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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)18号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実については当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 本願意匠が、意匠に係る物品を「流し台」とし、その形態は、別紙第一のとおりであること、及び引用意匠が、意匠に係る物品を本願意匠と同一のものとし、その形態が別紙第二のとおりであることは、当事者間に争いはない。

本願意匠と引用意匠とは、基本的な構成態様において、かなり横に長い直方体状の本体の平面部に比較的大きな水槽を設け、正面部をほぼ均等に縦に五区分し、右端の区分を三段の引出しとし、他の区分を扉とし、扉と引出しの上辺に甲板の正面と幕板を現した態様の点で一致することは、当事者間に争いがない。

そして、別紙第一及び第二によれば、両意匠は、具体的な構成態様において、平面部において、隅丸の大きな矩形状の水槽を中央より左側に偏し、前後をほぼ甲板一ぱいに設けた点、背面側につき、横幅一ぱいで低いバツクガードを設けた点、正面部において、扉につき、左二枚、右二枚をそれぞれ対にして観音開き型とし、その召し合せ部の上隅に小さな横矩形状の手掛けを設け、引出しにつきこれを三段のものとし、その各前板の上辺中央部に扉のものと同様の手掛けを設けた点、扉面及び引出しの前板の表面を面一致状に現した点、甲板の正面と細幅の幕板を正面の横幅一ぱいに通しで現した点、扉と引出しの下方に広い幅で正面の横幅一ぱいに通しで蹴込部を設けた点で共通しているが、

本願意匠では、水槽の横幅(甲板の長手方向の幅)は甲板全体の横幅の三分の二に近いのに対し、引用意匠では、水槽の横幅は甲板全体の横幅の半分足らずしかなく、本願意匠の水槽の左側の余地部の幅が極めて狭く、甲板全体の横幅の一二分の一程度であるのに対し、引用意匠のそれは、甲板全体の横幅の四分の一程度で本願意匠の約三倍ほどの幅がある点、各扉の上辺部と上段の引出しの上辺部及び各扉の下辺部と下段の引出しの下辺部のそれぞれにつき、本願意匠では通しで角を落としたようにしてわずかな斜状に形成しているのに対し、引用意匠では上下ともそれぞれ中央に向つて突出するようにかなり長い斜状に形成している点において大きな差異が存し、その他に、本願意匠の水槽は二段の段縁が設けられているのに対し、引用意匠にはこれがない点、幕板につき、本願意匠が幅細く平板なものであるのに対し、引用意匠は幅広で湾曲状に突出している点、本願意匠は甲板の水槽の右側の余地部に水切突条を有するのに対し、引用意匠はこれを有しない点、引用意匠は観音開き扉の両側及び引出しの両側に縦条の仕切縁を有するが、本願意匠はこれを有しない点、及び本願意匠は三段の引出しが上段から小、中、大の異なつた大きさのものとなつているのに対し、引用意匠のものは同一の大きさである点で差異があることが認められる。

2 以上の認定事実に基づき意匠と引用意匠の類否につき判断する。

本願意匠及び引用意匠に係る物品である流し台にあつては、取引者及び需要者の最も注意を引くところは平面形状すなわち甲板と正面形状であり(この点は当事者間に争いがない。)、前認定の一致点及び差異点も背面側の一致点を除きこれに関わるものである。

そこで、まず、甲板の構成についてみるに、本願意匠と引用意匠とは、隅丸の大きな矩形状の水槽を中央より左側に偏し、前後をほぼ甲板一ぱいに設けた点で共通するものの、本願意匠の水槽は、引用意匠のそれと比べて横幅をかなり長く構成し、その水槽は甲板のほぼ三分の二を占めるのに対し、引用意匠はそれは短く甲板に占める割合も半分足らずであり(成立に争いのない甲第二号証及び第三号証によれば、本願意匠は全幅一八〇〇ミリメートル、水槽一一〇〇ミリメートル、引用意匠は全幅一七〇〇ミリメートル、水槽七三〇ミリメートルであることが認められる。)、また、本願意匠は、水槽の左側の余地部の幅を極めて狭いものとしており、その余地部は、流し台を使用するに当たりなんらかの機能を果たすと認められるような形状をしていないこと及び本願意匠の水槽が二段の段縁を設けていることと相まつて、看者に極めて異なつた印象を与える。

確かに、成立に争いのない乙第一号証の一、二及び乙第二号証の一ないし三によれば、本願意匠や引用意匠のように、横に長い水槽を甲板の片方に偏して設けたという点はありふれた態様のものであることを認めることができるが、しかし、その中でも、水槽の幅、甲板に占める割合及びその位置等いろいろな態様のものがあり、その組み合わせによつて看者に異なる美観を与えるものである。そして、右のように、本願意匠と引用意匠の甲板の構成に際立つた差異があるような場合、看者は必ずその部分の際立つた差異に着目し、それぞれその意匠の特徴として認識するものであつて、引用意匠との類否を判断するに当たり、その違いを無視することはできないというべきである。

また、正面形状の構成についてみると、本願意匠と引用意匠は、各扉の上辺部と上段の引出しの上辺部及び各扉の下辺部と下段の引出しの下辺部のそれぞれにつき、本願意匠では通しで角を落としたようにしてわずかな斜状に形成しているのに対し、引用意匠では上下ともそれぞれ中央にむかつて突出するようにかなり長い斜状に形成している点で大きな差異がある。

本願意匠は単に角を落として丸くしただけで、正面から見た場合にはほとんど気付かない程度のものであるのに対し、引用意匠は、斜状の部分を長くとり、正面から見た場合、明らかに中央部分が突出して見えるものであり、この点が引用意匠の基本的な特徴となつているものである。

そして、本願意匠の幕板が湾曲状をなして突出しているのに対し、引用意匠のそれが平板であることと相まつて、全体として、本願意匠が看者にフラツトな落ち着いた感じを与えるのに対し、引用意匠は看者にどつしりとした重厚な感じを与えるものであり、明らかに美観を異にするものである。

本願意匠と引用意匠とは以上の点で大きな差異が存し、それ以外の前記差異点を考慮にいれるまでもなく、美観を異にする非類似のものということができる。

3 以上のとおりであつて、審決は、本願意匠と引用意匠とは類似するものと誤つて判断したものであるから、違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五八年五月一九日、特許庁に対し、本意匠を昭和五八年二月一〇日出願の同年意匠登録願第五一四三号意匠とし、意匠に係る物品を「流し台」とし、その形態を別紙第一のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき、意匠法第四条二項の規定の適用を申し立てて類似意匠登録出願(昭和五八年意匠登録願第二〇八五七号)をしたが、昭和六〇年三月一五日、拒絶査定を受けたので、同年六月一七日、審判請求をし、同年審判第一二四七〇号事件として審理されたが、平成二年一〇月一八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年一二月一九日、原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本願意匠は、その願書の記載及び願書に添付した図面代用写真のとおりであり、これによれば、意匠に係る物品を「流し台」とし、意匠に係る形態を写真で現したもので、その意匠の内容は、別紙第一に示すとおりである。

2 これに対して、当審が、類似するとして拒絶の理由に引用した意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和四六年三月一六日、特許庁意匠課受入のカタログ、井上工業株式会社発行のクリナツプ流し台、インテリアキツチンシリーズ「ひまわり」(以下「引用例」という。)所載の流し台S―一七〇Uの意匠であり、同カタログの記載によれば、意匠に係る形態を写真版によつて現したもので、その意匠の内容は、別紙第二に示すとおりである。

3 そこで、本願の意匠と引用意匠について比較検討すると、両意匠の形態は、全体が、基本的な構成態様及びその具体的な態様によつて成り立つているものであり、そのうち、基本的な構成態様について、かなり横に長い直方体状の本体の平面部に大きな水槽を設け、正面部をほぼ均等に縦に五区分し、右端の区分を三段の引出しとし、他の区分を扉とし、扉と引出しの上辺に甲板の正面と幕板を現した態様の点、が一致しており、具体的な態様について、平面部において、水槽につき、隅丸の大きな矩形状のものとして、水槽の左側を小幅、右端を大幅な余地とし、水槽の前後をほぼ甲板一ぱいに設けた点、背面側につき、横幅一ぱいで低いバツクガードを設けた点、正面部において、扉につき、左二枚、右二枚をそれぞれ対にして観音開き型とし、その召し合せ部の上隅に小さな横矩形状の手掛けを設け、引出しにつき、上段より小、中、大の大きさとし、その各前板の上辺中央部に扉のものと同様の手掛けを設け、そして、各扉の上辺部と上段の引出しの上辺部及び各扉の下辺部と下段の引出しの下辺部のそれぞれを通しでわずかな斜状に形成した点、扉面及び引出しの前板の表面を面一致状に現した態様の点、甲板の正面と細幅の幕板を正面の横幅一ぱいに通しで現した態様の点、扉と引出しの下方に広い幅で正面の横幅一ぱいに通しで蹴込部を設けた態様の点、の各態様が共通しているものである。

ところが、両者間には主として、(1)、甲板の右の余地部に水切突条を有するか否かの差異、(2)、幕板部分の広狭の差異、(3)、観音開き扉の両側及び引出しの両側に縦条の仕切縁を有するか否かの差異、が認められる。

しかしながら、(1)の点については、本願意匠がこれを有し、引用意匠には見当たらないものではあるが、突条といつても一般的に極めて低いものであり、また、その態様も含めてこの種の物品の意匠にあつては多用されているところであつて特異性がなく、どちらかといえば本願意匠のみの特徴ともいえない程度のものであることから、その差異に至つては軽微なものというほかない。(2)の点については、本願意匠が狭いもので、引用意匠はこれより広い幅のものであるが、いずれの態様のものともこの種の物品の分野においては極めて一般的な態様のものであつてやはり特異性がみられず、また、両者は甲板の下方に幕板部を有する点では共通しており、その共通点におけるわずかな差異ということができるものであることから、その差異が両者の類否判断に与える影響は微弱といわざるを得ない。(3)の点についても、いわゆる化粧縁を現すことは、この種の物品あるいは家具全体の物品の分野の意匠にあつては広く知られているところであり、本願意匠はこれを有しないものではあるが、引用意匠もそれほど際立つた態様で現されているものでもなく、両者の類否判断に与える影響も軽微というほかない。したがつて、各差異が両者の類否判断に与える影響も軽微ないし微弱なものといわざるを得ないこととなり、結局、両意匠の類否判断の要素として各差異についてはそれほど高く評価することができない。

なお、本願意匠が、水槽の上に、小ボール及び調理プレートを取りはずし自在に載置することができる態様のものではあるが、これらは付加的付属品とされることがこの種の物品の分野では一般的であり、したがつて、「流し台」それ自体の主たる創作の要素とは認められないことから、両意匠の類否判断の要素としては取りあげられないものとするのが通例である。

してみると、前記の差異が相まつた効果を考慮したとしても、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとした具体的な態様は、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、たとえ、その構成態様にさほどの特徴が認められないものであつたとしても、看者の注意を強く惹くところであつて、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。

したがつて、両意匠の形態について、類否判断を左右する支配的要素による“まとまり”が共通し、これから生ずる美観をも共通することになるから、両意匠は類似する意匠であるといわざるを得ない。

以上のとおりであつて、本願意匠は、引用意匠に類似する意匠であるから、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

<省略>

別紙第二

<省略>

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