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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)178号 判決 1993年3月02日

大阪府門真市大字門真1006番地

原告

松下電器産業株式会社

同代表者代表取締役

谷井昭雄

同訴訟代理人弁理士

小鍛冶明

滝本智之

浅村皓

影山一美

小池恒明

岩井秀生

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

犬飼宏

長澤正夫

嶋田祐輔

奥村寿一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者双方の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が昭和61年審判第7046号事件について平成3年5月2日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年9月5日、名称を「光学式情報再生装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和55年特許願第123755号)したところ、昭和61年2月14日拒絶査定を受けたので、同年4月17日査定不服の審判を請求し、昭和61年審判第7046号事件として審理され、昭和63年8月18日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があったので、同年10月7日東京高等裁判所に対し同審決の取消請求訴訟を提起し、平成元年7月25日同審決を取り消すとの判決を受け、再度審判において審理された結果、平成3年5月2日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「審決」とはこの審決を指す。)があり、その謄本は同年6月27日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

(イ)(1)  光源と、

(2)  情報がらせん状に配列されたピットとして記録されている円板状記録担体を回転させる回転手段と、

(3)  光源からの光束を記録担体上に集束させる集束手段と、

(4)  この集束手段により収束された前記光源からの集束光を記録担体半径方向へ相対的に移動させる相対移動手段と、

(5)  ピット列の記録担体半径方向へのらせん状偏位を検出する検出手段と、

(6)  この検出手段により検出した偏位信号に応じて前記光源からの集束光をピット列の方向へ偏位させる集束光偏位手段と、

(7)  ピットからの反射光の変化を情報信号として検出する反射光検出手段とを備え、

(ロ)  前記光源と回転手段と集束手段と検出手段と集束光偏位手段と相対移動手段と反射光検出手段を一体構造とし、

(ハ)  この一体構造体を弾性あるいは粘弾性材等からなり水平及び鉛直方向の振動を吸収する振動しゃ断器を介して再生装置の外かく筐体に設置したことを特徴とする光学的情報再生装置

(別紙第一参照)

3  審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

昭和54年特許出願公開第151404号公報(以下「引用例1」という。別紙第二参照。)には、次のことが開示されている。

(Ⅰ)第1図及び第2図を見ると、(a)光源55と、(b)スピンドル及びモータ集成体5(円板状記録担体を回転させる回転手段)と、(c)レンズ駆動集成体58(集束手段)と、(d)キャリッジ14(集束光を記録担体半径方向へ相対的に移動させる相対移動手段)と、(e)鏡56、57(集束光偏位手段)とを備えたディスクプレイヤが図示されており、

(Ⅱ)上記(a)、(c)、(e)等を収納した光学ブリッジ8は光学ブリッジ支持柱9を介してキャリッジ支持板12にしっかりと拘束され、その上にキャリッジ14が移動自在に取り付けられていることが図示されている。そうして、

(Ⅲ)5頁左下欄に「キャリッジ支持板12は対衝撃取付け用のゴムのはと目32を通るキャリッジ支持柱31によって、基部30にしっかりと取付けられ、植え込みボルト(図に示していない)の様なねじつき装置によって拘束される」と書かれており、7頁右上欄に「第3図で、ねじ孔50が植込みボルトの様なねじつき装置64と協働することが判る。これがキャリッジ支持柱31に設けられた孔65を通過し、キャリッジ支持板31の拘束部材になる」と書かれている。

また、放送技術Vol.30 No11.昭和52年97頁ないし103頁(以下「引用例2」という。別紙第三参照。)には次のことが開示されている。

(Ⅳ)(a)レーザ(光源)と、(b)スパイラル状トラックにピットとして情報が記録されているディスク(円板状記録担体)を回転させるディスク回転モータと、(c)集光レンズ(集束手段)と、(d)ラジアル送りモータ(相対移動手段)と、(e)光検知器及びサーボ回路(らせん状偏位を検出する検出手段)と、(f)トラッキングアクチュエータ及びそれに取り付けられた鏡(集束光偏位手段)と、(g)光検出器及びPCM再生アンプ(反射光検出手段)を備え、

(Ⅴ)上記光源と集光レンズと光検知器とトラッキングアクチュエータ及び鏡とラジアル送りモータと光検知器が一つにまとめられていることが図7に図示されている。

プレーヤー・システムとその活きた使い方 昭和52年9月16日 誠文堂新光社(以下「引用例3」という。別紙第四参照。)には、次のことが開示されている。

(Ⅵ)270頁に「インシュレーター」の説明がされており、図面の<3>には、キャビネット(外かく筐体)にスプリングとゴムから成るインシュレータ(振動遮断器)を介してプレーヤー・ボードが設置されることが図示されている。

そこで、本願発明と引用例開示事項とを比較検討することとする。

本願発明の構成要件(イ)は光学式情報再生装置が備えている手段を列記したものであり、(1)、(3)、(5)、(6)、(7)は光学系の手段であって、本願図面の第1図に示されており、第3図では光学系15として示されている。(2)は回転モータ(第3図の2)、(4)は可動体16とピニオンギヤ17を示している。これに対し、引用例1に開示されたディスク・プレイヤも上記(Ⅰ)に示したとおり、(a)、(c)、(e)等から成る光学系と、(b)のモータ集成体と、(d)の相対移動手段を備えているので事実上同じものが開示されていると認められる。

なお相対移動手段として、本願発明では、光学系が移動するようになった実施例が示されているのに対し、引用例1では、ディスク回転手段が移動するようになっているが、どちらを動かすかによって実質的な差異はない。因みに、引用例2を見れば、上記(Ⅳ)(Ⅴ)に示したとおり、本願発明の上記(1)ないし(7)の手段を備え、かつ、光学系が移動するディスクプレーヤが示されている。したがって、この点は単なる設計事項と認められる。

本願発明の(ロ)の構成は、上記(イ)の(1)ないし(7)を一体構造としたことにあるが、ここで、一体構造とは、本願の明細書及び図面の記載から明らかなとおり、(1)ないし(7)の手段を一つの基板20上に載置したという程度の意味であると認められる。それに対し、引用例1には、光学ブリッジ8、キャリッジ14、モータ集成体が載置されたキャリッジ支持板が図示されているのでそれらが一体構造になっていると言える。

上述のとおりであるから、本願発明の(イ)及び(ロ)の構成は、引用例1に開示されたものと同じであると認められる。

本願発明の(ハ)の構成について検討すると、引用例1には、上記(Ⅲ)に示したとおり、キャリッジ支持板12がはと目32とキャリッジ支持柱31を介して筐体を形成する基部30に取り付けられており、はと目はゴム製で対衝撃取付け用であると書かれている。したがって、本願発明の(ハ)の構成も、次の点を除いて引用例1に開示された(Ⅲ)の構成と同じであると認められる。

すなわち、本願発明においては、「弾性あるいは粘弾性材等からなり水平及び鉛直方向の振動を吸収する振動しゃ断器」と言っているのに対して引用例1に開示されたものが「対衝撃取付け用のゴムのはと目」と書かれている点で相違する。

そこで、この相違点について、さらに検討すると、一般にディスクプレーヤに加わる「衝撃」としては、プレーヤの使用中にその筐体にぶつかるとか、近くの床面に急激な力が加わって筐体を揺動させ、トラックずれを起こすことが考えられる。そうして、同じくディスクプレーヤの一種である従来の機械的プレーヤにおいては、外部からの衝撃をプレーヤ機構部に伝えないための対策が多数考えられ本件の出願前に良く知られた事実であるから、上記「対衝撃取付け」と言う文言は「振動の遮断」を示唆していると認められる。

原告は、引用例1に開示された「ゴムのはと目」は輸送時や使用時に強い衝撃を受けて光学ブリッジ8が破損したり、性能劣化を起こすのを防止するためであると主張しているが、輸送時は梱包することによって破損防止するのが普通であり、使用時でも不慮の落下等に対してこの「はと目」が有効に破損防止できる構造になっているとは考えにくいので、この主張は採用できない。また、原告は、引用例1のものが振動遮断の役目を果たし得ないと主張しているが、光学ブリッジから離間した点に存在する支持板12と支持柱31の関係も、原告の主張するように「対衝撃取付け用のゴムのはと目が一切用いられておらず、衝撃の減衰効果は全く期待できない」とは考えられない。なぜならば、この点に緩衝作用がないとすれば、支持板12は支持柱31と基部30に固定されてしまい前記ゴムのはと目を設ける意味がなくなってしまうからである。そして、引用例1には、上記(Ⅲ)の後段に示したとおり、キャリッジ支持板に取り付けられたねじつき装置64が支持柱31を「通過」するように取り付けられているから、水平方向には動きうるものと認められるとともに、上述の理由から垂直方向にも動きうると解するのが相当である。いずれにしても、引用例1に開示された「はと目」を破損や性能劣化の防止に限定して考える根拠はなく、「対衝撃取付け」とは、使用中に外部から加わる振動(特に周期的又は規則的な振動ではなく、単発的な振動)を遮断するものであることを示唆していると認められる。そうであれば、具体的にどのような振動遮断器を使用するかは、従来、機械的レコードプレーヤにおいて良く知られた技術、例えば、引用例3に開示された上記(Ⅵ)の技術から容易に推考できるものと認められる。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1ないし3に開示されたものに基づいて、当該技術分野の通常の知識を有する者が容易に発明できたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

引用例1ないし引用例3に審決認定の技術内容が記載されていること(ただし、引用例1に、(Ⅰ)の(d)のキャリッジ14が集束光を記録担体半径方向へ相対的に移動させる相対移動手段であることが記載されているとの点を除く。)、審決の認定判断中、本願発明の構成要件(イ)は光学式情報再生装置が備えている手段を列記したもので、(1)、(3)、(5)、(6)、(7)は光学系の手段で、本願図面の第1図に示されており、第3図で光学系15として示され、(2)は回転モータ(第3図の2)、(4)は可動体16とピニオンギヤ17を示しており、引用例1に開示されたディスク・プレーヤも(Ⅰ)のとおり、(a)、(c)、(e)等から成る光学系と、(b)のモータ集成体と、(d)の相対移動手段を備えていること、本願発明の(ロ)の構成が(イ)の(1)ないし(7)を一体構造としたことにあり、その一体構造とは、(1)ないし(7)の手段を一つの基板20上に載置したという程度の意味であり、引用例1には、光学ブリッジ8、キャリッジ14、モータ集成体が載置されたキャリッジ支持板が図示されているのでそれらが一体構造になっているといいうること、引用例1には、キャリッジ支持板12がはと目32とキャリッジ支持柱31を介して筐体を形成する基部30に取り付けられており、はと目はゴム製で対衝撃取付け用であると書かれていること、本願発明では「弾性あるいは粘弾性材等からなり水平及び鉛直方向の振動を吸収する振動しゃ断器」とされているのに対して引用例1記載の発明では「対衝撃取付け用のゴムのはと目」とされている点で相違すること、一般にディスクプレーヤに加わる「衝撃」としては、プレーヤ筐体にぶつかるとか、近くの床面に急激な力が加わって筐体を揺動させ、トラックずれを起こすことが考えられ、従来の機械的プレーヤにおいて外部からの衝撃をプレーヤ機構部に伝えないための対策が多数考えられ本件の出願前に良く知られた事実であることは認めるが、審決は、引用例1記載の発明は、本願発明の(イ)の(5)、(7)に対応する構成を具備せず、かつ(イ)の(4)及び(ロ)の構成と異なる構成のものであることを看過したため一致点の認定を誤り、また、本願発明及び引用例1記載の発明の技術内容を誤認したため本願発明の(ハ)の構成に係る相違点の判断を誤った違法があり、取り消されるべきである。

(1)  本願発明の(イ)及び(ロ)の構成要件に係る一致点認定の誤り(取消事由1)

審決は、本願発明の構成要件(イ)及び(ロ)は引用例1に開示されたものと同じであると判断している。しかしながら、本願発明の(イ)及び(ロ)の構成は、引用例1に開示されたものと相違しており、審決は一致点の認定を誤っている。

<1> すなわち、本願発明の(イ)の(5)(偏位検出手段)、(7)(反射光検出手段)に対応する構成は、引用例1には具体的に記載されていない。また、本願発明(イ)の(4)は、集束光を相対移動させる手段であるのに対し、引用例1記載の発明の(d)は、集束光ではなく、スピンドル及びモータ集成体を移動(光学系の移動ではない。)させるものである点において相違している。

そうすると、本願発明の(イ)の構成は、引用例1に開示されたものと相違している。

なお、被告は、いずれも引用例1に具体的な記載がないことを認めながら、引用例2の記載から偏位検出手段及び反射光検出手段が必須のものであることが明らかであるから、これら両手段は引用例1に実質的に記載されていることになるし、引用例2の記載から光学系と記録担体回転手段との相対移動手段において光学系を移動させることは周知慣用であり、どちらを移動させるかによって実質的な差異はない、と主張する。しかしながら、引用例2には一体構造のものは記載されておらず、一体構造の本願発明について引用例2の記載を引用するのは失当である。

<2> 本願発明は、上記<1>のとおり、(イ)の(4)、(5)、(7)の構成において引用例1記載の発明と相違するから、(イ)の(1)ないし(7)の構成を一体構造としている本願発明(ロ)の構成は、当然引用例1記載の発明の構成と相違する。

のみならず、本願発明における一体構造は、光学系と回転手段とを一体構造とし、それによって振動及び衝撃を遮断しているのに対し、引用例1記載の発明においては、記録担体(ディスク)及びその回転手段(スピンドル及びモーター集成体)と他の部分がそれぞれの間で振動が伝わらないように隔離、構成されており、引用例1記載の発明においていわゆる一体構造とは、振動を伝達しないように隔離された二つの構造体が結合して成る構成であるから、この点からも本願発明(ロ)の構成と、引用例1記載の発明の構成とは同一ということができない。

審決はこの点でも一致点の認定を誤っている。

(2)  本願発明の(ハ)の構成要件に係る相違点の判断の誤り(取消事由2)

審決は、(ハ)の構成に係る本願発明と引用例1記載の発明との相違点は、引用例3に開示された技術等従来周知の技術から容易に推考できると判断した。

しかしながら、次のとおり、本願発明の(ハ)の構成は、各引用例から容易に推考し得ないから、審決は、本願発明及び引用例1記載の発明の技術内容を誤認して容易推考性の判断を誤ったものといわなければならない。

<1> すなわち、本願発明の(ハ)の構成要件は、(1)ないし(7)の一体構造に加わる水平及び鉛直方向の振動を吸収する振動しゃ断器を介しているとされているのに対し、それに対応する引用例1記載の発明の構成は、(a)ないし(e)のいわゆる一体構造体に加わる対衝撃取付け用ゴムのはと目32を備えているとされており、一体構造体の内容が異なるうえに、この一体構造体に加わる振動の吸収を、本願発明では「振動しゃ断器」を介して行っているが、引用例1記載の発明における「対衝撃取付け用ゴムのはと目」は、2種類あるキャリッジ支持柱の中の一種類(第1図の32)にあるのみで、他の種類(第3図のキャリッジ支持柱31に対しては、ねじつき装置64、ねじ孔65があるのみ)の支持柱には存在しない違いがある。

このような引用例1記載の発明から本願発明は示唆されない。

被告は、この点に関し、引用例1記載のキャリッジ支持柱は同じ種類のものであり、いずれも対衝撃取付け用のゴムのはと目32を備えていると解すべきであり、したがってキャリッジ支持柱31は振動遮断部材と拘束部材の両機能を有する、と主張する。

しかしながら、引用例1には2種類の異なった態様のキャリッジ支持柱が記載されていることが明らかである。すなわち、引用例1の第1図ないし第3図から明らかなように、キャリッジ支持板12は三個のキャリッジ支持柱31によってビデオディスクプレーヤの基部30に固定されているが、これら三個のキャリッジ支持柱の基部30に対する固定方法は二つの方法からなっている。まず第1図に示されている二個のキャリッジ支持柱31の固定方法(第一の固定方法)と、次に第2図、第3図に示されたキャリッジ支持板12に設けられたネジ付き装置64を介したキャリッジ支持柱31の固定方法(第二の固定方法)である。第一の固定方法では、キャリッジ支持板12は、対衝撃取付け用ゴムのはと目32を介してキャリッジ支持柱31によって基部30にしっかりと取り付けられている(引用例5頁左下欄10行ないし16行)。これに対し、第二の固定方法では、ねじ穴50と協働したネジ付き装置64とキャリッジ支持柱31のみでキャリッジ支持板取付け用のゴムのはと目32は一切使用されていない(第3図及び7頁右上欄4行ないし7行)。

さらに、これらキャリッジ支持柱に二つの種類があることは、それぞれの固定方法が別の目的に適合していることからも裏付けられる。すなわち、第一の固定方法を用いた支持部の直上部には精密な光学系が収納されている光学ブリッジ8が光学ブリッジ支持柱9を介して配置されており、この光学ブリッジ8に過大な機械的衝撃が印加されることにより、光学性能の劣化や破損のおそれがある。これを避けるためにキャリッジ支持板12とキャリッジ支持柱31の結合部分に対衝撃取付け用ゴムのはと目32を用いている。これに対し、第二の固定方法を用いた支持部は、第3図から明らかなとおり、第一の固定方法を用いた支持部から最も離れた位置に存在し、近傍には、衝撃などに敏感な光学ブリッジ8などの部材は一切存在せず、衝撃による影響は極めて小さい。このため、第二の固定方法を用いた支持部には、対衝撃取付け用ゴムのはと目32をあえて用いる必要のない構造となっている。

したがって、被告の主張は失当である。

<2> そして、引用例1記載の発明におけるゴムのはと目32は、拘束部材としてのキャリッジ支持柱31に使用されているもので、「キャリッジに対する頑丈な支持部」(5頁左下欄15行ないし16行)である。それに代えて容易に揺動する引用例3のスプリングとゴムからなるインシュレーターを採用すると、引用例1記載の発明の拘束部材としてのキャリッジ支持柱でなくなるため、このような組み合わせをすることは容易に推考しうる範囲ではない。

また、引用例1には、別に存在する振動遮断器(外部からの振動に関するもの)について、7頁左下欄15ないし17行に、「モーター台72はゴム取付け部74により、スピンドル集成体の他の部分から振動が伝わらない様に隔離されている。」との記載があり、外部からの振動がゴム取付部74によって遮断されている引用例1記載の発明においては、更に振動しゃ断器として引用例3のスプリングとゴムから成るインシュレーターを採用する必要は全くないのみならず、拘束部材としてのキャリッジ支持柱の性質を減殺させたうえに、引用例1記載の発明の重量の大きい前記のいわゆる一体構造体に対し、好ましくない振動を生じさせるおそれがある不要のスプリングとゴムのインシュレーターを採用することは当業者の行うことではない。

第3  請求の原因の認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の各事実は、認める。

2  同4の審決の取消事由は争う。審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。

(1)  取消事由1について

<1>(取消事由1の<1>について)

原告は、本願発明の(イ)の(5)、(7)に対応する構成は、引用例1には具体的に記載されていない、と主張する。

しかし、引用例1に開示されたディスクプレーヤのような光学式情報再生装置において、偏位検出手段及び反射光検出手段が必須のものであることは、その機能から見て明らかである(引用例2参照)。引用例1に具体的な記載はないが、光学ブリッジ8の中に偏位検出手段及び反射光検出手段が設けられていると解するのが相当であり、これら両手段は引用例1に実質的に記載されていることになるから、原告の主張は当を得ない。

また、原告は、本願発明(イ)の(4)は、集束光を相対移動させる手段であるのに対し、引用例1記載の発明の(d)は、スピンドル及びモータ集成体を移動させるものである点において相違している、と主張する。

しかしながら、光学式情報再生装置における光学系(集束光)と記録担体回転手段との相対移動手段において、光学系を移動させることは周知、慣用の事項であり(引用例2参照)、どちらを移動させるかによって実質的な差異はないから、この点は当業者が必要に応じて採用することができる設計的事項にすぎない。したがって、この点に関して本願発明と引用例1記載の発明とは実質的な差異はないから、原告の主張は失当である。

<2>(取消事由1の<2>について)

原告は、(イ)の(4)、(5)、(7)の構成において引用例1記載の発明と相違するから、(イ)の(1)ないし(7)の構成を一体構造としている本願発明(ロ)の構成は、当然引用例1記載の発明の構成と相違する、と主張する。

しかしながら、上記<1>において検討したとおり、本願発明と引用例1記載の発明とは実質的に同じであるから、この主張は前提を欠く。

また、原告は、本願発明においては光学系と回転手段とを一体構造として振動及び衝撃を遮断しているのに対し、引用例1記載の発明においては振動を伝達しないように隔離された二つの構造体が結合してなる構成であるから、この点からも本願発明(ロ)の構成と、引用例1記載の発明の構成とは同一ということができない、と主張する。

しかし、本願発明(ロ)にいう一体構造とは、それほど厳密な意味ではなく、基板20上に載置したという程度の意味で、本願発明の(イ)の(1)ないし(7)の構成が筐体13に対し別体としてまとめられているという意味に解すべきであり、引用例1記載の発明も本願発明(ロ)にいう一体構造の範囲に入るから、実質的に同一というのを妨げなく、原告の主張は理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>(取消事由2の<1>について)

原告は、本願発明では一体構造に加わる振動の吸収を「振動しゃ断器」を介して行っているのに対し、引用例1記載の発明では「対衝撃取付け用ゴムのはと目」は2種類あるキャリッジ支持柱の中の1種類にあるのみで、他の種類の支持柱には存在しないから、振動の吸収に関して相違があり、引用例1記載の発明から本願発明は示唆されない、と主張する。

しかしながら、引用例1の第1図を参照すれば、キャリッジ支持柱31及び対衝撃取付け用のゴムはと目32は下部左右に各1個示されている。また同第3図に示されたキャリッジ支持柱31は、ねじ孔50、ねじつき装置64等との位置関係を説明するものであって、前記第1図に示されたものと異なる種類のキャリッジ支持柱を説明しているとは解し難く、さらに、引用例1には2種類のキャリッジ支持柱を備えるという記載はどこにも見当たらない。これらの点から、引用例1記載のキャリッジ支持柱31は同じ種類のものであり、いずれも対衝撃取付け用のゴムのはと目32を備えていると解するのが相当である。

このように引用例1記載の発明においては、対衝撃取付け用のゴムのはと目32を有するキャリッジ支持柱31が複数個設けられており、これらは基部30からキャリッジ支持板12への振動を遮断する機能の他に、キャリッジ支持板12を支承し基部30に取り付ける機能も備えていると解される。したがって、対衝撃取付け用のゴムのはと目32を有するキャリッジ支持柱31は、キャリッジ支持板12と基部30との間で、振動遮断部材と拘束部材の両機能を有するものであり、引用例1記載の発明から本願発明が示唆されないとはいえず、原告の主張は理由がない、というべきである。

<2>(取消事由2の<2>について)

原告は、引用例1記載の発明におけるゴムのはと目32は、拘束部材としてのキャリッジ支持柱31に使用されているものであるから、それに代えて引用例3のスプリングとゴムからなるインシュレーターを採用すると、引用例1の拘束部材としてのキャリッジ支持柱でなくなるため、このような組み合わせをすることは容易に推考しうる範囲ではないし、外部からの振動がゴム取付部によって遮断されている引用例1記載の発明においては、更に振動遮断器として引用例3のインシュレーターを採用する必要はなく、引用例1記載の発明の一体構造体に引用例3のスプリングとゴムのインシュレーターを採用することは当業者の行うことではない、と主張する。

しかしながら、上記<1>において述べたとおり、引用例1記載の発明において、ゴムのはと目32を有するキャリッジ支持柱31は、キャリッジ支持板12と基部30との間で、振動遮断部材と拘束部材の両機能を有するものである。また、引用例1記載の発明において、ゴム取付部74とゴムのはと目32が設けられている箇所はそれぞれ異なっており、その箇所に応じてそれぞれ機能も異なるものであるから、ゴム取付部74に加えてゴムのはと目32を振動遮断部材として設ける必要がある。そして、引用例3にはキャビネット(外かく筐体)とプレーヤー・ボードとの間にスプリングとゴムとから成るインシュレータ(振動遮断器)を設けて、機械的レコードプレーヤにおいて水平及び鉛直方向の振動を吸収する従来周知の技術が開示されており、振動遮断部材としてこの周知技術を採用することは当業者にとって容易に推考できることである。

そうすると、本願発明における振動しゃ断器は、ビデオ・ディスク・プレイヤにおいて、基部30と一体構造体の間に振動を遮断する手段を設けることが示唆されている引用例1記載の発明と引用例3に示された周知技術に基いて容易に推考することができたから、審決の判断は正当であり、原告の主張は失当である。

第4  証拠関係

本件記録中の証拠目録の記載を引用する(後記理由中において引用する書証はいずれも成立に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  甲第2号証、第4号証と前記当事者間に争いがない事実によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本願発明は、情報信号がピット配列として記録されている記録担体を光学的に再生する光学式情報再生装置に関する(昭和61年5月16日付手続補正書3枚目4行ないし6行)。

別紙第一の第1図において、フォーカスレンズ4、反射ミラー5は非常に可動性に富んでおり、外部から印加された機械的衝撃によっても容易に振動するため、本来のフォーカス又はトラッキング動作が乱され、再生情報の誤り発生や誤った情報トラックへのスキッグが発生することがある。このような外部からの機械的衝撃によってフォーカスレンズ4、反射ミラー5が振動し、情報トラックから外れるのを防止するため、従来はフォーカスサーボ、トラッキングサーボの閉ループ利得を大きくとり、フォーカスレンズ4や反射ミラー5の情報トラックに対する追従性を高めたり、あるいは再生装置を重く大きな筐体に収納し、筐体の大きな慣性によって光学系への振動の影響を少なくしていた。次に再生装置全体を別紙第一の第2図によってみれば、筐体13の外部あるいは設置面19から不用意に衝撃を加えられると、再生動作に障害が発生するが、さらに衝撃によって回転モータ2、記録担体1と光学系15との相対位置が瞬間的に変動しても同様に障害が発生する。この問題を解決するために従来から二つのことが知られていた。第一の手段は、筐体13の強度、重量を十分にとって耐衝撃力を上げ外部からの振動の影響を少なくする方法である。この手段は経済的に必ずしも有利でなく、かつ情報担体が小型、軽量となると必要な耐衝撃力を得るのは難しいという欠点があった。第二の解決手段としては、光学系15を構成する個々の部分の強度、安定度を上げることであるが、フォーカスレンズ、トラッキングミラーあるいはそれに類する動作を行う素子は、基本的に可動性に富んでいることが必要であり、耐衝撃力を上げることは極めて難しく、また可動体16やピニオンギア17等の機械的強度も上げなければならない。本願発明はこれらの問題を極めて簡便な構成で解決し、小型で軽量な光学式情報再生装置を提供しようとすること(同5枚目8行ないし8枚目16行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2)  本願発明は、前記技術的課題を解決するために本願発明の要旨記載の構成(上記手続補正書2枚目5行ないし3枚目2行)を採用した。

(3)  本願発明は前記構成により、前記(1)の欠点のない、かつ、筐体に大きな衝撃が加わってもその衝撃はまず振動しゃ断器により減衰され、そしてこの振動しゃ断器により減衰された小さな振動が光学系に加わることになり、したがって光学系のフォーカス及びトラッキングサーボはその小さな振動に追従制御させるだけでよいため、従来のように大きな筐体を必要とせず、また強力なサーボをかける必要がないので小型で軽量な光学式情報再生装置を提供することができ、また従来のように強力なサーボをかける必要がないのでディスクの傷に対する再生能力にも優れたものとすることができる(上記手続補正書11枚目5行ないし16行)という作用効果を奏するものである。

3  取消事由1について

審決が本願発明の構成要件(イ)及び(ロ)は引用例1に開示されたものと同じであると判断した点について、原告は、本願発明の(イ)及び(ロ)の構成は、引用例1に開示されたものと相違している、と主張するので、この点について判断する。

(1)  原告は、まず、本願発明の(イ)の(5)(偏位検出手段)、(7)(反射光検出手段)に対応する構成は、引用例1には具体的に記載されていない、と主張し、引用例1に明示的にこれらの記載がないことは当事者間に争いがない。

(2)  前記2の認定事実と前記1の当事者間に争いがない事実によれば、本願発明における偏位検出手段とは、ピット列の記録担体半径方向へのらせん状偏位を検出するものであること、この検出手段により検出された偏位信号は、集束光偏位手段における光源からの集束光のピット列方向への偏位制御に用いられるものであることが認められる。また、甲第4号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記偏位検出手段について、ピット列中央からのずれ量検出(トラッキング検出)信号を得るものであり(前記手続補正書4枚目13行ないし15行)、この検出信号は、反射ミラーを回動させる駆動コイルに供給され、記録担体1のピット列の偏心によるずれを常に最適値に補正するトラッキングサーボに利用されるものである(同4枚目20行ないし5枚目4行)との記載があることが認められる。

これらの認定事実によれば、本願発明における上記偏位検出手段とは、記録担体上にらせん状に記録されたピット列(記録トラック)をその偏心等にかかわらず、光源からの集束光により確実にトレースさせて記録情報の再生を行うために必要となる、トラッキングサーボ用の検出手段であることが明らかにされている。

ところで、引用例2に、レーザ(光源)と、スパイラル状トラックにピットとして情報が記録されているディスク(円板状記録担体)を回転させるディスク回転モータと、集光レンズ(集束手段)と、ラジアル送りモータ(相対移動手段)と、光検知器及びサーボ回路(らせん状偏位を検出する検出手段)と、トラッキングアクチュエータ及びそれに取り付けられた鏡(集束光偏位手段)と、光検出器及びPCM再生アンプ(反射光検出手段)を備え、上記光源と集光レンズと光検知器とトラッキングアクチュエータ及び鏡とラジアル送りモータと光検知器が一つにまとめられて図7に図示されていることは、当事者間に争いがなく、この事実と甲第6号証によれば、引用例2は公刊された技術専門誌であり、引用例2に示される光学式情報再生装置(PCMレーザサウンドディスクプレーヤ)においても光検出器の出力(トラッキングずれの検出出力)に応じてトラッキングアクチュエータに取り付けられた反射ミラーを回転させ、集束光のトラッキングずれを修正制御するトラッキングサーボが用いられていることを認定することができる。

一般にビデオディスク等の情報がらせん状ピット列として記録された記録担体を再生するための光学式情報再生装置においては、記録担体に記録されたらせん状ピット列の記録密度は非常に高く、したがって個々の記録ピット列は非常に微細なものであることは技術上自明であり、上記認定事実を併せれば、このような微細ならせん状記録ピット列を、記録媒体の回転駆動に伴う偏心むら等にかかわらず、記録媒体と集束光との相対移動手段の機械的精度のみによって、情報再生用集束光により正確にトレースさせることは不可能であって、この種光学式情報再生装置において、集束光の記録ピット列中心からのずれ(トラッキングずれ)を検出してその検出信号に応じて集束光を偏位制御するトラッキングサーボを用いることは、当業者にとって常套手段であると認めることができる。

そして、引用例1記載の発明に鏡56、57(集束光偏位手段)が光源55、レンズ駆動集成体58(集束手段)、キャリッジ14とともに設けられていることは当事者間に争いがなく、引用例1記載の発明における鏡56、57がトラッキングサーボのための手段であることは、明白である。

したがって、偏位検出手段はトラッキングサーボを採用するうえで当然の前提をなすものであるから、引用例1に本願発明でいう偏位検出手段について具体的な記載がないからといって、偏位検出手段が記載されていないということはできず、かえってトラッキングサーボを採用していることが明らかな引用例1記載の発明においても当然に備えられているということができる。

また、前記2の認定事実と前記1の当事者間に争いがない事実によれば、本願発明でいう反射光検出手段とは、ピットからの反射光の変化を情報信号として検出するもの、すなわち記録ピット列を光学的に再生する光学式情報再生装置として当然に備えているべき光学式情報再生手段にほかならないと認められ、上記のとおり同様の光学式情報再生装置である引用例1記載の発明においても、明記はなくとも反射光検出手段が備えられていることは、当然であるといわなければならない。

そうすると、引用例1記載の発明においても、偏位検出手段及び反射光検出手段が備えられているのであるから、前記(1)記載の原告の主張は理由がなく、この点に関する審決の判断は正当であるといわざるをえない。

(3)  次いで、原告は、本願発明(イ)の(4)は、集束光を相対移動させる手段であるのに対し、引用例1記載の発明の(d)は、集束光ではなく、スピンドル及びモータ集成体を移動させるものである点において相違している、と主張する。

(4)  しかしながら、前記2の認定事実と前記1の当事者間に争いがない事実によれば、本願発明でいう相対移動手段とは、光源からの集束光を記録担体半径方向へ相対的に移動させるものであると認められるが、その技術的意義は、本願発明が記録担体にらせん状に記録されたピット列を集束光により再生する光学式情報再生装置であることに照らすと、集束光が記録担体の回転に伴い、らせん状記録ピット列に合致するらせん状走査を行いうるようにする点にあることが明らかである。一般にこのようならせん状走査の実現のためには、記録担体の回転に伴い、集束光又は記録担体のいずれか一方を移動させて記録担体半径方向における記録担体と集束光の相対位置を変化させればよいものであることは、らせん状走査の性質自体から自明であり、現に甲第6号証によれば、引用例2に光学式情報再生装置における光学系と記録担体回転手段との相対移動手段において光学系を移動させること(102頁左欄8行ないし17行及び図7)が記載されている。

そして、振動遮断器の緩衝作用を利用した筐体外部からの機械的衝撃の緩和、吸収という前記2において認定した本願発明の技術的課題から考えて、相対移動手段を特に集束光を移動させるものに限定すべき必然性はないし、現に甲第4号証を精査しても、本願明細書に集束光を移動させるようにした実施例としての記載を超えて相対移動手段を特に集束光を移動させるものに限定すべきであるとした記載を見出すことはできない。

したがって、本願発明でいう相対移動手段とは、原告主張のように集束光の方を移動させるものとは限らず、かえって、本願発明の要旨における「相対的に移動させる」との文言及び「相対移動手段」との呼び方から考えると、記録担体半径方向における記録担体と集束光との相対位置を変化させることができるものであればよく、特に集束光と記録担体のいずれを移動させるかを限っているものではないと判断することができる。

また、上記したところによれば、本願発明の実施例のように相対移動手段として集束光を移動するものと引用例1記載の発明においてディスク回転手段を移動するとされているものとの間において格別技術的意義の差異は認められないのであり、実施例の限度に限って本願発明と引用例1記載の発明の両者の間に相違を認めるとしても、単に自明の実施態様のうちのいずれを選択するかの相違にすぎず、発明として実質的相違はなく、単なる設計変更にすぎないというほかはない。

そうすると、前記(3)記載の原告の主張は失当であり、この点に関する審決の判断は正当というべきである。

(5)  さらに、原告は、前記(1)及び(3)記載の主張を前提として、(イ)の(1)ないし(7)の構成を一体構造とする本願発明(ロ)の構成は、当然引用例1記載の発明の構成と相違するし、本願発明における一体構造は光学系と回転手段とを一体構造とすることによって振動及び衝撃を遮断しているのに対し、引用例1記載の発明においていわゆる一体構造とは隔離された二つの構造体が結合してなる構成であるから、この点からも本願発明(ロ)の構成と、引用例1記載の発明の構成とは異なる、と主張する。

(6)  しかしながら、原告が前提とする前記(1)及び(3)の主張が理由がないことは、前記(2)及び(4)において判断したとおりである。

そして、前記2の認定事実と前記1の当事者間に争いがない事実によれば、本願発明の要旨では、本願発明の一体構造体とは単に光学系、相対移動手段、記録担体回転手段等を一体構造としたものをいうこととされているだけであり、一体構造の態様についてそれ以上に、基板上に各手段を基板に対し又は各手段相互間で完全に固定化して一体化したというような特段の限定をしていないことが認められる。また、甲第4号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明をみても、上記一体構造の態様については、「情報担体1を装着した回転モータ2、光学系15及び光学系15を移動させる可動体16、ピニオンギア17及び図示されていないピニオンギアの回転モータを基板20の上に設置する。」(前記手続補正書8枚目15行ないし19行)との記載があるに留まり、取付け態様について他に格別の記載がないことが認められる。

これらの認定事実に、本願発明の技術的課題が、前記認定のとおり振動しゃ断器の緩衝作用を利用した筐体外部からの機械的衝撃の緩和、吸収にあることとをあわせて考えると、本願発明でいう一体構造体とは、光学式情報再生装置を構成する光学系、相対移動手段及び記録担体回転手段等を一つの基板20(振動しゃ断器の緩衝作用により筐体外部からの機械的衝撃が吸収、緩和されて伝達されるようになっている。)上に設置したものであれば足り、共通基板上での各手段の取付け態様(共通基板に対する、又は各構成部材相互間の取付け態様)まで特定するものではないことが明らかにされている。

なお、上記各手段の取付け態様についても、一般に本願発明が対象とするような光学式情報再生装置においては、前記2の(1)での認定に照らしても、極力その各手段に筐体外部からの機械的衝撃が加わらないことが望ましいのであるから、これら手段の取付けに際しては、必要に応じて機械的衝撃を緩和、吸収する緩衝部材を介した取付け態様が採用されることは明らかであり、本願発明においては、上記機械的衝撃の一層の緩和、吸収のために振動しゃ断器が用いられるものであるが、振動しゃ断器を用いたからといって上記機械的衝撃の伝達が完全に遮断されるとは限らず、必ずしも上記緩衝部材を介した各手段の取付け態様が排除されなければならないわけではないから、本願明細書に特段の記載がない以上、本願発明における上記各手段の取付け態様は上記緩衝部材を介した取付け態様を特に排除するものではないといわなければならない。

他方、引用例1記載の発明において、光学ブリッジ8、キャリッジ14、モータ集成体5が載置されたキャリッジ支持板が図示されており、それらが一体構造になっているといいうることは、当事者間に争いがなく、甲第5号証の記載と併せれば、引用例1記載の発明においても、光学系、相対移動手段及び記録担体回転手段が、一つの基板とみることのできるキャリッジ支持板12上に設置されることが認められるから、引用例1記載の発明も一体構造を採用するものであるということができる。また、同号証によれば、この一体構造は、一体化された光学系及び相対移動手段と、これとは別に一体化された記録担体回転手段との二つの構造体をゴム取付け部74からなる振動遮断部により結合していることが認められ、この振動遮断部による結合とは、上記の機械的衝撃を緩和、吸収する緩衝部材を介した取付け態様にほかならないことが明らかである。

そうすると、本願発明でいう一体構造体が特に引用例1記載の発明における一体構造体と異なるということはできないから、前記(5)記載の原告の主張は理由がなく、この点に関する審決の判断は正当である。

(7)  結局、冒頭記載の取消事由1についての原告の主張は失当であり、審決の判断に違法はないといわなければならない。

4  取消事由2について

審決が本願発明の(ハ)の構成に係る引用例1記載の発明との相違点は、引用例3に開示された技術等従来周知の技術から容易に推考できると判断した点について、原告は、本願発明の(ハ)の構成は、各引用例から容易に推考し得ず、審決は、本願発明及び引用例記載の発明の技術内容を誤認して容易推考性の判断を誤った、と主張するので、この点について検討を進める。

(1)  原告は、まず、本願発明と引用例1記載の発明とでは一体構造体の内容が異なるうえに、この一体構造体に加わる振動の吸収を、本願発明では振動しゃ断器を介して行っているが、引用例1記載の発明における対衝撃取付け用ゴムのはと目は2種類あるキャリッジ支持柱の中の1種類にあるのみで、他の種類の支持柱には存在しない違いがあるから、引用例1記載の発明から本願発明は示唆されない、と主張する。

(2)  しかしながら、本願発明と引用例1記載の発明とで一体構造体の内容が異なるといえないことは、前記3において検討したとおりである。

そして、甲第5号証によれば、引用例1は特許出願公開公報であるが、引用例1には、その第1図(引用例1記載の発明に係るビデオ・ディスク・プレーヤの外側ハウジングの一部分を除いた側面図)に、基部30(筐体)に対する一体構造体の支持手段(キャリッジ支持板12の支持手段)として、キャリッジ支持板12をその一方の端部で支持する二本のキャリッジ支持柱31とこのキャリッジ支持柱31に設けられたゴムのはと目32とが側面図として図示され、これらについて、「キャリッジ支持板12は対衝撃取付け用のゴムのはと目32を通るキャリッジ支持柱31によって、基部30にしっかりと取付けられ、植込みボルト(図に示していない)の様なねじつき装置によって拘束される。」(この記載があることは当事者間に争いがない。)「キャリッジ支持板12がキャリッジ支持柱31と協働して、キャリッジに対する頑丈な支持部になる。」(5頁左下欄10行ないし16行)との記載があること、第3図(概ね上記第1図の線3-3で切ったビデオ・ディスク・プレイヤの基本的な機械的部分の側面図)には、上記キャリッジ支持柱12を他方の端部で支持する一本のキャリッジ支持柱31が側方断面図として図示され、これに関し、「第3図で、ねじ孔50が植込みボルトの様なねじつき装置64と協働することが判る。これがキャリッジ支持板柱31に設けられた孔65を通過し、キャリッジ支持板柱31の拘束部材になる。」(この記載があることは当事者間に争いがない。)(7頁右上欄4行ないし7行)との記載があること、さらに第2図(キャリッジ及びキャリッジ支持板の下側平面図)には、キャリッジ支持板12の上記二本のキャリッジ支持柱と一本のキャリッジ支持柱に対応する位置にそれぞれ設けられていると認められるねじ孔50が図示され、これについて、「第2図にはねじ孔50も示されている。これは植込みボルト(図に示していない)の様なねじつき装置に対する拘束箇所になる。」(6頁右下欄1行ないし3行)との記載があることが認められる。

以上の認定事実によれば、引用例1記載の発明においては、三本のキャリッジ支持柱31が設けられていること、これらはいずれも植込みボルトのようなねじつき装置64によってキャリッジ支持板12のねじ孔50に取り付けられ、基部30(筐体)に対してキャリッジ支持板12を支持し固定する部材である点では同等のものであるといえること、しかしながら、第1図に図示された二本のキャリッジ支持柱31については、ゴムのはと目32を設けることが明示されているのに対し、第3図に図示された一本のキャリッジ支持柱31については、上記ゴムのはと目を設けることについては言及されておらず、図面上も明示されていないことが明らかである。

これらの事実によれば、第1図のキャリッジ支持柱31と第3図のキャリッジ支持柱31とは、いずれも植込みボルトのようなねじつき装置によってキャリッジ支持板12のねじ孔50に取り付けられ、基部30(筐体)に対してキャリッジ支持板12を支持し固定する部材である点で同等のものであるといえるから、この点では、これらをことさら別種のものと解する理由はない。

そして、第1図と第3図におけるキャリッジ支持柱31の図示態様は、それぞれ側面図と側方断面図であって、もともと作図の態様を異にすること、特に後者の側方断面図では、同図自体から明らかなとおり、キャリッジ支持柱は極めて極小化されて描かれ、必ずしも同図からその細部となるゴムのはと目の有無が明らかであるとはいえないこと、同図に関する説明は上記のとおりキャリッジ支持柱31においてゴムのはと目が使用されないことを明示しているとはいえないことを総合して考慮すると、引用例1の第1図、第3図及びこれらに関連する記載から、第3図のキャリッジ支持柱31ではゴムのはと目が使用されていないとはいえない。かえって、第1図と第3図のキャリッジ支持柱31は、上記のとおりいずれも基部30に対しキャリッジ支持板12を支持し、固定する部材である点で同等のもので、このように同等の部材については特段の記載がない限りその構成は同一であると推定するのが相当であること、対衝撃取付け用ゴムのはと目は、基部30及びキャリッジ支持柱31を経てキャリッジ支持板12(前記一体構造体)に伝達される外部からの機械的衝撃を緩和、吸収するために用いられている(この点は当事者間に争いがない。)ところ、外部からの衝撃は第1図と第3図の各キャリッジ支持柱31のいずれからもキャリッジ支持板12に伝達されるものであって、仮に第3図のキャリッジ支持柱31にゴムのはと目が設けられていないとすると、その吸収、緩和作用が極めて不完全なものとなることは技術上自明であることをあわせて考えると、各キャリッジ支持柱31のうち、特に第3図のキャリッジ支持柱31についてのみ、ゴムのはと目の使用が排除されているとは考えにくく、第1図のキャリッジ支持柱31と第3図のキャリッジ支持柱31とは、いずれも対衝撃用ゴムのはと目を備えた同一構成のものであると認めることができる。

この点について、原告は、第1図のキャリッジ支持柱31の直上部には精密な光学系が収納されている光学ブリッジ8が光学ブリッジ支持柱9を介して配置されており、光学性能の劣化や破損のおそれがあるので、結合部分に対衝撃取付け用ゴムのはと目32を用いているが、第3図のキャリッジ支持柱31は離れた位置に存在し、近傍に衝撃などに敏感な光学ブリッジ8などの部材は一切存在せず、衝撃による影響は極めて小さいから、対衝撃取付け用ゴムのはと目32をあえて用いる必要のない構造となっている、と主張する。

しかし、既に述べたとおり、キャリッジ支持板12には、第3図のキャリッジ支持柱31からも機械的衝撃が伝達されるものであり、このキャリッジ支持板12は、一つの剛体をなす部材であることが明らかであり、光学ブリッジ8には第3図のキャリッジ支持柱31からもかなりの機械的衝撃がキャリッジ支持板12を経て伝達されると推認され、この機械的衝撃が第1図のキャリッジ支持柱31から伝達される機械的衝撃と比べ極めて小さいとは断じ難く、敢えて第3図のキャリッジ支持柱31においてゴムのはと目の使用を排除すべき積極的根拠は見当たらないから、原告の主張は採用することができない。

したがって、前記(1)の原告の主張は理由がなく、この点についての審決の判断は正当というべきである。

(3)  次いで、原告は、引用例1記載の発明におけるゴムのはと目は、拘束部材としてのキャリッジ支持柱に使用されキャリッジに対する頑丈な支持部となるものであるから、それに代えて容易に揺動する引用例3のスプリングとゴムからなるインシュレーターを採用すると拘束部材としてのキャリッジ支持柱でなくなるため、このような組み合わせをすることは容易に推考しうる範囲ではない、と主張する。

(4)  確かに、前記(2)において認定した事実によれば、引用例1記載の発明において、キャリッジ支持柱31はキャリッジ支持板12に対する拘束部材であってかつその頑丈な支持部となるものであることが明らかにされている。

しかしながら、前記(2)において検討した結果によれば、キャリッジ支持柱31にはそのいずれにも対衝撃取付け用はと目が用いられていること、この対衝撃取付け用ゴムのはと目が基部30からキャリッジ支持柱31を介してキャリッジ支持板12に伝達される機械的衝撃を吸収、緩和する作用をなすものであることが明らかであるから、各キャリッジ支持柱31は、これらにそれぞれ設けられたゴムのはと目32との協働により、機械的衝撃の緩和作用を有するキャリッジ支持板12の支持部材を構成するものということができる。したがって、上記のとおり、キャリッジ支持柱31がキャリッジ支持板12に対する拘束部材であってかつその頑丈な支持部となるものであることは、キャリッジ支持柱31が完全な剛性をもってキャリッジ支持板12を拘束し、支持することを意味するとはいえず、単にこのキャリッジ支持柱31が機械的衝撃の緩和作用上、当然にゴムとのはと目による適宜の弾性をもってキャリッジ支持板12を拘束、支持するもので、ただこの場合の弾性が比較的小さいものであることを意味しているにすぎないと理解すべきである。

ところで、引用例3に、キャビネット(外かく筐体)にスプリングとゴムから成るインシュレータ(振動遮断器)を介してプレーヤー・ボードが設置されることが記載されていることは、当事者間に争いがなく、機械的衝撃又は振動を緩和するためにスプリングとゴムからなるインシュレータを、弾性をもって支持対象を支持し拘束する部材として用いることが常套手段であることが認められる。

したがって、引用例1記載の発明における対衝撃取付け用ゴムのはと目を有するキャリッジ支持柱31とインシュレータとは格別異質のものではなく、いずれも機械的衝撃又は振動の緩和作用を有する弾性支持部材として共通のものと認めることができる。

もっとも、インシュレータがゴムのはと目を有するキャリッジ支持柱31に比して振動の吸収、緩和特性に優れた大きな弾性を有するものであることは、その構造に照らして明らかであるが、この種支持部材としてどのような弾性を有するものを選択するかは、得られる機械的衝撃又は振動の吸収、緩和特性をどのように設定するかという設計上の問題というべきであり、引用例1記載の発明においてインシュレータのような支持部材が排除されるべきことを窺わせる事実を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであって、キャリッジ支持柱に代えてインシュレータを採用することが、引用例1記載の発明と相容れないということはできず、かえって、インシュレータは引用例1記載の発明に係るビデオ・ディスク・プレーヤと類似の技術分野に属するレコードプレーヤにおいて常套手段として用いられているのであるから、引用例1記載の発明においてキャリッジ支持柱に代えて引用例3に示されている従来周知の手段であるインシュレータを採用し、相違点に係る本願発明と同一の構成を得ることは当業者にとって推考容易なことであったといわなければならないから、(3)記載の原告の主張は失当であり、この点に関する審決の判断は正当というべきである。

(5)  原告は、また、外部からの振動がゴム取付部74によってしゃ断されている引用例1記載の発明においては、更に振動遮断器として引用例3のスプリングとゴムから成るインシュレーターを採用する必要は全くないだけでなく、かえって、これを採用すると拘束部材としてのキャリッジ支持柱の性質を減殺させ、引用例1記載の発明の一体構造体に対し好ましくない振動を生じさせるおそれがあるから当業者の行うことではない、と主張する。

(6)  甲第5号証によれば、引用例1には、「モータ台72はゴム取付け部74により、スピンドル集成体の他の部分から振動が伝わらない様に隔離されている。」(7頁左下欄15行ないし17行)との記載があることが認められる。

このゴム取付け部74は、キャリッジ支持板12を経て伝達される外部からの振動が記録担体回転手段に対して伝達されるのを遮断するだけで、光学ブリッジ8、キャリッジ14等他の部分に対しても振動の伝達を遮断するものではないことは容易に看取されるから、仮にキャリッジ支持板12自体に対する外部からの振動伝達遮断手段がないとすると、外部からの振動によりディスクが振動することはないとしても、他の部分特に振動に敏感な光学ブリッジがディスクに対して相対的に振動してしまい、安定な再生状態が得られないことは明らかである。したがって、ゴム取付け部74があるからといってキャリッジ支持板12自体に対する外部からの振動伝達遮断手段が不要であるとはいえないのはもちろんであるし、この振動遮断手段としてより振動遮断特性の優れたものを使用すればそれだけ光学ブリッジ8等に対する振動の伝達を少なくすることができるとともに、記録担体回転手段に対する振動の遮断もより完全なものとすることができることは、極めて容易に想到可能なことであり、ゴム取付け部74が存在するからといって引用例1記載の発明においてインシュレータを採用することが全く必要ないということはできない。

そして、引用例1記載の発明において特に上記のインシュレータの採用が排除されるべき理由がないことは、(4)において既に述べたとおりであり、また、引用例1記載の発明においてインシュレータを採用した場合にかえって好ましくない振動を生じさせるおそれがあることを示す証拠は全くない。

そうすると、前記(5)記載の原告の主張も理由がなく、この点に係る審決の判断も正当というほかはない。

(7)  結局、冒頭記載の取消事由2に関する原告の主張は失当で、審決の判断に違法はないというべきである。

5  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

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別紙第二

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別紙第三

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別紙第四

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