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東京高等裁判所 平成26年(ネ)6246号 判決 2015年4月22日

神奈川県<以下省略>

控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

島幸明

東京都渋谷区<以下省略>

被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。)

第一商品株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

川戸淳一郎

主文

1  一審被告の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

(1)  一審被告は,一審原告に対し,4826万6660円及びこれに対する平成23年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  一審原告のその余の請求を棄却する。

2  一審原告の本件控訴を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その2を一審原告の負担とし,その余を一審被告の負担とする。

4  この判決は,1項(1)について仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  一審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  一審被告は,一審原告に対し,8042万1100円及びこれに対する平成23年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  一審被告

(1)  原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

(2)  一審原告の請求を棄却する。

第2事案の概要

1  一審被告は,商品先物取引業者(商品先物取引法の適用を受ける商品取引所の市場における上場商品の売買取引の受託等を業とする者。以下同じ。)であるところ,本件は,一審被告との間で締結した商品先物取引委託契約(以下「本件契約」という。)に基づいて商品先物取引をした一審原告が,同取引に関してなされた一審被告の従業員による勧誘等に,適合性原則違反,新規委託者保護義務違反,説明義務違反その他一連の違法行為があり,これによって取引差引損7311万1100円の損失を被ったと主張して,一審被告に対し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として8042万1100円(上記取引差引損相当の損害金と弁護士費用相当額731万円の合計額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,一審原告が主張する違法行為のうち,一審被告の従業員が,一審原告の取引開始後,①投資可能額の増額を認めて取引を継続及び拡大させた行為について,適合性原則違反の,②受託取引の内容について新規委託者保護義務違反の各違法があったことを認め,その余の義務違反等の違法行為は認められないとし,一審原告の過失割合を3割として過失相殺をした上,一審原告の請求の一部を認容した。そこで一審原告と一審被告がそれぞれ控訴を提起し,上記第1のとおりの判決を求めた。

2  前提事実,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,次項のとおり原判決を付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,略語は原則として原判決の例による。

3  原判決への付加訂正

原判決5頁4行目の「示された」の次に「経済産業省制定に係る「」を加え,同頁5行目の「関するガイドライン」の次に「」(甲35)」を加え,同頁7行目から8行目にかけての「被告の受託管理規則」を「一審被告作成に係る「受託業務管理規則」(乙34)」と改め,同頁9行目の「原則とし」の次に「(7条2項④号)」を加え,同頁10行目の「必要としていること」の次に「(同条3項①号)」を加える。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,一審被告には,取引を継続及び拡大させた行為についての適合性原則違反,新規委託者保護義務違反の違法が認められるが,その余の違法は認められず,一審原告の過失割合は4割とすべきであるから,一審原告の本訴請求は,一審被告に対し,損害賠償として4826万6660円及びこれに対する平成23年9月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がないものと判断する。その理由は,当審における当事者の主張を踏まえて次のとおり補足するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決への付加訂正

(1)  原判決17頁4行目の「午後5時頃」を「午後4~5時頃」と改め,同行の「乙14,」の次に「25,」を加える。

(2)  原判決20頁9行目「取引を止めることを提案」の次に「し,又はそのような選択肢を提示」を加える。

(3)  原判決22頁14行目の「Gは,」の次に「後記ケのとおり」を加え,同頁23行目の「15日であること」の次に「や,郵送された際の同日付け消印のある封筒(乙29の2)が存在すること」を加える。

(4)  原判決24頁11行目の後に行を改め,「Eは,以上のような一審原告との会話の後,一審原告に対し,「今まで投資はやってたんですか。」と,それまでの投資経験を聞いた。これに対し,一審原告は,叔父が商品先物取引のカネツ商事の創業者であったとして,思い出話を語り,さらに自分は商品相場をやったことはなかったが,昔,友人の父親が大豆と小豆の相場に退職金を全部つぎ込んで失敗したことを知っており,そのようなことから,「怖いもんだから絶対やるな」と言われたことがある旨などを話した。」を加える。

(5)  原判決30頁12行目の「照らし,」を「照らすと,一審原告は,きっかけこそ金地金の購入であったが,かねてより商品先物取引の経験者の悲惨な失敗例を知っていた上,その危険性を具体的に記載した「商品先物取引・委託のガイド」の交付を受け,これに基づいた説明を受けた上で取引を開始したのであり,」と改める。

(6)  原判決30頁26行目「取引を拡大,継続させたこと」の次に「(前記のとおり,一審被告従業員から全ての建玉を決済して取引を止めることが提案,提示されることはなかった。)」を加える。

(7)  原判決33頁17行目末尾に行を改め以下のとおり加える。

「ところで,一審被告は,Cがリスク喚起をして一審原告の意向を確認したところ,一審原告が投資可能金額の増額を任意に判断したのであるから,それ以上に一審原告の申告した金融資産の内容を具体的に質問するなどして投資可能金額の増額を阻止すべき義務が一審被告にあるとはいえないなどと主張する。しかしながら,前記認定事実(3)エ(ア)ないし(イ)のとおり,平成20年10月22日から23日にかけて一審原告の損失が拡大する中で,Dは,追い証拠金を入れること,そのために投資可能金額を増額する方向での提案しかしておらず,全ての建玉を決済して取引を止めることを提案,提示していないのであり,一審原告の意向がこのような過程を経て形成されていることを考慮すると,一審原告が投資可能金額の増額を任意に判断したとの一審被告の主張は,当を得たものとはいえない。また,Cは,平成20年9月17日付けの取引口座開設申込書(乙4)に一審原告が「流動資産8000万円,投資可能金額4000万円」と記入していたこと(認定事実(2)ウ)及び同日付けの当初申出書(乙7)に流動資産8000万円の内訳を記載していたことを認識していたと認められ,それから1か月余しか経過していない同年10月23日に約1600万円の損失を被っている一審原告が8000万円の金融資産を維持しているはずがないこと及び2回目申出書に書かれた流動資産の内訳が当初申出書と全く同じという通常あり得ない内容となっていることを容易に認識し得たことは前記したとおりである。このような認識の下で,あえてその問題を掘り下げず,不問に付して一審原告の金融資産の全て又は大部分を投げ打つ結果につながりかねない投資可能金額の増額を一審被告が容認したことは,上記のような一審原告の意向の形成過程と併せて評価すると適合性原則に違反するものといわざるを得ない。」

(8)  原判決35頁12行目「また,」から18行目「合理的である。」までを以下のとおり改める。

「なお,1審被告は,日本商品先物取引協会の連絡文書(乙44)を引用して,新規委託者保護義務における建玉時の「取引証拠金等」の中に追い証拠金が含まれないとの主張と同旨の見解の下に実務の運用がなされているとの主張をしている。しかしながら,上記(1)のとおり,新規委託者が取引開始当初の習熟期間中に不測の損害を被らないように取引を抑制するという点に新規委託者保護義務の趣旨があることに鑑みると,本件のように新規委託者が取引を開始してから1か月余りのうちに損失が拡大し,新規委託者において追い証拠金の入金を迫られるという事態に新規委託者保護義務が及ばないということは相当でなく,上記の日本商品先物取引協会の連絡文書の記載にある見解は採用できない。以上によれば,新規委託者保護義務の目安となる取引証拠金には追い証拠金を含むと解すべきである。」

(9)  原判決37頁6行目の「3時間」を「2~3時間」と改める。

(10)  原判決39頁16行目の「証人D)。」の次に「この「商品先物取引・委託のガイド」は,一審原告の学歴,職歴から推認できる日本語の理解力をもってすれば,内容を十分に理解することが可能な程度の文章からなっており,ここには商品先物取引の危険性についても十分に理解可能な内容の警告が記載されている。」を加える。

(11)  原判決45頁20行目「原告は,」の次に「過去に先物取引に失敗した事例について聞いていたことなどから先物取引の危険性についての一般的知識は有していた上,」を加える。

(12)  原判決45頁22行目「理解し得る状況にあったといえる。」の次に「前記のとおり,この説明に説明義務違反を認めるべき事情はない。」を加える。

(13)  原判決46頁4行目「見当たらず,」の次に「かえって積極的な投機的取引の意向を維持していたのであり,」を加える。

(14)  原判決46頁14行目の「3割」を「4割」と改め,同頁16行目の「5117万7770円」を「4386万6660円」と,同行の「(1-0.3)」を「(1-0.4)」と,同頁20行目の「510万円」を「440万円」と,同頁22行目と24行目から25行目にかけての「5627万7770円」を「4826万6660円」と改める。

3  したがって,一審原告の請求は,一審被告に対し,4826万6660円及びこれに対する平成23年9月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり,その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ,これと一部異なる原判決を上記判断に従って変更することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野邦夫 裁判官 若林辰繁 裁判官 本吉弘行)

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