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東京高等裁判所 平成3年(ネ)3483号 判決 1992年12月17日

控訴人 高橋由喜子

被控訴人 伊藤智子 外1名

主文

1  原判決主文第二項中、被控訴人伊藤智子の所有権の一部移転登記手続請求を認容した部分を取り消す。

2  右部分につき、被控訴人伊藤智子の請求を棄却する。

二  控訴人と被控訴人伊藤智子との間で、同被控訴人が別紙物件目録1及び2記載の各土地につき3分の1の共有持分権を有しないことを確認する。

(原判決中、控訴人の中間確認の反訴を却下した部分は、訴えの変更により失効した。)

三 控訴人のその余の控訴を棄却する。

四 訴訟費用は、被控訴人伊藤智子と控訴人との間においては、本訴反訴を通じ、第一、二審ともこれを3分し、その2を同被控訴人の、その余を控訴人の負担とし、被控訴人伊藤和子と控訴人との間においては、控訴によって生じた分を控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  本訴について

(一) 原判決中、被控訴人らの遺産確認請求を認容した部分(主文第一項)を取り消す。

(二) 右部分につき、被控訴人らの訴えを却下し、これが容れられないときは、被控訴人らの右請求を棄却する。

(三) 原判決中、被控訴人らの所有権の一部移転登記手続請求を認容した部分(主文第二項)を取り消す。

(四) 右部分につき、被控訴人らの右請求を棄却する。

2  反訴について

主文第二項と同旨

(控訴人は、原審において、中間確認の反訴として請求していたが、当審において、これを単純な反訴請求に変更した。)

3  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴及び当審において変更した反訴請求をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴請求)

一  被控訴人らの請求原因

1 被控訴人伊藤智子(以下「被控訴人智子」という。)は亡伊藤秀明(以下「秀明」という。)の妻であり、被控訴人伊藤和子(以下「被控訴人和子」という。)及び控訴人はその間の子供であるが、秀明は、昭和37年4月23日死亡し、被控訴人ら及び控訴人がその相続人となった。

2 秀明は、昭和30年6月30日、服部民子(以下「服部」という。)から別紙物件目録1及び2記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を買い受けたが、その所有名義については、同年10月5日、控訴人名義で所有権移転の登記を受けた。

3 したがって、本件各土地は秀明の所有物としてその遺産に属し、被控訴人らは、相続によりその3分の1の各共有持分権を取得した。

4 しかるに、控訴人は、本件各土地が秀明の遺産であることを争っている。

5 よって、被控訴人らは、控訴人に対して、本件各土地が秀明の遺産であることの確認を求めるとともに、本件各土地につき各共有持分権に基づき、真正な登記名義の回復を原因とする共有持分の割合を3分の1とする所有権の一部移転登記手続をすることを求める。

二  遺産確認請求についての控訴人の本案前の主張

1(一) 秀明が昭和37年4月23日に死亡したことにより、被控訴人ら及び控訴人がその遺産を相続したのであるが、その分割について協議が調わず、控訴人は、昭和45年、東京家庭裁判所に対し、被控訴人らを相手方として遺産分割の調停を申し立てたところ、服部から控訴人に対して所有権移転の登記がされていた本件各土地について、控訴人は、秀明が服部から買い受けた上、これを控訴人に贈与したものである旨主張し、被控訴人智子は、自己が直接服部から買い受けてその登記名義のみを控訴人としたものである旨主張し、遺産の範囲について争いが生じた。

(二) そこで、被控訴人智子は昭和46年12月22日、東京地方裁判所に対し、控訴人を被告として訴えを提起し、主位的には本件各土地を自己が直接服部から買い受けたものであること、予備的には本件各土地を時効取得したものであることを主張して、本件各土地が被控訴人智子の所有であることの確認及び主位的には真正な登記名義の回復、予備的には時効取得を原因とする所有権移転登記手続を請求した。

(三) この事件については、同裁判所において、昭和57年7月30日、被控訴人智子の請求をすべて認容する判決がされ、これに対し、控訴人が控訴をした結果、東京高等裁判所において、昭和60年10月30日、本件各土地は秀明が服部から買い受けたものであるとの事実認定の下に、原判決を取り消し、被控訴人智子の請求をいずれも棄却する判決がされ、これに対して被控訴人智子が上告をしたところ、最高裁判所において、昭和61年9月11日、上告を棄却する判決がされ、右高等裁判所の判決が確定した(以下、この確定判決を「前訴の判決」という。)。

2 この結果、本件各土地については、その取得原因の如何を問わず、被控訴人智子の所有又は共有持分ではないことが前訴の判決の口頭弁論終結時(昭和60年5月8日)を基準時として確定しており、この点について既判力が生じているので、被控訴人智子は、本件各土地について、控訴人に対し、秀明からの相続によってその共有持分権を取得した旨の主張をすることはできないものである。したがって、右共有持分権の取得を前提として本件各土地が秀明の遺産であることの確認を求める被控訴人智子の訴えは、その利益を有せず、不適法である。

3 共同相続人間における遺産確認の訴えは、固有必要的共同訴訟であるから、被控訴人智子が控訴人に対してこの訴えを提起することができない以上、被控訴人和子も控訴人に対してこの訴えを提起することができず、この訴えも、同様に不適法である。

三  本案前の主張に対する被控訴人らの反論

本案前の主張1項(一)から(三)までの事実は認めるが、2項及び3項については争う。

前訴の判決は、被控訴人智子の本件各土地についての所有権に関する請求を棄却するものであって、同被控訴人が秀明の遺産につき相続権を有しているか否かについてまで判断したものではなく、また、遺産確認請求訴訟は、そもそもある対象物が遺産に含まれるか否かの確認を求めるにすぎないものであり、その対象物が遺産に含まれる場合であっても、直ちにその対象物につき所有権を有することになるのではなく、その分割協議によってはじめてその具体的な所有権の帰属が定められるものであるから、本件遺産確認請求は、直接被控訴人智子の所有権の有無を問うものでなく、前訴の判決の既判力には抵触しないので、被控訴人智子の本訴請求は確認の利益を有するというべきである。このように解さないと、その遺産が被相続人以外の者に登記がされている不動産である場合には、その登記名義を是正する手段を封ぜられることになり、不合理な結果を生ずることになる。

四  請求原因に対する控訴人の答弁

請求原因1、2項及び4項は認めるが、同3項は争う。本件各土地は、秀明が服部から買い受けた上、これを控訴人に贈与したものであり、秀明の遺産には含まれない。

被控訴人智子の所有権一部移転の登記手続請求は、前訴の判決の既判力に抵触し、許されない。

(反訴請求)

一  控訴人の請求原因

1 本件各土地については、前記のとおり、取得原因の如何を問わず、被控訴人智子がその所有権又は共有持分権を有しないことが前訴の判決により確定しているから、同被控訴人が相続による3分の1の共有持分権を取得したと主張することは許されない。

2 ところが、被控訴人智子は、本件各土地につき右共有持分権を有すると主張している。

3 よって、控訴人は、被控訴人智子に対し、同被控訴人が本件各土地につき3分の1の共有持分権を有しないことの確認を求める。

二 請求原因に対する被控訴人智子の答弁

請求原因1項は否認し、2項は認める。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

第一本訴遺産確認請求について

一  本案前の主張について

1  遺産確認の訴えは、特定の財産が遺産分割前の状態において現に共同相続人による共有関係にあることの確認を求める訴えである。この訴えは、共同相続人間において相続財産の範囲に争いがある場合に、当該財産につき自己の法定相続分に応じた共有持分権を有することの確認を求める訴えを提起することも可能であるが、その原告勝訴判決は、共有持分権の取得原因が被相続人からの相続によるものであることを既判力をもって確定するものではないことから、共同相続人全員の間で既判力をもって当該財産が遺産に属することを確定し、これによって、将来、遺産分割審判の手続等において共同相続人間で相続財産の範囲につき争いが生じないようにすることを目的とした訴訟形態であり、その性質上、共同相続人全員の間で合一に確定をすることを要する固有必要的共同訴訟である。したがって、遺産確認の訴えは、当該財産を含む遺産についてその分割を申し立てることができる相続人であれば、確認を請求する利益があり、その訴えを提起することができるというべきである。

2  ところで、本件においては、控訴人の本案前の主張1項(一)から(三)までの事実は当事者間に争いがなく、後記の第二で判断するように、被控訴人智子が控訴人に対して秀明からの相続による本件各土地の共有持分権を主張することは前訴の判決の既判力に抵触する。したがって、被控訴人智子は、本件各土地の帰属について控訴人に対し利害関係を主張しうる地位になく、その遺産確認の訴えを提起する利益があるといえるのか否かについては疑問がないとはいえないところである。

しかし、前訴の判決は、本件各土地が秀明の遺産であることを相続人全員の間において確定する効力を持つものではない。相続人全員の間で右遺産帰属性の合一的確定を図るためには、遺産であることを主張する被控訴人らが原告となり、これを争う控訴人を被告として、遺産確認の訴えを提起する以外に適切な方法はない。前訴の判決の効力を受けることのない被控訴人和子の立場を考えれば、被控訴人智子に前記既判力が及ぶからといって、遺産確認の訴えにより遺産帰属性を合一的に確定することができなくなると解することは明らかに不当であるし、この訴えの当事者から被控訴人智子を除外することは固有必要的共同訴訟たる性質上許されないことであり、また、被控訴人智子が遺産であることを争わない点で被控訴人和子と同じ立場にあるにもかかわらず、被控訴人智子を必ず被控訴人和子と対立する被告として右訴えを提訴しなければならなとすることも事理に沿わない。

このように考えると、被控訴人らが共同原告となって提起された本件遺産確認の訴えは法律上の利益を欠くものではなく、これを適法と解すべきであり、控訴人の主張する前訴の判決の既判力は、遺産確認の確定判決に従って将来行われる遺産分割の際に考慮されるべきものである。控訴人の本案前の主張は採用できない。

二  本案請求について

1  請求原因1項及び2項については当事者間に争いがないが、本件各土地について、被控訴人らは秀明の所有であると、控訴人は同人が秀明から贈与を受けたものであると主張しているので、この点につき判断する。

(一) 甲第1号証、第2号証の1、2、第9号証の1から3、第10号証、第13号証の1から4まで、第14号証、第16号証から第18号証まで、第20号証、第27号証の1、2、第28号証、第34号証、第35号証の1、2、第36号証、第37号証、第38号証の1、第45号証の1、第50号証、第51号証、第67号証から第82号証まで、第87号証から第94号証まで、乙第4号証、第6号証、第10号証、第18号証、第19号証、第20号証、第44号証、第52号証から第55号証まで、第57号証、第64号証から第67号証まで、第71号証の1から5まで、第77号証の1から3まで、及び第81号証の1並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 秀明と被控訴人智子とは、大正15年ころ事実上の夫婦となり、昭和2年3月30日に正式に婚姻し、その間に被控訴人和子(昭和2年生)と控訴人(昭和7年生)をもうけた。被控訴人和子は、昭和23年3月近藤賢治と伊藤姓を称する婚姻をし、以後、秀明・智子夫婦と同居して秀明の営む材木商を手伝い、また、控訴人は、昭和30年に薬科大学を卒業して薬剤師の資格を取得し、昭和32年7月に高橋正樹と婚姻して秀明らと別居した。

(2) 秀明は、材木商を営んでいたが、昭和26年4月に同族会社である株式会社○○材木店を設立し、昭和37年4月23日に死亡するまで、江東区○○×丁目×××番×で右会社を経営した。秀明の材木商は、概ね順調に推移したのであるが、昭和27年から30年ころまでの間においては、売掛金の一部を回収することができなくなる事態も生じ、また、税金の支払いを怠ったことから、昭和27年3月1日、右土地上にある秀明名義の建物につき差押えを受ける等その経営が若干悪化したこともあった。

(3) 本件各土地については、遅くとも昭和10年代ころから、秀明が服部の父である服部光太郎から賃借し、その後、その土地上に秀明名義の建物数棟を建築して第三者に賃貸し、その家賃収入を得ていた。戦後、建物が焼失したりしたことから、秀明は再度建物を建築してこれを同様に第三者に賃貸していた。そして、昭和30年に至り、秀明は、服部から本件各土地の買取りを求められ、同年6月30日にこれを買い受け、同年10月5日、控訴人名義で同日付け売買を原因とする所有権移転の登記を受けたが、その登記済権利証は控訴人に交付されることなく秀明が所持していた。

(4) 本件各土地を買い受けた後においても、その管理は従前のとおりすべて秀明が行い、その後、秀明は、本件各土地上に新たに10棟に近い建物を建築し、このうちの大部分については、借地権付建物として第三者に売却してその代金を自ら取得し、また、その余の建物については、秀明の名義で表示登記をするかあるいは保存登記をした上、第三者に賃貸してその賃料を自ら取得し、これらの収入は、同居して生計を共通にしていた秀明夫婦と被控訴人和子夫婦の生計等の維持に充てられ、秀明の死亡後は、被控訴人智子が事実上これを取得していた。

(5) 控訴人は、婚姻後においても、昭和44年ころまでの間は、本件各土地又はその上の建物の地代又は家賃の集金を行ったことも、その金員の交付を求めたこともなく、また、秀明あるいは被控訴人智子から本件各土地の地代が控訴人に支払われたこともなかった。さらに、本件各土地の公租公課についても、秀明が生存中は同人が支払を行い、その死亡後は被控訴人智子が事実上支払ってきたが、昭和45年に控訴人が被控訴人らを相手方として秀明の遺産の分割の調停を申し立てた後の昭和47年ころからは、控訴人において支払うようになった。

(6) 秀明は、昭和7年ころに、江東区○○×丁目×××番×宅地781.61平方メートルを都築勤造から賃借したが、この買取りを求められ、昭和26年7月には、これを自宅の敷地として買い受けて秀明名義で所有権移転の登記をし、昭和27年10月には、江戸川区○△×丁目×××番地×宅地55.18坪(登記簿の表示による)を購入して自己名義で所有権移転の登記をし、昭和29年5月及び9月には、江東区○○△丁目××番地×××宅地85.95平方メートル及び同所××番××△宅地97.71平方メートルを購入して被控訴人和子名義で所有権移転の登記をし、同年11月には、同区○○×丁目××△番×宅地330.57平方メートルを購入して被控訴人智子名義で所有権移転の登記をし、昭和33年11月には、新宿区○○○町××番×××宅地198.44平方メートルを購入して秀明名義で所有権移転の登記をし、昭和35年9月には、江戸川区○○△××番×宅地200坪及び同所××番△宅地86坪を購入して、前者については被控訴人和子名義で、後者については被控訴人智子名義で所有権移転の登記をし、昭和36年12月には、子葉県船橋市○○町×丁目×××番×原野442平方メートルを購入して秀明名義で所有権移転請求権の仮登記をした。秀明は、これらの自宅の敷地あるいは江東区○○△丁目、同×丁目の土地、江戸川区○△、○○△の土地上に、本件各土地の場合と同様に、秀明名義の建物(被控訴人智子名義の建物も若干存する。)を建築し、これを売却あるいは賃貸して、その収入を前同様伊藤家の生計等の維持に充てていた。また、昭和35年11月には、江戸川区○△△×丁目××××番×(その後分筆されて××××番△となる。)宅地179.23平方メートルを被控訴人智子名義で賃借し、その土地上に同人名義の建物を所有してこれを第三者に賃貸して、伊藤家の生計の維持に充てていた。

(二) 以上の事実を総合して考察すると、秀明は、伊藤家の生計の維持あるいは資産の増殖等についてすべてを取り仕切っており、前記認定の様々な名義による各土地の取得も同人がその収入によって行ったものであるが、材木商の経営に伴う危険を分散することを考えて、これらの土地を適宜、自己名義、被控訴人らあるいは控訴人名義にし、その土地上に建物を建て、これを売却するかあるいは賃貸し、その収入を伊藤家の生計の維持に充てていたものと推察するのが合理的である。

してみると、控訴人名義により取得された本件各土地は、その名義にかかわらず、実質上秀明の所有であるというべきであり、前述のような本件各土地の利用及び管理の状況等に照らしても、これを秀明が控訴人に贈与したものとは到底考えられないところである。

2  以上の点について、控訴人は、秀明が、昭和30年9月に控訴人が薬剤師の国家試験に合格したことを喜び、服部から買い受けた本件各土地を控訴人に贈与したものである旨主張し、甲第73号証、第78号証、第87号証及び乙第71号証の1にはこれにそう控訴人の供述部分があるが、右1で認定したように、昭和27年以降の土地の取得については、名義の如何を問わず、いずれも秀明の所有に属するものであり、本件各土地についても、他の土地と同様であるといわざるを得ないところであって、これと異なる特段の事情は認め難く、右供述部分は採用することができない。

たしかに、控訴人及び被控訴人らが提出した秀明の相続税申告書(乙第1号証の13から23まで)には、遺産として本件各土地の記載はないが、この申告書については、前述の江東区○○×丁目×××番×の土地とその上の秀明名義の建物及び本件各土地上の秀明名義の建物のみが遺産としての不動産である旨記載され、秀明名義の江戸川区○△の土地、新宿区○○○町の土地その他の秀明名義の建物は申告されておらず、その正確性についてはかなり疑問がある上、被控訴人らの名義の土地も記載されていないことからみて、節税目的から秀明名義以外の名義の不動産については遺産として記載しなかったものとも考えられ、申告書に本件各土地の記載がなかったことが重要な意味を持つとは認められない。

また、昭和34年12月ころ、本件各土地の賃借人から、賃借権譲渡の承諾を求められた際、控訴人を地主とし、秀明をその代理人として右譲渡を認める旨の承諾書(乙第101号証)が作成されているが、前記認定に照らせば、これは対外的な所有名義ないし賃貸名義に合致させるための形式と解されるのであり、これをもって直ちに控訴人が、本件各土地を所有するものと認めることはできない。

3  よって、本件各土地は、被控訴人らが主張するように、秀明の遺産に属するというべきである。

第二本訴所有権一部移転登記手続請求について

一  本訴遺産確認請求について第一で認定したとおり、本件各土地は秀明の所有であり、その遺産に属するものであって、被控訴人智子及び被控訴人和子は、秀明の死亡により、その法定相続分として本件各土地につきそれぞれ3分の1の共有持分権を取得したものである。

したがって、被控訴人和子については、同控訴人の右持分につき、控訴人に対して真正な登記名義回復を原因とする所有権一部移転登記手続を求める本訴請求は理由がある。

二  しかし、被控訴人智子については、前記のとおり、同被控訴人は、右相続後に、控訴人との間の前訴において本件各土地の所有権確認等を求め、その所有権取得原因として右相続の事実を主張しないまま敗訴の確定判決を受けたものであるから、前訴の判決の既判力により、控訴人に対する関係においては、被控訴人智子が本件各土地の所有権を有しないことが確定している。したがって、被控訴人智子は、本件各土地につき、その所有権取得の原因の如何を問わず、また、所有権の全部かその一部かを問わず、前訴の口頭弁論終結前に生じた事由による所有権を主張することは前訴の判決の既判力に抵触して許されないものである。そして、前訴の判決の既判力の標準時後に被控訴人智子が本件各土地につき3分の1の共有持分権を取得したとの事実の主張、立証はないから、結局、被控訴人智子が所有権一部移転登記手続を求める本訴請求は理由がないといわざるを得ない。

第三反訴請求について

右第二の二で判断したとおり、被控訴人智子が本件各土地につき控訴人に対して相続による自己の共有持分権を主張することは許されないから、被控訴人智子が右共有持分権を有しないことの確認を求める控訴人の反訴請求は理由がある。

第四以上の次第で、被控訴人らの本訴請求中、遺産確認請求及び被控訴人和子の所有権一部移転登記手続請求は理由があり、この部分についての原判決は正当であるから、この部分についての本件控訴を棄却することとし、被控訴人智子の所有権一部移転登記手続請求は理由がなく、この部分についての原判決は失当であるから、これを取り消し、この部分の請求を棄却することとし、当審において中間確認の反訴を変更した控訴人の被控訴人智子に対する反訴請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 山崎潮)

別紙目録<省略>

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