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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)220号 判決 1994年2月03日

東京都大田区羽田旭町11番1号

原告

株式会社 荏原製作所

代表者代表取締役

藤村宏幸

訴訟代理人弁護士

高村一木

訴訟復代理人弁理士

渡邉勇

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

安田徹夫

鍜冶澤實

田辺秀三

中村友之

主文

特許庁が平成1年審判第5035号事件について平成3年7月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年9月30日、名称を「組合せ摺動部材」(後に名称を「ポンプ用ジャーナル軸受及びそれを用いたポンプ」に補正。)とする発明についての特許出願をしたところ、平成1年2月7日、拒絶査定を受けたので、同年3月30日、この拒絶査定に対する審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成1年審判第5035号事件として審理したが、平成3年7月4日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載のとおり)

1.ポンプ軸をポンプの取扱液の流路内に通すポンプ装置において、取扱液の流路内に露出して設け、流路内の取扱液及び空気中で潤滑され、その同転側部材をタングステンカーバイト(WC)含有量90重量%以上の超硬合金とし、固定側部材を窒化ケイ素(Si3N4)又は炭化ケイ素(SiC)よりなるセラミックスにより構成したことを特徴とするポンプ用ジャーナル軸受(以下「本願第1発明」という。)。

2.回転側部材をタングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上の超硬合金とし、固定側部材を窒化ケイ素(Si3N4)又は炭化ケイ素(SiC)よりなるセラミックスにより構成したポンプ用ジャーナル軸受を、取扱液及び空気中で回転されるポンプ軸上に少なくとも1個設けたことを特徴とするポンプ軸をポンプの取扱液の流路内に通すように構成されたポンプ(以下「本願第2発明」という。)。

(以下本願第1発明と本願第2発明とを総称して「本願発明」という。)(別紙図面1参照)

3  審決の理由

審決の理由は別紙平成1年審判第5035号審決書写し理由欄記載のとおりである。(但し、8頁7行「第1から第4」とあるは「第2から第4」の誤記であることは認める。)(引用例記載の発明については別紙図面2参照。)

4  取消事由

(1)  審決の理由の認否

本願発明の要旨及び引用例の記載事項は認める。周知事項1のうち、審決摘示の趣旨の記載が審決摘示の文献にあることは認め、単にその主成分であるWCの含有量のみが特定されても、その機械的性質は一意には決まらないとの点は争う。周知事項2のうち、Si3N4又はSiCを軸受部材の一方側の部材として用いることは本願発明の出願前周知であったことは認め、その余は争う。本願第1発明及び第2発明と引用例記載の発明との対比のうち、回転側部材に超硬合金を用い、固定側にセラミックスからなる軸受摺動部材を配している点で本願第1発明及び第2発明と引用例記載の発明とが一致していること及び本願第1発明と引用例記載の発明との第1ないし第4の相違点は認め、本願第2発明と引用例記載の発明との相違点については、本願第1発明と引用例記載の発明との第2ないし第4の相違点と同じ相違点及び第5の相違点があるとする点は認めるが、引用例記載の発明と本願第1発明及び第2発明とが耐久性に優れたポンプ構成を得るためである点で一致することは争う。本願第1発明と引用例記載の発明との相違点の検討のうち、第1の相違点の判断については、取扱液が引用例記載の発明においても軸受摺動面を通過することは認めるが、本願第1発明の軸受配設箇所と、引用例記載の発明における軸受配設箇所とに実質的な相違は存在しないとの点は争う。第2及び3の相違点についての判断はすべて争い、第4の相違点についての判断は認め、本願第1発明と引用例の記載事項との間には、実質的な相違はなく、両者は同一のものであるとの審決の判断は争う。本願第2発明と引用例記載の発明との第5の相違点についての判断はすべて争う。

(2)  本願第1発明と引用例記載の発明との相違点の看過(取消事由1)

<1> 審決は、本願第1発明のポンプ用ジャーナル軸受に関する「空気中で潤滑され」という構成が引用例記載の発明にはない点で両発明が相違することを看過した。

従来の立軸ポンプや斜軸ポンプの水中軸受は、起動直前には空気中にあることが多いが、起動時には潤滑液中、又は、取扱液中において潤滑状態にあるようにされており、「空気中で潤滑される」ことはないように構成されているタイプのものが普通であるが、起動時に「空気中で潤滑され」、定常運転時には「取扱液中で潤滑され」るタイプのものがある。いいかえれば、従来の立軸ポンプや斜軸ポンプにおいて、少なくとも、上記二つのタイプがあり、本願明細書の第1図と第5図にこの二つのタイプが示されている。したがって、従来の立軸ポンプや斜軸ポンプの水中軸受は常に「空気中で潤滑される」構成を備えるものとはいえない。

しかして、引用例には、「空気中で潤滑される」構成については、何らの記載も示唆もない。

引用例の「このような構成のキャンドポンプは、運転する際ポンプ部分1に水が入ると透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8に水が入る。」(甲第3号証2頁右上欄12行ないし14行)との記載中の「運転する際」との記載は、ポンプ軸を回転させ始める前を意味し、上記記載に続く「そして、運転されると摺動部12、13に夫々流通孔18、19を介して水がわずかに流通することになり、メタル14、15の摩耗が少なくなるよう潤滑される」(同号証2頁右上欄15行ないし18行)との記載から運転されるとその当初から水による潤滑が行なわれることを示していることが明らかである。さらに、引用例記載の発明において、キャンドモータを用いることが音の低減にあり、その音の低減はキャンドモータに水が封入されていることによる旨の記載があるから、運転する際には既にキャンドモータに水が封入されていることが重要な要件である。

したがって、引用例記載の発明の軸受が「空気中で潤滑される」ことはない。

<2> 審決は、本願第1発明のポンプ用ジャーナル軸受はその回転側部材の超硬合金、固定側部材のセラミックスに特定の成分ないし素材、すなわち、回転側部材の超硬合金に特定の含有量(90重量%)のタングステンカーバイド及び固定側部材のセラミックスに窒化ケイ素又は炭化ケイ素よりなるセラミックスを用い、その組合せによって特有の作用効果を得たものであるのに対し、引用例記載の発明にはそのような成分ないし素材の特定がない点で両発明は実質的に相違するにもかかわらず、実質的な相違点でないと誤って判断した。

超硬合金に関する日本工業規格(甲第11号証)によると、超硬合金のタングステンカーバイドの含有量の最低値は60%程度まであり相当に幅がある。審決摘示の周知事項1でいう主成分はかかる範囲を意味すると解されるから、引用例記載の発明に用いられる超硬合金がかかる範囲のものと解されるところ、本願第1発明の構成要素であるタングステンカーバイド含有量90重量%の超硬合金とは、同一とはいえない。

甲第5及び第6号証は、回転側部材について何ら言及しておらず、同第7号証は、回転側部材としてモリブデン、クロム、ケイ素及びコバルトからなる金属材料が用いられていることが開示されているにすぎない。上記甲号証は、窒化ケイ素又は炭化ケイ素が軸受部材の一方側の部材として使用されることがあるということが周知事項であることを示唆するにすぎない。

甲第12、第13号証及び乙第1号証において、本願第1発明と同一の目的が開示されているが、その課題解決のために提案する無潤滑起動の軸受部材の構成は本願第1発明と異なる。乙第2号証では、無潤滑起動の軸受部材として本願第1発明と異なる材質のものが示唆されているにすぎない。乙第3ないし第6号証はポンプ以外の無潤滑軸受に関するものである。

前記<1>のとおり、本願第1発明は、軸受部材が無潤滑状態での起動の構造をとることを要件としているが、引用例記載の発明にはかかる要件は開示されていないのである。本願第1発明は上記の要件の下に本願第1発明の構成要件となっている回転側部材と固定側部材の組合せに想到したものである。したがって、タングステンカーバイド含有量を90重量%の超硬合金と特定された回転側部材に組み合される固定側部材のセラミックスに窒化ケイ素又は炭化ケイ素よりなるセラミックスを用いることは、回転側部材として単に超硬合金(WC-Co)、固定側部材としてセラミックスとだけしか特定されていない引用例記載の発明から当業者なら格別の困難なくできるものではない。

<3> 本願第1発明は、前記<2>のような構成を有することにより、無潤滑状態と潤滑状態とがくり返し出現する条件の下で作動する場合に極めて安定した摺動特性を有しまた水潤滑の場合でも従来にはない優れた摺動特性があり、スラリー液中で摺動する場合であっても、その良好な摺動特性を維持するという効果を奏するのであるが、これに対して引用例記載の発明は無潤滑状態での摺動を予定しているものではないから、上記のような効果は有していないし、取扱液として清浄水を予定しており、本願第1発明のようにスラリー液中での使用など考慮していないことが明らかである。したがって、引用例記載の発明は本願第1発明の奏する効果と同一の効果を奏するものではない。

審決は、前記<1>の相違点を看過し、<2>の相違点について実質的な相違点でないと誤って判断し、本願第1発明のかかる相違点が奏する格別の効果についての判断を誤った結果、本願第1発明と引用例記載の発明とは同一であると誤って判断した。

(3)  本願第2発明と引用例記載の発明との相違点の看過(取消事由2)

本願第2発明が前項で述べたと同一の点において、引用例記載の発明と構成及び効果において相違するにもかかわらず、審決は、本願第2発明と引用例記載の発明とは同一であると誤った認定をした。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4の主張は争う。審決の認定及び判断は正当であって、取り消すべき違法はない(但し、審決書写し8頁7行「第1から第4」とあるは「第2から第4」の誤記である。)

2(1)  取消事由1について

<1> 審決が相違点1として、「本願第1発明は、軸受が『取扱液の流路内に露出して設けられており、流路内の取扱液及び空気中で潤滑される』ことを構成要件としていることから、軸受はポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所に配されているのに対して引用例の記載事項は、軸受部分に潤滑のために注水すると記載されているが、ポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所に位置していない点。」を認定したのは、上記「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との要件は、ポンプが作動されたときに発生する現象を示しているにすぎず、物の発明の構造を特定する構成とはいえないからである。

すなわち、乙第1号証及び甲第12、第13号証によれば、従来の立軸ポンプや斜軸ポンプにおいて外部から潤滑油の供給あるいは軸受部への注水等の保護手段を設けずに、軸受が空気中、すなわち、外部から潤滑油を加えることのない無潤滑条件下で使用されるものは、本願出願前周知であり、昭和52年当時において立形ポンプでは起動初期の短時間は取扱液である流体が確保できない、すなわち、空気中で運転されることがあるから、自己潤滑性をもった軸受が必要とされていた(乙第2号証)ことを併せて考えると、本願第1発明が適用される立軸ポンプや斜軸ポンプでは、ポンプ起動運転の際には気体中(無潤滑条件下)で駆動され、その後の定常運転時には取扱液中で駆動されるとの現象が発生することは本願出願前周知のことであり、「ポンプ軸をポンプの取扱液の流路内に通すポンプ装置である」本願出願前周知の立軸ポンプや斜軸ポンプにおいては、上記構成要件の「取扱液の流路内に露出して設けられており、流路内の取扱液及び空気中で潤滑される」のうち、(軸受が)「取扱液の流路内に露出して設けられており」の部分だけ構造を特定する構成要件といえるので、この構成要件をもって引用例記載の発明の構成要件と対比して、相違点1を認定したものである。

したがって、「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との要件は、相違点を構成しない。

なお、引用例の記載事項には「このような構成のキャンドポンプは、運転する際ポンプ部分1に水が入ると透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8に水が入る。」とあるが、引用例の「ポンプ部分1は、上下に配管が施されるフランジ3、4が設けられたケーシング5と」(甲第3号証2頁左上欄11行ないし12行)との記載及び添付図面を併せて考えると、引用例の記載事項の上記部分は、「運転する際、フランジ4に施された配管からポンプ部分1に水が入ると、透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8に水が入る。」との趣旨と解されることになり、「運転する際」とは、ポンプ軸を回転させ始める際ということであり、フランジ4には配管が施され、その結果、キャンドモータポンプは水面すなわち取扱液面から上方に露出して設置されることが予測されることを考慮すれば、結局、ポンプ部分1に水が入るまでは軸受は「空気中で潤滑され」ており、その後、水、すなわち取扱液で潤滑されることが引用例に記載されていることになり、引用例記載の発明も「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との要件を開示しているから、原告主張のような相違点は存在しない。

なお、本願出願前の軸受分野において、軸受摺動部分をセラミックスで形成した軸受が、空気中で、すなわち潤滑剤を外部から加えることのない無潤滑状態で使用されて摺動特性を失うことがないことも技術常識であった(乙第3ないし第6号証)から、引用例記載の発明においても軸受がその組合せ構成からして「取扱液及び空気中で潤滑され」るという条件下で役立つことは明らかである。

原告提出の甲第9、10号証は、本願出願後に頒布された刊行物であり、同号証に記載されたキャンドポンプと引用例に記載されたキャンドポンプとは明らかに構造を異にしている。

<2> 引用例の記載事項によると、「軸受を構成するメタル14、15および摺動部12、13は、摺動による摩耗に対してはもちろん、…、メタルにセラミック、軸に超硬合金(WC-Co)を採用し試みたところきわめて長寿命であることが判明した。」と明記されており、このような摩耗に対して長寿命な超硬合金はG種とD種が用いられ、両種におけるWCの含有量が90%以上であることは明らかである(甲第11号証表2及び参考表)から、引用例記載の発明における超硬合金(WC-Co)もその用途からみてG種とD種が用いられ、本願第1発明の構成要件である「タングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上の超硬合金」との間に明確な差異は存在しない(なお、本願明細書に記載された摺動試験に用いられた超硬合金は、G種3号品である。)。

次に、甲第5号証は、軸受部の成分の一つとして炭化ケイ素を含ませるものを開示し、甲第6号証は、軸受部材の表面を炭化ケイ素に転化させる製造法に関するものを開示し、いずれも耐酸化性及び耐摩耗性の向上を効果としており、さらに、甲第7号証にはポンプの摺動面部材である軸受スリーブに窒化ケイ素又は炭化ケイ素を用いることが開示されている。したがって、軸受部材として、耐酸化性及び耐摩耗性の向上を図るために、窒化ケイ素又は炭化ケイ素を用いることは、本願出願前周知であることは明らかであるから、耐酸化性及び耐摩耗性の向上のために窒化ケイ素又は炭化ケイ素よりなるセラミックスを軸受メタルとして用いることは本願出願前周知である。そしてまた、当業者にとって軸受部材として窒化ケイ素又は炭化ケイ素を用いることは格別の困難性は存在しない。

<3> 前記<2>のとおり、タングステンカーバイド(WC)含有量において、本願第1発明と引用例記載の発明とは明確な差異はなく、また、セラミックス素材については、引用例記載の発明に周知技術を採用したものと同等であるから、軸受の回転側部材と固定部材との組合せ構成は実質的に同一であり、その構成が同一である以上効果も当然に同一である。

(2)  取消事由2について

(1)で述べたとおり、本願第2発明と引用例記載の発明との間に実質的な相違点は存在しない。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由)(審決書8頁7行「第1から第4」とあるは「第2から第4」の誤記である。)は当事者間に争いはない(但し、周知事項2についての記載中、Si2N4の記載はSi3N4の誤記と認められる。)。

(2)  本願第1発明及び第2発明の要旨及び引用例の記載事項周知事項1のうち、審決摘示の文献に審決摘示の趣旨の記載があること(但し、単にその主成分であるWCの含有量のみが特定されても、その機械的性質は一意には決まらないとの点は除く。)、周知事項2のうち、Si3N4又はSiCを軸受部材の一方側の部材として用いることは本願発明の出願前周知であったこと、本願第1発明及び第2発明と引用例記載の発明との対比のうち、回転側部材に超硬合金を用い、固定側にセラミックスからなる軸受摺動部材を配している点で一致していること及び本願第1発明と引用例記載の発明との第1ないし第4の相違点、本願第2発明と引用例記載の発明との相違点については、本願第1発明と引用例記載の発明との第2ないし第4の相違点と同じ相違点及び第5の相違点があるとする点は当事者間に争いがない。

2  本願発明の概要

当事者間に争いがない本願発明の要旨、成立に争いのない甲第2号証の1及び2(願書添付明細書及び平成1年5月1日付け手続補正書)によれば、(1) 本願発明は、液体中及び気体中で使用されるポンプ用ジャーナル軸受及びそれを用いたポンプに関し、特に、起動時及び停止時に空気中におかれ、定常運転時に水中またはスラリー中におかれて摺動する立軸ポンプあるいは斜軸ポンプの水中軸受及び該軸受を用いたポンプに関するものであること、従来の立軸ポンプあるいは斜軸ポンプの水中軸受にはゴム軸受、鉛青銅軸受等の軸受が使用されていたが、これらの軸受は、ポンプを起動する際、気体中におかれていることが多く、そのままの状態(無潤滑条件下)で起動すると、摺動部から激しく発熱し軸受部が速やかに破損されるため、起動時の無潤滑条件下の運転時の水中軸受の保護手段として、潤滑油の供給あるいは軸受部への注水等があったこと、このような保護手段を採用することによって、多大な設備費を強いられること、本願発明は、液体中及び気体中で使用されるポンプ用ジャーナル軸受において、双方の使用条件下で、安定した摺動特性を持つジャーナル軸受及びそれを用いたポンプを提供すること、特に、立軸ポンプあるいは斜軸ポンプの水中軸受として、ポンプ起動時における無潤滑条件下でも起動が可能であり、起動後の定常運転時においても良好な摺動特性を示し、しかも、清水中のみならず海水の如き良電導度液体やスラリー液中においても安定した摺動特性を示すポンプ用ジャーナル軸受及びそれを用いたポンプを提供することを目的として、特許請求の範囲の記載のとおりの構成を採択したものであること、(2) 本願第1発明のジャーナル軸受、すなわち、回転側部材を超硬合金とし、固定側部材を窒化ケイ素セラミックス又は炭化ケイ素セラミックスとしたポンプ用ジャーナル軸受は、空気中、水中あるいはケイ砂・アルミナ粒子を含むスラリー液中においても安定した摺動特性を示すものであるから、無潤滑状態と潤滑状態とがくり返し出現する条件の下で作動する摺動部に好適であること、本願第1発明のジャーナル軸受を立軸ポンプあるいは斜軸ポンプに適用した場合、軸受部材を小さくできるので、安価で簡単な構造のものとすることができることが認められる。

3  原告主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  本願第1発明の特許請求の範囲に記載された「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」の技術的意義を検討するに、上記のように潤滑されるのはポンプ用ジャーナル軸受であり、上記文言が同軸受を特定するものであることはその文脈上明らかであるが、この点をさらに前記2の認定及び前掲甲第2号証の2の発明の詳細な説明における「ポンプ起動時における無潤滑条件下でも起動が可能であり」(6頁4行ないし5行)、「気体中、即ち無潤滑条件下においてポンプの起動が可能であり」(7頁13行ないし14行)、「本発明によれば、無潤滑条件下、即ち気体中において摺動する場合であっても極めて安定した摺動特性を有し」(17頁17行ないし19行)の記載によりみると本願第1発明における「空気中で潤滑され」とは、軸受が起動時において、外部から潤滑剤を供給することなく、空気中で摺動する(無潤滑起動)ように配置されていることを意味するものと解される。したがって、本願第1発明の特許請求の範囲の記載のうち、「(取扱液の流路内に露出して設け、)流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との部分は、ポンプ用ジャーナル軸受が、流路内が取扱液で満たされているときには、取扱液によって潤滑されながら摺動している状態にあり、また、流路内に取扱液がない起動時には、外部から潤滑剤を供給することなく、空気中で摺動する状態にあるように、取扱液の流路内の位置に露出して設けられているという構成を意味するものと認められる。

そうすると、本願第1発明の「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との要件は、本願第1発明のポンプ用ジャーナル軸受が潤滑条件下及び無潤滑条件下で摺動をするものであることを明確にし、その構造を特定するものであると認められる。

したがって、本願第1発明の「取扱液の流路内に露出して設け、流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との構成要件のうち、「取扱液の流路内に露出して設け」の部分だけが物の発明の構造を特定する構成であるとする被告の主張は、本願第1発明の特許請求の範囲において、ポンプ用ジャーナル軸受に関するものとして記載された「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との部分を同軸受を特定する必須の構成要件として捉えていない点においそ、理由がない。

<2>  次に、引用例記載のキャンドポンプの軸受が「空気中で潤滑され」る構成を有しているか、すなわち、ポンプの起動時において、無潤滑条件すなわち外部から潤滑剤を供給することなく、空気中で摺動する構成を有しているかについて検討する。

成立に争いのない甲第3号証(特開昭55-93998号公報)には、「冷暖房設備等室内の機器に配管で連結される設備のポンプは、…特に低騒音のポンプを必要としている。このため、ポンプを駆動するモータは、転動音の発生するボールベアリングを避けてメタル型軸受を採用することがあり、特にモータに水を封入するキャンドモータが運転音の低減に効果が大きく好まれていた。」(1頁左下欄14行ないし右下欄2行)、「本発明は…対摩耗に優れると共に製作が容易であり低騒音であるキャンドポンプを提供することを目的としている。」(2頁右上欄2行ないし5行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、引用例記載の発明は、冷暖房設備等室内の機器に配管で連結される設備で使用される低騒音のキャンドポンプを提供することを目的としているものであることが認められる。そして、同号証には、「しかしながら、キャンドモータは、メタルに油を潤滑剤として用いることが難しいため注入した水を潤滑させて寿命を延ばすように構成されている。そして、メタルの潤滑に用いられる注入水は変質を避けてポンプ部分の水を少し流通させるよう構成するとモータの内圧変動や水の注入等に別の効果がありたいていこのような構成になっている。」(1頁右下欄3行ない11行)との記載があることが認められ、上記記載は、引用例記載のキャンドポンプが起動時に潤滑状態であることを窺わせるものである。

ところで、成立に争いのない甲第21号証の1ないし3(冷凍空調設備の保守管理とサービス 冷凍技士会編 社団法人日本冷凍協会 昭和49年10月15日発行)によれば、空調設備に用いられるポンプは、満水状態で運転される、すなわち、運転開始前に充水されることが普通であると認められる。

また、成立に争いのない甲第19号証の1ないし3(機械工学一般 横山武人著 共立出版株式会社 昭和30年12月10日6版発行)及び同第20号証の1ないし3(機械工学ポケットブック 機械工学ポケットブック編纂委員会編 オーム社 昭和32年5月31日発行)によれば、揚水のために用いられる渦巻ポンプなどの回転式ポンプにおいては、回転を始める前に水を充満させる必要があることが認められるから、前掲甲第3号証に引用例の実施例として図示されたキャンドポンプ(別紙図面2)の場合において、羽根車6の周囲に水がなければ、水の循環あるいは揚水というようなポンプ本来の機能は果たせないものであると認められる。

上記を総合すれば、引用例記載のキャンドポンプは運転開始前に充水されているものと解すべきである。

次に、前掲甲第3号証に、「このような構成のキャンドポンプは、運転する際ポンプ部分1に水が入ると透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8に水が入る。そして、運転されると、摺動部12、13に夫々流通孔18、19を介して水がわずかに流通することになり、メタル14、15の摩耗が少なくなるよう潤滑される」(2頁右上欄12行ないし18行)との記載があることが認められる。前記のとおり、引用例記載のキャンドポンプにおいては、運転開始前にポンプが充水されていることが必要であるから、上記記載中の「運転する際」との記載は、運転開始前を意味し、前記「運転する際ポンプ部分1に水が入ると透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8に水が入る。」との記載は、運転開始前に管路系に水を入れることにより、ポンプ部分1に水が入ると透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8に水が入ることを意味し、キャンドポンプ起動開始時には、軸受は水で満たされているものと認められ、前記「運転されると、摺動部12、13に夫々流通孔18、19を介して水がわずかに流通することになり、メタル14、15の摩耗が少なくなるよう潤滑される」との記載は、運転を開始すると、すでに水の入っているポンプ部分1とキャンドモータ部分2との間で夫々流通孔18、19を介して水の流通が行なわれ、摺動部12、13及びメタル14、15が潤滑されることを意味するものと解される。

被告の、「運転する際」とは、ポンプ軸を回転させ始める際ということであり、ポンプ部分1に水が入るまでは軸受は「空気中で潤滑され」ており、その後、水、すなわち取扱液で潤滑されることが引用例に記載されているとの主張は、前記のとおり、「運転する際」とは運転開始前を意味し、ポンプ部分1とキャンドモータ部分2には運転開始前に水が入っていると解すべきであるから、採用できない。

そうすると、引用例記載の発明において、軸受は、起動時において、外部から潤滑剤を供給されることなく、空気中で摺動するように配置されていると認めることはできず「空気中で潤滑され」との構成を有しているものとは認められない。したがって、引用例記載の発明も「空気中で潤滑され」との要件を開示しているとの被告の主張は理由がない。

前記2判示のとおり、本願第1発明の軸受は、その回転側部材をタングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上の超硬合金とし、固定側部材を窒化ケイ素(Si3N4)又は炭化ケイ素(Si C)よりなるセラミックスにより構成することにより、空気中、清水中、あるいはスラリー液中においても安定した摺動特性を得ているものであるが前記のとおり、引用例記載の軸受は、無潤滑条件下で使用されることはなく、そのような使用における課題を解決するものではない。

被告は、引用例記載の発明においても軸受がその組合せ構成からして「取扱液及び空気中で潤滑され」るという条件下で役立つことは明らかであると主張するが、前記のとおり、引用例記載の軸受は、「空気中で潤滑され」るという課題は存在せず、当然かかる課題の解決を提供しているものではないと解されるから、被告の上記主張は理由がない。

<3>  したがって、本願第1発明は「空気中で潤滑され」る構成である点で引用例記載の発明と実質的に相違するから両者が同一であるとの審決の判断は誤りである。

(2)  取消事由2について

前掲甲第2号証の1及び2によれば、本願第2発明の(ポンプ用ジャーナル軸受を少なくとも一個)「取扱液及び空気中で回転されるポンプ軸上に設け」た構成と本願第1発明の(ポンプ用ジャーナル軸受が)「流路内の取扱液及び空気中で潤滑され」との構成と実質的には同一であると認められ、本願第2発明と引用例記載の発明とは、「空気中で回転され」との構成において、実質的に相違するものと認められるから、両者が同一であるとの審決の判断も誤りである。

(3)  したがって、審決は、違法として取消しを免れない。

4  よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面 1

<省略>

別紙図面 2

<省略>

平成1年審判第5035号

審決

東京都大田区羽田旭町11番1号

請求人 株式会社荏原製作所

東京都港区西新橋3-15-8 西新橋中央ビル302号

代理人弁理士 中本宏

東京都港区西新橋3丁目15番8号 西新橋中央ビル302号 中本特許事務所

代理人弁理士 井上昭

東京都港区西新橋3丁目15番8号 西新橋中央ビル302号 中本特許事務所

代理人弁理士 吉嶺桂

昭和58年特許願第180649号「ポンプ用ジャーナル軸受及びそれを用いたポンプ」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年4月25日出願公開、特開昭60-73123)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない

理由

(本願発明の要旨)

Ⅰ.本願は、昭和58年9月30日の出願であって、その発明の要旨は、平成1年5月1日付け手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「1.ポンプ軸をポンプの取扱液の流路内に通すポンプ装置において、取扱液の流路内に露出して設け、流路内の取扱液及び空気中で潤滑され、その回転側部材をタングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上の超硬合金とし、固定側部材を窒化ケイ素(Si3N4)又は炭化ケイ素(SiC)よりなるセラミックスにより構成したことを特徴とするポンプ用ジャーナル軸受。」

(以下、本願第1発明という。)

「2.回転側部材をタングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上の超硬合金とし、固定側部材を窒化ケイ素(Si3N4)又は炭化ケイ素(SiC)よりなるセラミックスにより構成したポンプ用ジャーナル軸受を、取扱液及び空気中で回転されるポンプ軸上に少なくとも1箇設けたことを特徴とするポンプ軸をポンプの取扱液の流路内に通すように構成されたポンプ。」

(以下、本願第2発明という。)

(引用例に記載された内容)

Ⅱ.これに対して、原審における拒絶理由に引用された特開昭55-93998号公報(以下「引用例」という。)は、キャンドポンプに関するものであり、その詳細な説明中には、

「軸受を構成するメタル14、15および摺動部12、13は摺動による摩耗に対してはもちろん、衝撃に対する強度の他加工製作が容易であること等種々の条件を満足する必要があり、これらの条件を満足する材料の組み合わせとして、メタルにセラミック、軸に超硬合金(Wc-Co)を採用し試みたところきわめて長寿命であることが判明した。」(同公報第2頁右上欄第19行~左下欄第6行)、また、

「キャンドモータは、メタルに油を潤滑油としてもちいることが難しいため、注入した水を潤滑させて寿命を延ぱすよう構成されている。そして、メタルの潤滑に用いられる注入水は、変質を避けてポンプ部分の水を少し流通させるよう構成するとモータ内圧変動や水の注入等に別の効果がありたいていこのような構成になっている。」(同公報第1頁右下欄第3行~第11行)、

「さらに、メタル14、15の外周側には水を流通させる流通孔18、19が形成されており、ポンプ部分1の水が透孔20より流通する循環路が形成されている。このような構成のキャンドポンプは、運転する際ポンプ部分1に水が入ると透孔20よりキャンドモータ部分2の円筒8内に水が入る。」(同公報第2頁右上欄第19行~左下欄第6行)

と記載されている。

(以下「引用例の記載事項」という。)、

(周知事項)

Ⅲ.超硬合金は、機械的性質、特に硬度が優れた金属材料であることは機械的材料として、この出願前周知である。超硬合金は、WC結晶のみ、あるいはWCとチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニナブ(Nb)等の炭化物とWCとの固溶炭化物がコバルト(Co)で結合された形の合金が周知であり、WC-Co系が最も優れた機械的性質をもつとされている。これらの合金系はWCが主成分であって、その物理的、機械的性質は主としてその量と結晶の大きさによって定まることが知られている。一般的にCo含有量が少ないほど、またWCが細かいほど合金は硬いがじん性(靱性)は低くなる傾向にある。したがって、単にその主成分であるWCの含有量のみが特定されても、その機械的性質は一意には決まらない。これらは、「金属便覧改訂3版」(日本金属学会編、昭和46年6月25日発行、第1558頁~第1562頁)に詳細な説明がみられる。(以下、周知事項1という。)

耐酸化性、耐摩耗性向上のために、Si2N4、SiCよりなるセラミックスを軸受けメタルとして用いることは、特開昭54-120612号公報、特開昭55-109287号公報、特開昭58-160625号公報等にみられるように、この出願前周知である。(以下、周知事項2という。)

(本願第1発明及び第2発明と、引用例の記載事項との対比)

Ⅳ.本願第1発明の「ポンプ用ジャーナル軸受」と、引用例の記載事項のキャンドポンプを比較すると、耐久性に優れたポンプ構成を得るために、回転側部材に超硬合金を用い、固定側にセラミックスからなる軸受摺動部材を配している点で一致している。

一方、以下の各点において相違している。

本願第1発明は、軸受が「取扱液の流路内に露出して設けられており、流路内の取扱液、及び空気中で潤滑される」ことを構成要件としていることから、軸受けはポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所に配されているのに対して、引用例の記載事項は、軸受部分に潤滑のために注水すると記載されているが、ポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所には位置していない点。(第1の相違点)

本願第1発明は、超硬合金がタングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上のものとされるのに対して、引用例の記載事項は、超硬合金がタングステンカーバイドを含有するものであることは記載されているものの、タングステンカーバイドの含有量が明確には記載されていない点。(第2の相違点)

本願第1発明は、セラミックスが窒化ケイ素又は炭化ケイ素よりなるとされるのに対して、引用例の記載事項は、セラミックスがいかなるものからなるか記載されていない点。(第3の相違点)

本願第1発明は、軸受が回転側部材を有するのに対して、引用例の記載事項は、軸受が回転側部材を有さず、固定側部材であるメタルのみが用いられている点。(第4の相違点)

次に、本願第2発明の「ポンプ」と、引用例の記載事項のキャンドポンプを比較すると、耐久性に優れたポンプ構成を得るために、回転側部材に超硬合金を用い、固定側にセラミックスからなる軸受摺動部材を配している点で一致している。

一方、上記本願第1発明の「ポンプ用ジャーナル軸受」と、引用例の記載事項のキャンドポンプとの比較と同一の第2から第4の相違点に加えて、以下の点において相違している。

本願第2発明は、「ポンプ用ジャーナル軸受を、取扱液及び空気中で回転されるポンプ軸上に少なくとも1箇設けたことを特徴とするポンプ軸をポンプの取扱液の流路内に通す」ことを構成要件としていることから、軸受けはポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所に配されているのに対して、引用例の記載事項は、軸受部分に潤滑のために注水すると記載されているが、ポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所には位置していない点。(第5の相違点)

(当審の判断)

Ⅴ.本願第1発明と、引用例の記載事項との相違点である第1から第4の相違点について検討する。

まず、第1の相違点は、軸受の配設位置に関するものである。確かに、引用例の記載事項においては、軸受がポンプ作用により送られる取扱液の主たる流路に相当する箇所には位置していない。しかしながら、引用例の記載事項における軸受は、本願第1発明における取扱液に相当する水が潤滑のために注水されており、透孔を介して循環流通するように構成されている。してみると、取扱液はこの引用例の記載事項においても軸受摺動面を通過するわけであり、本願第1発明の軸受配設箇所と、引用例の記載事項における軸受け配設箇所とに実質的な相違は存在しない。

次に、第2の相違点は、超硬合金におけるタングステンカーバイド(WC)の含有量に関するものである。しかしながら、前記Ⅲに示した周知事項1にみられるように、超硬合金ではWCが主成分であって、その組成の相当量を占めること、そして単にWC含有量決まっても、その機械的性質は定かではないこと、また、本願第1発明の詳細な説明を検討しても、WCが90重量%以上のものと、これ以下の重量%のものとの比較が示されているわけでないこと等を考慮すると、本願第1発明において構成要件とされる、「超硬合金がタングステンカーバイド(WC)含有量90重量%以上のもの」なる特定は、単にWCが主成分であることを示しているに過ぎないものと認められる。してみると、本願第1発明の構成要件と、引用例の記載事項における、超硬合金としてWc-Coなるタングステンカーバイドを含有するものを採用する、なる記載との間に、明確な差異は存在しないとすることが妥当である。

次に、第3の相違点は、軸受摺動材として用いられるセラミックスが、どのような組成物からなるかに関するものである。

しかしながら、軸受部材として、耐酸化性及び耐摩耗性の向上を図るために、窒化ケイ素又は炭化ケイ素を用いることは、前記Ⅲに示した周知事項2にみられるように、本願出願前周知であり、当業者にとって、その採用に格別の困難性は存在しない。

次に、第4の相違点は、本願第1発明は、回転側に軸受部材を有するが、引用例の記載事項では、これが存在しないことに関するものである。しかしながら、軸受部材は本来回転側部材と固定側部材との間に介在して、両者部材間の接触状態を改善するものであり、軸受部材の用いられる材料が高価なものである場合には、これを接触箇所のみに限定してコスト低減を図ることは、軸受の技術分野では技術常識に属するものである。したがって、これも実質的な相違とはいえない。

してみると、たとえ引用例の記載事項において、超硬合金のWCの含有量、及びセラミックスの成分が明示されていなくとも、これに、軸受部材としての超硬合金とセラミックスの組合わせが、軸受の長寿命化を図り得ることが、明確に記載されており、また、軸受構成として、回転側部材を有しないことが技術常識に属する、いわば設計事項に属するものである以上、本願第1発明と、引用例の記載事項との間には、実質的な相違はなく、両者は同一のものと認められる。

次に、本願第2発明と、引用例の記載事項との相違点である、第5の相違点は、軸受の配設位置に関するものである。しかしながら、この第5の相違点は、ポンプに使用される際に、軸受をどの箇所に設けるかを限定したに過ぎず、検討済みの第1の相違点と実質的に同一の相違であり、これによって、本願第2発明と、引用例の記載事項との間に実質的な相違があるものと認めることはできない。

(むすび)

Ⅵ.したがって、本願第1発明及び第2発明は、引用例の記載事項と同一であると認められるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許をうけることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年7月4日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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