東京高等裁判所 平成3年(ネ)489号 判決 1991年12月17日
甲事件控訴人・乙事件被控訴人(第一審被告・同被参加人・同反訴原告) 有限会社 銀座会館
右代表者代表取締役 趙文子(以下「一審被告」という。)
右訴訟代理人弁護士 芹沢政光
同 稲田早苗
甲事件被控訴人・乙事件控訴人(第一審参加人・同反訴被告) 金榮子(以下「参加人」という。)
右訴訟代理人弁護士 中村順英
乙事件被控訴人(第一審原告・同被参加人) 金鐘九(以下「一審原告」という。)
主文
原判決を取り消す。
本件を静岡地方裁判所に差し戻す。
事実
第一当事者の申立て
一 一審被告
(反訴請求につき)
1 原判決中一審被告の反訴請求に関する部分を取り消す。
2 参加人は、一審被告に対し、原判決別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)を明け渡し、かつ、平成二年五月三〇日から右明渡し済みまで一か月金二〇万円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも参加人の負担とする。
4 仮執行の宣言
(参加請求につき)
1 参加人の本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は参加人の負担とする。
二 参加人
(参加請求につき)
1 原判決中参加人の請求に関する部分を取り消す。
2 参加人と一審原告及び一審被告との間において、本件土地建物が参加人の所有に属することを確認する。
3 一審被告は、参加人に対し、本件土地建物につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
4 訴訟費用は第一、二審とも一審原告及び一審被告の負担とする。
(反訴請求につき)
1 一審被告の本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は一審被告の負担とする。
三 一審原告
当審における口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
第二当事者の主張
一 参加人
1 一審被告は、昭和五五年五月二〇日その所有に属する本件土地建物を一審原告に売り渡し、翌二一日その移転登記を了した。
2 一審原告は、昭和五九年一二月二三日妻である参加人に本件土地建物を贈与した。
3 第1項記載の登記は、昭和五九年一二月二四日抹消され、一審被告が現にその所有名義人である。
4 一審原告及び一審被告の主張事実中、参加人が本件土地建物を占有していることは認めるが、その余は否認する。
5 仮に第2項記載の贈与が認められないとしても、
(一) 一審原告は、昭和五九年一二月二三日参加人に対し、両者間の子らが成人するまでの間本件土地建物を無償で使用させることを約束した。
そして、一審原告と一審被告とが、同月二四日本件土地建物の売買契約を合意によって解除したとしても、当時の一審被告代表者金三徳は、右使用貸借契約をあらかじめ承認していたから、一審被告は、参加人に対する右使用貸借契約の貸主の地位を承継したものである。
(二) 仮に、右主張が認められないとしても、一審被告が参加人の右使用借権を否定して本件土地建物の明渡しを請求することは、一審原告と参加人との間の子らが成人するまでの間本件土地建物を無償で使用することを当時の一審被告代表者金三徳が承認した経緯に照らすと、権利の濫用であって許されない。
6 よって、本件土地建物につき、一審原告、同被告との間で所有権が参加人に属することの確認を、一審被告に対して所有権移転登記手続を求める。
二 一審原告及び一審被告
1 参加人主張の事実中第2項及び第5項は否認し、その余は認める。
2 同第1項の売買契約は、昭和五九年一二月二四日一審原告、一審被告両名の間の合意により解除された。
三 一審被告
1 本件土地建物は、一審被告の所有に属し、参加人は、昭和五九年五月三〇日以降これを占有している。
2 本件建物の右同日における相当な賃料額は、一箇月二〇万円である。
3 よって、参加人に対して本件土地建物の明渡し及び右同日以降明渡し済みまでの賃料相当額の損害金の支払いを求める。
第三証拠関係《省略》
理由
一 本件記録によれば、原審における訴訟の経過は次のとおりであったことが認められる。
1 一審原告は、昭和六二年七月一四日、一審被告外一名を共同被告とする静岡地方裁判所昭和六二年(ワ)第三二九号所有権移転登記抹消回復登記手続等請求の訴訟(以下「本訴」という。)を提起した。そして、一審被告に対する請求の趣旨は、「被告は、原告に対し、本件土地建物につき、静岡地方法務局昭和五九年一二月二四日受付第五七五〇八号で抹消された昭和五五年五月二一日受付第二三一六一号所有権移転登記の回復登記手続をせよ。」というものであり、その請求原因の要旨は、「原告は、昭和五五年五月二〇日、被告から、その所有の本件土地建物を買い受け、翌二一日、請求の趣旨記載の所有権移転登記を了した。しかるに、右登記は、原告の知らないうちに錯誤を理由として昭和五九年一二月二四日受付第五七五〇八号で抹消された。」というにある。
2 参加人は、右訴訟事件の係属中の昭和六三年一月一一日、一審原告と一審被告を相手方として民訴法七一条の当事者参加の申立て(同裁判所昭和六三年(ワ)第一五号)をした。その請求の趣旨は、「参加人と原告及び被告との間において、本件土地建物が参加人の所有であることを確認する。被告は、参加人に対し、本件土地建物につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」というものであり、その請求原因の要旨は、「参加人は、昭和五五年一二月二三日、原告から本件土地建物の贈与を受けてその所有権を取得した。しかるに、その登記については、前項記載のとおり、一旦被告から原告へ所有権移転登記がされた後抹消されており、原告及び被告は参加人が本件土地建物を所有することを争っている。」というにある。
3 一審被告は、平成二年五月二九日、参加人を被告として反訴(同裁判所平成二年(ワ)第二三九号)を提起した。その請求の趣旨は、「参加人は、被告に対し、本件土地建物を明け渡し、かつ、平成二年五月三〇日から右明渡し済みまで一か月金二〇万円の割合による金員を支払え。」というものであり、その請求原因の要旨は、「被告は、本件土地建物を所有し、参加人は、これを占有している。その賃料相当損害金は一か月二〇万円を相当とする。」というにある。
4 ところが、右訴訟の平成元年一二月二〇日の原審第一二回口頭弁論期日において、一審原告と一審被告とは、参加人を加えることなく、次の(一)(二)のとおりの内容を含む裁判上の和解(以下「本件和解」という。)を成立させ、本訴は終了したものとされた。
(一) 原告は、被告に対し、本件土地建物について、両者間の昭和五五年五月二〇日の売買契約が昭和五九年一二月二四日解除されたこと及び右土地建物が被告の所有であることを確認する。
(二) 被告は、原告に対し、解決金として七〇〇〇万円の支払義務のあることを認め、これを和解の席上で支払い、原告はこれを受領した。
5 その後原審裁判所は、平成二年一二月四日反訴事件と参加事件とについて口頭弁論を終結し、平成三年一月二九日原判決を言渡した。これに対して、一審被告及び参加人が本件各控訴を申し立てた。
二 右の訴訟関係においては、本訴請求の訴訟物は、本件土地建物の所有権に基づく物上請求権である所有権移転登記の抹消登記の回復請求権であり、参加請求の訴訟物は、参加人と一審原、被告両名との間において、本件土地建物の所有権であり、これに加えて参加人と一審被告との間において、右所有権に基づく物上請求権である所有権移転登記請求権である。そうとすれば、本件は、一審原告及び参加人の各請求につき、本件土地建物の所有権及びこれに基づく物上請求権の帰属について、一審原告、一審被告及び参加人の三者間において合一にのみ確定されなければならない訴訟(いわゆる三面訴訟)であることが明らかである。
このような三当事者間の法律関係を合一に確定させることを目的とする訴訟において、そのうちの二当事者のみの間において当該訴訟物について裁判上の和解をすることは、三者間の合一確定の目的に反するから許されないものと解すべきである。そうすると、参加人を加えることなく、一審原告及び一審被告との間で本訴の訴訟物について成立させた本件和解は無効であり、したがって、右当事者間の本件訴訟は、未だ終了していないものといわなければならない。
そして、この訴訟においては、三者間において合一に確定させることを要する各請求につき一個の終局判決がされるべきであって、そのうちの特定の請求についてのみ判決をすることは許されないものである(したがって、これを看過して、一部の請求についてのみ判決がされたときは、残余の分について追加判決をすることも許されない。)。しかるに、原審裁判所は、一審原告と一審被告との間の本訴が和解によって終了したことを前提として、参加請求事件とこれに対する反訴請求事件についてのみ判決をしたものであるから、原判決は、この点において違法があり、そのかしを補正することができないものである。
三 よって、原判決を取消し、各当事者間の権利関係を合一に確定させるため本件を静岡地方裁判所に差し戻すこととし、民訴法三八七条、三八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 橘勝治 裁判官 小川克介 市村陽典)