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東京高等裁判所 平成26年(ネ)2231号 判決 2014年8月21日

北海道<以下省略>

控訴人兼被控訴人(第1審原告)

X(以下「第1審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

平澤慎一

荻野一郎

東京都渋谷区<以下省略>

被控訴人兼控訴人(第1審被告)

第一商品株式会社(以下「第1審被告会社」という。)

同代表者代表取締役

川崎市<以下省略>

被控訴人兼控訴人(第1審被告)

Y1(以下「第1審被告Y1」という。)

千葉市<以下省略>

被控訴人兼控訴人(第1審被告)

Y2(以下「第1審被告Y2」という。)

埼玉県<以下省略>

被控訴人兼控訴人(第1審被告)

Y3(以下「第1審被告Y3」という。)

第1審被告ら訴訟代理人弁護士

川戸淳一郎

滝田裕

主文

1  第1審原告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

(1)  第1審被告らは,第1審原告に対し,連帯して2482万1695円及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。

2  第1審被告らの控訴を棄却する。

3  訴訟費用は,第1審及び第2審を通じて,これを10分し,その3を第1審原告の負担とし,その余を第1審被告らの負担とする。

4  この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  第1審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  第1審被告らは,第1審原告に対し,連帯して3544万5279円及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  第1審被告ら

(1)  原判決中,第1審被告らの敗訴部分を取り消す。

(2)  上記部分につき,第1審原告の請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,第1審原告が,商品取引員である第1審被告会社に委託して行った商品先物取引において3224万5279円の損失を被ったことにつき,第1審被告会社の外務員であるその余の第1審被告ら(以下「第1審被告Y1ら」という。)に説明義務違反等の違法行為があったと主張して,第1審被告会社に対しては民法715条1項に基づき,第1審被告Y1らに対しては民法709条に基づき,損害金3544万5279円(上記損失額と弁護士費用損害金320万円)及びこれに対する平成23年3月15日(取引終了日)から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原判決は,第1審被告Y1らが第1審原告を意のままに誘導して無意味な売買を繰り返させたなどとして,第1審被告らの不法行為責任を認めた上,第1審原告にも6割の過失があるとして,第1審原告の請求につき,第1審被告らに対し1409万8111円(うち120万円は弁護士費用損害金)及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,第1審原告及び第1審被告らが,それぞれ,自己の敗訴部分を不服として控訴をした。

2  前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2ないし4(2頁19行目から14頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 3頁17行目の末尾に「なお,同一覧表の「預託金」欄に例えば「金2」とあるのは,金地金2kgを意味する。」を加える。

(2) 10頁7行目の「「日計」」を「「日計」は,」に改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,第1審被告Y1らには,第1審原告に無意味な売買を繰り返させたという違法行為があったほか,説明義務違反もあったから,第1審被告らは不法行為責任を負い,他方,第1審原告にも3割の過失があるものと認め,第1審原告の請求については,第1審被告らに対し2482万1695円(うち225万円は弁護士費用損害金)及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で有があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきものと判断する。

その理由は,後記2のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし9(14頁25行目から35頁18行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決の補正

(1)  16頁15行目から18頁9行目までを次のとおり改める。

「ア 平成21年12月17日午後5時ころ,第1審被告Y1と同Y3が原告宅を訪れ,同日午後6時ころ,第1審原告は,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」(乙8)に署名押印をして,商品先物取引を行う意思を示した。同確認書①(乙8)には,「私は,貴社により商品先物取引に関する勧誘の告知を受け,また勧誘を受ける意思表示をした上で,貴社より交付された「受託契約準則」及び「商品先物取引・委託のガイド」により,次の項目についての説明を受け,その内容を理解しました。また,相場変動の例を記載した図表「お取引のリスクに関する説明《金の場合》」(別紙)を受領し,それを用いて商品先物取引に内在する危険性等についての説明を受け,その内容を十分に理解しました。① 商品先物取引はその担保として預託する取引証拠金等の額に比べてその10~30倍にもなる過大な取引を行うものであること ②預託した取引証拠金等の額以上の損失が発生するおそれがあること」と記載されている。

イ また,同日午後8時ころ,第1審原告は,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書②」(乙9)に署名押印をした。同確認書②(乙9)には,「1.私は,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」の説明を受けてその理解が出来た後,同様に「受託契約準則」及び「商品先物取引・委託のガイド」を用いて以下の説明を受け,その内容を理解しました。①取引証拠金等の制度,種類及びその発生のしくみ等に関する事項 ②委託手数料の額,委託手数料の制度及びその徴収の時期等に関する事項 ③商品取引員の禁止行為に関する事項 ④その他「商品先物取引・委託のガイド」に記載されている事項 2.私は,上述の説明を受けてその理解が出来た後,「取引管理運用の手引き」を用いて貴社の管理・保護措置に関する説明を受け,その内容を理解しました。①迷惑な仕方での勧誘の禁止 ②委託を行わない旨の意思表示をした顧客への再勧誘の禁止 ③商品先物取引未経験者の保護措置 ④適合性の原則を遵守した受託管理措置 ⑤その他委託者保護を目的とした保護措置 3.私は,貴社の定める「お客様への通知事項」の受領及び説明を受け,十分に理解した上で,次の事項について承諾しました。①株式会社東京工業品取引所における注文受付・取引時間帯に対し,貴社の取扱時間にて取引すること ②株式会社東京工業品取引所が提供する注文と,貴社が用意する注文に相違があることを理解して取引すること」と記載されている。」

(2)  18頁22行目から19頁6行目までを次のとおり改める。

「エ 第1審被告会社調査部のBは,同日午後8時42分ころに第1審原告の携帯電話に電話をし,口座開設申込書の記載内容の確認や商品先物取引の特性などについて,午後8時59分ころまでの約17分間やりとりをしたが,商品先物取引の特性についてのやりとりは,その多くが,Bからの説明や質問に対して第1審原告がそのままオウム返しに同内容を復唱したり「はい」とか「えーえー」などと相づちを打ったりするものであった(乙10)。」

(3)  19頁9行目から20頁3行目までを削る。

(4)  25頁3行目から26頁2行目までを次のとおり改める。

「(1) 商品先物取引業者は,商品取引契約を締結しようとする場合には,商品先物取引法施行規則107条の定めるところにより,あらかじめ,顧客に対し,商品先物取引法217条1項各号に掲げる事項について説明をしなければならず(同法218条1項),その説明は,顧客の知識,経験,財産の状況及び当該商品取引契約を締結しようとする目的に照らして,当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない(同条2項)とされている。

そして,商品先物取引法217条1項は,その一号として,「当該商品取引契約に基づく取引…の額(取引の対価の額又は約定価格若しくは約定数値に、その取引の件数又は数量を乗じて得た額をいう。)が,当該取引について顧客が預託すべき取引証拠金、取次証拠金又は清算取次証拠金その他の保証金その他主務省令で定めるもの(以下この項…において「取引証拠金等」という。)の額を上回る可能性がある場合にあつては,次に掲げる事項」,すなわち,「イ 当該取引の額が当該取引証拠金等の額を上回る可能性がある旨」,「ロ 当該取引の額の当該取引証拠金等の額に対する比率(当該比率を算出することができない場合にあつては,その旨及びその理由)」を,その二号として,「商品市場における相場その他の商品の価格又は商品指数に係る変動により当該商品取引契約に基づく取引について当該顧客に損失が生ずることとなるおそれがあり,かつ,当該損失の額が取引証拠金等の額を上回ることとなるおそれがある場合には,その旨」を,その三号として,「前二号に掲げるもののほか,当該商品取引契約に関する事項であつて,顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるもの」を,その四号として,「前三号に掲げるもののほか、当該商品取引契約の概要その他の主務省令で定める事項」をそれぞれ掲げている。

これらは,商品先物取引が,相場変動の大きいリスクの高い取引であり,専門的な知識を有しない委託者には的確な投資判断を行うことが困難な取引である上,先物取引や金融商品取引などに習熟していない者にとっては,その内容や仕組みが容易には理解しがたいものであって,そのような者が,安易に勧誘されて内容を十分に理解しないままに取引に参加して不測の高額な損害を被ることを防止する趣旨によるものであると解される。そうすると,商品先物取引についての知識,経験が乏しい者が投資目的ないし投機目的で契約を締結しようとするような場合には,単に商品先物取引がハイリスク・ハイリターンの取引であることを理解させるのみならず,商品先物取引の仕組みや内容などの基礎的な事項や取引に用いられる用語の意味などを十分に理解させることはもとより,取引によって生じ得るリスクの具体的内容,すなわち,例えば,委託証拠金とは別に相当高額の委託手数料の支払が必要となることから,売買が繰り返されるだけで手数料が積み上がり大きな手数料損失が生じかねない性質を有することや,その委託手数料の割合や額,また,証拠金不足はいかなる場合に生じ,その場合に具体的にどの程度の額の証拠金不足が生じ追証拠金の納付等が必要となるのか,仮に追証拠金を納めないとどのようになるのかなど,商品先物取引に特有のリスクについて具体的に説明をすることが必要であると解すべきである。

そして,必要な事項について説明がされていない場合はもとより,一応の説明がされていたとしても,当該顧客の知識,経験,財産の状況及び当該商品取引契約を締結しようとする目的に照らして,当該顧客が理解できないような内容の説明にとどまっていたならば,それは説明義務を果たしたということができないことは明らかであり,その顧客に対して当該受託契約により生じた損害を賠償すべきことになると解すべきである(同法218条4項参照)。

(2) これを本件についてみるに,前示のとおり,第1審原告は,昭和28年生まれであり,高校卒業後に,北海道<以下省略>において畑作農業を営む実家の農業を継いで父親と共に小豆,金時豆,麦及びビート等を栽培し,父親が昭和62年に脳梗塞で倒れてからは一人で農業に従事してきた独身男性であること,本件契約を締結するまで商品先物取引の経験はなかったこと,株式取引についても,平成16年に投資会社の勧誘によりカナダの会社の株式を購入したことはあるものの,本件契約締結当時も当該株式を保有し続けており,証券会社を通じて株式の売買などをした経験はなかったこと,金地金の取引には関心を持ち,平成15年ころには第1審被告会社に金地金の資料請求をしたことがあり,平成21年10月に金地金の購入をしたが,商品先物取引に対してはほとんど関心はなく,本件契約を締結した同年12月17日までは,商品先物取引についての具体的な知識を有していなかったことがそれぞれ認められる。

このように,第1審原告は,高校卒業後家業の畑作農業を営み,本件契約を締結するまで商品先物取引の経験も知識もなく,他の金融商品の取引経験も乏しいことから,取引の仕組みや特殊用語の意味などについて知悉していなかったのであって,そのような第1審原告に対しては,本件契約を締結するに先立ち,商品先物取引を行うかどうかを判断するために必要な事項,すなわち,通常の取引と先物取引の違いなどを含めた商品先物取引の仕組みや内容はもとより,限月,委託証拠金,取引証拠金,委託手数料,建玉,取引単位,値洗い,成行注文,マーケット注文,決済方法,各種特定取引の内容などの基本的事項について理解させるとともに,取引によって生じるリスクの具体的内容,例えば,委託証拠金とは別に相当高額の委託手数料の支払が必要となることから,売買が繰り返されるだけで手数料が積み上がり大きな手数料損失が生じかねない性質を有することや,具体的にいかなる場合にどの程度の額の証拠金不足が生じて追証拠金の納付等が必要となるのか,仮に追証拠金を納めないとどのようになるのかなどについて説明をすることが必要であったというべきである。

(3) しかして,前示のとおり,平成21年12月17日午後5時ころ,第1審被告Y1と同Y3が原告宅を訪れ,同日午後6時ころ,第1審原告は,「商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①」(乙8)に署名押印をして商品先物取引を行う意思を示したのであり,その間,わずか約1時間程度しかないところ,同確認書①に説明に用いられたと記載されている「商品先物取引・委託のガイド」は本冊(乙6の1)と別冊(乙6の2)から成り,本冊は49頁と大部であり,基本的な事項について小さな文字で詳細に記載がされ,その内容も専門用語が多く使われ,商品先物取引や金融商品取引の知識経験がない者が一読して理解するのはほとんど不可能なものであり,また,別冊も18頁あり,取次ぎに関する契約の手順と取引の流れなどが図示されているほか,損益計算の具体例,差引損益金があるときの取引証拠金の計算例,取引追証拠金の計算例,預かり証拠金剰余額の計算などについて具体的な例示がされているが,その内容は初めての者にとっては容易に理解することができないものとなっていることが認められる。また,上記確認書①にそれを用いて商品先物取引に内在する危険性等についての説明がされたと記載されている「お取引のリスクに関する説明《金の場合》」(乙7)の内容も,商品先物取引についての基本的な知識がある者であればともかく,経験も知識も乏しい者にとっては,理解が難しい内容となっており,現に,第1審原告本人の供述及び陳述(甲A7)によれば,第1審原告は,金の値段の上下によって利益と損失が生じ得るハイリスクハイリターンの取引という程度の内容しか理解していなかったことが窺える。

このように,同年12月17日午後5時ころから第1審原告が本件取引を行う意思を示した同日午後6時ころまでのわずか1時間の間に,上記のような属性を有する第1審原告に対し,先物取引と通常取引の違いなどを含めた商品先物取引の基本的な仕組みや内容を理解させるとともに,商品先物取引を行うに必要な前示のような基本的事項や取引によって生じるリスクの具体的内容など,第1審原告が商品先物取引を行うかどうかを決めるために必要かつ十分な説明を行うことは極めて困難であるといわざるを得ない。

(4) この点について,第1審被告Y1は,その陳述書(乙15)において,同年12月17日午後5時ころに第1審原告宅を訪問した際に,同陳述書の「第3 取引説明の内容等について」の1ないし6に記載しているような具体的かつ詳細な説明をし,その後に第一審原告の取引意思を確認して確認書(乙8)に署名押印をしてもらった旨陳述し,本人尋問においても,同様の説明をした旨の供述をする。また,第1審被告Y3本人は,第1審原告に行った説明は第1審被告Y1作成の陳述書(乙15)に記載のとおりである旨の陳述(乙16),供述をする。

そこで,その説明した内容とされる第1審被告Y1の陳述書(乙15)の「第3」の1ないし6を見ると,第1審被告Y1は,まず,2の①記載のとおり,商品先物取引は証拠金取引であるから,当該商品の特定数量の全額の売買代金を用意(買いの場合)または代金を取得(売りの場合)するのではなく,一定の証拠金(担保)を納めることで証拠金以外には金員を出さずに当該商品数量の売買を行うものであること,同②記載のとおり,東京金は,公の施設である東京工業品取引所に上場されている商品であるが,東京金を含む上場商品は本来は一定数量以上の取引がなされるものであり,この大量の商品を少ない資金で売買できるのが証拠金取引であること,同③記載のとおり,証拠金取引とは,担保(証拠金)を出して大量の商品売買を約束することであり,買いに対しては売り,売りに対しては買いという反対売買を行うことで差損益が発生する取引であること,同④記載のとおり,したがって,商品先物取引は少ない証拠金で利益が取得できる魅力があると同時に商品価格の変動によっては証拠金以上の損失が発生することもあること,なお,この取引証拠金は,相場変動による計算上の損失を担保するためのものであることなどの説明をした上,例えば,取引証拠金や追加証拠金については,取引期間中のどの時点においても保有建玉の計算上の損失(値洗い損失)が取引証拠金の50%を超えた場合には,担保価値充実のための発生値洗い損失分相当(値洗い損失が必要取引証拠金の70%の場合には,この70%相当分)の追加証拠金を預託しない限り取引の維持・継続はできない追証制度について説明したとし,その上で,第1審原告に対し,「商品先物取引委託のガイド・同別冊」(乙6の1,2),「お取引のリスクに関する説明」(乙7)を使用して,倍率や損失リスクを具体的に説明した上,建玉の値洗損(計算上の損失)が取引証拠金の50%を超えてしまった場合には,当該差入取引証拠金の50%を超える損失分を入金しなければならない追証拠金制度などを具体的に説明し,相場が外れた時(損勘定に陥った場合)の対処の仕方について,具体的な方策として決済,追証拠金の差入れ,ナンピン及び両建という4つの方法があり,それぞれの長所及び短所等を説明したとしている(5の①ないし③)。さらに,第1審被告Y1は,第1審原告に対し,具体的な売買について,注文方法として価格を指示しない成行注文(MOFaK等)と価格を指示する(一定金額以下での買い,一定金額以上での売り)指値注文(LO FaS等)があること,先物金を上場している東京工業品取引所では価格の急落・急騰の場合の値幅制限(ストップ安・ストップ高)と同様の目的でサーキットブレーカー制度,すなわち,一定の幅(当時は100円)を超えるような価格で売買注文が対当する場合は取引を成立させずに一時的に取引を中断し,大きな価格変動が生じようとしていることを市場参加者に周知し設定幅を拡大した上で取引を再開する制度の説明を行ったなどとしている(6)。そのほか,第1審被告Y1は,第1審原告に対して,具体的な数値を示して様々な説明をしたとしている。

しかし,そもそも,商品先物取引についての特別の知識も経験もない者に対して,わずか1時間の間に,このような大量かつ専門的な内容をかみくだいて適切に説明し,それらを第1審原告に理解させることができたとは到底考えがたい。

そして,第1審原告本人は,その陳述書(甲A7)において,平成21年12月17日の午後5時から午後6時ころまでの1時間は,自分が第1審被告Y1から熱心な勧誘を受けていたころなので,先物取引の危険性の話はなかったと思うとか,第1審被告Y1らは,自宅に3時間30分くらいいたが,この間に自分の用意した弁当を一緒に食べたり,第1審被告Y1らが,コンビニエンスストアに第1審原告の免許証のコピーを取りに行ったり,自宅から第1審被告会社にFAXをしたり,第1審被告会社の調査部から本人確認をされたりと慌ただしかったなどと述べ,先物取引の仕組みや危険性について十分な説明がなかったとの認識を示した上,「Xさんの取引はY1,Y3,Y2の3人でフォローしてきちんとやります。」と言われ,第1審被告Y1らを信用していたため,数通の書面に署名押印した旨述べ,本人尋問においても概ね同様の供述をしている。

なお,第1審原告は,商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①(乙8),同②(乙9),約諾書(甲A1,乙1),取引口座開設申込書(甲A2,乙5)に署名押印しているほか,第一審被告会社やその担当者に対して種々の書面(甲A3ないしA5,乙11の1,乙24,25の1,2,乙26の1,2,乙27の1,2)を作成して差し入れているが,第1審原告本人は,見栄を張ってかっこつけて虚偽の内容(年収,配偶者,扶養人数など)を記載してしまった,あるいは,この取引自体がすごく難しくて複雑なので頼るのは第1審被告Y1ら3人しかいないことから,ちょっとまずいことを書いたら教えてくれなくなることなどを慮って,言われるがままに書いたなどという供述,陳述(甲A7)をしているのであって,これらの書面が存在するからといって,直ちに第1審被告Y1らが第1審原告に対して同人の知識や経験等に応じた十分な説明をしたと認めることはできない。

(5)  他に,本件全証拠を検討してみても,第1審被告会社の担当者である第1審被告Y1らが,第1審原告に対して,商品先物取引の内容や仕組みを始め,取引から生じる具体的なリスクについて,同人の知識や経験等に応じた適切な説明をしたと認めるに足りる的確な証拠はなく,本件において,第1審被告Y1らには,第1審原告に対する説明義務違反があったというべきである。後に判示するとおり,第1審原告が,第1審被告Y1らの誘導により,その意向に沿って,無意味な売買を繰り返したことは,第1審原告が,第1審被告Y1らの説明によっては,商品先物取引を自己の判断で行うために必要な理解をし得ていなかったことを裏付けるものである。

したがって,第1審被告Y1らが第1審原告に本件取引を行わせたことは違法であるというべきである。」

(5)  34頁6行目の「無意味」から同7行目の「両建てがあり」までを「説明義務違反があったほか,無意味な売買を繰り返させたものであって」に改める。

(6)  34頁18行目から35頁8行目までを次のとおり改める。

「(2) 過失相殺

第1審原告は,第1審被告Y1らから,商品先物取引の内容や仕組み,その具体的なリスクなどについて十分な説明を受けず,それらについての知識,理解が十分でないまま本件取引を開始し,その後も,第1審被告Y1らの誘導により無意味な売買を繰り返したことなどにより,多大な損害を被ったのであるが,他方で,第1審原告は,商品先物取引について十分な理解をしていないにもかかわらず,商品先物取引の説明及び理解に関する確認書①(乙8)及び同②(乙9)並びに約諾書(甲A1,乙1)に安易に署名押印し,実際は年収基準である500万円に達していないのに取引口座開設申込書(甲A2,乙5)に年収600万と虚偽の記載をし,また,第1審被告会社の調査部からの電話に対して,あたかも商品先物取引について十分な説明を受けて理解したかのように受け取られかねない安易な応答をしたことなどから取引を行うことになり,その後も,第1審被告会社に対し,取引の仕組みやルールは理解しており,自己責任と自己判断で取引を行う旨や,いったんは投資可能金額の3分の1を申し出たが,それを撤回するなどの各書面(甲A3ないしA5)を提出しており,これらが,取引の継続等による損害の拡大をもたらす一因となったことが窺われるなど,第1審原告の言動によって損害の発生や拡大が生じたこともまた否めないのであって,本件に顕れた諸般の事情を総合考慮するならば,第1審原告の過失割合は3割と認めるのが相当である。

そして,これを控除した額は2257万1695円(3224万5279円×(1-0.3))となる。」

(7)  35頁12行目の「120万円」を「225万円」に改める。

(8)  35頁15行目の「1409万8111円」を「2482万1695円」に改める。

3  以上によれば,第1審原告の第1審被告らに対する請求は,2482万1695円及びこれに対する平成23年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

よって,原判決はこれと異なる限度で相当でなく,第1審原告の控訴はその限度で理由があるから,第1審原告の控訴に基づき,原判決を上記趣旨に従って変更することとし,第1審被告らの控訴は理由がないからこれを棄却することして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 貝阿彌誠 裁判官 定塚誠 裁判官 田代雅彦)

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