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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1370号 判決 1991年9月11日

控訴人

大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

小坂伊左夫

右訴訟代理人弁護士

日野和昌

中杉喜代司

被控訴人

円谷光男

円谷美代子

髙丸安弘

髙丸久美子

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

三宅雄一郎

高木権之助

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは控訴人に対し、各自金二九五万円及びこれに対する平成二年三月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは控訴人に対し各自五九九万九七八五円及びこれに対する平成二年三月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

控訴棄却

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被控訴人円谷光男、同円谷美代子は、円谷悟(昭和五三年一一月一三日生)の親権者であり、被控訴人髙丸安弘、同髙丸久美子は、髙丸健太(昭和五四年二月一一日生)の親権者である。

(二) 有限会社堀工業所(代表者堀保男、以下「堀工業所」という。)は東京都武蔵村山市御調三ツ木八六九番地一所在、家屋番号八六九番地一、木造スレート葺平屋建居宅工場、床面積115.70平方メートル(以下「本件建物」という。)を所有し、倉庫として使用していた。

(三) 控訴人は堀工業所との間に、本件建物を保険の目的として、保険期間を昭和六三年三月一二日から一年間とする店舗総合保険普通保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた。

2  火災の発生

平成元年一月二九日午後五時ころ、円谷悟(当時一〇歳)及び髙丸健太(当時九歳)は、小松雄志(昭和五七年一月二〇日生、当時七歳)と共に、無断で本件建物に侵入して、建物内にあったプラスチック製の容器(洗顔器)の中に紙を入れてマッチを用いて火をつけ、新聞紙に火をつけるなどして、危険な火遊びをしていたところ、これが建物に燃え移り、本件建物は全焼した(以下「本件火災」という。)。

3  責任

円谷悟及び髙丸健太はいずれも、本件建物が焼失すればいかなる法的責任が生ずるかにつき、十分な弁識能力を有せず、責任無能力者であった。

右両名の監督義務者である被控訴人円谷両名及び同髙丸両名は、いずれもその監督につき重大な過失があったから、民法七一四条一項本文、失火ノ責任ニ関する法律(以下「失火責任法」という。)但書に基づき、本件火災により生じた損害を賠償する責任がある。

4  損害

本件火災による損害は次のとおりである。

(一) 家屋 五四五万四三五〇円

本件建物は、前記のとおりの構造と面積を有し、昭和三九年に建築された。株式会社中央損保鑑定事務所は、その再築価額が九九一万七〇〇〇円であり、償却率年1.8パーセントとして、本件建物の焼失時の価額を算出すると、五四五万四三五〇円になると鑑定した。

(二) 取片付け費用 五四万五四三五円

取片付け費用は、焼失家屋価額の一〇パーセントが相当である。

5  保険代位

(一) 控訴人と堀工業所との間の、本件保険契約約款一条によると、控訴人は火災によって「保険の目的について生じた損害に対して、損害保険金を支払」うこと、及び同三〇条一項によると、「保険金を支払ったときは、その支払った保険金の額を限度として、かつ、被保険者の権利を害さない範囲内で、被保険者がその損害につき第三者に対して有する権利を代位取得」することが規定されている。

(二) 控訴人は、本件建物が焼失したため、本件保険契約に基づき平成元年二月二七日堀工業所に対して、前記4の損害額合計に相当する保険金五九九万九七八五円を支払った。

(三) 控訴人は前記保険約款及び商法六六二条により、右支払額につき、堀工業所が被控訴人らに対して有する損害賠償請求権を代位取得した。

6  よって、控訴人は被控訴人らに対し、右五九九万九七八五円及びこれに対する訴状送達の翌日以降である平成二年三月六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)、(二)は認め、同(三)は不知。

2  同2のうち、平成元年一月二九日午後五時ころ、円谷悟及び髙丸健太が、本件建物に無断で侵入した事実、並びに本件建物が全焼した事実は認めるが、火災の原因については否認する。新聞紙を燃やした事実はない。円谷悟及び髙丸健太の行為には、成年者が行ったとしても客観的に重大な過失とみなされるような落ち度はなかった。

3  同3のうち、円谷悟及び髙丸健太が責任無能力者であり、被控訴人らがその監督義務者である事実は認めるが、その余は否認する。

4  同4は否認する。控訴人が本件火災による損害として堀工業所に支払った保険金額は、火災保険制度における再調達価格を基礎とした政策的なもので、実際の損害より高額である。損害賠償請求における損害額は、交換価値を基礎として算定すべきところ、本件建物は廃屋同然であったもので、その損害はゼロである。

5  同5(一)、(二)は不知、同(三)は否認する。

三  抗弁

1  被控訴人らは、親権者として、その子供である円谷悟及び髙丸健太の監督につき重大な過失はなく、何らその義務を怠ってはいない。したがって被控訴人らは、民法七一四条一項但書及び失火責任法本文により、本件火災につき免責される。

2  保険契約者である堀工業所の代表者堀保男は平成元年一月三〇日被控訴人らに対して損害賠償請求権を放棄した。

3  仮に以上の事実が認められないとしても、控訴人の本件保険代位による損害賠償請求権の行使は、保険制度の社会的使命及び保険代位の内在的制約に反するもので、権利濫用である。

4  堀工業所には本件建物の管理につき大きな落ち度があったから、損害額につき大幅に過失相殺すべきである。

四  抗弁に対する認否

すべて否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(一)、(二)の事実(当事者の関係、堀工業所の建物所有)は当事者間に争いがなく、<書証番号略>によると、同(三)の事実(保険契約)を認めることができる。

二請求原因2のうち、平成元年一月二九日午後五時ころ、円谷悟及び髙丸健太が、本件建物に無断で侵入した事実、及び本件建物が全焼した事実、並びに同3のうち、円谷悟及び髙丸健太が責任無能力であり、被控訴人らがその監督義務者である事実は当事者間に争いがない。

右争いがない事実と、<書証番号略>、証人内山三雄、同堀保男の各証言(原審)、並びに原審相被告小松美代子、被控訴人円谷美代子、同髙丸安弘の各本人尋問の結果(原審)によると、次の事実を認めることができる。

1  本件建物は、昭和三九年に建築された防火造平家建の作業場併用住宅であり、以来、堀工業所の社員寮と作業場として使用してきたが、昭和五三年ころからは、人の居住しない空き家となり、倉庫として使用されていた。本件建物の周囲は、旧農村地帯であり、近年は都市化が進んで住宅、アパート、小店舗などが多く建築されてはいるが、農地が随所に点在している。

本件火災の当時、本件建物は、堀保男の親族の者などが、業務用の冷蔵庫や厨房製品、美容院のための材料、宣伝用のマッチ、雑誌、家財道具、ダンボール箱など当面使用しない雑品を置いて物置替わりに使用していた。同建物の玄関は施錠されていたが、雨戸を外したりすると窓などから人が容易に出入りできる状態で、現に浮浪者などが侵入した気配もあり、外観上かなり荒廃していたこともあって、付近の子供達の間では「お化け屋敷」と呼ばれていた。なお堀工業所では昭和六三年、雨漏りのため本件建物の屋根を補修した。

2  被控訴人円谷夫婦の二男である悟と被控訴人髙丸夫婦の長男である健太(いずれも当時小学四年生)は、本件火災の起きた平成元年一月二九日は日曜日であったため、午前一〇時ころから近所に住む小松雄志(当時小学一年生)と共に、被控訴人髙丸宅でファミコンをして遊んだ。右三人は、同日午後四時三〇分ころ、髙丸宅から約一〇〇メートル離れた本件建物に行き、「お化け屋敷」と呼んでいた建物内の様子を探るため、南東角一〇畳間の雨戸の外れていた窓から建物内に入り込み、中で遊んだ。

そのうち、健太が隣の部屋から、多数のブックマッチ(二つ折りのポケット用もぎ取り式紙軸マッチ)が詰められているボール紙の箱を発見して、持って来たので、健太と悟は右一〇畳間で右マッチを点火して遊び始めた。なお雄志は見ているだけで、火はつけなかった。健太は、マッチのカバーをちぎって、点火したマッチで火をつけ、これを盆のような物の上に置いたので、悟も同じようにして火をつけた。健太はさらに四、五個のマッチを燃やしたが、すぐに消えるので、そばにあった新聞紙をちぎって盆のような物の上で燃やした。他方、悟は、その場にあったプラスチック製の容器(洗顔器)をダンボール箱の上に置き、容器の中に紙をちぎって入れ、マッチを使って容器の中の紙に火をつけた。悟が、マッチ三、四個を燃やしたところ、右容器の底部が熱で溶けて燃え出し、火はさらにその下にあったダンボール箱に燃え移ってしまった。悟と健太らは、ダンボール箱についた火を叩き消そうとしたが、その際、健太がマッチを燃やしていた盆のような物を床に落としてしまい、中で燃えていた紙が火の粉のように散らばり、付近の床やダンボール箱が燃え出した。

悟と健太らは、家の外に出て、消火するため髙丸宅に行きバケツに水を汲んで戻ったが、既に建物内には煙りが充満し、窓から炎が上がっていたため、同日午後五時五分、約五〇メートル離れた消防署に連絡した。しかし火の回りが速かったため、本件建物は全焼し、同建物南側の堀工業所が所有する木造平屋建住宅(空家)は雨樋などが焼けたが、同日午後六時一一分鎮火した。

三失火責任法と民法七一四条の関係については、監督者に責任無能力者の監督について重過失がないかぎり免責されるとする考え方がある(原判決はこの立場をとっている。)。しかしながら右見解は、被用者の失火に関する使用者責任については、被用者に重過失がある場合には、使用者に被用者の選任または監督について重大な過失がなくても民法七一五条一項により賠償責任を負うとする最高裁判例(最高裁昭和四二年六月三〇日第二小法廷判決・民集二一巻六号一五二六頁参照)の趣旨と対比すると、失火による被災者の立場を軽視するもので、妥当とはいえない。また責任無能力者の行為から直接生じた火災については民法七一四条をそのまま適用し、延焼部分については監督について重過失ある場合にのみ責任を負わせるとの考え方もあるが、右見解によると、失火により直接生じた被害については無能力者につねに重過失があったと見るのと同じになってしまい、責任能力者の失火の場合と比べて賠償義務者に酷な結果となる。

そこで検討するに、責任能力は過失責任主義の論理的前提であり、責任無能力者については不法行為責任の成立要件である過失や重過失は論理上問題としえないと一般に考えられている。しかし、責任無能力者の行為についての監督義務者の不法行為責任の成否を考えるに当たっては、無能力者の行為といえども、その事理弁識能力を前提として、その年齢・能力相応のレベルを基準に、その行為態様につき、過失に相当するものの有無及びその軽重を論ずることは可能であるといってよい。当裁判所としては、失火による被災者の利益と、失火者である責任無能力者及びその監督者の利益を比較衡量し、失火による損害を公平に負担させる見地から、失火責任法と民法七一四条の関係については、無能力者に、右のとおりその事理弁識能力を基準にして、失火につき、客観的に見て故意又は重過失に相当するものがあると認められる場合には、監督者に不法行為責任が成立すると解するのが、合理的で妥当であると考える。

よってこの見地に立って本件を検討するに、前記二2のとおり、本件失火は、いずれも当時小学四年生であった被控訴人円谷夫婦の二男悟(当時一〇歳)及び被控訴人髙丸夫婦の長男健太(当時九歳)が、他人所有の本件建物に無断で入り込んで、マッチで火遊びをした結果、発生させたものであり、その火遊びの態様も、燃えやすいダンボール類が放置してある室内で、多数のマッチに続けて点火して、マッチのカバーや、盆のような物の上に置いた新聞紙に点火し、或いは、ダンボール箱の上に置いたプラスチック製の容器(洗顔器)の中に入れた紙に点火するなど、客観的に極めて危険な行為であった。悟及び健太は、一〇歳前後の小学四年生の事理弁識能力を基準としても、これが社会常識から見て火災を招く危険性の高い重大な危殆行為であることを容易に認識しえたはずであり、その行為には重過失に相当するものがあったと認めざるを得ない。そうだとすると、右児童らの監督義務者である被控訴人円谷及び被控訴人髙丸らは、本件失火につき、民法七一四条一項本文及び失火責任法但書に基づき、損害賠償責任を負うものと解すべきである。

四1 被控訴人らは、無能力者の監督につき重過失はなかったとして免責を主張する。しかし、責任無能力者の失火につき監督義務者に賠償責任があるとするためには、無能力者の行為に重過失に相当すると認められる事由の存することを必要とすることはさきに述べたとおりであり、これがあると認められるときは、当該無能力者に対する監督についての重過失は問題ではなく、監督義務者に重過失がなかったからといって、責を免れることはできない。したがって、監督義務者は監督義務を怠らなかったことを証明したときに限り、民法七一四条一項但書により免責を得ることになるところ、被控訴人らの抗弁はこの主張も含んでいるものと解されるが、被控訴人円谷美代子、同髙丸安弘の各本人尋問の結果(原審)によると、被控訴人らはそれぞれの家庭において平素その子供に対し火の危険性について話をしてきかせる程度のことはしていたと認められるものの、子供たちがどのような場所でどのようなことをして遊んでいるかについて必ずしも明確に把握しておらず、このような危険な火遊びをすることを防ぎえなかったのであって、子供の監督を怠らなかったということはできない。よって抗弁1は理由がない。

2 被控訴人らは、堀保男が被控訴人らに対して損害賠償請求権を放棄したと主張するが、証人堀保男の証言(原審)その他本件の全証拠によっても、そのような事実は認められない。したがって抗弁2も理由がない。

五本件建物の焼失により堀工業所の被った損害額につき、検討する。

1  <書証番号略>、及び証人遠山克亮、同堀保男の各証言(原審)によると、本件建物は、前記のとおりの構造と面積を有し、昭和三九年に建築されたこと、控訴人から依頼を受けた株式会社中央損保鑑定事務所は、その再築価額が九九一万七〇〇〇円であり、償却率を年1.8パーセントとして、二五年が経過しているので、四五パーセントの償却を施し、本件建物の焼失時の価額を五四五万四三五〇円と鑑定したこと、控訴人は、平成元年二月二七日堀工業所に対し、本件保険契約に基づき、右鑑定に準拠して、建物の損害保険金として五四五万四三五〇円、臨時費用として一六三万六三〇五円、取片付け費用として五四万五四三五円の合計七六三万六〇九〇円の保険金を支払ったことが認められる。

しかし<書証番号略>(社団法人日本損害保険協会「保険価額評価の手引き」)によると、保険実務上、木造建物の経年減価率として、併用住宅では一平方メートル当たりの新築費一三万六〇〇〇円未満のものについては年2.3パーセント、工場・倉庫では同じく六万九〇〇〇円未満のもの年2.3パーセント、六万九〇〇〇円以上のもの年2.0パーセントという数値が標準的に用いられていることが認められ、本件建物は近年空き家となり十分な管理がされていなかったと推認されることをも考慮すると、右鑑定が償却率を年1.8パーセントとしたのは低きに過ぎ、少なくとも2.3パーセントとするのが相当である。そこで、これにより前記鑑定結果を修正すると、四二一万四七二五円という数額が得られる。よって、堀工業所は、本件建物の焼失により、四二一万四七二五円の損害を被ったものと認める。

2  控訴人は、取片付け費用五四万五四三五円も損害であると主張する。しかしながら、<書証番号略>によると、右取片付け費用とは、本件保険契約約款一条九項に基づき、控訴人が、建物の保険金以外にその一〇パーセント相当額を残存物取片付け費用保険金として支払ったものを指していることが認められ、堀工業所が現実に取片付けのため右金額相当のものを支出したことを認めるに足りる立証はされていない(なお、被控訴人円谷美代子本人尋問の結果(原審)によると、被控訴人らは本件火災直後に堀保男に対し見舞金として合計一五万円を支払っている事実が窺われ、取片付け費用は実質的に償われているともいえる。)。そうすると右金額については、損害と認めることはできない。

六前記二の事実によると、堀工業所は、本件建物内に多量のマッチや燃えやすいダンボール等を保管していたのにも拘わらず、浮浪者や子供が容易に室内に入り込めるような状態で放置していたもので、その管理は不十分であった事実が認められる。したがって堀工業所には本件建物の管理につき大きな落ち度があり、損害の発生を避けるために必要な注意を怠ったかなりの過失があったものと認められるから、前記損害額のうち三割が過失相殺されるべきである。被控訴人らの抗弁4は右の限度で理由がある。

そうすると堀工業所は、本件建物の焼失により、被控訴人らに対し、前記四二一万四七二五円の七割である二九五万円(一〇〇〇円未満切り捨て)につき損害賠償請求権を有することとなる。

七<書証番号略>によると、請求原因5(一)、(二)の事実(保険約款の規定、保険金の支払)を認めることができる。

右事実及び前記六によると、控訴人は、本件保険契約約款及び商法六六二条に基づき、前記支払保険金七六三万六〇九〇円の範囲内で、堀工業所が被控訴人らに対して有する前記二九五万円についての損害賠償請求権を、保険代位により取得したものと認められる。

八被控訴人円谷美代子本人尋問の結果(原審)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人円谷夫婦は日動火災海上保険株式会社の個人賠償責任保険に入っていたが、右保険会社は、控訴人が本件火災につき保険代位して被控訴人らに支払請求するのは不当であり、被控訴人らに賠償義務はないとして、責任保険の支払に全く応じていないことが認められる。

このように保険会社相互間でも、失火の場合の保険代位については、その取り扱いに相違のあることが認められるが、本件のような火遊びによる火災という故意に近い悪質な事案について、控訴人が保険代位により請求をすることは、法及び約款に沿った正当な権利行使であり、これを権利濫用だとする理由はない。したがって抗弁3は理由がない。

九よって、控訴人の本訴請求は、被控訴人らに対し右二九五万円及びこれに対する訴状送達の後であることが記録上明らかな平成二年三月六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。

したがって、控訴人の請求を全部棄却した原判決を右の限度で変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないから却下して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官大藤敏 裁判官水谷正俊)

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