東京高等裁判所 平成3年(う)365号 判決
被告人が,原判示第二の三の日時・場所において,加藤の所持する原判示けん銃(S&Wチーフスペシャル・回転式)と実包約20発(以下,「本件けん銃等」または単に「けん銃」という。)が真正なものであることを知りながら,同人と行動を共にし,その間,同人と共謀のうえ,原判示第二の一記載のとおり,A方において傷害事件を起こし,さらに同第二の二記載のとおり,Bを同人の自宅から原判示第一の馬小屋(以下,単に「馬小屋」という。)に連行するなどして監禁致傷事件を起こしたことは認められるが,被告人が上記各犯行の際に,加藤と本件けん銃等の所持ないし使用につき,同人と共謀を遂げたとの事実は,これを認めることができない。その理由は,以下のとおりである。
まず原判決は,「罪となるべき事実」第二の三において,被告人が,加藤と共謀のうえ,平成2年5月16日午前2時30分ころから同日午前3時30分ころまでの間,A方及び馬小屋等において,本件けん銃等を所持したとの事実を認定しているところ,関係証拠によれば,その経緯について次の事実が認められる。
①本件けん銃は,加藤が昭和63年7月ころに,知人のCから護身用として譲り受け,その経営するビジネスホテル「藤」の自室に隠し持っていたものであるが,加藤は,平成2年5月15日午後7時ころ,原判示第一記載のとおり,大山幸一及び佐藤昭三とともにDを拉致して加藤の経営する牧場の馬小屋に監禁するという事件を起こし,監禁中の同日午後8時ころ,加藤が上記ホテルから監禁場所に本件けん銃等を持ち込んできたこと
②被告人は,本件の約2か月前に加藤と知り合い,本件当時,加藤の経営する上記ホテルの一室に止宿しながら同人の債権取立などの手伝いをしていたものであるが,同日上記ホテルに本件けん銃等を取りに来た加藤からDを監禁した事情を聞き,加藤とともに馬小屋に赴いた際,加藤が持ち込んだ本件けん銃等を目撃し,初めて同人がこれらを所持していることを知ったこと
③同日午後11時ころ,加藤は,被告人及び佐藤とともに,加藤所有のワゴン車で街へ飲みに出かけ,湯沢町内のクラブやスナックで飲酒し,途中酔いつぶれた佐藤を帰すなどしたが,その間,加藤は,本件けん銃等を上記ワゴン車のコンソールボックス付近に隠していたこと
④被告人は,翌5月16日午前2時30分ころになって,加藤を上記ワゴン車の助手席に乗せて同車を運転し,予て金銭関係のことで問い質したいことのあるA方に赴き,一人で同人に面会を求めたが,玄関先で同人の妻に門前ばらいをくわされたことに激昂し,同人方に乱入して暴行を加えることを決意し,ワゴン車の助手席にいた加藤にその決意を伝えたうえ,助手席の後ろに隠してあったあいくち及び鉄棒を持ってA方に乱入したが,同時に予てAと反目しあっていた加藤も,「俺も一緒に行くよ。」といい,上記ワゴン車に積んであった本件けん銃等及び特殊警棒を持って被告人の後を追い,結局A方において,被告人が所携のあいくち等を振り回し,加藤がけん銃を乱射するなどして,原判示第二の一記載の犯行に及んだこと
⑤上記犯行後,被告人と加藤はワゴン車に戻り,加藤の指示で近くのスナックレインに行き,加藤は本件けん銃を携えて店内に入り,同人の元従業員で同スナックのマスターをしているEに対し,予て同人も悪感情を抱いていたAを痛めつけてきた旨話すとともに,同スナックの壁をめがけてけん銃を発射したこと
⑥次いで,被告人と加藤はワゴン車に戻ったが,被告人が加藤に対し,Aを痛めつけて日頃の欝憤が晴れたのでこれでもう懲役に行ってもよい,との気持ちを打ち明けたところ,加藤から,予て同人と商売上の問題で対立関係にあったBをことのついでにさらって馬小屋に連行したいと持ちかけられ,被告人としては,Bに対する個人的な恨みなどはなかったものの,感情の赴くまま加藤の提案に賛同し,同日午前3時ころ,被告人は加藤に道筋を教えられつつワゴン車を運転してB方に赴き,被告人があいくちを使用し,加藤がけん銃を乱射するなどして,原判示第二の二記載のとおり,Bをその自宅から馬小屋まで連行する等の監禁致傷の犯行に及んだこと
⑦上記犯行後,被告人と加藤は,馬小屋から乗用車で逃走を図ったものの,警察の厳戒態勢のため逃走を断念し,同日午後5時過ぎころ,加藤が本件けん銃を,また被告人があいくちを,それぞれ持ってM警察署に出頭したこと
以上の事実を認めることができる。
ところで,原判決が,被告人に本件けん銃等の共謀による所持罪の成立を認めたのは,上記認定の一連の経緯に鑑みると,時間的には上記④ないし⑥の部分に係るものであるが,このうち⑤のスナックレインにおける加藤の本件けん銃等の所持ないし使用に関しても,被告人の共謀による共同所持の責任を認める趣旨であるか否か,必ずしも明らかであるとはいえない。
しかし,関係証拠によれば,上記スナックレインにおける加藤の本件けん銃等の所持ないし使用は,加藤が被告人に謀ることなく独断で行ったものであることが明らかであるが,上記の点は本件けん銃等の共同所持罪の成否と密接かつ重要な関係をもつ事実というべきであるから,以下においては上記スナックレインにおける加藤の本件けん銃等の所持ないし使用の事実をも含めて検討を進めることとする。
上記認定の事実に鑑みると,本件けん銃等は,もともと加藤が入手して長期間にわたり所持していたもので,上記④ないし⑥の各犯行の際にも,同人がこれらを携帯して使用し,他方,被告人は,上記④及び⑥の各犯行の際には,あいくち等を携帯して凶器として使用していたが(ちなみに,あいくち所持の点は,被告人の単独犯行としても,また被告人及び加藤の共犯としても,訴追されていない。),被告人は,その間本件けん銃等を現実に手中にしたことは一度もなかったことが明らかであるうえ,上記認定の本件けん銃等の入手及び保管の経緯や被告人と加藤との関係等の周辺事情に徴しても,被告人が,加藤の所持する本件けん銃等について,客観的にみて,同人と共同の実力支配関係を及ぼしていたと認めるべき状況にはなかったことが明らかである。従って,被告人が本件けん銃等の所持罪の実行共同正犯の責任を負わないことは勿論である。
そこで,更に進んで被告人に上記所持罪の共謀共同正犯が成立するか否かを検討する。
上記認定の事実によれば,被告人は,上記④及び⑥の各加害行為を行った際,事前に加藤と共謀し,共同してその加害行為を実行したことが明らかであるから,その各加害行為の共謀の際,加藤との間で,本件けん銃等に対する所持ないし所持の一態様としての使用について,これを共同して行うことの暗黙の共謀があったと認めるべき余地があるもののようでもある。
現に,少なくとも,上記④の犯行の際に加藤が本件けん銃を乱射したことを被告人が知らない筈はないから,上記犯行の時点以降における加害行為の共謀の際に,加藤が犯行に本件けん銃等を使用するであろうことは,これを容易に予測し得たところであり,従って,加藤の本件けん銃等の使用を阻止しないまま加害行為を共謀した以上,被告人は,本件けん銃等の所持罪に関しても,共謀共同正犯の責任を負うべきもののようでもある。
しかしながら,上記認定のとおりの本件の経緯を子細に検討すると,被告人がAやBらに対する原判示の各加害行為を加藤と共謀した内容は,要するに,被告人と加藤とが,それぞれの凶器を携えてこれを使用し,共同して加害行為の目的を実現しようとの合意にとどまるもので,それ以上にそれぞれの携帯・使用する各凶器(被告人についてはあいくちであり,加藤についてはけん銃である。)に対する実力支配関係についてまで,これを共通にすることの合意を含むものとまでは認められない。
これをA方における犯行についてみるに,同人方において,被告人は,応対に出てきたAの妻の応接態度に激昂するあまり,前後のことを考える余裕もなく,加藤にAへの加害行為に及ぶ決意を伝えただけで咄嗟にワゴン車の中からあいくち及び鉄棒を取り出してA方に乱入していったものであって,加藤との間で十分な意思連絡をする暇はない状況にあったものと認められる。
もとより,そうはいっても,その時点の被告人に,もし被告人がA方に乱入すれば加藤もこれに加担する行動を取ってくれるであろうとの予測がなかったとはいえないであろう。しかし,その場合にも,被告人は加藤と予め共謀をしていなかったのであるから,加藤が被告人に加担するために本件けん銃等を持ち出してくるとまでは予測していなかったとしても,格別不自然とはいえない。要するに,この場合には,被告人がA方に乱入したのを見た加藤が,自らもこれに遅れて乱入して加担行為に出た際に,被告人との事前の意思連絡もないまま,加藤だけの判断で本件けん銃等を持ち出して加担行為にこれらを使用したという域を超えるものではないとみられる。
そうすると,上記の犯行当時,被告人と加藤との間には,いわばA方での加害行為に関する共謀はあったといえるものの,本件けん銃等の持ち出し及び使用に関する共謀があったとまではいえず,本件けん銃等の持ち出し及び使用は,未だ加藤限りの行動であり,加藤が持ち出した本件けん銃等の実力支配について,被告人と加藤との間でこれを共同で行う意思の連絡があったとまではみることができない。このことは,前記のスナックレインにおける加藤のけん銃発射行為については,より一層明確である。
次に,B方で同人にけん銃を突きつけて同人を馬小屋に連行した監禁致傷の犯行の際の状況をみるに,この場合には,被告人は,Bに対する上記犯行にあたって,加藤が本件けん銃等を使用するであろうことを予測していなかったわけではないから,その点の事情は,A方における前記犯行の場合と全く同じであったとはいえない。
しかしながら,Bに対する上記犯行の経緯を関係証拠に即して検討すると,被告人があいくちを自己の凶器として使用し,加藤がこれとは別にけん銃を凶器として使用し,それぞれが思い思いに凶器を支配して行動している点では,A方における前記犯行の場合ととくに異なるところはない。もっとも,このような共同行動のなかには,共犯者が互いに他の共犯者が手にしている凶器に対し相互依存的に実力支配を及ぼしている事例もなくはないであろうが,本件の場合にあっては,A方における前記犯行が先行し,それに引き続いてBに対する上記犯行が敢行されているために,そのことが凶器所持の態様にも反映していると認められ,両犯行の間に上記の点に関して基本的な差異があるとまではいえない。
そして,Bに対し加害行為に及ぶべき動機は,加藤にあったが被告人にはなく,被告人としては,加藤が行う加害行為を援助するために行ったものとみることができることは,前記のとおりであって,このような点をも併せ考慮すると,加害行為そのものの共謀が認められるからといって,そのことから直ちに,被告人に加藤の所持する本件けん銃等についてまで共同支配することの意思があったと認めるに十分でない。
以上のような本件における具体的な事実関係に鑑みると,被告人は,加藤と共謀してA及びBに対する前記各犯行を敢行し,その際に加藤が本件けん銃等を所持ないし使用したことは明らかであるが,加藤は,専ら自己の意思に従ってこれらを所持して使用したものであって,被告人が加藤とこれらの所持を共謀し,共同してこれらに対する実力支配関係をもったとまでは認めることができない。
なお,検察官がその答弁書において指摘する判例(最高裁判所昭和23年7月22日判決,刑集2巻9号995頁)は,本件とは事案を異にするもので,本件に適切ではない。
そうすると,被告人が加藤と共謀して本件けん銃等を共同所持していたとの点は,本件全証拠によってもこれを認めることができないものというべきであるから,原判示第二の三の事実を認定し,被告人の行為を本件けん銃等の共同所持罪に当たるとして被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわなければならない。