大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成26年(行コ)289号 判決 2014年12月25日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成23年3月4日付けでした標準報酬の改定の請求を却下する旨の処分を取り消す。

3 被控訴人は,控訴人とAとの間の原判決別紙3「年金分割のための情報通知書(厚生年金保険制度 )」 記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.45に改定せよ。

第2事案の概要等

1 本件は,平成20年12月22日に夫であったA(昭和23年3月6日生,平成21年4月1日頃死亡)との間で原判決別紙3「年金分割のための情報通知書(厚生年金保険制度 )」 記載の情報(以下「本件情報」という 。) に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0 . 45とすることに合意して離婚した控訴人(昭和29年2月10日生)が,平成22年3月5日に厚生労働大臣に対して厚生年金保険法(以下「厚年法」という 。) 78条の2第1項の規定に基づき対象期間に係る被保険者期間の控訴人及びAの標準報酬の改定の請求(以下「本件標準報酬改定請求」という 。) をしたところ,同大臣から事務の委任を受けた被控訴人から,平成23年3月4日付けで,本件標準報酬改定請求はAが死亡した日から起算して1月以内にされたものではなく,厚生年金保険法施行令(以下「厚年法施行令」という 。) 3条の12の7(平成24年政令第197号による改正前のもの。以下,単に「厚年法施行令3条の12の7」という 。) が定める場合に該当しないとして却下処分(以下「本件処分」という 。) を受けたため,被控訴人に対し,厚年法施行令3条の12の7が上記改定請求の期間を第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算して1月以内に限定しているのは,厚年法78条の12による委任の範囲を逸脱した違法なものであるなどと主張して,本件処分の取消し及び本件情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0 . 45に改定すること(以下,この改定請求に係る部分を「本件義務付けの訴え」という 。) を求めている事案である。

原判決は,上記の控訴人の主張を排斥して本件処分の取消請求を棄却した上,行政事件訴訟法3条6項2号所定の申請型の義務付けの訴えが許されるのは,法令に基づく申請を却下し,又は棄却した処分が取り消されるか,無効若しくは不存在であるときに限られるが(同法37条の3第1項2号), 本件処分は取り消されるべきものではなく,無効若しくは不存在でもないから,本件義務付けの訴えは不適法なものであるとして却下した。

そこで,これを不服とする控訴人が,原審と同様の主張をして,本件控訴をしているものである。

2 本件における関係法令の定め,前提事実並びに主な争点及びこれに関する当事者の主張の要旨は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の1ないし3(原判決別紙1及び2を含む 。) のとおりであるから,これを引用する(ただし,以下,原判決を引用する場合は,「原告」を「控訴人」と,「被告」を「被控訴人」と,「別紙」を「原判決別紙」と,「あん分割合」を「按分割合」と,それぞれ読み替える。)。

(原判決の補正)

(1) 原判決20頁9行目の「制限したのではなく,」の次に「特例的に按分割合の合意後(公正証書・私署証書を作成した場合に限る。)又は裁判所による按分割合の決定後に限って,」を加える。

(2) 原判決21頁17行目の「同令」を「政令」と改める。

(3) 原判決21頁18行目の「同令」を「厚年法施行令」と改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の主張は理由がないから,本件処分の取消しを求める請求は棄却し,本件義務付けの訴えは却下すべきものであると判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決6頁21行目の「趣旨」を「原則」と改める。

(2) 原判決6頁22行目の「観念され得ないもの」を「存在しないもの」と改める。

(3) 原判決7頁2行目の「ないことから ,」 の次に「請求すべき按分割合に関する合意が成立せず,又は家庭裁判所にその申立てをする以前である場合はもとより,按分割合に関する公正証書若しくは私署証書作成による合意をした後又は裁判所による按分割合の決定後であっても ,」 を加える。

(4) 原判決8頁4行目冒頭から同頁6行目の「前提に ,」 までを次のとおり改める。

「ア 控訴人は,厚年法78条の2第1項は離婚後2年間という長期間の標準報酬改定請求の期間を設けて標準報酬改定請求の機会を実質的に保障しているから,2年間の請求期間中でありながら,その請求前に第1号改定者が死亡することもあり得るが,そのような事態が発生した場合に,同法45条により第2号改定者が標準報酬改定請求をすることができなくなるのでは,同法78条の2第1項によって離婚後2年間の改定請求を保障した趣旨が没却されるから,同法78条の12は,標準報酬改定請求の期間中,標準報酬改定請求前の第1号改定者の死亡が第2号改定者の標準報酬改定請求に影響を及ぼさないような規定の制定を厚年法施行令に委任したものであるとの理解を前提に,」

(5) 原判決8頁23行目から同頁24行目の「標準報酬を観念することができない」を「標準報酬が存在しない」と改める。

(6) 原判決9頁23行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 また,控訴人は,上記のとおり,標準報酬改定請求の期間中の標準報酬改定請求の前に第1号改定者が死亡する事態も当然に考えられるところ,離婚後の夫婦が互いに連絡を取り続けることはまれであり,第2号改定者が第1号改定者の死亡を早期に知ることは困難であるといわざるを得ないから,厚年法施行令3条の12の7が定めるように標準報酬改定請求期間を第1号改定者の死亡後1月に限定する合理的な理由は見い出せないのであって,第2号改定者は第1号改定者の死亡を知ることができないまま,標準報酬改定請求の機会を奪われるに等しいとも主張している。

しかし,本件の控訴人は,夫であったAとの間で請求すべき按分割合についても合意した上で離婚したものであって,直ちに厚生労働大臣に対して標準報酬改定請求をすることができ,仮にその後にAが死亡したとか,そのことを知らなかったとしても,それらのことには関係なく,標準報酬改定請求の権利を行使することが可能であったから,控訴人の上記主張は,その前提において失当というべきものである。ちなみに,厚年法施行規則78条の3第2項は,離婚等の後2年経過後に裁判等により請求すべき按分割合が定まった場合には,標準報酬改定請求の事務手続等のための期間として1月の猶予期間を認めていることが認められるのであって,改定請求が可能となった後の猶予期間は,本件で問題となっている厚年法施行令3条の12の7の場合と同じであるから,この同令の定めが特に不合理なものであるとまではいえず,控訴人の上記主張も採用することができない 。」

(7) 原判決10頁2行目の「いえず ,」 から同頁8行目末尾までを次のとおり改める。

「いえない。

この点について,控訴人は,控訴人がAの死亡を平成21年4月1日頃から1月以内に知ることはできなかったから,そのような控訴人にも厚年法施行令3条の12の7所定の期間を機械的に適用するのは,不可能を強いるものであり,不当であるとも主張している。しかし,仮に控訴人の主張に従って,控訴人がAの死を知った日を上記1か月の猶予期間の起算日とすると,補正の上引用した前記第2の2(14)のとおり,控訴人は,平成21年7月3日にはAが死亡したことを知ったものであり,同年8月3日までに本件標準報酬改定請求をすべきであったということになるが,実際に控訴人が本件標準報酬改定請求をしたのは平成22年3月5日であって,平成21年8月3日からでも既に8か月が経過しているから,控訴人の上記主張は,その前提を欠いていることが明らかである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

なお,控訴人は,離婚時年金分割制度創設以前は,離婚する夫婦が将来支払われるであろう厚生年金を加味した財産分与に合意しさえすれば,それによって財産分与請求権が確定され,離婚後の一方当事者の死亡によって影響を受けることはなかったのに,離婚時年金分割制度創設後は,離婚する夫婦の合意に加えて,社会保険庁長官に対して標準報酬改定請求を行うことが要件とされ,しかも,離婚後に一方当事者が死亡した場合には1か月という短期間に上記の標準報酬改定請求をしなければ双方の合意を反映した厚生年金を受給できなくなるというのでは,同制度創設前に比べて第2号改定者の権利保障が弱められてしまう結果になり,不当であると主張している。

確かに,せっかくの元夫との合意が無になってしまうのは,控訴人にとっては残念な結果であることは十分に理解できるが,しかし,これまでも説示したように,控訴人については,Aとの離婚に際して請求すべき按分割合についての合意ができており,控訴人は直ちに厚生労働大臣に対して標準報酬改定請求をすることができたのに,離婚後約1年2か月にわたって標準報酬改定請求をしないでいたため,結果的にその間に権利を失うに至ったものであって,その責任を控訴人が負うのは致し方ないところであるから,控訴人の上記主張は,その前提において失当であり,そのような控訴人による本件標準報酬改定請求を却下した本件処分は適法なものである 。」

2  よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 須藤典明 裁判官 小池晴彦 裁判官 小濱浩庸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例