東京高等裁判所 平成3年(行ケ)235号 判決 1993年3月31日
東京都新宿区西新宿2丁目1番1号
原告
三和シャッター工業株式会社
代表者代表取締役
髙山俊隆
訴訟代理人弁理士
稲葉昭治
東京都千代田区霞が関3丁目4番4号
被告
特許庁長官 麻生渡
指定代理人
本多弘徳
同
奥村寿一
同
涌井幸一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、昭和63年審判第20674号事件について、平成3年8月15日にした補正の却下の決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和57年12月6日、特許庁に対し、名称を「防災機器の温度感知装置」とする考案につき、実用新案登録出願をした(実願昭57-185030号)が、昭和63年11月1日、拒絶査定を受けたので、昭和63年11月29日、これに対し不服の審判を請求し(昭和63年審判第20674号事件)、同年12月21日、手続補正書を提出し、明細書全文を補正(以下「本件補正」という。)したところ、特許庁は、平成3年8月15日、「昭和63年12月21日付けの手続補正を却下する。」との決定(以下「補正却下決定」という。)をし、その謄本は、同年9月11日、原告に送達された。
2 補正却下決定の理由
補正却下決定は、別添「補正の却下の決定」記載のとおり、本件補正の個々の内容を認定したうえ、本件補正により、実用新案登録請求の範囲に記載された「板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部分からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成し」との部分及び考案の詳細な説明中この事項に係る部分の記載は、出願当初の明細書及び図面(以下「当初明細書」という。)には何らの記載も示唆もなく、また、板状部材の説明からも自明のものとは認められないから、本件補正は当初明細書の要旨を変更するものに該当すると判断した。
第3 原告主張の取消事由の要点
補正却下決定のうち、本件補正内容の認定は認める。しかしながら、補正却下決定には、当初明細書に板状部材自体の熱伝搬思想が既に含まれているのに、これが含まれていないと判断した誤りがあり、この誤りは結論に影響を及ぼすから、違法として取消を免れない。
すなわち、当初明細書には、板状部材の説明として、「板状部材が異常な温度上昇による熱を感知体に伝搬する」との明示の記載はないが、実用新案登録請求の範囲に、「面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく」と、考案の詳細な説明に、「上記感知体は面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく板状部材の面方向に敷設させて」、「板状部材2の表面全域を感知面としたので、どの部分であっても熱を感知することができ、したがって、電気抵抗線3aは板状部材2がどの部分で熱を受けても、直に電気抵抗値Rが変化し」とそれぞれ記載されており、これらの記載を含めた当初明細書全体の記載に基づけば、板状部材のどの部位からも感知体に異常な温度上昇を伝えるとする熱伝搬思想が含まれていることは明らかである。
しかるに、補正却下決定は、当初明細書に、この熱伝搬思想が明示的に記載されていないとの一事から、当初明細書には上記思想が含まれていないとの誤った判断をした。
第4 被告の主張
当初明細書には、板状部材から感知体への熱伝搬思想は何ら含まれていないから、これを前提として、本件補正が明細書の要旨を変更するものとした補正却下決定の判断は相当である。
当初明細書中には、板状部材の説明として、「板状部材が異常な温度上昇による熱を感知体に伝搬する」旨の記載がないことは、原告も自認するところである。すなわち、当初明細書に開示されている板状部材は、感知体である電気抵抗線を敷設ないし埋設する装着機能しか有していない。だからこそ、面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知するために、板状部材の面方向に電気抵抗線を蛇行又は螺旋状に「くまなく」装着することによって、感知作動範囲を拡大することが必要となってくるのであり、この点が本願考案の特徴である。
感知体が熱伝導性の良くない媒体中に埋設されていても、短時間のうちに異常な温度上昇を感知することができるのは、このように電気抵抗線を蛇行又は螺旋状にくまなく装着することによるものであって、板状部材の熱伝搬機能によるものではない。
このことは、板状部材として用いる材質の例示として、ガラス板、天井板、吸音材、ドアパネル、間仕切パネル等、いずれも熱伝導性の良くないものが掲げられていることから明らかである。
したがって、「板状部材を熱伝導性媒体で構成する」との要件は、当初明細書になかった「板状部材による熱伝搬機能」という新たな技術思想を積極的に付加するものであって、当初明細書に記載された事項の範囲を逸脱し、要旨の変更に該当することは明らかである。
これと同旨の補正却下決定に違法はない。
第5 証拠関係
本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立は、当事者間に争いがない。)。
第6 当裁判所の判断
1 甲第2号証によって認められる当初明細書には、実用新案登録請求の範囲として、「異常な温度上昇を感知して防災機器を自動的に作動させる温度感知装置であって、該温度感知装置は熱によって特性の変化する感知体と、該感知体を装着する板状部材と、高温による感知体の特性変化を検出する検知機構とで構成され、上記感知体は、面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく板状部材の面方向に敷設してあることを特徴とする防災機器の温度感知装置。」との記載があることが認められ、本件補正が、上記の「該感知体を装着する板状部材」との記載を「該感知体が線状に装着された板状部材」に、「上記感知体は、面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく板状部材の面方向に敷設してある」との記載を「前記板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成してある」に各補正するとともに、これらの補正に関連して、当初明細書の考案の詳細な説明の各該当部分を別添補正の却下の決定2頁13行から4頁18行に記載のとおりに補正するものであることは、当事者間に争いがない。
本件補正に係る実用新案登録請求の範囲の記載を当初明細書のそれと比較すると、まず、感知体の装着の態様が、当初明細書においては、「面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく板状部材の面方向に敷設」するとされていたのを、本件補正によって、単に「線状に」すると補正するものであり、当初明細書の「面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく」との記載は、通常の用語からして「面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知できるように」という一定の目的との関連でこれを可能とする構成(敷設密度)を表現したものと解すべきであることからすれば、本件補正は、一定の構成に係る限定をはずす意味において、当初明細書に記載された実用新案登録請求の範囲を拡大するとともに、「板状部材の面方向に敷設」するとされていた敷設の方向を、単に、線状であれば板状部材の面方向(通常最も広い面積を有する面に平行した縦横方向を指す。)に限られないとする意味において、この点でも実用新案登録請求の範囲を拡大するものと認められる。
次に、板状部材の性状につき、当初明細書には何らの記載がないのに対し、上記のとおり、本件補正が「板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成」するように限定を付する点で、当初明細書の記載と異なることが認められる。
2 そこで、これらの点が当初明細書に記載ないし示唆されていたか否かを検討する。
(1) 甲第2号証によれば、当初明細書の考案の詳細な説明には、まず、従来の防災機器の温度感知装置の例として、所定位置に取付けた単一の感知体により構成された点感知によるものと天井面等に配設された空気管式の感知体により構成された線感知によるものの問題点が挙げられ(同号証1頁17行~2頁16行)、これらの従来例は、「いずれも異常な温度上昇を予め設定された接点によってのみ行い得るものであり、所謂点感知または線感知するものであり、感知作動範囲が極めて狭く、防災機器を有効かつ的確に作動させることができない欠点があった。」(同2頁16~3頁1行)との指摘がなされ、次いで、本願考案の感知体の装着ないし敷設の程度、態様につき、以下のとおり説明していることが認められる。
「本考案は上記の如き実情に鑑み、これらの欠点を一掃すべく創案されたものであって、温度感知装置を熱によって特性の変化する感知体と、該感知体を装着する板状部材と、高温による感知体の特性変化を検出する検知機構とによって構成させ、上記感知体は面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく板状部材の面方向に敷設させて、広範囲に温度感知をするものでありながら、感知体の全域を無限状に連続した点感知をする感知面として感知作動範囲を拡大することができるものであり、感知体のいずれの位置の温度上昇でも的確に感知して防災機器を作動させることができ・・・る防災機器の感知装置を提供することを目的としたものである。」(同3頁11行~4頁6行)
「図面に示された実施例について説明すれば、1は建物開口部や壁面等に装着される温度感知装置であって、該温度感知装置1はパネル体等の板状部材2と、この板状部材2の面方向に敷設した熱により電気抵抗特性の変化する電気抵抗線3aからなる感知体3と、該電気抵抗線3aの高温による抵抗変化を検知して作動する検知機構4とで構成されている。即ち、窓、壁面等を構成するパネル体等の板状部材2には、導体の電気抵抗線3aが全面にわたって蛇行状に埋設されており、」(同4頁6~16行)
「なお、上記実施例では、電気抵抗線3aからなる感知体3を蛇行状に埋設したものを示したが、これを螺旋状に湾曲埋設したものであってもよく、要は板状部材2の面方向に敷設されて面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知できるものであれば、湾曲形状には限定されない。」(同5頁9~14行)
「いま、火災が発生して異常な温度上昇による熱がサッシのガラス板9に装着された温度感知装置1の感知体3に加わると、該感知体3の電気抵抗線3aは高温により抵抗値が変化して検知機構4の導線5に電流が流れリレー7が作動する。」(同7頁14~19行)
「この場合、本発明においては特に、感知体3をパネル体からなる板状部材2の面方向に蛇行状に敷設して板状部材2の表面全域を感知面としたので、どの部分であっても熱を感知することができ、したがって、電気抵抗線3aは板状部材2がどの部分で熱を受けても、直に抵抗値Rが変化し、これを検知機構4が検知するので、・・・感知作動範囲が拡大され、しかも、的確に感知して防災機器を作動させることができる。」(同8頁5~16行)
「これを要するに本考案は、・・・上記感知体は、面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知すべく板状部材の面方向に敷設したから、感知体で温度上昇を感知するものでありながら、感知体を敷設した板状部材の全域を無限状に連続した点感知をする感知面とすることができ、したがって感知体のいずれの位置で温度が上昇しても、該感知体の温度が上昇すると直に感知体の特性が変花するので感知作用範囲を拡大することができ、しかも異常な温度上昇に対しては的確に感知して防災機器を自動的に作動させることができる。」(同9頁14行~10頁9行)
以上の記載によれば、当初明細書には、感知体の敷設の態様は、板状部材の「面方向」に蛇行状又は螺旋状に埋設されるものであり、感知体が直接、異常な温度上昇を感知することを前提として、従来技術の点感知ないし線感知の欠点を解消して感知作動範囲を拡大するため、板状部材の全域を連続した感知面とし、面感知ができるよう、板状部材の面方向にできるだけ広範囲に感知体を敷設するとする技術事項が記載されているものと認められる。
(2) 次に当初明細書には、板状部材について以下の記載があり、他に特段の記載はないことが認められる。
「該感知体を装着する板状部材と」(3頁13~14行)
「上記感知体は・・・板状部材の面方向に敷設させて」(同頁16~18行)
「該温度感知装置1はパネル体等の板状部材2と、この板状部材2の面方向に敷設した・・・感知体3と」(4頁8~11行)
「窓、壁面等を構成するパネル体等の板状部材2には、導体の電気抵抗線3aが全面にわたつて蛇行状に埋設されており」(同頁13~16行)
「要は板状部材2の面方向に敷設されて」(5頁12行)
「いま、火災が発生して異常な温度上昇による熱がサッシのガラス板9に装着された・・・感知体3に加わると」(7頁14~16行)
「感知体3をパネル体からなる板状部材2の面方向に蛇行状に敷設して板状部材2の表面全域を感知面としたので、どの部分であっても熱を感知することができ、したがって、電気抵抗線3aは板状部材2がどの部分で熱を受けても」(8頁5~10行)
「感知体4は板状部材2の面方向に敷設されていることによって」(同頁16~17行)
「感知体3は金属を素材としているので、該感知体3が恰かも網入ガラスのごとく板状部材2の強度性を向上させることもできる。」(9頁4~7行)
「尚、感知体3を敷設する板状部材2は実施例の如くガラス板に限ることなく、天井材として用いられる吸音板、ドアパネル、間仕切パネル等のパネル体であってもよく」(同頁8~11行)
「該感知体を装着する板状部材と、・・・上記感知体は、・・・板状部材の面方向に敷設したから、・・・感知体を敷設した板状部材の全域を無限状に連続した点感知をする感知面とすることができ」(同頁16行~10頁4行)
以上の記載によれば、板状部材については、専ら感知体の敷設部材としての装着機能が記載されているに止まり、その性状として「異常な温度上昇を感知体に伝搬する熱伝導性媒体」であることについては何らの記載がなく、かえって、上記のとおり、その素材としてガラス板、天井材として用いられる吸音板、ドアパネル、間仕切パネル等のパネル体が例示されていることからすると、熱伝導率が必ずしも良くない素材を用いることが当然予定されているものと認められる。
(3) これに対し、本件補正は、前示実用新案登録請求の範囲の補正に加え、考案の詳細な説明の該当部分を次のとおり補正する点を含め、補正却下決定認定のとおり補正するものであることは、当事者間に争いがない。
「板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成したから、感知体は広面域に対して線状に装着されたものでありながら、感知体に直接熱が加わる場合は勿論、感知体が敷設されていない面域であっても、板状部材が熱伝導性媒体となって、異常な温度上昇を的確に感知体に伝搬することができ、従って、板状部材の全域を無限状に連続した熱感知面として感知作動範囲を拡大することが可能となり、広範囲に温度感知をすることができるようになり、もって板状部材のいずれの位置の温度上昇でも敏感に感知して防災機器を作動させることができるものである。しかも、感知体は必要以上に板状部材に敷設する必要もなく、また、板状部材は、ガラス板、金属板等の通常の建材を用いることができるから、用途に応じた材質のものを選択することができ」(全文訂正明細書11頁4~19行)
(4) 以上を総合すると、当初明細書の記載と本件補正による記載とは、防災機器の温度感知装置において、感知体と、板状部材と、検知機構とで構成され、面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知することができる考案で同一であると認められるが、当初明細書の記載では、直接異常な温度上昇を感知する感知体自体を面域の全体に広範囲に敷設することによって、感知範囲を拡大するとの思想に立脚しているのに対し、本件補正による記載では、感知体の敷設を線状とする代わりに、熱伝導性媒体で構成した板状部材の面域で受けた温度上昇を、その熱伝搬性を介して感知体に伝搬するという技術思想に立脚し、感知体自身の熱感知に加えて、板状部材の熱伝導作用による間接的な熱感知を行うとの構成及び作用効果を付加するものである。
もっとも、当初明細書中には、上記のとおり、部分的には、板状部材に熱が加わったときにも、これが付近の感知体に熱伝搬を行うべきことを前提とする記載も散見されるが、これらの記載は、いずれも、異常な温度上昇を感知するのは感知体であることを前提として、感知体を板状部材の面方向に蛇行状ないし螺旋状に敷設し、板状部材の面域の全体にできるだけ広範囲に敷設するとの記載に関連して述べられているにすぎず、面域のいずれの位置でも異常な温度上昇を感知できるのは、板状部材の熱伝導媒体としての熱伝搬作用によることを示唆するものとは認められない。
また、当初明細書の実施例では、感知体としての電気抵抗線を板状部材例えばガラス板に埋設して敷設するものが示されているが、できるだけ面域の全体に敷設しても、敷設されていない部位が残ってしまうことは明らかであり、かかる部位における異常な温度上昇の感知が、多かれ少なかれ、板状部材の熱伝搬機能によらざるをえない場合が生ずる余地はある。しかしながら、熱伝導性が全くない物質はありえないから、火災等の異常な温度上昇の場合には、熱伝導率の悪い材質であっても限られた範囲で相応の熱伝搬作用を有することは明らかであり、他方、本件補正によって加えられた「熱伝導性媒体」との語は、それがガラス板を含む意味で用いられているとしても、通常の場合、熱伝導率の良い物質を媒体として用いることを意味するとともに、本件補正に係る技術思想が好ましい材質として、この意味における熱伝導性媒体を利用することを意図していることも明らかであるから、当初明細書においても当然に予定されているようなかかる限られた範囲における熱伝搬作用をもって、本件補正に係る「熱伝導性媒体」による積極的な作用と同視することはできない。
そして、本件補正に係る考案の構成として、最も重要な点は、上記板状部材の熱伝導性媒体としての性状であることは明らかであり、これに関連する記載が当初明細書に全くないことも上記のとおりである。そして、この点を実用新案登録請求の範囲に新たな構成として付加することによって、感知体の敷設態様ないし程度に係る点の補正が当初明細書の実用新案登録請求の範囲を拡張することも上記のとおりであるから、本件補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内での補正に該当せず、その要旨を変更するものといわなければならない。
3 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に補正却下決定を取り消すべき瑕疵も見当たらない。
よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)
昭和63年審判第20674号
補正の却下の決定
請求人 三和シヤッター工業 株式会社
代理人弁理士 稲葉昭治
昭和57年 実用新案登録願 第185030号「防災機器の温度感知装置」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり決定する。
結論
平成13年12月21日付けの手続補正を却下する。
理由
昭和63年12月21日付け手続補正は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲を「火災等による異常な温度上昇を感知して防災機器を自動的に作動させる温度感知装置であって、該温度感知装置は、熱によって特性の変化をする感知体と、該感知体が線状に装着された板状部材と、高温による感知体の特性変化を検出する検知機構とで構成され、前記板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成してあることを特徴とする防災機器の温度感知装置。」とし、また、考案の詳細な説明を「板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成してある」(第4頁第3~5行)、「板状部材の全域を無限状に連続した感知面として感知作動範囲を拡大することができ、広範囲に温度感知をすることを可能にし、建物の内外を問わず所望する個所に容易に取付けることができて、板状部材のいずれの位置の温度上昇でも敏感に感知して防災機器を確実に作動させることができる」(第4頁第9~14行)、「板状部材2が熱伝導性媒体となって、その面域全体が感知面となり、どの部分で熱を受けたとしても当該熱が感知体である電気抵抗線3aに伝搬されることになる。」(第8頁第19行乃至第9頁第2行)、「感知体3が敷設されていない面域に熱が加わった場合であっても、板状部材2が熱伝導性媒体となって感知体3に伝搬されるから、感知作動範囲が拡大されて、広面域に対する的確な感知がなされ、防災機器を作動させることができる。そのうえ、感知体4は必要以上に板状部材2に敷設する必要がなくなり、従って、天井等の広面域に対しても容易に使用でき、上記の如く感知作動範囲を拡大し得たことと相俟って外観上審美感を与えることもできるから、窓等に取付けるガラス板としても使用でき」(第9頁第8~18行)、「感知体3を敷設する板状部材2は実施例の如くガラス板に限ることなく、天井材として用いられる吸音板、ドアパネル、間仕切パネル等の熱伝導性媒体であればよく」(第10頁第11~14行)、「板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成したから、感知体は広面域に対して線状に装着されたものでありながら、感知体に直接熱が加わる場合は勿論、感知体が敷設されていない面域であっても、板状部材が熱伝導性媒体となって、異常を温度上昇を的確に感知体に伝搬することができ、従って、板状部材の全域を無限状に連続した熱感知面として感知作動範囲を拡大することが可能となり、広範囲に温度感知をすることができるようになり、もって板状部材のいずれの位置の温度上昇でも敏感に感知して防災機器を作動させることができるものである。しかも、感知体は必要以上に板状部材に敷設する必要もなく、また、板状部材は、ガラス板、金属板等の通常の建材を用いることができるから、用途に応じた材質のものを選択することができ」(第11頁第4~19行)と補正するものである。
ところで、願書に最初に添付した明細書および図面には、板状部材について、「パネル体等の板状部材2」(同第4頁第8~9行)、「即ち、窓、壁面等を構成するパネル体等の板状部材」(同第13~14行)、「感知体3を敷設する板状部材2は実施例の如くガラス板に限ることなく、天井材として用いられる吸音板、ドアパネル、間仕切パネル等のパネル体であってもよく」(同第9頁第8~11行)と記載しているにすぎず、この手続補正による前記実用新案登録請求の範囲に記載の「板状部材は、異常な温度上昇を面域のいずれの部位からでも感知体に伝搬する熱伝導性媒体で構成し」の事項およびこの事項に係る前記考案の詳細な説明の記載事項については何等の記載も示唆もなく、また、これらの事項が前記願書に最初に添付した明細書における板状部材についての説明から自明なものとも認められない。
したがって、これらの事項について明細書を補正する前記手続補正は、実用新案法第9条により準用する特許法第41条の規定で許容された、願書に最初に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内での補正に該当せず、明細書の要旨を変更するものであるから、実用新案法第41条により準用する特許法第159条によう更に準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
平成3年8月15日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)