を含む。)のみを徴収しているが、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めるには足りず、1審原告が、a26社から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは前記(及び甲B77)のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(2) 事故報告等の不履行
1審被告は、a26社に係る保証契約に関する事故報告書の提出がなかったことが、本件約定書12条3号の免責事由に該当すると主張するが、上記主張が採用できないこと、引用にかかる総論に関する原判決第3の5の判断のとおりであるから、1審被告の主張は理由がない。
(3) したがって、a26社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
31 a55社(主債務者5-1)について
1審被告は、a55社に係る保証契約について、同等管理義務違反及び代位弁済請求の手続違反による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決69頁18行目から71頁14行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a55社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
32 a45社(主債務者6-1)について
1審被告は、a45社に係る保証契約について、同等管理義務違反による免責を主張するが、上記主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決71頁16行目から25行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a45社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
33 a46社(主債務者6-2)について
1審被告は、a46社に係る保証契約について、同等管理義務違反による免責を主張するが、上記各主張が採用できず、1審原告の請求は全部理由があることは、原判決72頁1行目から10行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a46社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
34 a27社(主債務者6-3)について
(1) 利息のみの徴収について
原判決別紙4-6-3の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、a27社から、平成20年5月26日頃から同年8月25日頃までに複数回にわたり同年5月26日支払分からの3か月分につき利息のみを徴収しているが、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めるには足りず、1審原告が、a24社から利息のみを徴収していたことをもって返済条件の変更を行ったものということはできず、また、実質的な返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは前記(及び甲B73、甲F24、37、)のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(2) 事故報告書の大幅遅延について
a27社に関する事故報告書の報告が遅れたことが、本件約定書12条3号違反に該当しないことは、引用にかかる総論に関する原判決第3の5の判断のとおりであるから、1審被告の主張は理由がない。
(3) 除斥期間の主張について
1審被告は、a27社は、代表者のIが行方不明になった平成20年8月頃には1審原告とa27社が締結した信用金庫取引約定書5条1項に基づき期限の利益を当然に喪失し、遅くとも平成22年9月末には2年の除斥期間が経過した旨主張するが、上記信用金庫取引約定書には債務者の行方不明により当然に期限の利益を喪失する旨の規定はないから、1審被告の上記主張も採用できない。
(4) したがって、a27社に関する1審原告の請求は全部理由がある。
35 a35社(主債務者6-4)について
a35社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決72頁23行目から73頁25行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a35社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
36 a36社(主債務者6-5)について
a36社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決74頁1行目から22行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a36社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
37 a39社(主債務者6-6)について
a39社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決74頁24行目から76頁12行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a39社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
38 a37社(主債務者6-7)について
a37社に係る保証契約について、旧債振替を理由とする1審被告の免責の主張は全部理由があることは、原判決76頁14行目から77頁12行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
したがって、a37社に係る1審原告の請求は全部理由がない。
39 a28社(主債務者6-8)について
(1) 利息のみの徴収について
原判決別紙4-6-8の「争いのない事実等」記載のとおり、1審原告は、1審被告の承諾を得ずに、a28社から、平成20年10月31日から平成21年3月2日までに5回にわたり平成20年10月15日支払分からの5か月分につき利息(延滞利息を含む。)のみを徴収しているが、1審原告がこれをもって元本の請求を放棄したとか、期限の猶予を与えたと認めることはできず、証拠(甲B76)に照らしても返済条件の変更を行ったものと認めるには十分でないことは、前記14(a7社ほかの利息のみの徴収)のとおりである。
そうすると、無断での利息徴収を理由として2号免責該当事由があり、保証債務が全部免責されるとの1審被告の主張は理由がない。
(2) 事故報告不履行等について
1審被告は、1審原告が、毎月末日に1審被告に対して行うべき貸付金延滞報告書による延滞報告を怠り、また、事故報告書を提出しなかったことは、本件約定書12条2号に違反するとして、全部免責を主張するが、保証契約の変更手続の申請を受け付けており、これにより延滞の事実を把握し、その延滞について手続違反として取り上げなかった以上、1審原告の事故報告に関する債務不履行はないというべきである。
(3) 代位弁済請求の手続違反について
1審被告は、1審原告が1審被告から代位弁済書類一式の原本の郵送を受けていないにもかかわらず、コピーの代位弁済書類一式を用いて代位弁済請求を行ったことは、代位弁済請求の手続違反であり、1審被告は本件約定書12条2号に基づき全部免責されると主張するが、本件約定書や本件手引きにおいて、保証事務取扱手続要領には、1審被告所定の書式によるとあるものの(甲A2)、代位弁済の手続きは1審被告から交付された原本を用いてしなければならないとの規定が存することは認められず、原本を用いなければならない実質的な理由も、その違反について1審被告の免責を認めるだけの合理的な理由も見いだし難いから、1審被告の上記主張は採用できない。
(4) したがって、a28社に係る1審原告の請求は全部理由がある。
第5 以上によれば、原判決は、1審被告の請求を全部認容した点は相当であるが、1審原告の請求については一部棄却すべきでない部分を棄却した点で相当ではないから、原判決主文1項から3項までを主文1項のとおりに変更し、その余の1審原告の控訴を棄却し、1審被告の控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柴田寛之 裁判官林正宏は退官のため、裁判官齋藤憲次は転補のため、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官 柴田寛之)
(別紙)<省略>