大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 平成3年(ネ)4073号 判決 1992年3月31日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事 実】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、原審平成三年(ワ)第四九号事件及び同第一四三号事件に関する部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、控訴人から五〇万円の支払いを受けるのと引換えに、袖ケ浦カンツリークラブの会員権の名義書換えをせよ。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金二〇〇万円を支払え。

4  被控訴人は、控訴人に対し、平成三年二月から本判決の確定の月まで毎月金一七万四〇〇〇円の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

6  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決の事実摘示中原審平成三年(ワ)第四九号事件及び同第一四三号事件に関する部分(原判決二枚目裏三行目の冒頭から同四枚目表五行目の末尾まで。ただし、「本件倶楽部」を「本件クラブ」に、同二枚目裏五行目の「袖ケ浦カンツリー倶楽部」を「袖ケ浦カンツリークラブ」と、同三枚目表七行目の「甲事件」を「原審平成三年(ワ)第四九号事件」と、同九行目の「被告」を「控訴人は、前記のとおり本件会員権を相続したが、被控訴人」と、同裏一〇行目の「乙事件」を「原審平成三年(ワ)第一四三号事件」と、同四枚目表一行目の「丙事件」を「原審平成三年(ワ)第二五二号事件(控訴人は、当審において同事件の訴えを取り下げた。)」とそれぞれ改める。)のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠《略》

【理 由】

第一  原審平成三年(ワ)第四九号事件

一  控訴人の亡父は、被控訴人の経営する本件クラブの会員であつたところ、昭和五七年一一月二日死亡したことは当事者間に争いがなく、千葉家庭裁判所の亡父の遺産分割事件についての審判の結果、控訴人が本件会員権を取得することとされたことは前示原判決の「第二 事案の概要」中の「争いのない事実等」に記載のとおりである。

二  控訴人は、本件会員権を右相続により取得し、本件クラブの会員となつたと主張するので、本件クラブの会員たる地位の相続性の有無について検討すると、《証拠略》によると、次の事実が認められる。

1  本件クラブは、被控訴人が所有するゴルフ場を経営するために設立されたゴルフクラブであり、その運営は本件クラブの理事会が行つていること。

2  本件クラブの会員となるためには、理事会の入会承認を得て、所定の入会手続をし、かつ、入会金(本件クラブが設立された昭和三五年当時の額は五五万円)を納めることが必要であり、被控訴人は、右入会金を預り保証金として保管、運用していること。

3  本件クラブの会則には、設立当初からその六条において、会員が死亡したときは会員の資格を喪失することが定められており、右規定に基づき、会員たる地位の相続による承継は認めないものとして運用されてきたこと、本件クラブの会員が死亡したときは、その相続人は、被控訴人に対する預り保証金の返還請求権を相続すると同時に入会申込の資格者たる地位を得るが、本件クラブの会員たる地位を取得するためには、理事会の入会承認を得て所定の入会手続をする必要があること。

4  このようなことから、会員の相続人は、<1>預託金の返還を受けるか、<2>相続人の一名に名義を書き換えるか、<3>入会申込の資格者たる地位を第三者に譲渡(いわゆるゴルフ会員権の譲渡)するかのうち、いずれかを選択することとなり、右<2>と<3>のいずれの場合も、会員となろうとする者は、入会申込書に所定の事項を記入し、紹介会員二名の署名押印を受けた上で、理事会の入会承認を求め、これが得られた後に所定の入会手続をする必要があること。

5  入会に当たり、会員の相続人についても理事会の審査手続を経ることとしているのは、本件クラブの他の会員に迷惑を及ぼす虞れのある者の入会を防止するためであり、会員二名の紹介を要求しているのは、身元保証的な趣旨によるものであること。

以上の事実が認められ、このような事実関係、特に、本件クラブの会則上、会員が死亡したときは会員の資格を喪失することが定められていることに鑑みれば、本件クラブの会員たる地位は一身専属的なものであつて、相続の対象となりえないものと解するのが相当である。

三  ところで、前示のようにゴルフクラブの会員たる地位について相続性を否定し、会員の相続人の入会申込についても会員二名の紹介や理事会の入会承認の手続を要するものとすると、相続人の中には、入会申込の資格者たる地位を得たとしても、事実上入会をすることができない場合が生じ得、控訴人は、これを不当な制約であると主張する。そして、《証拠略》によれば、控訴人は、亡父の遺産分割審判の確定後、本件クラブの担当者からその手続の教示を受け、近所の会員等に紹介状への署名押印を求めたが、これを拒否されたため、本件クラブに所定の入会の申込手続をしていないことが認められる。

しかしながら、本件クラブは、ゴルフの発達普及に務め、会員その他利用者の体位の向上健康の増進と共に明朗健全なる社交機関たらしめることを目的として設立されたものであり(会則二条。《証拠略》により認める。)、そのような社交機関における会員たる地位の取得の要件は、当該団体の内部自治に委ねられるべき事柄である。そして、前認定のとおり、会員二名の紹介や理事会の入会承認の手続は、本件クラブの他の会員に迷惑を及ぼす虞れのある者の入会を防止したり、身元保証的な趣旨によるものであつて、会員の相続人に対する不当な要求であるということができず、また、右相続人は、いわゆるゴルフ会員権を第三者に譲渡してその地位に伴う経済的価値を回収することもできるのであるから、右の手続を求めることは公序良俗に反するということができず、本件クラブに入会するためには、会員二名の紹介や理事会の入会承認等の手続を要するものというべきである。

四  前認定のとおり、控訴人は本件クラブに所定の申込をしていないから、本件クラブないしその権利の帰属主体である被控訴人に対し、会員であることを主張することができず、控訴人の原審平成三年(ワ)第四九号事件についての本訴請求は失当である。

第二  原審平成三年(ワ)第一四三号事件

一  控訴人は、被控訴人が原審平成三年(ワ)第二五二号事件の訴えに対して不当に争つているとして、被控訴人に対し慰謝料の請求をするが、被控訴人が不当に争つたことを認めるに足りる証拠はないから、右請求は失当である。

二  なお、控訴人の右慰謝料の請求を、被控訴人が原審平成三年(ワ)第四九号事件の訴えに対して不当に争つていることを原因とするものであると解しても、第一において認定、判断したとおり、同事件についての被控訴人の主張は正当なものであるから、控訴人の請求は理由がない。

第三  結論

以上によれば、原審平成三年(ワ)第四九号事件及び同第一四三号事件に関する原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩佐善巳 裁判官 小川克介 裁判官 南 敏文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例