大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成3年(行ケ)203号 判決 1992年11月17日

山形県天童市大字老野森404番地

原告

株式会社山本製作所

代表者代表取締役

山本惣一

訴訟代理人弁理士

新関和郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

大久保好二

中村友之

伴正昭

田辺秀三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和63年審判第8086号事件について平成3年6月6日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年10月8日、名称を「穀粒乾燥装置における穀粒張込用ホッパー」(その後「穀粒乾燥機における穀粒張込装置」と訂正)とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願をしたところ、昭和63年3月8日に拒絶査定を受けたので、同年5月6日、これに対し審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第8086号事件として審理した結果、平成3年6月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

2  本願考案の要旨

乾燥機本体の機体側面で、機内に設けられる乾燥部の穀粒の流下路の外側の導風路に対応する部位に、その導風路に通ずる張込用の窓穴を、乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に開設するとともにその窓穴を開閉するよう穀粒張込用の開閉扉を装設し、乾燥機本体の機内には、その機内の底部に前後方向に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板を、前記前後の機壁間に渡る巾に装設して、その流穀板と前述の穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部で前面側の機壁と後面側の機壁とに渡る間に、前述の前後の機壁間に渡る巾の張込用の窓穴に通ずる穀粒の一時的な貯留槽を導風路と共用せしめて形成したことを特徴とする穀粒乾燥機における穀粒張込装置(別紙図面1参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  本出願前に日本国内において頒布された実公昭56-27510号公報(以下「引用例」という。)には、「乾燥機本体の機体側面で、機内に設けられる乾燥部の穀粒の流下路の外側の導風路に対応する部位に、その導風路に通ずる張込用の窓穴を開設するとともに、その窓穴を開閉するよう穀粒張込用の開閉扉を装設し、乾燥機本体の機内には、その機内の底部に前後方向に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板を装設して、その流穀板と前述の穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部で張込用の窓穴に通ずる穀粒の一時的な貯留槽を導風路と共用せしめて形成した穀粒乾燥機(別紙図面2参照)」が記載されているものと認める。

(3)  そこで、本願考案と引用例記載の考案(以下「引用考案」という。)とを対比すると、両者は、前者が張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板を乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に開設するのに対して、後者にはその記載がない点で相違するものと認められる。

しかし、張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板を前後の機壁間に設けることは当業者が必要に応じて適宜行いうるものと認められ、また、それにより特に予測できないような優れた効果があるものとは認めることができない。

(4)  したがって、本願考案は引用考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、引用例に「乾燥機本体の機体側面で、機内に設けられる乾燥部の穀粒の流下路の外側の導風路に対応する部位に、その導風路に通ずる張込用の窓穴を開設するとともに、その窓穴を開閉するよう穀粒張込用の開閉扉を装設した穀粒乾燥機」が記載されていることは認めるが、その余は否認する。同(3)のうち、本願考案と引用考案との相違点が審決認定のとおりであることは認めるが、その余は争う。同(4)は争う。

審決は、引用例の記載内容を誤認して本願考案と引用考案との一致点の認定を誤り、また、両考案の相違点についての判断を誤り、かつ、本願考案の顕著な作用効果を看過して、本願考案の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、引用例には「乾燥機本体の機内には、その機内の底部に前後方向に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板を装設して、その流穀板と前述の穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部で張込用の窓穴に通ずる穀粒の一時的な貯留槽を導風路と共用せしめて形成した穀粒乾燥機」が記載されていると認定しているが、この認定は誤りである。したがって、この認定を前提として、本願考案と引用考案とは上記構成において一致しているとした認定も誤りである。

<1> 引用例(甲第3号証)に記載されてしる流穀板4は、同号証の第1頁2欄10行ないし13行に「その穀槽2の落下口より流出せしめた穀粒をその穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベア3に向けて導くように穀槽2の下方位置に具備せしめてある流穀板4」と記載されているように、本願考案における下部コンベア4の搬送樋41の外端縁(側壁部分)と対応する部材であって、「スクリューコンベア3の流穀板4」(甲第3号証の第2頁3欄10行)であり、本願考案における「流穀板6」とは別異のものである。また、引用例には、「下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板」なる部材についての記載はない。

下部コンベアの搬送樋(またはスクリューコンベア3の流穀板4)と、これに接続される流穀板とは、通常、別異の部材とされているものである。本願考案における「下部コンベア4の搬送樋41の外端縁」と「流穀板6」も、これに従っているものであって、本願考案にだけある特殊な構成ではない。

また、引用例の図面第1図(別紙図面2第1図)には従来例が示され、同第2図ないし第5図(同図面第2図ないし第5図)には出願公告に係る考案の実施例が示されているが、第1図に示された穀粒乾燥機と第2図ないし第5図に示された穀粒乾燥機とは別個のものであって、第2図ないし第5図には穀粒乾燥機の内部構造が記載されていない。内部構造については、従来例の第1図を引用して、「スクリューコンベア3の流穀板4の上面に通ずる開口5をあける」、「スクリューコンベア3に穀粒を導く流穀板4の上面と通ずる位置に開口5を設けて」と記載されているだけで、「穀槽2の落下口より流出せしめた穀粒をその穀槽の下方に配設せるスクリューコンベア3に導く流穀板4」が、開口5の口縁に対してどのように接続しているかについての記載も全くないのである。

<2> 次に、引用例には、「流穀板と穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部に、導風路と共用せしめて形成される一時的な貯留槽」についての記載はない。

被告は、引用考案の穀粒乾燥機においても、ホッパーより投入された穀粒は「流穀板」と「隔壁」の間に一時的に貯留される旨主張するが、以下述べるとおり理由がないものというべきである。

本願考案の「張込用の窓穴を用いて穀粒を投入することで、機内の底部に設けてある導風路を共用するよう利用した貯留槽内に極く短い時間で一時的に貯留しておき、その状態から下部コンベアおよび昇降機の作動で、順次貯留部たる穀槽に移し換えていけるようになる」(本願の昭和63年6月6日付け手続補正書(甲第2号証の2)添付の明細書(以下「本願明細書」という。)の第19頁1行ないし6行)という作用効果は、機体内の底部で、前後の機壁間に渡る範囲に、「隔壁」と「流穀板」とにより導風路として形成される広い空間を一時的な貯留槽に利用して、ここに大量の穀粒を一時的に貯留させることにより得られるものであるが、これには、この導風路の内部の空間が一時的に大量の穀粒を流し込めるようになっていることが前提である。すなわち、広い空間を形成する導風路が張込用の窓穴に通じていること、そして、その窓穴が、そこから導風路内に穀粒を流し込んだときに、穀粒が流れ込んでいかない空間が形成されることのないように乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に形成してあることが必要であって、窓穴及び流穀板を備え、一時的に多量の穀粒が窓穴より投入される穀粒乾燥機であれば、必然的に奏し得るというものではない。機体内の底部に前後の機壁間に渡る導風路が装設してあっても、それに通ずる窓穴の前後方向の開口巾が狭ければ、そこから流し込む穀粒が安息角に従い堆積してきて、すぐに穀粒を溢流させるようになり、少量の穀粒しか貯留できず、下部コンベアによる搬出を待って、再び穀粒を流し込むようにしなければならないことになる。

ところで、引用例には、「下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁とに渡架される流穀板」、「穀粒の流下路」、「その流下路の隔壁」並びに「その流下路の隔壁と前記流穀板とで形成される導風路」についての記載が一切ないのであるから、引用考案の穀粒乾燥機においては、ホッパーaより投入された穀粒が「流穀板」と「隔壁」の間に一時的に貯留されるということもない。

(2)  取消事由2(相違点の判断の誤り)

審決は、本願考案と引用考案との相違点を判断するに当たり、張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板を前後の機壁間に設けることは当業者が必要に応じて適宜行い得るものと認定、判断しているが、誤りである。

<1> 引用考案における張込用の窓穴(開口5)及びこの窓穴を開閉する開閉蓋(蓋板10)はいずれも、穀粒乾燥機Aの前後の巾に対し略3分の1の巾に装設してある。したがって、引用考案の穀粒乾燥機Aにおいて、その窓穴(開口5)の開口巾を略3倍に拡げ、開閉蓋(蓋板10)を略3倍に拡幅することは、穀粒乾燥機自体を3倍の大きさに作ることであり、どのような必要があるにせよ、通常の機械設計においてはあり得ないことであって適宜に行うことができる範囲を遙かに越えたものである。また、前記(1)で述べたとおり、引用例には、「下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁との間に渡架される流穀板」自体についての記載がないのであるから、流穀板を穀粒乾燥機Aの機体の前後の機壁間に渡架する巾に装設することは、当業者であってもできることではない。しかも、本願考案は、張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板の三者を、穀粒乾燥機の乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に装設するという技術であるから、これを必要とする理由が新たに見出されない限り考案できるものではない。

本願考案において、機体内の底部の導風路と通ずる窓穴の前後方向の開口巾を機体の前後長さに対応する巾に形成しているのは、窓穴から導風路内に流し込む穀粒がデッドスペースとなる空間を形成しない状態として堆積していくようにして、導風路内の空間に大量の穀粒を一時的に貯留し得るようにするためである。導風路を、大量の穀粒を一時的に貯留させる貯留槽に利用しようというこの着想に想到しなければ、「窓穴」及び「開閉扉」を「機体の前後の機壁間に渡る巾」にすることは無意味である。換言すれば、この着想に全く気付いていない引用考案や後記乙各号証記載の技術からは、張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板を乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に設けることは、当業者において必要に応じて適宜行い得るものであるとは到底いえない。

<2> 窓穴の開口巾を乾燥機本体の前後の巾Dに略対応する巾dにするのは、窓穴の前後方向の端部における位置から穀粒を流し込んだときに、その穀粒が安息角に従う傾斜面をもって堆積してきても、乾燥機本体の機体内部の前後の機壁間に渡る導風路の前後の両端部位に、穀粒が流れ込むことのない空間を形成することがないようにするためのものである。そして、この窓穴の前後方向の開口巾が乾燥機本体の前後長さよりも狭いことで、機体内の底部の導風路の前後の両端部位に形成されるようになる穀粒が流れ込まない空間は、窓穴の開口巾と乾燥機本体の前後長さとの割合で決まるものではない。本願図面の第3図に記載されているように、窓穴の前後の両端部に、極く狭い巾の壁を残していても、穀粒が流れ込んで安息角に従う斜面をもって堆積することから、形成される空間の容積は殆ど零に近いものとなるのである。したがって、上記第3図のものは、窓穴の開口巾が実質的には乾燥機本体の前後長さの全巾に対応しているものであり、これを寸法比をもって論じている被告の主張は意味のないものである。

ところで、被告は、乙第1号証ないし第4号証により、穀粒投入用のホッパーの開口巾を、乾燥機本体の前後の機壁間の2分の1以上にすることが本願出願前に周知であると主張する。

しかし、乙第1号証記載の穀粒張込用のホッパー21は、同号証の第1図に示されているように、前後の開口巾が乾燥箱1の前後長さに対して2分の1よりも狭いものである。乙第2号証記載のものは、張込ホッパー16の前後方向の開口巾が機体8の前後長さに対して2分の1より幾分広い巾になっているが、スクリューコンベア9とそれの受漏斗10を、張込ホッパー16を設ける側に偏らせて、張込ホッパー16から流し込まれる穀粒を収容する空間を狭めているものである。乙第3号証及び第4号証記載のものは、ホッパーの開口巾が機体の前後長さの全巾に渡る巾に形成してあるが、本願考案のものとは内部構造が全く異なる「立体型乾燥機」であって、そのホッパーは狭い空間の流穀路にしかすぎず、導風路には通じていないものである。すなわち、機体内の底部に広い空間を構成するように形成される導風路の内部空間を、大量の穀粒を短時間だけ一時的に収容させる貯留槽に利用する、という本願考案の技術思想の基本となる着想と係わりのない技術である。

したがって、被告の上記主張は理由がない。

(3)  取消事由3(作用効果の看過)

本願考案の「穀粒の張込作業が、下部コンベアおよび昇降機の処理能力の制約を受けることなく、短時間で行なえるようになる。そして、この一時的に大量の穀粒を貯留する貯留槽が、機内の導風路を共用せしめるように利用することから、乾燥機本体を、大きく作り変える必要もない」(本願明細書第19頁6行ないし11行)という作用効果は、引用考案の作用効果に比して格段に優れたものであるのに、審決はこれを看過した。

「穀粒の張込作業が、下部コンベアおよび昇降機の処理能力の制約を受けることなく短時間で行なえるようになる。」のは、機体内の底部の導風路の全域が一時的な貯留槽として利用でき、ここに大量の穀粒を流し込むことができるからである。引用考案の穀粒乾燥機では、投入ホッパーaの開口巾が狭いため、そこから穀粒を機体内に流し込んだとき、機体内に穀粒が流れ込まない空間が大きく形成される。そのため、流し込める穀粒の容量は数分の1となることから、下部コンベア及び昇降機による搬送処理を待たねばならず、この下部コンベア及び昇降機の処理能力の制約を受けるようになる。

したがって、本願考案と引用考案との作用効果の相違は、「一時的な貯留槽」への張込作業が、前者は下部コンベア及び昇降機の処理能力の制約を受けないで行えることができるのに対し、後者は下部コンベア及昇降機の処理能力の制約を受け、それらによる搬送処理を待たなければならないというものであって、その差異は格段のものである。

次に、「一時的に大量の穀粒を貯留する貯留槽が、機内の導風路を共用せしめるように利用すること」によって得られるようにするという着想自体、従来存しなかったのであるから、この点の作用効果は、従来手段のものに比して格段のものであり、当業者が予測し得る程度のものではない。

以上のとおりであるから、本願考案について、特に予測できないような優れた効果があるものとは認めることができないとした審決の認定、判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。

2  審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。

(1)  取消事由1について

<1> 引用例の「穀槽2に対し低い位置から穀粒を送給し得るように、機壁1の、前記スクリューコンベア3に穀粒を導く流穀板4の上面と通ずる位置に開口5を設け」(第2頁3欄41行ないし44行)、「その投入ホッパーaに投入した穀粒を流穀板4を介して機内に装架してあるスクリューコンベア3に対し送給せしめるために機壁1にあけた開口5」(第1頁2欄29行ないし32行)との各記載及び引用例の図面第1図からみて、引用考案の流穀板4は、ホッパーaに投入された穀粒を「スクリューコンベア3に導く」ものであって、しかも「穀槽2の落下口より流出せしめた穀粒をその穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベア3に向けて導く」ものであるから、原告のいう、単に「穀槽2の落下口より流出せしめた穀粒をその穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベアに向けて導く」だけのものではない。

したがって、本願考案の流穀板と引用考案の流穀板とは別異のものである旨の原告の主張は理由がない。

次に、流穀板を「下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁とに渡架」させることは、本願出願前周知であるので、引用例の図面第1図に記載された流穀板4をみれば、下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁とに渡架される流穀板なる部材が記載されているものとした審決の認定に誤りはない。

<2> 引用例には、下記のとおり、「穀粒の流下路の隔壁」及び「穀粒の一時的な貯留槽を導風路と共用せしめて形成したこと」が記載されている。

引用例の図面第1図には、穀粒乾燥機の内部に設けられた穀槽2の傾斜した底面を表す破線が開口5及び流穀板4と相当程度の間隔をおいて互いに対峙するように記載され、また図面第5図には、穀槽2の底面が網状の部材で形成されて、開口5の内部に同開口と対峙するように配置されて記載されている。そして、引用例の「その穀槽2の落下口より流出せしめた穀粒をその穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベア3に向けて導くように穀槽2の下方位置に具備せしめてある流穀板4の上面と通ずる位置に、開口5をあけて、」(第1頁2欄10行ないし14行)及び「乾燥作業中に穀槽2内の穀粒に送給されてその穀槽2を吹き抜けた乾燥風が、この開口5から機壁1の外に吹き出て、四周に塵埃を飛散させる問題があり、」(第1頁2欄32行ないし35行)という記載からみて、図面第1図に記載された穀槽2の傾斜した底面を表す破線及び図面第5図に開口5の内部に配置されている網状の部材は、穀槽2の落下口へ向けて穀粒を流下させる流下路と穀槽2を吹き抜けた乾燥風の導風路を区劃する「穀粒の流下路の隔壁」であると認められる。

ところで、本願明細書には、本願考案の作用として「張込用の窓穴を用いて穀粒を投入することで、機内の底部に設けてある導風路を共用するよう利用した貯留槽内に極く短い時間で一時的に貯留しておき、その状態から下部コンベアおよび昇降機の作動で、順次貯留部たる穀槽に移し換えていけるようになる」(第19頁1行ないし6行)と記載されている。この説明によれば、乾燥機の窓穴に投入された穀粒は、下部コンベアにより昇降機への移し換えが終了するまでは、「隔壁」と「流穀板」により形成される空間に一時的に貯留されることになる。そうすると、「一時的な貯留槽」は、窓穴及び流穀板を、乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に設けることのみによって始めて形成されるものではなく、窓穴及び流穀板を備え、一時的に多量の穀粒が窓穴より投入される穀粒乾燥機であれば、必然的に形成される性質のものということができる。

一方、引用考案の穀粒乾燥機は、引用例の記載によれば、穀粒の投入作業を「ホッパーa内に穀粒が入っている麻袋ごと投入して行う」(第1頁2欄36行、37行)ことを前提にするなど、一時的に相当多量の穀粒が投入されるものである。そして、引用考案における「流穀板」は、一時的に相当多量に投入された穀粒を、穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベア3に導くものであること、引用例の図面第1図によれば、「流穀板」と「隔壁」は、相当程度の間隔をおいて互いに対峙するように配置されるものであることは、前記のとおりである。

このように、引用考案の穀粒乾燥機も、そのホッパーaには相当多量の穀粒が一時的に投入されるものであって、ホッパーaより「流穀板」に導かれた多量の穀粒が、スクリューコンベア3により昇穀機への送給が終了するまでは、「流穀板」と「隔壁」の間に一時的に貯留されるものということができる。

したがって、引用例には、「下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁とに渡架される流穀板と、前述の穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部に、導風路と共用せしめて形成される一時的な貯留槽」が記載されていることは明らかである。

以上のとおりであるから、引用例には、「乾燥機本体の機内には、その機内の底部に前後方向に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板を装設して、その流穀板と前述の穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部で張込用の窓穴に通ずる穀粒の一時的な貯留槽を導風路と共用せしめて形成した穀粒乾燥機」が記載されているとし、この認定を前提として、本願考案と引用考案とは上記構成において一致しているとした審決の認定にに誤りはない。

(2)  取消事由2について

本願明細書の考案の詳細な説明には、本願考案の実施の一例を説明する記載の中に、「窓穴」について「70は乾燥機本体1の側面に設けた張込用の窓穴で、(中略)第3図に示している如く、乾燥機本体1の前後の巾Dに略対応する巾dをもって機内の前記流下路aの外側の空室に通ずるように開設してあり」(第13頁8行ないし15行)との記載があるほか、本願図面の第3図にも、乾燥機本体1の前面側及び後面側のそれぞれの端部にやや小さめの側壁を介在させた巾dを有して、乾燥機本体1の側面に設けられている窓穴が示されている。そして、穀粒乾燥機の構造からみて、本願考案の穀粒乾燥機における「窓穴」の「前後の機壁間に渡る巾」とは、本願図面の第3図に記載されたような乾燥機本体1の前面側及び後面側のそれぞれの端部にやや小さめの側壁を介在させた程度の「乾燥機本体1の前後の巾Dに略対応する巾d」(本願明細書の第13頁13行)を包含するものであって、実質的には、乾燥機本体の前後の巾の10分の8程度を包含することを意味する。そして、「開閉扉」の巾の場合も、「窓穴」の場合と意味するところは同様である。

ところで、穀粒乾燥機の機体側面の穀粒投入用のホッパーを、乾燥機本体の前後の機壁間に少なくとも2分の1以上の巾に設けることは、乙第1ないし第4号証に示されるように本願出願前周知である。そして、乙第1ないし第4号証に記載された穀粒投入用のホッパーの巾は、同ホッパーが奏する機能に照らし、本願考案の穀粒乾燥機の「窓穴」及び「開閉扉」の各巾に対応するものであることは明らかである。

そうすると、本願考案の穀粒乾燥機における「前後の機壁間に渡る巾」の意味は、前述のように乾燥機本体の前後の巾の10分の8程度を包含するものであるので、「窓穴」、「開閉扉」の巾を「前後の機壁間に渡る巾」にすることに特に困難性はない。

また、流穀板を前後の機壁間に渡る巾に設けることも周知である。

したがって、「張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板を前後の機壁間に設けることは当業者が必要に応じて適宜行いうる」ものとした審決の認定、判断に誤りはない。

なお、引用例には、原告が主張するような、穀粒乾燥機の「窓穴」及び「開閉扉」の巾は穀粒乾燥機の前後の巾の略3分の1であるという記載はなく、引用例全体の記載によれば、引用考案の穀粒乾燥機の「窓穴」、「開閉扉」の巾は、乙第1ないし第4号証に記載されたような従来周知のものと同程度のものである。

(3)  取消事由3にっいて

「一時的な貯留槽」は、窓穴及び流穀板を、「前後の機壁間に渡る巾」に設けることのみにより始めて形成されるものではなく、一時的に多量の穀粒が窓穴より投入され、前後方向にある程度の巾を有する窓穴及び流穀板を備えた穀粒乾燥機であれば、必然的に形成される性質のものであり、また、引用考案の穀粒乾燥機が、機内の底部に「流穀板」と「隔壁」により形成される「一時的な貯留槽」を有するものであることは前記のとおりであるから、穀粒の「一時的な貯留槽」への張込作業が、下部コンベア及び昇降機の処理能力の制約をうけることなくより短時間で行えるようになることは、単なる程度の差にすぎないものである。

なお、本願考案は、乾燥機本体の穀槽への張込作業に要する時間を直接左右する下部コンベア及び昇降機の処理能力を改良するものではないので、乾燥機本体の穀槽への張込作業が特に短時間で行えるようになるといっことはない。

また、本体を大きく作り変えないようにすることは装置の改良の基本であるから、「一時的に大量の穀粒を貯留させる貯留槽wが、機体内の導風路bを共用せしめるように利用することから、乾燥機本体1を、大きく作り変える必要もない」という本願考案の効果も当業者の予測し得る程度のものにすぎない。

したがって、原告が主張する本願考案の作用効果は、引用考案の穀粒乾燥機の作用効果に比較して、特に予想できないような優れたものということはできず、審決の認定、判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

成立に争いのない甲第2号証の1ないし3によれば、本願考案の概要は次のとおりであると認められる。

(1)  本願考案は、穀粒乾燥機において、乾燥すべき穀粒を、乾燥機本体の機内に装設せる穀槽に張込むための穀粒張込装置にっいての改良に関するものである(本願明細書第2頁6行ないし8行)。

(2)  この乾燥作業を行うために穀粒を穀粒乾燥機の機内の穀槽に対して張込む作業は、通常、圃場において収穫機により収穫した穀粒を麻袋に詰め込み、その麻袋を運搬車で穀粒乾燥機が設置してある作業場まで運び、作業場において運搬車の荷台から麻袋を取り卸して、それを穀粒乾燥機の近傍に運び、・・・張込用のホッパー内にこの麻袋から投入して、・・・該乾燥機本体1内の穀槽に張込むようにしている(同第2頁12行ないし第4頁5行)。このため、運搬車の荷台から麻袋を荷卸しする作業と、その麻袋を搬送する作業を行わなければならないだけでなく、乾燥機本体1の機体側面に装設せる張込用ホッパー7が、昇降機5の揚穀能力に見合う量の穀粒を投入していけるように、それの前後方向における開口巾Dを乾燥機本体1の機体の前後長さの約3分の1程度と狭く形成してあり、かっ、そのホッパー7の基端に接続して乾燥機本体1の機体側面に開放する窓穴70の下縁と下部コンベア4の搬送樋41の外縁との間に渡架される流穀板6も、窓穴70の開口巾Dに対応する前後長さに形成してあって、このホッパー7を昇降機5の揚穀能力に合わせた量ずっの穀粒が投入されるように構成してあることで、・・・穀粒の投入を、昇降機5の揚穀能力以下の量に押えて投入していかねばならず、この張込作業に時間を要する問題がある(同第4頁6行ないし第5頁10行、別紙図面1第5図参照)。

本願考案は、これらの問題を解消するためになされたものであって、乾燥すべき穀粒の穀粒乾燥機の機体内に対する張込作業が、下部コンベア及び昇降機の処理能力の制約を受けずに短い時間で、しかも、乾燥機本体の容積を増大させることを要さずに行えるようにする新たな手段を提供することを目的とする(同第5頁11行ないし第6頁2行)。

(3)  本願考案は、上記目的を達成するために、前記本願考案の要旨のとおりの構成を採択したものである。

(4)  本願考案の作用効果は次のとおりである。

穀粒を乾燥機本体の機内に張込むときに、機体の側面に前後の巾一杯に設けた張込用の窓穴を用いて穀粒を投入することで、機内の底部に設けてある導風路を共用するよう利用した貯留槽内に極く短い時間で一時的に貯留しておき、その状態から下部コンベア及び昇降機の作動で、順次貯留部たる穀槽に移し換えていけるようになるので、穀粒の張込作業が、下部コンベア及び昇降機の処理能力に制約を受けることなく、短時間で行えるようになる(同第18頁14行ないし第19頁8行)。また、この一時的に大量の穀粒を貯留する貯留槽が、機内の導風路を共用せしめるように利用することから、乾燥機本体を大きく作り変える必要もない(同第19頁8行ないし11行)。

3  取消事由に対する判断

引用例に「乾燥機本体の機体側面で、機内に設けられる乾燥部の穀粒の流下路の外側の導風路に対応する部位に、その導風路に通ずる張込用の窓穴を開設するとともに、その窓穴を開閉するよう穀粒張込用の開閉扉を装設した穀粒乾燥機」が記載されていること、本願考案と引用考案との相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(1)  取消事由1について

<1>  前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書の実用新案登録請求の範囲には、「流穀板」について「機内の底部に前後方向に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される」と記載されていること、考案の詳細な説明には、「4は前記ドラムシャッター22の回転作動で流出口21から流出する穀粒を乾燥機本体1の外部に搬出するよう乾燥機本体1の内腔底部に設けた下部コンベアで、スクリュー40と搬送樋41とよりなり」(本願明細書第10頁10行ないし14行)、「第1図において、6、6は、・・・流穀板で、乾燥機本体1の側壁11の内面と前述の乾燥機本体1内腔の底部に装設せる下部コンベア4の搬送樋41の上縁との間に、搬送樋41側に向け下降傾斜せしめて、前記側壁11内面と搬送樋41の上縁とを接続するように装設してあり、かつ、それの乾燥機本体1の前後方向においては、乾燥機本体1の前後の機壁10・10間に渡架するようにして、前述の導風路b・bの底面をそっくり塞ぐようにしてある。」(同第12頁6行ないし13頁3行)と各記載されていることが認められ、これらの記載と本願図面第1図(別紙図面第1図)によれば、本願考案の「流穀板」は、下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁とに渡架されるものであり、張込用ホッパーに投入された穀粒を下部コンベアに導く役割を持っているものと認められる。

ところで、前掲甲第2号証の2、成立に争いのない乙第1号証(実公昭47-17727号公報)、第2号証(実願昭56-11240号の願書を撮影したマイクロフィルム)及び第5号証(実公昭45-25474号公報)によれば、穀粒乾燥機において、穀粒を昇降機の揚穀塔の下部に運び入れるためには、コンベアが搬送樋を有していなければならないこと及び開口部から投入された穀粒を上記コンベアまで導くためには、開口部から搬送樋までを接続する板状部材(本願考案及び乙第5号証記載の考案では「流穀板」と称せられる。)が必要であることは、いずれも当業者にとって当然の技術的事項であること、搬送樋と流穀板は、原告も自認するように、通常別異の部材とされているが、両者は必ずしも別体として形成する必要はなく、要は開口部からコンベアまで投入穀粒を導く部材として両者を一体として形成してもよく、いずれも従来より普通に用いられていた手段であること(前掲乙第2号証に示される乾燥機は前者であり、乙第1号証及び第5号証に示される乾燥機は後者である。)が認められ、本願考案における「下部コンベア4の搬送樋41の外端縁」及び「流穀板6」というのも、上記従来技術を採択したものであって、本願考案にだけみられる特殊の構成ではない。

成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例には、「その穀槽2の落下口より流出せしめた穀粒をその穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベア3に向けて導くように穀槽2の下方位置に具備せしめてある流穀板4の上面と通ずる位置に、開口5をあけて、」(第1頁2欄10行ないし14行)、「穀槽2の下方に配位して機内に設けてあるスクリューコンベア3と該スクリューコンベア3と連通する昇穀機6を利用して、穀槽2に対し低い位置から穀粒を送給し得るように、機壁1の、前記スクリューコンベア3に穀粒を導く流穀板4の上面と通ずる位置に開口5を設けて」(第2頁3欄38行ないし44行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、引用考案において、板状の部材4は「流穀板」と称せられ、この流穀板4は、開口5からスクリューコンベア3に渡架するように設けられており、ホッパーaに投入した穀粒をスクリューコンベア3に導く役割を持っているものと認められる。しかして、前記認定のように、穀粒乾燥機である以上、引用考案においても、コンベアが搬送樋を有するのであり、この搬送樋の外端縁と「流穀板4」とは、両者が一体として形成されているか、別体として形成されているかにかかわりなく(この点前掲甲第3号証によるも、引用考案では必ずしも明らかではない。)、接続されているものと認めるのが相当である。したがって、原告が主張するように、引用考案の流穀板4が本願考案における「下部コンベア4の搬送樋41の外端縁」と対応する部材でないことは、明らかである。

そして、流穀板は、開口部から入れられた穀粒を下部のコンベアまで導くものであるから、開口の下縁とも接続していなければならないことは当然であるが、その接続の態様も、本願考案の実用新案登録請求の範囲において特に規定されている訳ではなく、本願図面第1図記載のものは、流穀板が網状と認められる連通口82を介して窓穴70の下縁と接続していることに照らしても、流穀板が何らかの形態で開口の下縁と接続されていればよいものと解される。

このような観点から引用例の図面第1図をみれば、同図記載の穀粒乾燥器の流穀板4は開口5の下縁と接続しているものと認められる。

なお、原告は、引用例の図面第1図に示された穀粒乾燥機と同第2図ないし第5図に示された穀粒乾燥機とは別個のものであり、第2ないし第5図には内部の構造が示されていない旨主張するが、引用例の出願公告に係る考案(その実施例が第2ないし第5図記載のもの)は、第1図に記載された従来の穀粒乾燥機の張込用のホッパーの部分を改良するものであって、上記従来の穀粒乾燥機と同一の内部構造を有するものであることは引用例の記載からみて明らかであるから、原告のこの主張は理由がない。

以上のとおりであるから、引用例には、「機内の底部に前後方向に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板」が記載されているものというべく、引用考案の流穀板と本願考案の流穀板とは別異のものであり、引用例には、「下部コンベアの搬送樋の外端縁と窓穴の下縁とに渡架される流穀板」についての記載はない旨の原告の主張(請求原因4(1)<1>)は理由がない。

<2>  前掲甲第3号証によれば、引用例の図面第1図には、穀粒乾燥機の内部に設けられた穀槽2の傾斜した底面を表す破線が開口5及び流穀板4と相当程度の間隔をおいて互いに対峙するように記載されていること、同第5図には、穀槽2の部分が網状の部材で形成されて、開口5の内部に同開口と対峙するように配置されて記載されていること、引用例には、「乾燥作業中に穀槽2内の穀粒に送給されてその穀槽2を吹き抜けた乾燥風が、この開口5から機壁1の外に吹き出て、四周に塵埃を飛散させる問題があり、」(第1頁2欄32行ないし35行)と記載されていることが認められる。

これらの各記載からすると、引用例の図面第1図に記載された穀槽2の傾斜した底面を表す破線及び図面第5図で開口5の内部に配置されている網状の部材は、穀槽2の落下口へ向けて穀粒を流下させる流下路と穀槽2を吹き抜けた乾燥風の導風路を区劃する「穀粒の流下路の隔壁」であると認めるのが相当である。

ところで、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書には、「張込用の窓穴を用いて穀粒を投入することで、機内の底部に設けてある導風路を共用するよう利用した貯留槽内に極く短い時間で一時的に貯留しておき、その状態から下部コンベアおよび昇降機の作動で、順次貯留部たる穀槽に移し換えていけるようになる」(第19頁1行ないし6行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、本願考案の穀粒乾燥機においては、乾燥機の窓穴に投入された穀粒は、下部コンベアにより昇降機への移し換えが終了するまでは、「隔壁」と「流穀板」により形成される空間に一時的に貯留されることになる。

そうすると、本願考案における「一時的な貯留槽」は、窓穴及び流穀板を「前後の機壁間に渡る巾」に設けることのみにより始めて形成されるものではなく、窓穴及び流穀板を備え、一時的に多量の穀粒が窓穴より投入される穀粒乾燥機であれば、必然的に形成されるものと解される。

一方、前掲甲第3号証によれば、引用考案の穀粒乾燥機は、穀粒の投入作業を「ホッパーa内に穀粒が入っている麻袋ごと投入して行う」(同号証の第1頁2欄36行、37行)ことを前提とするものであって、一時的に相当多量の穀粒が窓穴(開口5)より投入されるものであると推測される。そして、同穀粒乾燥機の「流穀板」が、投入された穀粒を穀槽2の下方に配設せるスクリューコンベア3に導くものであること及び「穀粒の流下路の隔壁」と「流穀板」が、相当程度の間隔をおいて互いに対峙するよう配置されるものであることは前記認定のとおりである。

そうすると、引用考案の穀粒乾燥機も、ホッパーaには一時的に相当多量の穀粒が投入されるものであって、ホッパーaより「流穀板」に導かれた相当多量の穀粒が、スクリューコンベア3による昇降機への送給が終了するまでは、「流穀板」と「隔壁」の間に一時的に貯留されるものと認められる。

したがって、引用例には、「流穀板と穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部に、導風路と共用せしめて形成される一時的な貯留槽」が記載されているものというべく、これに反する原告の主張(請求原因4(1)<2>)は採用できない。

<3>  以上のとおりであって、引用例には「乾燥機本体の機内には、その機内の底部に沿い装設せる下部コンベアの搬送樋の外端縁と前記窓穴の下縁とに渡架される流穀板を装設して、その流穀板と前述の穀粒の流下路の隔壁とにより、機内の底部で張込用の窓穴に通ずる穀粒の一時的な貯留槽を導風路と共用せしめて形成した穀粒乾燥機」が記載されているとし、この認定を前提として、本願考案と引用考案とは上記構成において一致しているとした審決の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>  前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書の考案の詳細な説明には、本願考案の実施の一例を説明する記載の中に、「窓穴」について「70は乾燥機本体1の側面に設けた張込用の窓穴で、(中略)第3図に示している如く、乾燥機本体1の前後の巾Dに略対応する巾dをもって機内の前記流下路aの外側の空室に通ずるように開設してあり」(第13頁8行ないし15行)との記載があること、本願図面第3図(別紙図面1第3図)には、乾燥機本体1の前面側及び後面側のそれぞれの端部にやや小さめの側壁を介在させた巾dを有して、乾燥機本体1の側面に設けられている「窓穴」が示されていることが認められ、これらの記載によれば、本願考案の穀粒乾燥機における「窓穴」の「前後の機壁間に渡る巾」とは、本願図面第3図に記載されたような乾燥機本体1の前面側及び後面側のそれぞれの端部にやや小さめの側壁を介在させた程度の「乾燥機本体1の前後の巾Dに略対応する巾d」を包含するもので、小さめの側壁をできるだけ小さくして、「窓穴」をできるだけ巾Dに近づけて形成されるものと解するのが相当である。

そして、「開閉扉」は窓穴70に、これを開閉自在に塞ぐものとして装設される(本願明細書の第14頁2行、3行)のであるから、その巾の態様も「窓穴」の場合と同様であると考えられる。

次に、引用考案の穀粒乾燥機における窓穴(開口5)及び開閉扉(蓋板10)についてであるが、引用例には、これらの部材が乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に開設されている旨の記載がないことは当事者間に争いがない。なお、原告は、引用考案における開口5及び蓋板10はいずれも、穀粒乾燥機Aの前後の巾に対し略3分の1の巾に装設してある旨主張するが、引用例(甲第3号証)の図面の記載からしても、開口及び蓋板が乾燥機の前後の巾に対してどの程度のものとして装設されているか必ずしも明らかではない。

ところで、前掲乙第1号証には、乾燥機本体の前後の巾の3分の1以上の巾を有するホッパー21(開口に相当)が設けられている穀類乾燥機が、同乙第2号証には、乾燥機本体の前後の巾の略3分の2の巾を有する張込ホッパー16を設けられている穀物乾燥機が、成立に争いのない乙第3号証(昭和47年9月発行の「シズオカ立体乾燥機」のカタログ)には、乾燥機本体の前後の巾にほぼ等しい開口が設けられているRK-5F型乾燥機が、同乙第4号証(昭和46年2月発行の「シズオカ乾燥機勢揃い」のカタログ)にも、乾燥機本体の前後の巾にほぼ等しい開口が設けられているRK-5型乾燥機がそれぞれ記載されていることが認められ、これらの記載によれば、穀粒乾燥機の窓穴及び開閉扉の巾は、乾燥機本体の前後の巾に対して比較的自由に設計できるものと考えられる。

原告は、上記乙第3、第4号証に示されたRK型式の乾燥機は本願考案のものとは内部構造が全く異なる「立体型乾燥機」であるから、機体内の底部に広い空間を構成するように形成される導風路の内部空間を、大量の穀粒を短時間だけ一時的に収容させる貯留槽に利用するという本願考案の技術思想の基本となる着想と係わりのない技術である旨主張する。

しかし、本願明細書の実用新案登録請求の範囲には、本願考案が「立体型乾燥機」とは異なる形式のもの、例えば循環型乾燥機のようなものであるとの記載はもとより、これを示唆するところもないのであるから、原告の上記主張はその前提において誤っており採用できない。

<2>  次に、前掲乙第5号証には、流穀板を乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に開設した乾燥機が記載されていること、及び前掲乙第2号証記載の穀物乾燥機において、スクリューコンベア9が乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に形成されていることからして、傾斜壁13及び受漏斗10(流穀板に相当するもの)も同様の巾に設けられているものと推認されることからすると、流穀板を乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に装設することは、本願出願当時周知の技術であると認められる。

<3>  以上のとおりであるから、張込用の窓穴、開閉扉及び流穀板を前後の機壁間に設けることは当業者が必要に応じて適宜行い得ることであるとした審決の認定、判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

<1>  前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書には「穀粒を穀粒乾燥機の穀槽に対して張込む作業は、」(第2頁12行、13行)との記載があり、この記載によれば、「張込作業」とは、穀粒を乾燥機の窓穴から投入し、一時的な貯留槽を経て穀粒乾燥機の機内の穀槽にまで投入する作業をいうものと認められる。そして、同号証の2によれば、本願明細書には、「乾燥機本体1の機体側面に装設せる張込用ホッパー7が、昇降機5の揚穀能力に見合う量の穀粒を投入していけるように、それの前後方向における開口巾Dを乾燥機本体1の機体の前後長さの約3分の1程度と狭く形成してあり、かつ、そのホッパー7の基端に接続して乾燥機本体1の機体側面に開放する窓穴70の下縁と下部コンベア4の搬送樋41の外縁との間に渡架される流穀板6も、窓穴70の開口巾Dに対応する前後長さに形成してあって、このホッパー7を昇降機5の揚穀能力に合わせた量づつの穀粒が投入されるように構成してあることで、・・・穀粒の投入を、昇降機5の揚穀能力以下の量に押えて投入していかねばならず、この張込作業に時間を要する問題がある。」(第4頁8行ないし第5頁10行)、「そして、このようにして、機内の底部に前後の機壁間に渡る貯留槽を形成したとき、穀粒を投入していく張込用の窓穴70の開口巾が狭いと、投入した穀粒が機内の貯留槽の全巾に流れ込むようにはならず、前後に空間を残したまま窓穴70から外に溢れるようになって、広い容量の貯留槽を機内に設けた利益が少しも得られないようになるが、このとき、機体の側面に開設しておく張込用の窓穴70を、乾燥機本体1の前後の機壁間に渡るよう前後に巾広く形成しておけば、穀粒の投入位置を、その巾広の窓穴70に沿い変更していくことで、貯留槽の全域に簡単に穀粒を充たしていけるようになる」(第6頁12行ないし第7頁9行)との各記載があることが認められ、これらの記載と本願考案の要旨によれば、「穀粒の張込作業が、下部コンベアおよび昇降機の処理能力に制約を受けることなく、短時間で行えるようになる」という本願考案の作用効果は、従来の穀粒乾燥機が、窓穴の開口巾が狭かったため、穀粒を堆積する際の安息角の関係でデッドスペース(穀粒が流れ込まない空間)が形成され、そのために、一度に大量の穀粒を投入することができず、コンベアの処理能力に合わせて何度かに分けて投入しなければならず、穀粒の投入作業に時間がかかったが、本願考案のように、流穀板を下部コンベアと同様に乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に設け、かつ、窓穴及び開閉扉も同様な巾に設けることにより、貯留槽の空間を一杯に利用することができ、張込作業の一部である投入作業の時間を短くできるというものであると認められる。

ところで、流穀板を下部コンベアと同様に乾燥機本体の前後の機壁間に渡る巾に設けることは、前記のとおり本願出願前に周知の技術である。そして、一般に、穀粒乾燥機において窓穴を巾広く形成すれば、それだけ広い巾の部位から穀粒の投入作業を行うことができ、これにより堆積の際の安息角の影響を受けることなく、機壁間に渡る巾に設けられた貯留槽の巾一杯に穀粒の投入が行えるであろうことは、当業者であれば容易に予測できることである。

そして、引用考案の穀粒乾燥機が、機内の底部に「流穀板」と「隔壁」により形成される「一時的な貯留槽」を有するものであることは、前記(1)に説示のとおりである。

以上によれば、穀粒の「一時的な貯留槽」への張込作業の一部である投入作業が、下部コンベア及び昇降機の処理能力の制約を受けることなく、より短時間で行えるようになるという本願考案の作用効果は、当業者が予測し得る程度のものにすぎないというべきである。

<2>  次に、本願考案の「一時的に大量の穀粒を貯留させる貯留槽が、機内の導風路を共用せしめるように利用することから、乾燥機本体を、大きく作り変える必要もない。」という作用効果についてであるが、引用考案の穀粒乾燥機も、機内の底部に「一時的な貯留槽」を有するものであり、この貯留槽が機内の導風路を共用せしめるように利用していることは前記のとおりであるから、「乾燥機本体を大きく作り変える必要がない」という作用効果は、単なる程度の差にすぎないものというべきである。

<3>  以上のとおりであるから、本願考案について、特に予測できないような優れた効果があるものとは認めることができないとした審決の認定、判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙 図面1

<省略>

別紙 図面2

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例