東京高等裁判所 平成3年(行ケ)193号 判決
1 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(本件審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
2 原告主張の取消事由について
(1) 原告主張の取消事由第二の(3)1(イ)について
本件審決は、「引用例に、花ビラを温度変化によつて動かすという技術思想、及び、その具体的手段として形状記憶合金を使用することが記載されている以上、花ビラに形状記憶合金を着設するか、花ビラ全体を形状記憶合金で作成するかは、造花の装飾性や、製作に要する時間・費用等のいわゆる手間を勘案して当業者が所望に応じて適宜選択できる範囲内のものと認められる。」と認定判断しているのであつて、どんな風にしてもいいと判断しているものではない。
引用例に、所定の温度で形状が変化する可逆形状記憶合金からなる感温部材を造花構成部材である花ビラに着設したことを特徴とする感温造花が記載されているとの本件審決の認定事実は当事者間に争いがなく、その花ビラに着設された形状記憶合金も造花の一部をなすものであるから、花ビラの材料に形状記憶合金を使用することが引用例に記載されているものである。したがつて、本願考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、引用例の上記のような記載から、花ビラ全体を形状記憶合金で作ることを想到することに困難性はない。
そして、本願考案の形状記憶合金で花ビラ全体を作つたものが、形状記憶合金を花ビラに着設したものと比較して格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがつて、花ビラに形状記憶合金を着設するか、花ビラ全体を形状記憶合金で作成するかは、造花の装飾性や費用、製作上の手間等を勘案して、当業者が適宜選択できることと認められ、これと同旨の前記本件審決の認定判断は正当である。
本願考案と同じものが引用例に図面により開示されていないからといつて、本件審決の前記判断が誤りということはできない。
(2) 原告主張の取消事由第二の(3)1(ロ)について
造花の花ビラの材料として形状記憶温度の異なる二種類の形状記憶合金を組み合わせることにより、温度の変化によつて花ビラの複雑な動きが得られることが自明のことであることは当裁判所に顕著である。したがつて、使用する形状記憶合金の種類を一種類にするか複数の種類にするかは、得ようとする動きとそれに要する材料費とを勘案して当業者が設計上適宜選択し得る域を出ないものである。したがつて、当業者にとつて、形状記憶温度の異なる二種類の形状記憶合金を貼り合わせたもので花ビラを作ることを想到することに格別の困難性は認められない。これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはない。
花ビラの材料とする形状記憶合金を、形状記憶温度の異なる二種類のものと限定することにより格別の作用効果を奏することを認めるに足りる証拠はなく、原告主張の作用効果の看過誤認も認められない。原告の主張は採用できない。
(3) 原告主張の取消事由第二の(3)2について
造花をケースの中に入れて飾るものがありふれたものであることは、当裁判所に顕著であるから、引用例記載の造花を部屋にそのまま置く代わりに、ケースの中に入れる程度のことは、当業者が必要に応じて適宜行えることと認められる。
花ビラに形状記憶合金を使用した造花は温度の変化により花ビラを開閉することを期待する装飾品であるから、ケースに入れた造花を、自然の温度変化や部屋全体の冷暖房器による温度の変化により花ビラを開閉させる代りに、ケースに冷暖房器を設けて、強制的に温度の変化を与えて花ビラを開閉させることを想到することは、当業者がきわめて容易になし得ることと認められる。これと同旨の前記請求の原因三(本件審決の理由の要点)(4)<2>の本件審決の認定判断は正当である。
本願考案はいわゆる選択発明にあたるか否かが問題となるものではなく、選択発明についての原告の主張は、主張自体失当である。
成立について当事者間に争いのない甲第二号証、甲第三号証、乙第一号証及び乙第二号証によれば、本願出願当初の明細書を昭和五九年二月一日付手続補正書により補正したものの考案の詳細な説明の欄には、本願考案の目的、効果に関して、「今までの造花は動かなくて、お面白みがない。造花の花ビラを動かして、生きた花のようにする。たのしく鑑賞できる。ガラス又はプラスチツクの箱の中に花をいれ、一番下に冷暖房器をいれ……朝はあつためた風を送り花ビラを咲かせ、夕方は冷たい風を送つて花ビラのつぼみを作る。」との記載があることが認められる。
上記記載のような本願考案の効果の内、造花の花ビラを動かして、生きた花のようにし、楽しく鑑賞できる効果は引用例記載のものも奏する効果であることは明らかであり、また、朝は温めた風を送り花ビラを咲かせ、夕方は冷たい風を送つて花ビラのつぼみを作ることは、前記のとおり当業者がきわめて容易に想到できるところであるといわなければならない。即ち、その効果は、温度の変化により花ビラを開閉することを期待する花ビラに形状記憶合金を使用した造花に強制的に温度の変化を与えて花ビラを開閉させるようにしたものにおいて、形状記憶合金の形状記憶温度、組み合わせ方、温度を変化させる時期、その温度を調整することにより当然達成できるところであつて格別のものとは認められない。本願考案と引用例記載のものとの間に格別顕著な作用効果の差異があるものとは認められない。本件審決が、両者の作用効果の差異を看過誤認した旨の原告の主張は採用できない。
前記請求の原因三(本件審決の理由の要点)(1)ないし(3)の認定は当事者間に争いがなく、本件審決が認定した相違点の他に、本願考案と引用例記載のものとの相違点があり、本件審決がこれを看過したこと、本件審決が引用例記載のものを誤認したことを認めるに足りる証拠はない。
また、昭和五九年二月一日付手続補正書による補正の他に原告が手続補正書を提出したことを認めるに足りる証拠はなく、本件審決が訂正、補正を認めない旨判断したことも認められないから、この点についての原告の主張は理由がない。
(4) 原告主張の取消事由第一について
原告は、「花をせまい透明ケースの冷暖房器の中にいれるのと、部屋内に花を置くのとは、花の開きが違いすぎる。」、「部屋内に花を置くだけでは、花は、ひらきません。高い温度、冷たい冷暖房器が必要条件なのです。」と主張する。
しかし、形状記憶合金を使用した花が開くか否か及び開く程度は、使用する形状記憶合金の形状記憶温度とそれが置かれる場所の温度変化及び花ビラを形状記憶合金でどのように構成し着設するかによつて定まるものであるから、造花をケース内に置くか部屋内に置くかは、花が開くか否か、開く程度に関係するものではない。引用例記載のものも部屋内の温度の変化に応じて花ビラを開閉するものであり、かつ鑑賞を目的とするものであるから、花が開かないとか、花の開き方が十分でないものとは認められない。
また、原告は、「A、即ち、引用例記載のものは感温部材を使用しているが、所定温度まで温度の変化を外部から与えてやらなければ、花の形状が変化しないが、B、即ち、本願考案は二種類の形状記憶合金を使用するため、周囲の気温の変化で花の形状が変化する。」旨及び「B、即ち、本願考案は形状記憶合金そのもので花を作るので温度による形状の変化はスムーズに行われる。」旨主張する。しかし、形状記憶合金を使用した花がどのような温度で形状を変化させるか、その形状変化がスムーズか否かも、使用する形状記憶合金の形状記憶温度及び花ビラを形状記憶合金でどのように構成し着設するかによつて定まるものであるから、引用例記載のものと本願考案との間に原告主張のような効果の差異があるものとは認められない。
さらに、原告は、「A、即ち、引用例記載のものは形状記憶合金を造花構成部材の要部に着設するので離脱の可能性もあり、二種類の材料が温度によつて同一変化するとは考えられない。」旨主張する。しかし、形状記憶合金が他の材料から離脱するか否かは、形状記憶合金を他の材料に着設する方法によつて左右され、本願考案も形状記憶温度の異なる二種類の形状記憶合金を貼り合わせたもので花ビラを作るので、その貼り合わせの方法によつては一方の合金が他方の合金から離脱する可能性があり、また、二種類の材料が温度によつて同一変化するとは考えられないことも同様である。
よつて、原告の主張は採用できない。
3 よつて、原告の本件請求は理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編注1〕本件の特許庁における手続の経緯は左のとおりである。
原告は、考案の名称を「動く花ビラ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、昭和五八年九月二四日、実用新案登録出願をしたところ、昭和六三年九月一二日に拒絶査定を受けたので、同年一一月一六日、これに対し審判の請求をした。
特許庁は、同請求を同庁昭和六三年審判第一九八五〇号事件として審理した上、平成三年六月六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年七月二九日、原告に送達された。
〔編注2〕本願考案の要旨は左のとおりである。
花ビラの材料を形状記憶合金(熱で動く)で作り形状記憶温度の異なる二種類の形状記憶合金をはりあわせたもので花ビラを作る。ケースの中に花をいれ冷暖房器により花ビラを咲かせたり、花のつぼみを作つたりする。