東京高等裁判所 平成3年(う)458号 判決
被告人 菅野二一
〔抄 録〕
論旨は、職業安定法六三条二号は、その「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」という構成要件が不明確であって、このような内容あいまいな法条を根拠に刑事罰を科することは、憲法三一条に違反すると主張する。
そこで、この点について検討するに、通常の判断能力を持つ一般人の理解として、刑罰法規の法条から当該具体的な行為にその適用があるかどうかの判断ができるような基準を読み取ることができないときに、その刑罰法規はあいまい不明確で、憲法三一条に違反するといわなければならない(最高裁昭和五〇年九月一〇日大法廷判決・刑集二九巻八号四八九頁)。
職業安定法は、職業に就こうとする者にその能力に応じた適当な職業に就く機会を与えることを第一次的な立法の目的とし、同法六三条は、一号の「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によ」る職業紹介などを行った者らと並んで、二号で、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で」する職業紹介などを行った者に対し、相当厳しい懲役刑を含む刑事罰を定めることによって、右の立法目的を全うしようとしている。このような同法の立法目的、六三条の文理、体裁に照らすと、同条二号にいう「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」とは、当該業務に従事することが即犯罪を構成するか、犯罪を構成しないまでも犯罪に極めて近接するような業務であって、しかも公衆道徳にもとること著しい業務に就かせる目的を指すものと解すべきであり、このような解釈は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うもので、具体的行為の該当性判断の基準として十分であるから、あいまい不明確とはいえず、憲法三一条に違反しないというべきである。
(早川 高木 小田部)