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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1176号 判決 1992年3月17日

控訴人(原告) 株式会社日本バノック

被控訴人(被告) デニソン・トランスオーシャニック・コーポレーション

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は原判決別紙第一目録記載の封緘具を輸入し、販売し、又は頒布してはならない。

3  被控訴人は控訴人に対し、金五九四八万円及びこれに対する昭和六三年一二月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨の判決

第二事案の概要は、原判決「第二 事案の概要」と同一であるから、ここにこれを引用する。

第三当審における当事者の主張

一  控訴人

1  被控訴人は、工業的製品の保護は特許権によるのが基本であり、原判決別紙第二目録記載の封緘具(以下「控訴人商品」という。)は、技術的機能を離れた形態上の特徴を有しないとして、不正競争防止法による保護を受けることができないものであると主張する。

しかし、特許法と不正競争防止法とはそれぞれ法の目的を異にするものであるから、技術的機能に由来する必然的な形態でも不正競争防止法第一条第一項第一号の商品の表示となるものであるのみならず、控訴人商品の形態は、技術的機能に由来する必然のものではない。

訴外株式会社トスカ(以下「訴外会社」という。)が特許第一一二一六〇五号の特許権にもとづき被控訴人に対して提起した特許侵害訴訟における和解手続において、被控訴人は、控訴人商品と同一の形態である原判決別紙第一目録記載の封緘具(以下「被控訴人商品」という。)の形態が控訴人商品と識別できるように、頭部の形態を楕円形又は六角形とする等の和解案を提示したことがあること、また、両方向挿通可能な株式会社サトーゴーセーの商品の頭部が長方形となっていることに照らせば、控訴人商品の形態が技術的機能に由来する必然のものとは到底いえない。

なお、右特許は封緘具の頭部の内部構造を特徴とする特許であり、外部構造(形態)を特徴とするものではない。そして、右訴訟で争われたのは、被控訴人商品の頭部内部の係止面が右特許の技術的範囲に含まれるか否かについてであって、外部構造についてではない。そして、被控訴人商品は、頭部内部の目に見えないほど小さい環状係止面が軸線に垂直でないこと等を理由に特許侵害にならないと判断されたものにすぎず、その訴訟の結果は、控訴人商品の形態が技術的機能に由来する必然的な形態か否かには何ら関係するものではない。

2  原判決は、控訴人が控訴人商品の形態が周知性を取得したと主張するころ、セキュラータッチと株式会社サトーゴーセーの商品が競合的に存在し、形態上の差異ある部分は小さいものであることを理由に、取引者又は需要者は、取引の実情の下において、これらの商品を見たとき、それぞれ別個の企業の商品であることを示す特徴的な形態の違いが存在するものと明確に認識することは困難であるとして、控訴人商品の形態が周知性を獲得したことを否定する。

しかし、控訴人商品は、その形態、特に頭部が円筒形である点においてセキュラータッチ及び株式会社サトーゴーセーの商品と識別し得る顕著な特徴を有している。すなわち、控訴人商品が頭部のいずれの方向からも挿通でき、かつ安全度が高いのに対し、セキュラータッチは頭部の一方から挿通できるのみで、作業性、安全性の面でも劣るといった機能面の優劣とも関連して、取引者及び需要者の間で控訴人商品が好評を得て、販売量が増加し、その結果、被控訴人がコピー商品である被控訴人商品の製造販売に及んだものであるから、控訴人商品やセキュラータッチ等が商品として小さく、形態上の差異のある頭部は更に小さいことを理由に控訴人商品の形態の商品の表示機能を否定することはできない。

また、株式会社サトーゴーセーの商品は、昭和六一年後半より市場にサンプルとして配布され、昭和六二年より販売されたが、販売量は極めて少なく、積極的な販売活動がされず、また現在もされていない状態である。

更に、セキュラータッチの売上げも一箇月五〇万円以下であり、控訴人商品の現在の売上げ一箇月三八〇〇万円と比べてごく僅かである。

したがって、控訴人商品の形態が周知性を獲得した昭和五七年末ころから現在にいたるまで、セキュラータッチや株式会社サトーゴーセーの商品が控訴人商品と競合的に存在したものではなく、その競合を理由に控訴人商品の形態の周知性を否定することはできない。

控訴人商品は、発売後五年間、独占的に販売され、また、相当な宣伝活動を行い、現在も八〇パーセント相当のシェアを占めているものであるから、その形態は、出所を表示する機能を有する商品の表示として周知性を獲得しているものである。

3  被控訴人は、控訴人商品、被控訴人商品とも商品名を表示した五〇〇〇本又は五万本入りのケースで取引を行う等の理由で、取引者又は需要者は両者を混同することはない旨主張する。

しかし、商品の形態が同一であり、その用途も取引者及び需要者も同一であるのに、ただケースに商標が表示されていること等をもって両者が混同を生じないというのはおよそ理由がない。

二  被控訴人

1  工業的製品の保護は特許権によるのが基本であり、商品の形態に関する不正競争防止法上の保護は、形態が技術的機能を離れてそれ自体で出所表示としての特徴を有し、かつ、形態により出所が知られるほどの周知性を獲得している特殊な場合に限り認められるものである。

控訴人商品の特徴(頭部のいずれの方向からも挿通でき、安全度が高く、作業性がよい)は、全て技術的機能に関するものである。

右技術的機能に関しては、訴外会社は、特許第一一二一六〇五号の特許権(昭和五七年特許出願公告第八四七三号公報)を有しており、同社は、右特許権に基づき被控訴人商品に対する特許侵害訴訟を東京地方裁判所に提起し(同裁判所昭和五九年(ワ)第一三七五〇号)、請求が棄却されて東京高等裁判所に控訴し(同裁判所平成二年(ネ)第四三五号)、平成三年六月二七日、控訴棄却の判決があり、被控訴人商品は、右特許の技術的範囲に属しないことが明らかになったところである。

控訴人商品は、右特許発明をそのまま実施したものであり(前記公報第一〇図、第一一図に相当)、かつ、その特許請求の範囲から明らかなように、同特許発明は、製品の全体の形状を特定し、その全体の構成から得られる作用効果を特徴とするものである。

控訴人商品は、右特許の対象である技術的機能を実現するために必然の形態(少なくとも特許発明を実施する際、最も普通に選択され、かつ技術的に有利な形態)を有するのであるから、そもそも技術的機能を離れた形態上の特徴を有しないのである。

したがって、控訴人商品は、不正競争防止法の保護を受けるような形態上の特徴がないものであり、その点で、既に控訴人の請求は失当である。

2  また、控訴人商品の形態は、控訴人商品であることを示す商品の表示として周知性を獲得してはいない。

被控訴人商品が市場に参入した当時、形態の類似した商品としてセキュラータッチ及び株式会社サトーゴーセーの商品が存在した。そして、少なくとも、セキュラータッチは、市場において控訴人商品よりも先行し、かつ、相当の販売数量を達成していた。控訴人商品の販売開始前は、むしろセキュラータッチが最も広く使われていたのである。

そして、セキュラータッチは、昭和五七年当時には年間二〇〇〇万円以上(五〇〇〇万本以上)の売上げがあったものである。

そして、控訴人商品とセキュラータッチや株式会社サトーゴーセーの商品には頭部の形状や係止突片の有無に主な違いが有るが、頭部と紐から構成された結束用具として見るならば、これらは同じ範疇の商品であり、商品が極めて小さいことから、細部にわたる相違は、外観のみを商標的にみた場合、重要性に欠ける。

したがって、控訴人商品の形態をそれのみの特徴的形態と認めることはできないものである。

また、控訴人商品に関する宣伝は、発行部数の小さな業界紙の広告、限られた場所での展示あるいは掲示に限られているものである。

以上のことから、控訴人商品の形態は、控訴人商品であることを示す商品の表示として周知性を獲得してはいない。

3  控訴人商品も被控訴人商品も、その外観は、取引において何の役割を果たしておらず、外観により出所の混同が生ずることはない。

すなわち、これらの商品の取引は五〇〇〇本又は五万本を単位とし、「ロックス」あるいは「アンビタッチ」という名称を明瞭に表示したケースにより行われており、店頭において商品の形態を見て注文することはない。

また、これらの商品は、履物のような商品製造業者が出荷前に使用する(一足ずつ結束する。)か、大規模小売店が使用する(値札の取付け)ものである。このような業者における取引の経路は特定されており、継続的である。そして、業者は結束用具のような製品については機能と価格を重視するから、このような点を十分に吟味して採否を決定するものである。

したがって、外観が類似している商品があるからといって、それで商品の混同を生じたり、購入先を変更することはあり得ないものである。

第四証拠関係<省略>

理由

第一控訴人商品、セキュラータッチ及び株式会社サトーゴーセーの商品の各形態及びこれらの商品の形態の相違点並びにセキュラータッチの販売時期については、原判決第五頁第四行(知裁集二一二頁一行目)ないし第七頁初行(同上、同頁一四行目)のとおりであるから、これをここに引用する。

そして、弁論の全趣旨により成立を認めることができる甲第二九号証(訴外会社常務取締役上野英幸作成の報告書)によれば、株式会社サトーゴーセーの商品は、昭和六一年後半より市場にサンプルを配布し、昭和六二年から販売を開始したものであることを認めることができる。

同報告書は、訴外会社常務取締役上野英幸が株式会社サトーゴーセーの元社員及び現社員に聞いて調査したところを記したもので、その内容は具体的詳細で何ら疑問を惹起させるところはない。

原審における証人古都明の証言によれば、控訴人商品は訴外会社が製造し、控訴人がこれを仕入れて販売していることが認められ、これによれば、両者は、本訴の結果について利害を共通にしていることが認められるが、このことから、直ちに、右報告書の信用性を否定することはできない。

また、同証人は、株式会社サトーゴーセーの商品が販売されたのは控訴人商品が販売されてから一、二年又は二、三年ぐらい後である旨証言しているが、その証言は極めて曖昧であり、正確な記憶に基づくものでないことが明らかであり、直ちには採用することができない。

また、成立に争いのない乙第一二号証(特許出願公告公報)によれば、株式会社サトーゴーセーの商品に係る特許は、昭和五四年四月一三日に出願され、昭和五六年四月一五日に出願公告がされたことを認めることができるが、特許出願公告がされたからといって、そのころ、その特許に係る発明が実施されたとは必ずしもいえるものではないので、このことは、直ちに前記認定の妨げになるものではない。

第二以上の事実に基づいて、控訴人の請求の当否について判断する。

一  まず、被控訴人は、工業的製品の保護は特許権によるのが基本であり、技術的機能に由来する必然的な形態は不正競争防止法上の商品の表示とはなりえない旨主張する。

商品の形態も不正競争防止法第一条第一項第一号の商品の表示となると解されるが、その商品の形態が技術的機能に由来する必然的な形態であっても、それだけで右商品の表示となりうることを否定することはできないというべきである。

けだし、不正競争防止法第一条第一項第一号の趣旨は、周知となっている他人の商品と混同するような商品の販売等を防止して、商人の信用を保護し、取引秩序の維持を図るものであるのに対し、特許法や実用新案法は、技術的思想の創作である発明や考案を保護するものであり、それぞれ法の目的や保護の要件が異なるものであり、不正競争防止法の要件を満たす限り(特許を得ただけで、その発明の実施による商品の形態が周知性を獲得するものではなく、そのためには、広範な宣伝、広告や取引上の実績の積重ね等の営業努力が必要である。)、それによる保護は与えられるべきものであって、技術的機能に由来する必然的な形態であるからといって、その保護を否定することは妥当ではないからである。

二  そこで、控訴人商品の形態が控訴人商品の商品の表示として周知性を獲得していたか否かについて判断する。

控訴人が控訴人商品の形態が周知性を取得したと主張する昭和五七年末当時、株式会社サトーゴーセーの商品は未だ販売されていなかったことは前認定のとおりであるから、右の時期に控訴人商品が周知性を獲得していたかの判断に当たっては、株式会社サトーゴーセーの商品を除外すべきである。そして、昭和五七年末当時、控訴人商品と競合する封緘具として被控訴人のセキュラータッチ(先行商品)が存したこと、そして、控訴人商品とセキュラータッチとは、セキュラータッチが円錐形の底部の方からのみ挿通することができるのに対し、控訴人商品は頭部の両方向から挿通することができるという機能上の差異に伴って、セキュラータッチの頭部は円錐形となり、控訴人商品の頭部は略円柱形筒状をしているという頭部の形状の差異があること、その他、控訴人商品の結合部には羽の形をした係止突片があるのに対し、セキュラータッチの結合部にはその係止突片がないという形状の差異があることは前認定のとおりである。

控訴人商品もセキュラータッチも商品としては小さいものであり、その頭部は更に小さく、係止突片はそれよりまだ小さいものであるが、両者を並べて比較すれば、その相違を認識することは容易である。

しかし、セキュラータッチもそうであるが、控訴人商品は、封緘具としての機能をそのまま形態に反映させたものであり、挿通孔を持つ頭部と頭部から延びる細長い中間部と中間部の先端に形成された結合部からなる基本的な形態は同一であって、取引者及び需要者の購買意欲をかき立て、また他の商品と識別されるべく形態に工夫をこらしたと認められる点は何ら存在しない。

なお、成立に争いのない乙第一号証(特許出願公告公報)によれば、訴外会社が出願した名称を「封緘具」とする発明(控訴人商品は、この発明を実施したものであることは当事者間に争いがない。)の技術的課題(目的)は、従来の封緘具が頭部の挿通孔が一方向のみから挿通できるようになっていたのを、挿通孔の両方向から挿通できるようにして、便利で能率的な封緘具を提供することにあることが認められる(他の目的として、構造が簡単かつ小型化され、係止作業等の取扱いが容易である上に、簡単なモールドにより安価に大量生産できる封緘具を提供することがあるが、これは、頭部の挿通孔の内部に環状固定歯を設ける構成に係るもので、外部的形状には現れないものである。)。

これによれば、外部的な形態として現れる点に関する限り、控訴人商品は先行商品であるセキュラータッチの頭部の一方向挿通性を両方向挿通性に改良したものにすぎず、その機能の改良の結果、頭部の形状が円錐形から略円柱形筒状になっているにすぎないものである。

そして、控訴人商品の包装用小箱の写真であることにつき当事者間に争いのない乙第七号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、控訴人商品はバラ売りされるものではなく、五〇〇〇本あるいはそれ以上を収めた商品名を付したケースを単位として取引が行われるのが通常であることが認められる。そして、このことは、同種の商品であるセキュラータッチについても同様であると認められる。

以上の商品としての特徴及び取引の実情に照らせば、控訴人商品やセキュラータッチの取引に際し、取引者及び需要者が注意するのは、製品としての機能や価格であり、形態によって商品を特定、認識するものでもなければ、形態によって購入の意思を決定するものではないものと認められる。

以上によれば、控訴人商品の形態が、控訴人が主張する昭和五七年末ころ、控訴人商品を表示するものと一般に取引者及び需要者が認識するほどの周知性を獲得していたものとは認めることができないというべきである。

また、その後はセキュラータッチの他控訴人商品と同じく両方向から挿通できる頭部を持つ株式会社サトーゴーセーの商品も出現したものであるから、控訴人が主張するように、控訴人において控訴人商品の宣伝活動を活発に行い、また、市場におけるシェア伸ばしていったとしても、前述の商品としての特徴及び取引の実情に照らせば、現に、控訴人商品の形態が右の周知性を獲得しているとも認められない。

第三したがって、控訴人商品の形態が不正競争防止法第一条第一項第一号の商品の表示として周知性を獲得していることを前提に、被控訴人商品の輸入、販売等の差止めと損害賠償の支払いを求める控訴人の請求は、その余について判断を加えるまでもなく理由がなく、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条本文、第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田稔 春日民雄 佐藤修市)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一 被告は、別紙第一目録記載の封緘具(以下「被告商品」という。)を輸入し、販売し、頒布してはならない。

二 被告は、原告に対し、五九四八万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一 本件は、原告において、原告の販売する別紙第二目録記載の封緘具(以下「原告商品」という。)の形態が原告の周知の商品表示、被告の販売等する被告商品の形態が被告の商品表示であると主張して、不正競争防止法一条一項一号、一条の二第一項の適用を求めている事案である。

二 争いのない事実

原告は、昭和五三年ころ以降、株式会社トスカから同社が製造した封緘具を購入し、これに「LOX」(ロックス)という商品名を付して日本国内において販売を始めた。これが原告商品である。

一方、被告は、アメリカ合衆国に本店を有する会社であるが、日本国内においては、封緘具、値札取付器具等の輸入、販売を主な業務としているところ、昭和五八年七月ころ以降、韓国において製造した封緘具を日本国内に輸入し、これに「アンビタッチ」という商品名を付して販売している。これが被告商品である。また、被告は、被告商品の販売を始めるまでは、別個の封緘具を販売していた。

三 争点

1 原告商品の形態は、遅くとも昭和五七年末ころまでに、原告の商品表示として、日本国内において広く認識されるに至っていたか否か。

2 被告商品の形態は、原告商品の形態に類似しているか否か。

3 被告の行為によって、原告商品と被告商品との混同が生じ、又は生じるおそれがあるか否か。

4 原告の被った損害の額いかん、また、損害賠償請求債権の一部が時効により消滅しているか否か。

第三当裁判所の判断

一 証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1 原告商品は、挿通孔を持つ略円柱形筒状の頭部と、この頭部の側面から延長する中間部と、この中間部の先端に形成され、右の挿通孔に挿通して係止される結合部からなり、この結合部に羽根の形をした係止突片が存在し、全体が合成樹脂で一体に形成された封緘具である(甲四及び五の各一、二、検甲一)。

2 被告は、原告による原告商品の販売より前に、「セキュラータッチ」という商品名の封緘具を販売していたが、これは、挿通孔を持つ略円錐形の頭部(一方向からのみ挿入可能)と、この頭部の側面から延長する中間部と、この中間部の先端に形成され、右の挿通孔に挿通して係止される結合部からなり、全体が合成樹脂で一体に形成された封緘具である(検甲三、証人古都明の証言)。

3 株式会社サトーゴーセーは、遅くとも昭和五六年ころまでに封緘具の販売を始めたが、これは、挿通孔を持つ略角柱形筒状の頭部と、この頭部の側面から延長する中間部と、この中間部の先端に形成され、右の挿通孔に挿通して係止される結合部からなり、全体が合成樹脂で一体に形成された封緘具である(甲一七、検甲四、証人古都明の証言)。

4 原告商品と右「セキュラータッチ」とは、頭部の形状及び係止突片の有無、係止作用の点が異なり、更に、原告商品では頭部の両方向から結合部を挿通することができるが、「セキュラータッチ」は頭部の片方向、すなわち、円錐形の底面の方からのみ挿通することができるという相違がある。また、サトーゴーセーの販売に係る封緘具と原告商品とは、頭部の形状及び係止突片の有無、係止作用の点が異なる(前掲各証拠)。

5 原告商品と他の二つの商品との間において、商品の形態自体から明らかな相違点は、頭部の形状及び係止突片の有無にとどまり(右1ないし3の認定事実)、その余の点は、機能あるいは作用上の相違であって、外観上の形態自体からは必ずしも判然としない。もっとも、頭部の形状及び係止突片の有無のほかにも、形状の相違点がないとはいえないものの、極めて微細なものである。そして、これら各封緘具は、それ自体が極めて小さく、ひいては、その頭部及び原告商品の係止突片は、更に小さなものである。したがって、取引者又は需要者は、取引の実情の下において、これら商品を見たときに、それぞれ別個の企業の商品であることを示す特徴的な形態の違いが存在するものと明確に認識することは困難であると認められる(前掲各証拠)。

二 右認定の事実によれば、原告が原告商品について周知性を獲得したとする昭和五七年末より以前に、原告商品のほかに、右のような紛らわしい二つの商品が競合的に存在したのであるから、そのころまでに、その中で特に原告商品のみが、極めて特徴的な形態を有し、その出所を表示する機能を有する商品表示として、周知性を獲得するに至ったものと認めることはできない。また、原告商品は、その販売後現在に至るまでの間、大量に販売されるとともに、その宣伝広告も相当行われたものと認められるが(甲四及び五の各一、二、八の一、二、九の一ないし三、一〇、一一、一二ないし一五の各一ないし五、二〇の一ないし三、二二の一、二、二三、二四の一、二、二五、二七、証人古都明の証言)、その後も「セキュラータッチ」その他の封緘具が販売されていること(乙一一、証人古都明、木崎祐二の各証言)、これら商品に特徴的な形態の違いが存在するものと明確に認識することは困難であること(前認定の事実)などから、現に原告商品の形態が商品表示として周知性を獲得しているとも認められず、他に右周知性を認めるに足りる証拠はない。

三 よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第一目録

被告が「アンビタッチ」という商品名で販売している封緘具にして、別添写真1の通り挿通孔を持つ円筒形の頭部と、この頭部の側面から延長する中間部と、この中間部の先端に形成され、右挿通孔に挿通して係止される結合部からなり、全体が合成樹脂で一体に形成されたもの。

別添写真<省略>

第二目録

原告が「ロックス」という商品名で販売している封緘具にして、別添写真2の通り、挿通孔を持つ筒状の頭部と、この頭部の側面から延長する中間部と、この中間部の先端に形成され、右挿通孔に挿通して係止される結合部からなり、全体が合成樹脂で一体に形成されたもの。

別添写真<省略>

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