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東京高等裁判所 平成3年(ネ)3435号 判決 1992年7月20日

第一事件(3410号)控訴人 竹水美佐代 外1名

第二事件(3435号)控訴人 井出智子

第一・第二事件被控訴人 井出信隆

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、第一事件控訴人竹水美佐代(以下「控訴人竹水」という。)に対し、原判決添付別紙第一、第二物件目録記載の各土地建物につき、それぞれ昭和53年6月23日遺留分減殺を原因として同控訴人の持分の割合を50分の3とする所有権一部移転登記手続をせよ。

3 被控訴人は、第一事件控訴人中山明子(以下「控訴人中山」という。)に対し、原判決添付別紙第一、第二物件目録記載の各土地建物につき、それぞれ昭和53年6月23日遺留分減殺を原因として同控訴人の持分の割合を50分の3とする所有権一部移転登記手続をせよ。

4 被控訴人は、控訴人竹水、同中山に対し、それぞれ金96万円及びこれに対する昭和53年6月24日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴をいずれも棄却する。

(第二事件)

一  控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、第二事件控訴人井手智子(以下「控訴人智子」という。)に対し、原判決添付別紙第一、第二物件目録記載の各土地建物につき、それぞれ昭和53年6月23日遺留分減殺を原因として同控訴人の持分の割合を50分の3とする所有権一部移転登記手続をせよ。

3 被控訴人は、控訴人智子に対し、金96万円を支払え。

4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  当事者双方の事実の主張は、次のとおり付加するほかは、第一、第二事件の各原判決事実摘示第二記載のとおりであり、証拠の関係は、本件記録中の証拠目録(原審・当審)記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。

1  第一事件原判決書3枚目裏6行目及び第二事件原判決書3枚目表7行目の「二」を「(二)」に改める。

2  第一事件原判決書3枚目裏10行目の「訴外智子」を「控訴人智子」に、第二事件原判決書3枚目表末行の「訴外竹水美佐代」を「控訴人竹水」にそれぞれ改める。

3  第一事件原判決書5枚目表4行目の「(二)」を「(三)」に改め、同3行目の次に行を改めて次のとおり加え、第二事件原判決書4枚目裏5行目の「(二)」を「(三)」に改め、同4行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(二)」遺産分割調停期日における遺留分減殺の意思表示

控訴人ら三姉妹は、遅くとも昭和55年10月23日の前記遺産分割調停期日において、同日付の上申書を提出し、控訴人ら三姉妹と被控訴人間の本件第一土地建物に関する訴訟(後記抗弁記載の「別件訴訟」)において被控訴人が勝訴した場合は、被控訴人の具体的相続分はマイナスになることを明示し、予備的に遺留分減殺の意思表示をした。」

4  第一事件原判決書5枚目表4、6行目、6枚目裏6行目及び第二事件原判決書4枚目裏5、7行目、6枚目表6行目の「送達」をいずれも「送達」に改める。

5  第一事件原判決書6枚目裏8行目及び第二事件原判決書6枚目表8行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「6請求原因4(二)の事実について

控訴人ら三姉妹が前記遺産分割調停事件において昭和55年10月23日付上申書を提出したことは認めるが、その余は否認する。」

6  第一事件原判決書7枚目裏2行目の次に行を改めて「3控訴人智子の特別受益」を、第二事件原判決書7枚目表6行目の次に行を改めて「4控訴人慶子の特別受益」をそれぞれ加える。

7  第一事件原判決書7枚目裏3行目及び第二事件原判決書7枚目表7行目の前に次のとおり加える。

「(一) 控訴人智子は、昭和40年4月7日、宏所有の逗子市○○所在の土地建物(以下「○○の不動産」という。)を売却した。

(二) ○○の不動産は、宏が控訴人智子に生前贈与したものではないが、控訴人智子は、自己の事業資金を得る目的で無断で売却し、代金も全額取得したものであるから、右不動産は宏から控訴人智子に対して生計の資本として贈与されたのと同様に扱うべきである。

(三) ○○の不動産の本件相続開始時の時価は3億7760万円である。

(四) したがって、本件贈与は控訴人智子の遺留分を侵害するものとはいえない。」

8  (一) 第一事件原判決書7枚目裏7行目の末尾に「。」を加え、さらに行を改めて次のとおり加える。

「3(一)同3(一)の事実は認める。」

(二) 第二事件原判決書7枚目裏1行目の末尾に「。」を加え、さらに行を改めて次のとおり加える。

「4(一)同4(一)の事実は認める。」

9  第一事件原判決書7枚目裏8行目及び第二事件原判決書7枚目裏2行目の前に次のとおり加える。

「(二) 同(二)の事実は否認する。

控訴人智子は、被控訴人の事業による負債を返済するため宏の了解の下に○○の不動産を売却したものであり、代金は井手家の事業資金として使われている。仮に生計の資本として特別受益を受けたものがいるとすれば、それは、右事業を行っていた被控訴人である。

(三) 同(3)の事実は否認し、同(四)は争う

五 再抗弁

遺留分減殺請求権の時効の停止

(一)  本件においては、控訴人智子について、○○家庭裁判所昭和52年(家)第××××号をもって現在推定相続人廃除の審判申立て事件が係属しており、相続人が確定していないし、管財人も選任されていない。

(二)  したがって、民法160条により遺留分減殺請求権の時効は停止している。

六 再抗弁に対する認否

再抗弁(一)の事実は認め、同(二)は争う。」

理由

一  併合前の第一事件及び第二事件における当事者の主張及び提出した証拠等はおおむね両事件に共通であるので、両事件につき一括して判断することとし、以下単に「請求原因1」とか「甲第1号証」等と記載して「第1事件請求原因1及び第二事件請求原因1」、「第一事件甲第1号証及び第二事件甲第1号証」等を現すものとする。

二  請求原因1(宏の死亡)、2(相続人)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

三  請求原因4(遺留分減殺の意思表示)について

1(一)  まず、控訴人らは、被控訴人に対して、遺留分減殺の対象となるべき生前贈与の物件を遺産分割の対象となる遺産の一部として、各4分の1の持分権を主張して遺産分割協議の申入れをし、かつ、遺産分割調停の申立てをしたのであり、右持分の主張は、遺留分減殺請求権を行使した場合の共有持分権の主張を上回っているから、右申入れ又は申立てには遺留分減殺の意思表示が当然に含まれていると解すべきであると主張する。

(二)  被相続人から生前に贈与され、あるいは遺贈された財産について遺留分減殺の意思表示がされたときは、法律上当然に減殺の効力が生じ、当該財産の処分行為はその遺留分権者の遺留分を害する限度で効力を失い、右執行した部分の権利は当該遺留分権者に当然に移転する。このように、遺留分減殺の意思表示は、新たな権利関係を形成するものであるから、明確にされなければならないことはいうまでもない。

また、被相続人が生前贈与した財産についての遺留分減殺の意思表示は、具体的な財産について、被相続人により有効な生前贈与がされていること、すなわち、これが被相続人の遺産分割の対象となるべき財産から離脱していることを前提としてされるものであるから、遺留分減殺の意思表示は、当該財産について有効に生前贈与がされていることを認識し、かつ本来これを容認してなされるべきものである。この意思表示によって生前贈与を受けた者と遺留分減殺の意思表示をした者との間に当然に物権利変動を生じさせる効果を持つとされるのも、こうした本来の場合を念頭に置いてなされている解釈といえる。これに対し、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立ては、具体的な財産が被相続人の遺産として未分割の状態にあり、全相続人の遺産共有状態にあることを前提として(民法903条により共同相続人の受けた特別受益の価額を加えてみなし相続財産を算定する場合にも、具体的相続分を算定するために計算上加えるのみで、これら特別受益を遺産として現実に分割の対象とするわけではない。)、これらを各相続人に具体的相続分に応じて分割することを求めてされるものであり、この申入れあるいは申立てにより直ちに何らかの権利変動を生じさせる効果を持つものではない。

このように、遺留分減殺の意思表示と遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てとは、その要件及び効果の面で本質的に異なるものがある(むしろ相互に矛盾する面がある。)から、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てがあったからといって、当然に遺留分減殺の意思表示が含まれていると解することは相当でない。遺留分減殺の意思表示は生前贈与等の効力を一部失わせる効果があり、結果として遺留分の範囲での法定相続分の一部主張を含む面があることは否定できないにしても、右のようにもともと要件及び効果が異なる(のみならず、相互に矛盾する面すらある。)のであるから、生前贈与の存在自体を否認して遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てをすることと遺留分減殺の意思表示をすることが単純に大小関係に立つものとはいいがたいからである。

もっとも、遺留分減殺の意思表示は明確にされなければならないし、本来は遺留分を侵害する処分行為を認識し、かつ容認してなされるべきものではあるといっても、実際の紛争では処分行為の有無や効力を直ちに判断することができない場合もあろうから、仮定的な主張も止むを得ない場合もあると考えられるし、またそうでなくても、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てが黙示の遺留分減殺の意思表示を含むものとみられる場合もありうるであろう。例えば、相続人の一人に全遺産が包括遺贈された場合に、他の相続人が右包括遺贈を受けた相続人に対し遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てをしたときは、右包括遺贈が無効でないとすれば、理論上遺留分減殺をしなければ遺産分割の余地はないのであるから、もし遺贈の効力を争っていないのであれば、右遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てに遺留分減殺の意思表示が黙示的に含まれているとみてよいであろうし、遺贈の効力を争っていても、基本的にはこの点についての相手方の譲歩を求めつつも必ずしも遺贈の無効には固執せず、場合によってはその効力を容認することが明らかにされているような場合など、黙示の意思表示を含むと認めてよい場合があるであろう。すでに生前贈与されたある特定の財産を遺産分割の対象に掲げて遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てがあった場合にも、同様である。贈与が無効で内とすれば、遺留分減殺をしなければ右財産を遺産分割の対象にすることはできないのであるから、遺留分減殺の意思表示が黙示的に含まれているとみられる場合もありうるものと考えられる(もっとも、いずれの場合も、調停の申立てについては、調停の申立書が相手方に送達されないので、この意思表示が相手方に到達したといえるか、いつ到達したといえるかの問題があり、また遺留分減殺の結果生ずる共有関係の解消を遺産分割の手続によりなし得るかの問題もあるが、ここではこれ以上深入りはしない。)しかし、右のように遺留分減殺の意思表示が黙示的になされたとみるためには、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立てをする者において、仮定的にせよ当該処分行為を容認することが明らかにされていなければならないと解すべきである。先にも述べたように、遺留分減殺請求は、理論上当該贈与等が有効になされたことを前提とするものであり、物権的な効果を伴うものであるから、減殺請求を受ける相手方の法的地位の安定という見地からいって、相手方にも早期にこれに対応した行動(例えば、価額弁償の申し出)を選ぶかどうか等の判断の機会を与えるのが公平にかなうというべきだからである。処分行為の効力を争って全く譲らない場合にまで、遺産分割の協議の申し入れか調停の申立てさえしておけば、後になって言い分がとおらないことがはっきりしても、いつでも遺留分減殺の限度では保護を受けることができるというのでは、相手方が不当に不安定な立場を強いられ、濫用的な申し出、申立てを招く恐れがあって、相当でない。なお、このことと時効の起算点についての最高裁判例の立場を併せると、仮定的に処分行為を容認するに過ぎない場合には、特別の事情がないかぎり、時効期間内に処分行為の効力を争う訴えを提起するとともに、仮定的にせよ明確に遺留分減殺の意思表示をすることによって一挙に紛争を解決すべきものという結論になるであろうことを付言しておく。

(三)  そこで、本件における遺産分割協議の申入れ、遺産分割調停の申立てに至る具体的経緯及びその後の経過等をみてみると、これらの点についての当裁判所の認定は、次のとおり付加するほかは、原判決の認定(第一事件原判決書8枚目表2行目から9枚目裏末行まで及び第2事件原判決書7枚目裏7行目から9枚目裏5行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(1) 第1事件原判決書8枚目表2行目及び第2事件原判決書7枚目裏7行目の「第12号証」を「第14号証」に改める。

(2) 第1事件原判決書8枚目表4行目及び第2事件原判決書7枚目裏9行目の「第46号証」の次に「、第67号証」を加える。

(3) 第1事件原判決書8枚目表末行から同裏1行目及び第2事件原判決書8枚目表5行目から6行目の「遺言執行者」を「、及び当時宏ら井手家の者が関係した訴訟の代理人であり、宏のした推定相続人廃除の遺言の執行者でもあった」と改める。

(4) 第1事件原判決書9枚目裏7行目及び第2事件原判決書9枚目裏1行目の次にいずれも行を改めて次のとおり加える。

「また、本件調停の途中で控訴人智子の代理人に選任された△○○弁護士及び△△○弁護士は、昭和55年10月30日受付の上申書で本件調停裁判所に対し、本件第一土地建物及び第二建物については、その所有権が被控訴人に属するか、控訴人智子に属するかのいずれかであり、いずれにしろ宏の遺産ではないから、早期に株式についての遺産分割をするよう上申した。」

(四)  右認定の事実によれば、控訴人らは本件協議の申入れをした昭和53年2月1日以降、本件第一土地建物及び第二建物が被控訴人に生前贈与されたことを否定する態度をとるようになり、これら物件は形式上被控訴人名義であるが宏の所有に属するものであると主張して本件調停申立てをし、別件訴訟においては、控訴人竹水、同中山は宏の所有であると主張し、控訴人智子はかえって自己の所有であると主張するという具合に、被控訴人への生前贈与を否定する態度は本件各訴えを提起するまで強固、かつ一貫して変わらなかったものであり(しかも、この間各物件の価額がどの程度であり、具体的にどのように遺留分を侵害することになるか等の話がされたことを窺わせる証拠は全くない。)、本件協議の申入れ及び調停の申立てのいずれにおいても、仮定的にせよ本件贈与を容認していたとみることは困難である。したがって、本件協議の申入れ又は調停の申立ては、明示的にはもちろん、黙示的にも遺留分減殺の意思表示を含むものと認めることはできないものというほかはない。

(五)  (1) 前掲甲第23号証(○○弁護士の陳述書)中には、同弁護士が○△弁護士に対して本件遺産分割協議の申入れをし、調停を申し立てた際、本件第一土地建物等の価値が他の遺産の価値よりはるかに評価が高いので、予備的に遺留分減殺にも言及したかのような記載があるが、同号証は平成3年6月4日に作成されなもので、当時○○弁護士は老齢(85歳)であり、同弁護士自身も認めるとおり曖昧な記憶に基づいた陳述であること、前記認定の遺産分割調停及び別件訴訟の経過、並びに原本の存在と成立に争いがない乙第68号証の1ないし10(本件調停の記録)を精査しても、本件調停において、仮定的にでも遺留分減殺の意思表示がされ、あるいはこれを前提として話合いがされたことを窺えるような記載は全くないこと等の事実に照らし、前掲甲第23号証の前記記載部分はいまだ採用することができない。

(2) 前掲甲第20号証、原本の存在と成立に争いがない甲第24ないし第26号証によれば、昭和50年1月23日ころ、被控訴人と控訴人ら等は、宏の余命が長くないことを予想して遺産となるべき財産の処分等につき話合いをしたこと、その際、被控訴人は、本件第1土地の一部を売却して控訴人竹水、同中山らに各3000万円を支払うこととする等の提案をしたことが認められる。控訴人らは、これは、被控訴人が右土地が遺留分減殺の対象となることを覚悟ないし予定してしたものであると主張するようであるが、前掲甲第20、第25号証によれば、被控訴人は、不動産譲渡所得に対する租税特別措置法の優遇措置が近くなくなることを予想し、宏の遺産となるべき物件は訴訟係属中等の理由ですぐに売却できないため、被控訴人所有ではあるが処分可能な本件第1土地を売ってその代金の一部を控訴人らに渡してその代わり宏の遺産に対する相続権を放棄等してもらおうとして右提案をしたものであること、前掲甲第24号証(被控訴人作成のメモ)には、遺産の分配についての計算が記載されているが、本件第1土地等につき遺留分減殺をされたことを前提とするような計算は一切されていないことがそれぞれ認められることからして、控訴人らの前記主張は採用できない。

(3) その他、本件協議の申入れ又は本件調停の申立てにより遺留分減殺の意思表示があったことを認めるに足りる証拠はない。

2  控訴人らは、本件調停に提出した昭和55年10月23日付上申書において、別件訴訟で被控訴人が勝訴した場合は、被控訴人の具体的相続分はマイナスになることを明示し、予備的に遺留分減殺の意思表示をしたと主張する(請求原因4(二))。

しかしながら、原本の存在と成立に争いがない甲第22号証によれば、控訴人らの主張の上申書の記載は、別件訴訟で被控訴人が勝訴した場合は、被控訴人の本件遺産分割における具体的相続分が法定相続分に比べて減少することはあれ、増加することはないことを表したものにすぎないことが認められ、控訴人ら主張のように被控訴人の具体的相続分がマイナスになることを示すものであり、予備的に遺留分減殺の意思表示をしたものであると認めることはできない。

よって、請求原因4(二)も理由がない。

3  請求原因4(三)の事実(本件各訴えの提起による遺留分減殺の意思表示)は当事者間に争いがない。

四  抗弁1及び再抗弁につき判断する

1  抗弁1の事実中、年月の経過は自明であり、被控訴人が時効を援用したことは記録上明らかである。そして、控訴人らが本件贈与の外形的事実を認識していたことは協議の申し入れをし、本件調停の申立てをしたことから明らかであり、その無効を信じていたために減殺請求権を行使しなかったことにもっともと認められるような特段の事情があるとの主張もないし、また、その証拠もないから、控訴人等は減殺することができるものであることを知っていたものと推認される(最高裁判所昭和57年11月12日判決・民集36巻11号2193頁)。

2  そこで、再抗弁につき検討するに、控訴人らが援用する民法160条は、相続財産に関するものであり、相続財産に属する権利又は第三者が相続財産に対して有する権利に関する条文であって、本件の遺留分減殺請求の対象となる財産や本件遺留分減殺請求権がこれらのいずれにも属さないことは明らかであるから、控訴人らの主張は失当である。

3  よって、抗弁1は理由があり、本件訴えの提起による遺留分減殺の意思表示は、遺留分減殺請求権が時効により消滅した後にされたもので効力を生じないものというほかはない。

五  以上の次第で、控訴人の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がなく、これらを棄却した原判決は相当で、本件控訴はいずれも理由がない。よって、本件控訴をいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法95条、89条、93条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 満田明彦 亀川清長)

別紙<省略>

〔参考1〕 第一事件原審(東京地 平2(ワ)10294号 平3.9.20判決)<省略>

〔参考2〕 第二事件原審(東京地 平2(ワ)10314号 平3.9.20判決)<省略>

〔参考3〕 第一事件上告審(最高裁 平4(オ)1881号 平5.2.18(一小)判決)<省略>

〔参考4〕 第二事件上告審(最高裁 平4(オ)1882号 平5.2.18(一小)判決)<省略>

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