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東京高等裁判所 平成3年(ラ)289号 判決 1992年3月30日

新潟県西蒲原郡吉田町大保町七番三七号

抗告人

株式会社富士トレーラー製作所

右代表者代表取締役

皆川功

右代理人弁護士

小林彰

右輔佐人弁理士

近藤彰

黒田勇治

新潟県燕市大字小池二八五番地

相手方

フジイコーポレーション株式会社

右代表者代表取締役

藤井大介

右代理人弁護士

品川澄雄

右輔佐人弁理士

佐野忠

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、

1  原決定を取り消す。

2(一)  相手方は、原決定別紙三の物件目録記載の「整畦機」を製造し、使用し、貸渡し、譲渡もしくは貸渡しのため展示してはならない。

(二)  相手方の、相手方本店、営業所及び工場に存在する前項記載の物件(完成品)及びその半製品(前項の物件の構造を有しているが、未だ製品として完成に至らない物)に対する占有を解いて、抗告人の委任する新潟地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

(三)  執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

との裁判を求め、相手方は、主文同旨の裁判を求めた。

二  当事者双方の主張及び主たる争点は、次のとおり付加、訂正する他、原決定の、第二(主張)の一ないし三項のとおりである。

1  原決定三丁表二行目の「公開番号」を、「公告番号」と訂正する。

2  原決定四丁表三行目の次に、次のとおり付加する。

「6 後記債務者の先使用による通常実施権の主張に対する反論

本件各権利の構成要件は、全て、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載されているから、本件A権利及び本件B権利の分割出願は適法なものであり、先使用による通常実施権の主張は失当である。」

3  原決定五丁表七行目の次に、次のとおり付加する。

「(三) 本件各権利は、昭和五四年実用新案登録願第二三三七号出願を原出願として、昭和五九年一二月一五日分割出願されたものであるところ、出願の分割が適法で、新たな出願(分割出願)が原出願のときに出願されたものとみなされるためには、原出願の願書に添付した当初の明細書に、分割出願にかかる考案の要旨とする技術的事項のすべてが、当業者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されていることを要するものである。

本件各権利の原出願の出願当初の明細書には、本件各権利の構成要件の全てが、当業者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されているものではないから、本件各権利は出願日の遡及効果を受けることができない。

債務者は昭和五九年一〇月一五日には「あぜぬり機FA-三〇型」を完成して該製品を報道関係者に実演披露し、同年一一月一〇日には生産販売を開始している。そして、「あぜぬり機FA-三〇型」と「あぜぬり機FA-四〇型」とは同種の製品である、即ち、両者は、「あぜぬり機FA-四〇型」が備えているアキュムレーターを「あぜぬり機FA-三〇型」は備えていないことと、各部の配置が左右逆である点で異なるだけでその他の構造は同一であるから、債務者はイ号製品である「あぜぬり機FA-四〇型」について、本件各権利に対して先使用に基づく通常実施権を有する。」

4  抗告人の主張として別紙「平成三年五月一八日付抗告理由申立補充書」写しのとおり、相手方の主張として別紙「平成三年七月一九日付第一準備書面(債務者)」写しのとおり、各付加する。

三  原決定摘示の主たる争点1(イ号製品は特定されているか)についての判断は、原決定五丁裏五行目の「記載されており」の次に、「(疎乙第二号証との対比)」を加入する他、原決定五丁裏一行から七行まで(争点1について)のとおりであるから、これを引用する。

四  原決定摘示の主たる争点3(イ号製品が本件各権利の技術的範囲に属するか)について判断する。

1  本件A権利について

(一)  本件A権利の実用新案登録請求の範囲が原決定別紙一の一(一)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二)  本件A権利の構成要件は次のaないしgのとおりであることは当事者間に争いがない。

a 走行機体に連結機構により機枠を連結する。

b 該機粋に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設ける。

c 該回転ロータの上方及び畦上方にカバー部材を設ける。

d 回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦一方側面に適合させた形状の畦叩体を設ける。

e 該畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構を設ける。

f 前記畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構を上記機枠と該畦叩体との間に設ける。

g 機枠に圃場面に接地する安定部材を設ける。

(三)  本件A権利の作用効果が、明細書の考案の詳細な説明の欄に、原決定別紙一の一(本件A権利について)(三)のように記載されていることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件A権利は右記載の作用効果を奏するものと認められる。

2  本件B権利について

(一)  本件B権利の実用新案登録請求の範囲が原決定別紙一の二(一)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二)  本件B権利の構成要件は次のaないしeのとおりであることは当事者間に争いがない。

a 古い畦の上に盛土し、この盛土を徐行前進する機枠に設けた畦叩き板で叩き固めて新しい畦を形成する整畦機におけるものである。

b 前記叩き板の畦上面を叩き固める上面叩き板部と、畦側面を叩き固める側面叩き板部とを整畦の上面と側面のなす角度に合致する角度で一体に縦断面へ状の固定状態に連設する。

c この畦叩き板の前進方向に対する前側縁に畦叩き板面に対して折曲した状態の鍔板を畦叩き板と一体に且つ上面叩き板部に対する鍔板と側面叩き板部に対する鍔板とを連設状態に突設する。

d かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける。

e この叩き挙動により生ずる反力を支承する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩き板より離れた位置に垂設する。

(三)  本件B権利の作用効果が、明細書の考案の詳細な説明の欄に、原決定別紙一の二(三)のように記載されていることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件B権利は右記載の作用効果を奏するものと認められる。

3  本件A権利とイ号製品との対比

前記1(二)の本件A権利の構成要件と原決定別紙三の物件目録によって特定されたイ号製品とを対比すると、原決定別紙二の一ないし三の抗告人の主張のとおり、イ号製品は本件A権利の構成要件を全て充足するものと認められる。

実質的な争点となっている構成要件について検討する。

(一)  前記1(二)bの構成要件について

実用新案登録された考案の技術的範囲は、まず実用新案登録請求の範囲の記載によって定めるべきところ、本件A権利の実用新案登録請求の範囲には、「旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータ」という以上に限定はないから、旧畦上に土を跳ね上げる機能を有する回転ロータであれば足りるものである。また、疎甲第一号証によれば、本件A権利の明細書の考案の詳細な説明にも、右以上に本件A権利の回転ロータの形状、回転軸線の方向等を限定する定義その他の記載はないことが認められる。そして、右のような限定で、当業者にはその技術的意味内容は明らかである。

疎甲第一号証によれば、本件A権利の明細書の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面に記載されたものでは、回転ロータの回転軸線が畦の方向となるように機枠に横架されており、それ以外の態様の回転ロータの記載はないことが認められるが、そのことから本件A権利の技術的範囲が右実施例及び図面に示されたものに限定されるものではない。

疎乙第一七号証によれば、本件各権利の共同考案者であり共同出願人であった皆川功及び飯岡毅が、本件各権利の原出願より後で、本件各権利の分割出願より前の、昭和五七年一二月一七日に、実用新案登録請求の範囲を「走行機体の後部に連結され、機枠、回転ロータ、畦叩き板等より成るものであって、上記回転ロータには少なくとも畦を耕耘砕土する耕転砕土刃が配在され、かつ該回転ロータの回転中心軸線が該畦の造成方向と交差する如く構成されていることを特徴とする畦叩き作り機」とする考案について、実用新案登録出願したことが認められるが、そのことは、前記両名が、本件各権利の分割出願当時、回転ロータには、本件A権利の実施例のような態様のものばかりでなく、回転ロータの回転中心軸線が該畦の造成方向と交差するものもあることを認識していたことを示すものに他ならない。

イ号製品の回転ロータの構造は、原決定別紙三の回転ロータの構造の項のとおりであり、円筒体(トa)の軸線が畦に対してほぼ直交し、かつ田面に対し、やや下方に傾斜する方向に伝達軸(ヲ)の先端に取り付けられているものであるが、同回転ロータの回転により旧畦上に土を跳ね上げる機能を有するものであるから、本件A権利の構成要件bの「旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータ」に該当し、かつその回転ロータが機粋に設けられていることは原決定別紙三により認められるから、イ号製品は、本件A権利の前記1(二)bの構成要件を充足する。

相手方は、回転ロータの回転軸線の方向が異なることにより本件A権利の効果とイ号製品の効果は異なる旨主張するが、既に判断したとおり、イ号製品のこのような構造も本件A権利の構成要件bに該当するものであるのみならず、相手方の主張するイ号製品の効果も、前記本件A権利の回転ロータによる、圃場泥土を跳ね上げて旧畦上に連続的に盛り上げ、回転跳ね上げ作用のため効率的な盛土ができるという作用効果の中での程度の違いに過ぎない。

(二)  前記1(二)eの構成要件について

本件A権利の実用新案登録請求の範囲には、「該畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構」という以上に限定はないから、構成要件dの畦叩体に往復畦叩動作させる畦叩機構であれば足りるものである。また、疎甲第一号証によれば、本件A権利の明細書の考案の詳細な説明にも、右以上に本件A権利の畦叩機構の動作機構の詳細を限定する定義その他の記載はないことが認められる。そして、右のような限定で、当業者にはその技術的意味内容は明らかである。

疎甲第一号証によれば、本件A権利の明細書の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面に記載されたものでは、畦叩機構は主軸8に連結されたクランク体23と押動リンク24、揺動リンク20、取付アーム21、機枠3等からなるリンク機構と図示されたバネとによって畦叩体に往復畦叩動作をさせるもので、それ以外の態様の畦叩機構の記載はないことが認められるが、そのことから本件A権利の技術的範囲が右実施例及び図面に示されたものに限定されるものではない。

右実施例の畦叩機構は、クランク体とリンク機構によるものであるため、畦叩体は厳密な意味では直線往復動作をするものではなく、揺動運動と称されるわずかに円弧を描くような畦叩動作を繰り返すものと認められ、疎甲第三号証によれば、本件B権利の明細書の発明の詳細な説明中には、本件A権利のものと同じ図面に示された実施例について、「畦叩き板1をおじぎするように叩き挙動を行うように設ける。」と記載されていることが認められるが、右のような畦叩体の運動も往復畦叩動作ということができることは当然であり、本件A権利の実施例として前記のものが記載されていることは、実用新案登録請求の範囲にいう「往復畦叩動作」が厳密な意味での直線往復動作に限られないことを示すものではあっても、実用新案登録請求の範囲中の「往復畦叩動作」が実施例のような動作に限られるものというべきではない。

疎乙第一八号証によれば、本件各権利の共同考案者であり共同出願人であった皆川功及び飯岡毅が、本件各権利の原出願より後で、本件各権利の分割出願より前の、昭和五七年四月三〇日に、実用新案登録請求の範囲を「トラクタの後方に機枠を連設し、この機枠に土起こしロータと畦叩き板を配設し、機枠を畦に沿って前進せしめながら土起こしロータにより畦上面に泥土を盛り上げ、盛り上げられた泥土を畦叩き板で叩き締め固めて整畦するようにした整畦機において、上記トラクタの動力取出軸に油圧モータを連結すると共に機枠の後部に油圧往復振動具を配設し、且機枠の畦側側部に上記畦叩き板を、畦上角部から斜め下方に往復移動自在に枢支し、この畦叩き板に、油圧モータにより作動する油圧往復振動具によって畦叩き運動を付与するように構成したことを特徴とする整畦機における畦叩き装置」とする考案について、実用新案登録出願したことが認められるが、そのことは、前記両名が、本件各権利の分割出願当時、畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構には、本件A権利の実施例のような態様のものばかりでなく、油圧モータにより作動する油圧往復振動具によるものもあることを認識していたことを示すものに他ならない。

イ号製品の畦叩機構は、原決定別紙三の畦叩体を畦叩き動作させる構造の項のとおりであり、油圧プランジャーポンプ、ピストン装置、可撓性ホース等からなる、いわゆる水鉄砲式油圧装置により畦叩体を直線往復運動させて畦を反復して叩くものであるが、これも畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構ということができるから、イ号製品は、本件A権利の構成要件eの「該畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構を設ける。」を充足する。

相手方は、畦叩機構が本件A権利の実施例として示されたものとイ号製品のものとが右のように異なることにより本件A権利の効果とイ号製品の効果は異なる旨主張するが、仮にイ号製品が相手方の主張するような効果を奏するものとしても、該イ号製品の効果も、前記本件A権利の畦叩機構による、畦上面と畦斜面とを同時に叩き締め、旧畦及び地中と、当該畦叩体で盛土をはさみ込んで締め固め、畦叩体全体が畦に向かって往復畦叩動作し、このため強く盛土を締め固めでき、強固な畦を得ることができるという作用効果の中での程度の違い、または、畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構について特定の態様を採用した場合に奏することのできる付加的な効果に過ぎない。

(三)  前記1(二)fの構成要件について

本件A権利の実用新案登録請求の範囲には、「前記畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構を上記機粋と該畦叩体との間に設け」という以上に限定はないから、構成要件dの畦叩体の畦叩きの位置を自在に変更することを可能にする位置可変機構が機粋と畦叩体との間に設けられていれば足りるものである。また、疎甲第一号証によれば、本件A権利の明細書の考案の詳細な説明にも、右以上に本件A権利の位置可変機構の詳細を限定する定義その他の記載はないことが認められる。そして、右のような限定で、当業者にはその技術的意味内容は明らかである。

疎甲第一号証によれば、本件A権利の明細書の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面に記載されたものでは、位置可変機構は押動リンク24の両端及び揺動リンク20の両端にナット部26、27を形成し、クランク体23、取付アーム21の上部及び機枠3、取付アーム21の中程にボルト部28、29を形成し、ナット部とボルト部の螺合作用で、クランク体と取付アーム上部との距離及び取付アーム中程と機枠の下部の距離の各々を調整するもので、それ以外の態様の位置可変機構の記載はないことが認められるが、そのことから本件A権利の技術的範囲が右実施例及び図面に示されたものに限定されるものではない。

イ号製品の位置可変機構は、原決定別紙三の畦叩体の叩き位置を変えるための構造の項のとおりであり、取付板(マ)に設けた長穴(ク)に機枠のボルト(ヤ)を挿入し、ナット(ヤa)で締め付けることにより、取付板(マ)を左右移動自在に固定し、取付板(マ)に固定されたフレーム(ケ)にハンドル(フ)を有する螺子棒(コ)を上下方向に設け、この螺子棒(コ)にスライド金具(コa)を螺合させ、これに枠板(ア)を介してピストン装置(レ)及び畦叩板戻し機構(ム)を上下移動可能に取付けたものであるが、これも畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構で、機枠と畦叩体との間に設けられているものということができるから、イ号製品は、本件A権利の構成要件fの「前記畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構を上記機枠と該畦叩体との間に設ける。」を充足する。

4  本件B権利とイ号製品との対比

前記2(二)の本件B権利の構成要件と原決定別紙三の物件目録によって特定されたイ号製品とを対比すると、原決定別紙二の一、二及び四の抗告人の主張のとおり、イ号製品は本件B権利の構成要件を全て充足するものと認められる。

実質的な争点となっている構成要件について検討する。

(一)  前記2(二)cの構成要件について

原決定別紙三の物件目録の畦叩体の構造の項の記載及び第五図の(一)及び(二)によれば、イ号製品が、「この畦叩き板の前進方向に対する前側縁に畦叩き板面に対して折曲した状態の鍔板を畦叩き板と一体に且つ上面叩き板部に対する鍔板と側面叩き板部に対する鍔板とを連設状態に突設する。」という構成要件を充足するものであることは明らかである。

前記2(三)のとおり、本件B権利は前記2(二)cの構成要件を具備することにより、<1>畦叩き板が叩き動作をした瞬間機体が前進を続けていても前側縁が盛土に喰い込んだり、盛土を削ったりすることがなく、鍔板がスキーの先のそり部のような働きをすることになり、叩きながら前進することが円滑に行われ、また、<2>畦叩き板自体の補強板も兼ね畦叩き板の耐久度が良好になり、<3>ロータで古い畦に盛土する際、飛散する土が畦叩き板の方に飛んでくることをそこで遮断する土飛散防止作用も果たすという作用効果を奏するものである。

イ号製品は、原決定別紙三の物件目録のカバーの構造の項及び第一図の(一)、(二)及び第二図のとおり、回転ロータのカバー(ワ)を構成する複数のカバーの一つとして、畦の上方を覆う上方覆いカバー(ワb)の後ろに、後側覆いカバー(ワd')が設けられ、その後側覆いカバーには、下端にゴム板(ワd'-2)を有する後側制御板(ワd'-3)を設け、また、前記上方覆いカバーの畦とは反対側の端部が取付けられる機枠に斜め下方に設けられた仕切板(ワe)の後側に後側斜面制御板(ワe-2)が設けられているものである。しかし、前記後側覆いカバー(ワd')、下端にゴム板(ワd'-2)を有する後側制御板(ワd'-3)、後側斜面制御板(ワe-2)が設けられていても、それらの下端にゴム板を有する後側制御板及び後側斜面制御板によってならされた畦の上方、側方の盛土の面の高さと、畦叩き板が叩き動作をし畦を叩き固めた瞬間の畦の上方、側方の面の高さとを比べると、畦叩き板が畦を叩き固めた分だけ、畦を叩き固めた瞬間の方が低いことは明らかであるから、イ号製品の畦叩き板の前側の折曲縁が、本件B権利の鍔板と同じく、前記<1>の畦叩き板が叩き動作をした瞬間機体が前進を続けていても前側縁が盛土に喰い込んだり、盛土を削ったりすることがなく、鍔板がスキーの先のそり部のような働きをすることになり、叩きながら前進することが円滑に行われるという作用効果を奏するものである上、前記後側覆いカバー、下端にゴム板を有する後側制御板、後側斜面制御板が設けられていると否とにかかわらず、イ号製品の畦叩き板の前側の折曲縁が、本件B権利の鍔板と同じく、前記<2>の畦叩き板自体の補強板も兼ね畦叩き板の耐久度が良好になるという作用効果を奏するものであることも明らかである。

したがって、作用効果の面から検討しても、イ号製品の畦叩き板の前側の折曲縁は、本件B権利の鍔板に該当するものである。

(二)  前記2(二)dの構成要件について

本件B権利の実用新案登録請求の範囲には、「かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復畦叩き動作するように設け」という以上に限定はないから、構成要件bの畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復畦叩き動作するように設けてあるものであれば足りるものである。また、疎甲第三号証によれば、本件B権利の明細書の考案の詳細な説明にも、右以上に本件B権利の畦叩き板の動作機構の詳細を限定する定義その他の記載はないことが認められる。そして、右のような限定で、当業者にはその技術的意味内容は明らかである。

疎甲第三号証によれば、本件B権利の明細書の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面に記載されたものでは、クランク機構fを介して基部が主軸5に関設された往復押動杆17、二本のリンク杆20、畦側に畦叩き板1を付設した揺動腕15、機枠4等からなるリンク機構と図示されたバネとによって、畦叩き板におじぎするように往復叩き動作をさせるもので、それ以外の態様の動作機構の具体的な記載はないことが認められるが、そのことから本件B権利の技術的範囲が右実施例及び図面に示されたものに限定されるものではない。

イ号製品の畦叩体の動作機構は、原決定別紙三の畦叩体を畦叩き動作させる構造の項のとおりであり、油圧プランジャーポンプ、ピストン装置、可撓性ホース等からなる、いわゆる水鉄砲式油圧装置により畦叩体を畦に対して斜め直線往復運動させて畦を反復して叩くものであるが、これも畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設けたものということができるから、イ号製品は、本件B権利の構成要件dの「かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける。」を充足する。

相手方は、畦叩機構が本件B権利の実施例として示されたものとイ号製品のものとが右のように異なることにより本件B権利の効果とイ号製品の効果は異なる旨主張するが、仮にイ号製品が相手方の主張するような効果を奏するものとしても、該イ号製品の効果も、前記本件B権利の畦叩き板の動作機構の奏する作用効果の中での程度の違いに過ぎない。

(三)  前記2(二)eの構成要件について

本件B権利の実用新案登録請求の範囲には、「この叩き挙動により生ずる反力を支承する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩き板より離れた位置に垂設した」という以上に限定はないから、構成要件bの畦叩き板を、構成要件dのように畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復畦叩き動作するように設けたことにより行われる叩き挙動による反力を支承する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を、機枠の畦叩き板より離れた位置に垂設してあるものであれば足りるものである。

また、疎甲第三号証によれば、本件B権利の明細書の考案の詳細な説明には、そのような構成により奏することのできる効果として、畦叩き体の位置より離れた位置に、右のような反動支承体を垂設したから、この反動支承体がつっかえ棒の役目も果たし、畦叩き板がドシン、ドシンと畦を叩く際の反力は必ずこの反動支承体が支承するから、それだけ機枠ががたつくことが防止され、逆に反動支承体が確固に機枠を支えるからこそ強い叩き力を与え得ることになる旨の記載があるのみで、右以上に本件B権利の反動支承体の詳細、特にその畦叩き板との距離を限定する定義その他の記載はないことが認められる。そして、畦叩き体の位置より離れた位置に、右のような反動支承体を垂設すれば右のような効果を奏するものと認められ、前記のような限定で、当業者にはその技術的意味内容は明らかである。

疎甲第三号証によれば、本件B権利の明細書の考案の詳細な説明中に記載された実施例及びその実施例の図面であることが明示された図面に記載されたものでは、反動支承体が、畦叩き板の設けられたのと反対側の機枠の端部に垂設されていることが認められるが、そのことから本件B権利の技術的範囲が右実施例及び図面に示されたものに限定されるものではない。

イ号製品の反動支承体は、原決定別紙三の物件目録の車輪部材の構造の項のとおりであり、接地車輪(サe)を下端に回転自在に設けた車輪部材(サ)をあぜぬり機の後面の中央よりも畦叩体(カ)に近い位置の機枠(へ)に垂設してあるが、右物件目録の第一図の(一)、第二図、疎乙第二号証によれば、右車輪部材は畦叩体より離れた位置に垂設されているもので畦叩体の畦叩き動作により生ずる反力を支承するものと認めることができるから、イ号製品は、本件B権利の構成要件eの「叩き挙動により生ずる反力を支承する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩き板より離れた位置に垂設するかかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける。」を充足する。

相手方は、畦叩き板の動作機構が本件B権利の実施例として示されたものとイ号製品のものとが右のように異なることから、本件B権利の反動支承体は、畦叩き板の設けられたと反対の機枠の端部に設けられたものである旨主張するが、右主張は、本件B権利の畦叩き板の動作機構が本件B権利の実施例として示された態様に限られることを前提としたものであり、本件B権利の畦叩き板の動作機構は実施例に示された態様に限定されるものでないことは右(二)のとおりであり、相手方の主張は採用できない。

五  原決定摘示の主たる争点2(債務者に、イ号製品につき先使用に基づく通常実施権があるか)について判断する。

1  疎甲第一号証、疎甲第二号証の一、疎甲第三号証、疎甲第四号証の一、疎甲第二六号証の一、疎乙第一号証の一、二、疎乙第一五号証の一、疎乙第一六号証の一によれば、本件各権利は、昭和五四年実用新案登録願第二三三七号出願を原出願として、昭和五九年一二月一五日分割出願されたもので、原決定摘示の申請の理由1の(一)、(二)の経緯を経て登録されたものであることが認められる。(なお疎甲第一〇号証によれば、本件B権利は、昭和六三年一二月五日、権利者である飯岡毅及び皆川功から抗告人に譲渡され、平成元年一月三〇日その旨の権利移転の登録がされたことが認められる。)

2  出願の分割が適法で、新たな出願(分割出願)が元の出願(原出願)のときにしたものとみなされるためには、分割出願にかかる考案の要旨とする技術的事項の全てが当業者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に原出願の出願当初の明細書ないし図面に記載されていることを要するものである。

本件各権利についてこれをみると、疎乙第一号証の二によって認められる原出願の出願当初の実用新案登録願添付の明細書及び図面の内容と、本件各権利の実用新案登録請求の範囲の記載とを対比検討すれば、次の(一)、(二)のとおり、本件A権利の前記四1(二)e及びfの構成要件並びに本件B権利の前記四2(二)dの構成要件が原出願の出願当初の明細書ないし図面に記載されているものとは認められないから、分割出願にかかる本件各権利の要旨とする技術的事項の全ては、当業者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に原出願の出願当初の明細書ないし図面に記載されているものとは認められない。

(一)  本件A権利の前記四1(二)eの構成要件及び本件B権利の前記四2(二)dの構成要件について

本件A権利の前記四1(二)eの「該畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構を設ける。」という構成要件における畦叩機構及び本件B権利の前記四2(二)dの「かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける。」という構成要件は、前記四3(二)及び四4(二)に認定判断したとおり、本件各権利の明細書に実施例として記載されている、主軸8に連結されたクランク体23と押動リンク24、揺動リンク20、取付アーム21、機枠3等からなるリンク機構と図示されたバネとによって畦叩体に往復畦叩動作をさせるもので(本件A権利の明細書の用語による。本件B権利の明細書の用語はこれと異なるが、実体は同じ物と認められる。)、揺動運動と称されるわずかに円弧を描くような畦叩動作を繰り返す態様のものに限定されるものではなく、イ号製品の畦叩機構のように、油圧プランジャーポンプ、ピストン装置、可撓性ホース等からなる、いわゆる水鉄砲式油圧装置により畦叩体を直線往復運動させて畦を反復して叩く態様のものも含む上位概念のものである。

一方、疎乙第一号証の二によれば、

(1) 原出願の出願当初の明細書には、実用新案登録請求の範囲に「主軸の片側に並設した畦起こしローターとこの畦起こしローターの後方に配備した畦叩き板との動力を主軸より分取せしめた整畦機において」との記載があり、発明の詳細な説明中に、「走行車(例えばトラクター)の後方に畦起こしローターと畦叩き板とを架設した基枠を連設してこの畦起こしローターと畦叩き板とで田んぼの畦を形成せしめる整畦機において」との記載があること、

(2) また、原出願の出願当初の明細書には、考案の詳細な説明中に、本考案(原出願の考案)の「構成を添付図面参照にして詳述すると次のとおりである。」として、「主軸(7)の片側に並設した畦起こしローター(10)とこの畦起こしローター(10)の後方に配備した畦叩き板(11)との動力を主軸(7)より分取せしめる。」、「畦叩き板(11)と主軸(7)との間にクランク機構cを介在せしめて、畦叩き板(11)の整畦挙動を行わしめるようにしている。」との記載があること

(3) 更に、原出願の出願当初の明細書には、図面の簡単な説明中に、「第1図は一実施例を示す斜視図、第2図は要部の拡大側面図である。」との記載があり、原出願の出願当初の図面には、本件各権利の図面と実質的には同じ図面(符号は異なる。)が図示されており、前記(2)認定のクランク機構を示す符号cは、本件A権利でいえば、押動リンク24、揺動リンク20、取付アーム21、機枠3等からなるリンク機構全体を示すもののように付されていること、

(4) 原出願の出願当初の明細書及び図面には、右以上に畦叩き板の動作機構についての記載のないこと、

が認めちれる。

そして、右(1)の記載には、走行車(例えばトラクター)の後方に畦起こしローターと畦叩き板とを架設した基枠を連設してこの畦起こしローターと畦叩き板とで田んぼの畦を形成せしめる整畦機において、畦叩き板が畦起こしローターの後方に配備されていること、畦叩き板の動力が主軸より分取されるものであることという以上の畦叩き板の動作が記載されていない。また、右(2)の記載には、原出願の考案の構成についての説明として、右(1)と同様の記載の他、畦叩き板の整畦挙動が「畦叩き板(11)と主軸(7)との間にクランク機構cを介在」させて行うものとされ、右(3)の記載によれば、右クランク機構cとは、本件各権利の明細書に実施例として示された、本件A権利の用語でいえば、押動リンク24、揺動リンク20、取付アーム21、機枠3等からなるリンク機構全体を示すものであること、右のような機構によって動作される畦叩き板が畦角部斜め上方より畦角部に向かって整畦挙動を行うものであることが理解できる。

そして、右のような整畦挙動は、往復畦叩動作あるいは往復叩き動作といいかえるよとができるが、それは、「畦叩き板(11)と主軸(7)との間にクランク機構cを介在」させて行うものであり、それ以外の動作機構自体や、イ号製品の畦叩機構のような、いわゆる水鉄砲式油圧装置により畦叩体を直線往復運動させて畦を反復して叩く態様のものも含む上位概念としての往復畦叩動作あるいは往復叩き動作についての記載とは認められない。

したがって、原出願の当初の明細書及び図面には、本件A権利の前記四1(二)eの「該畦叩体を往復畦叩動作させる畦叩機構を設ける。」という構成要件及び本件B権利の前記四2(二)dの「かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける。」という構成要件の記載があるものとは認められない。

(二)  本件A権利の前記四1(二)fの構成要件について

本件A権利の前記四1(二)fの「前記畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構を上記機粋と該畦叩体との間に設ける。」という構成要件の位置可変機構は、前記四3(三)に認定判断したとおり、本件A権利の明細書に実施例として記載されている、ナット部とボルト部の螺合作用で、クランク体と取付アーム上部との距離及び取付アーム中程と機枠の下部の距離の各々を調整するものに限定されるものではなく、イ号製品の位置可変機構のように長穴にボルトを挿入しナットで締め付けるものと、固定されたフレームにハンドルを有する螺子棒を上下方向に設け、この螺子棒にスライド金具を螺合させるものとを組合わせたものをも含む、上位概念のものである。

一方、疎乙第一号証の二によれば、原出願の出願当初の明細書には、本件A権利の「畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構を上記機枠と該畦叩体との間に設ける。」という構成要件に相当する記載は一切なく、原出願の出願当初の明細書の図面の簡単な説明中に、一実施例を示すものとの説明のある原出願の出願当初の図面に、本件A権利の図面と実質的には同じ図面(符号は異なる。)が図示されており、本件A権利の位置可変機構の実施例と同じナット部とボルト部が符号も付さず図示されているのみであることが認められる。

右のような図面の記載のみをもって、原出願の当初の明細書及び図面に、本件A権利の前記四1(二)fの「前記畦叩体の叩き位置を可変自在にさせる位置可変機構を上記機枠と該畦叩体との間に設ける。」という上位概念からなる構成要件が記載されているものとは認められない。

3  よって、本件各権利の分割出願は、分割出願にかかる考案の要旨とする技術的事項の全てが当業者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に原出願の出願当初の明細書ないし図面に記載されているものとは認められないから、各分割出願が原出願のときにしたものとみなすことはできない。本件各権利の出願日は、現実の出願日である昭和五九年一二月一五日と認められる。

相手方が遅くとも昭和五九年一一月一〇日に、「あぜぬり機FA-三〇型」の製造販売を開始したものであることは当事者間に争いがなく、右「あぜぬり機FA-三〇型」が、イ号製品である「あぜぬり機FA-四〇型」と同種のものであること、即ち、両者は、「あぜぬり機FA-四〇型」が備えているアキュムレーター(原決定別紙三の物件目録の畦叩体を畦叩き動作させる構造の項参照)を「あぜぬり機FA-三〇型」は備えていないことと、各部の配置が左右逆である点で異なるだけでその他の構造は同一であることは、抗告人において明らかに争わないので、当事者間に争いがないものとみなされる。そして、「あぜぬり機FA-三〇型」と「あぜぬり機FA-四〇型」との右のような相違によっても、「あぜぬり機FA-三〇型」も本件各権利の技術的範囲に属するものと認められる。

疎甲第七号証の一四、疎乙第二号証、疎乙第三号証の一、二に手続の全経過を参酌すれば、相手方は、「あぜぬり機FA-三〇型」及び「あぜぬり機FA-四〇型」を、藤井大介、高山徳七、石黒信幸の共同考案にかかり、相手方が昭和五九年一〇月一九日に出願し、昭和六二年一月二三日実用新案出願公告(実公昭六二-二九六五号)され、同年九月九日登録された登録第一六九六四五二号実用新案権の実施として製造販売しているものと認められるところ、右藤井大介ら三名が何らかの方法で本件各権利の考案の内容を知ったことを認めるに足りる疎明はないから、右三名は本件各権利の考案の内容を知らないで考案したものと推認される。

よって、相手方は、本件各権利の考案の内容を知らないでその考案をした右藤井大介ら三名から知得して、本件各権利の分割出願の際、現に日本国内においてその考案の実施である事業をしていた者であるから、そめ実施していた考案と同じイ号製品の範囲内で本件各権利について通常実施権を有するものと認められる。

六  よって、原決定は結論において正当であるから、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

平成三年(ラ)第二八九号実用新案権侵害差止仮処分抗告事件

(原審新潟地方裁判所昭和六三年(ヨ)第二七二号)

抗告人(債権者) 株式会社富士トレーラー製作所

相手方(債務者) フジイコーポレーション株式会社

平成三年五月一八日

抗告人(債権者)訴訟代理人

弁護士 小林彰

抗告人(債権者)輔佐人

弁理士 近藤彰

弁理士 黒田勇治

東京高等裁判所 御中

抗告理由申立補充書

第一 原決定の判断の誤り

一 原決定は、イ号製品が本件A権利及びB権利の各権利の技術的範囲に属しない理由として、

「以上を総合してみると、本件各権利は、畦叩き体を非直線状に往復揺動させ、おじきをするように挙動させて、安定部材ないし反動支承体を必要とするほど回転反力が発生するものであるのに対し、イ号製品は、畦叩き体を直線状に往復運動させるので、回転反力が生ずることはなく、したがって、「車輪」は回転反力を受けるものではありえないものである。

もっとも、前掲乙三の二には尾輪(車輪)が反力を受ける旨の記載があるが、右車輪は「整畦機の走行安定用の尾輪」と表示され、ロータが掘り起こした跡の窪地に設けて地面の反力を有効に畦叩き体に付与できる旨の記載となっているのであって、ここでいう反力とは機枠を水平移動させる反力であり、回転反力ではない。そのことは、右尾輪が畦塗機の中央より畦叩き体に近い位置に取り付けられているのに対し、前記本件名権利における安定部材ないし反動支承体が、機枠の畦叩き板より離れた位置に取り付けられている(甲一、甲三)ことからも明らかである(右「離れた位置」とは機枠の中心を挟んで畦叩き板とは反対側に離れた位置と解すべきである)。なお、イ号製品における畦叩き体からの反力はその構造上畦叩き機構(機体)自体が受けるものと解されるが、この場合も回転反力ではなく、水平反力とみざるをえない。そうすると、イ号製品は、本件A権利の構成要件(別紙一の一(二))e、gを、本件B権利の構成要件(別紙一の二(二))d、eを充足しないものであるから、本件各権利の技術的範囲に属しないものといわざるをえない(なお、イ号製品の畦叩き板(カ)の鍔板(カc)部分が橇(そり)のような働きをしていることが明らかであるから、右は本件B権利の技術的範囲に属するものというべく、この点に関する債務者の主張は理由がない)。」

と判示している。

二 しかし、登録実用新案の技術的範囲は、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めなければならないものである(実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条)。

しかしながら原決定は本件各権利の構成要件中、

A権利

e 該畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構を設ける。

g 機枠に圃場面に接地する安定部材を設ける。

B権利

d かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける。

e この叩き挙動により生ずる反力を支障する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩体より離れた位置に垂設する。

の充足判断につき、右構成要件の意味内容を本件各権利の明細書の詳細な説明の項及び図面に記載された実施の一例の程度まで限定縮少した解釈がなされており、誤ったものといわなければならない。

第二 権利解釈についての主張

一 A権利の解釈について

1 原決定の争点3(一)(1)は作動機構について判示した項であるが、この項にはA権利の構成要件e「該畦叩体を往復叩動作させる畦叩機構を設ける」についての権利解釈が全く示されておらず、A権利については解釈が無視されている。

2 また同争点3(一)(2)は安定部材に関わる項であるが、この項にはA権利の構成要件g「機枠に圃場面に接地する安定部材を設ける」について、A権利の明細書の考案の効果の欄を引用してはいるが、A権利の安定部材についての独立した解釈が全くなされていない。

唯、A権利の安定部材はB権利の反動支承体と同じ作用効果を有するものとしている。しかしこの解釈はA権利を別個のB権利に従属させた状態で権利解釈をなしているものである。

3 つまりイ号製品が充足していないと判示するA権利の構成要件e及びgの意味内容の解釈について、いずれの要件にあってもA権利独自の解釈が何ら示されておらず、解釈不充分といわざるをえない。

二 B権利の解釈について

1 B権利の構成要件d「かかる畦叩き板を畦角部斜め上方より畦角部に向かって往復叩き動作するように設ける」について、明細書の詳細な説明の項及び図面に記載された実施の一例に係わる字句を取り上げ、この往復叩き動作が梃クランク機構と引張りバネによって行われており、そしてこの叩き動作が、揺動腕15の揺動作用により畦2に対しておじぎするように記載されているとしている。

2 B権利の構成要件e「この叩き挙動により生ずる反力を支障する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩体より離れた位置に垂設する」については、それがB権利の構成要件であるとしているのみである。

3 つまりイ号製品が充足していないと判示するB権利の構成要件d及びeの意味内容の解釈についても、単に実施例の記載を徴するに止まり、解釈不充分といわざるをえない。

三 A権利及びB権利の作用効果の解釈について

1 A権利の構成要件e・g及びB権利の構成要件d・eについての解釈が不充分なまま、これら構成要件の解釈から離れ、本件公報及び準備書面、その他の書面の一切に全く記載のない回転反力なる文言を用い、「以上のとおり、本件各権利の畦叩き機構は、どしん、どしんと回転反力が発生するような畦叩き体の動きで畦を強く締め固め、この回転反力を安定部材ないし反動支承体で受け止めて、強い叩き力を与えることにより、整畦作業を良好に行うことができるものであり、これこそが本件各権利の考案における技術的範囲の主たる効果であるとみるべきである」としている。

2 そして右回転反力なる用語についての定義が示されていないため、回転反力とはいかなる意味内容をもつものであるかは不明であり、全く不明瞭な記載となっている。この用語を除外すれば本件各権利の作用効果と一致するのであるから、この用語は極めて重要な意義をもっており、このため用語の意味内容を明確に示すか、または少なくとも債権者に答弁の機会を与えるべきである。

第三 イ号製品との対比についての主張

一 畦叩き機構について

1 原決定は、本件各権利は、畦叩き体を非直線状に往復揺動させ、おじきをするように挙動させて、安定部材ないし反動支承体を必要とするほど回転反力が発生するものである。これに対し、イ号製品は、畦叩き体を直線状に往復運動させるので、回転反力が生ずることはないと判示する。

2 考案の構成要件の解釈にあたり、明細書の詳細な説明の項の記載及び図面を参照することが許されるというのは理解できる。しかし右対比はA権利に記載の構成要件e及びB権利に記載の構成要件dを離れ、保護を求める考案の対象自体を、独断的に変更し、そして請求の範囲に記載の要件外の事項を相違点とするものであり、解釈の限度を越えているといわざるをえないものである。

3 また右のとおり、回転反力なる用語が、いかなる意味内容をもつものであるか不明であるにも関わらず、回転反力なる用語を用いて対比しており、そして回転反力は、畦叩き体がおじきをするような非直線状に往復揺動する挙動の場合には発生し、畦叩き体が直線状に往復運動する場合には発生しない、と説示するに至っては、不明瞭な記載をさらに不明瞭な記載としているものといわなければならない。

4 一般に反力とは、物体が他の物体に力を作用させたとき反作用としてその物体からその力と同じ大きさで反対向きに受ける力のことである(ニュートンの第三法則)。してみれば反力は、畦叩き体の叩き挙動が如何なるものであっても必ず畦から受けることになるのである。しかも畦叩体全体の運動過程を対比すれば差異がみられるものの、畦叩体が畦に接触し、畦を叩き、畦から離れるまでの畦叩体の実質的な叩き領域での運動過程は、おじきをするような非直線状の叩き挙動も直線状の叩き挙動も極めて微差であり、敢えて峻別する意義がないものである。

二 安定部材、反動支承体について

1 原決定は、

<1>イ号製品の「車輪」は回転反力を受けるものではありえないものである、尾輪(車輪)が反力を受ける旨の記載があるが、右車輪は「整畦機の走行安定用の尾輪」と表示され、ロータが掘り起こした跡の窪地に設けて地面の反力を有効に畦叩き体に付与できる旨の記載となっているのであって、ここでいう反力とは機枠を水平移動させる反力であり、回転反力ではない、

<2>そのことは、右尾輪が畦塗機の中央より畦叩き体に近い位置に取り付けられているのに対し、前記本件各権利における安定部材ないし反動支承体が、機枠の畦叩き板より離れた位置に取り付けられていることからも明らかである、右「離れた位置」とは機枠の中心を挟んで畦叩き板とは反対側に離れた位置と解すべきである)、

<3>なお、イ号製品における畦叩き体からの反力はその構造上畦叩き機構(機体)自体が受けるものと解されるが、この場合も回転反力ではなく、水平反力とみざるをえない、と説示する。

2 この安定部材、反動支承体についての対比においても回転反力なる用語が用いられており、解釈を不明瞭としている。

右<1>を要約すると、イ号製品は機枠を水平移動させる反力(水平反力ともいっている)は受けているが、回転反力なる反力は受けていないと説示することになる。即ちイ号製品は反力を受けていると認めながら反力の内容が違うといっているのである。このように反力の内容を区別する必要は全くない。なぜならばA権利及びB権利の公報のいずれにも回転反力、水平反力なる文言は用いられておらず、反力としか記載していないのである。イ号製品の車輪が反力を受けると認めているにもかかわらず反力は受けていないといっていることになり、全く矛盾していて理解できない。

3 また右<2>では、本件権利の実施の一例の図面を参照し、これとイ号製品とを対比し、B権利の構成要件eに記載された「離れた位置」とは機枠の中心を挟んで畦叩き板とは反対側に離れた位置と解すべきであるとする。B権利の構成要件eは「この叩き挙動により生ずる反力を支障する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩体より離れた位置に垂設する」であり、「機枠の中心を挟んで畦叩き板とは反対側に離れた位置に」とは限定していないのである。

4 またA権利の構成要件gには「機枠に圃場面に接地する安定部材を設ける」とは記載されているものの、「離れた位置」なる位置限定がないことから、請求の範囲に基づかない解釈となっているとともにA権利の構成要件に別の構成要件を付加して解釈している。

5 また右<3>では、イ号製品における畦叩き体からの反力はその構造上畦叩き機構(機体)自体が受けるものと解されるが、この場合も回転反力ではなく、水平反力とみざるをえないとする。

回転反力と水平反力とは一体如何なる反力であり、如何なる基準で区別されものか全く理解できない。

三 回転反力、水平反力について

1 原決定において、畦叩き動作に起因して機枠が受ける反力の説明に「回転反力」、「水平反力」なる文言を採用しているが、A権利及びB権利の各実施例に示された畦叩き装置とイ号製品の各畦叩き動作によって機枠が受ける反力は実質的に同一であって、原決定のように不明瞭な「回転反力」、「水平反力」に区分する根拠は全く存在しない。

2 各装置の機枠が受ける反力は畦叩き動作中、畦叩体(畦叩き板)が畦を叩き締める瞬間にのみ生ずるもので、畦叩機構が梃クランク機構及び引張りバネから構成されていておじぎ運動するものであっても、また水鉄砲式油圧装置によって直線運動するものであっても、畦の叩き締めの瞬間に機枠が受ける反力は、畦の叩き締め方向と反対の方向に作用する。即ち、畦の叩き締め時には機枠を畦と反対側の斜め上方に向かって持ち上げるように作用する力が働くものである。

この斜め方向の反力を水平分力と垂直分力(上向き)に分解したとき、垂直分力は機枠自体の重量で打ち消させ、水平分力は機枠を支持している安定部材(A権利)、反動支承体(B権利)、接地車輪(イ号製品)と圃場地上との摩擦力や土中へのくい込み等で対抗しているものである。厳密には反力の水平分力及び垂直分力の大きさは瞬間的に変化するが、その反力の負担自体には変わりはない。

3 従って、原決定のようにA権利及びB権利の装置における安定部材及び反動支承体が「回転反力」を受けるもので、イ号製品の接地車輪は「水平反力」を受けるものであると区別する技術的根拠は全く見い出せないのである。

第四 技術的範囲についての主張

一 原決定は、右のとおり、A権利及びB権利の解釈を誤まり、イ号製品との対比判断を誤まり、その結果

「そうするとイ号製品は、本件A権利の構成要件e、gを、本件B権利の構成要件d、eを充足しないものであるから、本件各権利の技術的範囲に属しないものといわざるをえない、」

と誤った結論を導いたことは明らかである。

二1 原決定の右解釈及び対比判断の誤りの多くは、登録実用新案の技術的範囲は願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めなければならないとする、技術的範囲画定の大原則を無視又は軽視したからであるといわなければならない。特別な根拠を示さずまたは実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないで、A権利及びB権利の技術的範囲をその実施例に限定することは到底許されるべきではない。

2 また技術的範囲の実質的解釈を行う場合には、請求の範囲に記載された構成要件の解釈の名のもとに、これを無視、除外したり、記載されていない他の要件を付加してはならないのである。右実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条の趣旨から直接導かれるものであり、またその根底には実用新案権の保護対象は出願人自身が自由に選定できるが、その反面保護範囲を広くしたため出願拒絶、登録無効を受けたり、保護範囲を狭くしたために容易に模倣された場合の責は当然出願人に帰結するという前提事項が存在するからである。

三1 してみれば原決定は、イ号製品が畦叩き機構及び安定部材、反動支承体にかかる構成要件を具備していることを認めながら、本件A権利の構成要件e、g並びに本件B権利の構成要件d、eを変更し、充足しないものであるから本件各権利の技術的範囲に属しないとしているものであり、このことは全く不当な判断といわなければならない。

2 したがってイ号製品が本件A権利の構成要件e、gを充足していることは客観的に明らかであり、またイ号製品が本件B権利の構成要件d、eを充足していることも明らかであり、各権利の実施の一例に限定して解釈してはいるがこれら構成要件を充足していることは原決定も認めているものといえる。

よって、イ号製品は本件A権利の構成要件e、g並びに本件B権利の構成要件d、eを充足しているものであるから、イ号製品は本件A権利、B権利の各権利の技術的範囲に属するものといわなければならず、イ号製品が本件各権利の技術的範囲に属しないとした原決定の右判断は、法律の適用を誤ったものであるといわなければならない。

平成三年(ラ)第二八九号

第一準備書面(債務者)

抗告人(債権者) 株式会社富士トレーラー製作所

相手方(債務者) フジイコーポレーション株式会社

実用新案権侵害差止仮処分抗告事件

右件について、債務者は左のとおり陳述する。

平成三年七月一九日

右債務者訴訟代理人

弁護士 品川澄雄右輔佐人

右輔佐人

弁理士 佐野忠

東京高等裁判所

第一三民事部 御中

一、 債務者は、原審決定書四丁裏の「5、債務者の主張」中、イ号製品が本件各権利の技術的範囲に包含されない根拠について、左のとおり主張を追加、補足する。

二、 イ号物件は、A権利の実用新案登録請求の範囲に記載の「回転ロータ」、「畦叩機構」、を具えていない。又、イ号物件は、B権利の実用新案登録請求の範囲に記載の「この叩き挙動により生ずる反力を支承する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機砕の畦叩き板より離れた位置に垂設した」との要件を具えていない。(原審における債務者の答弁書参照)以下これを説明する。

三、 A権利の実用新案公報の考案の詳細な説明の項には、「回転ロータ」について、

「11は回転ロータで、…回転軸線が畦14方向となるように機枠3に横架され、」(二頁3欄二七行ないし二九行)

と記載され、A実用新案の「回転ロータ」は、

(1)、 回転軸線が畦の形成されている方向となるように、すなわち、畦の方向と平行になるように設けられ、

(2)、 従って、機枠に横向に架設される、

とされており、それ以外の記載は全く見当らない。

一方、イ号物件の「回転ロータ」は、決定書別紙三、物件目録のイ号図面第一図の(二)、第二図、第六図の(二)に図示され、イ号図面の説明書二丁表に、

「〔回転ロータ(ト)の〕円筒体(トa)はその軸線が畦に対してほぼ直交し、かつ、田面に対し、やや下方に傾斜する方向に伝達軸(ヲ)の先端に取り付けている。」

と記載されているように、

(1)、 回転軸線が畦方向と直交するように、

(2)、 従って、機枠に縦方向に架設されている。

かような「回転ロータ」はA実用新案の公報に全く記載も示唆もされていないばかりでなく、A権利の原登録出願人である皆川功、飯岡毅は、本件A実用新案の登録出願よりも遥か後の昭和五七年一二月一七日に実願昭五七-一九一七九七号をもって、回転軸線が畦方向と直交し、機枠に縦方向に架設された構成の「畦叩き機」の登録出願を行なっている(疎乙第一七号証)。

この事実は、A実用新案の登録出願人が、出願当時かかる構成の「回転ロータ」を全く意識していなかったことを示している。

四、 回転ロータの奏する作用効果が、回転軸線の方向が異なることによって異なることは当然である。殊に、本件の如き整畦機においては、回転ロータは回転しつつ、整畦機がトラクターに牽引されて圃場を移動することによって畦が形成されるのであるから、回転ロータの回転軸線の方向が畦方向と平行であるか、直交する方向であるかによって整畦作用と効果とに大きな差異の生じることは明らかである。

A実用新案公報に、「走行機体を畦に沿って走行すると、回転ロータは旧畦上に泥土を盛り上げ、…」(二頁3欄六行、七行)、「回転ロータ11の掻上刃13は圃場泥土を掻上げて旧畦上に連続的に跳ね上げ回転跳ね上げ作用のため効率的な盛土ができ、…」(4欄二三行ないし二五行)と記載されているように、この種の整畦機は旧年に作られた旧畦に沿って移動せしめられ、回転ロータの複数の掻上刃の作用によって、土を旧畦上に跳ね上げて盛土することによって旧畦を修復して新しい畦を形成する作用が課せられている。

その際、回転ロータの回転軸の方向が旧畦の方向と平行であるA実用新案の場合には、回転ロータの掻上刃が回転しつつ進行すると、旧畦は、疎乙第二号証(「債権者及び債務者のあぜぬり機写真集」)四二頁右側の如き形状で土が削り取られる。

この削り取られた形状は、中程が大きく、上下が少なく削られているから、これを側面からみると四一頁の如くなる。(但し、四一頁の写真の畦の削り跡はA実用新案の回転ロータの削り跡であるが、その写真に写っている整畦機はイ号物件である。)

一方、イ号物件の回転ロータはその回転軸線が畦方向と直交している(二五頁、二六頁、四〇頁、四一頁)ので、この回転ロータによって削り取られた形状は四二頁左側の写真の如くとなる。その側面からの形状をA実用新案の回転ロータの場合と比較して示したのが四〇頁左側の写真である。

前述の如く、この種の整畦機は、土を旧畦上に跳ね上げて盛土し、かつ、これを畦叩板で叩き固めることによって新しい畦を形成するのであるが、A実用新案の回転ロータは、前述の如く、旧畦の中程の土を多く削り取るという無駄な作用を行なうと共に、それによって畦を脆弱にする。これに対して、イ号物件の回転ロータは旧畦の側面の土を一様の厚さで削り取って畦上に跳ね上げて盛土するのであるから、右の如き欠点を備えていない。

かように、両者は作用効果を異にする。

五、 A実用新案の「畦叩機構」はA実用新案公報の考案の詳細な説明の項に記載され、かつ、図面に示されているように、「てこクランク機構」であり、それ以外の記載は存在しない。すなわち、公報の考案の詳細な説明の項には、

「22は畦叩機構であって、機構3(機枠3の誤記)の後部にクランク体23を設け、クランク体23と主軸8と連結し、クランク体23と取付アーム21の上部とを押動リンク24で連結してなる。」(二頁3欄四二行ないし4欄一行)

と記載されている。右「押動リンク24」が「てこ機構」であり「クランク体23」及び「取付アーム20」が「クランク機構」であって、A実用新案の「畦叩機構」は「てこクランク機構」で構成されており、それ以外の記載は見当らない。

一方、イ号物件の「畦叩機構」は、決定書別紙三物件目録のイ号図面第三図の(一)、(二)、第四図に図示され、イ号図面の説明書三丁裏ないし四丁裏に説明され、同所に「水鉄砲式油圧装置となっている。」と記載されているように、「水鉄砲式油圧機構」である。

A実用新案の「てこクランク機構」の作用効果は、A実用新案の公報に記載の図面と全く同一の図面を記載しているB実用新案公報の考案の詳細な説明の項において、右図面に記載の装置における畦叩き挙動を説明するに当って、「揺動動作により畦2に対して畦叩き板1をおじぎするように叩き挙動を行なうように設ける。」(疎乙第二号証二頁4欄一八行、一九行)と説明しているように、その畦叩き挙動は「おじぎをするような叩き挙動」である。

このことは、本件A実用新案並びにB実用新案が分割された親出願たる実願昭五四-二三三七号の出願審査の過程において、出願人が提出した昭和五九年一月一四日付意見書(疎乙第一四号証の一八)において、出願人が、本件A実用新案公報に記載の図面と同一の図面を記載した親出願の整畦機を説明するに当って、その整畦機の畦叩き挙動は、

「この畦上面の盛土を『おじぎをするような叩き挙動』で叩くからこそ頭から叩きつけ得る結果となり、それだけ全部の土をまとめて締め固め得ることになるのです。」(五頁)

と説明し、引例の叩き挙動に対して、それは、

「必ず直線運動にならざるを得ないのです。」(六頁)

と差異を述べ、

「勿論出願人は、本出願の畦塗機を更に改良に次ぐ改良で大きく変えていますが、『おじぎをするような叩き挙動』の原理はそのままつらぬかれています。」(七頁)

と述べていることから明らかである。

このようにA実用新案の「畦叩機構」が「おじぎをするような畦叩き挙動」を行なうことを、さらに本書面添付の別紙図面(一)によって示す。

これに対して、イ号物件における「畦叩機構」は前述の如く「水鉄砲式油圧機構」であって、決定書別紙三物件目録に機のイ号図面第三図の(一)、(二)、第四図に示され、イ号図面説明書四丁裏に記載されているように、その畦叩き挙動は、「畦(チ)に対して斜め直線運動」の反復である(右第四図参照)。

かように両者の畦叩き挙動は異なっているから、その奏する作用効果も当然異なっている。

まず第一に、A実用新案の畦叩き挙動は「おじぎをするような畦叩き挙動」であるから、畦叩き板が畦を叩く際には畦の上面からこれを叩くことになり、畦側面には充分な叩き力が加わらないことになる。

又、その挙動は、「てこクランク機構」の揺動動作によって行なわれるので、「畦叩き挙動」が行なわれる際には、必然的に整畦機全体が揺動し振動することとなる。

一方、イ号物件の「畦叩き挙動」は、前記の如く、「直線往復運動の反復」であり、油圧が用いられているから、畦叩き板が強い力で畦を叩いたことによる振動は油圧によって吸収され、機体が振動、揺動することはない。又、その畦叩き動作は、畦の上面及び側面を均等に強く叩き固める。さらに又、イ号物件の作動は極めて静かに行なわれる。

右の如く、「直線往復運動の反復」による畦叩き挙動は、「おじぎをするような畦叩き挙動」より優れているので、本件A実用新案の原出願人等は、本件A実用新案の登録出願日より遥か後の昭和五七年四月三〇日に、「直線往復運動の反復」による畦叩き挙動を行なう畦叩き装置を実願昭五七-六三九五四号として出願している(疎乙第一八号証)。

以上の如く、両者は作用効果を異にする。

六、 B実用新案の登録請求の範囲には、「この叩き運動より生ずる反力を支承する接地車輪を下端に回転自在に設けた反動支承体を機枠の畦叩き板より離れた位置に垂設」することが要件とされている。

B実用新案公報においても畦叩き板の往復叩き動作は、「てこクランク機構」によって行なわれる。「てこクランク機構」は、公報第2図に図示されている如く、揺動腕15、二本のリンク杆16、押動リンク17と軸受板とから構成せられていて、機枠の後部の一端から他端にまで及んでいる。叩き動作が始まると、これらの全てが運動を開始するから機枠は当然に振動を始める。しかも、それに伴って、畦叩き板のおじぎ運動が始まるので機枠は振動しローリング(うねり運動)を起こす。

B実用新案公報の考案の詳細な説明中にも、「出来るだけ叩き力を強力にしなければならないが、その場合必ず機枠に叩く力の反力が作用し、この反力は機枠をがたつかせることになる。」(公報三頁5欄一八行ないし二一行)と記載している。しかし、B実用新案における機枠の振動、ローリングは、単に叩く力の反力の作用のみによるのではなく、「てこクランク機構」の各部がそれぞれ別個の運動を行なうことにも依るのである。

そこで、そのような振動による機枠のはね上がりを防止するために、第1図、第2図に示す如く、畦叩き板の設けられたと反対の機枠の端部に「接地車輪を下端に回動自在に設けた反動支承体を垂設する」のであって、その設ける位置を規定した「機枠の畦叩き板より離れた位置」とは、右の如き意味を有する。

一方、イ号製品の尾輪は、機枠の後方のほぼ中央でかつ、畦叩き板のすぐ横に設けられている。これは、イ号製品においては、油圧プランジャーポンプ、アキュムレーター、減速機等が機枠の一方寄りに設けられ、他方寄りにはピストン装置や畦叩き板が設けられ、しかも、回転ロータは、機枠の走行方向に直交して設けられているので、機体は左右のバランスがとれ、その上、油圧方式によって畦叩き板を往復叩き運動せしめるから振動やローリングが少なく、機体の畦叩き板より離れた位置に設ける必要がないからである。

以上

別紙 図面(一)

<省略>

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