東京高等裁判所 平成26年(ネ)4370号 判決 2015年1月14日
千葉県<以下省略>
控訴人
X1
島根県<以下省略>
控訴人
X2
控訴人ら訴訟代理人弁護士
荒井哲朗
同
山口貴士
同
島幸明
同
浅井淳子
同
太田賢志
同
佐藤顕子
同
五反章裕
同
見次友浩
同
磯雄太郎
東京都中央区<以下省略>
被控訴人
レクセム証券株式会社
同代表者代表取締役
A
川崎市<以下省略>
被控訴人
Y1
東京都<以下省略>
被控訴人
Y2
横浜市<以下省略>
被控訴人
Y3
名古屋市<以下省略>
被控訴人
Y4
東京都<以下省略>
被控訴人
Y5
東京都<以下省略>
被控訴人
Y6
川崎市<以下省略>
被控訴人
Y7
東京都<以下省略>
被控訴人
Y8
被控訴人ら訴訟代理人弁護士
上田直樹
同
荒瀨尊宏
主文
1 原判決中被控訴人レクセム証券株式会社及び被控訴人Y1に関する部分を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人レクセム証券株式会社及び被控訴人Y1は,控訴人X1に対し,各自99万円及びこれに対する被控訴人レクセム証券株式会社については平成24年4月21日から,被控訴人Y1については同月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人レクセム証券株式会社及び被控訴人Y1は,控訴人X2に対し,各自591万1752円及びこれに対する被控訴人レクセム証券株式会社については平成24年4月21日から,被控訴人Y1については同月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人らの被控訴人レクセム証券株式会社及び被控訴人Y1に対するその余の請求をいずれも棄却する。
2 控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,控訴人らと被控訴人レクセム証券株式会社及び被控訴人Y1との間に生じた部分は,第1,2審を通じてこれを10分し,その7を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人レクセム証券株式会社及び被控訴人Y1の負担とし,控訴人らとその余の被控訴人らとの間に生じた部分は,すべて控訴人らの負担とする。
4 この判決は,1項(1)及び(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
(前注)略称は原判決の例による。
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,控訴人X1に対し,各自330万円及びこれに対する被控訴人Y3及び被控訴人Y5については平成24年4月20日から,被控訴人レクセム,被控訴人Y2及び被控訴人Y4については同月21日から,被控訴人Y1については同月25日から,被控訴人Y8については同年5月4日から,被控訴人Y7については同年7月21日から,被控訴人Y6については同年8月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人レクセム,被控訴人Y1,被控訴人Y2,被控訴人Y3,被控訴人Y5,被控訴人Y6,被控訴人Y7及び被控訴人Y8は,控訴人X2に対し,各自1973万3092円及びこれに対する被控訴人Y3及び被控訴人Y5については,平成24年4月20日から,被控訴人レクセム及び被控訴人Y2については,同月21日から,被控訴人Y1については同月25日から,被控訴人Y8については同年5月4日から,被控訴人Y7については同年7月21日から,被控訴人Y6については同年8月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,控訴人らが,被控訴人レクセム証券株式会社(被控訴人レクセム)の取締役であったBによる違法な勧誘行為により,出資金の名目で金員(控訴人X1については300万円,控訴人X2については1900万2000円)を支払わされて損害を被ったと主張して,被控訴人レクセムに対し,同社のアドバイザーと称して上記勧誘行為に関与したCの不法行為に係る使用者責任,Bの不法行為に係る使用者責任,同社の代表取締役であった被控訴人Y1の不法行為に係る会社法350条(代表者の行為についての損害賠償責任)に基づく損害賠償責任又は共同不法行為に基づき,損害金(控訴人X1については上記300万円に弁護士費用30万円を加えた330万円,控訴人X2については上記1900万2000円から配当金等の名目で受領した金員の合計額106万2825円を控除した1793万9175円に弁護士費用179万3917円を加えた1973万3092円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,同社の取締役であった被控訴人Y1,被控訴人Y2,被控訴人Y3,被控訴人Y4及び被控訴人Y5に対し,共同不法行為責任又は会社法429条1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)に基づき(ただし,被控訴人Y4については控訴人X1に対する関係に限る。),同社の監査役であった被控訴人Y6,被控訴人Y7及び被控訴人Y8に対し,会社法429条1項に基づき,上記各損害金及び各遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人らが控訴した。
2 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張
前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のように補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁6行目の「同年12月23日」を「平成22年1月15日」に改める。
(2) 原判決8頁14行目の次に行を改めて次のように加える。
「(ウ) 控訴人X2は,配当金等の名目で121BANK等から合計106万2825円の返金を受けた(弁論の全趣旨)。
(3) 控訴人らは,控訴人ら訴訟代理人らに対し,本件訴訟の進行を委任して相当額の弁護士報酬を支払う旨約した(弁論の全趣旨)。」
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人らの請求は,被控訴人Y1及び被控訴人レクセムに対する請求は一部理由があり,その余の被控訴人らに対する請求は理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。
2 争点1(被控訴人レクセム等の共同不法行為責任の有無)について
争点1についての当裁判所の判断は,以下のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決17頁7行目から15行目までを次のとおり改める。
「(2)ア Bの不法行為について
前提事実及び証拠(甲B12,甲C11,控訴人X1本人,控訴人X2本人)によれば,Bは,121INTが運用する自動売買ソフトを用いたFXにより,月3パーセント程度の利益を恒常的に得ることができるとの虚偽の説明をして勧誘を行い,一般投資家に出資をさせるという商法(121商法)を行っていたところ,控訴人らに対しても,FXにより高利回りの利益を恒常的に得ることができるとの虚偽の説明をし,121商法に係る出資の勧誘を行ったこと,Bは,控訴人らに対して勧誘を行う際,121証券(被控訴人レクセムの当時の商号)のオーナーと名乗り,121INTが121証券と同じ121グループに属する会社であるとの説明をするとともに,出資金の運用は121証券が担当するとの説明をしたこと,控訴人らは,Bの上記勧誘,説明(以下「本件勧誘行為」という。)を信用して,本件各送金を行ったが,Bは,控訴人らからの送金に係る金員をFXで運用することはなく他の事業に流用した上,返金を不能とさせたことが認められる。
以上によれば,Bによる本件勧誘行為が控訴人らに対する不法行為を構成することは明らかである。
なお,Bが作成した被控訴人レクセム宛の文書(乙16)には,「121関連ファンド」として報道されていることに係る一連の行為を,121証券(被控訴人レクセム)の役員(代表取締役あるいは取締役)の立場で行ったことはない旨の,上記認定に反する記載がある。しかし,同文書は,その限度での記載に止まり,控訴人らに対する121商法に係る出資の勧誘行為について具体的な態様を記載した部分はないこと,後記認定のとおり,本件勧誘行為は,被控訴人レクセムの本社事務所で行われていること,控訴人らは,その尋問や陳述書において,Bが,被控訴人レクセムのオーナーと名乗ったことや,被控訴人レクセムが資金の運用を担当するとの説明をしたことや明確に供述していることに照らすと,上記文書の記載は,これをそのまま信用することはできず,上記認定を左右するものとは認め難い。」
(2) 原判決17頁16行目の「イ この点に関しては,前記前提事実のとおり,」を次のとおり改める。
「イ 被控訴人レクセムの不法行為について
前記前提事実のとおり,」
(3) 原判決18頁23行目の「この点を」を「,被控訴人レクセムが,Bと共同して,詐欺的な商法である121商法に係る出資の勧誘という不法行為を行ったとの控訴人ら主張事実を」に改める。
(4) 原判決18頁24行目から21頁15行目までを次のとおり改める。
「ウ 被控訴人Y1の不法行為について
(ア) 被控訴人Y1が,Bの勧誘行為が違法であることを知りながら,これを助長していたとの控訴人ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。そこで,以下,控訴人らの主張する被控訴人Y1の過失行為について検討する。
(イ) 前提事実,前記認定事実及び証拠(甲A2,5,9ないし11,13ないし15,20,21,甲B2,12,甲C11,乙7,9,10,19,控訴人X1本人,控訴人X2本人,被控訴人Y1本人)によれば,次の事実が認められる。
a Bは,平成20年頃から平成22年10月頃まで(前記のとおりBは平成18年10月18日から平成22年6月24日まで被控訴人レクセムの代表取締役ないし取締役)にかけて,121INTが運用する自動売買ソフトを用いたFXにより,月3パーセント程度の利益を恒常的に得ることができるとの虚偽の説明をして勧誘を行い,傘下の複数の代理店を通じて一般投資家に出資をさせるという商法(121商法)を行っていた。
b Bは,121商法を行う際,121証券(被控訴人レクセムの当時の商号)のオーナーと名乗り,121INTが121証券と同じ121グループに属する会社であるとの説明をするとともに,出資金の運用は121証券が担当するとの説明をした。
c Bは,121商法と同時期に,FXの自動売買ソフトを複数の代理店を通じて販売していたが,平成20年9月から平成21年9月までの間に,複数回にわたり,新宿区<以下省略>に所在する被控訴人レクセムの当時の本社事務所を訪問した上記ソフトの代理店関係者らに対し,トレーディングルーム等を見せるなどして同ソフトの説明を行い,その後も,平成22年4月頃までは同所において同様の説明を行っていた。
d Bは,121商法に係る出資の勧誘等を行う際に「121GROUP・121証券・121BANK・121FUND・121INT’L」等と記載のある名刺(甲A2)を配ったり,121証券(被控訴人レクセム)のアドバイザーの肩書並びに被控訴人レクセムの上記本社事務所の住所及び代表の電話番号の記載のある名刺(甲B2)を使用していたCと一緒に勧誘行為をしたりした。
e 平成20年6月24日に被控訴人レクセムの代表取締役に就任した被控訴人Y1は,被控訴人レクセムのホームページ上に,被控訴人レクセムが121研究所,121INT,121BANK及び121DEVELOPMENTと共に121金融グループを構成している旨の記載がされていた(甲A5)ことに気付き,これは誤りであるとの認識のもとに,同年8月20日までにこの記載を削除した(乙7)。
f Bによる上記勧誘行為により損害を被った投資家から被控訴人レクセムに対し苦情から寄せ始められたことから,被控訴人レクセムは,「当社との関係を装った投資勧誘について」と題する平成21年9月17日付けのプレスリリース(乙9)に,「最近,当社との関係を装い投資勧誘を行っている者がいるとの情報,問い合わせが寄せられていますが,弊社とは一切関係ございませんので,投資家の皆様には十分にご注意下さい。」との記載を,「投資家の皆様へ」と題する平成21年12月4日付けのプレスリリース(乙10)に,「今般,121証券株式会社(弊社)との関係を装いFX取引ソフト(自動売買ソフト等)の販売・勧誘を行っている者がいるとの報告がよせられております。弊社ではFX取引ソフト(自動売買ソフト)の販売は一切行っておりません。また,対面及び電話による取引勧誘は一切行っておりません。弊社または弊社関連会社を騙る不審なセールスには十分ご注意下さい。」との記載をした。
g Bは,平成20年7月14日に被控訴人レクセムの代表取締役を退任した後,平成22年6月24日まで被控訴人レクセムの取締役であったが,代表取締役の退任後,FXシステムの担当取締役として被控訴人レクセムの本社事務所内に執務室が与えられており,被控訴人レクセムのシステムに,担当者の手に負えないようなトラブルが発生した際には,その対応をしていた。
h 控訴人らがBから本件勧誘行為を受けた場所は,新宿区<以下省略>に所在する被控訴人レクセムの当時の本社事務所であった。
(ウ) 上記(イ)c,hの場所に関する認定に対しては,被控訴人らはこれを争っている。
しかし,前記認定事実及び証拠(甲A9ないし11,13ないし15,20,21,甲B12,甲C11,控訴人X1本人,控訴人X2本人,被控訴人Y1本人)によれば,控訴人らは,Bから,被控訴人レクセムの事務所との説明を受けた場所において,本件勧誘行為を受けたこと,D,E,F,G,H及びI(上記(イ)cの自動売買ソフトの代理店関係者ら)は,Bから,被控訴人レクセムの事務所との説明を受けた場所において,FXの自動売買ソフトによる資産運用の説明を受けたこと,上記各場所はいずれも新宿区西新宿内にあること,上記事務所内には,ディーリングルームないしトレーディングルームがあり,複数のパソコンのモニターがチャートを表示していたこと,Bは,上記各説明をした当時,新宿区西新宿所在の被控訴人レクセムの本社事務所内に,執務室を有していたこと,被控訴人レクセムの本社事務所内には,複数のパソコンのモニターが設置されていたことが認められるところ,仮に控訴人ら2名と上記Dら6名の者が訪問した場所が,新宿区西新宿に所在する被控訴人レクセムの本社事務所でないとすると,Bは,上記各説明をする場所として,新宿区内に事務所を確保し,同事務所内に複数のパソコンを設置していたことになる。しかし,Bが,被控訴人レクセムの本社事務所内に執務室を有しているにもかかわらず,上記各説明をするだけのために,新宿区内に事務所を確保し同事務所内に複数のパソコンまで設置したというのは極めて不自然であるし,そのような事実をうかがわせる証拠もない。Bがもともと新宿区西新宿内に,複数のパソコンのモニターが設置されている事務所を確保して使用しており,その事務所を上記各説明のために利用したという可能性についても,これをうかがわせる証拠はない(なお,Bが使用していた名刺(甲A2)には,新宿区<以下省略>所在の新宿aビルに,Bの執務室があるかのような記載があるが,この執務室が本件勧誘行為や上記Dら6名に対する説明の場所として利用されていたことをうかがわせる証拠はない。)。以上によれば,上記認定のとおり,控訴人らがBから本件勧誘行為を受けた場所は,被控訴人レクセムの当時の本社事務所であったと認めるのが相当である。
なお,控訴人らは,ディーリングルームの近くに簡易なパーティションで仕切った会議室や,ガラス張りの壁の中からディーリングルームの見える会議室が存在したと供述するところ,そのような会議室は存在しなかったことをうかがわせる証拠(乙3ないし5,19,被控訴人Y1本人)もある。しかし,上記各証拠は,1枚の図面(乙3)と供述証拠(乙4,5,19はいずれも陳述書)にすぎず,上記会議室の存在を否定する客観的な証拠とまでは評価できない。仮に,会議室の状況に関する控訴人らの上記供述が事実に反するとしても,その限りで記憶違いがあったとの説明が可能である上,控訴人らの他に複数の者が,Bから被控訴人レクセムの事務所との説明を受けた場所において,FXの自動売買ソフトによる資産運用の説明を受けていることに照らすと,会議室の状況に関する上記供述により,控訴人らが訪問した場所が被控訴人レクセムの事務所であったとの供述の信用性までもが左右されるとは認め難い。そうすると,上記各証拠は,控訴人らがBから121商法に係る出資の勧誘を受けた場所が被控訴人レクセムの当時の本社事務所であったとの上記認定を左右するものとは認め難い。
(エ) 上記(イ)の認定事実に基づき検討する。
被控訴人Y1が,平成20年8月には,自社のホームページに被控訴人レクセムが121INT等と121グループを形成している旨の偽りの記載がされていたことに気付いていたことは前記(イ)eで認定したとおりである。また,被控訴人レクセムは,平成21年9月17日付けのプレスリリースに前記(イ)fで認定したとおりの記載をしていたものであるから,被控訴人Y1は,同日までに,121商法の対象になった一般投資家からの問い合わせ等から,何者かが被控訴人レクセムとの関連を装って121商法やFXの自動売買ソフトの販売を行っていることを認識していたものと推認することができる。さらに,Bは,本件勧誘行為をした当時,被控訴人レクセムの取締役であって,被控訴人レクセムの本社事務所内に執務室を有していたところ,上記のとおり,平成20年9月から平成21年9月までの間に,複数回にわたり,被控訴人レクセムの当時の本社事務所を訪問したFXの自動売買ソフトの代理店関係者等に対し,トレーディングルーム等を見せるなどしてFXの自動売買ソフトの説明をしていたことは,前記(イ)c,gで認定したとおりである。
以上の事実によれば,被控訴人レクセムの代表取締役である被控訴人Y1は,平成21年9月17日以前の時点において,Bや被控訴人レクセムの従業員に対する事情聴取等の適切な調査を行えば比較的に容易に,Bが被控訴人レクセムの当時の商号(121証券)が121グループ会社と紛らわしいものであることを利用し,121INTが被控訴人レクセムを含む121グループ会社の一つである等と偽ることにより,被控訴人レクセムの信用を悪用して121商法やFXの自動売買ソフトの販売を行っていた事実を知り,121商法による被害の拡大を防止することができたものと推認することができる。
しかるに,証拠(乙19,被控訴人Y1本人)によれば,被控訴人Y1は,本件勧誘行為が行われた時点においても,上記事実を知らなかったことが認められるから,上記適切な調査を行うべき義務の履行を怠り,121商法による被害の拡大を防止することができなかったため,控訴人らが本件勧誘行為を受け121商法の被害に遭った(控訴人X1の送金は平成21年10月23日に,控訴人X2の送金は平成22年1月から3月にかけて,それぞれ行われている。)ものと認めることができる。したがって,被控訴人Y1は,控訴人らに対し,過失による不法行為責任を負う。
エ 被控訴人Y2,被控訴人Y3,被控訴人Y5及び被控訴人Y4の不法行為について
上記被控訴人らが,Bの勧誘行為が違法であることを知りながらこれを助長していたとの控訴人ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
また,上記被控訴人らは,被控訴人レクセムの代表権を有しない取締役にすぎなかったことに照らすと,上記ウ(イ)の認定事実を踏まえてもなお,上記被控訴人らに,上記ウ(エ)で認定した被控訴人Y1と同様の義務(適切な調査を行うべき義務)を認めることはできない。
以上によれば,上記被控訴人らには,控訴人ら主張の不法行為責任を認めることはできない。
(3) 共同不法行為責任の成否について
控訴人らは,Bの不法行為と被控訴人Y1の不法行為は,共同不法行為を構成すると主張するが,上記(1)のとおり,共同不法行為が成立するためには,行為者の間に客観的な関連共同性が存在することが必要であるところ,上記認定に係るBの故意による不法行為と,被控訴人Y1の過失による不法行為との間には,それらの行為の内容に照らすと,客観的な関連共同性が存在するとは認め難いから,控訴人らの上記主張は採用することができない。」
3 争点2(被控訴人レクセムの会社法350条に基づく損害賠償責任の有無)について
争点1での認定によれば,被控訴人レクセムの代表取締役である被控訴人Y1は,その職務を行うにつき不法行為をして控訴人らに損害を与えたものと認められるから,被控訴人レクセムは,会社法350条に基づき,その損害を賠償すべき責任を負う。
4 争点3(被控訴人役員らの会社法429条1項に基づく損害賠償責任の有無)について
本件全証拠によるも,被控訴人役員らが悪意又は重過失により任務を懈怠したとは認め難い(被控訴人Y1に過失による不法行為が成立することは争点1で認定したとおりであるが,適切な調査を行わなかったことが重過失に基づくものであるとまでは認め難い。)。
したがって,控訴人らの被控訴人役員らに対する会社法429条1項に基づく損害賠償責任に係る請求には理由がない。
5 争点4(被控訴人レクセムの使用者責任の有無)について
(1) Cの行為に関する使用者責任
上記の点に対する判断は,原判決23頁7行目の「原告X1が」から9行目の「あって,」までを削除するほかは,原判決の事実及び理由の第3の4(2)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) Bの行為に関する使用者責任
ア 控訴人らは,被控訴人レクセムはBの行為について使用者責任を負う旨主張するので,この点につき検討する。
イ 民法715条1項にいう「事業の執行について」とは,被用者の職務執行行為そのものには属しないが,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するとみられる場合をも包含するものであり,被用者の行為が被用者の分掌する職務と相当の関連性を有し,かつ,被用者が使用者の名で権限外にこれを行うことが客観的に容易である状態に置かれているとみられる場合には,外形上の職務行為に該当すると解することができる。
しかるに,前記認定事実及び証拠(乙19,被控訴人Y1本人)によれば,Bは,FXシステムの担当取締役として被控訴人レクセムの本社事務所内に執務室が与えられていたが,その職務の具体的内容は,被控訴人レクセムのシステムに担当者の手に負えないようなトラブルが発生した際にはその対応をするなどというものであって,対外的な営業行為は含まれていなかったことが認められるところ,自動売買ソフトを用いたFXにより高利回りの利益を恒常的に得ることができるという商法(121商法)に係る出資を勧誘する本件勧誘行為は,対外的な営業行為を含まないBの職務と相当の関連性を有するとは解し難いから,外形上の職務行為に該当すると認めることはできない。
したがって,控訴人らの被控訴人レクセムに対するBの行為に関する使用者責任に係る請求は理由がない。
6 過失相殺について
前提事実,証拠(控訴人X1本人,控訴人X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,①控訴人らは,本件勧誘行為を受け,高利回りの利益を恒常的に得ることができることを期待して,本件各送金を行って資金を出資したものであるが,その運用態勢や管理態勢について合理的な説明資料を示されたわけではなかったこと,②控訴人らは,被控訴人レクセムとの間で,出資した資金に関する運用契約や管理契約の締結などについて,書類の授受は一切行っていないこと,③本件各送金の送金先は,被控訴人レクセム名義の口座ではなく,121FX,121INT,121GROUP,121BANK名義の口座であったこと,④以上のような状況のもとで,控訴人らは,Bに対し,説明資料の交付を求めたり,Bの職務権限の具体的内容を確認したりすることはなかったことが認められる。上記認定事実に照らすと,本件勧誘行為を受け本件各送金を行ったことにより控訴人らに発生した損害については,控訴人らの過失も大きく寄与していることが明らかであって,その過失の割合は7割とするのが相当である。
7 結論
以上によれば,被控訴人レクセム及び被控訴人Y1は,控訴人らに対し,Bの不法行為により控訴人らが被った損害の3割の限度で,それぞれ不法行為責任又は会社法350条の責任を負うこととなる(両者の債務は不真正連帯の関係となる)。そうすると,控訴人X1について,被害額である300万円の3割である90万円の請求については理由があるところ,弁護士費用相当額は9万円と認めるから,被控訴人レクセム及び被控訴人Y1は,控訴人X1に対し,各自,上記の合計額99万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日である被控訴人レクセムについては平成24年4月21日から,被控訴人Y1については同月25日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。また,控訴人X2について,被害額1793万9175円の3割である538万1752円については理由があるところ,弁護士費用相当額は53万円と認めるから,被控訴人レクセム及び被控訴人Y1は,控訴人X2に対し,各自,上記の合計額591万1752円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被控訴人レクセムについては平成24年4月21日から,被控訴人Y1については同月25日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
控訴人らの被控訴人レクセム及び被控訴人Y1に対する請求は上記の限度で理由があるが,その余の請求及びその余の被控訴人らに対する請求は理由がない。
8 よって,控訴人らの被控訴人レクセム及び被控訴人Y1に対する請求については,これを全部棄却した原判決は一部失当であり,控訴は一部理由があるから,以上と結論を異にする原判決を一部変更し,その余の被控訴人らに対する請求については,これを棄却した原判決は相当であり,控訴はいずれも理由がないから,棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田俊雄 裁判官 佐藤美穂 裁判官 德岡治)