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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1795号 判決 1992年3月25日

長野県長野市中御所一丁目一九番一号

控訴人

株式会社柳原製作所

右代表者代表取締役

横谷晴利

右訴訟代理人弁護士

竹内喜宜

右輔佐人弁理士

綿貫隆夫

堀米和春

静岡県浜松市篠ケ瀬町六三〇番地

被控訴人

株式会社マキ製作所

右代表者代表取締役

泉谷澄雄

右訴訟代理人弁護士

唐澤髙美

右輔佐人弁理士

新部興治

岡田長雄

谷浩太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は原判決添付物件目録記載のすいか選別装置を製造販売してはならない。

3  被控訴人は控訴人に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年八月一九日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決並びに第2項ないし第4項について仮執行の宣言

二  被控訴人

主文と同旨の判決

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、左記に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四枚目裏三行目に「分説」とあるを「構成要件」と訂正し、同一三枚目裏五行目から六行目にかけて「(以下、「明細書」という)」とあるを削除し、同一四枚目表六行目に「明細書」とあるを「本件公報」と訂正し、同二七枚目表一二行目に「イ号物件」とある前に「被告は、」を加える。)。

(控訴人の主張)

一  選別物供給コンベアと選別物搬送コンベアについて

1 原判決は、本件特許発明の選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤは別個のコンベヤであるのに、イ号物件の等級検査コンベヤは一条一体であり、これを選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤに別けて構造分類を行うことは妥当ではない旨認定しているが、本件特許発明では選別物供給コンベヤdと選別物搬送コンベヤeとが別体でなければならない技術的必然性はない。

本件特許発明ではパンを繰り返し循環させて使用する点に特徴があるのであり、したがってこのパンを搬送するコンベヤ群はパンを連続して搬送する必要があることからいずれ接続関係にあることは明らかであり、接続された状態で一体とみるべきものである。

2 本件特許発明ではコンベヤ群によってパンの循環系を構成するのであるが、そもそもコンベヤの主機能は、物を搬送する機能であることはもとよりであり、これをその主機能に注目すれば、すべて搬送コンベヤになってしまい、これでは各コンベヤ群を識別できなくなる。コンベヤが搬送機能を主機能とするものであっても、循環系におけるコンベヤ群の各コンベヤは、それぞれその奏する別異の機能を有している。本件特許発明ではこれがパン集積、選別物供給、選別物搬送、分岐、集積、排出、空パン返還の諸機能であって、この循環系を構成するコンベヤの各部をその機能に注目して、機能別にコンベヤを区別したものということができる。

3 イ号物件における等級検査コンベヤは、まさに機能において本件特許発明の選別物供給、選別物搬送の両機能を有しているコンベヤであり、その選別物供給コンベヤ、選別物搬送コンベヤが連設されたものという他ない。

なお連設とはその字義道りに解釈すれば、連なって設けられている様であり、一体とか別体とかを区別する必要はない。

4 いずれ接続関係にある循環系のコンベヤを一体とか別体に区別する必然性はないし、まして本件特許の請求の範囲にローラの径を大きくして速度を変えるようにしたコンベヤとでも限定があれば別であるが、そのような限定もなく、単に「連設され」となっている場合において、実施例のものが別体であるからといって、必ず別体のものでなければならないという限定解釈は不当である。

右から明らかなように、イ号物件でも本件特許発明における構成要件d及びeを充足している。

二  読取装置と選別機構との関係について

1 原判決がその理由三1二において、本件特許発明の技術的範囲について「本件特許発明が被選別物を収納したパンに対して計測、記録、読取、選別という一連の工程を順に行うことにより被選別物の選別を行うものであり、相対的位置関係は選別物搬送コンベヤによるパンの搬送方向の上流、下流の関係で特定されているから、空間的な遠近にかかわりなく当該各構成要件の相対的位置関係は特定されており、計測信号または読取信号の伝送関連において計測装置と記録装置または読取装置と選別機構はそれぞれ対応しているというべきであり、技術的に当業者にとって不明確な点はない。」と認定したように、本件特許発明では、その読取装置と選別機構は必ずしも機械的に一対一の関係にある必要はなく、空間的な遠近にかかわりなく、読取信号の伝送関連において対応していれば足りるのである。

2 第一発明と本件特許発明たる第二発明では、特許法第三八条(昭和五〇年法)の併合出願である点で、全く関係ないとはいえず、両発明はパンの循環系で共通するものであるが、そもそも独立項たる第一発明と第二発明とは全く別異の発明として把握されるべきである。

確かに、第一発明では選別段階ごとに計測装置と選別機構とはその発明の性質上、機械的に一対一に対応している必要があるが、パンに記録媒体を帯有させ計測装置を一つでよくし、記録媒体への記録内容を読取装置で読み取って、この読取内容に基づいて選別機構を作動させるようにした本件特許発明では、読取装置と選別機構の関係は、前記のごとく、空間的な遠近にかかわりなく、読取信号の伝送関連において対応していれば足り、必ずしも機械的に一対一に対応していなくてもよい。

3 なお、遠隔制御の実施例は本件特許明細書中に記載がないが、甲第四号証、甲第五号証に示されるように、コンピュータを利用した遠隔制御による選別方式は本件特許出願時に周知の技術であるので、明細書中には例示しなかったまでであり、本件特許の請求の範囲の記載からして、このような遠隔制御方式は本件特許発明に包含される。このような遠隔制御をするにしても、計測装置での計測結果をパンの記録媒体に記録し、相当距離搬送した後読取装置で読み取るのであるから、それだけ搬送距離を短くでき、制御が簡単になるのはいうまでもない。

4 本件特許発明については、被控訴人より昭和六三年一〇月一二日付けで特許を無効とする審判の請求がされ、これに対し請求不成立の審決がされた。被控訴人は、これを不服として、東京高等裁判所に右審決の取消訴訟を提起した(平成二年(行ケ)第二〇〇号審決取消請求事件)が、平成三年一一月五日原告の請求を棄却する旨の判決が言い渡された。この判決の末尾に添付された参考図に示す構成は、記録装置156のあとに読取装置151をまとめて配置した構成であり、右構成が本件特許発明の文言上の要旨に包含されることは明らかであり、イ号物件における読取装置と選別部の配置と同じである。被控訴人は、右構成が本件明細書中の実施例として記載されていないから、本件特許発明は明細書の記載不備が存し無効とされるべきであると主張したが、この被控訴人の主張は容れられなかったものである。

したがって、本件特許発明の技術的範囲には、右参考図に示される構成も包含されるのであり、原判決における「この「対応」の解釈は、明細書全体から判断すると機械的に一対一の関係にあるという意味に解される」という判断は、本件特許発明の技術的範囲を不当に狭く解釈するものである。

5 また、本件特許発明では測定因子は確かに重さか大きさ(階級)の一 つであるが、このことをもって本件特許発明が階級のみを選別する階級 選別装置と断定するのは誤りである。

この種の青果物の選別装置は通常等級も階級も判別する等級階級選別装置であることが普通である。本件特許明細書の実施例中でも等級階級選別装置を例に挙げている。

しかし、本件特許発明では、その特許請求の範囲の記載から明らかなように、重量または大きさをみる階級選別装置に主眼をおいた構成になっている。すなわち、選別装置での階級選別機構が特許請求の範囲記載のとりの装置であるというスタイルをとっており、等級選別機構を含ませるか否かは任意である。もともと等級と階級とは異質のものであり、等級階級選別装置においてはその組合せにより等級数と階級数の積だけの数の等階級の選別段階数が生じる。

等級と階級とが同質で融合的なものであれば、等級階級選別装置と単なる階級選別装置とを直接的に対比するのは不適当な場合もあろうが、両者が異質でそれぞれ付加的に組み合せられる場合には、等級階級選別装置のうちの階級選別機構を抽出しても不適当ということはない。

6 イ号物件では、等級(優、良、秀)、空洞の有無、計測装置からのす いかの高さ情報、カメラからのすいかの平面積情報を制御装置にて総合 的に判断し、すいかの等階級を決定し、検出装置以降はパン(トレー)を所定距離搬送して対応する分岐コンベヤに送り込むようにしている。このイ号物件における選別方式でも、階級決定について注目してみれば、計測装置での計測結果をパン(トレー)の記録媒体(表示スイッチ)に記録(押入)して搬送し、検出装置での検出結果とカメラからの情報を加味して階級を決定しているにすぎず、本件特許発明の、計測装置によって被選別物の重量または大きさを計測し、この計測結果を記録装置によりパンの記録媒体に記録し、この記録内容を下流に配置した読取装置によって読み取り、この読取内容に基づいて対応する選別機構を作動させ、所定の分岐コンベヤに送り込む選別方式と同一といわざるを得ない。

イ号物件ではこの階級選別方式に、等級、空洞の有無の判別を付加した等級階級選別方式を採用したまでのことであり、そしてこの等級、空洞の有無の判別を付加したことから単に生じる必然的なシステム、すなわち階級の判定と等級の判定とを制御装置により総合的に判定し、この判定内容に基づいて所定の距離分搬送し、対応する分岐コンベヤに送り込むシステムを採用したものである。

以上から明らかなように、イ号物件では等級判別をも付加した等級階級選別方式を採用しているが、階級選別方式に注目してみれば、本件特許発明の選別方式をそのまま内包している。

(被控訴人の主張)

一  選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤについて

1 控訴人は、「本件特許発明では選別物供給コンベヤdと選別物搬送コンベヤeとが別体でなければならない技術的必然性はない。」(控訴人の主張一1)と主張している。

しかし、本件特許出願では、拒絶理由通知後の補正に際し、選別物供給コンベヤdは構成要件として急遽付加されたものであって、もしこの機に今日控訴人が主張するような「別体でなければならない技術的必然性はない」との技術的認識を有していたとすれば、そのとき必ず一体のコンベヤとして構成されたはずである。それをせずに単純に選別物供給コンベヤdを追加して本件特許請求の範囲が形成されている事実は、特許請求の範囲に記載されているとおり、選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤとが連設され、それぞれ別個に存在することを不可欠としているのである。選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤとを明確に区別し、別体として特許を請求し取得した後に至って、その構成要件を拡張するような議論はそれ自体失当というべきである。

また、控訴人は、これに続いて、「本件特許発明ではパンを繰り返し循環させて使用する点に特徴があるのであり、したがってこのパンを搬送するコンベヤ書はパンを連続して搬送する必要があることからいずれ接続関係にあることは明らかであり、接続された状態で一体とみるべきものである。」(同一1)と主張しているが、ここにいう「特徴」が本件特許発明の枢要部分であるということは、客観的には何ら実証も認定もなされていないのである。控訴人がここで「特徴」と主張する「循環系」は、本件特許発明のひとつの側面を表わす概念ではあり得ても、控訴人の右後段に述べる、コンベヤを一体とみるべきとする主張の論拠とはなり得ない。別体とみるか一体とみるかは特許請求の範囲の記載を見ればおのずから明らかである。

2 控訴人は、「本件特許発明ではコンベヤ群によってパンの循環系を構 成するのであるが、……本件特許発明ではこの循環系を構成するコンベ ヤの各部をその機能に注目し、機能別にコンベヤを区別したものという ことができる。」(同一2)と主張しているが、この主張は、機能以外 に本件特許請求の範囲に示されている記載内容、すなわち各構成要素の 位置、数量、名称(装置の態様)、相関等の重要な構成事項全てを無視 した議論であって、特許請求の範囲の記載に基づくべき特許法の正しい 解釈から逸脱したものである。

3 控訴人は、構成要件の中から適宣その部分部分の機能のみを取り出し、 それを前提としてイ号物件との比較を行うが、このことは特許権の侵害の有無を論ずる上で許されるべきものではない。

4 控訴人は、「いずれ接続関係にある循環系のコンベヤを一体とか別体に区別する必然性はないし、……単に「連設され」となっている場合において、実施例のものが別体であるからといって、必ず別体のものでなければならないという限定解釈は不当である。」(同一4)と主張しているが、もし、控訴人が本件特許発明の選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤが一体でもよいとするなら、計測装置が設置される「前段」とは何処になるのか明確な根拠を示して指摘せねばなるまいし、更に控訴人はイ号物件における「搬送コンベヤ」の前段とはどこからどこまでを指すのか明確に主張せねばなるまい。

二  読取装置と選別機構との関係について

1 控訴人は、「本件特許発明では、読取装置と選別機構の関係は、前記のごとく、空間的な遠近にかかわりなく、読取信号の伝送関連において対応していれば足り、必ずしも機械的に一対一に対応していなくてもよい。」(同二2)と主張しているが、本件特許発明の読取装置から集積コンベヤに至る一連の構成要件における数量の要素については、本件特許発明の特許講求の範囲において、読取装置と集積コンベヤとに「選別段階別の複数」との同一の表現があり、この二つの装置間に位置する選別機構と分岐コンベヤでは、「各(装置)に対応して……対応する(装置)……複数の」という共通の表現により前後の構成要素との相関が示されている。これらh~kの各構成要素はすべて一対一の対応、すなわち選別段階別の複数個ずつ存在すると考えるのが最も自然な解釈であるし、この一連の装置のうちi、jのみは違う数量で「対応」しているとすることはそれこそ「技術的必然性」がない。

2 控訴人は、「遠隔制御の実施例は本件特許明細書中に記載がないが、甲第四号証、甲第五号証に示されるように、コンピュータを利用した遠隔制御による選別方式は本件特許出願時に周知の技術であるので、明細書中には例示しなかったまでであり、本件特許の請求の範囲の記載からして、このような遠隔制御方式は本件特許発明に包含される。」(同二3)と主張しているが、本来、周知技術が以後出願される特許の請求範囲に含まれ得るか否かは、ひとえに当該後願発明の明細書の記載いかんによるものと考えるべきであって、周知の技術が当然に全て包含されるものではない。

3 控訴人は、東京高等裁判所平成二年(行ケ)第二〇〇号審決取消請求事件判決の末尾に添付された参考図に示す構成が「本件特許発明の文言上の要旨に包含される」(同二4)旨主張するが、これは重大な誤りであって、イ号物件とは世代を異にするものである。

また、控訴人は、「本件特許発明の技術的範囲には、右参考図に示される構成も包含されるのであり、原判決における……判断は、本件特許発明の技術的範囲を不当に狭く解釈するものである。」(同二4)旨主張するが、この主張は、その前提をなす、「右構成が本件特許発明の文言上の要旨に包含される」という右判決に基づく主張とは理論の基盤を異にするものであり、同列に扱うことは誤りである。すなわち、右判決は、特許法第三六条違反のみを争点とするものであり、同法に基づく判断が権利範囲解釈に直結するものではない。ところが、控訴人の右主張は、「文言上の要旨」即「技術的範囲」であると解釈することにより、前記誤りに加え二重の論理逸脱を犯しているものである。

4 控訴人は、原判決が測定因子の認定を行ったことを批判し、「本件特許発明では測定因子は確かに重さか大きさ(階級)の一つであるが、このことをもって本件特許発明が階級のみを選別する階級選別装置と断定するのは誤りである。」(同二5)と主張しているが、この主張は、本件特許発明における構成要件中の「重量または大きさを計測する」という明確な記述を無視した乱暴なものであるが、さらにこの主張以後の等級選別装置に関する記述は青果物の選別技術に関する実体と、本件特許発明の出願当時の技術とを顧みないものである。

青果物の等級検査は、本件出願当時熟練者の人手に頼らざるを得ないことが常識であり、本件出願は絶対評価の行える階級検査のみの自動化を目的として行われているのであって、本件特許公報に階級選別装置であるとの記載がないのは、それが自明だからである。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、左記に付加するほかは、原判決認定説示のとおりであるので、これを引用する(ただし、原判決三一枚目表一二行目に「第一号証」とある次に「、証人滝沢恒治の証言並びに弁論の全趣旨」を加え、同三三枚目裏四行目に「(明細書)」とあるを削除し、同三三枚目裏八行目、同一二行目、同三四枚目表七行目、同裏一〇行目、同三七枚目裏五行目、同三八枚目表一一行目及び同三九枚目表六行目に各「明細書」とあるを各「本件公報」と、同三六枚目表七行目に「との主張」とあるを「旨の主張」と、同三七枚目裏七行目に「搬別部」とあるを「選別部」と各訂正し、同四〇枚目表四行目から八行目までを削除する。)。

1  選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤについて

一 成立に争いのない甲第二号証、乙第一、二号証によれば、次の事実が認められる。

1 本件発明の願書に添付した明細書(以下「原明細書」という。)を昭和五八年九月一四日付け手続補正書によって補正し、昭和五九年二月二日に公告されたもの(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第二項(本件特許発明)には、選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤについて、「前記パン集積部に接続され供給装置によって供給されたパンを搬送するとともに搬送中にパンに被選別物が収納される選別物供給コンベヤと、この選別物供給コンベヤに連設されパンを搬送する選別物搬送コンベヤと、」と記載されており、特許請求の範囲においては、両コンベヤは構成要件を別にしていること。

2  原明細書の特許請求の範囲には、選別物供給コンベヤについての記載はなく、昭和五八年九月一四日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に初めて記載されたものであり、それに伴って「連設され」の文字が用いられたこと。

3  本件明細書において、両コンベヤの関係について「連設され」という表現を用いているのは、特許請求の範囲の記載のみであって、発明の詳細な説明の欄には記載されておらず、その意味についても何ら記載されていないこと。

4  本件明細書中には、両コンベヤが一条一体であるものを含む旨の記載はもとより、これを示唆する記載もなく、かえって、それぞれ独立した別個の選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤとを連続配置して、パンを連続的に搬送できる搬送路を形成した構成が、実施例として記載されいること。

ところで、「連設」の意味については、右のとおり、本件明細書には何ら特定されていないから、本件特許発明における「連設され」の技術的意味は、技術用語ないし一般用語としての意味に従い、明細書全体の記載を参酌して判断するのが相当である。もっとも、「連設」の語は、技術用語ないし一般用語としても字典類に記載はないから、その文字から意味をつかむほかなく、したがって「連設され」とは、「連なって設けられている」意味と解される。そして、「連なる」とは、「一列にならびつづく、つながる」意味である(広辞苑、第三版)から、「連設され」とは、別個独立の二つ以上のものが一列に並び続いていること、あるいはつながっていることと解される。

以上事実によれば、本件特許発明においては、選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤとは、別体で構成されているものと解するのが相当である。

二  控訴人は、「本件特許発明では、選別物供給コンベヤdと選別物搬送コンベヤeとが別体でなければならない技術的必然性はない。」旨主張する。

しかしながら、仮に、選別物供給コンベヤdと選別物搬送コンベヤeとが別体でなければならない技術的必然性はないとしても、本件特許発明は、前記のとおり、選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤとが連設され、それぞれ別個に存在することを構成要件とするものであるから、技術的必然性のないことをもって、本件特許発明が一条一体のものをも含むと解することはできない。

また、控訴人は、「本件特許発明ではパンを繰り返し循環させて使用する点に特徴があり、したがってこのパンを搬送するコンベヤ群はパンを連続して搬送する必要があることからいずれ接続関係にあることは明らかであり、接続された状態で一体とみるべきものである。」と主張する。

しかしながら、本件特許発明は、本件明細書の特許請求の範囲に記載の各構成要件を具備することを特徴とするものであって、パンを繰り返し循環させて使用することのみをその特徴とするものではないから、控訴人の主張はその前提において理由がない上、仮にパンを繰り返し循環させて使用する点に本件特許発明の特徴があるとしても、このことをもって接続関係にあるコンベヤを一体とみるべき理由とはならない。

さらに、控訴入は、「本件特許発明ではこの循環系で構成するコンベヤの各部に注目し、機能別にコンベヤを区別したものということができる」旨主張する。

しかしながら、本件特許発明が循環系を構成するコンベヤの各部を機能別に区別したものであることについては、本件明細書に何らの記載もなく、その示唆もないから、控訴人の右主張は理由がない。

三  したがって、本件特許発明の選別物供給コンベヤと選別物搬送コンベヤは別個のコンベヤであるから、これが一体のコンベヤを包含することを前提にしてイ号物件が本件特許発明における構成要件を充足しているとする控訴人の主張は理由がない。

2 読取装置と選別機構との関係について

一 本件明細書の特許請求の範囲第一項記載の発明(第一発明)においては、計測装置と選別機構とが一対一に対応しているものと解され、この点については控訴人も争っていない。

ところで、明細書の記載については、字句は統一して使用しなければならないとされている(特許法施行規則、様式第二九)ところ、本件明細書において、第一発明と第二発明(本件特許発明)の双方に用いられている「対応する」との文言については、明細書全体の記載からみて、第一発明と第二発明(本件特許発明)とではその意味する技術内容を基本的に異にすると解さなければならない、特段の事情は認められない。したがって、「対応する」との文言の意味は、第一発明と本件特許発明とで基本的に異なるものではないと認めれる。

そして、本件特許発明の読取装置と選別機構について、特許請求の範囲には、読取装置については、「所定間隔をおいて設けられ……る選別段階別の複数の読取装置」(構成要件h)と、選別機構については、「各読取装置に対応して設けられ……る複数の選別機構」(構成要件i)と記載されており、これらの記載の文言からすると、本件特許発明の読取装置と選別機構とは、それぞれ別個独立に構成された選別段階別の複数の読取装置が一定の距離をおいて設けられており、その一つの読取装置が、複数の選別機構の内の一つの選別機構にそれぞれ対応する関係になっていると解される。また、発明の詳細な説明の欄にも、読取装置と選別機構については、同様の対応関係にあるものが、唯一の実施例として記載されているだけである。

したがって、本件特許発明における読取装置と選別機構は、本件明細書の記載からみて、機械的に一対一の対応関係にあるものといわなければならない。

二 控訴人は、「読取装置と選別機構は、必ずしも機械的に一対一に対応の関係にある必要はなく、空間的な遠近にかかわりなく、読取信号の伝送関係において対応していれば足りる」旨主張する。

しかしながら、仮に、パンに記録媒体を帯有させて計測装置を一つでよくし、記録媒体への記録内容を読取装置で読み取って、この読取内容に基づいて選別機構を作動させるようにすることにより、技術的には必ずしも、読取装置と選別機構は機械的に一対一に対応させる必要をなくし、しかも、本件特許発明の出願当時、一つの読取装置と複数の選別機構とを一つの制御装置を介して信号の伝送関連において対応させたような遠隔制御方式が周知であったとしても、本件特許発明においては、前記のとおり、読取装置と選別機構とが機械的に一対一の対応関係にあるものを発明の対象としたものであるから、かかる遠隔制御方式は、本件特許発明の技術的範囲には包含されるものではない。

なお、控訴人は、東京高等裁判所平成二年(行ケ)第二〇〇号事件判決添付の参考図に示す構成は、記録装置156のあとに読取装置151をまとめて配置した構成であり、イ号物件における読取装置と選別部の配置と同じである旨主張するが、仮に、本件特許発明に、控訴人主張のような読取装置を選別部から遠隔して配置した構成も包むとしても、この構成のものも、読取装置と選別機構は機械的に一対一の対応関係にあり、前記の遠隔制御方式とは別異のものである。

三 また、控訴人は、「イ号物件では、等級判別をも付加した等級階級選別方式を採用しているが、階級選別方式に注目してみれば、本件特許発明の選別方式をそのまま内包している。」旨主張する。

しかしながら、イ号物件の構成は、原判決理由四3二に認定のとおりであり、階級選別に注目してみても、複数の検出素子を有する一つの検出装置(読取装置)と複数の選別機構を一つの制御装置(演算処理装置)を介して信号の伝送関連において対応させた遠隔制御方式を採用していることは明らかであり、本件特許発明がこのような遠隔制御方式を含まないことは、前述したとおりである。

したがって、イ号物件は、本件特許発明の選別装置をそのまま利用するものではなく、また本件特許発明の階級選別に、等級選別を単に付加したものでもないから、控訴人の右主張は理由がない。

3 以上によれば、イ号物件は、本件特許発明の構成要件のd及びeを充足せず、また選別の制御方式を異にする結果、構成要件のh及びiを充足しないものと認あられる。

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

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