東京高等裁判所 平成3年(行ケ)271号 判決 1992年6月30日
東京都杉並区上井草1丁目9番27号
原告
森谷健康食品株式会社
代表者代表取締役
森谷龍一
訴訟代理人弁理士
三嶋景治
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 麻生渡
指定代理人
須藤祀久
同
有阪正昭
同
田辺秀三
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 請求の趣旨
1 原告
「特許庁が昭和60年審判第2132号事件について平成3年9月19日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続
原告は、昭和58年5月16日、指定商品を第30類(但し、平成3年政令299号による改正前の商標法施行令の区分による。)「菓子 パン」として、「HOKENSHOKU」なる文字を横書きしてなる別紙商標目録記載の商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願をしたところ、昭和60年1月11日拒絶査定を受けたので、同年2月4日審判の請求をした。特許庁はこの請求を同年審判第2132号事件として審理した結果、平成3年9月19日、上記請求は成り立たない、とする審決をした。
2 審決の理由の要点
近時、食品業界では、健康見直しブームといわれる中で消費者のニーズに対応して、例えば、カロリーを明記した砂糖無添加のビスケットやクッキー等の菓子類、低カロリー・ケーキ、野菜と健康素材入りパン等、ビタミンやカルシウム等の健康素材(栄養素)を添加したパンや菓子を「健康菓子」と称して、デパート等で販売しているのが実情である(製菓実験社発行「製菓製パン」昭和58年5月号掲載)。また、五大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂肪、ミネラル、ビタミン)をバランスよく考えた食品等に「ダイエット食品」、「健康食品」又は「健康志向食品」などの文字を付して一般に市販されているところである。
そして、「総合食品事典」(同文書院発行)によれば、「保健食」の語が「健康を維持するのに十分なカロリー、タンパク質、無機質、ビタミンなどの栄養素を含むように工夫された日常食」を意味する語として使用(掲載)されている事実も認められる。
本願商標は、「HOKENSHOKU」の文字を書してなるものであるところ、該文字は「保健食」の語をローマ字で表したものであることは容易に理解されるものである。
そうすると、「HOKENSHOKU」の文字(語)を本願の指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者は上記の実情からみて「一日に摂取すべき栄養所要量をバランスよく含んだ食品」の意を表したものと理解されるにとどまるものとみるのが相当である。
してみれば、本願商標は、その指定商品に使用しても商品の品質を表すにすぎず、自他商品を識別する標識としての機能を有するものとは認識し得ない。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するから、登録することができない。
3 審決の取消事由
審決の理由の要点のうち、本願商標の「HOKENSHOKU」の文字は「保健食」の語をローマ字で表したものであることは認めるが、その余は争う。審決は、近時の食品業界の実情についての認定を誤り、かかる誤った実情を前提として本願商標は単なる商品の品質を表すものと認定判断したものであるが、以下に述べるように誤っている。
審決は近時の食品業界の実情について、「ビタミンやカルシウム等の健康素材(栄養素)を添加したパンや菓子を『健康菓子』と称して、デパート等で販売している」と認定しているが、かかる事実はない。被告は、ビタミンやカルシウム等の健康素材(栄養素)を添加した「菓子、パン」が「健康菓子」、「健康パン」と称して販売されているというが、確かに、「健康菓子」、「健康パン」と称する商品自体があることは認めるが、乙第1号証によれば、「健康素材」とは、食物繊維やライ麦、小麦胚芽等をいい、「ビタミンやカルシウム」を「健康素材」とは表現していないし、また、「栄養素」についても乙第16号証から明らかなとおり、「カロリー、タンパク質、無機質、ビタミンなど」をいうものであるから、「健康素材」とは概念を異にするものであり、これを審決が「健康素材(栄養素)を添加したパンや菓子」と摘示して、両者を同義と認定した点において失当である。
そうすると、審決が摘示する「野菜と健康素材入りパン」とは、野菜のほか健康素材として食物繊維やライ麦、小麦胚芽等を添加したパンを意味するものであって、これら添加物は栄養素とは別物であるから、「健康菓子」、「健康パン」とは、「栄養素」を添加した「菓子、パン」とは認められないし、栄養素を添加して成る「菓子、パン」を「健康菓子」「健康パン」と称していないことは明らかである。
また、審決は、五大栄養素をバランス良く考えた食品等に「ダイエット食品」、「健康食品」、「健康志向食品」などの文字を付して一般に市販されていると認定している。
しかし、「ダイエット食品」とは、例えば、「海草食品」、「根菜類」等の、一般に食事の量を変えずに体重を減らすことのできる食品をいい、また、「健康食品」との用語の意味は現在混乱しており、「健康志向的要素のある食品及び栄養素をバランスよく考えた食品が含まれる」とは一概には言い難く、さらに「健康食品」、「健康志向食品」といわれるものは、いわゆる食品添加物等化学品で加工処理されていない食品、すなわち「自然食品」をいうのであるから、「ダイエット食品」、「健康食品」、「健康志向食品」が五大栄養素をバランス良く考えた食品等を意味するという審決の前記認定も誤りである。
被告は、「保健食」の定義において、「食事」の概念と「食品」の概念を同義としているが、両者は全く別の概念であり、「保健食」の概念が「健康食品」の意味合いを表したものとの被告の主張は、概念を混同するものであり、失当である。
そして、「保健食」の語が「総合食品事典」に「食品」を意味するものとして掲載されていたとしても、本願商標がその指定商品である「菓子、パン」に使用された場合、本件指定商品のうち、「菓子」については主食とするものではなく、また、「パン」については、主食としての意味合いが認められるとしても、「一日に摂取すべき栄養所要量をバランス良く含んだ食品」として加工されたものではないから、当該指定商品が直ちに「一日に摂取すべき栄養所要量をバランス良く含んだ食品」を意味するものと認識看取されるものではない。
本願商標は、出願人の独創に係る造語商標であり、従来「保健食」(HOKENSHOKU)なる商品の存在はなく、また、「保健食」(HOKENSHOKU)なる言葉自体の使用事実もない上、「保健食」とは、「食事」を意味するものであって、「菓子、パン」等の商品自体を表すものではなく、本願商標の如き「HOKENSHOKU」なる構成態様で、当該指定商品の品質表示として一般に使用されている事実もない。
そして、ローマ字で一連に書して成る本願商標の構成態様の面白さは、本件指定商品に使用されるも、十分自他商品識別機能を有し、商標として取引に供されるものである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因に対する認否
請求の原因1、2は認めるが、同3は争う。
2 反論
本件指定商品を取り扱う業界においては、いわゆる「健康食品」としての「菓子、パン」が消費者のニーズに沿うものとして製造、販売されているところであり、例えば、「カロリー調整用ビスケット」、「カルシウム強化クッキー」、「低カロリー・ケーキ」、「野菜を使ったケーキ」、「野菜と健康素材入りパン」等のビタミンやカルシウム等の健康素材(栄養素)を添加した「菓子、パン」を「健康菓子」、「健康素材入りパン」と称して、デパートやスーパーマーケットの自然食品売場をはじめ、一般のヘルシーショップで販売しているのが実情である(乙第1号証)。
そして、これらの商品は、例えば、「健康」、「健康食」、「健康食品」、「カロリー調整」及び「栄養成分強化」等の文字が商品の包装紙等に表示されて、販売されている(乙第2ないし9号証)。
したがって、一般の嗜好品的な「菓子、パン」に比して、いわゆる「健康によい」として売られている「菓子、パン」が「健康菓子」「健康パン」と称されているとみるのが相当であるから、審決の認定に誤りはない。
また、「健康食品」とは、「通常の食品より積極的に保健、健康増進などの目的をもち、すくなくともそうした効果を期待されている食品」(乙第11号証)ということがいえ、そのような食品の中には「ダイエット食品」(乙第13号証)、「自然食品」(同号証)などの健康志向的要素のある食品及び栄養素をバランスよく考えた食品が含まれ、これらは「健康食品」、「ヘルシーフード」あるいは「ヘルスフード」と指称されている(乙第10、12、14号証)。これらには、本件指定商品に含まれている「野菜入りケーキ、全粒粉のパン」等(乙第1、12号証)が含まれており、「玄麦乾パン」に「健康食品」の文字を表示して販売されている事実がある(乙第4号証)。また、「健康菓子」と称する「ビスケットやクッキー」等について五大栄養素を表示して販売されている事実がある(乙第5ないし8号証)。
次に、「食」とは、一般に、「食事」のほかに「食品」をも意味する(乙第14、20号証)から、「保健食」とは、「健康を保持・増進するためのカロリー、タンパク質、無機質、ビタミン等の栄養素を含む食事(食品)」、すなわち、「栄養的にバランスがとれた食品(日常食)」を意味し(乙第14ないし18号証)、更に拡大解釈されて、いわゆる「健康食品」的に取り扱われていることもある(乙第14、15号証)。
してみれば、「保健食」は、「健康食品」的な意味合いを表したものと理解されるのが相当であり、本件指定商品に含まれる、例えば、「カロリー調整用ビスケット」、「健康素材入りパン」等は、上述のとおり、「健康食品」であり、個々人の栄養バランス等を適宜考慮し、日常食として、幼児、子供、成人、病人等が食する食品というべきであり、かかる用い方において、本件指定商品は、日常食としての食品(菓子、パン)ということができる。
そして、食生活の多様化に伴い、「主食」としても供される商品も販売されている(乙第19号証)ところである。
原告は、本願商標を自己の造語であると主張するが、本願商標の構成からは、「保健食」以外の称呼は生じないことからすると、造語商標とは認め難い。
以上のように、「HOKENSHOKU」(保健食)の語(文字)は、「健康を保持・増進するために十分な食品」を意味するものであり、また、「保健食」が「健康食品的」に取り扱われていることもあることからすると、「HOKENSHOKU」(保健食)と「健康食品」とは、明確に区別できないものであり、むしろ、同様な意味合いを表したものと理解されるものといわざるを得ない。
してみると、「HOKENSHOKU」の文字を本件指定商品に使用した場合、それに接する取引者、需要者は、上記のような実情からみて、「健康を維持するのに必要な栄養所要量をバランスよく含んだ日常食(菓子、パン)」の意を表示した「健康食品」的な意味合いを表したものと理解するにとどまるものとみるのが相当である。
したがって、本願商標が単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものとした審決の認定判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
2 取消事由について
(1) 本願商標に係る指定商品が「菓子、パン」であること及び審決の理由の要点のうち、本願商標の「HOKENSHOKU」の文字が「保健食」の語のローマ字表記であることはいずれも当事者間に争いがない。
(2) 成立に争いのない乙第11号証(昭和61年1月1日自由国民社発行「現代用語の基礎知識1986」1162頁)及び同第12号証(昭和63年1月1日集英社発行「情報・知識imidas」1086頁)、同第13号証(昭和57年2月25日医歯薬出版株式会社発行「新編日本食品事典」550、551頁)、同第14号証(昭和61年11月27日株式会社調理栄養教育社発行、社団法人全国調理師養成施設協会編「調理用語辞典」333頁)及び同第15号証(昭和54年10月25日株式会社光琳発行、日本食品工業学会編纂「食品工業総合事典」314頁)によれば、「健康食品」とは、商業・産業用語であり、その明確な定義は確立していないが、厚生省は非公式ながら「通常の食品より積極的に保健、健康増進などの目的をもち、すくなくともそうした効果を期待されている食品」であるとする見解を示している(乙第11号証)ほか、市販の刊行物には「一般に健康増進に役立つとされている食品群をいう」(乙第12号証)、「一般にHealth foodと呼ばれており、栄養強化と薬効強化の食品のことをいう」(乙第13号証)などと記載されていること、健康食品ブームは昭和40年代後半から国民の間に広がり始め、同49、50年にピークを迎え、昭和53年には出荷ベースで1000億円規模に達し、同60年においても約2000種類が販売され、年間売上高5000億円の市場といわれていることが認められ、他にこれを左右する証拠はない。
上記事実によれば、「健康食品」は、商業・産業用語であることから、その外延を画定するほどの明確な定義こそ確立されてはいないが、一般には、通常の食品よりも何らかの意味において健康増進に役立つとの観念を中核として、これに資するとされる食品を広く指称するものとして、既に本願出願前において、国民の間に広く受容され、定着していたものということができる。
そして、成立に争いのない乙第1号証(昭和58年5月5日株式会社製菓実験社発行「製菓製パン」5月号、128ないし155頁)には、東京都内の自然食品専門店や各地のデパートの自然食品売場などで展示販売されている「健康菓子」と称される商品類の調査結果が示されており、これによれば、「菓子類」としてカロリー調整用ビスケット、カルシウム強化クッキー、豆乳まんじゅう等合計31商品が、「低カロリー・ケーキ」として低カロリーの各種ケーキが、また、「野菜を使つたケーキ」として各種の野菜を材料とする各種ケーキが紹介されており、さらに、「野菜と健康素材入りパン」として豆乳、プルーン、食物繊維等を添加した各種の商品が「健康パン」の名称で販売されている事実が紹介されており、また、いずれも成立に争いのない乙第2ないし10号証によれば、個々の商品の包装紙に、菓子類では「健康」(前記2号証)、「健康食」(同3号証)、「健康、自然派」(同5号証)、「栄養成分強化」(同第7号証)等の、また、パンに「健康食品」(同第4号証)、「自然食品」(同第9号証)等の各表示をして販売されている事実が認められるところである。
これらの事実に前記認定の「健康食品」に関する認定事実を勘案すると、「健康菓子」ないし「健康パン」は「健康食品」の中の一分野として、通常の菓子、パン類よりも健康の増進に役立つとされる菓子、パン類を指称するものとして販売され、国民の間においてもそのような商品として認識、受容されているものと解することができるというべきである。
(3) ところで、本願商標における「HOKENSHOKU」の文字が、「保健食」の語のローマ字表記であることは前記のとおり当事者間に争いがないところであり、本願商標に接する者は、その指定商品が「菓子、パン」であることと相まって、本願商標が「保健食」を意味するものと理解するであろうことは容易に推認し得るところであるから、以下、「保健食」の語の有する意味について検討することとする。
前掲乙第14号証(956頁)、同第15号証(856頁)並びにいずれも成立に争いのない乙第16号証(昭和50年5月5日同文書院発行、桜井芳人編著「総合食品事典」第3版842頁)、同第17号証(昭和56年12月10日株式会社小学館発行、尚学図書編集「国語大辞典」2188頁)及び同第18号証(昭和58年12月6日株式会社岩波書店発行、新村出編著「広辞苑」第3版2202頁)によれば、「保健食」とは、例えば、「健康成人が一日に摂取すべき栄養所要量を含むように工夫した食事」(前掲乙第18号証)というように、元来は、健康を維持するのに必要な栄養素を含むように献立された「食事」を意味するものであるが、「保健食」が「栄養素組成のバランスのとれた食べ物」の意味をも有したことから、「健康食品」的に取り扱われていることもあり(同乙第14号証)、また、昭和50年代においては「保健食品」なる用語が、狭義の健康食品として、人の健康を維持、増進させるために必要な配慮を行った食品、ダイエットフード等を表す商業・産業用語として使用されるに至っている(同乙第15号証)との事実を認めることができ、他にこれを左右する証拠はない。
そうすると、本願商標を本件指定商品に付して使用した場合、これが「保健食」の元来の意味である「食事」を意味するものではないことは明らかであることからすると、本願商標を付した本件指定商品は、前記の「栄養素組成のバランスのとれた食べ物」を意味した「菓子、パン」、ないしは「保健食品」である「菓子、パン」、すなわち、健康食品としての「菓子、パン」であることを意味しているものと解される、とみるのが相当である。
(4) 以上認定の各事実、とりわけ、前記(2)項に認定したように、各種の「健康食品」が広く国民の間に流行する中で、本件指定商品の分野においても、前記のように「健康」、「健康食品」等の言葉を冠した各種の菓子、パン類が広く販売されているところ、元来、健康に配慮した、ないしは健康によいとの意味を有するところの「保健食」の称呼及び観念を生ずる本願商標を本件指定商品に付した場合、当該商品は、「保健食品」ひいては「健康に配慮した菓子、パン」を意味する「健康食品」の中の一種類であることを表示するものとして、当該商品の品質を表示したものと理解されるであろうことは、極めて容易に推認し得るところである。
したがって、本願商標が、商品の品質を表示するものとした審決の認定判断に誤りはないというべきである。
(5) 原告は、「健康菓子」、「健康パン」とは、「栄養素」を添加した「菓子、パン」とは認められないし、栄養素を添加して成る「菓子、パン」を「健康菓子」「健康パン」と称していないことは明らかであるとして、審決の認定を非難するので、この点について検討する。
確かに、前掲乙第1号証によれば、食物繊維やライ麦、小麦胚芽等を健康素材と称していることは原告主張のとおりであると認められるところである。しかしながら、同号証によれば、健康食品は、<1>自然食品グループ、<2>ダイエットなど「控えめ食品」グループ及び<3>栄養バランス食品グループに大別されるところ、前記ライ麦、小麦胚芽は<1>に属し、人工添加物等の摂取を避けて安全な素材から必要な栄養を得ようとするものであり、また、食物繊維は<3>に属し、不足し勝ちな栄養素を補強して栄養のバランスを取ろうとするものであることは明らかである(129頁3段目ないし130頁2段目)から、これらの健康素材を通して、所要の栄養素を摂取するという意味において、審決が「健康素材(栄養素)」と認定判断したことに誤りはないというべきである。
また、原告は、「ダイエット食品」とは、例えば、「海草食品」、「根菜類」等の、一般に食事の量を変えずに体重を減らすことのできる食品をいい、また、「健康食品」の用語の意味は現在混乱しており、「健康志向的要素のある食品及び栄養素をバランスよく考えた食品が含まれる」とは一概には言い難く、「健康食品」、「健康志向食品」といわれるものは、いわゆる食品添加物等化学品で加工処理されていない「自然食品」をいうのであるから、五大栄養素をバランス良く考えた食品等を意味するという審決の前記認定も誤りであると主張する。
そこでこの点についてみるに、前掲乙第12号証及び同第14号証(609頁)によれば、ダイエット食品とは、本来は、特定の制限を加えた食品を意味するものであるが、一般には、低カロリー食品を意味し、食べた時満足感があり、しかも、ビタミンやミネラルを落とさないように工夫された低エネルギー食品を総称しているものと認められ、これによれば、原告主張のように、単に体重を減少し得るのみならず、各種の栄養素のバランスをも考慮したものであることは当然の前提となっていることは明らかである。また、前記(2)項に認定したとおり「健康食品」の定義がその外延を画定するに足りるほど確立したものでないことは原告の指摘するとおりであるが、同項に説示したとおり、「健康食品」とは、広く健康の増進に役立つとされる食品を中核とする点においてはほぼ見解は一致しているといえるところであるし、「健康食品」の意味が原告指摘のように「自然食品」に限定されるとする根拠もない。したがって、この点に関する原告の前記主張は採用できない。
原告は、被告は、「保健食」の定義において、「食事」の概念と「食品」の概念を混同しているとするので、この点についてみると、既に、前記(3)項に認定判断したように、「保健食」の語が「栄養素組成のバランスのとれた食べ物」、すなわち、「食品」の意味をも有すること及び本件指定商品に付した本願商標が有する意味としては、「食品」を表すものと理解されること等に照らすと、本願商標が「保健食品」の意味を表すものと解した点に誤りがあるとはいえない。そして、かかる意味を有するものとしての「保健食品」が、健康を維持、増進させるために必要な配慮を行った食品、ダイエットフード等を表す商業・産業用語として使用されるに至っている事実に照らすと、「保健食」の語が「保健食品」等の健康によい食品を表すものと理解されるとした審決の認定判断を誤りとすることはできない。
原告は、本願商標は、出願人の独創に係る造語商標であり、従来「保健食」(HOKENSHOKU)なる商品の存在はなく、また、ローマ字で一連に書して成る構成態様の面白さは、本件指定商品に使用されるも、十分自他商品識別機能を有すると主張するのでこの点について検討するに、本願商標がその称呼から「保健食」を生じ、ひいては「保健食品」、「健康食品」を想起せしめることは既に説示したとおりであるから、本願商標が造語商標であるか否かを論ずる実益はないし、また、本願商標のローマ字による構成が新規であるとしても、その称呼から「保健食」を想起せしめる以上、前記の結論を左右するものではなく、したがって、原告のこの点に関する主張も採用できない。
以上のとおり、原告の主張はいずれも失当であり、審決に原告主張の違法はない。
3 よって、本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 押切瞳 裁判官 田中信義)
別紙
<省略>