東京高等裁判所 平成3年(行ケ)35号 判決 1992年11月19日
東京都千代田区丸の内二丁目一番二号
原告
旭硝子株式会社
右代表者代表取締役
古本次郎
右訴訟代理人弁理士
内田明
同
萩原亮一
同
安西篤夫
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官
麻生渡
右指定代理人
土井清暢
同
田中清紘
同
長谷川吉雄
同
田辺秀三
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が平成二年審判第六九号事件について平成二年一一月一五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五六年三月二七日、名称を「モールあるいはガスケットを形成する方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたところ、同六三年九月二日、出願公告がなされたが、特許異議の申立てがあり、平成一年九月一二日に拒絶査定がなされた。原告は、同二年一月一一日に審判を請求したところ、特許庁は、右請求を同年審判第六九号事件として審理した結果、同年一一月一五月、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
二 本願発明の要旨
板硝子の周辺部に合成樹脂製のモールあるいはガスケットを形成する方法において、板硝子を型内に配置し、型を閉じて該板硝子の周辺部表面および型内面によりモールあるいはガスケットを形成するためのキヤビテイー空間を形成し、次いで反応射出成形方法により合成樹脂原料を該キヤビテイー空間に注入して固化し、合成樹脂の固化後該板硝子を該型より取り出すことを特徴とする板硝子の周辺部に合成樹脂製のモールあるいはガスケットを形成する方法。
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
2 これに対し、特開昭五四-一〇〇〇二二号公報(以下「第一引用例」という。)には、特にその第九頁及び第5図を中心に次のような板硝子の周辺部に合成樹脂製のガスケットを形成する方法が実質的に記載されているものと認められる。
「板硝子40の周辺部に合成樹脂製のガスケット45を形成する方法において、板硝子を型内に配置し、型を閉じて該板硝子の周辺部表面および型内面によりガスケットを形成するための空間を形成し、次いで射出成形方法により合成樹脂を該空間に注入して固化し、合成樹脂の固化後該板硝子を該型より取り出すことを特徴とする板硝子の周辺部に合成樹脂製のガスケットを形成する方法。」
3 そこで、本願発明と第一引用例記載の前記方法を対比すると、両者は「板硝子の周辺部に合成樹脂製のガスケットを形成する方法において、板硝子を型内に配置し、型を閉じて該板硝子の周辺部表面および型内面によりガスケットを形成するためのキヤビテイー空間を形成し、次いで射出成形方法により合成樹脂を該キヤビテイー空間に注入して固化し、合成樹脂の固化後該板硝子を該型より取り出すことを特徴とする板硝子の周辺部に合成樹脂製のガスケットを形成する方法。」の点で一致し、本願発明では第一引用例の方法における「射出成形方法」の代わりに「反応射出成形方法」を用いており、したがって、キヤビテイー空間内に「合成樹脂」を注入する代わりに「合成樹脂原料」を注入する点で相違する。
4 前記相違点を検討するに、一般の合成樹脂成形方法として、「反応射出成形方法」は、「プラスチックス」第三一巻第三号(昭和五五年三月一日発行)の第三五ないし第四二頁(以下「第二引用例」という。)に記載されているごとく、いわゆるRIMとして公知であり、しかも第二引用例には「反応射出成形方法」の特徴が従来の一般の熱可塑性樹脂の射出成形法と比較して記載されており、これによると、本願発明に係る対象物品のごとき「成形物の形状的特徴」等を有する物品に対して、本願発明が有するごとき作用効果を有することが記載されている。また、「合成樹脂」を注入する代わりに「合成樹脂原料」を注入することも「反応射出成形方法」の手段である。
5 したがって、本願発明は第一引用例に記載のガスケットを形成する方法の射出成形方法に代えて、第二引用例に記載の反応射出成形方法を採用したものに相当し、かつ該射出成形方法に代えて該反応射出成形方法を採用できることも前記「RIMの特徴」の記載から明らかであるので、結局、本願発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第二九条第二項の規定により特許されない。
四 審決の取消事由
審決の理由の要点1ないし3は認める。同4のうち、第二引用例には、同引用例記載の方法は本願発明に係る対象物品のごとき「成形物の形状的特徴」等を有する物品に対して、本願発明が有するごとき作用効果を有することが記載されているとの点は否認し、その余は認める。同5は争う。
審決は、第二引用例記載の方法の技術内容及び作用効果を誤認して、本願発明と第一引用例記載の方法との相違点に対する判断を誤り、その結果、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。
審決は、第二引用例には、同引用例記載の反応射出成形方法が、本願発明に係る対象物品のごとき「成形物の形状的特徴」等を有する物品に対して、本願発明が有するごとき作用効果を有することが記載されていると認定した上、本願発明は、第一引用例に記載のガスケットを形成する方法の射出成形方法に代えて、第二引用例に記載の反応射出成形方法を採用したものに相当し、かつ、この射出成形方法に代えて反応射出成形方法を採用できることも同引用例の記載から明らかであるので、本願発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に発明することができたものであると判断しているが、以下述べるとおり、右認定は誤りであるから、この認定を前提とする右判断も誤りである。
1 本願発明におけるモールあるいはガスケット(以下、両者を併せて「ガスケット」という。)を形成するためのキヤビテイー空間の形状は小断面積で長くかつ曲がりのある形状である(甲第二号証の三(本願公告公報)の第九欄二行、三行)ところ、被告は、審決における前記「本願発明に係る対象物品のごとき『成形物の形状的特徴』等を有する物品」とは、「『キヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状』を有する物品」を意味するものである旨釈明している。
しかし、第二引用例には、「肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のもの」が対象物品である旨の記載はあるが、「『キヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状』を有する物品」が同引用例記載の反応射出成形方法の対象である旨の記載はない。
第二引用例における「肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のもの」とは、同引用例の第四一頁第一三表「RIMおよびR RIM材料の分類(自動車用)」及び第一五表「剛性RIMの用途」に記載されているような断面積の大きな物品か平面状の物品を前提にしたものであって、「『キヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状』を有する物品」とは明らかに相違し、また、これを示唆するものでもない。
したがって、第二引用例には、同引用例の反応射出成形方法は「本願発明に係る対象物品のごとき『成形物の形状的特徴』を有する物品」に対して適用されることが記載されているとした審決の認定は誤りである。
2 本願発明の作用効果は、従来手段である溶融射出成形方法により板硝子周辺部にガスケットを形成する場合の次のような問題点、すなわち、(一) キヤビテイー空間の隅々まで充分に材料を充填することが困難になり易いこと、(二) 成形時間が長くなること、(三) 射出圧が高いためキヤビテイー空間の内圧が高まり、型と板硝子が接触する部分のシールが困難となり、材料がシール部から漏出し易くなること、(四) キヤビテイー空間の内圧に耐えるためには、型締圧を高める必要が生ずるが、そうすると、型と板硝子との接触圧が高まり、板硝子の破壊のおそれが大きくなること、(五) 熱ショックにより板硝子が破壊されるおそれが大きくなること、を解消したことにある。
これに対し、第二引用例には「RIMの特徴」として、「肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のものも流動阻害が起こりにくい。大型成形が可能である。」(第三五、三六頁)との記載があり、右記載によれば、同引用例記載の方法は、強いて対応させれば、前記(一)の問題点を解消する効果を有するものといえる。しかし、第二引用例には、同引用例記載の方法が前記(二)ないし(五)の問題点を解消するものであることについては何ら記載がなく、示唆もないのである。
したがって、第二引用例には、同引用例記載の方法は本願発明が有するごとき作用効果を有することが記載されているとした審決の認定は誤りである。そして、このことは、本願発明が、板硝子の割れ、原料漏れ(バリの発生)及び原料の充填性等について、第二引用例記載の方法からは予測することができない特段の作用効果を有することを看過したことにもつながるものである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認める。
二 同四は争う。審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。
1 本願発明におけるガスケットを形成するためのキヤビテイー空間の形状は、原告主張のとおりであり、審決における「本願発明に係る対象物品のごとき『成形物の形状的特徴』等を有する物品」とは、「『キヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状』を有する物品」を意味するものである。
ところで、第二引用例には、「複雑な形状のものも流動阻害が起こりにくい。」(第三五、三六頁)との記載があり、「流動阻害を起こし易い典型的形状の一つ」が「小断面積で長くかつ曲がりのある形状」であることは当業者に常識である。
したがって、審決が、第二引用例には、同引用例の反応射出成形方法は「本願発明に係る対象物品のごとき『成形物の形状的特徴』を有する物品」に対して適用されることが記載されていると認定したことに誤りはない。
2 従来手段である溶融成形方法により板硝子周辺部にガスケットを形成する場合に、請求原因四項2(一)ないし(五)記載の問題点があり、本願発明の作用効果が右問題点を解消したことにあることは、原告主張のとおりである。
しかし、右のような問題点の解消は、第二引用例記載の方法による作用効果の域を出ないものであり、本願発明の作用効果は、従来の溶融射出成形方法に代えて第二引用例に記載された反応射出成形方法を採用したことにより当然もたらされるものであることは、本願公告公報の記載からしても明らかである。
したがって、審決は、第二引用例の作用効果についての誤認もしていないし、本願発明の作用効果の看過もしていない。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決の取消事由の当否について検討する。
1 第一引用例に審決認定の技術事項が記載されていること、本願発明と第一引用例記載の方法との一致点及び相違点が審決認定のとおりであること、一般の合成樹脂成形方法として、反応射出成形方法がいわゆるRIMとして公知であること、第二引用例には反応射出成形方法の特徴が従来の一般の熱可塑性樹脂の射出成形法と比較して記載されていること及び合成樹脂を注入する代わりに合成樹脂原料を注入することも反応射出成形方法の手段であることは、当事者間に争いがない。
2 本願発明におけるガスケットを形成するためのキヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状であることは、当事者間に争いがない。
ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、「RIM (Reaction Injection Moulding)は、『主たる二種類の低分子量、低粘度の液を圧力下、混合室を通過させ、密閉型中に同時射出することを特徴とする射出成形法である。液成分は高度に化学的活性で、型中で反応して弾力性または剛性に富む高分子を形成するもの』と定義づけられる。」(第三五頁左欄九行ないし一四行)、「RIMおよびR RIM(強化RIM)の特徴については、つぎのような項目があげられよう。(1) 設備費が安く、設備投資が少なくてすむ。RIM成形機は、一般の熱可塑性射出成形機に比べ、同じ重量の大型成形品を生産すると想定した場合はきわめて安い。(2) 金型の製作費が安い。金型は第1表(略)に示すように、型締圧が一般の熱可塑性樹脂の射出成形時の一/一〇〇、BMCの一/四〇であることからもわかるように、大きな耐圧性を必要とせず、電鋳等の安価型を使用しうる。(3) インサート等が容易である。(4) 液状注入のため、樹脂の流れがよく、肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のものも流動阻害が起こりにくい。(5) 発熱反応であるため、成形時の消費エネルギーが少ない。(6) 大型成形が可能である。」(第三五頁右欄一〇行ないし第三六頁左欄下から六行)と記載されていることが認められる。
右のように、RIMの特徴の一つとして、「液状注入のため、樹脂の流れがよく、肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のものも流動阻害が起こりにくい。」ということが挙げられるが、右記載によれば、肉厚の大きなもの、複雑な形状のものが流動阻害を起こし易いものと認めることができるから、本願発明のキヤビテイー空間である「小断面積で長くかつ曲がりのある形状」も流動阻害を起こし易いものということができる。
そうすると、第二引用例には、RIMが「小断面積で長くかつ曲がりのある形状」を有する物品に有利であることが記載されているものと理解することができるから、審決が、同引用例には、同引用例記載の反応射出成形方法は「本願発明に係る対象物品のごとき『成形物の形状的特徴』を有する物品」、すなわち「『キヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状』を有する物品」に対して適用されることが記載されていると認定したことに誤りはないものというべきである。
なお、原告は、第二引用例における前記「肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のもの」とは、同引用例の第四一頁第一三表「RIMおよびR RIM材料の分類(自動車用)」及び第一五表「剛性RIMの用途」に記載されているような断面積の大きな物品か平面状の物品を前提にしたものであって、「『キヤビテイー空間の形状が小断面積で長くかつ曲がりのある形状』を有する物品」とは明らかに相違する旨主張するが、前記認定のRIMの特徴に照らしても、右各表に記載されている物品はRIMが適用できるものとして例示的に挙げられているにすぎず、これらの物品に限定されるものでないことは明らかであって、原告の右主張は採用できない。
3 本願発明の作用効果が、従来手段である溶融射出成形方法により板硝子周辺部にガスケットを形成する場合の次のような問題点、すなわち、(一)キヤビテイー空間の隅々まで充分に材料を充填することが困難になり易いこと、(二) 成形時間が長くなること、(三) 射出圧が高いためキヤビテイー空間の内圧が高まり、型と板硝子が接触する部分のシールが困難となり、材料がシール部から漏出し易くなること、(四) キヤビテイー空間の内圧に耐えるためには、型締圧を高める必要が生ずるが、そうすると、型と板硝子との接触圧が高まり、板硝子の破壊のおそれが大きくなること、(五) 熱ショックにより板硝子が破壊されるおそれが大きくなることを解消したことにあることは、当事者間に争いがない。
そこで、第二引用例には、同引用例記載の方法が右各問題点を解消するものであることについての記載があるか否かについて検討する。
(一) 成立に争いのない甲第二号証の三によれば、本願公告公報には、「板硝子の周辺部にモールを形成する方法として、板硝子を配置して閉じた型のキャビテイー空間に、溶融合成樹脂、溶融ゴム、その他の溶融合成樹脂材料を通常の射出成形方法で射出して冷却固化し板硝子周辺部にモールを形成する方法がある。(中略)キャビテイー空間の形状と高粘度材料が射出されることにより、キャビテイー空間の隅々まで充分に材料を充填することが困難となり易い。これを解決するためには、射出圧を極めて大きくする必要があり、また粘度を下げるために材料の温度を高める必要がある。また、射出された材料がキャビテイー空間の途中で冷却固化しないように型温を高める必要が生じる。このため、射出充填に時間を要しまた充填後の材料の冷却固化にも時間を要するため成形時間が長くなる。さらには、射出圧が高いためキャビテイー空間の内圧が高まり、前記した型と板硝子が接触する部分のシールが困難となり材料がシール部から漏出し易くなる。一方、キャビテイー空間の内圧に耐えるためには、型締圧を高める必要が生じる。そうすると、型と板硝子との接触圧が高まり、板硝子の破壊のおそれが大きくなる。また、射出された材料および型の温度が高いため板硝子の受ける熱ショックが大きく、この熱ショックにより板硝子が破壊するおそれが大きくなる。」(第四頁八欄四一行ないし第五頁九欄二六行)と記載されていることが認められる。
右記載によれば、前記「キヤビテイー空間の隅々まで充分に材料を充填することが困難になり易い」という問題点は、キャビテイー空間の形状と高粘度の材料が射出されることによるものと認められる。
ところで、第二引用例には、前記のとおり、RIMの特徴として、「液状注入のため、樹脂の流れがよく、肉厚の変動の大きいもの、複雑な形状のものも流動阻害が起こりにくい。」と記載されているのであるから、同引用例には、同引用例記載の方法により右問題点を解消し得ることが示されているものというべきである。
(二) 本願公告公報の前記記載によれば、前記「成形時間が長くなる」という問題点は、溶融射出成形方法では高粘度の材料が射出されることに起因して、射出充填に時間を要し、また充填後の材料の冷却固化にも時間を要することによるものと認められる。
ところで、第二引用例記載の反応射出成形方法は、前記のとおり、液状注入のため、樹脂の流れがよく、複雑な形状のものも流動阻害が起こりにくいのであるから、粘度を下げるために材料の温度を高めたり、射出された材料がキャビテイー空間の途中で冷却固化しないように型温を高める必要はなく、射出充填や充填後の材料の冷却固化に特に時間を要するということもないといってよい。したがって、同引用例には、同引用例記載の方法により右問題点を解消し得ることが示されているものというべきである。
(三) 本願公告公報の前記記載によれば、前記「射出圧が高いためキヤビテイー空間の内圧が高まり、型と板硝子が接触する部分のシールが困難となり、材料がシール部から漏出し易くなる」及び「キヤビテイー空間の内圧に耐えるためには、型締圧を高める必要が生じる。そうすると、型と板硝子との接触圧が高まり、板硝子の破壊のおそれが大きくなる」という各問題点は、溶融射出成形方法では高粘度の材料を射出するため、射出圧を高くし、かつ、型締圧を高める必要があることによるものと認められる。
ところで、第二引用例には、前記のとおり、同引用例記載の方法は液状注入であり、金型の型締圧が低く、一般の熱可塑性樹脂の射出成形法のように大きな耐圧性を必要としない旨記載されているのであるから、同引用例には、同引用例記載の方法により右問題点を解消し得ることが示されているものというべきである。
(四) 本願公告公報の前記記載によれば、前記「熱ショックにより板硝子が破壊されるおそれが大きくなる」という問題点は、射出された材料及び型の温度が高いことによるものと認められる。
ところで、第二引用例記載の方法は、加熱された溶融合成樹脂(熱可塑性樹脂)を使用したり、型の温度を高める必要のないものであるから、同引用例には、同引用例記載の方法により右問題点を解消し得ることが当然のこととして開示されているものというべきである。
以上のとおりであるから、審決が、第二引用例には、同引用例記載の反応射出成形方法は本願発明が有するごとき作用効果を有することが記載されていると認定したことに誤りはなく、また、本願発明の作用効果を看過したということもないというべきである。
4 以上1ないし3によれば、本願発明は、第一引用例に記載のガスケットを形成する方法の射出成形方法に代えて、第二引用例に記載の反応射出成形方法を採用したものに相当し、かつ、この射出成形方法に代えて反応射出成形方法を採用できることも同引用例の記載から明らかであるので、本願発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に発明することができたものであるとした審決の判断に誤りはなく、取消事由は理由がない。
三 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)