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東京高等裁判所 平成27年(ラ)608号 決定 2015年6月12日

抗告人

同代理人弁護士

後藤富士子

相手方

同代理人弁護士

伊藤和子

未成年者

平成一九年○月○日生

未成年者

平成二二年○月○日生

主文

一  原審判を次のとおり変更する。

(1)  相手方は、本決定確定後、二か月に一回、抗告人が○○宛てに送付した未成年者らへの手紙を速やかに未成年者らに渡さなければならない。

(2)ア  相手方は、抗告人に対し、本決定確定後、四か月に一回、未成年者Aの近況を撮影した写真(未成年者Aの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならない。

イ  相手方は、抗告人に対し、本決定確定後、四か月に一回、未成年者Bの近況を撮影した写真(未成年者Bの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならない。

二  本件手続費用は、原審及び当審を通じて各自の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び理由等

抗告人の抗告の趣旨及び理由は別紙<省略>に記載のとおりであり、これに対する相手方の反論は別紙<省略>記載のとおりである。

第二事案の概要

別居中の夫である抗告人が、妻である相手方に対し、現在相手方の下で監護されている子である未成年者らにつき、①当面一年間は、第三者機関の援助を受けて月一回、一回四時間程度の面会交流、②二年目以降は、第三者機関の援助なしで宿泊付きの面会交流、③学校行事、保育園行事等への参加、④成長に関する情報(学校の通知表、健康手帳、母子手帳及び写真等)の開示を求めている。

原審は、相手方に抗告人に対し四か月に一回程度、未成年者らの近況を撮影した写真を送付しなければならないと命じたところ、抗告人がこれを不服として抗告した。

抗告人が抗告を申し立てた後の平成二七年三月一二日、抗告人と相手方とを離婚し、未成年者らの親権者を相手方と定め、抗告人に相手方に対し、未成年者らが二〇歳に達する日の属する月まで毎月末日限り一人当たり月額三万八〇〇〇円の養育費の支払を命ずるなどという内容の離婚訴訟の判決が言い渡され、これが確定した。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、抗告人と未成年者らの面会交流につき、相手方に、①本決定確定後、二か月に一回、抗告人が○○宛てに送付した未成年者らへの手紙を速やかに未成年者らに渡さなければならない、②抗告人に対し、ア本決定確定後、四か月に一回、未成年者Aの近況を撮影した写真(未成年者Aの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならない、イ本決定確定後、四か月に一回、未成年者Bの近況を撮影した写真(未成年者Bの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならないと命ずべきであると判断する。その理由は、原審判の「理由」欄の「第二 当裁判所の判断」の一及び二に記載のとおりである(ただし、原審判一一頁三行目を除く。)から、これを引用する。ただし、原審判を次のとおり訂正する。

(1)  原審判二頁六行目の「申立人との口論」を「相手方との口論」と、二三行目の「申立人に」を「抗告人と」と、それぞれ改める。

(2)  原審判三頁一二行目から一三行目の「係属していたことなどから」を「係属しており、子(未成年者ら)に対する接近禁止命令を維持することで、審理の複雑化や決定の確定までの長期化を懸念したことから、」と改める。

(3)  原審判四頁一八行目の「ある」を「あろう」と、二一行目の「受診している」を「受診しており、現在も通院を続けている。」と、それぞれ改める。

(4)  原審判五頁二五行目の「あたっている」を「当たっている」と改める。

(5)  原審判七頁八行目の「○○」の前に「公立大学法人」を加える。

(6)  原審判七頁一三行目と一四行目の間に次のとおり加える。

「ウ 未成年者らは、現在も○○を受診し、特に、長男は、継続して投薬治療を受けている。」

(7)  原審判八頁一行目と二行目の間に次のとおり加える。

「(13) 前記離婚等請求訴訟については、平成二七年三月一二日、抗告人と相手方とを離婚し、未成年者らの親権者を相手方と定め、抗告人に相手方に対し、未成年者らが二〇歳に達する日の属する月まで毎月末日限り一人当たり月額三万八〇〇〇円の養育費の支払を命ずるなどという内容の判決が言い渡されてこれが確定した。」

(8)  原審判八頁三行目と四行目の間に次のとおり加える。

「 抗告人は、子の福祉に反すると認められる特段の事情のある場合には、面会交流が認められないと解すると、裁判官が子の福祉を口実にどのようにでも介入できるとか、未成年者らは、抗告人も共同親権者であり、相手方の単独親権下にはないので、面会交流を制限することはできないと主張する。しかし、面会交流は、子の福祉の観点から決せられるべきであり、子の福祉に反すると認められる特段の事情のある場合には、認められるべきではないことが明らかであり、かつ、上記特段の事情の有無は、裁判官の主観的な判断ではなく、客観的で合理的な判断によって決せられるのであるから、裁判官が子の福祉を口実にどのようにでも介入できるということにはならない。また、共同親権者であるからといって、子の福祉の観点から子との面会交流が制限されることがないということはできない上、現時点では、抗告人と相手方とは裁判離婚しており、相手方が長男及び二男の単独親権者である。したがって、抗告人の上記主張は、いずれも採用することができない。」

(9)  原審判八頁六行目の「この点、」を次のとおり改める。

「 相手方は、抗告人から同居期間中に受けた暴力及び暴言、別居後の長年にわたる裁判等のストレスにより、心的外傷後ストレス障害(心因反応)との診断を受け、現在も通院を続けている。また、」

(10)  原審判八頁一一行目の「怪しく」から一九行目末尾までを次のとおり改める。

「怪しく、心因反応との診断を受けているが、現在ストレスが心身の不調として現れやすい年齢であるので、相手方が、抗告人から同居期間中に受けた暴力及び暴言、別居後の長年にわたる裁判等のストレスにより、心的外傷後ストレス障害(心因反応)との診断を受け、現在も通院を続けている様子を間近に見ることなどによって、心因反応を発症するようになったものと推認される。また、長男についても心因反応との診断を受けているが、長男は、別居時には記憶力も発達して行く段階にあったと考えられるので、抗告人の暴力や暴言によって引き起こされた強い不安はある程度記憶として残っているものと考えられ、これに上記のとおりの相手方の状況を間近に見ることなどによって心因反応(情緒不安定)を発症するようになったものと推認される。

このような相手方、未成年者らの状況を踏まえると、将来の良好な父子関係を構築するためには、相手方の負担を増大させてまで直接交流を行うことは、かえって未成年者らの抗告人に対するイメージを悪化させる可能性があるため、相当ではないのであり、」

(11)  原審判八頁二四行目から一一頁三行目までを次のとおり改める。

「 調査官の平成二四年一二月一九日付け調査報告書の面接交流を控えなければならないような未成年者ら側の事情がないとの意見は、上記複数の精神科医師の診断結果を左右するものではない。

抗告人は、①相手方が未成年者らに対する接近禁止命令の申立てを取り下げたのは、相手方が、抗告人が未成年者らとの関係が良好であることを認めたものであり、担当裁判官も、抗告人が未成年者らと面会しても、相手方への接近禁止命令の妨げとはならないと判断したものである、②試行的面会交流ができるか否かを探るための調査官による調査が平成二四年一〇月三〇日に発令されたために、相手方は、面会交流についての自らの窮地を免れるために、精神科医師らの診断結果を求めて未成年者らに障害事由を生じさせるに至った旨主張する。

しかし、①の点については、相手方が未成年者らに対する接近禁止命令の申立てを取り下げた理由は、前記認定のとおりであり、抗告人の主張するように解すべき根拠がないことは明らかである。②の点については、複数の精神科医師が未成年者らを複数回直接診察して結論を導いており、相手方が面会交流についての自らの窮地を免れるために、未成年者らに障害事由を生じさせたもので、その診断結果を信用することができないということはできない。

したがって、抗告人の上記主張は、採用することができない。

(3) そして、間接交流は、直接交流につなげるためのものであるから、できる限り双方向の交流が行われることが望ましいと考えられる。原審が命じたように未成年者らの近況を撮影した写真を送付するだけでは、双方向の交流とはならず、将来の直接交流ひいては抗告人と未成年者らとの健全な父子関係の構築にはつながらないというべきである。また、相手方は、抗告人から未成年者らに対し、同居中、物に当たったり、大声を出したことはよくないことであり、反省している旨を手紙にして渡してほしい旨要望しており、相手方の立場に立つと、上記要望に相応の理由があることは否定できないものの、必ずしも双方向の交流を開始する上で、上記のような手紙を渡すことが不可欠とまでいうことはできない。

他方、抗告人が、直ちに、未成年者らの福祉に沿うために、相手方に対する暴力や暴言について謝罪し、相手方との関係の改善を図ろうとする姿勢に転ずることは期待することができないので、間接交流によって相手方の負担を増大させることで、未成年者らに悪影響を及ぼすような事態を生じさせることは避けなければならない。

上記の各点に鑑み検討すると、相手方に抗告人の未成年者らへの手紙を未成年者らに渡す義務のみを課す(未成年者らに返事を書くことを指導するなどの義務は課さない。)こととするならば、相手方に大きな負担を課すことにはならず、かつ、双方向の交流を図ることへつながる可能性があるというべきである。

したがって、原審の命じた未成年者らを撮影した写真の送付(なお、本決定確定後、四か月に一回、未成年者らそれぞれの近況を撮影した写真(未成年者らそれぞれの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならないと主文を改めるのが相当である。)に加えて、二か月に一回、抗告人の未成年者らへの手紙を未成年者らに渡すことを相手方に命ずるのが相当である。

なお、抗告人は、当審において原審判を批判してるる主張するが、その余の主張は、本件の結論を左右しない。」

二  以上のとおり、抗告人と未成年者らとの面会交流につき、相手方に、①本決定確定後、二か月に一回、抗告人が○○宛てに送付した未成年者らへの手紙を速やかに未成年者らに渡さなければならない、②抗告人に対し、ア本決定確定後、四か月に一回、未成年者Aの近況を撮影した写真(未成年者Aの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならない、イ本決定確定後、四か月に一回、未成年者Bの近況を撮影した写真(未成年者Bの顔及び全身を写したもの各一枚)を送付しなければならないと命ずるのが相当であるので、これと一部結論を異にする原審判を上記のとおり変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川神裕 裁判官 中村也寸志 本田能久)

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