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東京高等裁判所 平成26年(行コ)457号 判決 2015年4月22日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  芝税務署長が,控訴人aに対し,平成21年2月27日付けでした,平成17年分の贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成21年7月6日付けでされた異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  芝税務署長が,控訴人bに対し,平成21年2月27日付けでした,平成17年分の贈与税の更正処分のうち,課税価格30億2520万円及び納付すべき税額6億0004万円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成21年7月6日付けでされた異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第2事案の概要(以下,特に注記しない略語は原判決の例による。)

1(1)  控訴人aは,平成17年3月31日当時,酒類食料品の卸売等を目的とするc株式会社(c)と不動産賃貸を目的とするd合名会社(平成17年3月31日当時。(d))及び有限会社e(e)の代表者であり,cの株主かつd及びeの社員である。

控訴人bは,控訴人aの子であり,cの株主でありdの社員である。訴外f(f)は,控訴人aの母,控訴人bの祖母であり,平成17年3月31日まで,eの社員であった。

(2)  平成17年3月31日当時,cの発行済株式総数は700万株で,控訴人aが39万1150株,控訴人bが5万株,dが198万9100株,eが200万株を保有していた。dの出資総額は3000万円(60万口)で,控訴人aが1990万円(39万8000口),控訴人bが10万円(2000口)の出資持分を保有していた。eの資本総額は1億円(10万口)で,その出資持分(本件e出資)は,fが4799万5000円(4万7995口),控訴人aが5000円(5口)であったほか,cの取引先である酒造会社等13社(本件13社)が各400万円(各4000口)の持分を保有していた。c,d及びeは,いずれも同族会社に該当する会社であった。

(3)  fは,平成17年3月31日,自己が有していた本件e出資の全部を以下のとおり,いずれも代金を1口当たり3万9235円として売却した(本件各譲渡)。

ア 2万4000口(譲渡先・c,代金・9億4164万円)

イ 2万3995口(譲渡先・d,代金9億4144万3825円)

(4)  控訴人aは,同年5月9日,控訴人bに対し,dの出資持分1290万円(25万8000口)を贈与し(本件出資贈与),また,現金6億円を贈与した(本件現金贈与)。

控訴人bは,平成18年2月28日,本件出資贈与及び本件現金贈与に係る平成17年分の贈与税の申告書を芝税務署長に提出した。

(5)  芝税務署長は,本件各譲渡が時価より著しく低い価額の対価でされたもので,その結果いずれも同族会社であるcの株式及びdの持分の価額が増加したことから,控訴人aは相続税法9条(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「対価を支払わないで」「利益を受けた」者と認められ,同条により,上記の価額が増加した部分に相当する金額を控訴人aがfから贈与により取得したものとみなされるとして,平成21年2月27日付けで,控訴人aに対し,原判決別表1の順号1の各欄に記載のとおり,平成17年分の贈与税の決定処分(本件決定処分)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人a賦課決定処分」といい,本件決定処分と併せて「本件決定処分等」という。)をした。

(6)  また,芝税務署長は,前記(5)と同様に,本件各譲渡によるcの株式及びdの持分の価額増加分は,相続税法9条により控訴人bがfから贈与により取得したとみなされる上,本件出資贈与にかかるdの持分の価額が控訴人bの申告書の記載よりも高額になるとして,平成21年2月27日付けで,控訴人bに対し,原判決別表2の順号2欄に記載のとおり,平成17年分の贈与税の更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人b賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。また,本件決定処分等と本件更正処分等とを併せて「本件各処分」という。)をした。

(7)  控訴人らは,平成21年4月22日,芝税務署長に対し,それぞれ本件決定処分等と本件更正処分等とを不服として異議申立てをし,芝税務署長は同年7月6日付けで原判決別表1の順号3及び別表2の順号4の各欄記載のとおり本件各処分の一部を取り消す決定をした。控訴人らは,それら決定を経た後の本件各処分になお不服があるとして,平成21年8月4日,国税不服審判所長に対し,それぞれ審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成22年7月26日付けで,控訴人らの各審査請求を棄却する裁決をした。

(8)  本件は,控訴人らが,本件各譲渡に関し控訴人らに相続税法9条は適用されない,本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものではなく,控訴人らにおいて相続税法9条にいう「対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」ともいえない,などとして,控訴人aにおいて異議決定による一部取消後の本件決定処分等を,控訴人bにおいて同じく一部取消後の本件更正処分等を,それぞれ違法であると主張して,その取消しを求めた事案である。

2  原判決は,本件各処分はいずれも適法であるとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。

これに対し,控訴人らが控訴をして,第1記載のとおりの判決を求めた。

3  関係法令の定め,前提事実,本件各処分の根拠及び適法性に関する被控訴人の主張,争点及び争点に関する当事者の主張の要点は,次項4のとおり当審における控訴人らの主張の要点を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1項ないし5項に記載のとおりであるから,これを引用する。

4  当審における控訴人らの主張の要点

(1)  相続税法9条の適用要件について

相続税法基本通達9-2は,同族会社の株主等が贈与によって取得したものとみなす場合の例示として,①無償での財産の提供((1)),②低額での現物出資((2)),③債務の免除,引受け及び弁済((3)),④低額での財産の譲渡((4))を規定する。このうち,(2)はいわゆる資本等取引であるが,(1),(3),(4)はいわゆる損益取引である。

(2)のような資本等取引が行われた場合には,株主間での経済的利益つまり含み益の移動が生じ,これによって株主の所有株式の価額が直接影響を受けて増加する。このような株主間の経済的利益の移動は,会社の株価の増加と直接には関係がない。このような場合,株主間に経済的利益の移転があることは判例においても認められている。これに対し,相続税法では,個人が所有する資産に評価益が生じても,それだけの理由で贈与税を課税されることはないところ,このような個人資産の評価益が損益取引に基因して発生した場合も同様に課税をされるべきではない。例えば個人甲が同族会社に財産を低額譲渡した場合に,同族会社の株主乙の所有する株式の評価益は会社の資産等の増加に伴って株価が上昇したことによる反射的効果であって,経済的利益が甲から乙へと移動したとはいえない。このように,損益取引に起因する評価益は,当該譲渡者等から同族会社の株主等に移動したものではなく,経済的利益の移転がないのである。このような場合には,相続税法9条が予定する「当該利益を受けさせた者」と「当該利益を受けた者」との間の利益の授受(対立承継関係)が見られないのであるから,これに課税をすることは,同条の文言及び趣旨から乖離し許されない。

以上の検討の結果によれば,相続税法9条の「利益」は資本等取引に起因する利益であることを要し,相続税法基本通達9-2(4)が規定するような損益取引に起因する利益は,相続税法9条の規定する「利益」に該当しないと解するのが相続税法の解釈や判例からも妥当である。

(2)  本件e出資の本件各譲渡時の時価について

原判決が掲げる「本件e出資の購入及び売却の経緯等」は,本件に特有の事情ではなく,非上場有価証券の取引に関して一般的に妥当する事柄に過ぎない。本件13社は,いずれも日本を代表する大企業であり,株主に対する経営責任を果たすという観点から考えても,本件各譲渡に当たってcとの取引関係の強化又は維持に繋がり得るか否かを検討するのは当然のことである。したがって,これをdと本件13社との間の本件e出資の売買に売買実例として適正性がないとする理由とすることはできない。他方,原判決は,本件13社において本件e出資の譲渡に当たって譲渡価額の妥当性について十分に検討していたこと,本件13社は,本件各譲渡によって売買差益を得ていること,本件13社とdとの間に,資本関係は全くなく,同族関係にもなく,役員の兼任といった人的関係もないこと等の重要な事実を無視している。したがって,dと本件13社との間の本件e出資の売買を適正な売買実例と評価しなかった原判決は不当であり,これらを適正な売買実例として,同取引における1口当たり5000円の価格を本件e出資の本件各譲渡時の時価とすべきである(控訴人らの主張する売買実例に基づく評価方法は,非上場有価証券の評価方法として一般に認められているものである。)。

(3)  株式保有特定会社通達の適用について

株式保有特定会社通達(評価通達189-3)は,財産についての評価額と実際の取引価額との間の開差が租税回避行為に利用されるケースがあったことを契機に創設されたものであるから,租税回避行為の弊害の有無を株式保有特定会社該当性の考慮要素とすることも妥当かつ当然である。したがって,本件のような合理的な経済取引を行った結果として形式的に株式保有特定会社通達に該当した場合にまで,当該通達を適用すべきではない。

(4)  本件e出資に係る同族株主判定について

ア 評価通達6により,評価通達の定める方式以外の評価方式によって評価する場合には,国税庁長官の指示を受ける必要があるのに,原処分庁において本件e出資の評価に際し評価通達の定める方式以外の評価方式によって評価することに国税庁長官の指示を受けた事実はない。したがって,本件各処分には手続違反があり,これは課税庁を拘束する規範に違反した処分といえ,適正手続の保障にも違反し,違法性がある。

イ(ア) 平成18年度税制改正前は,同族関係者の判定につき,発行済株式等の50パーセント超を保有しない場合にこれを同族関係者とみなす課税実務は行われていなかった。同改正後においても,法人税法施行令4条6項は,判定の基礎となる株主等の意思に従って議決権を行使する旨の合意がある場合にのみ実質上の議決権者を保有者とみなして議決権割合を算定することとしている。したがって,改正前の同族関係者の判定は,議決権の割合によって形式的に判定すべきである。仮に実質判断をすべきであるとしても,他の会社を支配している場合の判定における議決権の割合は,その行使について合意がある場合に限られるべきである。

本件各譲渡の時において,eは控訴人a及びその同族関係者によって議決権総数の50パーセント超を保有されていないから,控訴人aらの同族関係者に該当せず,かつ,平成18年度税制改正後の法人税法施行令4条6項にいう合意もない。したがって,控訴人aらがeを実質的に支配していた事実はない。

(イ) 同族株主及び同族関係者の判定は評価通達188(1)から(4)に従うのが原則であり,評価通達188-3ないし6は,一定の場合にその例外を定める。したがって,上記通達に例外として規定されていない場合は当然に議決権を有するものとして議決権の数及び議決権の総数に含めて同族株主又は同族関係者該当性を判定すべきである。

原判決は,本件13社が社員総会に出席したり議案に反対したりする行動をとらなかったことを理由に,実質的に本件13社の議決権の数を議決権の総数から除くことにより,控訴人aの株主グループの保有割合を100パーセントと算出して評価通達を適用する。しかし,日本には,株式の持ち合いや取引相場のない株式の出資者等に議決権を行使しないいわゆる「物言わぬ株主」が多く存在する。それらについて,総会に出席しなかったことや白紙委任ないし賛成の委任状を提出したことをもって,すべて議決権がないものとして同族株主及び同族関係者該当性を判断することは極めて不合理である。

(ウ) 原判決が,eの社員及び出資口数の移動の有無,本件13社による本件e出資購入の動機,eの社員総会等における本件13社の現実の行動などの事情から控訴人a及びdにおいてeを実質的に支配する関係にあると認定したのは,その基礎となる事実関係の評価を誤ったものである。

(エ) 原判決は,評価通達が同族株主については議決権総数の30パーセントを,同族関係者については議決権総数の50パーセントを基準として株主を振り分けていることを無視し,いずれも「実質的な支配」という基準で判定している。これは評価通達の合理性を失わせるものである。

(オ) 原判決が,控訴人aらの「実質的な支配」という評価通達の定めと異なる判断基準により,eを控訴人a及びdの同族関係者に該当するとしたことは,租税平等主義,租税要件明確主義,適正手続の保障に違反し,許されない。

(5)  法人税額等相当額の控除について

本件において,仮に本件e出資を原則的な方式により評価すべきであるとしても,控訴人らが受けた利益の算定においては,本件e出資の評価に際し,法人税額等相当額を控除すべきである。

(6)  評価通達185ただし書の適用について

原判決は,eは控訴人a及びその同族関係者によって実質的に支配されていたなどとして,評価通達185のただし書を適用しなかった。しかし,原判決は,c及びdのeに対する議決権割合が31.57パーセントに過ぎなかった事実を無視し,公知の事実といえる一般的な出資者の態度に関する認識に反し,eにおいて出資者として慎重な対応が求められるような重要議案はなく,配当も順調に行われていた事実を見落として,誤った認定をしたものであり,eは控訴人a及びその同族関係者によって実質的に支配されていたのではない。原判決は,特定の納税者に対し不利益に評価通達の適用を排除するもので租税平等主義に違反する。また,実質的に課税要件として機能する評価通達185ただし書の規定の適用範囲を不明確にするもので,課税要件明確主義に違反する。さらに,手続面においても,国税庁長官の指示を経ることなく評価通達185に反する処分が行われた本件においては同通達6に違反する事実があるのに,原判決はこれを追認してしまった。

(7)  著しく低い価額の対価の判断方法について

原判決は,本件各譲渡につき時価より著しく低い価額の対価でされたものと認定するにあたり,その判断基準を示しておらず,課税に対する予測可能性を担保できず,租税法律主義の観点から妥当でない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,当審における控訴人らの主張を踏まえて次項2のとおり補足するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

2(当審における控訴人らの主張について)

(1)  相続税法9条の適用要件について

控訴人らは,相続税法9条の「利益」は資本等取引に起因する利益であることを要し,相続税法基本通達9-2(4)のような損益取引による利益はこれに当たらないと主張する。

しかし,相続税法9条の「利益」が法文上その発生原因となる取引を限定していると解すべき理由はない。また,相続税法基本通達9-2(4)は,同族会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合,その譲渡をした者と当該会社ひいてはその株主又は社員との間にそのような譲渡がされるのに対応した相応の特別の関係があることが一般であることを踏まえ,実質的にみて,当該会社の資産の価額が増加することを通じて,その譲渡をした者からその株主又は社員に対し,贈与があったのと同様の経済的利益を移転したものとみることができるから,株式又は出資の価額増加部分に相当する金額を贈与によって取得したものと取り扱う趣旨と解されることは,原判決が説示(原判決9頁25行目から10頁16行目まで)するとおりである。このような趣旨からすれば,控訴人らの主張するような取引による区別をする必要はないというべきである。

(2)  本件e出資の本件各譲渡時の時価について

控訴人らは,本件13社とdとの間の本件e出資取引に関して原判決が摘示した事実はいずれも非上場有価証券の取引において一般的に妥当する事柄にすぎないとした上で,本件13社とdとの間に資本関係並びに同族関係及び役員の兼任等の人的関係がないこと等の事情を指摘し,dと本件13社との間の本件e出資の売買取引は適正な売買実例と評価すべきであり,同取引における1口5000円の価格が本件e出資の本件各譲渡時の時価であると主張する。

しかし,控訴人らの指摘する事情を考慮に入れても,e設立時のg及び控訴人aの出資状況,gから本件13社が本件e出資を購入し,その後売却した経緯等の原判決が説示する事情(原判決15頁13行目から23頁14行目まで)に照らせば,eは設立以来控訴人aとg及びその承継人であるf,さらにその承継人であるdが実質的に支配してきたものであることは,原判決の判示するとおりであり(原判決26頁22行目から28頁8行目まで),そして,本件13社は,いずれも有力な取引先であるcとの取引関係の維持又は強化を動機として,gほかc側の働きかけに応じて本件e出資を購入し,c側にとってはいわゆる安定社員としてeの経営に協力してきた後,e代表者である控訴人aによる,hグループのガバナンスの見直しに伴う必要性を理由とした売却依頼に応じて,c側で指定した金額によるdへの売却に応じたものであることが認められる。本件13社の本件e出資取引に係る判断については,本件13社がいずれも有力酒造会社等であり,cがその商品の重要な販路となる酒類等の大手卸売会社であるという特殊な個別的関係に基づき,将来にわたるhグループとの取引関係の維持又は強化という売買目的物の客観的交換価値とは別個の考慮要素が反映され,eの支配継続を望むg及び控訴人aらの意向に沿って,購入や売却の取引に応じていたものであって,控訴人a及びその同族関係者の意向に反するような持分権者としての権利行使をする意図は終始なかったと推認することができる。したがって,このような特殊性を有するdと本件13社との間の本件e出資の売買取引をもって,目的物の客観的な交換価値に即した売買実例として適切と認めることはできず,同取引における1口5000円の価格をもって,本件e出資の本件各譲渡時の時価であるということはできない。この点,控訴人らは,本件13社が,いずれも日本を代表する大企業であり,株主に対する経営責任を果たすという観点から考えても,本件各譲渡に当たってcとの取引関係の強化又は維持に繋がり得るか否かを検討するのは当然であるからこのような事情から本件e出資の売買取引の特殊性を認めるべきでないと主張し,また,本件13社は,本件各譲渡によって売買差益を得ていることをも指摘するが,これらの事情や主張を考慮しても上記結論は左右されない。

(3)  株式保有特定会社通達の適用について

控訴人らは,株式保有特定会社通達の適用についてはいわゆる租税回避行為ないしその弊害を考慮要素とすべきであって,本件には株式保有特定会社通達が適用されないと主張する。しかし,その主張に沿う評価通達の定めはなく,資産構成が類似業種比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている評価会社について,原則的評価方式によっては適正な株式の価額の評価を行い難いことは,いわゆる租税回避行為ないしその弊害がある場合か否かによって異ならないから,上記主張を採用することはできず,本件出資の価額の評価については株式保有特定会社通達を適用して純資産価額方式又は「S1+S2」方式によるべきことは,原判決が説示(原判決32頁19行目から34頁20行目まで)するとおりである。

(4)  本件e出資に係る同族株主判定について

ア 控訴人らは,評価通達6により,評価通達の定める方式以外の評価方式によって評価する場合には,国税庁長官の指示を受ける必要があるのに,原処分庁において本件e出資の評価に際し評価通達の定める方式以外の評価方式によって評価することに国税庁長官の指示を受けた事実はないから,本件各処分には手続違反があり,これは課税庁を拘束する規範に違反した処分といえ,適正手続の保障にも違反し,違法性があると主張する。

しかし,評価通達6にいう「国税庁長官の指示」は,行政組織内部における指示,監督に関する定めと解すべきであり,これに反することが直ちに国民の権利,利益に不利益を与えるものとはいえないから,その指示の有無は本件各処分の効力に影響しないというべきである。

イ 控訴人らは,控訴人a及びdにおいてeを実質的に支配するような関係にはなく,本件において評価通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情はないなどとして,eを控訴人a及びdの同族関係者に当たるとした原判決を論難する。

しかし,eの設立から本件13社がdに対し本件e出資を売却するまでの経緯等の原判決が説示する事情(原判決15頁13行目から23頁14行目まで)に照らせば,eは設立以来控訴人aとg,f及びdが実質的に支配してきたものと認められることは,前記(2)のとおりである。このような事実関係を踏まえると,本件e出資の扱いにおいて評価通達188(1)等を形式的に適用することはかえって同通達188及び同通達188-2の趣旨にもとる結果となるから,同通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情があり,eは控訴人a及びdの同族関係者に該当するというべきことは,原判決が説示(原判決24頁16行目から30頁17行目まで)するとおりである。そして,このような特段の事情がある場合に,評価通達の定める評価方式以外の評価方式によって評価することは,それが合理的である限り租税平等主義に反するものではないことも,原判決が説示するとおりである。また,評価通達6は,同通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合には他の評価方式によることを明らかにしているのであるから,同通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情がある場合に他の合理的な評価方式による評価をしたことをもって,租税要件明確主義に反するということはできず,それが適正手続の保障に反するということもできない。

(5)  法人税額等相当額の控除について

控訴人らは,控訴人らが受けた利益の算定において,本件e出資の評価に際し,法人税額等相当額を控除すべき旨を主張する。

しかし,評価通達186-3注書きは,評価会社の所有する資産に取引相場のない株式があるときの当該株式の1株当たり純資産価額(相続税評価額)の計算に当たっては,同通達186-2の定めにより計算した評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないものとしている。これは,評価通達185が1株当たりの純資産額の算定に当たり法人税額等相当額を控除するものとしているのは,個人が財産を直接所有し,支配している場合と,個人が会社を通じて当該財産を間接的に所有し,支配している場合との評価の均衡を図るためであることを踏まえた上で,評価会社と同社が所有する株式の発行会社との関係においてさらに重ねて評価の均衡を図る必要はないとする趣旨であり,このような扱いは合理性を有するとみられる。そうすると,控訴人らの上記主張が,本件各譲渡により控訴人らが受けた利益であるc株式及びd出資の価額の増加額を算出するためのc株式及びd出資の純資産価額(相続税評価額)の算出において,法人税額等相当額を控除すべきこと(本件各処分に当たりこの控除がされていることは,原判決被告別表3及び同表5により明らかである。)に加えて,さらにc及びdが所有する本件e出資の純資産価額(相続税評価額)の算出においても,法人税額等相当額を控除すべき旨をいうのであれば,これを採用することはできない。

(6)  評価通達185ただし書の適用について

控訴人らは,eは控訴人a及びその同族関係者によって実質的に支配されていたものではないとして,本件e出資の評価に当たり評価通達185ただし書の定める評価方法を適用すべき旨を主張する。

しかし,関係証拠によれば,eは控訴人a及びその同族関係者によって実質的に支配されていたと認められることは,上記(4)イのとおりであるから,控訴人らの上記主張はその前提を欠く。なお,このような場合に評価通達185ただし書の適用をしなかったとしても,上記のような事実の下においては合理的な理由があるというべきであり,これをもって租税平等主義違反ということはできない。また,これが課税要件明確主義に反するともいえないことは,上記(4)イのとおりである。さらに,手続違反の主張についても上記(4)アと同様の理由によって採用できない。

(7)  著しく低い価額の対価の判断方法について

控訴人らは,原判決が本件各譲渡につき時価より著しく低い価額の対価でされたものと認定するにあたり,その判断基準を示していない等と論難する。

しかし,原判決が第3の2(4)(40頁)において説示するとおり,本件e出資の本件各譲渡の時における時価は,評価通達の定めにより評価した1口当たり8万1204円と認められるのであるから,fは,本件各譲渡により,cに対し本件e出資2万4000口を時価19億4889万6000円(1口当たり8万1204円×2万4000口)のところ9億4164万円(1口当たり3万9235円×2万4000口),dに対し本件e出資2万3995口を時価19億4848万9980円(1口当たり8万1204円×2万3995口)のところ9億4144万3825円(1口当たり3万9235円×2万3995口)でそれぞれ譲渡したことになるのであって,これを時価より著しく低い価額の対価でされたと認めたことに違法又は不当な点はない。また,控訴人らが主張するような判断基準を原判決が示していないからといって,上記判断が違法又は不当ということはできず,控訴人の主張は採用できない。

第4結論

以上によれば,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野邦夫 裁判官 若林辰繁)

裁判官 瀬川卓男は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野邦夫

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