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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)10号 判決 1993年3月17日

東京都大田区東糀谷3丁目8番8号

原告

株式会社トーショー

代表者代表取締役

大村五郎

訴訟代理人弁護士

水田耕一

同弁理士

中島昇

仁木弘明

大阪府豊中市名神口3丁目3番1号

被告

株式会社湯山製作所

代表者代表取締役

湯山正二

訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

松田成治

同弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第21769号事件について、平成2年10月11日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年5月28日(前特許出願日援用)、「錠剤分包機」について実用新案登録請求をした(実願昭61-115440号)ところ、昭和63年11月17日に出願公告され(実公昭63-44323号)、平成元年7月10日、設定登録された(登録第1778867号実用新案)。

被告は、平成2年1月4日、本件考案につき、登録無効審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成1年審判第21769号事件として審理したうえ、平成2年10月11日、「登録第1778867号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年12月12日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

「多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた引出体が引出し可能に設けられた錠剤分包機において、前記引出体に、前記複数段の棚を引出し方向からみて左右に2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤フイーダから排出される錠剤を案内する案内路を設けたことを特徴とする錠剤分包機。」

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭56-39815号(実開昭57-152149号)の明細書及び図面のマイクロフイルム(以下「第1引用例」という。)及び実開昭58-5979号公報(以下「第2引用例」という。)を引用し、本件考案は、第1、第2引用例に記載されたものに基づき、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定に違反して実用新案登録されたものであるから、これを無効にすべきものと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決のうち、第1、第2引用例の記載内容の認定、本件考案と第1引用例の対応関係及び本件考案と第1引用例との相違点の認定は、いずれも認める。

しかしながら、審決は、第1引用例の技術思想の把握に理解を欠いたため、本件考案との一致点の認定・判断を誤り(取消事由1、2)、本件考案の容易想到性に係る判断を誤った(取消事由3)結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取消を免れない。

1  取消事由1

審決は、本件考案の両棚列間に案内路を設けた構成が第1引用例における案内路を共用して装置の小型化を図るというものと同様の目的、効果を有すると判断したが、誤りである。

(1)  本件考案は、第2引用例を従来の技術とし、その問題点を解決することを課題とするものである(甲第2号証本件考案の実用新案公報1欄17~24行)。すなわち、病院において錠剤分包機を設置するためのスペースに充分な奥行を確保することが困難であるとの事情を背景として、「一側が開口した箱体に、おのおの上下に積層した複数段の棚を具えた複数の縦型引出体を、互いに隣接しかつ前記開口から引出し可能に設け」た錠剤分包機において、間口が制限されるときは、錠剤分包機に設けられるべき引出体の数が制限される結果、上下各段の棚に奥行方向に並べられる錠剤フイーダの数も制限されるため、所要数の錠剤フイーダを設けるためには、限られた奥行を前提とすると錠剤分包機の間口を広くしなければならず、この場合錠剤フイーダの全体数は変わらないのに、案内路の数が増加し、これが錠剤分包機の間口を必要以上に広くしてしまうという従来技術の問題点を解決し、「間口を限られた大きさに制限しながら奥行きを小さくすることのできる錠剤分包機を提供することを目的とするもの」である。

(2)  これに対し、第1引用例に記載されているのは、「箱体の両側部中央に夫々立設する一対の支持部に枢支されて前記箱体上の前後左右にわたり配置される収納体を有する錠剤自動包装機」であって、一対の支持部に枢支され、枢支点を回転軸としてほぼ180度回転するように配置された前後左右4個の収納体(審決のいう「扉体」)である点に特徴がある。

したがって、第1引用例の考案と本件考案とでは、<1>錠剤フイーダ(錠剤収納器)を収容する部分の全体的構造が根本的に異なり、<2>錠剤分包機における棚と案内路の方向が、第1引用例においては装置の間口方向に沿って平行に並んでいるのに対し、本件考案では装置の奥行方向に向かって平行に並んでおり、<3>錠剤分包機を使用可能に設置する場所についても、本件考案の引出体は、錠剤分包機の一側の開口部から手前に引出されるから、錠剤分包機自体の占有面積の2倍を超えることはないのに対し、第1引用例のものにあっては枢支点を中心とし収納体の対角線に相当する長さを半径としてほぼ180度回転するような収納体が前後左右に4個設けられているから、錠剤分包機の前後左右に前記半径で描かれる4つの半円形の外周線をつなぎ合わせた形状の設置スペース、すなわち錠剤分包機の占有面積の4倍を超えるスペースが必要となるなどの各点で異なっている。

(3)  上記のような第1引用例と本件考案の構造上の相違からして、第1引用例には、第2引用例にみられるような錠剤分包機の間口が制限されると奥行きが長くなり、逆に、奥行きが制限されると間口が広くなるという前記問題点は発生しない。すなわち、第1引用例にあっては奥行方向に2個の収納体を収容しうるのみで、これを3個に増やすことはできないから奥行を大きくする余地はなく、また、間口を制限されると、錠剤フイーダの数を減らすのみに終わり、その結果、所要の錠剤フイーダを確保することはできなくなる。さらに、第1引用例にあっては、奥行が制限され、奥行方向に2個の収納体を収容することができないときは、もはやその基本構造を有する錠剤分包機の設置自体ができなくなり、この場合、開口を大きくして設置を可能にする余地も存在しない。

以上のとおり、第1引用例については、もともと、錠剤分包機の間口又は奥行きを設置スペースに合致させるという要請はありえず、間口を限られた大きさに制限しながら奥行きを小さくするという本件考案の目的、効果及び構成について何らの開示はない。

(4)  第1引用例には、考案の効果として、「本考案に依ると、シュートを挟み対向して、錠剤収納器を配列するためにシュートが共用でき、錠剤収納器の収容密度が高くなると共に装置に占めるシュートの占有率が小さくなって装置の小型化が図れる。」との記載がある(甲第4号証明細書4頁13~17行)が、そこに記載されている装置の小型化とは、個々の収納体を小さくし、その限度において錠剤分包機の全体も小さくするというだけのことである。これに対して、本件考案の引出体の両棚列間に案内路を設けた構成は、個々の引出体の小型化を図ったものではなく、棚2列に案内路を1列とすることにより、案内路の一つを省略して、装置の間口に余裕を生み出し、その余裕の範囲内で間口の大きさを調整しながら、奥行を小さくすることができ、もって錠剤分包機の寸法を設置場所のスペースに適合させることができ、しかも錠剤フイーダの個数を減らさず、むしろこれを増加させることができるとの重要かつ有用な目的、効果を有するものであり、個々の引出体についていえば、従来の第2引用例の引出体よりも大型化している。

さらに、本件考案においては、一つの引出体を引出したとき、装置の前面のみにおいて錠剤の補充作業が引出体の両側から2人の作業者により同時に行えるとの便宜も得られるという効果も奏する。

それゆえ、審決が本件考案における錠剤分包機の間口の大きさを小さく抑えるということと、第1引用例における装置の小型化が同種の目的、効果を有すると判断したことは明らかに誤りである。

2  取消事由2

審決は、本件考案と第1引用例のものとは、「棚2列につき案内路を1つとすることで装置の小型化を図るべく、『多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた錠剤分包機において、前記複数段の棚を2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤フイーダから排出される錠剤を案内する案内路を設けた錠剤分包機。』である点で一致」すると認定したが、誤りである。

(1)  本件考案と第1引用例のものとが共通の目的、効果を有するものでないことは取消事由1記載のとおりであり、上記審決の認定の前段部分が誤りであることは明らかである。

(2)  しかも、本件考案と第1引用例のものとは、審決の認定する一致点を有していない。すなわち、「多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚」を具えているのは、本件考案にあっては「引出体」であり、しかもその数に制限はないのに対し、第1引用例にあっては4個の数に制限される「収納体」である。

審決は、「引出体」と「収納体」とを混同して「複数の棚を具えた錠剤分包機」という構造の把握の仕方をしたため、一致点の認定を誤り、上記1のとおり、誤った判断に至ったものである。

3  取消事由3

審決は、第2引用例のものと、装置の小型化という普遍的な目的のために、複数の段の棚2列につき1列の案内路を共用する第1引用例とを総合することは、第2引用例においても当然生ずるはずの小型化の要請から当業者がきわめて容易に思い到るところであり、第1、第2引用例を総合して本件考案の構成を採用することは必然であって、その効果も容易に予測できると判断したが、誤りである。

審決は、装置の小型化が普遍的な目的であり、第2引用例についてもその要請が当然にあるとするが、錠剤分包機については錠剤の種類の増加に伴い、大型化が要請されており、小型化が当然に要請されてはいない。

また、審決の容易想到性の判断の当否は、本件考案が第2引用例の問題点を解決しようとした目的、そのために本件考案が採用した手段及び効果を、第1引用例から当業者がきわめて容易に想到することができたか否かによって明らかになるものというべきところ、上記1のとおり、第1引用例に示されている「装置の小型化」と、本件考案が第2引用例のものについて存在する問題点を解決しようとした目的とは全く相違する。すなわち、第1引用例が複数段の棚2列につき1列の案内路を共通にするのは、個々の収納体自体を小型化することにより、錠剤分包機自体の小型化を図るにすぎず、その回動式収納体は幅の方向で2個に制限され、3個以上に増やすことはできないから、間口の大きさを調整することはできないし、また、回動式収納体の長さを大きくしない限り、錠剤フイーダの個数を増加させることはできず、長さを大きくすることは、固定壁の強度上問題があるのであるから、第1引用例には、錠剤分包機の間口の増大を抑制しながらその奥行を小さくするとの思想自体が存在せず、その解決手段が示されていないことはいうまでもない。

したがって、当業者が第1引用例の構造に接しても、それから示唆を受けて、第2引用例のものと総合することをきわめて容易に思い到るものとは到底いうことができない。

審決の容易想到性判断は誤りである。

第4  被告の主張の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  取消事由1、2について

本件考案が解決しようとしている技術的課題は、要するに、棚を並列させることによって錠剤フイーダの個数を増加させると、それに伴って案内路の数も増加し、装置の間口が大きくなるので、この点をいかに抑制するかということであるところ、かかる技術的課題については、第1引用例の明細書中にも明白に記載されている(甲第4号証明細書1頁15行~2頁8行)。

そして、本件考案は上記の課題を解決するために、一つの案内路を挟んでその両側に復数段の棚を設けるという構成を採用し、案内路の数を棚2列に対し1列としたものであるが、かかる手段は第1引用例に記載されている手段(同3頁6~15行)と同一の手段である。

また、本件考案は、上記の手段を採用することにより、装置の設置スペースを小さくすることができるとの効果を掲げているが、このような効果も第1引用例に記載されている(同4頁13~17行)。

以上のとおり、本件考案と第1引用例を対比すると、両者は解決しようとする課題を共通にし、その解決手段が同一であって、その効果も同一である。したがって、本件考案と第1引用例とが同一の目的、効果を有するとした審決の認定判断に誤りはない。

2  同3について

審決が、「装置の小型化という普遍的な目的」、第1引用例のものにおいても「当然生ずるはずの小型化の要請」との認定において、「小型化」といっているのは、同一性能を有するものであれば、無駄を省いてできるだけコンパクトにするという装置設計の常識のことであり、原告の主張は小型化の意味を取り違えている。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、甲第7号証を除き、当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1、2について

(1)  本件考案が第2引用例を従来の技術として、その問題点を解決することを課題とするものであることは原告の自認するところであり、甲第2号証によって認められる本件考案の実用新案公報によれば、以下の記載があることが認められる。すなわち、 〔従来の技術〕及び〔考案が解決しようとする問題点〕として、「従来の錠剤分包機には、このような複数段の棚を前後方向に沿って具えた引出体が複数個左右に隣接して引出し可能に設けられ、それにより分包機の前後、左右、上下のいずれの方向にも錠剤フイーダを高密度で配置できるようにしたものがある。」(同1欄19~24行)。「しかしながら、従来のこの種の引出体は、前後方向に延びた各棚に複数の錠剤フイーダをそれぞれ1列に並べ、引出し方向からみて左右いずれか一側に各錠剤フイーダから排出された錠剤を落下させる案内路が設けられているため、各引出体の幅を狭く構成することができる反面、各引出体の奥行は所要数の錠剤フイーダを各棚にそれぞれ1列に並べるため比較的大きくする必要があり、その結果錠剤分包機全体の奥行も大きくなってしまう。ところが病院の薬局には錠剤分包機を設置するためのスペースとして充分な奥行を確保することができない場合があり、このような場所には従来の引出体を具えた錠剤分包機は設置することができない。一方、このような場所にも設置を可能とするため、錠剤分包機の奥行寸法を小さくしようとすると、各引出体の奥行寸法も小さくしなければならず、その際錠剤分包機全体の錠剤フイーダの個数を減らさないためには引出体の個数を増やす必要がある。・・・そしてこの場合、錠剤分包機全体の錠剤フイーダの個数は変わらないのに案内路の数は・・・増えてしまい、引出体の個数増加のうちこの案内路の増加分が、錠剤分包機の間口を必要以上に大きくしてしまう等の問題点があった。この考案は、上記従来のもののもつ問題点を解決して、間口を限られた大きさに制限しながら奥行を小さくすることのできる錠剤分包機を提供することを目的とするものである。」(同1欄26行~2欄28行)。

〔問題点を解決するための手段〕として、「この考案は上記目的を達成するため、多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた引出体が引出し可能に設けられた錠剤分包機において、前記引出体に、前記複数段の棚を引出し方向からみて左右に2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤フイーダから排出される錠剤を案内する案内路を設けたものである。」(同2欄末行~3欄7行)。

〔作用〕及び〔考案の効果〕として、「この考案は上記手段を採用したことにより、案内路の数は棚2列に1列となり、それだけ錠剤分包機の間口の大きさは小さく抑えられることとなる。」(同3欄8~12行)。「この考案は上記のように構成したので、案内路の数は棚2列に1列となり、それだけ錠剤分包機の間口の大きさを小さく制限しながら奥行を小さくすることができ、したがって、錠剤分包機を設置するためのスペースとして充分な奥行を確保することができない場所にも、間口の大きさを制限しながら容易に設置することができる等のすぐれた効果を有するものである。」(同5欄18行~6欄7行)。

上記の事実及び甲第5号証によって認められる第2引用例の記載によれば、本件考案は、病院の薬局等において、錠剤分包機を設置するスペースが限られている場合に対処するため、従来技術である「一側が開口した箱体に、おのおの上下に積層した複数段の棚を具えた複数の縦型引出体を、互いに隣接しかつ前記開口から引出し可能に設けた」錠剤分包機において、これまで一つの引出体に複数段の棚が1列に設けられ、これに対応する1列の案内路が設けられていた構成に代えて、一つの引出体に複数段の棚を引出し方向からみて左右2列に設け、この両棚列間に共用可能な1列の案内路を設けるという構成を採用することにより、案内路の間口方向に占めるスペースを小さくし、この省略できたスペースを引出体数の増加ないし引出体の幅方向の拡張に当て、もって所要の錠剤フイーダの個数及び容積を確保しながら、全体としての錠剤分包機の奥行を抑制するというものであり、所要の錠剤フイーダの個数及び容積が一定であることを前提とすれば、案内路の共用により、省略された案内路のスペース分だけ間口や奥行の寸法を短くし、もって、同一の機能を有する錠剤分包機全体の占有面積を小さくすることを可能とし、これによって前記限られた設置場所のスペースに適合させるという考案の効果をもたらすものと認めることができる。また、このことは、省略された案内路のスペースを錠剤フイーダのスペースに当て、その個数の増加を図り、もって、収容する錠剤の品目数の増加に対応することを可能とするものと認められる。すなわち、本件考案は、案内路の共有という構成によって、錠剤フイーダの収容密度を高めるという点に根本的な技術思想があるものというべきである。

(2)  一方、甲第4号証によれば、第1引用例の明細書には、「本考案は錠剤自動包装機の筐体装置に関し、多種類の錠剤収納器を効率的に収容しうる構造を目的としている。病院の薬局業務等での自動化を目的とした錠剤自動包装機は数々の新薬の登場によって収容薬種を増大させる必要にせまられている。しかしながら自ずと装置に許容されるスペースには限度があり、しかも薬種に応じて錠剤収納容器を増やすと薬の充填作業が煩雑になるばかりか、錠剤収納容器より摘出した錠剤の通路を複雑な構成としなければならず保守点検が不便となる。上記点より本考案は錠剤収納器を高密度に且つ要領よく収容すると共に、錠剤通路を簡略化して配置することが可能な筐体装置を提供するもので」(同明細書1頁15行~2頁8行)、「各収納体(6)の中央部にはホッパー(1)の上部開口に連通するシュート(7)が配設されており、更にシュート(7)を挟み幾段かの棚(8)が配置されている。」(同3頁6~8行)、「本考案に依ると、シュートを挟み対向して、錠剤収納器を配列するためにシュートが共用でき、錠剤収納器の収容密度が高くなると共に装置に占めるシュートの占有率が小さくなって装置の小型化が図れる。」(同4頁13~17行)との記載があることが認められ、引出体ではなく枢支体によって枢支される4個の収納体を有する点で本件考案とは異なるが、各収納体の中央に本件考案の案内路に相当するシュートを設け、対向する両側の錠剤収納器の列から排出された錠剤がシュート(案内路)を共用するものが記載されている。

この記載によれば、第1引用例の考案においても、複数段の棚2列につき1列の案内路を共通にして、案内路部分の占有面積を小さくし、もって錠剤収納器(錠剤フイーダ)の収納密度を高めるという技術思想に立っていることが明らかであり、考案の目的、効果の点で本件考案と同種のものといわなければならない。

(3)  原告は、第1引用例においては、単に収納体を小型化し、その限度において錠剤分包機全体の大きさを小さくできるだけであり、本件考案におけるような錠剤分包機の奥行を小さくしながら間口を抑えるという目的、効果を有しない旨及び本件考案のように案内路の省略によって生じたスペースを錠剤フイーダの個数の維持又は増加に当てるという思想を有していない旨主張する。

しかしながら、甲第4号証によって認められる第1引用例の明細書及び図面によれば、シュートを共用することによって省略されるスペースは、錠剤自動包装機全体の奥行を小さくすることに直結することが明らかであるし、もし、この奥行を従来どおりとすれば、シュートを共用することによって省略される前記スペースを錠剤収納器(錠剤フイーダ)の収納スペースに当て、錠剤収容器の形状を工夫すれば、その個数の増加を図ることができることも容易に認めることができるから、第1引用例においても本件考案と同一の目的、効果があることは、これを否定することができない。

錠剤分包機全体の間口、奥行を従来どおりとした場合、本件考案では引出体自体の間口(幅)の拡大につながるのに、第1引用例では収納体自体の幅の拡大にはつながらないことは原告主張のとおりであるが、前示のとおり、本件考案は第2引用例を従来の技術として、その問題点を解決することを課題とするものであるから、この見地からすると、案内路(シュート)の共用による省略スペースが、錠剤フイーダ(錠剤収納器)のためのスペースに当てられるかどうかが重要であって、引出体又は収納体自体の寸法の拡大に格別の意義があるとは認められない。

(4)  原告は、本件考案が引出体が引出し可能に設けられた錠剤分包機であるのに対し、第1引用例のものが引出体ではなく枢支体によって枢支される回動式の収納体を有する錠剤分包機であるという本件考案と第1引用例の基本構造上の相違を指摘し、第1引用例に本件考案と同一の目的、効果が開示されていないのに、審決は、異なる両者を混同して両考案を「複数段の棚を具えた錠剤分包機」という誤った把握をした旨主張する。

しかしながら、審決は複数段の棚が本件考案においては引出体に設けられているのに対し、第1引用例においては扉体(収納体)に設けられていることを相違点として認定している(別添審決書写し4頁10~15行)ことは原告もこれを争わないところであり、右相違点の認定と合わせて審決の一致点の認定をみると、審決の一致点の認定部分(同4頁4~10行)は、本件考案の引出体と第1引用例の回動式収納体との差異を前提として、錠剤分包機に複数段の棚と案内路がどのような配置をもった構成となっているかの見地から、両考案に共通する構成を認定したものであることが明らかであって、原告の非難は当たらない。

(5)  以上のとおりであるとすれば、本件考案において両棚列間に案内路を設けたことが第1引用例における案内路を共用して装置の小型化を図るというものと同種の目的、効果を有するとする審決の判断は相当であり、また、これを前提として本件考案と第1引用例のものとは、「多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた錠剤分包機において、前記複数段の棚を2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤フイーダから排出される錠剤を案内する案内路を設けた錠剤分包機である点で一致」するとした審決の認定も相当である。

原告の取消事由1、2の主張は理由がない。

2  同3について

第1引用例の考案と第2引用例の考案がともに、錠剤分包機に関する考案であって技術分野を共通にし、また、複数の棚段をなす錠剤フイーダを上下に積層し、錠剤フイーダから排出される錠剤をホッパに落下させるためのダクト(シュート)を有する点で構造上共通していることは、上記から明らかである。

そして、本件考案が第2引用例を従来技術としてこれを改善するものであることは前記のとおりであり、両者の相違点が従来のものにあっては一つの引出体に複数段の棚1列を設け、この1列の棚に対応して1列の案内路があったのに対し、本件考案においては一つの引出体に複数段の棚2列を設け、この2列の棚に対応して1列の案内路を設けた点にあることは前記認定のとおりであるから、この相違点と同一の技術思想ないし構成が第1引用例に開示されているかどうかが問題の核心というべきところ、第1引用例に、案内路の共用によるスペースを錠剤フイーダのためのスペースに当てることによって、装置を小型化することを目的とし、収納体の中央部にあってホッパーの上部開口に連通するシュートと、収納体ごとにシュートを挟み積層して対向配置する錠剤収納器からなる構成が記載され、他方、第2引用例において装置の小型化の要請が存在したことは前記のとおりであるから、第2引用例記載の錠剤分包機に第1引用例記載のシュートを共用するとの技術思想を適用し、本件考案に想到することは当業者にとってきわめて容易になしうることであると認められる。

また、一つの引出体を引出したとき、錠剤の補充作業が引出体の両側から2人の作業者により同時に行うことができるという効果は、本件考案の構成から当然に生ずる効果であって、これをもって予測が困難な効果ということはできない。

結局、本件考案は、第1、第2引用例に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものというべきであり、甲第17号証その他本件各証拠を検討しても、これを覆すに足るものはない。

原告の取消事由3の主張も理由がない。

3  以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき事由も見当たらない。

よって、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)

平成1年審判第21769号

審決

大阪府豊中市名神口3丁目3番1号

請求人 株式会社 湯山製作所

大阪府大阪市中央区日本橋1丁目18番12号 鎌田特許事務所

代理人弁理士 鎌田文二

大阪府大阪市中央区日本橋1丁目18番12号 鎌田特許事務所

代理人弁理士 東尾正博

大阪府大阪市中央区日本橋1丁目18番12号 鎌田特許事務所

代理人弁理士 鳥居和久

東京都大田区東糀谷3丁目8番8号

被請求人 株式会社 東京商会

東京都豊島区東池袋1-47-2 サニーハイム池袋4階407号室中島特許事務所

代理人弁理士 中島昇

東京都豊島区東池袋1-47-2 サニーハイム池袋4階407号室中島特許事務所

代理人弁理士 仁木弘明

上記当事者間の登録第1778867号実用新案「錠剤分包機」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第1778867号実用新案の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

Ⅰ.本件登録第1778867号実用新案(昭和60年5月28日実用新案登録出願(前特許出願日援用)昭和63年11月17日昭和63年出願公告第44323号。平成1年7月10日設定登録。以下、「本件考案」という。)の要旨は、登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲第1項に記載されたとおりの

「多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた引出体が引出し可能に設けられた錠剤分包機において、前記引出体に、前記複数段の棚を引出し方向からみて左右に2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤フイーダから排出される錠剤を案内する案内路を設けたことを特徴とする錠剤分包機。」

である。

Ⅱ.これに対して、請求人が引用し、本件考案の出願前日本国内に頒布された刊行物である甲第2号証(実願昭56-39815号(実開昭57-152149号)明細書のマイクロフイルム。昭和57年9月24日公開。)には

「多数の錠剤収納器を設置する複数段の棚を扉体に、扉体の回動方向からみて前後に2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤収納器から排出される錠剤を案内するシユートを設けた錠剤自動包装機。」について記載されており、また、甲第4号証(実開昭58-5979号公報)には

「多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた引出体を引出し可能に設け、錠剤フイーダから排出される錠剤を分包装置へ落下させるダクトすなわち案内路を備えた錠剤収納取出装置すなわち錠剤分包機」について記載されている。

Ⅲ.本件考案と甲第2号証のものとを対比すると、甲第2号証のものの「錠剤収納器」、「シユート」及び「錠剤自動包装機」は、機能及び構造上本件考案の「錠剤フイーダ」、「案内路」及び「錠剤分包機」にそれぞれ相当する。そして本件考案において、両棚列間に案内路を設けたのは、棚2列につき案内路の数を1列とすることで錠剤分包機の間口の大きさを小さく抑えるためであり、甲第2号証における、案内路を共用して装置の小型化を図るというものと同種の目的、効果を有するものである。

したがつて、本件考案と甲第2号証のものとは、棚2列につき案内路を1つとすることで装置の小型化を図るべく、「多数の錠剤フイーダを設置する複数段の棚を具えた錠剤分包機において、前記複数段の棚を2列設け、この両棚列間に、前記各錠剤フイーダから排出される錠剤を案内する案内路を設けた錠剤分包機。」である点で一致し、本件考案が、複数段の棚が、引出体に引出方向からみて左右に2列設けられているのに対し、甲第2号証のものは複数段の棚が扉体に扉体の回転方向からみて前後に2列設けられている点で相違している。

Ⅳ.上記の相違点について検討すると、複数段の棚を引出体に設けることは、甲第4号証に記載されており、この甲第4号証のものと、装置の小型化という普遍的な目的のために「複数段の棚2列につき1列の案内路を共用する」という甲第2号証のものとを総合することは、甲第4号証のものにおいても当然に生ずるはずの小型化の要請からすれば、当業者がきわめて容易に思い到るところである。また、甲第2、第4各号証のものを総合して「複数段の棚を引出体に2列設けて、この両棚間に案内路を設ける」ときは、2列の複数段の棚は「引出し方向からみて左右2列」に並ぶのは、通常必然であり、間口を、案内路を共用した分だけ小さく抑えることができることは、きわめて容易に予測できる効果である。

以上のとおりであるので、本件考案は、甲第2号証、甲第4号証にそれぞれ記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

Ⅴ.したがつて、本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものであり、同法第37条第1項の規定により、これを無効にすべきものとする。

よつて、結論のとおり審決する。

平成2年10月11日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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