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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)262号 判決 1994年6月29日

大阪府門真市大字門真1006番地

原告

松下電器産業株式会社

代表者代表取締役

谷井昭雄

訴訟代理人弁理士

石原勝

小鍜治明

滝本智之

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

吉村宗治

阿部寛

中村友之

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和59年審判第14377号事件について、平成3年9月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和54年1月25日、名称を「電子部品装着装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和54年特許願第7764号)が、昭和59年6月1日に拒絶査定を受けたので、同年8月1日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第14377号事件として審理したうえ、平成3年9月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月11日、原告に送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲

別添審決書写し記載のとおりである(本願出願公告後の昭和62年10月20日付け手続補正書により補正されたもの)。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明の要旨を上記特許請求の範囲記載のとおりと認め、本願発明は、いずれも本願出願前に頒布された、英国特許第1278785号明細書(以下「引用例1」という。)、米国特許第4135630号明細書(以下「引用例2」という。)、米国特許第3465874号明細書(以下「引用例3」という。)に記載された発明(以下、それぞれを「引用例発明1」、「引用例発明2」、「引用例発明3」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものと判断し、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の特許請求の範囲の記載、各引用例の記載事項の認定は認める。なお、「引用例1及び引用例3に記載された発明は、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体を用いて、電子部品の自動供給を行うためのものである」(審決書6頁6~9行)との審決の認定は、ここでいう「電子部品集合体」が、単に、微小電子部品を等間隔に積載した収納テープの収納口側が被覆テープで覆われているもの全般を意味し、被覆テープが収納テープをどのように覆い、そこでどれだけの役割を果たしているかは問わない意味で用いられていることを前提として、あえて争わない。

本願発明と引用例発明1との一致点・相違点の認定は、後述のとおり審決認定のもの以外にも相違点がある点を除き、認める。

相違点(1)についての検討のうち、「引用例3に本願の収納テープに相当するキャリヤの電子部品を収納する凹部に、本願発明の被覆テープに相当するカバーを固着し、凹部を閉蓋する点が記載されており、両者の作用効果についても、本願発明のものと格別の相違はない」(審決書8頁10~14行)ことは認め、その余を争う。

相違点(2)についての検討のうち、「引用例2に粘着テープから電子部品を吸着して取出してもよいこと、かつ取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により回路基板上に微小電子部品を移載する手段、上記手段に吸着された状態で電子部品の位置を規正する手段が記載されている」(同8頁17行~9頁2行)ことを認め、その余を争う。

相違点(3)についての認定判断は認める。

審決は、本願発明と引用例発明1との相違点を看過し(取消事由1)、審決認定の相違点(1)についての判断を誤り(同2)、また、同(2)についての判断も誤り(同3)、その結果、本願発明は引用例発明1~3に基づいて当業者が容易に発明できたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点の看過)

(1)  本願発明の電子部品を吸着位置に搬送する手段は、電子部品が吸着により取り出された後の収納テープを巻き取るためのリールを有しない構成のものである。

このことは、本願発明の技術的課題を達成するためのキーポイントともいうべき構成であり、本願明細書の記載から十分に理解できる。

<1> 本願明細書には、従来技術の一つとして、引用例発明2と同じ型のキャリアマガジン供給方式の電子部品供給装置を挙げ(甲第2号証2欄4~7行)、この従来例の長所、短所につき、「一応供給は安定しているが、微小の部品に対して大きなキヤリアマガジンを必要とし、またこのキヤリアマガジンの自動供給に際しては大きなスペースと複雑な送り出し装置を必要とする欠点がある」(同2欄18~22行)と指摘したうえ、本願発明は、「上記従来の欠点を解消し、微小電子部品の連続安定供給を可能とする電子部品装着装置を提供するものである」(同2欄23~25行)としている。

この記載の示すとおり、引用例発明2のキャリアマガジン供給方式のものも、本願発明の有する微小電子部品の連続安定供給を可能とする機能は既に備えているものであるから、これと対比した場合の本願発明の技術的課題は、その欠点である大きなスペースと複雑な送り出し装置を必要とする点を解消した電子部品装着装置を提供することにあることが明らかである。

そして、電子部品が取り出された後の収納テープ巻取り用リールを備えた部品搬送手段をそのまま電子部品装着装置に組み込んだ場合は、キャリアマガジン供給方式の場合と比較して、省スペース化においても構造の簡単化においても、それほど大きな相違がなく、ほとんどその目的を達することができないことは、明らかである。

<2> 本願発明は、この省スペース化、構造の簡単化という技術的課題を達成するために、その特許請求の範囲に記載されているように、電子部品搬送手段部分の構成として、電子部品集合体(各凹部に若干のすき間を設けて電子部品を収納しそれを被覆テープで閉蓋した収納テープ)、電子部品集合体を巻き取られた状態で保持する第1の巻取手段、電子部品集合体をその長手方向に所定ピッチで移送して電子部品を吸着位置に移送する移送手段、その移送を案内する案内手段、電子部品集合体の被覆テープを収納テープから分離する分離手段、及び被覆テープを巻き取る第2の巻取手段を必須の構成とした。

すなわち、本願発明は、上記の必須の構成のみで、電子部品を吸着位置に正確に搬送できるようにし、これによって、搬送路以外に配置される電子部品が取り出された後の収納テープ巻取り用リールを必要としない構成としたものであって、本願明細書の特許請求の範囲には、収納テープ用リールとしては、電子部品集合体を巻き出す第1の巻取手段(繰り出し用リール)だけが記載されており、電子部品が取り出された後の収納テープ巻取り用リールについては、全く記載されていない。

実施例によって具体的に見ると、移送手段は、収納テープ1の送り穴4を利用して収納テープを所定ピッチ前進させる送り爪11と、送り爪11が後退するとき収納テープが後戻りしないようにガイドレール9との間で収納テープ1を押さえる押え板12とで構成されている(甲第2号証5欄5~12行、第8図、第9図)。また、「案内手段」は、収納テープ1の送り穴4に係合して収納テープ1を正しい方向に前進させる送り爪11(移送手段を兼ねている。)と、収納テープ1の幅方向の位置を規正する凹溝を備え、収納テープ1を正しく吸着位置に案内するガイドレール9とで構成されている(同第8図、第15図)。

上記実施例によると、「第1の巻取手段」(繰り出し用リール)から搬出された電子部品集合体は、柔軟で走行方向が定まりにくい性質を持っているにもかかわらず、移送手段及び案内手段によって、正しい吸着位置に搬送されることが明らかであり、また、その際、例えば巻取り用リールなどの、搬送路以外に配置された他の移送・案内手段の助けを借りる必要がないことは明らかである。そして、本願明細書図面第8図に示すように、電子部品を吸着位置に搬送するという役目を果たし終えた収納テープ1は、ガイドレール9の先端で垂れ下がり、適当な後処理を待つという状態となる。

上記以外に実施例は開示されておらず、本願明細書の他の部分にも、電子部品が取り出された後の収納テープ巻取り用リールに関する記載は一切ない。

被告は、特許請求の範囲の「少なくとも」との記載を挙げるが、この語は、出願過程で何らかの理由で記載されたが、本来不必要なものであり、その有無によって本願発明の構成に差が生ずるものではない。

<3> 本願明細書中において、省スペース化、構造の簡単化に関しては、「移載装着手段への電子部品の供給を、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体によつて行つており、またこの電子部品集合体を巻き取られた状態で保持しているため、比較的小型で、かつ簡単な構成の送り出し装置によつて電子部品の自動供給が行なえる。」(甲第2号証3欄17~21行、甲3号証補正の内容(3))と記載されており、電子部品が取り出された後の空の収納テープの処理につき明確な記載がないことは、被告主張のとおりである。

しかし、上述したように、電子部品集合体、第1の巻取手段、移送手段、案内手段、分離手段及び被覆テープを巻き取る第2の巻取手段という構成のみで、必要かつ十分に電子部品を吸着位置に移送するという目的を達成できることが、本願発明の構成自体で示されているのであるから、電子部品が取り出された後の収納テープ巻取り用リールを省略することが、省スペース化、構造の簡単化に貢献することは、十分に開示されている。

(2)  一方、引用例発明1のローディングデバイスは、自動部品供給装置の一種であって、それに用いられる電子部品収納テープキャリヤは、電子部品を一時的に収納保管する電子部品搬送保管用の媒体(キャリヤ)であり、したがって、何回も繰り返し使用されることが予定されている。そして、このローディングデバイスは、一方のリール(リールA)に巻き取られた空テープ状態のテープキャリアを他方のリール(リールB)に巻き取りつつ、テープキャリアの凹部に部品を充填し、リールBにテープキャリアを巻き取って部品を一時的に保管する作用を有するとともに、リールA、Bを逆方向に回転させて部品を取り出し、空テープ状態のテープキャリアをリールAに巻き取る作用を有している。

このように、引用例発明1のテープキャリアは繰り返し使用されるものであり、したがって、これをを巻き取るための一対のリールA、Bを備えることを必須の構成としている。

(3)  電子部品を吸着位置に搬送する手段を、電子部品が吸着された後の収納テープを巻き取るためのリールを有しない構造のものとした本願発明の構成は、その発想において、テープキャリアは繰り返し使用されなければならないとの固定観念からの解放という困難を克服して初めて実現されるものであり、その効果として、使用済みの収納テープの後処理を電子部品装着装置にとって最も都合よく行うことができ、したがって、巻取り用リールが不要となり、省スペース化と構造の簡単化において大いに有効であるという利点を有する。

(4)  審決は、本願発明と引用例発明1の上記相違点を看過したため、本願発明の進歩性の判断においてこれが有する重要な意味につき全く考慮を払わないまま結論に至った点で既に違法であるから、これのみを理由としても取り消されなければならない。

2  取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)

審決は、相違点(1)につき、「引用例3に本願の収納テープに相当するキャリヤの電子部品を収納する凹部に、本願発明の被覆テープに相当するカバーを固着し、凹部を閉蓋する点が記載されており、両者の作用効果についても、本願発明のものと格別の相違はない」(審決書8頁10~14行)と認定したうえ、この認定事項から直ちに「上記相違点については、当業者が引用例3に記載された事項に基づいて容易になしうることである。」(同8頁15~16行)と結論づけている。

引用例3に関する審決の上記認定自体は正しいが、審決が上記認定事項から直ちに上記結論を導き出したのは誤りである。

(1)  引用例発明1の電子部品収納テープキャリヤは、上述のとおり、電子部品を一時的に収納保管する電子部品搬送保管用の媒体(キャリヤ)であり、したがって、何回も繰り返し使用されることが予定されている。

同発明においてストリップ材が使用されるときも、このストリップ材は、収納テープとともに繰り返し使用されることが予定されており、収納テープに固着されると繰り返し使用することが困難となってしまうから、むしろ、固着されてはならないものであり、このことは、引用例1の第3A図に示される電子部品収納テープキャリヤのストリップ材が、リールに巻き取られている「中間層ストリップ(interposing strip)」とされていることからも明らかである。

同発明の電子部品収納テープキャリヤ及びストリップ材がこのようなものであるため、同ストリップ材は、これ単独で電子部品収納テープキャリヤのポケット内の電子部品を封じ込めることができる手段とはなりえず、ここで電子部品をポケット内に確実に封じ込めるためには、収納テープがリールに巻かれ、しかも、収納テープが緩んでいないことが必須条件となる。すなわち、ここでは、ストリップ材は電子部品封じ込め手段として補助的なものにすぎず、リールに巻かれた収納テープが緩んだときは、たといストリップ材が介装されていても、ポケット内の電子部品が脱落するおそれがあるものである。

同発明のテープキャリヤは、上記のとおり固着によらないものであるから、これに起因する種々の欠点を有する。すなわち、ストリップ材の有無にかかわらず、テープキャリヤそれ自身によって電子部品を確実に保持することができないから、電子部品を確実に収納保持するためには、緊張した状態に巻き取られなければならず、また、電子部品供給時には、常に収納テープの張力を調整しておかなければならないから、リールに巻き取った状態のいかん、テープ送り状態のいかんとの関係で不都合が発生しやすい。電子部品装着装置へのセッティング等においても、テープキャリヤをリールに緊張状態に巻き取った状態を維持して行わなければならず、その作業が困難となる。特に電子部品の品種切替え作業においては、途中まで使用したテープキャリヤをその使用状態のまま取り外すことはできず、これを完全に巻き戻さなければならず、途中まで使用したテープキャリヤを再使用するときは、完全に巻き戻されたものを、必要な箇所まで空送りしなければならない不便がある。

(2)  以上のように、引用例発明1は、固着によらないことによって生ずるこれらの欠点にあえて目をつむり、何回も繰り返し使用できるというテープキャリヤの利点を重視した発明であり、このような技術思想に基づくものである以上、この発明の下で被覆テープを収納テープに固着する発想を得ること自体、当業者にとって容易でなかったことは明らかである。

したがって、たとい引用例3に審決認定の上記記載があったとしても、そこに記載された技術を引用例発明1に適用することが当業者にとって容易であるということはできない。

審決は、この事情を全く考慮することなく、相違点(1)につき当業者が引用例発明3に基づき容易になしうることであると判断したものであり、その誤りは明らかである。

3  取消事由3(相違点(2)についての判断の誤り)

審決は、相違点(2)につき、「引用例2に粘着テープから電子部品を吸着して取出してもよいこと、かつ取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により回路基板上に微小電子部品を移載する手段、上記手段に吸着された状態で電子部品の位置を規正する手段が記載されている」(審決書8頁17行~9頁2行)と認定したうえ、この認定事項から直ちに「引用例1のローディングアームにかえて、微小電子部品を連続安定供給するため、種々の電子部品供給法の中から引用例2に記載の技術を選択し、引用例1の技術と組み合わせることは当業者が格別の困難性なく、容易になしうることである。」(同9頁2~7頁)と結論づけている。

引用例2に関する審決の上記認定自体は認めるが、審決が上記認定事項から直ちに上記結論を導き出したのは誤りである。

(1)  本願発明は、電子部品装着装置に関する発明であって、その装置は、回路基板上の正確な位置に電子部品を安定確実に装着するという一種の加工作業を行うものであるのに対し、引用例発明1の装置は、単に電子部品を保管・移送したうえプロセスマシン(加工機)の部品供給部に移載するだけで、本願発明のもののように、一種の加工作業を行うものではなく、また、必ずしも正確な位置に電子部品を移載しなければならないものではない。

このように、両者は、その技術分野を異にしているのであり、このことは、本願発明が、国際特許分類H05K3/30に分類されるのに対し、引用例発明1が、B65B15/04に分類されていることによっても明らかである。

引用例発明2は、回路基板上の正確な位置に電子部品を安定確実に装着するという一種の加工作業を行う装置である点では本願発明と共通しているが、引用例2には、電子部品の保管・供給については、電子部品をトレイから吸着することを述べるだけで、他の事項、特に本願発明におけるように電子部品収納テープキャリアによる供給方式を電子部品装着装置に組み込む技術思想の採用やそれに伴う問題点については、言及するところはもちろん、これを示唆する記載もない。

このように本願発明及び引用例発明2の電子部品装着装置と引用例発明1のローディングデバイスとは、技術分野を異にし、その手段も目的作用も異にしているのであり、このようなとき、後者の装置に係る技術を前者の装置と結び付けることは、一般的にいっても、当業者にとって容易でないといわなければならない。

(2)  このことは、引用例発明1の構成をより具体的にみれば、より明確になる。

引用例発明1のローディングデバイスは、前述のとおり、それ自体一個の独立した装置であり、そのキャリアテープは、部品を吸着位置に搬送した後、巻取り用リールに巻き取られて、次工程における部品のポケット部への装填に備えなければならず、繰り返し使用されることが必要とされるものであるから、電子部品が吸着される吸着位置まで部品を供給する部品供給部分と、吸着により部品が取り出された後収納テープを巻き取るリールを含むテープ巻き取り部とを必須の構成要素とするものである。

したがって、本願発明の出願当時、引用例発明1のローディングデバイスの各構成要素の機能を分析し、ローディングデバイスにとって必須の構成とされていた上記テープ巻取り部の構成要素を捨て、部品供給部の構成要素のみを他の装置の内部構造に転用して本願発明の装置と同様のものとしようとすることは、ローディングデバイスそのものを否定することにつながる発想の転換を必要とすることであり、そのような発想の転換を示唆するものが存在したのでない限り、このようなことは、当業者にとり容易でなかったといわなければならない。

(3)  引用例2には、粘着テープから電子部品を吸着して取り出してもよいことは記載されているが、吸着して取り出す具体的構造は、同引用例を見ても不明である。

このようなとき、同引用例の「粘着テープから電子部品を吸着して取り出してもよい」との漠然とした記載に示唆されて、引用例発明1の電子部品移送装置を同2の電子部品装着装置に組み込むこと自体容易であったとは思われず、まして、そこから上記テープの巻き取り部の構成要素を捨てたうえ、残った電子部品供給機構のみを同2の電子部品装着装置に組み込み、本願発明と同様の構成とすることに想到することが、当業者にとって容易であったとは考えられない。

その他引用例1~3中には、このように引用例発明1のローディングデバイスそのものを否定しつつその部品供給部の構成要素のみを他の装置の内部構造に転用しようとする発想を生じさせるものは存在しない。

そうとすれば、引用例発明1の構成の中からその部品供給手段の部分だけを取り出し、これを引用例発明2の電子部品装着装置に、その内部構造として組み込むとの発想を得ること自体が、当業者にとって容易でなかったことが明らかであるから、たとい、引用例2に上記審決認定の技術手段が記載されているとしても、そのことは、上記発想に基づく本願発明に想到することが容易であったとする根拠にはなりえない。

(4)  本願発明は、単に「微小電子部品を連続安定供給する」(審決書9頁3~4行)機構を求めるという技術的観点からではなく、電子部品装着装置における装着具への供給方法に関する従来技術であるキャリアマガジン供給方式の大きな空間と複雑な送り装置を必要とするという欠点を解消するとの技術的観点の下に、これを実現するための手段として、前述のとおり、使用済みの収納テープを使い捨てにすることにして、巻き取り用リールを否定する構成の部品搬送手段を採用したのである。これは、上記のとおり、引用例発明1のローディングデバイスそのものを否定することにつながる発想の転換という困難を克服して初めてなしえたことであり、ここに本願発明の進歩性の根拠があるのである。

審決は、上記事情を考慮に入れることなく、審決認定の前掲事項から、直ちに、「引用例1のローディングアームにかえて、微小電子部品を連続安定供給するため、種々の電子部品供給法の中から引用例2に記載の技術を選択し、引用例1の技術と組み合わせることは当業者が格別の困難性なく、容易になしうることである。」(審決書9頁2~7行)としたものであり、その誤りは明らかといわなければならない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1(相違点の看過)について

(1)  本願明細書に本願発明が解決しようとする問題点等につき原告主張のとおりの記載があること、これによるときは、本願発明が電子部品装着装置の省スペース化、構造の簡単化を主として意図するものと理解されることは認める。

しかし、本願明細書には、省スペース化、構造の簡単化に関し、原告も認めるように、「移載装着手段への電子部品の供給を、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体によつて行つており、またこの電子部品集合体を巻き取られた状態で保持しているため、比較的小型で、かつ簡単な構成の送り出し装置によつて電子部品の自動供給が行なえる。」(甲第2号証3欄17~21行、甲3号証補正の内容(3))と説明されているだけであり、電子部品を吸着位置に移送した後の構成については、何ら説明されていない。

この記載によると、本願発明における省スペース化、構造の簡単化は、電子部品の供給を電子部品集合体によって行い、この電子部品集合体を巻き取られた状態で保持することにより達成されるものと解すべきである。そして、原告も認めるように、電子部品集合体、第1の巻取手段、移送手段、案内手段、分離手段及び被覆テープを巻き取る第2の巻取手段という構成のみで、必要かつ十分に電子部品を吸着位置に移送するという目的を達成できるのであるから、本願発明において意図されている省スペース化、構造の簡単化は、あくまで電子部品を吸着位置に移送するまでの構成によるものであり、電子部品が取り出された後の空の収納テープの処理に関する事項を含め、電子部品が吸着された後の構成によるものは、全く意図されていない。

本願の特許請求の範囲には、「少くとも前記被覆テープを巻き取る第2の巻取手段を有し」として、被覆テープ以外のものが巻き取られる構成のものもありうることを予定している。

したがって、空になった収納テープを巻き取るリールの有無を省スペース化、構造の簡単化の観点から論じ、本願発明においてはこのリールがないものとされているとする原告の主張は、失当である。

(2)  引用例発明1のローディングデバイスが、リールに巻き取られたテープキャリア内に部品を一時的に保管し、これを次の工程の加工機に供給し、あるいは、ある加工機にある部品をテープキャリア内に移したうえ、そのテープキャリアをリールに巻き取って一時的に保管するものであることは認める。

しかし、引用例1によれば、同発明のローディングデバイスが電子部品の加工機へのロード(装填)用に用いられる場合、後側リール(リール4、原告のいうリールB)に巻き付けられた電子部品収納のテープキャリアがローディングデバイスに取り付けられ、このテープキャリアが駆動ローラ(ローラ7)によって同リールから巻き出され、巻き出されたテープキャリアから電子部品が取り出され、その後、空のテープキャリアが巻取りリール(原告のいうリールA)に巻き取られるものとされているのであり、これによれば、搬送することは駆動ローラ(ローラ7)によって行われるのであって、巻取りリール(リール3、原告のいうリールA)は、電子部品を吸着位置に搬送する手段ではなく、単に電子部品が取り出された後の空のテープキャリアの処理のために設けられたものにすぎないことが明らかである。

そうとすれば、テープキャリアによって電子部品を取り出し位置まで供給し電子部品を取り出す観点からすれば、引用例発明1においても、巻取りリールは必ずしも必要ないとされていることは明らかであり、原告の主張は、引用例発明1のローディングデバイスは、テープキャリアによって電子部品を取り出し位置まで供給し電子部品を取り出す場合についても巻取りリールを必須のものとしているとする点においても、誤っているといわなければならない。

(3)  相違点の看過をいう原告の主張は、上記のとおり、二重の意味で失当であり、いずれにせよ採用できないことが明らかである。

2  同2(相違点(1)についての判断の誤り)について

引用例発明1も引用例発明3も、ともに、電子部品の保管と供給(移送)を安定確実に行うことを目的とする発明である。そうである以上、引用例発明1のストリップ材の封じ込め機能をより完全にするために、被覆テープ(カバー)を収納テープ(リボンであるキャリア)に固着する引用例発明3の技術を引用例発明1に適用して、ストリップ材を収納テープ(ベルト)に固着することにより、本願発明の「電子部品集合体」の構成を得ることが当業者にとって困難であったとは考えられず、これが困難であったとする原告の主張は失当である。

3  同3(相違点(2)についての判断の誤り)について

(1)  一般的に、装置は、各特有の機能を有する要素が組み合わされて構成されるものであり、装置を構成する場合においてどの要素を選択して組み合わせるかは、要求する機能を有する要素の中から目的に従って決定するものである。

これを電子部品装着装置について見た場合、同装置が機能するためには、電子部品を装着する要素のほか、電子部品の保管・供給の要素、すなわち、電子部品を一時的に保管したうえ、保管された電子部品を、これを装着する部分まで移送する要素が必要であることはいうまでもない。

引用例発明1のローディングデバイスに用いられているテープキャリアは、電子部品等の部品を収納したうえリールに巻き取られて、一時的にこれを保管し、電子部品取り出し位置、すなわち、吸着して上方に取り出す位置まで移送して、そこで次の工程の加工機に供給する機能を有するものである。

引用例2には、「本発明のさらに別の実施例においては、コンポーネント40は粘着テープに格納されてもよい。スピンドル48のバキュームを、ピックアップ時に粘着テープからコンポーネント40を引き剥がすに充分なものとすればよいのである。」(甲第5号証21欄~27行・訳文10頁13~17行)と記載されている。この記載が、電子部品装着装置である引用例発明2につき、それに組み込まれた電子部品格納手段(保管供給手段)として、同引用例のそれ以前の部分に記載されているロードトレイ以外にも、テープを用いることが可能であることを意味することは、明らかである。

以上の諸点を総合した場合、引用例発明2の電子部品装着装置に電子部品を供給する要素として、引用例発明1のローディングデバイスに用いられているテープキャリアを選択し、これを同電子部品装着装置の内部構造として組み込むことは、当業者ならば容易に想到しえたことといわざるをえない。

(2)  原告主張の国際特許分類の相違、及び技術分野の相違があることは認める。

しかし、上述のとおり、電子部品装着装置が機能するためには、電子部品を装着する要素のほか、電子部品の保管・供給の要素、すなわち、電子部品を一時的に保管したうえ、保管された電子部品を、これを装着する部分まで移送する要素が必要であることはいうまでもないことであり、また、引用例発明1においても、収納テープ(ベルト)に格納された電子部品を保管・移送した後、加工機の必要な位置に、それなりの正確さで自動供給するものとされているのであるから、引用例発明1と引用例発明2あるいは本願発明とは、技術分野が全く同じとはいえないとしても、比較的、近接又は類似の技術分野に属することは明らかであり、技術的思想において共通のものを有しているから、それらの間には、互いを組み合わせることを困難にするような要素はないといわなければならない。

(3)  本願発明が巻取り用リールの不存在を構成要件とするものではないことは前述のとおりであるから、これが構成要件であることを前提に、発想の転換をいう原告主張は、前提を欠くもので失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の看過)について

(1)  本願明細書の特許請求の範囲の記載が次のとおりのものであることについては、当事者間に争いがない。

「電子部品を収納する凹部を等間隔に多数配した収納テープ、同収納テープの各凹部に若干のすき間を設けて収納された電子部品および前記収納テープに固着し同収納テープの凹部を閉蓋する被覆テープで構成された電子部品集合体を巻き取られた状態で保持し、かつ回転可能な第1の巻取手段と、前記第1の巻取手段から巻き出された前記電子部品集合体を、その長手方向に所定ピッチで移送する移送手段と、前記移送に際して前記電子部品集合体を案内する案内手段と、少くとも前記被覆テープを巻き取る第2の巻取手段を有し、前記被覆テープを収納テープから分離する分離手段と、前記移送手段により被覆テープが分離された状態で所定位置まで送られた前記収納テープの凹部から前記収納テープが水平に支持された状態で電子部品を吸着して上方に取り出し、かつ取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により前記回路基板上へ移載装着する移載装着手段と、前記移載装着手段に吸着された状態で前記電子部品の位置を規正する位置規正手段とを備えた電子部品装着装置。」

上記特許請求の範囲の記載に示されるとおり、本願発明において、電子部品が取り出された後の空の収納テープの処理についての構成は、その特許請求の範囲に明示されておらず、また、本願明細書中に、これにつき明確な記載がないことは原告の自認するところである。

また、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、本願発明の構成によって生ずる省スペース化、構造の簡単化の作用に関し、「上記本発明の構成によれば、移載装着手段への電子部品の供給を、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体によつて行つており、またこの電子部品集合体を巻き取られた状態で保持しているため、比較的小型で、かつ簡単な構成の送り出し装置によつて電子部品の自動供給が行なえる。」(甲第2号証3欄17~21行、甲3号証補正の内容(3))と説明されているだけであることは、当事者間に争いがなく、甲第2、第3号証により認められる本願明細書及び図面を精査しても、本願発明が、その意図する省スペース化、構造の簡単化を、上記「移載装着手段への電子部品の供給を、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体によつて行つており、またこの電子部品集合体を巻き取られた状態で保持している」こと以外に、収納テープ巻取用リールの省略等の手段により実現するものであることについては何ら言及するところはないことが認められる。

(2)  原告は、本願発明は、引用例発明1を含め従来この種装着装置において必須のものと観念されていた電子部品が取り出された後の空の収納テープを巻き取るためのリールを排除したことに意義がある旨主張する。

しかし、特許請求の範囲に電子部品が取り出された後の空の収納テープ巻取り用リールについての記載がないことは、本願発明が同巻取り用リールを本願発明の要旨となる構成としない旨を表示するにすぎず、これをもって、同巻取り用リールが存在する構成を排除することを本願発明の要旨としているといえないことは明らかである。

のみならず、上記特許請求の範囲には、「少くとも前記被覆テープを巻き取る第2の巻取手段を有し」との記載があり、この「少くとも」の文言は、その日本語としての通常の用法とそれが用いられている文脈に照らし、本願発明が巻き取られる対象を被覆テープに限定せず、これ以外のものがある場合を排除していないこと、もしくは、被覆テープを巻き取る第2の巻取手段以外に、被覆テープ以外のものを巻き取る第3の巻取手段を備えることを排除していないことを明示していると認められる。

そして、上記「少くとも前記被覆テープを巻き取る第2の巻取手段を有し」との構成は、本願の特許請求の範囲に示された電子部品搬送手段部分の構成、すなわち、収納テープ、電子部品及び被覆テープからなる電子部品集合体、電子部品集合体を巻き取られた状態で保持する第1の巻取手段、電子部品集合体を移送する移送手段、その移送を案内する案内手段、電子部品集合体の被覆テープを収納テープから分離する分離手段、被覆テープを巻き取る第2の巻取手段からなる構成に含まれて記載されており、その余の本願発明の構成である移載装着手段及び位置規正手段とは直接の係わり合いがないことが明らかであるところ、この電子部品搬送手段部分の構成を検討すると、本願発明において、被覆テープ以外に巻き取られるものとして当業者が合理的に予想できるのは、電子部品が取り出された後の空の収納テープ以外にありえないと認められる。

(3)  したがって、本願発明が収納テープ巻取用リールを排除することをその要旨としていることを前提として、相違点の看過をいう原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  同2(相違点(1)についての判断の誤り)について

(1)  「引用例3に本願の収納テープに相当するキャリヤの電子部品を収納する凹部に、本願発明の被覆テープに相当するカバーを固着し、凹部を閉蓋する点が記載されており、両者の作用効果についても、本願発明のものと格別の相違はない」(審決書8頁10~14行)ことについては、当事者間に争いがない。

また、「引用例1及び引用例3に記載された発明は、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体を用いて、電子部品の自動供給を行うためのものである」(審決書6頁6~9行)との審決の認定は、ここでいう「電子部品集合体」が、単に、微小電子部品を等間隔に積載した収納テープの収納口側が被覆テープで覆われているもの全般を意味し、被覆テープが収納テープをどのように覆い、そこでどれだけの役割を果たしているかは問わない意味で用いられていることを前提として、原告も、あえて争わないところである。

これらの事実からすると、引用例発明3の上記構成を引用例発明1に適用して本願発明のものと同じとすることは、当業者にとって容易であったといわなければならない。

(2)  原告は、引用例発明1において、被覆テープ(ストリップ材)と収納テープ(ベルト)は、何回も繰り返し再使用できることを予定しているのであるから、これを困難にするところの被覆テープを収納テープに固着する発想を得ること自体容易でなかったと主張する。

しかし、引用例発明1の被覆テープは収納テープに固着されていないため、電子部品を確実に収納保持するという点において、いくつかの欠点が生ずるものであることは原告も認めるところであり、このことは当業者にとって自明の事柄と認められ、また、原告主張のように、引用例発明1が、テープキャリヤの再利用のために、あえてこれらの欠点に目をつむったものであるとすれば、同様に、テープの再利用による利点には目をつむって、これよりも電子部品を確実に収納保持することを重視し、このために、同じ技術分野における引用例発明3に示された被覆テープを収納テープに固着する手段を採用することは、当業者が特別の困難なしにできる選択の問題にすぎないと認められる。

また、昭和55年9月25日発行の「特許からみた機械要素便覧〔固着〕」(乙第1号証)によれば、従前から、機械要素の分野における「固着」の概念には、「一体的な固着」等と並んで「はめはずしできる固着」も含まれること(同667~668頁)、「はめはずしできる固着」には「スナップ作用により、嵌め外しできるもの」、「受け部(凹部・穴部)が弾性を有するもの」、「差込み部(凸部)が弾性を有するもの」等の技術があることが知られていたこと、甲第6号証によれば、引用例3に開示されている固着の方法は、可撓性の収納テープ及び可撓性の被覆テープを、そのいずれかに設けた突起体を他方に設けた一列の穴に嵌め込むものであることが認められる。この引用例3に開示された固着手段によるときは、被覆テープを収納テープから分離するとき、突起体及び穴に破損等が生じないようにして再使用できるようにすることも、十分可能であると認められる。

そして、引用例発明3が、電子部品を収納する凹部に本願発明の被覆テープに相当するカバーを固着し、凹部を閉蓋する点において、本願発明と異なるところのないことは、原告も認めるところであるから、この点からすれば、本願発明においても、収納テープを再利用する構成を排除していないというべきである。

そうとすれば、テープの再利用とテープの固着とは両立が困難であることを前提とする原告の主張は、前提において既に失当といわなければならない。

他にも、引用例発明3の上記構成を引用例発明1に適用して本願発明のものと同じとすることを困難とする事情は、本件全証拠を検討しても見出すことができない。

(3)  以上のとおりであるから、原告の取消事由2の主張も理由がない。

3  同3(相違点(2)についての判断の誤り)について

(1)  本願発明が目的とする電子部品装着装置において、同装置が十全に機能するためには、電子部品を装着する手段の前段階として、電子部品を収納し、これを装着する位置にまで移送する手段が必要であることは、技術常識からしても、本願明細書中の従来技術に関する前示記載に照らしても明らかである。

このように、電子部品装着装置が、その機能上、電子部品を収納・移送する手段とこれを装着する手段とを必要とするものであれば、電子部品装着装置の改良を試みる当業者が、そのそれぞれにおける最適な手段を組み合わせることを考えることは自明のことと認められる。

したがって、電子部品の保管・移送を主な技術課題とする引用例発明1と電子部品の装着を技術課題とする引用例発明2との間には技術分野の相違があるとしても、両発明は、いずれも電子部品装着装置を構成する各手段として共通するものであるから、これを組み合わせることを妨げる事由があるとは認められない。

特に、前示当事者間に争いがない審決認定の引用例1の記載事項から明らかなように、引用例発明1は、電子部品を取り出して次の工程の加工機に供給することを予定しているのであるから、この供給手段につき、次の加工工程にとって必要かつ適切な手段を採用して組み合わせようとすることは、当業者が当然にとるべき事柄であると認められる。

そして、引用例発明2が、回路基板に電子部品を位置決めして装着する装置であること、「引用例2に粘着テープから電子部品を吸着して取出してもよいこと、かつ取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により回路基板上に微小電子部品を移載する手段、上記手段に吸着された状態で電子部品の位置を規正する手段が記載されている」(審決書8頁17行~9頁2行)ことは、当事者間に争いがない事実であるから、引用例発明1に引用例発明2を組み合わせて、本願発明の構成に想到することは、当業者が容易にできることといわなければならない。

両発明の技術分野の相違を根拠とする原告主張は、採用できない。

(2)  原告は、引用例2を見ても、粘着テープから電子部品を吸着して取り出す具体的構造は不明であるから、このような漠然とした記載に基づいて、これと引用例発明1とを組み合わせて、本願発明と同様の構成にすることは容易に想到できない旨を主張する。

しかし、引用例2には、上記「取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により回路基板上に微小電子部品を移載する手段、上記手段に吸着された状態で電子部品の位置を規正する手段が記載されている」(審決書8頁18行~9頁2行)のであり、この構成が、本願発明の要旨として示された「取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により前記回路基板上へ移載装着する移載装着手段と、前記移載装着手段に吸着された状態で前記電子部品の位置を規正する位置規正手段」に対応することは明らかであって、本願発明においても、電子部品を吸着して取り出す具体的構造を発明の要旨としていないのであるから、原告の主張は成り立たない。

原告のその余の主張は、結局のところ、本願発明が電子部品が取り出された後の収納テープ巻取り用リールを備えないものであることを前提とするものであり、この前提が認められないことは前述のとおりであるから、これが失当であることも、明らかである。

他に上記判断の妨げとなる資料は、本件全証拠を検討しても見出すことができない。

原告の取消事由3の主張も理由がない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

昭和59年審判第14377号

審決

大阪府門真市大字門真1006番地

請求人 松下電器産業株式会社

大阪府門真市大字門真1006 松下電器産業株式会社内

代理人弁理士 粟野重孝

大阪府門真市大字門真1006番地 松下電器産業株式会社内

代理人弁理士 小鍜治明

昭和54年特許願第7764号「電子部品装着装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年1月26日出願公告、特公昭62-3598)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

本願は、昭和54年1月25日に出願されたものであって、その発明の要旨は、当審において出願公告後の昭和62年10月20日付け手続補正書により補正された明細書と図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものと認める。

「電子部品を収納する凹部を等間隔に多数配した収納テープ、同収納テープの各凹部に若干のすき間を設けて収納された電子部品および前記収納テープに固着し同収納テープの凹部を閉蓋する被覆テープで構成された電子部品集合体を巻き取られた状態で保持し、かつ回転可能な第1の巻取手段と、前記第1の巻取手段から巻き出された前記電子部品集合体を、その長手方向に所定ピッチで移送する移送手段と、前記移送に際して前記電子部品集合体を案内する案内手段と、少くとも前記被覆テープを巻き取る第2の巻取手段を有し、前記被覆テープを収納テープから分離する分離手段と、前記移送手段により被覆テープが分離された状態で所定位置まで送られた前記収納テープの凹部から前記収納テープが水平に支持された状態で電子部品を吸着して上方に取り出し、かつ取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により前記回路基板上へ移載装着する移載装着手段と、前記移載装着手段に吸着された状態で前記電子部品の位置を規正する位置規正手段とを備えた電子部品装着装置。」

これに対して、当審における特許異議申立人、富士機械製造株式会社が提出した英国特許明細書第1278785号明細書(1972年6月21日発行)(以下、引用例1という。)には、(1)ベルト1にポケット2を等間隔に多数配し、各ポケットに電子部品を若干のすきまを設けて収納すること、およびこのベルトはストリップ材がポケット内の電子部品を取出可能にはさまれて、回転可能なリールに巻取られること、(2)リールから巻き出されたベルトを、その長手方向に所定ピッチで移送するため、各ポケットの近くに穴10が設けられ、穴10が検知装置9に検知されると、ベルトはブレーキ28によって停止されること、(3)ベルトは、電子部品をプロセスマシンにロードすることと、プロセスマシンから電子部品をアンロードしてベルトに格納することの両方を行うことを予定したものであること、(4)第3A図とその説明には、ドラム上に巻かれたベルトの互いに隣接する層の間にストリップ材(柔らかい紙または他の可撓材)が、ポケット内の電子部品を取出可能に封じ込める手段として挟まれること、(5)ベルトがロードで使用される場合、ローディングアーム11は、ベルトのポケット内の電子部品に接触するまで下降し、電子部品を吸着して上方に取出し、プロセスマシン13のポケット12に供給すること(なお、図面ふらみて、このときベルトは、ほぼ水平状態にされている。)が記載されており、同じく米国特許第4135630号明細書(1979年1月23日発行)(以下、引用例2という。)には、回路基板に電子部品を位置決めして装着する装置であって、(1)コンポーネント(半導体チップ、ICチップ等)40をトレイ26から吸着し、基板30に対して相対的に移動させて基板の所望位置へ装着するヘッドアッセンブリ44、46を備えていること、(2)ヘッドアッセンブリ44、46のスピンドル48には、位置規正手段のアクシスロケータ302、320が設けられ、スピンドル48の先端部266に吸着されたチップ40のセンタリングが行なわれ、すなわち、スピンドル48に吸着された状態でチップ40は、アクシスロケータ302、320により、X軸方向、Y軸方向の位置規正が行なわれ、その後、チップは回路基板に装着されること、(3)スピンドル48は、粘着テープに粘着されたコンポーネント40を吸着してもよいこと、が記載され、さらに同じく、米国特許第3465874号明細書(1969年9月9日発行)(以下、引用例3という。)には、金属、プラスチック等からなるリボンであるキャリヤ10には、凹部12が一列に等間隔に設けられ、各凹部12には若干のすきまを設けて電子部品を収納すること、かつキャリヤ10には凹部を覆うカバー20がこぶ16で係合され、その状態でスプールまたはリールに巻かれること、が記載されている。また、上記引用例1~引用例3に記載された発明は、全体的にみていずれも、微小電子部品の連続安定供給を行うためのものであり、特に引用例1及び引用例3に記載された発明は、テープに微小電子部品を等間隔に積載した電子部品集合体を用いて、電子部品の自動供給を行うためのものである。

そこで、本願発明と引用例1に記載された発明とを比較すると、前者の「凹部」、「収納テープ」、「被覆テープ」に、それぞれ後者の「ポケット」、「ベルト」、「ストリップ材」に対応するものであるから、両者は、電子部品を収納する凹部を等間隔に多数配した収納テープ、同収納テープの各凹部に若干のすきまを設けて収納された電子部品および前記収納テープの凹部を覆う被覆テープで構成された電子部品集合体を巻取られた状態で保持し、かつ回転可能な第1の巻取手段と、前記第1の巻取手段から巻き出された前記電子部品集合体を、その長手方向に所定ピッチで移送する移送手段と、前記移送手段により所定位置まで送られた前記収納テープの凹部から前記収納テープが水平に支持された状態で電子部品を吸着して上方に取り出す手段を備える点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

(1) 収納テープの凹部を覆う被覆テープが、本願発明では収納テープに固着され、収納テープの凹部を閉蓋するのに対し、引用例1の発明では、収納テープ間にはさまれた状態にあり、収納テープに固着されていない、

(2) 本願発明が、収納テープから取出された電子部品を回路基板との相対的移動により前記回路基板上へ移載装着する手段と、前記手段に吸着された状態で前記電子部品の位置を規正する手段とを備えるのに対し、引用例1の発明でプロセスマシンがロードされるときは、収納テープからローディングアームにより取出された部品はプロセスマシンに移載されるものであり、また、位置規正手段については格別記載がたい、

(3) 本願発明が、移送に際して電子部品集合体を案内する手段と、被覆テープを巻取る第2の巻取手段を有し、被覆テープを収納テープから分離する手段を備えているのに対し、引用例1には、第3A図で巻きとられた本願発明の電子部品集合体に相当するものから部品を取出す場合について具体的記載がなく、その際の案内手段および分離手段については記載がない。

上記相違点について検討すると、(1)については、引用例3に本願の収納テープに相当するキャリヤの電子部品を収納する凹部に、本願発明の被覆テープに相当するカバーを固着し、凹部を閉蓋する点が記載されており、両者の作用効果についても、本願発明のものと格別の相違はないから、上記相違点については、当業者が引用例3に記載された事項に基づいて容易になしうことである。

また(2)については、引用例2に粘着テープから電子部品を吸着して取出してもよいこと、かつ取り出された電子部品を回路基板との相対的移動により回路基板上に微小電子部品を移載する手段、上記手段に吸着された状態で電子部品の位置を規正する手段が記載されているので、引用例1のローディングアームにかえて、微小電子部品を連続安定供給するため、種々の電子部品供給法の中から引用例2に記載の技術を選択し、引用例1の技術と組み合わせることは当業者が格別の困難性なく、容易になしうることである。

さらに(3)については、一般にテープを移送するに際して案内手段を設けることは、当業者間に周知の技術であり、当業者が必要に応じて容易になしうることにすぎない。また、引用例1のストリップ材が用いられて巻回されたものから電気部品が取り出されるとき、ストリップ材をどのように処理するかについて引用例1に明確な表現がないものの、引用例1の発明が、ロードまたはアンロードを前提にしていること、また、使用時にストリップ材を取らなければ電気部品を取出せないことを鑑みれば、出願時の技術水準からみて、ストリップ材の巻取手段およびストリップ材をベルトから分離する手段を設けることは、当業者が容易になしうることと認められる。

そして、上記引用例1~引用例3の各引用例は同一の技術分野に属し、記載された技術は、微小電子部品の自動供給のため用いられるものであるから、当業者が必要に応じてそれら技術を組合せて本願発明のようにすることに格別の困難性はなく、容易になしうることである。

したがって、本願発明は上記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年9月5日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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