東京高等裁判所 平成27年(行コ)157号 判決 2016年4月21日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
以下,原判決別紙2略語一覧表及び別紙3以下で使用した略語に従い,あるいはこれに準じて表示する。
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 日本橋税務署長が控訴人Aに対して平成22年10月29日付けでした平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「控訴人A更正処分」という。)のうち納付すべき税額27億2428万1100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人A賦課決定処分」という。)を取り消す。
3 日本橋税務署長が控訴人Bに対して平成22年11月24日付けでした平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「控訴人B第1更正処分」という。)のうち納付すべき税額8324万3800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人B第1賦課決定処分」という。)を取り消す。
4 日本橋税務署長が控訴人Bに対して平成22年11月24日付けでした平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人B第2賦課決定処分」という。)を取り消す。
5 日本橋税務署長が控訴人Bに対して平成24年3月27日付けでした平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「控訴人B第2更正処分」という。)のうち納付すべき税額2209万9200円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人B第3賦課決定処分」という。)を取り消す。
6 日本橋税務署長が控訴人Bに対して平成25年3月29日付けでした平成19年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「控訴人B第3更正処分」といい,控訴人A更正処分及び控訴人B第1更正処分ないし第3更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)のうち納付すべき税額1億6091万3500円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「控訴人B第4賦課決定処分」といい,控訴人A賦課決定処分及び控訴人B第1賦課決定処分ないし第3賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)を取り消す。
7 訴訟費用は,第1審,第2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 控訴人らは,Cらが所有する有限会社D(以下「D社」という。)の出資持分(以下「本件出資持分」という。)の譲渡を受けたところ,本件出資持分は取引相場のない株式であって財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)178ただし書にいう「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当するとして,評価通達188によって定められた特例的評価方式によってこれを評価するなどして所得金額を算定し,法人税を申告した。これに対し,処分行政庁は,本件出資持分については評価通達178ただし書に該当せず,評価通達179によって定められた原則的評価方式により評価すべきであるから,本件出資持分につき受贈益等の計上漏れがあるなどとして,それぞれ本件各処分を行った。
本件は,控訴人らが,被控訴人に対し,上記受贈益等を所得金額に加算することは評価通達に反する違法なものであるなどと主張して,本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の各取消しをそれぞれ求めた事案である。
原審は,評価通達に定められた評価方式を形式的に適用するとかえって実質的に租税負担の公平を著しく害するなどの特別な事情がある場合には,他の合理的な方式により評価することが許されるとした上で,本件においてはD社がE,その親族及び控訴人ら(以下「F一族グループ」という。)によって実質的に支配されてきたという例外的な状況にあるから,上記にいう特別な事情が認められるとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らがこれを不服として控訴した。
なお,被控訴人主張に係る評価方式が認められた場合に法人税額等が被控訴人算定に係る金額となることについては,当事者間に争いがない(原判決14頁参照)。
2 関係法令等の定めは,原判決別紙3「関係法令等の定め」(原判決71頁から86頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決80頁2行目及び7行目の各末尾の「。。」を「。」に改める。
3 前提事実は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2(原判決3頁6行目から14頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決10頁2行目の「4日。)」を「4日」に改める。
4 本件各処分の根拠及び適法性に関する被控訴人の主張は,原判決別紙4「本件各処分の根拠及び適法性」(原判決87頁から98頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
5 争点は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の4(原判決14頁25行目から19頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
6 争点に対する当事者の主張の要旨は,原判決別紙5「当事者の主張の要旨」(原判決99頁から169頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決109頁26行目から110頁1行目にかけての「試算したた上」を「試算した上」に,同119頁14行目の「G社」を「D社」に,同156頁6行目から7行目にかけての「選択したことにについて」を「選択したことについて」に,それぞれ改める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
2 争点1及び争点2について
争点1及び争点2についての判断は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1及び2(原判決19頁24行目から28頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決19頁末行の「法人税法22条2項は,」から同20頁20行目までを次のとおり改める。
「法人税法22条1項は,「内国法人の各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」旨規定し,同項を受け,同条2項は,「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めのあるものを除き,資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」旨規定し,同条3項は,「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,次に掲げる額とする」旨規定して「1 当該事業年度の収益に係る売上原価,完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」,「2 前号に掲げるもののほか,当該事業年度の販売費,一般管理費その他の費用(中略)の額」及び「3 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」を掲げ,同条4項は,「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」旨規定し,同条5項は,「第2項又は第3項に規定する資本等取引とは,法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(中略)及び残余財産の分配又は引渡しをいう」旨規定している。同条4項は,上記のとおり規定し,現に内国法人のした利益計算が同法の規定する公平な所得計算という要請に反するものでない限り,課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から,収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される(最高裁判所平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁。以下,この第一小法廷判決を「平成5年11月25日第一小法廷判決」という。)。一般に広く知られている我が国の企業会計原則は,真実性の原則,正規の簿記の原則,資本と利益の区別の原則,明瞭性の原則等の一般原則を掲げ,このうち資本と利益の区別の原則において,損益取引と資本取引(出資者による追加出資や資本の引出しなど,企業の純資産を直接的に変化させることを目的として行われる取引)とを明瞭に区別し,特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならないとし,損益計算書原則において,損益計算書は,企業の経営成績を明らかにするため,一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載して経常利益を表示し,これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければならないとする。同条1項から5項までは,我が国の企業会計原則が掲げる上記各原則を踏まえ,収益から費用を控除して利益を算定するのと同様に所得を計算すべき旨を定める規定であり,同条1項は内国法人の各事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額をもって所得の金額を算定すべき旨を定める規定であり,同条2項は,当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めのあるものを除き,益金の額に資本等取引以外の取引に関わる収益の額を算入すべきことを明らかにする規定である。同項にいう「資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受け」は資本等取引以外の取引の例示であり,それゆえに同項は,「資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」に関わる収益の額を益金の額に算入すべきことを規定しているのである。もとより,適正な額より低い対価をもってする資産の譲受け(低額譲受け)の場合であっても,譲受けの時点において,資産の適正な価額相当額の経済的価値の実現が認められることは無償譲受けの場合と同様であるから,この価値を収益としてその額を益金の額に算入すべきである。また,たまたまその一部のみを対価として現実に支払ったからといって,無償譲受けの場合と異なり,時価相当額との差額部分の収益が認識され得ないものとすることは,公平を欠くこととなる。」
(2) 同21頁8行目から19行目までを次のとおり改める。
「しかしながら,前記のとおり,法人税法22条1項から5項までは,我が国の企業会計原則が掲げる前記各原則を踏まえ,収益から費用を控除して利益を算定するのと同様に所得を計算すべき旨を定める規定であり,同条1項は内国法人の各事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額をもって所得の金額を算定すべき旨を定める規定であり,同条2項は,当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めのあるものを除き,益金の額に資本等取引以外の取引に関わる収益の額を算入すべきことを明らかにする規定である。同項にいう「資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受け」が資本等取引以外の取引の例示であることは,同項の文言及び趣旨に照らして明らかであり,同項が適正な額より低い対価をもってする資産の譲受け(低額譲受け)と峻別する趣旨で無償による資産の譲受けのみを文言上明記した旨主張する原告らの主張は,その前提を欠くものである。資産の低額譲受けの場合であっても,譲受けの時点において,資産の適正な価額相当額の経済的価値の実現が認められることは無償譲受けの場合と同様である。なお,上記第三小法廷判決は,同項の規定は,法人が資産を他に譲渡する場合には,その譲渡が代金の受入れその他の資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても,譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものであると解した上で,譲渡時における適正な価額より低い対価をもって資産の譲渡が行われた場合には,当該適正な価額が同項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たることを判示するものであって,原告らの上記主張は上記第三小法廷判決を正解するものとはいえない。」
(3) 同21頁22行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
「上記1のとおりであるから,本件出資持分の譲受時における適正な価額を評価する必要がある。
法人税法22条4項は,「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」旨規定し,現に内国法人のした利益計算が同法の規定する公平な所得計算という要請に反するものでない限り,課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から,収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される(平成5年11月25日第一小法廷判決)。同項の上記の趣旨に鑑みれば,①内国法人が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しないような収益の額の計算等の会計処理をした場合や,②内国法人を支配する閉鎖的な集団内における資産の譲渡,譲受け等のように,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準が前提とする通常の取引とは異なる特殊な事情により資産の譲渡,譲受け等が行われるために,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益の額の計算をすることになじまないような場合には,同法の規定する公平な所得計算という要請にかなうように課税庁において収益の額を計算する必要があり,そのために財産の評価の方法について可能な限りあらかじめ定めておくことが相当であるから,同法は,納税者間の公平の確保,納税者及び課税庁双方の便宜,経費の節減等の観点から,上記の場合に備えて通達により全国一律の収益の額の計算方法及び財産の評価の方法について定め,これにより収益の額の計算がされることを予定しているのであり,これにより内国法人の当該事業年度の所得の金額を計算することを当然の前提とする趣旨であると解するのが相当である。法人税基本通達(平成17年課法2-14による改正前のもの)2-3-4は,法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合におけるその譲渡に係る対価の額の算定に当たり,同通達9-1-8,9-1-13及び9-1-14の取扱いを準用する旨定めているが,これも,上記の場合に備えて可能な限度であらかじめ全国一律の収益の額の計算方法及び財産の評価の方法について定める趣旨のものである。そこで,以下,法人税基本通達の上記の定めに従って本件出資持分の譲受時点における適正な価額を算定する上での適用上の問題点について検討することとする。」
3 争点3について
(1) 法人税法22条4項と法人税基本通達について
前記2(争点2についての判断)のとおり,本件出資持分は,法人税基本通達9-1-14により,評価通達によって評価するのが相当であるが,控訴人らは,本件出資持分が取引相場のない株式であって評価通達178ただし書にいう「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当するとして,評価通達188-2にいう特例的評価方式である配当還元方式により評価すべきである旨主張するのに対し,被控訴人は,本件出資持分が評価通達178ただし書にいう上記株式に該当せず,評価通達178から187までにいう原則的評価方式によりこれを評価すべきである旨主張する。
そこで,まず法人税法22条4項と法人税基本通達の関係並びに法人税基本通達9-1-13及び9-1-14の意義について検討する。
前記のとおり補正の上引用する原判決が説示するとおり,法人税法22条4項は,「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」旨規定し,現に内国法人のした利益計算が同法の規定する公平な所得計算という要請に反するものでない限り,課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から,収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される(平成5年11月25日第一小法廷判決)。同項の上記の趣旨に鑑みれば,①内国法人が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しないような収益の額の計算等の会計処理をした場合や,②内国法人を支配する閉鎖的な集団内における資産の譲渡,譲受け等のように,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準が前提とする通常の取引とは異なる特殊な事情により資産の譲渡,譲受け等が行われるために,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益の額の計算をすることになじまないような場合には,同法の規定する公平な所得計算という要請にかなうように課税庁において収益の額を計算する必要があり,そのために財産の評価の方法について可能な限りあらかじめ定めておくことが相当であるから,同法は,納税者間の公平の確保,納税者及び課税庁双方の便宜,経費の節減等の観点から,上記の場合に備えて通達により全国一律の収益の額の計算方法及び財産の評価の方法について定め,これにより収益の額の計算がされることを予定しているのであり,これにより内国法人の当該事業年度の所得の金額を計算することを当然の前提とする趣旨であると解するのが相当である。法人税基本通達(平成17年課法2-14による改正前のもの)2-3-4は,法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合におけるその譲渡に係る対価の額の算定に当たり,同通達9-1-8,9-1-13及び9-1-14の取扱いを準用する旨定めているが,これも,上記の場合に備えて可能な限りあらかじめ全国一律の収益の額の計算方法及び財産の評価の方法について定める趣旨のものである。
同通達9-1-14は,上場有価証券等以外の株式について,同通達9-1-13(1)及び(2)に該当する場合を除き,当該株式の価額につき評価通達178から189-7までの取引相場のない株式の評価の例によって算定した価額によっているときは,課税上弊害がない限り,所定の取扱方法によることを条件としてこれを認めることとしている。これは,相続税法が評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し,これにより財産の評価がされることを当然の前提としており,国税庁長官が財産評価基本通達(以下,単に「評価通達」という。)を定め,この通達に従って全国で実際の評価が行われているという実績があり,相続又は贈与における財産評価の方法として一般的に合理性を有していることから,相続の場合とは異なる場合ではあるが,法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合においても,その譲渡に係る対価の額の算定について,評価通達178から189-7までの取引相場のない株式の評価の例によって算定した価額によっているときは,課税上弊害がない限り,所定の取扱方法によることを条件としてこれを認めることとしたものである。もとより,相続の場合と法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合とでは,前者が自然人の死亡による場合であり,後者が法人の意思決定による場合であるという性質上の違いがあり,後者の場合には,法人を実質的に支配する閉鎖的な集団が操作して評価通達178から189-7までの取引相場のない株式の評価の例によることが可能になるような外観を作出し,もって,法人税の負担を不当に減少させる結果をもたらして他の法人との公平を害することとなるときがあり得るのであって,このような場合は法人税基本通達9-1-14が除外する課税上弊害があるときに当たると解することができるのであり,このように解することは法人税法132条の根底をなす法意にもかなうものということができる。これを評価通達178から189-7までの評価方法の適用の観点からいえば,評価通達178から189-7までの取引相場のない株式の評価の例によって算定した価額によることとすれば課税上弊害があることになるときには,法人税法の規定する公平な所得計算という要請が優先するのであり,上記の取扱いとは別異の取扱いをすべき特別の事情があるというべきことになる。したがって,法人税法の規定する公平な所得計算という要請にかなうように課税庁において収益の額を計算する必要がある。
(2) 評価通達による評価方法の相当性について
評価通達178から187までは,取引相場のない株式につき,類似業種比準価格又は純資産価額方式を採用する原則的評価方式により評価することとするものであるが,従業員株主などのような少数株主,事業経営に対する影響の少ない同族株主の一部等は,評価会社を実質的に支配している株主とは異なり,単に配当の受領を期待して株式を取得するにとどまるものといえるから,評価通達178ただし書は,このような実情を踏まえるとともに,評価手続の簡便性をも考慮して,同族株主以外の株主等が取得した株式に限り,上記原則的評価方式に代えて,評価通達188に従い,同通達188-2に定める配当還元方式により評価することとしている。
このような評価方法は,基本的には原則的評価方式を採用するものの,株主の事業経営に対する影響力等に応じて例外的に配当還元方式を採用するものであるから,取引相場のない株式につき適正な時価を算定する方法としては,想定している場合については上記実情等を踏まえたものとして相当であると認められる。
(3) 評価通達の定める評価方法による本件出資持分の評価について
ア 評価通達178ただし書にいう「同族株主以外の株主等が取得した株式」該当性について
(ア) 評価通達188(1)にいう「同族株主」該当性について
評価通達178ただし書にいう「同族株主」の定義については評価通達188(1)が規定しているところ,当該規定によれば,上記にいう「同族株主」とは,課税時期における評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30パーセント以上(その評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の50パーセント超である会社にあっては,50パーセント超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう旨規定している。
これを本件についてみると,上記のとおり補正の上引用する原判決の前提事実(4)ウによれば,D社の出資持分の保有者及び保有口数は,平成17年3月31日付けの本件C出資持分譲渡1及び2によって,Eが5口,控訴人Aが2万4000口,控訴人Bが2万3995口,本件13社が合計5万2000口となったことが認められる。そして,D社は,上記各譲渡の時点で,控訴人Aの発行済株式総数700万株のうち200万株を保有し,控訴人Aの総株主の議決権の4分の1を超える議決権(28.571パーセント)を保有していたから,控訴人Aは,その保有するD社の出資持分につき議決権を有しないことになる(有限会社法41条,商法241条3項)。そうすると,D社の議決権総数は,評価通達188-4により,控訴人Aの議決権の数を0として計算したものとなるから,結局,合計7万6000口となり,各株主の議決権割合は,Eが0.006パーセント,控訴人Bが31.572パーセント,本件13社が68.421パーセントとなる。
上記議決権割合を前提として,控訴人Aの「同族株主」該当性について検討するに,本件13社は,D社の議決権総数の過半数以上を有するものの,それぞれが控訴人Aの取引先であって相互に支配関係はなく,もとより控訴人ら及びEの「同族関係者」に該当しないことからすると,D社は株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が50パーセント超である会社であると認めることはできない。そうすると,評価通達188(1)にいう「同族株主」に該当するには,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がD社の議決権総数の30パーセント以上であれば足りることになる。
そして,上記議決権割合を踏まえると,Eを「株主の1人」とした場合において,控訴人A及び控訴人BがそれぞれEの「同族関係者」に該当するときは,E及び控訴人Bの議決権の合計数がD社の議決権総数の約31.5パーセントになるから,上記においてEの「同族関係者」とされた控訴人Aも,D社の「同族株主」に該当することになる。
そこで,控訴人BがEの「同族関係者」に該当するか否か,控訴人AがEの「同族関係者」に該当するか否かにつき,順次検討を加えることとする。
(イ) 控訴人Bの「同族関係者」該当性について
前記のとおり補正の上引用する原判決の前記前提事実(8)イによれば,本件C出資持分譲渡1及び2がされた平成17年3月31日当時,控訴人Bの総出資口数は60万口であり,このうちEが39万8000口を,Hが2000口を,Iが20万口を,それぞれ保有していたことが認められる。そうすると,HはEの長男であり,Eの親族として法人税法施行令4条1項1号に規定する特殊の関係のある個人に当たるから,E及びHの議決権割合は,控訴人Bの議決権総数の100分の50を超える(66.666パーセント)ことになる。したがって,控訴人BはEの「同族関係者」に該当するといえる。
(ウ) 控訴人Aの「同族関係者」該当性について
前記のとおり補正の上引用する原判決の前記前提事実(8)アによれば,本件C出資持分譲渡1及び2がされた平成17年3月31日当時,控訴人Aの株式総数は700万株であり,このうち,Eが39万1150株を,Hが5万株を,Jが31万6150株を,Kが30万株を,控訴人Bが198万9100株を,D社が200万株を,それぞれ保有し,また,本件13社出資持分譲渡がされた平成17年10月4日ないし同年12月6日時点及び本件平成18年各譲渡がされた平成18年3月20日時点では,Eが39万1150株を,Hが5万株を,Jが31万6150株を,Kが30万株を,控訴人Bが223万9100株を,D社が175万株を,それぞれ保有していたことが認められる。
そして,上記前提事実(8)アによれば,HはEの長男,JはEの叔父,KはEの従弟であるから,いずれもEの親族として法人税法施行令4条1項1号に規定する特殊の関係のある個人に該当し,また,控訴人Bは,上記(イ)のとおり,Eの「同族関係者」に該当するところ,これらの者が有する議決権を合計しても,控訴人Aの議決権総数の過半数に満たないため,控訴人Aは,Eの「同族関係者」に該当しないことになる。
もっとも,上記の株式の保有状況を踏まえれば,175万株ないし200万株を保有するD社がEの「同族関係者」に該当するとして同社の議決権を加えれば,控訴人Aの議決権総数の過半数を超えることになるから,控訴人AもEの「同族関係者」に該当することになる。しかしながら,前記のとおり補正の上引用する原判決の前記前提事実(4)ウによれば,D社の平成17年3月31日時点における出資者及び出資持分は,控訴人Aが2万4000口,控訴人Bが2万3995口,本件13社が合計5万2000口(1社当たり4000口),Eが5口であると認められ,Eと同条2項2号に規定する特殊の関係のある法人(控訴人B)が有する議決権割合は,合計約31.5パーセントにとどまり,議決権総数の100分の50を超えないから,D社は,Eの「同族関係者」に該当しないことになる。
したがって,控訴人Aは,Eの「同族関係者」に該当するとは認められない。
イ まとめ
したがって,Dは「同族株主」(E及び控訴人B)のいる会社に該当するものの,控訴人Aは,D社の「同族株主」に該当しないから,本件出資持分については,評価通達178ただし書にいう「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当することになる。
以上によれば,本件出資持分の価額は,特別の事情がない限り,評価通達188に従って配当還元方式に従って決められることになる。
(4) 評価通達の評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存否について
ア 被控訴人の主張
上記(3)のとおり,本件出資持分の価額は,評価通達によれば配当還元方式に従って決められることになるが,被控訴人は,FグループがD社を実質的に支配していた実情を踏まえると,配当還元方式に従って決めることは,かえって納税者間の公平を著しく害することになるから,評価通達の評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があると主張する。
そこで,被控訴人の主張につき,以下検討する。
イ 認定事実
前記引用に係る原判決摘示の前提事実に証拠(後掲各証拠のほか,甲58ないし60)及び弁論の全趣旨を併せれば,次の事実を認めることができる。
(ア) 本件13社に対する本件出資持分の譲渡の経緯等
a 本件13社は,酒類食料品の卸売等を業とする控訴人Aに対し,それぞれ長年にわたりビール等の酒類を卸してきた有力な取引先であり,控訴人Aも本件13社にとって主要な取引先の1つであった。
b 控訴人Aの代表取締役を務めていたLは,平成2年6月8日,同人所有に係る控訴人Aの株式200万株のほか,その所有する不動産等を,時価を大幅に下回る価額(株式については1株25円)で評価した上,これらを現物出資してD社を設立した。D社の出資持分はL及びEが全て保有し,Lの持分数は9万9995口であり,Eの持分数は5口であった。
c 本件13社は,控訴人Aとの関係を強化し,両社の取引関係を維持ないし発展させるため,Lから,同人が死亡する8日前の平成3年12月5日,同人所有に係るD社の出資持分を1社当たり4000口として合計5万2000口を買い受けた(乙16の1ないし3,乙17の1ないし3,乙18の1,乙19の1及び2,乙20の1及び2,乙21の1ないし4,乙22の1,乙23の1,乙24の1,2及び4,乙25の1ないし3,乙26の1ないし3,乙27の1,乙28の1ないし3,乙44の2ないし16,乙51の1,乙52)。
d 本件13社は,当初からD社の事業経営に関与する予定はなく,D社から毎期1口につき50円の配当金を受領していたものの,社員総会等に一度も出席することがなく,白紙委任状又は決議案に全て賛成する趣旨の委任状を提出していた(乙5の1ないし13,乙38の1ないし13)。
e Lがその保有するD社の出資持分を本件13社に譲渡した後も,L及びEの出資割合は48パーセントを占めていた。また,Eは,Lの死亡後,控訴人A,控訴人B及びD社の代表者に就任し,控訴人Bの出資総数の過半数を保有した。
f 本件13社は,F一族グループのガバナンスの見直しの一環として行われるものであるとの説明を受けた上(乙16の4及び5,乙17の8,乙18の4,乙19の4,乙20の4,乙22の4,乙23の2,乙23の3,乙24の3,乙25の4,乙26の4,乙27の2,乙28の4),D社の提案どおりの金額で,同社の求める相手方に対し,平成17年10月から同年12月にかけてD社の出資持分を全部譲渡した(乙12の1ないし13,乙17の10,乙18の3,乙19の3,乙20の3,乙21の5,乙28の5)。
(イ) Lの相続更正処分等取消請求事件等(乙4の1,2)
a Lの相続人であるE及びCほか2名(以下「本件相続人ら」という。)は,Lに係る相続税の申告に際し,同人の相続財産のうちD社の出資持分4万7995口の時価を評価するために,D社の保有資産である控訴人Aの株式200万株の時価を評価した。この点につき,本件相続人らは,L及びEはD社の出資総数のうち48パーセントを有するにすぎないから,D社はL及びEの「同族関係者」に該当せず,控訴人Aの「同族株主」にも該当しないと主張して,評価評価通達188及び188-2を適用し,上記株式200万株を配当還元方式によって評価するなどして,D社1口当たりの単価を算出し,同単価に基づいて相続税額を算定して相続税の申告をした。
b これに対し,芝税務署長は,D社が保有する控訴人Aの株式200万株の時価を評価するに当たり,L及びEが実質的にD社を支配していた実情を踏まえると,D社は,両者の「同族関係者」に該当し,控訴人Aの「同族株主」にも該当すると主張し,上記株式200万株については原則的評価方式である類似業種比準方式によって評価すべきであるから上記相続税の申告額は過少であるなどとして,更正処分をするとともに過少申告加算税の賦課決定処分をした。
c 本件相続人らは,芝税務署長に対し,上記の各処分は,評価通達に違反し,Lの相続財産の評価を誤った違法があるとして,上記更正処分のうち申告額を超える部分及び上記過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも裁決により取り消された部分を除く。)の取消しを求める訴えを提起した(以下「L相続税事件」という。)。
d L相続税事件について,東京地裁平成12年(行ウ)第90号同16年3月2日判決は,L及びEにおいてD社の出資総数のうち過半数以上を有していないとしてもこれを実効的に支配し得る地位にあったと認定した上,処分行政庁の主張を採用して上記各処分は適法であるとして,本件相続人らの請求をいずれも棄却した。また,その控訴審判決である東京高裁平成16年(行コ)第123号同17年1月19日判決も,Lがその保有する控訴人Aの株式を廉価な簿価により現物出資してD社を設立し,相続直前にその出資総数の52パーセント相当分を有力な取引関係先に著しく廉価な価額で譲渡するという経済的合理性を欠いた行為をした上,自らは出資総数48パーセント弱を保有し引き続きD社の経営を実効支配している場合に,評価通達を形式的に適用したのでは,相続財産の価額が不当に減少し,相続税負担の実質的公平を損なうことは明らかであると説示した上,原判決は相当であるとして本件相続人らの控訴をいずれも棄却した。その後に同判決は確定した。
(ウ) 控訴人A等によるD社の出資持分の評価等
a 控訴人Aの経理部副部長であったMは,平成17年3月1日当時,D社の平成17年3月時点の出資の時価につき,配当還元方式ではなく,原則的評価方式を採用して類似業種比準価額1406円と純資産価額7万7065円の併用方式によって1口3万9235円と算定した(乙51の2)。
b Cは,控訴人Aに対し,同月31日,その保有するD社の出資持分2万4000口を代金9億4164万円(1口につき3万9235円)で譲渡するとともに,控訴人Bに対し,その保有するD社の出資持分2万3995口を代金9億4144万3825円(1口につき3万9235円)で譲渡した(乙7ないし11)。
c 控訴人Aは,控訴人Bに対し,平成18年3月20日,その保有するD社の出資持分2万4000口を代金9億8500万8000円(1口につき4万1042円)で譲渡した(乙15)。また,Eも,控訴人Bに対し,同日,その保有するD社の出資持分5口を代金20万5210円(1口につき4万1042円)で譲渡した(乙14)。
ウ 特別の事情の存否について
上記認定事実によれば,Lは,その保有する控訴人Aの株式を低額で現物出資した上でD社を設立するとともに,その死亡直前には本件13社に対しD社の出資持分の52パーセント相当分を低額で譲渡していること,他方,本件13社は,いずれも控訴人Aの有力な取引先であり,当初からD社の議決権を行使する予定はなく,D社の事業経営に対する影響力が一切認められなかったこと,その後も,E及びその同族関係者である控訴人Bは,その議決権割合は合計約31.5パーセントにとどまるものの,その余にD社の事業経営に対する影響力を有する者が一切存在しなかったのであるから,実質的にはD社を完全に支配していたことが認められる。
これらの事情によれば,D社が実質的にはE及び控訴人Bによって完全に支配されていたことは自明であるにもかかわらず,上記の実情を考慮することなく,D社がEの「同族関係者」に該当しないことを前提として本件出資持分の評価に評価通達を適用し,配当の受領のみを期待して株式を取得した者に限り適用される特例的評価方式によって著しく低額にこれを評価すれば,かえって納税者間の公平を著しく害することになることは明らかである。控訴人A自身も,本件C持分譲渡1において,現にD社の出資持分につき配当還元方式によるのではなく,原則的評価方式によって1口3万9235円と算定してこれを譲り受け,その後,控訴人Bに対しても,1口4万1042円でこれを譲渡しているのであるから,かえって控訴人A自身も,本件出資持分の価格は評価通達による特例的評価方式によっては適切に算定することができないことを自認していたことは明らかである。上記の理は,既にL相続税事件の各裁判例が本件相続人らに対しても示していたところである。
したがって,本件出資持分の評価に適用される評価通達のうち同188(1)及び(2)の定義規定に従って評価通達178ただし書を適用して配当還元方式を採用した部分については,上記事情を明らかに反映せずに本件出資持分の時価を著しく低額に評価するものであるから,当該部分を適用して評価することは,かえって納税者間の公平を著しく害するといえる。したがって,上記の評価方法によっては法人税基本通達9-1-14が除外する課税上弊害があるときに当たることになるとともに,評価通達178ただし書による評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存すると認めるのが相当である。
もっとも,評価通達のうち上記特段の事情が認められる部分とは,評価通達188(1)及び(2)の定義規定を前提とする評価通達178ただし書の規定部分のみであって,その余の原則的評価方法を定める部分については,これによっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存するとはいえないことからすると,本件出資持分については,上記の適用除外された部分以外の評価通達を前提として,原則的評価方式によって評価するのが相当である(固定資産評価基準の評価方法の全部ではなくその一部につき特別の事情がある場合における適正な時価の認定手法につき,最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月12日・民集67巻6号1255頁千葉勝美裁判官の補足意見参照)。
エ まとめ
以上によれば,本件出資持分は,評価通達188-2にいう特例的評価方式である配当還元方式ではなく,評価通達178から187までにいう原則的評価方式によりこれを評価するのが相当である。
4 争点4から争点9までについての判断は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の4から9まで(原判決38頁15行目から64頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決41頁19行目から42頁5行目までを次のとおり改める。
「そして,前記3のとおり,D社は,E及びその同族関係者である原告Bによって実質的には完全に支配されているのであるから,評価通達188(1)の定義規定に従って評価通達178ただし書を適用して,D社が保有する控訴人Aの株式を配当還元方式で評価するのは,上記実情を明らかに反映せずに本件出資持分の時価を著しく低額に評価するものであるから,当該部分を適用して評価することは,かえって納税者間の公平を著しく害するといえる。そうすると,当該評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存すると認めるのが相当であるから,前記3と同様に,D社が保有する原告Aの株式については,上記の適用除外された部分以外の評価通達を前提として原則的評価方式によって評価するのが相当である。」
(2) 同47頁10行目の「平成12年よりも」から11行目の「判断であり」までを次のとおり改める。
「平成12年よりも前の時期における通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとしてされた事例判断であり,その趣旨は,平成12年に関係通達が改正された後における非上場株式の評価に妥当するものとはいえず,」
(3) 同48頁16行目から49頁2行目までを次のとおり改める。
「ところで,前記3(1)のとおり,評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり,かつ,当該財産の価額がその評価方法に従って決定された場合には,当該価額は当該財産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認されるものの,上記評価方法によってはかえって納税者間の公平を著しく害するなど適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存するときは,上記評価方法を定める評価通達に係る部分を適用しないとするのが相当であり,この理は,もとより評価通達185ただし書についても異なるところはない。」
(4) 同49頁22行目の「評価すべきであるから」を「評価すべきであり,それにもかかわらず,評価通達185ただし書を適用するのは,かえって納税者間の公平を著しく害するといえるから」に改める。
(5) 同55頁13行目の「ほどんど」を「ほとんど」に改める。
5 本件各処分の適法性等について
本件各処分の適法性等についての判断は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の10(原判決64頁9行目から65頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
6 当審における控訴人らの主張に対する判断
(1) 控訴人らは,評価通達が課税実務上法源と同様の機能を果たしている実情に鑑みると,評価通達によらずに評価することが許容されるのは,明白な租税回避事案等に限られるべきであるのに,E及び控訴人BのD社における議決権割合が過半数を大きく下回る約31.5パーセントにすぎないにもかかわらず,両社がD社を実質的に支配していたとして,D社がEの「同族関係者」に該当することを前提として本件出資持分を評価すべきものとした原審の判断は,本件が明白な租税回避事案等ではないにもかかわらず,評価通達によらずに本件出資持分を評価したものであって不当であるなどと主張する。
(2) しかしながら,前記認定事実によれば,D社の出資総数のうち52パーセントを有していた本件13社は,その譲受け当初から議決権を行使することが予定されておらず,D社で議決権を現実に行使するのはE及びその同族関係者である控訴人Bに限られていたのであるから,E及び控訴人BがD社を実質的には完全に支配していたことは自明のことである。現に,D社が保有する控訴人Aの200万株についても,L相続税事件に係る裁判の判断の前提において,上記と同旨の判断が既に示されていたのであり,かえって,控訴人A自身も本件出資持分を譲り受けるに当たり,これを配当還元方式によるのではなく,原則的評価方式を採用して評価していたのである。これらの事情が存在するにもかかわらず,本件出資持分を特例的評価方式である配当還元方式によって著しく低額に評価するのは,明白な租税回避事案等とはいえないとしても,納税者間の公平を著しく害することになるのは明らかである。控訴人らの当審における主張の実質は,E及び控訴人BがD社を支配していないことを前提とするものであって,上記事情のほかに控訴人A自身の行動に照らしても,その前提を欠くというほかない。そのほかの控訴人らの主張に対する判断も,上記のとおり補正の上引用する原判決が説示するとおりであって,控訴人らの主張は原審と同旨の主張を繰り返すものにすぎず,上記判断を左右するものではない。
(3) 以上によれば,控訴人らの上記主張は採用することができない。
第4結論
よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 髙世三郎 裁判官 中島基至 裁判官 福島かなえ)